回原のドリルは天を貫く   作:のりしー

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テメエの

side緑谷

 

「「「「「「………………………」」」」」」

 

僕らの寮の一階の広間。

そこに集まった多くの人達。

その人達の長い長い沈黙。

 

それが、オールマイトが話した物語を聞いての皆の反応だった。

 

(……まあ、無理も無いよね)

 

受け継がれる個性ワン・フォー・オールとオール・フォー・ワンの宿命。

ワン・フォー・オールの後継者となった僕。

オール・フォー・ワンの後継者である荼毘。

 

ここに集まった人達はきっと「まあこれからかなり重大な話があるんだろうなあ」と漠然と考えてはいたと思うのだけど、それでもその想像を超えるような話だったんだろう。

 

……それが、この広い空間に重い沈黙をもたらしていた。

 

「……大体話はわかった……だが……だが、この話の先を続ける前にまず言わなけりゃならないことがある」

 

「相澤くん」

 

……そして、まず相澤先生が口を開く!!

 

「……雄英高校ヒーロー科のカリキュラムは、優れたヒーローを育てるという目的の為に、生徒達が限界を超えるように仕向ける危険な授業が多い……」

 

「……へ?」

 

あれ……これ……ひょっとして不味いヤツ!?

 

 

「話せない事もあるのは当然承知している!!だが!!それでもせめて!!せめて話せる範囲の事だけでも!!緑谷の担任である俺に何で今まで一言も相談が無かったんだ!!多少でも情報があるだけで防げる事は色々とあるんだぞ!!雄英の厳しい授業の中で!!緑谷が大ケガしたり!!ひょっとしたら死んでしまう可能性もあるとかは考え無かったんですかアンタはぁ!!!!」

 

「ギャァァァ!!ご!!ゴメンナサイ!!!」

 

(相澤先生!!めっちゃブチギレてる!!!!)

 

個性は無くなったはずなのに怒髪で天を突いてる相澤先生!!

 

その怒気に気圧されて、本来は大きな背丈を小さく縮めて謝るオールマイト。相澤先生は僕の事を考えて怒ってくれている所もあるから、正直僕からは止めにくい!!

 

「……まあ気持ちはわかりますが、この場ではその辺にしてください相澤先生。オールマイトが報連相とか全く出来てない、社会人レベル1のポンコツですネタで絞り上げるのは昨日すでにやってますので」

 

……そこに、少し困った様子で物間くんが声をかける。最近の彼には珍しく本当に困ってそうな顔で……これが彼にとっても全く予想もしてなかったイレギュラーな出来事だというのがハッキリとわかる。

そんな物間くんを、まるで救いの神でも来たかのように見るオールマイト……だが、

 

「……非合理的だな。それは社会人としてダメ出ししたって話だろうが。『教師』としてのダメ出しはまだ誰もしてねえんだろ?それをこれからするってのが合理的な結論ってもんだろうが」

 

「相澤くん!?」

 

そんな感じの鬼気迫る様子の相澤先生に、流石の物間くんも顔を引き攣らせて、

 

「……なるほど。確かにそうですね……わかりました。この場での今後の話については後で共有します。僕らの寮の一階を使ってください。オールマイトへの指導はそちらで存分にどうぞ」

 

「見捨てた!?見捨てられたよね今私!?物間少年!!物間少年んんんんんん!!!」

 

ズルズルとオールマイトを引き摺り寮を出ていく相澤先生……教師としてどうしても許せない事があったんだろう……ここまで怒ってるのは始めてみたかもしれない。

 

「「「「「「……………………………」」」」」」

 

そして僕含め、それを見守る皆の沈黙……さっきまでの沈黙と違って……なんか気まずい……

 

「……まあ、なんかちょっとグダグダにはなったけどさ……」

 

……そんな空気をなだめるようにして、瀬呂くんが話し出す。

 

「……今までの『なんでオールマイトはあんなに緑谷を特別扱いしているんだろう問題』についてはこれで完全に決着がついたな。なあ上鳴」

 

「……そうだな。俺……大穴の『実は緑谷はオールマイトの隠し子でした!!』説に賭けてたんだけどなぁ……それよりももっと大穴の『実は緑谷はオールマイトの後継者でした!!』が正解だっただなんて……そんなの当たるかってんだよ全く……」

 

「何それ初耳だよ!?僕!?オールマイトの隠し子とか噂されてたの!?」

 

しかも賭けまでされてたの!?

