side物間
群訝山荘での決戦。
その数日前。
「……何?梁山泊の力を借りたいだと?」
「はい」
新白連合の本部。総督の執務室で僕は総督と打ち合わせをしていた。
「……今回の異能解放軍の突然の独立宣言は余りにもおかしい。ハッキリ言って違和感しかありません。これによりヒーロー側と異能解放軍の全面対決は避けられなくなりました。そして、それによって恩恵を受けるのは……」
「第3勢力であるヴィラン連合……正確には、ヴィラン連合を背後から支援していた何らかの組織だな。あの脳無……チンピラヴィランのお遊戯会みてぇなヴィラン連合が操るには余りにも出来過ぎたおもちゃだ。ヴィラン連合単体であんなおもちゃを作成し、使いこなせる訳がねえ……」
「……つまり、今回の一連の流れはヴィラン連合の背後にいる何らかの組織……その組織がヒーローと異能解放軍を全面対決させる隙に、何らかの策を実行する為に仕組まれたモノ……そう考えるのが妥当かと」
「……そして、ソイツらが企む策ってのは色々あるんだろうし、まあ正直に言えばこんなドデカイ隙があればやろうと思えば何でも出来るんだろうが……そんな中でも一番クリティカルで取り返しがつかない要素ってのが、タルタロスに捕まってるAFOの脱走……更にそれに便乗した極悪ヴィラン達の脱走って事だな」
「はい。雄英の教師どころか生徒達まで総動員したヒーロー側の一大攻勢……全国各地のテロでもなんでも、その隙をつけば何でも出来るんでしょうが……一番クリティカルで取り返しがつかない要素がそれです。テロの被害を決して軽視する訳ではありませんが……正直に言えば、何とか取り返せる」
「……んな事はわかってるよ。だからマスタード……司法取引でウチで引き取って、『ちょっと』俺様が啓蒙してやった小僧をテメエにつけてやるんだろうが。テメエのワープゲートであの小僧を細かく移動させて毒ガステロじみた攻撃を繰り返せば鎮圧は不可能ではないだろ?」
「……そうかもしれません。ですが、それだけでは全ての脱獄ヴィランを抑える事は出来ない……逃走に成功する脱獄ヴィランは何名か出てくるでしょう。そしてAFOも空を飛べる……僕とマスタードだけでは漏れが出ます。故に梁山泊の力を借りたいのです」
「……俺様……正直に言うと別にAFOとか重要視してないし……割とどうでもいいんだけどな……」
心底どうでも良さそうに、鼻◯ソをほじりながら総督がそんな事を言う。
まあ総督的にはそうなのかもしれないが、
「ですが……ヤツの逃走を許せば、ヤツの所為で苦しむ人が出てくる……僕は、それを止めたいんです」
「……ほう?」
ピーン、と丸めた何かを適当にゴミ箱に放りながら、
「……そういやテメエはヒーロー志望だったな……まあ、ヒーローであればそうするか」
「はい」
僕の目をしっかりと覗き込むようにして見て、総督は続ける。
「……わかってるな?オセオンやらの騒動で一影九拳が先にやらかした……だからこそ梁山泊は今回動ける。あっちが先に動いたんだ。今回梁山泊が動く事に対し、一影九拳は文句を言う筋合いがねえ……つまり、梁山泊が今回の一連の事件に対し介入出来るのは、おそらくこの1回だけだ。お前は、その貴重な貴重な、1回しか使えない梁山泊カードを、このタルタロスへの派遣という形で使おうと、そう言うんだな小僧?活人拳と殺人拳が極力表に干渉しない理由……最初に説明したよな?」
「……はい」
牽制しあう活人拳と殺人拳。その説明は重々に受けている。
一影九拳が先に動いたからこそ手に入れた、たった1回だけ使える梁山泊カード。
本当に貴重なカードだが……
「……だからこそ、この場面でその梁山泊カードを使うべきだと考えました」
「ふむ……」
たった1回しか使えないのならば、もっとも必要な時にこそ使うべきだ。
ここでAFOを、そして脱獄したヴィランを抑えられなければ、今の悪化しつつある日本の治安はマジで崩壊の道へと進む。それも緩やかなんて生易しいものではなく、破壊的なまでの速度で、坂道を一気に転げ落ちるようにして日本の社会は崩壊するだろう。
……僕はそれを、フィクサーとして、止めたい。
総督はしばし考え……
