回原のドリルは天を貫く   作:のりしー

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ヴィラン連合と魔王

「旋くん!!ねえねえ大丈夫だった?ケガとかない?」

 

「大丈夫ですよねじれ先輩。心配かけてすみません」

 

『ここに3人でいるよー』と連絡を受けて向かった病院のロビー。俺の姿を見つけた瞬間にねじれ先輩が文字通りこちらに飛んで来た。

 

ヒーローコスチュームのまま宙に浮かび、緩く俺の首から肩にかけて手を回し、抱きつくような感じになったねじれ先輩。

その姿に『もげろ……もげろ……』『ああ……藁人形と五寸釘はどこだ……』といった怨念の声が周囲から聞こえてくる。なんかすんません。

 

「……良かった。特に大きなケガとかはないみたいだね。安心したよ旋」

「ん」

 

「一佳に唯か。お、飲み物くれるんか?ありがとな」

 

ねじれ先輩に少し遅れてやって来た一佳と唯。

友人としてではなく恋人としての適切な距離と言うべきか?ピタッ、と俺に寄り添うようにして立つ2人の姿を見て、更に周囲の視線が厳しくなる。やめましょう。憎しみだけで人は殺せないのです。

 

唯から受け取った飲み物を飲みながら、3人の暖かな体温を感じ、ああ今回も無事に帰ってこれたな……と、強くその喜びを噛み締める。

 

(……アイツを……荼毘を仕留めきれなかったのは残念だけど……)

 

あの恐るべき力を持つ荼毘。

気象を自在に操る魔王。

最後に見せた凶悪な炎の竜巻。

 

(都市部でアレを使われると不味い……必ず、次は倒さねえとな……)

 

こうして一つの戦いが終わり、そしてまた次の戦いへと続いていく。間近に迫っているであろう次の戦いに向けて、俺は気を引き締めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side死柄木弔

 

「……ここが次のアジトか」

「そうじゃよ」

 

荼毘を抱えてあの戦場から泥ワープで撤退。

残りのメンバーが待機していた場所に移動し合流。

そこから全員で更に泥ワープで移動する事数度。

 

俺達は先生の持つ隠れ家の一つである洞窟?ゲームとかでよく見るダンジョンの中のような?そんな岩と土に囲まれたアジトへと移動していた。

 

「……見た目はあれだが、奥にはちゃんと生活出来るだけの設備が備わってる。次の戦いまで潜伏するのに不足はねえよ」

 

事前にここの存在を知っていたのか?勝手知ったるといった様子で荼毘が奥へと向かう。

 

(……体調は……問題無さそうか?)

 

病院で見た時には死人のように青ざめていた顔も、今はだいぶ血色が戻ってきている。

気象操作という恐るべき個性の反動である細胞の崩壊……

あの力は確かに強力だが……それに頼りすぎる訳にはいかない様だった。

 

「……んだよその目は。なんか文句あんのかよイカれ女」

 

そんな荼毘の様子を、俺とは少し違った目で注視していた奴がいた。

 

「……文句は当然あるのです。むしろ、何故無いと思ってたんですか荼毘くん?」

 

そう、トガだ。

流石に空気を読まず口に出すような事こそしなかったが、合流してからここまで荼毘に対して向ける瞳に好意的な色は全く無かった。

無理も無い。元々人質交換の交渉役はトガに一任されていた。

それを強引に奪い、俺たちとあの子供に本来不要だった筈のリスクを負わせた……トガの怒りも当然だ。

 

じっと荼毘を睨むトガ……流石に、その視線にバツが悪くなったのか?荼毘はガリガリと頭をかき、

 

「……チッ!!悪かった……俺が悪かったよ。謝る。謝るよ。これでいいかトガ?」

 

仕方ねえなあ……という様子ではあったが、荼毘が一応トガに謝った。

 

それに、俺やドクター、コンプレス、トゥワイスという周りで様子を見ていた連中はホッとする。

 

良かった。とりあえず荼毘がトガに対して謝れる程度には精神的に落ち着いている。これなら多分大丈夫だろう。

 

 

荼毘の、とりあえずといった感じの、正直まあそこまで質の良くない謝罪。

トガは「まあ正直まだ不満はありますが……」という、内心を少し見せつつ、だがしかし大人の対応で。

 

「……はい、わかったのです。謝罪を受け取ります荼毘くん。でも……出来れば次からは自分の気持ちだけでなく、私達がどういう事を重要視しているのか?そういう周りの仲間の事も考えて欲しいのです」

 

そう、真っ当な事を言ってトガは荼毘の謝罪を受け入れた。

それに周りの皆が安心し、胸を撫で下ろす。

 