 

上手いこと空気を読んだ瀬呂くんの言葉に、またも上手い上鳴くんが合わせる。

2人による、この場の空気を和ませようという会話に周囲皆も影響を受けて、

 

「そりゃなあ……」

「隠れてコソコソ2人で飯とか食ってたろ?」

「何かはわからないけど、何かはあります……って言ってるようなもんだろうがあれは……」

 

「あはは……」

 

B組の泡瀬くん、円場くん、鱗くん

 

クラスの違う彼ら3人の言葉。

それをきっかけに次々と皆が口を開いた。

 

「大変だったな、緑谷」

「こんなクソデカな秘密を一人で抱え込んで良く我慢してたな!!くぅ~!!お前も漢だぜ緑谷!!」

 

「切島くん……鉄哲くん……」

 

「余人には明かすことの出来ぬ秘中の秘……それを一人、抱えてここまで生きて来たのか緑谷よ……」

「……ふっ……奴もまた我らと同じ闇の住人であったか……」

 

「そうだけど!!そうだけど闇の住人(ソレ)は違うからね!!」

 

それぞれがそれぞれのやり方で、僕の近くに来て一言一言かけてくれる。

 

正直言って、嬉しい。

とても嬉しい。嬉しかった。

僕には、皆を騙していたという自覚がある。

本当は無個性の僕。

それがたまたまオールマイトと出会い、幸運にも彼の個性を受け継いだ。

そして、僕はその事実を隠したまま、今まで皆とこの雄英に通っていたんだ。

 

そんな隠し事をしていた僕を皆が「今まで大変だったのね緑谷ちゃん。良く頑張ったわね」とか「スゲェな緑谷!!オイラだったらモテたいからすぐ可愛い女の子に言っちゃってる所だぜ!!」だったりと、暖かな言葉で癒し励まし、そして受け入れてくれていた。

 

それが、本当に嬉しい。

本来は無個性の僕。

その事実を知った時、皆が僕を否定するんじゃないかって……いや、皆に限ってそんな事はないとわかっていたけれど……それでも、いざ実際に否定されずに受け入れられるとこんなにも安心し……そして嬉しい。

 

(……ありがとう、皆……)

直接面と向かって、僕の口から皆にこの真実を告げる事が出来て、本当に、良かった……

 

周囲をA組の皆、B組の皆に囲まれながら、僕はその幸せを噛み締めていた。

 

 

 

「……青春……これこそが青春……青春なのよ……ああ……きっと私は……私はこの光景を見るために……今日、この日までこうして生きながらえて来たのね……」

 

「ヤベェぜ!!ミッドナイトの鼻血が止まらねえぜ!!」

「リカバリーガール!!リカバリーガールを早くここに!!」

 

……一部、何故か修羅場になっているようだけど……まあ聞こえないフリでスルー。

 

「さて、そろそろ良いかな皆」

 

パン!!と手を叩き物間くんが自分へと皆の視線を集める。

 

「これまでの話は過去の話だ。そしてこれからするのがこれから先の話……そう、未来の話だ。オールマイトと緑谷の真実を知った僕たちが、これからどうして行くべきか……皆でそれについて話さなければいけない」

 

「あ……」

「確かにな……」

 

そう、物間くんの言う通り。

オールマイトからワン・フォー・オールの個性を受け継いだ僕。

そのワン・フォー・オールを狙ってくるオール・フォー・ワン……荼毘。

 

「デクくん……」

 

……ああ、気づいたんだね麗日さん。

心配そうな目で僕を見てくる彼女と正面から目が合った。

 

そして他の皆も蛇腔総合病院での出来事を思い出したのだろう。

 

そう……ヴィランの狙いが僕、緑谷出久だという事に……

 

それが、これからの話しのポイント……とてもとても重要なポイントなんだ。

 

魔王となった荼毘。

史上最悪クラスに凶悪なヴィランに狙われる僕。

 

