(……いたたまれねえ)
蛇腔総合病院での決戦が終わり、俺達ヒーローは負傷者の治療等の為に近くにある他の病院へと移動していた。
……その中の、広い会議室。
各自治療を終えた俺達は、そこでオールマイトさんの話を聞いていたのだけれど……
『私は社会人レベル1のポンコツでしたホントすみません。ここから奮起し、教え子達に恥じることの無い立派な社会人になっていく所存です』
ひも付きプラカードにそんな自筆のメッセージを書いて、首からぶら下げ椅子に座っているオールマイトさんがいました……
大きな体を小さく『しゅん……』みたいに小さく縮めているオールマイトさん……なんかあれですわ……尊敬してるオトナのこんな姿……見たくなかったなぁ……
「…………」
そんな俺の隣でトンガリは目の前の光景に軽く脳を破壊されていた。せやな。わかるでホンマ。
そのさらに横には緑谷……当時者である緑谷もいた。何とも言えないような複雑な顔をしていた。せやな。そうなるよなホンマ。
今ここにはオールマイトさんと緑谷……そして以前から事情を知っていたらしいグラントリノさんにトンガリ……その4人から詳しい話を聞くためエンデヴァーさん、ベストジーニストさん、ホークスさん、物間、そして俺というメンバーが集まっていた。
オールマイトさんが語った話……OFAという個性の話と、受け継がれて来たAFOとの因縁、そしてその戦いの歴史の話。
緑谷で9代目になるという、そんな壮大なスケールの話。
数年前のAFOとの戦いで重傷を負い自分の後継者を探していたオールマイトさんが、無個性だった緑谷の中にヒーローを見出し、そしてOFAを継承したという……そんな物語。
「ふむ……大体の話は理解出来た……」
一通り話を聞き終え、ベストジーニストさんが口を開く。
「……個性というモノの所有権は、当然その個性の所有者にあると考えるのが自然だ。で、ある以上、その個性を誰かに譲れるのであれば、当然その所有者自身が何時、誰にその個性を譲るか決めるのが当然の権利ではある……が……」
そんなベストジーニストさんの言葉……それをホークスさんが引き継ぎ、
「……ですが『一国の治安維持』という超特大のインフラの大部分をオールマイトさん個人で支えていたのが事実としてある訳でして……我々の力不足は当然恥じ入るところではありますが、何と言いますかもう少し引き継ぎ計画?というか……もうちょっと何とかならなかったんですかねえ………」
そうねえ引き継ぎ……うん。引き継ぎ大切だよね。
例えば、力を渡して活動時間の短くなったオールマイトさんのフォローとかさ。
雄英の教師になるのは決まってたみたいだから、雄英の近くをオールマイトさんの活動エリア。その他のエリアにヒーローを多く配置するとか?それで短くなった活動時間を最大限活かせるようなフォローとかだって出来ただろう。
緑谷に力を渡したのはいいけど、緑谷が一人前になるまでどのくらいの時間が必要だと考えてたの?とか?その教育のフォローは?とか?まさか全部流れに任せる予定だったの?とか?
……軽く考えるだけで色々思いつくし、きっと2人ならもっと色々とたくさんの事を思いついているのだろう。
「えっと……その……すまない……」
先ほどのように怒りに任せて吠えるとかではなく、冷静な指摘の言葉に、オールマイトさんが再度謝った。
「………」
……そしてすでに怒りはおさまり『俺はこんなヤツに勝てなかったのか……』と、こちらも軽く脳を破壊されているエンデヴァーさん……激戦終わったばかりなのにこっちのが死屍累々な感じなのイズ何故?
