sideコンプレス
『日本を抜け出して、活動の場を海外に移そうかと考えてる』
『……は?』
……それは、決戦の、本当の本当に少し前のこと。
男ならあるあるなんだけれど。
別に約束とか特にしてる訳でもないのに、何故か不思議とトイレタイムが良く被るヤツがいたりする。あるあるだよなコレ。
なんか代謝的なアレのペースが同じなんかね?知らんけどさ。
んで、決戦前のこのタイミングでもやはりトイレタイムの被った死柄木弔。2人並ぶなんてことはせず、間に一つ小便器を挟んで互いに用を足す。
足しながら、あまり深く考えずに行う雑談。
「よー最近どーよ?」ってな良くあるアレだ。
そんなノリで俺はあまり深く考えたりしないで、あくまでも雑談的な感じで軽く聞いたのだ死柄木弔に。
『ぶっちゃけ、この後どーすんのよ?』と。
ふるふるふる……
そんな気軽な俺の問いかけ。ふるふるふる……と小刻みに揺れながら放った死柄木弔の言葉。
そう、それが冒頭の言葉だった。
『日本を抜け出して、活動の場を海外に移そうかと考えてる』
『……は?』
固まる俺。そんな俺に揺れ終わった死柄木弔が落ち着いた声で続けて。
『何だかんだで日本って治安良いだろ?俺達みたいな連中が住みにくいくらいにはさ。だから、日本を抜け出して探しに行こうと思ってるんだ。俺達はヴィランでクズだ。それは間違いないけれど。俺達と同じくらいのクズや、もっと酷いクズなんかが暮らしていて、俺達は自分達と同じくらいのクズや、もっともっと酷いクズをブチのめしたりブチのめされたりしながら暮らしていけるような場所を……俺達が俺達らしく普通に暮らしていけるような……そんな現代の
『その最後のフレーズ……探してるの完全無欠にロアナプラ的な何かやんけ……』
『……は!!』
俺の言葉を聞いて、そんな感じで死柄木弔は笑った。
そして、俺はその言葉を聞いて胸のつっかえがとれたような爽やかな気分になった。
(ああ!!そうだよな死柄木弔!!)
そう!!そうだ!!
(別に!!この世界で生きていくのに!!この『日本』だけにこだわったり固執したりする理由なんて何処にも無いもんなぁ!!)
ああそうだ!!お前はスゲェリーダーだぜ死柄木弔!!
(お前は!!このヴィラン連合にとって絶望的な状況でも!!俺に未来を見せたんだ!!ああ!!本当に大した男だぜお前ってヤツはよぉ!!)
マジで今の俺達ヴィラン連合の状況はかなり詰んでる!!
泥花市で負けた!!そしてその後の一発逆転!!的なタルタロス襲撃をギャグのような手段でアホみたいに完封されたのだ!!
そんな俺達にとって絶望的な状況で!!
お前は!!お前は俺に未来を夢見させたんだ!!
だから俺はアイツを、死柄木弔をリーダーとして認める。
ホント、大した男だぜお前はよ!!
「……何ボケっとしてるんですかあっくん!!ヒーロー達に見つかりましたよ!!」
「……へ?」
「……ボケ過ぎなのです。ボケボケなのです。ボケボケボケボケボケボケ過ぎ過ぎなのです……流石にさっきの言葉を忘れてたら別れますよマジで……確定で死刑なのです」
「……へぁーーーー!!!!?????」
そして回想が終わり現実へと戻ってくる。
……どうやら先程のヒミコちゃんの言葉を聞いて少し意識が飛んでしまっていたようだ。
……俺サイテー?そうですか……どうも……
……いやしかしボケてばかりではいられねえなあ!!
雄英高校敷地内に隠れていた俺とヒミコちゃん!!
それぞれ荼毘とトゥワイスに変装し、囮役として潜んでいた俺達をヒーローが見つける!!
索敵特化のヒーロー達が俺達2人を見つける。
ならば!!