そんな僕がここに……皆の近くにいることで……大切な友達を傷つけてしまうかもしれない……

……その所為で誰かが大ケガをしたり……ひょっとしたら、誰かが死んでしまうかもしれない。

僕の近くは、いつの間にかそんな危険な場所になってしまっていた。

 

 

(……だから僕は本当は……誰にも何も言わずに、黙って一人で雄英から立ち去るつもりだった……)

 

そう……それが一番の解決策だと思ったんだ。

皆を巻き込んで危険に晒すよりは、一人でここから立ち去る。

それがきっと……きっと、一番いい方法なんだ、って……

 

でも……だけど……

 

(……だった、んだけれど……)

 

 

 

『あんまり僕達を舐めるなよ、緑谷』

 

 

 

……そんな僕の悩みを見透かしていたのか?オールマイトを連れて物間くんが昨夜僕の所に来た。

 

……本当に、色々な事を話したんだ。

それで最後には決めたんだ、3人で。

 

 

「オール・フォー・ワン……魔王となった荼毘に今後緑谷が狙われるのは確定だ。それを踏まえて……緑谷から皆に一つの提案がある……さぁ、緑谷」

 

「うん……ありがとう、物間くん」

 

そして、物間くんに促され僕は一歩前に出る。

 

「荼毘の力は危険だ。荼毘はとてつもなく凶悪なヴィランだ」

 

ゆっくりと話し始める。僕の言葉を、皆がしっかりと理解出来るように。

 

「特に雷と竜巻と炎……最悪なのは炎の竜巻攻撃で……町中でアレを使われると……どれだけ被害が広がるのか……正直、予想するのが難しい」

 

ゆっくりゆっくりと……皆にしっかりイメージが届くように、ワザとゆっくりと話す。

 

「……だから、僕は町中には……人が多く住んでいる市街地に行く訳にはいかないんだ。そのタイミングで荼毘に襲撃されると……間違い無く人も建物も被害が大きくなる……だから!!」

 

だから!!

 

「僕を囮にして、この雄英の敷地内に荼毘をおびき寄せて倒す!!その為に!!皆の力を貸して欲しいんだ!!」

 

……そう、これが昨日3人で話して決めた事。

 

すでにこの時点で社会が崩壊でもしていれば話は別だが、多くの人が住んでいる都市部等で荼毘による襲撃を受け、被害を拡大させるのは下策。

 

だから僕を囮にして、この広い雄英の敷地内に荼毘をおびき寄せて迎え撃ち倒す。

 

「魔王となった荼毘は強い……そんな凶悪なヴィランに狙われる僕と一緒に戦うのはとても危険な事だ!!だから皆には無理にとは言えない!!言えないよ!!でも!!お願いだ!!僕と!!それでも僕と一緒に戦って欲しい!!」

 

 

そう言って僕は皆に頭を下げた。 

 

「「「「「………………………」」」」」

 

一瞬の、沈黙……そして!!

 

 

 

「「「「「「当たり前だ!!(当然だろ!!)(やってやるぜ!!)(もちろんだよ!!)(おう!!)(任せろ!!)(けろ!!)……!!……!!……!!」」」」」」

 

 

 

 

ドッ!!!!と皆がそれぞれのやり方で肯定の叫びをあげる!!

 

「……あ」

「……言っただろ?僕達をあんまり舐めるなよ、ってさ」

「物間くん……」

 

背後からぽん、と僕の肩を叩く物間くん。

……うん、そうだね、君の言う通りだったよ。

 

命の危険があるのだなんて、皆承知の上だろう。

それでも、平和の為に戦うのがヒーローなのだから。

だから、これは当然の事だった。

 

「けっ……クソナードらしく今にも死にそうな顔で何を言うのかと思えば……今更そんな事言われたくらいで、ビビって引っ込む俺等だとでも思ってたのかよテメエは」

 

「かっちゃん……」

 

そして、かっちゃんが皆を代表するようにして一歩前に出た。

 

「あれだなデクテメエ……俺達がビビってテメエの提案に乗らなかったら……一人でどっかに引きこもるか?もしくはプロヒーロー共と陸の孤島みたいなとこで荼毘を迎え撃つつもりだったんだろどうせ?」