「……話はわかった。まあいいだろ。好きにやってみろ、これはこれで悪い流れでもないしな。梁山泊の連中への協力依頼と事情の説明は自分でしろ……まあ、事情が事情だ。内容を話せば断られる事はないだろうけどな」
考え、最後には頷いてくれた。
「ありがとうございます!!」
頭を下げる僕。そんな僕に、
「……確認だが、梁山泊の連中を全員タルタロスに向かわせるのか?」
「?……はい。戦力の逐次投入は愚策かと。やるならば全力でタルタロスに当たります」
頭を上げた僕を、総督はじっと見て……
「……まあ、それはそれで悪くはない、か……」
「総督?」
「ああ。何でもねえよ。さあ!!やる事決まったんならさっさといけや!!俺様は忙しいんだ!!」
「は!!はい!失礼します!!」
シッシ!と僕を追い払う総督。
その仕草に押されて僕は総督の執務室から退席した。
side荼毘
「……よし。逃げるんだ僕……いや、燈矢くん」
「……は?何だと?」
タルタロスの上空。
向かいあった俺と旧世界の魔王。
その片割れの魔王から初手でいきなり弱気な発言が出た。
「嫌だけど……本当に、本〜当に嫌なんだけど……僕が時間を稼ぐ。その間に死柄木弔と、分倍河原くんをサーチで探して合流するんだ。彼らと合流したら僕の事は気にせず、即泥ワープで逃走するように」
「おい待てよ……何急に弱気になってやがる?」
「説明する時間も惜しいんだよねえ……ああ……クソ……毒ガス攻撃した後に梁山泊全員投入とかタチが悪すぎる……実態を知らなければタルタロスから脱獄しようとする凶悪なヴィラン達に、毒ガスぶちまけた後に弱個性のヴィジランテ達が『決死の』覚悟で肉弾戦を挑み、脱獄を阻止した……っていう美談だもんねえ……実際はシンプルにただのどうしようもないレベルでのオーバーキル何だけど……こういった過激な作戦を行っても国内中堅レベルのヒーロー事務所である新白連合はそんなに叩かれる事もないし……本当に嫌だなあ新白連合……本当に、イヤらしいポジションを取ってるよ本当に……」
『あぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱ!!!!!!』
『人手裏剣!!』
『梁山泊最強コンボ37号!!』
『風林寺断空翼断蹴り!!』
『岬越寺 無限轟鎖車輪!!』
「「「「「ぎゃあああ!!!!!!」」」」」
『鉄鬼百段!!』
『鉄山極波靠!!』
『……香坂流……五月雨手裏剣……』
「「「ぎゃあああ!!!!!!!!」」」
「おい……何なんだよアレ……?」
タルタロスに収監されていた極悪ヴィラン達がゴミのように散っていく。
何だ……何なんだアノ化け物共は!!
遠目で見る限り、全く個性を使っている様子が無い!!
なのに!!なのに!!そのパンチやキック……その他の攻撃全てが恐るべき威力でタルタロスのヴィラン達を次々と駆逐していく!!
戦慄する俺に、旧世界の魔王が。
「わかっただろう僕?……本当に……本当に時間が無いんだよ……説明する時間が本当に無い。後の詳しい話はドクターからでも聞いてくれ……さあ、行くんだ。2人だけでも救出し、ここを脱出してくれ」
そう言ってAFOは俺の背中を叩き、
「本当に……本当に嫌だなあ梁山泊……しかも新白連合と組んでる時の梁山泊は本当の本当の本当に嫌なんだよなぁ……」
……そう言うと、AFOは俺の元から飛び去り、タルタロスの戦いに向かった。
「……クソ……何がどうなってやがるんだクソが……」
……そして俺は……俺は逃げるようにしてサーチの個性で死柄木弔とトゥワイスを探し、2人と泥ワープで脱出したのであった……
side小大
「……すまない……皆」
「今……なんて言ったんだ、物間……?」
ここは雄英高校。
異能解放軍との決戦が終わり、私達全員が雄英高校にようやく戻って来た。
早朝からの作戦だったが、今は深夜……丸一日を費やした大作戦……
私達は群訝山荘で異能解放軍と戦い、勝利することが出来た。
物間は物間でタルタロスに向かい……その作戦は大成功したのだという。
でも……なのに……
「すまない……僕のミスだ……正直に言う。これは完全に僕の想定外だった……」
素直に物間が頭を下げる。
作戦に参加していた皆……雄英高校の教師、そしてヒーロー科の生徒達全員に。
「物間くん……」