良かった……これでとりあえずは一安心か……

 

そう、全員が安心したと思う。思った。

だが……

 

「……あ?……なんだよそりゃイカれ女ぁ……?」

 

「荼毘……お前」

 

だが……だが、ただ1人……1人だけ、荼毘だけが俺たち全員と違い、トガの言葉に苛烈に反応する。

 

「俺達はヴィラン連合だろぉ?……数多いるヴィラン達の、その上澄みの上澄みで……この世界をぶっ壊す!!そんな目的を持った!!目的を果たす為の!!そう!!世界を壊す為に集まったヴィラン達!!それが俺達じゃねえのかよ!!違うのかよぉ!!なあ!!おい!!!」

 

「荼毘……くん?」

 

そんな荼毘の、急に何かのスイッチを押してしまったかの様な異常な反応。それに思わずトガが、俺達が戸惑いの顔でそんな荼毘を見る。

 

「仲間ってのは目的を達成する為の!!目的の達成が第一のチームであるべきなんじゃねえのかよぉ!!それが『仲間の気持ちも大切に』だとぉ!!ふざけんなよ!!そんな甘い考えで本当に世界滅ぼせんのかよテメエらぁ!!世界を滅ぼす為に俺達集まってるんだろうがぁ!!目的達成が第一だろ!!その目的の前に!!『仲間のお気持ち』みたいなモンが優先順位の上に上がるのはオカシイだろうがあ!!!ああ!!お父さんならそう言うぜ!!そう考えるぜ!!そうだろ!!目的達成に向けての最短距離で協力しないだなんて!!それどころか足引っ張るだなんて!!そんなの仲間なのかよ!!家族って言えるのかよ!!なぁ!!おい!!」

 

「お、おい……まあ言いたい事はわかるけど落ち着けよ荼毘」

 

「そうだぜ荼毘!!言いたい事はわかるけど落ち着けよ!!」

「いや!!お前の言う通りだ!!その通りだぜ荼毘!!でもちょっと落ち着けよ!!」

 

 

その様子を見て「これは不味い!!」と思ったコンプレスとトゥワイスが荼毘を宥めようと近づく。

 

しかし荼毘は宥めようとする2人を振り払うようにして!!

 

「ヌルい!!ヌリいよ!!ヌルすぎるぜテメエら!!」

 

「うお!?」

「「おい!!荼毘!?」」

 

両手を振り回し、止めようとする仲間を振り払う荼毘。

 

「甘過ぎるぜテメエらぁ!!世界を゙滅ぼすんだぞ?世界を滅ぼすんだぜぇ!?そんなお気持ち重視の甘っちょろい考えで本当に世界を滅ぼせると思ってんのかよ!!ああん!?!?」

 

 

さっきまでの落ち着いた様子から一転。

荒ぶる魔王が、俺達の前で叫ぶ!!

 

「もっと真剣になれよ!!もっと真面目にやれよ!!甘さを捨てろよ!!世界を滅ぼすんだろうが!!No.1になるんだろうが!?なんでテメエらそんなヌルい考えでやってんだよ!!もっと真面目に協力しろよ!!仲間だろうが!?家族みてえなモンだろうが!!ああ!!親父だったらきっとそう思うぜ!!そう思ってた筈だぜ!!何でもっと俺に協力しねえんだよテメエらぁ!!!」

 

 

「荼毘!!おい!!落ち着けよ荼毘!!荼毘!!」

 

流石に不味いと思い俺も荼毘を止めに入る!!

今までの流れでナニのドレがコイツの気に触ったのかわからない!!わからないが!!それでも!!それでも!!この状態のコイツをこのままにはしておけない!!

 

「ダメだ!!ダメだダメだダメだ!!」

 

ああ!!ダメだ荼毘!!

 

「止まれ!!落ち着け!!落ち着けよ荼毘!!荼毘ぃ!!」

 

落ち着け!落ち着けよ荼毘!!

ダメだ!!本当に止まれ!!止まるんだ荼毘!!

このままだとお前は!!

 

「荼毘ぃぃぃ!!!」

 

荼毘を止めようと叫ぶ俺。

猛烈に胸の中を叩きまくる嫌な嫌な予感。

 

そして……

 

「……ああ……何でだよ……何でお前ら仲間なのに……家族なのに俺を……僕を理解してくれねえんだよ?ついてきてくれねえんだよ……」

 

そして!!荼毘が暗い声で!!決定的な言葉を゙告げる!!

