「各位!!肺攻めスエヒロタケ対策の滅菌処理は万全か!?」
「専用のマスクは足りているか!?足りない分はすぐクリエティに創造してもらえ!」
小森&夜嵐コンビ+俺&骨抜コンビのコンボが異能解放軍に甚大な被害を与えていた。
目に見えないまま侵略し、敵の呼吸器官を攻撃する小森の必殺技、肺攻めスエヒロタケ。
その恐ろしい必殺技を止める為に、決死の覚悟で山荘から飛び出したヴィラン達を俺と骨抜の個性合体で一気に拘束。
こちらのファーストアタックが完璧に決まった形だ。
残すは呼吸器官に大ダメージを受け、山荘の中に引き続き立て籠もっている異能解放軍。
「……突入チーム、準備万全だな?」
突入チームを指揮するエッジショットさんの言葉に、これから山荘に突入するヒーロー達が「応!!」と力強く吠えた。
そう、ファーストアタックが成功したのなら、当然次はセカンドアタックだ。
コスチュームに滅菌処理。
口元には専用のガスマスク風のマスク。
全身防備を固めたエッジショットさんをリーダーに、ミルコさんやグラントリノさん、その他ヒーローという突入チームが山荘の入り口を強く睨んでいた。
「よし!!行くぞ!!突入だ!!」
エッジショットさんの力強い言葉と同時に、
「ハッハー!!弱いものいじめみたいになって少し気が引けるが仕方ねえ!!蹴り飛ばす!!」
「最近の若えのは皆イキが良いじゃねえか!!楽しくなって来やがったぜ!!」
勢い良く飛び出したミルコさん、グラントリノさんを先頭にし突入チームが山荘に立て籠もるヴィラン達へと攻撃を開始した。
「スパイラル。わかってるだろうけど俺達の出番はもう少し後だよ」
「ホークスさん」
突入する仲間達を見送る俺にホークスさんが話しかけてくる。
「シーメイジの必殺技で敵にまず大ダメージを与え、弱った敵を突入チームが更に攻撃する……しかし、全てのヴィランが弱体化している訳ではないだろう。毒ガス対策的な対処が間に合ったヴィランもいる筈だ。そして、おそらくその中にはリ・デストロ……異能解放軍のリーダーである男も十中八九入っている」
ホークスさんの言葉に、俺はコクリと頷き。
「わかっています。リ・デストロ含む、そいつらへの対処が俺達の役割って事ですよね」
「ああ。だから今は仲間を信じて、俺達は力を温存するよ」
そして俺達はどちらからともなく互いの右拳を前に出し、コツンと軽くぶつけ合った。
……お互い、内心にはやはり不安があった。
エンデヴァーさんが今ここにいない。
その事実が重く俺達にのしかかる。
福岡でも、泥花市でも、この前の臨時株主総会でも……俺達3人が揃えば、例えどんな強敵が相手であろうと何とかなるのだと……そう強く確信していたからこそ、3人が揃わない今俺の心を重くする。
(……でも、負ける訳にはいかないですし……この不安は表に出してはいけないんですよね、エンデヴァーさん)
ここにいない人のくれた大切な言葉を思い出す。
そして前をしっかりと、胸を張って見る。
(……エンデヴァーさん……おそらく貴方にも予想外の何かが……避けようの無いとてつもないトラブルが……そんな恐ろしい何かが襲いかかっているんですよね)
だからこそ、あの人は今ここにいない。
そして、俺達と同じように、ここではない何処かであの人も今戦っているのだろう。
信じていますよエンデヴァーさん。
そして約束します。
俺達は、ここで異能解放軍に絶対に勝ちます。
(だから……今も何処かで戦っているだろうエンデヴァーさん……エンデヴァーさんも絶対に勝って下さいね)
そして、互いに戦い終わったらお疲れ様会でご飯でもいこう。この前俺抜きでホークスさんとスナック行ってたらしいからなぁ!!何かスナックは俺無理だから普通に飯でも行きましょう!!