そんな、物間に頭を下げられている私達全員を代表するようにして……緑谷が物間に問いかける。
「本当なの……物間くん……エリちゃんが……エリちゃんが何者かに誘拐された、っていうのは……」
緑谷の追及の言葉。それに物間は頷き。
「ああ……すまない……皆。僕のミスだ……この2大作戦の隙をついて雄英高校に侵入したトガヒミコの手によってエリちゃんは誘拐された……完全に僕のミスだ……本当にすまない……せめて……せめて、誰か一人だけでも梁山泊の師匠をエリちゃんの護衛につかせるべきだった……本当に……本当に、すまない……」
その物間の……本当に辛そうな様子……自分を責めて責めて責め抜くようなそんな辛い姿に……私達は何も言えなかった。
「顔を上げろ物間……」
「……悪いのはお前だけじゃない」
「……そうだ、こういうケースを想定せず、雄英高校を空にした俺達教師こそが責められるべきだ。お前が悪いんじゃない。顔を上げろ物間……」
相澤先生やブラド先生……その他の先生達が物間に「お前の所為じゃない」と声をかける。だが……
「ありがとうございます……ですが……ですが、これはやはり僕の責任です。僕はもう、そういう立場を任されているんですから……」
「物間……」
しかし、物間は、先生達からの暖かい言葉を拒否し。
「オールマイトが引退し、エンデヴァーは平和の象徴になりきれなかった。日本の平和は大きく乱れ、そして今日も教師だけでなく、多くの学生達までもが平和の為に戦っている……そんな状況で、僕達はいつまでも子供のままでは……お客様ではいられないんですよ。学生だからとか、子供だからとかは関係ないんです」
「物間……」
「……君もだよ回原。いつまで妙手級で満足しているつもりだい?さっさと達人級まで駆け上がれ。僕は……僕は、総督に並べるように……あの人を超えるつもりで前に進むぞ。だから君も早く達人級に至ってみせろ」
旋の言葉に、物間が返し、そして旋は両手をぎゅっ……と力強く握った。
「……総督はおそらくこの事に気がついていた。気がついていて……それでも、それでも今後の事を考えエリちゃんの誘拐に対し目をつぶった。おそらく今頃は発信機か物理的な追跡か?もしくは個性による追跡で誘拐犯達のアジトを突き止めているだろう。次の決戦はすぐそこだよ皆」
「物間……お前の師匠はエリちゃんの誘拐を察していながら、あえてそれを見逃したって言うのか?」
厳しい顔の骨抜。その厳しい追及に物間は頷き、
「そうだよ骨抜……何せ総督はヒーローじゃない。それが最善の手と判断したら子供一人の誘拐くらいは見逃すさ。当然、エリちゃんがそれ程酷い目にはあわないだろうという予測があっての事だろうけどね。悪いのは僕……僕達ヒーローだ。そういう総督の考えを見抜けず、まんまと総督の想定通りに事態を進めてしまった……僕達の考えの甘さがこの事態を招いたんだ」
物間の厳しい言葉……自分へ向けているその厳しい言葉に骨抜は頷き、
「……そうだな。俺達ヒーローの考えが甘かった……そして物間……お前の言う通りだよ。俺達は学生だけど、もう学生のままでは居られない……俺達の甘えの所為で、何処かの誰かが泣くかもしれない……俺達は、もうそういう所に立っているんだな、物間」
「ああ……そうだよ、骨抜」
「これはもう他人事……大人達だけの物語じゃない……俺達の物語なんだな」
「ああ……そうだな、骨抜」
骨抜の言葉に旋と物間が頷く。
1年A組のTop3を轟・爆豪、そして緑谷とするならば、B組のTop3は旋・物間……そして骨抜だろう。
その3人の、これは大人達の、ヒーロー達だけの物語ではなく自分達が主役の物語なんだ……そんな力強い決意に、生徒達が……皆が頷いていた。
「デクくん……」
「うん……大丈夫だよ麗日さん……絶対に……絶対にエリちゃんを助けよう!!僕達の力で必ずエリちゃんを助けるんだ!!」
強い決意に心を燃やす緑谷。
私達B組だけでなくA組の全員も燃えていた。
side?????
「ふむ……例の少女から採血した血を飲んだトガヒミコ……個性で変身した状態の彼女から採血した血にも同等の力が秘められておるのか……これは研究のしがいがあるのお………」
そして闇の中では、また新たな脅威が生まれようとしていた。