本年もよろしくお願いいたします。
雄英高校内にある、大人数が入れる巨大な作戦会議室。
「……さて、時間になりました。これより本作戦の説明をさせて頂きます」
多くのヒーロー達、そして俺達雄英高校ヒーロー科の生徒達や他校のヒーロー科の生徒達の視線が集中する中、物間が作戦を説明していく。
公安・新白連合の調査の結果、逃走したヴィラン連合及びヴィラン連合を援助する組織、そして攫われたエリちゃんが蛇腔総合病院内の、通常では入れない隠しスペース内に潜伏している事が判明した。
「エンデヴァーからの報告、及び僕がタルタロスで確認した荼毘の様子から、ヤツがAFOの個性……他人の個性を奪う事で複数個性を使用する力を持っている事は確実でしょう。その為、ラグドールの個性であるサーチを荼毘が使える。という前提で、今回の作戦は立案しています」
重傷を負い病院に入院するエンデヴァーさん。
……流石に今回の作戦への参加は間に合わなかった。
その分俺が頑張るのだ、そう強く決意する。
物間による作戦の説明が続く。
作戦は大雑把に説明すると以下のようになる。
物間の使うワープの個性で大勢のヒーローを蛇腔総合病院入口と、病院周囲を囲むようにしてヒーロー達を移動させる。
ベストジーニストさんを中心として組んだヒーローのチームで病院内の一般人・患者を避難。ワープの個性で雄英高校内に移動させる。
病院を囲むように配置したヒーロー・ヒーロー科の生徒達で病院周囲の人々の避難活動を行う。
そして……
「ホークスを中心とした突入チーム……ホークス、スパイラル、ミルコ、エッジショット、グラントリノ、ルミリオン……そしてその他のヒーローで病院内の隠されたスペースへ侵攻。ヴィランを倒しつつ、そこにいるエリちゃんの救出をお願いします。そして出来れば向こうの持つワープの個性……泥ワープの個性を持つ脳無の撃破もお願いします。今回の作戦は言うまでもなくスピード勝負となります。ワープで病院付近に移動した瞬間、我々の襲撃は察知される。察知されてからヤツらが逃げ切る前までが勝負です。皆さんの奮戦に期待させて頂きます」
そして続く細かな質疑の時間。
それが終わり、いよいよ作戦開始となる。
「回原」
「物間か、どしたん?」
……その、作戦開始を待つ僅かな時間。
説明を終えた物間が俺に話しかけて来た。
「事前情報が全くないヴィラン連合のアジト内への襲撃……危険な役割を任せてるとはわかっている。でも……だけどあえてお願いするよ回原。エリちゃんを必ず助けてあげてくれ。頼む」
「物間……」
普段は飄々とした様子ばかりのこの男には珍しく真剣な顔で物間が言葉を続ける。
「あの子はね、僕に面と向かって『雄英の負の面?』……って言ってのけたんだぜ回原。一体、誰に教え込まれたのやら……」
「そいつはまた……何というか……」
……純粋な子供ならではの、何とも冷酷というか残酷というか……まあ正直に言ったもんだエリちゃんも。
しかし、そんなマイナスな言葉を浴びせられたというにも関わらず、物間は微かに笑い、
「……とっても良い子じゃないかエリちゃんは。僕を雄英の負の面だと感じる感性は実に正しい。あんな良い子を……あんな女の子を助けられなきゃ、僕達は今すぐヒーローを目指す事をやめちまうべきだ。なあ、そうだろう?」
「……ああ、そうだな。お前の言う通りだよ物間」
過去にあれほど辛い経験をしてきたにも関わらず、明るく前を向いて笑いながら進んでいる小さな女の子。
そんな女の子を助けられなきゃヒーロー失格だ。間違い無く。
「……『雄英の負の面』とはあの幼女も上手く言ったもんだなあおい」
「よおトンガリ」
「やあ爆豪。毎度毎度ご挨拶だね」
そんな俺達にトンガリが話しかけて来た。
「毎度毎度、悪どい事ばかり企んでっからそんな事言われんだよ悪徳フィクサー野郎は。これにこりて少しは悔い改めてみたらどーよ」
「はは!!君が言うかね!!雄英高校ヒーロー科で一番悪徳とかその手の言葉が似合いそうな君がさ!!」
「ふざけんなぁ!!誰が雄英一悪徳が似合うだとゴラァ!!ソドムとゴモラを焼いたメギドの炎で汚物は消毒し殺すぞ!!」
ぎゃあぎゃあ吠えるトンガリを適当にあしらう物間。言葉のやり取りは過激だが、何処となく2人ともこのやり取りを楽しんでいるように見えるので不思議なもんだ。
「……君と轟もホークスチームだったね。危険な役割を任せてすまない。エリちゃんの事、頼むよ。必ず助けてあげてくれ」