俺はそう、この青い空に誓った。
sideエンデヴァー
(群訝山荘ではそろそろ戦いも中盤戦に差し掛かったところか……)
ここは瀬古杜岳だ。
ヒーローと異能解放軍の一大決戦が始まっているというにも関わらず、それでも今俺はここにいる。
木と木の間にある、道とも言えないような道を歩きながら、俺は目的の場所へと向けて歩いていく。地に積もった枯れ草をガサガサと踏みしめ、俺は前へ前へと進んでいく。
それは遠い昔の思い出の場所。
決して良い思い出ではない、そんな場所。
……そんな場所へと俺に来るようにと『娘の』スマホから連路してきたアイツ……
そんなアイツの呼び出しに応じて、俺は今ここに来ている。
そしてしばしの間黙々と俺は歩き、開けた場所に出て……
「お父さん!!」
「無事だったか。安心したぞ冬美」
……そこは、これまで俺が歩いて来た道と異なり、そこら一帯だけ開けた空間。
周囲を木々に囲まれながらも、身体を動かしトレーニングをしたり……人々の目から隠れながら、個性の特訓をするのにはうってつけな……そんな場所だった。
そこには俺の娘である冬美……特に拘束などされた様子はなく、普通にそこに立っていた俺の娘と、そして……
「……やあ、来てくれたんだねお父さん……」
「燈矢……」
……そして、もう一人の男が……『酷い火傷』を負った男……俺の息子であり、逃亡中のヴィランである男……燈矢が、燈矢がそこに立っていた……
「安心したよ……来てくれないかと思ったぜ」
「良く言う……俺がこの時間、この場所に、誰にも何も言わず一人で来なければ俺の家に火を付ける……そう俺を脅した上に、わざわざ冬美のスマホから連絡するなど……人質を取るような事をしておきながら、よくそんな事が言えたな燈矢……」
俺の厳しい追及の言葉。それに燈矢は「はは!!」っと笑い。
「ああ!!そりゃ勘違いだぜお父さん!!俺は冬美ちゃんを人質になんてとってねえよ!!ここにも来ないでいいって言ったんだぜちゃんと!!でも俺はお父さんのスマホの連絡先知らないからさ!!出勤中の冬美ちゃんに『お願い』して、お父さんに伝言を頼んだだけだよ!!伝言送ったの確認したらもう仕事に行って良いよ〜!!って!!ちゃんと言ったんだぜ俺は!!それでもここに自分からついていくって言ったんだよ冬美ちゃんは!!だからロープで縛ったりみたいな拘束は一切してないだろぉ!!人質だなんて心外だよお父さん!!俺は人質なんてとってないぜ!!自分からここについて来たんだよ冬美ちゃんはさ!!」
そう楽しそうにさえずる燈矢。そんな彼に、
「良く言う……俺の家の場所を゙正確に把握していて。かつ、通勤中の冬美を待ち伏せて冬美のスマホから俺にメッセージを送り……俺が来なければ家に放火するだと?更に冬美の性格を把握していれば……こうなってしまった以上、心配でここまでついて来るに決まっているだろう……表面だけ綺麗な言葉で取り繕うな燈矢……これは人質だ……人質以外の何ものでもない」
俺の厳しい追及の言葉。
それに燈矢は笑い。
「はは!そりゃ誤解させて悪かったよ!!冬美ちゃん……ほら、お父さんの方に行っていいぜもう。ホントに何もしねえからさ。いやぁ~妹を人質に取ってるだなんて最悪の誤解だよな!!そんなつもりは無かったんだよマジで!!だから冬美ちゃん……安心してあっちの……お父さんの方に行ってくれよな」
「……………うん」
そんな燈矢の言葉……それに、本当に大丈夫か?そんな不安を隠しきれないまま冬美はこちらに向けて歩いて来て……そして、そのまま俺の背中に隠れた。
