side緑谷
「………?」
……ふと、誰かに……何かに呼びかけられた気がして、声が聞こえたような気がした方向を見る。
蛇腔総合病院の方向を。
「デクくん?どうしたん?」
「……いや、ごめん麗日さん。気の所為だったみたいだ。何でもないよ」
……しかし、やはり何もない。
ここは蛇腔総合病院の周辺にある街。
僕達は最悪の状況を想定し、周辺の人々の避難活動を行っていた。
エリちゃんを誘拐した目的が、死柄木弔に打ち込まれた個性消失弾の影響の排除にあるのだとしたら、最悪の場合泥花市で死柄木弔が見せた破壊の力まで復活する可能性がある。
それを考えれば、病院付近の人々の避難活動は本当に大切な事だ。
僕達雄英高校1年A組は相澤先生・エンデヴァー事務所のバーニンの指揮のもと、その大切な役割をこなしていた。
避難を渋る人々の反応に、短気な鎌切くんが悪態をつきそれに反発した住人とのトラブルなど……そこそこの波乱がありつつも、避難活動は進んでいた。
(……うん。こっちはこっちで。今、出来る事を頑張っているよかっちゃん)
そして、今ここにいない幼馴染の事を考えて、その無事を祈る。
僕はこっちで今頑張ってる。
だから、君も頑張れ、って。
side爆豪
……やれる!!
俺は今!!間違いなくやれている!!
三下魔王の1人が放った衝撃波の攻撃を躱しながら宙を駆け、
「死ねやオラァ!!」
「はっ!!させるかよ!!」
「だよなぁ!!俺はオトリだクソがぁ!!」
「チィ!!」
……宙を駆け!!そしてカウンターで爆破攻撃を仕掛けようとして!!その俺の動きに反応してカウンターにカウンターを合わせて来たまた別の荼毘の炎の攻撃を必死で躱す!!
その瞬間に!!
「行けやドリル!!ホークス!!」
「おおおおおおお!!」
「しゃあ!!!」
その俺に意識が向いた、その間隙を縫うようにしてドリルとホークスが接近戦を仕掛ける!!
「やらせねえ!!赫灼熱拳!!ヘルスパイダー!!」
「それをやらせねえよ兄貴!!」
更にそのドリルとホークスの動きを妨害しようとしたもう一人の荼毘の攻撃!!それを半分野郎が氷の個性で盾を作り防ぐ!!
しかし!!
「その程度の氷で止められるかよ!!火力だけなら俺はクソ親父以上なんだせ焦凍ぉぉ!!!」
その氷の防壁を、極小の時間で極悪な熱線が突破する!!
「ちっ!!」
「おっと!!」
その攻撃をドリルとホークスが避ける、それでロスした僅かな時間に!!
「「よく時間を稼いだ俺!!十分だ!!」」
その攻撃を中断!!空中で無理な機動をし一瞬の隙を見せた2人に攻撃を仕掛けようとする荼毘達!!それに!!
「……それをさせっかよ!!
俺の必殺技を叩き込む!!
「クソがぁ!!」
「邪魔すんじゃねえよクソガキ!!」
荼毘達は攻撃を中断!!個性で張った防壁で俺の必殺技を防御する!!
これまで何度も繰り返されたハイレベルな戦闘。
……その中で、十分に俺はやれている。
思い返すのは神野の時の……オールマイト&ドリル VS AFOとの戦いの時の……無力で、その戦いに入れなかった……あの時の弱っちい俺。
だけど……
(……今は違ぇ……やれる!!俺はこのレベルの戦いでも十分にやれている!!)
ようやくだ!!あれから半年も経った!!死に物狂いで特訓もした!!仮免もウザかったが我慢して取ってインターンにもちゃんと行った!!
だから!!だから俺は今ここにいることが出来る!!
出来たんだ!!