「は!!たりめえだわ!!助けて助けてお助け殺したるわ!!」
「かっちゃん!!ねえかっちゃん!!わかってるだろうけど殺したらダメだよかっちゃん!!」
「緑谷」
そんなトンガリを止めるように、さらに後ろから緑谷がこちらにやってくる。
「かっちゃん、回原くん……エリちゃんの事、頼んだよ」
「けっ!言われるまでもねーよクソデクが」
「ああ……任せろ」
緑谷の言葉に力強く頷く俺とトンガリ。
そんな俺達を、緑谷は羨ましそうに……悔しそうな顔で。
「……本当は……本当は、僕もホークスチームに参加して、皆と一緒にエリちゃんの救出に向かいたかったんだけど……」
少しだけ下を向いて俯き、悔しそうな声でそう言った。
そんな緑谷に。
「は!!」
トンガリが、励ますようにして強い言葉をかける。
「決まっちまった事でいつまでもクヨクヨと下向いてんじゃねえよ。だからテメエはクソナードなんだよ」
「……かっちゃん」
「俺は、前回の戦いでたまたまチャンスを得て、そしてそのチャンスを最大限に活かしてみせた。だから俺は今回トップの舞台に立ち戦える」
「………」
「だから、テメエも下なんて向いてる暇なんてねえだろ。次にテメエの前にチャンスが訪れたら……その僅かなチャンスを全力で掴んで這い上がって来てみせろよ。じゃなきゃテメエは何時までもクソナードのままで、俺に追いつけねえままで終わるぜ」
「……うん、そうだね。その通りだねかっちゃん」
「けっ!!……慣れねえ事俺に言わせてんじゃねえよボケが」
「……ははは」
まだ少し落ち込んでいるような気落ちしているような……そんな気持ちを隠すようにして緑谷が笑う。
悔しいんだろうな。
わかるよ本当に。
だから、
「……今回はたまたま俺達が先に行くだけだよ緑谷」
「……回原くん?」
……そんな、緑谷に俺も声をかける。
「今回は、たまたま俺達がエリちゃんを助ける為に先に行くだけだ」
「………」
「……だから、きっとある次の機会とかでお前が這い上がって来たのなら、俺達にその力を貸してくれよ緑谷」
ヒーロー活動はこれからも続いていくのだ。
だから、お前が這い上がって来たのなら、その時はその力を俺達に貸してくれ、と。
緑谷は、コクっと頷き。
「……うん、必ずそこまで這い上がってみせるよ。待っててね回原くん、かっちゃん」
……こうして、決戦前までの僅かな時間は終わり、そして決戦の幕が上がる。
side死柄木弔
「体調はどうじゃな?」
「ああ……」
ドクターの研究室。
そこに俺とドクターと、ヴィラン連合の全員が集まっていた。
Mr.コンプレス
トゥワイス
トガヒミコ
「はは!!覚悟は決まったのかよ死柄木弔!!俺を失望させんじゃねえぞ!!」
「荼毘……」
そして……魔王となった、荼毘。
5人が俺を見守る。
俺の、決断を。
「一晩ゆっくり休んで体調は万全かの?では……死柄木弔よ。薬を使い、個性を取り戻すのじゃ」
「………」
「……弔くん」
皆の見守る中、俺は薬を……俺の個性を復活させるという薬を睨む。
……あの小さな女の子。その女の子の身を削って作り出された薬を。
そんな俺の様子を見て、荼毘は、
「はは!!マジかよ!!本当に!!本当にダメなのかよ死柄木弔!!死柄木弔ぁぁぁ!!お前!!お前!!一体どうしちまったんだよぉぉ!!!」
「………」
煮え切らない俺の様子を見て叫ぶ荼毘。
それを見て更にイラッと来たのか?俺へと詰め寄ってくる荼毘。
それを、
「待てよ荼毘!!落ち着け!!」
「落ち着けよ荼毘!!辞めとけよ荼毘!!」
「でも気持ちはわかるぜ!!どうしたんだよ死柄木!?」
コンプレスとトゥワイスが、そんか荒ぶる荼毘を止める。
睨み合う俺と荼毘。
「死柄木弔……テメエが……テメエがそんなだったら、いっそ俺が………」
「荼毘……」
更に強く睨み合う俺と荼毘……そして……
「……あん?」
「……荼毘?」
……そんなタイミングで、俺との睨み合いを辞めて、荼毘が何処かへと意識を飛ばす。
……そして、
「……ヒーロー共の襲撃だ。奴ら、ココを嗅ぎつけやがった」
「……何じゃと!?」
「マジかよ!?」
ココからは見えない何かを察知し、ヒーローの襲撃を断言する荼毘。
「……クソが……侵攻速度が滅茶苦茶速ぇ……ホークスが前線に立って指揮取ってやがるなこれは……」
ホークス。
速すぎる男。
暫定No.1ヒーロー。