「……せめて……いや、もうこの辺りにしようか。終わった事を何時までも話していても仕方無い」
色々と、本当はまだまだたくさん言いたい事はありそうなのだが、ふう……とドデカイため息を一つ、ベストジーニストさんが終わりに向けて口を開いた。
ちら……っとホークスさんはそんなベストジーニストさんの方を見て、そして同じようにクソデカため息を一つ。
「……ですね。うん!!そうですね!!確かに何時までも終わった事をグダグダと言ってても仕方無い!!いやあ!!すみませんでしたねオールマイトさん!!ついつい俺もカッとなっちゃって!!」
そう言って、ニッコリとオールマイトさんに笑顔を向けた。
「ああ……すまなかったねホークス」
「うんうん良いんですよ良いんですよ」
その笑顔に物凄く救われたような様子のオールマイトさん。
だが……
「……正直、20代の仕事が出来る若手の、あの種の悟ったような笑顔というものが一番危険な笑みなのだがな」
「ああ……現場では活躍するが、何度教えてもエクセルの便利な操作を忘れて、その都度繰り返し繰り返し何度も何度も同じ事を聞いてくる、少し年配のヒーローを見る時のバーニンと全く同じ笑顔をしている」
「あれはニッコリと笑ってこそいるが、相手を見捨てて切り捨てる時特有の若手の反応だ」
「うむ……『ああ、もういいっす!!それ私やるんで全部データ送って下さい!!』と言ってとりあえずその場では仕事を引き受けるものの『ああクソ!!コイツにまた同じ事を一から教えるのメンドクセエ!!それならもういっそ全部自分でやるわ!!その方が早いわ!!』と内心キレてて後日の飲み会で愚痴られるまでがワンセットだな。なおソースはやはりバーニン」
「あはははは……」
ニコニコ笑い合うホークスさんとオールマイトさんに聞こえないように、エンデヴァーさんとベストジーニストさんがヒソヒソとそんな内緒話をしていた。
それが聞こえてしまい思わず苦笑。
わかるわーバーニンさん確かにやりそー……
そして……丁度一区切りのついたようなこのタイミングで、
「……まあ、何だ、正直俺の指導が悪かった。皆に迷惑かけて申し訳ねえ。この通りだ」
「グラントリノ!!」
今まで沈黙を守っていたグラントリノさんが皆の前に来ると、そう言って皆に向かって頭を下げた。
「戦いの事ばかり教えてばっかで、こういう立ち回りを全く教えられてなかった俺の指導不足だ。申し訳ない」
「頭を上げて下さい!!悪いのは私なんですから!!」
「俊典よぉ……自分の部下やら教え子やら後輩がやらかしたら、上司や教師や先輩が頭を下げるってのが社会人のスジってもんだぜ……今、お前の為に頭を下げられるのなんて……もう俺くらいしかいねえだろうが」
「あうぅ…………頭を下げさせてしまい、本当に申し訳ございません。私は本当に自分が恥ずかしい……」
「……そうだぞ。テメエ、本当に恥ずかしいことしたんだからな……ちゃんと反省して次からは活かせよマジで……」
「はい………」
……これはキクなあ……キクだろうなあ……
自分のミスでグラントリノさんに頭を下げさせてしまい、滅茶苦茶落ち込むオールマイトさん……
お互いこれから色々学ぶ事が多そうですね。何というか、お互いにこれからも頑張りましょうねオールマイトさん。
「……さて、事情もわかりましたし、これで正式にケジメということにしましょうか。僕らヒーローは、この話を聞いた上でこれからの事を考えなければいけないんですから」
最後に物間がそう締めて、オールマイトさんが語るOFAの話は終わりとなった。
この後は物間とホークスさん、そしてベストジーニストさんが中心となり関係者と連絡を取り、これからについて協議をする事となった。
そしてそれ以外のメンバーはここで一端解散という事になった。
side緑谷
「ふう……」
白い廊下が続く無人の病院内が、外から差し込む夕焼けで一面朱く染まっていた。
回原くんは『わり……彼女達に呼ぼれたから先に行くわ』と言って一人で行ってしまっていた。冷静になると『彼女達』ってかなりのパワーワードだなあ。
かっちゃんは『………ちっ』と舌打ちすると、これまた僕を置いて無言で先に行ってしまった。
ほぼ間違い無く塩崎さんの所に行ったのだとは思うけど。それを正直に言うのが恥ずかしいからって、回原くんと違い無言で行くのが実にかっちゃんらしい。
そんな訳で1人残された僕はのんびりトイレに行ってから病院内を歩いていた。雄英に帰るバスに乗る集合場所へと向かう為に。
そこで、
「……む、デクか」
「エンデヴァー」
T字路になっていた廊下の影から出てきたエンデヴァーと出会った。
エンデヴァーは群訝山荘の時の負傷が癒えない身体で無理して参戦しておきながら『俺の治療なんぞよりオールマイトの話を聞くのが先だ!!』と強弁して先ほどの場に参加していた。先の戦いで目立った負傷はなかったけど、話が終わった後の軽い診察やら治療が今ちょうど終わったのかな?