今も俺を狙う凶悪な爪による個性攻撃を躱しながら、反撃&個性合体のチャンスを狙いながら俺はそう確信した。
「……どうしたよヒーロー共……ご自慢の個性合体が一度も出来てねえぞぉ!!そんなザマで本当に俺達を倒すつもりかよ!!」
「けっ!!吠えやがる三下魔王ごときがよぉ!!」
「テメェェェ!!」
その全ての爪の攻撃を避けた俺と入れ替わるようにして、
「スパイラル!!」
「ホークスさん!!」
空中で急接近するホークスとドリル!!
それを!!
「させるかぁぁぁ!!」
炎を薙ぎ祓い妨害する荼毘。空中で合流しようとしていた2人の中間に放たれた炎により、2人での合体が妨げられる……
「………」
「………」
……が、そんな事はわかっていたとばかりに、悔しがる素振りも見せない冷静な様子の2人。
(あの2人……狙ってやがるな……)
先ほどから何度か繰り返されたその様子。
一見すると、個性合体に執着する2人と、それを上手く妨害している3人の魔王という様子だが……
(……わかる……アイツラの狙いが何となくわかるぜ……あの2人……個性合体に執着してるフリをしながら……個性合体の為の合流の動きを囮にして、ヤツラの懐に飛び込むつもりだな……)
先ほどから何度か見たその様子。
その時の、何かのタイミングを計っているかのような2人の表情。
個性合体を囮に使い、そこに集中したヤツラの攻撃を躱しつ懐に飛び込み、3人の荼毘のウチどれか1人を確殺する。
それがあの2人の狙いと見た!!
現状、3人荼毘がいる事によるこの五分五分の状態。
確かに、誰でもいいから1人荼毘を落とせば、間違い無く戦局はこちらに傾く!!
(3人まとめてじゃなく順番に倒すか!!ならばそれに合わせるだけだなぁ!!)
だったら!!今俺にやれる事は!!
「はっ!!魔王名乗るワリには大した事ねぇなぁ!!個性合体防ぐのに精一杯かよ!!まだ俺達4人のウチ誰も倒せてねえじゃねえか!!本当に情けねえ魔王だなテメェはよぉ!!」
「何だとぉ!!」
「このクソガキ!!」
「数合わせの分際で!!さっきから生意気何だよテメェはぁ!!!」
「……へっ!!」
(ヤツラを挑発して極力冷静に物事を考えさせねえ!!そして!!少しでも多くこちらに注意を引きつける!!)
放たれたヘルスパイダーの熱線を躱す為に後退しながら、頭の中を急速に整理していく。
(……現状、トップスピードに優れ敵の懐に飛び込めるホークス。敵の攻撃を掻い潜って接近戦で敵を仕留められるドリル。この2人のフォローが最優先だ……当然!!敵に隙があったら俺が直接仕留めたるけどなぁ!!)
「くらえ!!」
「はっ!!火力比べと洒落込むとしようか焦凍ぉ!!」
あちらで火力をぶつけ合っている半分野郎を軽く見る。
……アイツも雄英で学び、ここまで上がってきたタマだ。
ホークスとドリルの狙いに気づいているかはわからないが……その時になれば必ずしっかりと合わせてくるだろう。
チラとジジイの方と、エッジショット達の方を軽く確認する。
(……どちらもそれ程余裕はねえ……何とかしろよ2人共!!)
sideトガヒミコ
「あちゃぁ……荼毘くんかなりヒートアップしてますねえこれ……適当なタイミングでエリちゃんを人質にして交渉し、泥ワープで皆で逃げるつもりでしたが……どうしますかあっくん?」
3つの激戦が繰り広げられている広間。
そこを覗く通路の陰。
そこに潜んで様子を見ていた私は、ちょっと雲行き怪しく無いですかこれは……という不安を思わず彼氏にぶつけてしまう。
「……そーね……ありゃ止まれって俺達が言っても止まれないかもなぁ……どうすっかねエリちゃん?」
そんでウチのダメ彼氏は、そんな不安を幼女に投げる。サイテーですね。
「みんなやめて!!わたしのためにあらそわないで!!」
ふんす!!