そんな俺達の様子を楽しそうに燈矢は見ながら、
「はは!!言っただろ!!人質にする気はホントに無かったんだよ!!」
そう笑い続けていた、
「そうか……そうだとしても、例えそうだとしても、お前がこんな事をしでかした理由にはならん……説明がつかん。一体……一体、お前はどんなつもりでこんな事をしでかしたんだ燈矢……?」
俺の問い……当然の問いかけ。何故お前はこんな事をよりによって今日しでかしたんだ燈矢……そんな俺の言葉。
それを聞き、燈矢はにっこりと笑い。
「わかんねえのかよ親父?」
「わからん……わからんから聞いているのだ」
「は!!そうかよ!!」
俺の当然の言葉。それを聞き更に楽しそうに燈矢は笑い、
「降参宣言だよ親父」
「……何だと?」
その言葉に戸惑う俺。そんな俺に燈矢は実に実に楽しそうに。
「わかんねえのかよ親父。降参だ。降参だよ。降参宣言だよ親父。泥花市からの日々は酷かったぜ!!頑張って隠れて過ごしたよ俺は!!でもこんなツラだぜ!!マトモな生活は出来なかった!!辛い!!本当に本当に辛いキツい日々だった!!ああ!!しかも個性までアンタに奪われてるんだぜ俺は!!どうやって過ごして行けっていうんだよ!!だから俺は限界だ!!限界になったんだよ親父!!」
「燈矢……」
あまりにも真に迫った慟哭。
本当に苦労したのだろう……その事実が俺の心に重くのしかかる。
そんな俺の気持ちが伝わったのか、燈矢は笑い、
「……だから、限界だったのさ俺は……このまま逃げ続けても、もうどうにもならないと気づいたんだよ俺は……だから、だから最後の最後に……本当の最後に、やりたい事をやって、アンタに捕まえてもらおうと思ったのさ親父……」
「どういう……事だ、燈矢?」
どこか投げ遣りな言葉。これまでの燈矢とは違う弱々しいその言葉……それが更に俺の心を暗くする。
そんな俺の目をしっかりと見て燈矢は、
「だから……このままでもジリ貧で……正直どうしようもないってわかった時……最後の最後に俺が思ったのは……思ったことは、せめて……せめて、最後に一発……一発とは言わず数発……むしろ気が済むまでアンタを殴って……噛み付いて首を絞めてさ……そうして、そうして出来るだけの恨みを晴らしてから、大人しくヴィランとして逮捕される……そんな、そんなちっぽけな事だったんだよ親父……」
「……燈矢……燈矢……」
その辛そうな顔……切ない言葉……ドンドン……ドンドンと俺の心が曇っていく。
……何処かで……何処かで、俺の冷静さを司る何かが、そんな俺の何かが、この流れにブレーキを。猛烈なブレーキを踏もうとしてるのがわかる。
わかってしまう……わかっているのだ……だが……
「……わかったよ、燈矢……」
「親父……お父さん……」
しかし……俺の中の表に立つ何かが……表に出たがっていた、そんな何かが……そのブレーキを揉み消してしまう。
「俺を殴れ。好きなだけ蹴ればいい。噛みつき、首を絞めて……更に殴れ。気が済むまでお前の好きにすればいい燈矢……」
「親父……」
真剣に俺を見る燈矢……何か他の……他の何かを考えているのではないか?そんな俺の心の何処かで警報を鳴らす何かを……俺の心の何処が全力で叩き潰し、俺はそんな事を言った。