 

「……じゃあもういいよ……お前ら全員俺の前から消えろよ……消えちまえよ……あ?消えねえのかよ、じゃあ俺が消えるわ……消えてやるよ、僕がここから出てってやるよ!!」

 

「荼毘!!やめろ!!もうそれ以上喋るんじゃねえ!!口を閉じろ!!荼毘!!荼毘!!」

 

ああダメだ!!止めようとして止められない!!止められなかった!!やめろ荼毘!!それ以上は言っちゃいけねえ!!

 

強大な力を持った魔王。

その魔王からの決別の言葉。

 

魔王についていけない俺達への別れの言葉。

ついてこれないなら俺一人でやるのだと、そんな魔王の言葉。

 

(……ダメだ……ダメだ、これだけは言わせてはいけなかったんだ……)

 

泥花市までは一緒だった俺達ヴィラン連合。

そこから3ヶ月。それぞれに色々な事があった。

……そして、その日々が、それぞれに色々な事を考えさせた。

それは間違い無い。

ほんの少し前。それまでは皆で世界の滅びを望んでいた俺達ヴィラン連合。

しかし……今は……

 

 

……そんな不吉な思い……誰もが胸に抱いていながらも、それが実現するのが怖くて、皆口に出さなかった不吉な言葉……

 

「「「「「……………」」」」」

 

それを、荼毘が口にしてしまった。

ついに、口にしてしまったのだ。

 

(……ああ)

 

……ダメだ。これだけは言ってはいけなかったんだ。

 

決して、言ってはいけなかった、その言葉。

その、考え。

 

つまりそれは……

 

(……ここでヴィラン連合は終わり……つまり解散……その後はそれぞれ自由に生きる……そんな選択肢)

 

ああ……これで、終わりか……

 

 

チラと軽く周りを見ると、トガも……仮面を外したコンプレスもきっと俺と同じ様な顔をしていた。覆面の下でトゥワイスもきっとそんな顔をしていただろう。そしてドクターも。

 

過激な方向に走り続ける魔王と、それについていけないヴィラン連合。

 

今、ここには明確な線が一本引かれた。

あまりにも明確な線。明確な区別。

 

(……ああ、これで、これで俺達は……ヴィラン連合は終わりか……)

 

奇妙な沈黙の中、不思議と穏やかな思いでそう考える俺。

……本当に不思議な気分だった。

 

物心ついてからのあの日々。

ヴィラン連合として活動した日々。

ああ……もうそれが終わり……そして、俺はまた新しい道に進まなければいけないのか……

 

 

「……ダメだ、許さない」

 

「「「「「…………は?」」」」」

 

……いけない、のか?そんな事を考えていた俺の脳裏に、そんな……そんな怪しい声が聞こえてくる。

 

「ダメだ認めない!!許さない!!仲間ってのは家族みたいなものだろう!?ああ!!俺から離れるのは許さないよ与一!?ああ僕から逃げられると思ってるのかいヴィラン連合!?」

 

 

「「「「「…………は?…………え?」」」」」

 

 

おい……荼毘……お前、一体何を言って?

 

「ダメだ認めない!!好きだ!!愛してる!!俺から離れるだなんて許すもんか!!ああ与一!!ああヴィラン連合!!全部僕のものだ!!全て俺のものだ!!認めない!!認めない!!僕は認めないぞ!!ここからいなくなるだなんて認めてなるものかぁぁぁ!!!!」

 

「は?……え?」

 

コイツ……何を、言って?

お前は、俺達を見捨てたんだろう?

見限ったんだろう?

こんなヤツラはいらないと捨てたんだろう?

なのに……なのに、何だ……なんだよ、そのキモチ悪い執着は……一体……一体、お前、何を言って……

 

「荼毘?」

「……荼毘、くん……?」

 

流石にこれはオカシイ。明らかに異常だ。

そんな俺達の戸惑う声。

 

「……荼毘……お主、もしや?」

 

……そして、何かこの異常の原因に心辺りがあるのか?そんな様子のドクター。

 

「ああ!!何でここにいないんだよ親父!!何で先に死んだんだ与一!!許さない!!そんな事絶対に俺も僕も許さない!!許さないぞ!!ああぁぁぁぁぁぁああ!!!!!」

 

だがそんな俺達の反応も声も、何も聞こえない、何も見えないとばかりに一人狂気的な振る舞いを見せる荼毘。

 

「…………あ、あ?」

 

……そして、それがしばらく続き……ようやくその狂気に満ちていた瞳に、微かな正気の光が戻ってきて……

 

「……ああ……ああ、クソ……クソクソクソクソ」

 

……そして、瞳に宿っていた狂気の濁りを正気の光が全て払い、やっと落ち着いた荼毘は一人毒づき。

 

「……わりぃ、取り乱した……ちょい頭冷やす……」

 

 

「あ、ああ……」

「お、お大事に?か?まあ……ゆっくり休めよ」

 

「……おう」

 

そう言うと、急激に重くなった身体を引き摺るようにして、今度こそアジトの奥へと下がっていった。

 

 

「「「「「………………」」」」」

 

……その様子を、何も言う事が出来ずに、黙って見送る俺達。

 

「なあ……ドクター?」

「……なんじゃ、死柄木弔?」

 

……わかっているのに、それを聞き返すのかアンタは?