そして鼻息を荒くして棒読みするこの幼女である。
そんなエリちゃんの様子はとてもカアイイので癒されるのですが……
「違うのですエリちゃん……確かにそのセリフはヒロインぽくて乙女的には一度はリアルで言ってみたいセリフなのですが……もう少し怯えた……怖がってる様子で『怖い!!助けて!!』だけ言ってくれればいいのです」
そんな私のお願いに、エリちゃんはキョトンと首を傾げ、
「……?でもトガちゃん怖くないよ?」
「……ああもおカアイイよおカアイイよおエリちゃんカアイイよお!!……ウチの彼氏エリちゃんの代わりに人質に出来ませんかねコレ!?人質交渉のネタにはあっくん使って!!エリちゃんはこのまま一緒にお持ち帰りしたいです!!」
「……あれ?俺、今ナチュラルにヒーロー達に売られたコレ?ねえ売られたのコレ?」
「ワシに聞かんでほしいのお」
「おいトガちゃん!!流石にそれはヒデえぜ!!」
「でも頑張れよコンプレス!!生きてりゃそのうち良い事あるぜ!!」
「あ……これ完全に売られてますね……間違い無く売られてますね俺……」
そんな男どもの会話をBGMに、エリちゃんとキュッと手を握り戦況を見る。
弔くんの所は五分五分。
ハイエンド脳無達の所は私達ヴィラン連合が有利。
そして……荼毘くんの所は拮抗……いや、ヒーロー側が有利?かな?
それぞれ3つの戦場。
天秤の上、危ういバランスの上に拮抗するこの戦況。
どれか一つでも大きく崩れれば、間違い無く状況は一気に動く。
そんな状況で激しい戦いを繰り広げるヴィラン達とヒーロー達。
……そして、ついに動きが!!
「……ここだ!!」
「仕掛ける!!」
「うぉっ!?」
荼毘くんの戦場が、ついに動く!!
それはこの日何度目かの、空中での個性合体を試みる動き。
それをさせまいと炎を放つ荼毘くん!!
……それに超反応し!!空中で急速に方向転換!!一気に一人の荼毘くん目掛けて加速するホークスとスパイラル!!
「ちぃ!!」
「させねえぞクソ兄貴!!」
「テメェもだ!!」
「がぁぁぁぁぁ!!!」
その超速の突撃を妨害しようとする残りの荼毘くん2人、その行動を妨害する若きヒーロー達!!
そして!!
「……はっ!!それを狙ってたのもわかってたぜ!!そう簡単に食らうかよ!!」
左手でホークスに炎を放つ荼毘くん!!
「よっと!!」
それを躱し、少し膨らんだ軌道で最接近するホークス!!
ここで!!
「今度こそ!!一手馳走だあ!!!」
ついに荼毘くんの間合いにスパイラルが侵入する!!
「身体能力超強化×5だあ!!跳んで火に入る夏の虫だぜ!!死ねやクソガキ!!」
そのスパイラルに、強化した身体能力で殴りかかろうとする荼毘くん!!
それに!!
「……あ!!バカやめろ荼毘!!その対人接近戦理不尽枠に普通に接近戦挑むんじゃねえ!!」
思わず!!離れた所から弔くんが警告するが!!
「おおお!!死ねぇ!!!」
構わず空中で、超強化された腕力で殴りかかる荼毘くん!!
……だが!!
「はっ!!テメェ武術素人かよ!!ウルトラマンのシュワッチポーズみたいに殴りかかってくるとかこのど間抜けがぁ!!超強化された身体能力で!!素人の手打ちパンチで俺に殴りかかるとか!!超絶弩級のカモだぜそいつはよぉ!!!!!」
……くるり。
その、荼毘くんの超身体能力強化パンチ……それを懐に潜り込むようにして、器用に空中で動いて躱したスパイラル。彼はそのまま流れるような美しい動きで伸び切った腕を掴み、背負い、そして……
「カモがネギ背負って鍋まで持参で来やがった!!テメェの超身体能力利用させてもらうぜ!!落ちろぉぉぉ!!!」
「!!!!!!!!」
「「「「「「「投げたぁ!!!!!!」」」」」」」
ドガグシャアアアアアアアアアアアンンンンン!!!!
そして!!凄まじい音を立てて荼毘くんが地面に叩き付けられた!!