「俺を好きなだけ攻撃するといい……そして、気が晴れたなら……気持ちの整理がついたなら、これから警察に出頭しよう燈矢……俺が一緒についていく。どれだけお前の攻撃でボロボロになったとしても、お前が警察に出頭するその場に俺も一緒に立ち会おう。だから……気が済むまで俺を殴れ。蹴れ。噛みつき首を絞めて思うがままに暴力を振るえ……お前が傷つけるのは俺だけだ……俺だけ……俺だけを責めればいい。俺だけを恨み、憎んでくれ。これからは……これからは……ずっとそうやって生きて行こう燈矢……」
「……ありがとよ、親父……」
「お父さん!!燈矢兄ぃ!!」
「……止めるな冬美。これでいい……これでいいんだ……俺への恨みを少しだけでも整理し、燈矢が大人しく警察に捕まるというのならば……それだけで、それだけで俺は……俺は、今この瞬間に、この場に来た意味があるのだ……」
「お父さん……」
……そうして、冬美が見守る中……
「オラァ!!クソぉ!!糞親父がぁ!!」
「……………」
「!!!!」
静かな瀬古杜岳。
その瀬古杜岳に物騒な打撃音が鳴り響く。
ドコ!とかバキ!とかゴッ!とか、そんな音
聞き慣れた音だ。普段は俺がヴィラン相手に奏でている音色。
こんなシチュエーションで、俺を相手に息子が同じ音色を奏でているのだ。何て皮肉な事だろうか?
これまでの俺への憎しみを込めた打撃……それが俺を地面に打倒し、その上に馬乗りになり、さらに燈矢が打撃を加えてくる。
地面に倒されて見上げる空は青く。瀬古杜岳は暗く。俺を殴る打撃音は重く響いていた。
「……ぐっ」
「お父さん!!」
……そしてその最後の最後に俺の首を絞めてくる燈矢……その、狂気に染まった瞳……
「はっ……ははは…………ははは……はははははははは」
……その瞳が、その狂気が、最後の最後に、また俺の心の警鐘を鳴らす、が……
「……ありがとよお父さん……こんな俺の最後のワガママに付き合ってくれて……」
「燈矢……」
俺の鍛えた首を絞める燈矢。
絞められた感覚でわかる。この絞め方では鍛えられた俺の首を絞め落とす事は出来ない。
「あ……ああ……ありがとうよ……ありがとうよお父さん……エンデヴァー……」
「……燈矢?」
だが……何故だ?何だこの不安は?
「ありがとうよ……俺の言葉を素直に……最後の最後に信じてくれてさ」
「燈……矢?」
何故だ……何故?何故だこの絞め方は……
正直、この絞め方で、いくら力を強めても俺は絞め落とされる気はしない。
しかし……何だ……何だ、この不安は……
脅威を……狂気を感じるのは俺の首を絞める直接的な強さではなく……もっと別の……全く別の力による恐怖!!
「……先に俺の個性を奪ったのはそっちだもんなぁ……その後に俺が個性を奪ったとしても……それは自業自得?因果応報?……まあ、よくわかんねえけど、そんな感じだよな、きっと」
「………燈矢?………燈矢!!燈矢!!!!!」
……今まで無意識に切ってしまっていたアラート!!
「……ダメだよ。もう遅いぜエンデヴァー……」
そのアラートが!!今更ながらに全開で警報を鳴らす!!
遅い!!遅すぎる!!いや!!遅い事は無いのだ!!ただ単に!!俺が!!俺が愚かだっただけで!!
「……泥花市のお返しだ……アンタの個性……奪ってやったぜエンデヴァー……」
「燈矢ぁぁぁぁ!!!」
何か不思議な恐ろしいオーラが俺を包み……そして、俺の大切な何かを……大切な力を、これだけを誉れとして生きてきた、そんな象徴的な力が……そんな力が、俺から奪われていく、そんな致命的な感覚。
そしてそれを……そんな恐ろしい感覚を俺にもたらした燈矢が……俺の息子が、俺を見てにやっと笑う。
「さぁ……あの世で俺と踊ろうぜエンデヴァー!!!」
「燈矢ぁぁぁぁあ!!!」