 

「ギック!!」

 

「マジで図星かよ……はっ!!本当にわかりやすいなテメエは」

 

 

それはまさに僕らが3人で考えていたサブプラン。

それをピッタリと言い当てて、かっちゃんは続ける。

 

「あんまり俺達を舐めんなよ、デク」

 

「かっちゃん」

 

「ここにはドリルもいるし俺も半分野郎もいる。小細工に関してはそこのニヤケ面もいる。先生連中も他の連中もいるし雄英の防衛施設は優秀だ……下手なトップヒーロー達に守られるよりも、今ここにはよっぽど戦力が揃ってる。全部を背負ってテメエ1人がゴルゴタの丘に向かって十字架に磔にされる必要なんて何処にもねえんだよボケが。あんま舐めてっとロンギヌスの槍で救世主ごと貫き殺すぞこの野郎」

 

 

そう、かっちゃんの言う通り。

福岡から活躍を続ける回原くん。

フィクサーとして暗躍する物間くんに、直近の2大決戦を最主力として戦い抜いたかっちゃんと轟くん。

 

トップヒーロー並みの実力を持つ雄英の教師達。

発展途上だけど優秀なヒーローの卵達。

そして雄英高校の防衛施設。

 

客観的に見ても、ここはトップヒーローの事務所と比べても遜色が無いどころか、トップヒーロー達がチームアップしても遜色無い程の戦力が揃っていた。

 

……だから、物間くんは『舐めるな』と言った。

オールマイトは

 

『……私には出来なかった。しかし緑谷少年……仲間を頼り、素直に助力を願う……本当は、私こそがそれをするべきだったのかもしれない……そうしていさえすれば、今に残る多くの問題は解決していたのかもしれない……だから、君は間違えないで欲しい』

 

オールマイトは、ずっと一人で戦って来た大英雄はそう言ったのだ。

 

だから、これは僕の物語。

僕達の物語だ。

 

「行くな、デク」

 

そして、かっちゃんが僕に手を伸ばす。

 

 

 

 

「ここをテメエのヒーローアカデミアのままでいさせてやる」

 

 

 

 

その言葉が、胸を打った。

 

「俺達の力でテメエを守ってやるよ。テメエを囮にしてあのヤンデレ魔王をブチのめしてやるよ。俺達の力を貸してやる。だからテメエも俺達に力を貸しやがれ、デク」

 

 

「……かっちゃん」

 

 

 

『今までごめん』

 

 

 

……ふと、あの日の記憶を思い出す。

突然、僕に頭を下げたかっちゃん。

これまでの事を謝り、そして、

 

『俺が強くなる為にテメエの力を貸せ。俺もテメエが強くなる為に力を貸してやる……このままだと……俺はオールマイトにも……ドリルにも追いつけねえ……だから俺も力を貸すからテメエも俺に力を貸しやがれ、出久』

 

神野区の戦い。

そしてその後の2人でのケンカの最後。

かっちゃんは僕にそう言った。

そこから、それまでとは違った2人の関係が始まったのだと思う。

 

向かい合う僕とかっちゃん。

そして、周囲を皆が……仲間が囲んでいた。

 

回原くんが、轟くんが、麗日さんが蛙吹さんが……皆が、僕を守り、僕と一緒に戦おうと、強くて熱い決意を秘めて僕を見ていた。僕を囲んでいたんだ。

 

(ああ……本当に……僕は素晴らしい仲間に……友達に恵まれたんだなぁ)

 

ありがとうかっちゃん。

ありがとう、皆。

 

ここが僕のヒーローアカデミアで、本当に良かった……

 

 

 

 

 

 

 

「青春があふれてる……青春で空気がキラキラとしている……死ぬ……死ぬのね私は……ああ……神様……今日まで私を生かしてくれてありがとうございます……もう、この光景を見れただけで悔いはありません……青春の下に死す……ぐふ」

 

「ああもういい加減にしろやミッドナイト!!」

 

「……鼻血が原因で輸血するのは初めての経験だねぇ……」

 

 

そんな僕を囲む空間……その端っこ。

 

 

……一部不適切な空間がある気もしたけど……皆、全力で目を逸らしていた。

 

 

 

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