「「「「「「…………………………………」」」」」」
そして訪れる奇妙な沈黙。
若干ハイエンド脳無達ですら「人間マジか………」とフリーズしていたような気がします。アイツヤバすぎなのです。
あまりにもあんまりというか……その、理不尽な光景……それに敵味方問わず全員が思わず沈黙してしまう……
しかし……
「……はっ!!い、今です!!今なのです!!今が人質交渉のチャンスなのです!!」
「トガちゃん?」
奇妙な沈黙が支配する、凍りついた戦場……
私はエリちゃんの手を引きその広場に飛び出す!!
「全員!!動きを止めるのです!!」
「エリちゃん!!無事だったんだよね!?」
私達の様子を見て動きを止めるヒーロー。ハイエンド脳無にはドクターが指示を送ったのでしょうか?やはり動きを止めてました。
その場の全員の注目が私とエリちゃんに向くのを確認し、私は大声で叫ぶ、
「人質交渉ですヒーロー!!エリちゃんの命が惜しければこの空間の入口まで下がるのです!!その間に私達はヴィラン連合のメンバーを全員回収し、この場を撤収します!!そのタイミングでエリちゃんは無事に返すと約束します!!だから!!この場は下がって下さいヒーロー!!」
「「「「「…………………」」」」」
ヒーロー達の沈黙。
(……決して無理な要求じゃない筈……これくらいであれば……このくらいなら、要求は通ってもおかしくない)
……それが、あっくんや仁くん、ドクターと事前に打ち合わせしていた事。
このヒーロー社会。幼い女の子を傷つけるリスクを取っての強硬策は出来ない筈だ。
……それが、今回はローリスクで人質返還交渉で返ってくる。
(……乗ってくる可能性は高い筈なのです……エリちゃんの為にも……お願いです。この交渉に乗って下さい)
顔を見合わせるヒーロー達……そして、しばらくの時間が経ち、
「……わかった。今回の作戦のメインはエリちゃんの救出だ……その提案に乗ろう」
「ホークス……」
ヒーロー達のリーダーらしきホークスが、私の交渉を受け取ると宣言した。
ほっ……と、それに胸を撫で下ろす。
……良かった……これで一安心なのです。
「……無様だねえ僕……まだだ……まだ俺のターンだろ俺……まだ出てくるな……でも僕?俺は大ピンチじゃないか?ここは代わってやめろ出てくるなここは僕の時間で……でも俺の力が足りないからこんな事にそうだ俺の力が足りない……力が欲しい……そうだね力が欲しいよねそうだアンタが言ってた圧倒的な力が……OFAのような強い力があればこんな事には……そうだよね僕?必要なのはOFAだ。ああ……わかるだろう俺?近くに来ているのが?ああわかるよ僕……近くにきているね……俺の、僕の近くに来ているんだね……帰って来たんだね俺の元に……そうだ……OFAの力があれば俺も僕も負けない……親父も……全ても必ず殺せる……殺せるんだ……そうだろ俺?ああ…僕」
……そんな時に、背後から不吉の風が、吹いた。
「……荼毘……くん?」
「どけ……トガ……」
「キャッ!!」
「トガちゃん!!」
「荼毘!!テメェ!!」
……突如、背後から近づいて来た荼毘くんに突き飛ばされ、私は地面に倒れる。
「トガちゃん!!」
「エリちゃん!!」
そして私からエリちゃん奪い、荼毘くんがヒーロー達に向けて、そして叫ぶ!!
「……人質交渉のやり直しだぁヒーロー……」
「荼毘……」
ぎり……っと効果音すら感じさせる勢いで顔を歪めるホークス。
そんなホークスと、そしてヒーロー達に荼毘くんが宣言する。
「OFAを僕の前に差し出せヒーロー……そうすればこの女の子を返してやるよ……さあ……俺の前に連れてこい……近くにいるのはわかってるよ……ああ……ようやく会えるね与一……今度こそ俺と一緒だよ与一……」
不吉の風が、この隠された空間に吹いた。
この戦いは、まだまだ終わらない。