そして今、僕はエンデヴァーと2人、夕焼けに染まった朱い空間で対峙していた。
「これから雄英に戻るのか?」
「はい」
「そうか……わかってはいるだろうが気をつけろ。これからはお前を狙ってのヴィランの襲撃も増えるだろうからな」
「はい」
こちらを心配?気遣った?ような事をエンデヴァーは言って、そして「ではな」とその場を去ろうとする。
「………あの!!」
……する、そんな背中に。
……何故だろう……何故か?何故だろうか?僕は思わず声をかけてしまった。
僕の曖昧な引き留める声を聞き、エンデヴァーはピタリと動きを止めて、
「……どうしたデク?何かあるのか?」
「あ……いや……その……」
落ち着いた様子で僕に声をかけるエンデヴァー。そんな彼に対し、僕はあいまいに「あの……」とか「その……」みたいな、声にもならない音しか口からは発せなくて……
当然なんだ。
頭の中で綺麗に言語化出来るほど考えはまとまってなくて。
でも、思わず声をかけて聞いてみたくて仕方なかったんだ。
だから、思わず呼び止めてしまったんだ。
そう、それはまるであの日の光景の焼き直しのようで。
あの日は市街地の道路の上で、今ここは病院の廊下だけれども。
同じように、同じような朱い夕焼けが世界を優しく染めていた。
そしてあの日は僕の目の前にはオールマイトがいて。
……今、僕の目の前にはエンデヴァーがいるんだ。
それは、まるであの日の焼き直しのような美しい光景で。
ただしかし、場所と登場人物だけが違っていた。
でも……
「……エンデヴァー」
だけど……
「どうした?デク?」
だけど……同じようにその姿に憧れて、焦がれてしまったヒーローが目の前にいる……今、そこにいるんだ。
だから、僕は……
「……個性がなくても、ヒーローになれると思いますか?」
だから、僕は思わずそう聞いてしまった。
これがとても残酷な言葉とはわかっていたのだけれど。
個性を実の子供に奪われて、それでもなおその子を止める為に立ち上がった偉大なるヒーロー。
偉大なるヒーロー・エンデヴァー。
そんなエンデヴァーに、僕はあの日と同じ事を聞いてしまったのだった。
「…………」
エンデヴァーは、僕の言葉を聞いて、少し面食らったような顔を見せて、
「………ふっ」
「………え?」
……見せて、きっとこの人にとってはとても珍しい事なんだろうけど、思わず……といった笑みをこぼしていた。
「……ん?ああ……すまんな。いや何……少し前の事を思い出してな……全く、お前は毎度俺の答え難い事を、的確に答え難いタイミングで、同じ様な場所で俺に向かって言って来るのだな、と。」
「……え?」
少し前?それって……?
「忘れたか?雄英体育祭でもそうだっただろう?」
「……ああ!!」
ああ!!そう言えば確かに!!
あの時のエンデヴァーに言った事は間違ってたとは思って無いけど!!確かに言われてみればそうかも!!
親子仲改善前のエンデヴァー。
そして今は個性を失ったエンデヴァー。
確かに言われてみればそうかも!!!
あわあわ……「やっちゃった!!」と思わず内心頭を抱える僕……そんな僕を楽しそうにエンデヴァーは見ながら、
「ああ、すまんな話がそれた。ふむ……『個性がなくてもヒーローになれるか?』か?逆に聞くが、何故個性がなければヒーローにはなれんのだ?」
「……え?」
怒らせた!?と心配していた僕を他所に、思っていたよりも真摯にエンデヴァーは答えてくれていた。
「俺は知っての通りに不器用な男だ。だからこそ、一つ一つの要素を積み上げて目的地を目指すやり方しか知らん。だから、もし俺に個性がなく、それでもヒーローを目指すならば考えるだろう。考え続けるだろうな。個性がなくともヒーローになれる方法を」
「………」
「個性がなくてヒーローになる上で心配になるのは、分かりやすく戦闘能力か?ならば無個性でも戦闘能力を鍛えるだろう。回原を見ろ。あれは無個性だったとしても下手なヒーローよりよっぽど強い。それ以外なら、分かりやすく目立つ個性が無いから人気が出ずヒーローになれない、等か。ならば物間だな。ヤツのファンクラブ運営は非常に効果的だ。まあ俺にあれが出来るとは思えんが」
「………」
「……そうして、一つ一つヒーローになる為の障害をクリアしていき、最後にはヒーローになる……それが俺のやり方だ。不器用だが俺はそういうやり方しか知らんのだ」
「………」
エンデヴァーの不器用な生き方と、その真摯な言葉に胸が撃たれる。
そうだ、この人はこういう人で……だからこそまだヒーローをやっているのだ。