 

俺のその声に導かれるようにして、その場に残っていたメンバー全員の視線がドクターに集中する。

 

「荼毘は……荼毘?荼毘だよな?あの荼毘は……ああ、上手く言えねえ……上手く言えねえけど……『大丈夫』なのか?アレは?」

 

「………」

 

そう、それだ。

おそらく俺以外の誰もが同じ事を考えている。

 

あの荼毘は……『大丈夫』なのか?

 

ドクターは、言葉を選ぶようにしてゆっくりと話し出す。

 

「ワシにも……正直、わからん」

 

「おい……ドクター……」

 

「個性には時に人の性格や性質、嗜好や考え方に強く影響を与えるようなものも存在する。トガヒミコなどもそうじゃな。そして、荼毘にはAFOを……魔王そのものとも言える個性、オール・フォー・ワンを与えておる……それが、荼毘の精神と深く結びつき……正直、ワシにも全く予想外の方向へと変化しておるのじゃ」

 

「…………」

 

「『全てを手に入れたが、失った弟に何時までも何時までも執着し続けるAFO』と『全てを失ったが、それでもなおその原因となった父親に何時までも何時までも執着し続ける荼毘』……あの2人は真逆のようでいて、実は根っこの所が非常に似ている……近しいのかもしれん。それ故に2人の精神は反発することなく、その核となる『執着』をオリジンとし混ざり合い……歪な形で溶け合おうとしている……正直、ワシにも予想出来んよこんな展開は」

 

……それが、あの精神的な不安定さの理由、なのかよ……

 

一見すると落ち着いていたとしても、何かのスイッチで急に感情が爆発する。地雷を踏むとなおさらなのだろう。おそらくそれが失った弟とエンデヴァー……家族への異常な執着。

 

……これが並みのヴィランであればまあ問題ない。ヒーローなり他のヴィランがブチのめして終わりとなる。だが……

 

 

「……厄介過ぎる……魔王の力を操るには精神的に不安定過ぎるぞ……冗談じゃねえ。癇癪持ちの子供に気象操作の個性持たせるとかありえねえだろうが!!」

 

……だが、荼毘は強い。強すぎるのだ。

 

その気になれば街を、都市を、ひょっとしたら一つの国を傾ける事だって出来るかもしれない程の最凶のヴィラン。

 

……そんな、力が……

 

「……地雷ギャルマインドの魔王とかちょっと勘弁して欲しいのです……」

 

「……え〜ん、好きピに嫌われちゃったよ〜マジぴえん。ムカつくからみんな殺すね。後ついでに世界も滅ぼしとくね……みたいなノリでヘルフレイム+気象操作するって事だろ?……最悪だな。控えめに言っても最悪過ぎる」

 

 

……例えはアレだが、トガとコンプレスの言葉は多分……当たっている。

 

「……JOJOの作者の有名な言葉じゃが……『悪い事をする敵』というものは『心に弱さ』を持った人であり『真に怖いのは弱さを攻撃に変えた者なのだ』というのがある……あの精神性と凶悪な個性……恐ろしい存在じゃよ、今の荼毘は……」

 

「「「「…………」」」」

 

そんな事を至極真面目な顔で、ドクターが重々しく言った……

 

「……あの、ドクター?」

 

しかし……

 

「……メッチャシリアス顔でドヤってもっともらしいことを他人事みたいに言っているのですが……一番の戦犯はドクターではありませんかねコレ……?」

 

「よっし!!良くぞ言ったヒミコちゃん!!」

 

だよな!!トガァァ!!

 

なあドクター!!どう考えてもアンタのミスだろコレ!!

 

トガのその言葉に、ドクターはダラダラと冷や汗を流し、そして!!

 

「だって!!ワシだってこんなことになると思わなかったんだもん!!お願い!!許して!!」

 

そう言って、ドクターが華麗なる土下座を決めた!!

 

「「「「……正直、謝ってもらっても……」」」」

 

 

そんな感じで、俺達ヴィラン連合は土下座を決めたドクターを見下ろしていた……

 

 

ヒーローとの厳しい戦い。

そして狂える魔王。

 

……俺達は……俺達ヴィラン連合は、一体これからどうするべきなんだ……?

 

 

 

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