ヤツが前線に立って暴れながら突入してくるのであれば、荼毘が苦悶の声を上げる程の侵攻速度にも納得がいく。
そして……
「トゥワイス……俺を個性で増やせ。俺が迎撃に出る」
「おい荼毘!!マジかよ!!危険だぜ」
「魔王が増殖とか正気かよ!?余裕じゃねえか!?」
俺との問答を辞め、荼毘が力強く言葉を発する。
「ドクター……ハイエンド脳無の起動を急げ。起動が終わったらアンタは逃げろ……アンタが無事なら、この後色々とやりようはあるからな……」
「荼毘……お前……」
「……テメエが情けねえからだ死柄木弔……トロトロすんなトゥワイス!!時間が惜しいんだよ!!さっさと俺を増やせ!!今すぐ俺が出なけりゃ間に合わねえ!!」
「わかったぜ荼毘!!」
「でも気をつけろよ荼毘!!」
そしてトゥワイスの個性で増えた荼毘が、己のコピーを連れて出撃する。
俺は、それを見送り……
「……死柄木!!」
「……弔くん!?」
ぷしゅ……と、間抜けな音と共に、薬が首筋から体内へと打ち込まれる。
どくん……体内の何かが、それにつられて叫んでいるのがわかる。
……そして、3ヶ月振りの痒み。
久方ぶりの、俺にとっては日常となった何か。
そう。今までの俺と同じ。馴染みの何か。
……でも。
「……弔、くん……?」
だけど……
「死柄木?」
「おい大丈夫かよ死柄木?」
「でもこれで個性復活だよな!?余裕だよな死柄木!?」
だけど、以前の俺とは違う何かが。そう何かが、確かに俺の心の中にあった。
泥花市からの日々。
オールマイトとの語らい。
そして……
(……あの、小さなてのひら)
……今も胸に、全てを滅ぼしたいという、あの唐突な衝動が、それが俺の心の底を強く叩いている。
そう、今までであれば、今までであれば、たやすくそれに飲まれてしまっていたであろう、そんな強くて暗い衝動が。
でも……
「……心配すんなよ、大丈夫だ、俺は……」
でも、もう大丈夫だ、俺は。
「……良いんですか弔くん?」
全ては語らないトガの言葉。
それは、俺は本当は……本当は、個性を取り戻したくないと……取り戻す事なく穏やかな日々を過ごしたかったのではないか?という、その身中を思い配慮した優しい言葉。
でも……
「……ああ、問題ねえよトガヒミコ」
「弔くん……」
そう、問題はない。
無いのだ。
俺の中にはすでに、破壊の化身としてだけではない、それだけではない、確かな何かが根付いているのだから。
この破壊衝動にも、痒みにも、それがあれば耐えていける。前に前へと進んでいける。
だから、俺は。
「……何、人の心配してんだよテメエらは」
「死柄木……」
……そんな、心配そうな顔で俺を見ている、ヴィラン連合の仲間。全員を見回して。
「喜べよ。俺が個性を取り戻したんだぜ」
……そう、穏やかに告げてやる。
笑いながら。
「もっとありがたがれよお前ら。お前ら弱っちいんだからよぉ。個性を取り戻した俺が守ってやんなきゃすぐにヒーロー共に捕まっちまうだろぉ?だから……だから、もっと喜べ、お前ら」
そう、笑って俺は告げた。
そうだ、俺はヒーローだ。
ヴィランを守るヒーロー。
そんな強いヒーローになると、俺は誓ったのだから。
……そんな俺に、トガとコンプレスとトゥワイスは笑って、
「……ねえねえあっくん!!泥花市で速攻捕まって皆に迷惑かけたリーダーが何か言ってますよあっくん!!」
「しっ!!今良いとこなのヒミコちゃん!!ああ!!気にせず続けてくれよ死柄木!!義賊的に!!今の口上は大好物だぜ!!カッコいいから続けてくれよ!!タルタロスにお前が捕まってた所為で俺達苦労したけどな!!」
「死柄木!!俺達一緒に速攻捕まってたもんな!!」
「でも今のはカッコいいぜ死柄木!!でも速攻捕まってて結構お互い役立たずだったけどな!!」
「……テメエら……ったく……」
「「「………きゃあああ!!!」」」
そこまで広くないドクターの研究室で騒ぐ仲間達。
……正直、やかましいし、何でコイツらの為に俺が……という気持ちも無いではない。
しかし。
(……ああ、それでも)
……コイツらだけでも守るヒーローになろうと、ヴィラン連合のヒーローになろうと、俺はそう決めたのだ。
……だから、この気持ちは、決して嘘でも、雰囲気に左右された軽い気持ちとかでも、そんなあやふやなものでは無いのだ。
……こうして、蛇腔総合病院での、ヒーローとヴィラン連合の決戦が始まる。