「……デク……いや、緑谷。何故今お前が俺にこんな事を聞いてきたのか……俺には何となくだがその気持ちがわかる」
「……え?」
エンデヴァーは、僕の目をしっかりと見て。
「……無個性でも、ヒーローを目指すのは辛いな、緑谷」
「……あ」
……それは、僕の心の奥底にしまっていた、本当の気持ち。
そして……さらにエンデヴァーは、
「……そして、例え優秀な個性があったとしても。例えいくら努力し鍛えたとしても『どうしても勝てない』『どうしても追いつけない』相手を追いかけ続ける日々は辛いな、緑谷……」
「……あ!……あ、あぁ……ぁぁぁぁ………」
そしてそれは、僕の心の底に今もくすぶる、重くて暗い、冷たい想い……
「オールマイトの話を聞き、お前が無個性として生きて来た事を知った。そして、お前はそれに苦しんだ後にオールマイトから個性を受け継いだ……それが原因で、本来ならばお前が抱くべきではなかった暗い感情に苦しんでいた事もわかる」
「エンデヴァー……」
あの日とは違う紅色の光景の中。
あの日のあの人と違い、夕焼けの朱を真正面から受け止めそこに立っているエンデヴァー。
その言葉に、こんなにも胸が揺さぶられる。
「本来後者の感情は、お前にとって不要だった筈の感情だ。優秀な個性を持って産まれたが、それでもヒーローになれないかもしれない……ヒーローにはなれても、トップヒーローにはなれないかもしれない……それは、今の世に産まれた多くの子供達が持つ自然な感情であり、本当はお前が持つ必要のなかった暗い感情だ」
「…………」
「……だからこそ、お前がその感情を体験出来た事に意味があるのだと、俺はそう考える」
「……え?」
その真摯な、言葉に、僕の胸が撃たれていく。
エンデヴァーは、僕の目をしっかりと見て、
「『個性がなくてもヒーローを目指した緑谷』『優秀な個性を持っていても、ヒーローになれないかもしれない、と。トップヒーローにはなれないかもしれない、ともがいたデク』……お前は、他の誰もが持つことの出来ない2つの強い想いと経験を持ち、その苦しんだ時間の先で今ここにこうして立っているのだ。それはきっと……他の誰にも持つ事が出来ないお前だけの強み……お前だけのオリジンとなる」
「僕だけの強さ……オリジン……」
僕はじっとエンデヴァーの目を見ていた。その言葉をずっと聞いていた。
「……先程のオールマイトの話で、俺達ヒーローはオールマイトの情報の共有やら引き継ぎやら報連相やら……そういうものばかりダメ出しをしていたな。お前は気づいていたかデク?」
「はい……それはまあ……」
僕のその返答に「やはりわかってないな……」と、軽くため息をついてエンデヴァーは、
「……誰も『デクがオールマイトの後継者として選ばれた事』に関しては文句は言っていなかっただろう?」
「……あ!!!」
確かに!!しゅんとしてるオールマイトばかり印象が強かったけど!!確かに!!言われてみれば!!
「あの時の燈矢……稲妻を、そして竜巻を自在に操る……そんな最凶最悪のヴィランと対峙する絶望的な戦場で……それでもなお力強く前を向いていたお前に、俺とベストジーニストは光を見た。おそらく、オールマイトがお前の中に見出した光と同じものだ。だから、俺とベストジーニストはお前がオールマイトの後継者であるという事に何一つ異存はなかった。認めていた。おそらくはホークスもな」
まあプロセスは正直どうかと思うが……とボソッと言っていた。まあそれはすみません……
「だから俺達はお前を認めた。認めていたのだ。例えお前がオールマイトのOFAを受け継いだとか、受け継いでいないとか、そういうモノなど何一つ関係無く、その前に俺達はすでにお前を認めていたのだ、ヒーロー・デクよ」
「あ……」
そして、
「……前置きが長くなったが、お前は俺に聞いたなデク?『個性がなくてもヒーローになれますか?』と」
「あ……あ……あああああ……」
夕焼けに照らされたエンデヴァーは、そして力強く僕に告げる。
「個性がなくても、今のお前ならばヒーローになれる」
「あああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
その場に崩れ落ちる。
下を向いて、僕は叫んでいた。
目からは涙がこぼれ落ち、止められない程の強い激情のままに泣き叫んでいた!!
この日手に入れた、もう一つの僕のオリジン。
アナザーオリジンをこの胸に抱き締めるようにして、僕は蹲り、そして叫び続けていた。