「来ますよあっくん!!」
ヒミコちゃんの声。それと同じタイミングでワープゲートが開き、その中から数人のヒーロー達が現れる。
(……梅雨ちゃんなのです。カアイイですけど、こういう場面では会いたくなかったですねぇ……)
小声でそんな事を言うヒミコちゃん。
そう、黒いワープゲートから現れたのは、一見するとカエルの特徴を保持しながらも可愛い女の子という、芸術的な矛盾を両立した不思議な女の子だった。
「……けろけろ」
そんな、カエルのような特徴の女の子を先頭にし、続々とワープゲートからヒーロー達が現れる。索敵特化のチームが見つけた俺達を拘束する為のチームが。
そして、先頭に立っていた彼女は、
「……見た目は荼毘とトゥワイスなのだけれど……正直、周囲の警戒が薄すぎるのよね……おそらくは囮役……トガヒミコとコンプレスかしら?」
((……ギックぅ!!))
内心ビビリ散らかす俺達!!
だが!!
「……けろけろ……おそらく囮役だとは思うのだけど……だけれども、それでも無視出来ないのが辛い所なのよね……全員、距離を取りつつ牽制。無理に2人を捕まえようとしなくていいわ。もしも泥ワープでここから撤退しようとしたら全力で攻撃。そして、もしあの2人が本物の荼毘とトゥワイスだとして、トゥワイスの個性で荼毘を増やそうとしたら同じく全力で攻撃……ここでは無理する必要は無いのよ。敵にプレッシャーをかけつつ、現状維持の方向で行くわよ」
((……あらやだこの子ったらメッチャ優秀!!))
戦慄する俺とヒミコちゃん(見た目は荼毘&トゥワイス)
そのカエル美少女の優秀さにビビリ散らかす俺達!!
一瞬で状況を整理!!
そして最善の対応を瞬時に組み立ててみせた!!
「けろけろ……見ているのでしょう物間ちゃん?だから証明してみせるのよ。貴方が真に頼りにするべきなのは私だってね」
「「「「「何が何だかよくわからないけど別の戦いが始まっている!?!?!?!?」」」」」
「けろけろ」
敵味方関係無く思わずツッコむ!!
(ああ!!そうだよなぁ!!テメエらヒーロー側はそうだよなぁ!!)
そらわけわからんココじゃない未来の戦いへと心を砕く余裕くらいあるだろうさ!!ああ!!認めるよ!!
そんくらい!!そんくらいには今の状況はヒーロー側が圧倒的に有利何だからなぁ!!
(だけどよ!!だけど!!未来のために戦うのがテメエらヒーロー共の専売特許だなんて勘違いするんじゃねえぞ!!)
特に、さっきのヒミコちゃんの話が『ガチ』ならばなおさらだ!!
(テメエらヒーローが未来の為に戦っているように!!俺達ヴィラン連合も未来へ
なあ!!そうだろうよ!!死柄木弔ぁ!!
side死柄木弔
「……結局、コンプレスの奴には軽くポロっちまったなぁ俺」
なんか風呂とかトイレとかって不思議と口が軽くなってついついポロっと余計な事を口に出したりしちまうよな?ポロっと出してるからか?知らんけど。
「……なんか言ったか死柄木弔?」
「……いや、何でもねえよ」
ここは雄英高校敷地内にある、とある訓練エリアの一角。ガンマだかベータとかあるんだっけ?知らんが。
廃工場の密集エリアのような所。その建物の一つに潜伏した俺達。
まあいくら泥ワープを使ってトゥワイスが増やした荼毘を無限に戦場に送り込める、つってもあまり戦場から離れ過ぎて状況がわからんとどうにもならんだろ……という事もあり必然こうなる。
コンプレスとトガを囮に出し、少し離れた所に潜伏していた俺と荼毘とトゥワイス。そしてハイエンド脳無達。ドクターはお留守番だ。基本的に有能だが戦場では別だしな。
「……死柄木、ハイエンド脳無達を使うぞ」
「……荼毘?どうした?何が見えた?」
透視やら遠視やらサーチやら様々な個性を組み合わせ周囲の警戒をしていた荼毘……本物の荼毘が口を開く。
「……雄英高校から離れていた筈のホークスが急速に接近してきている……一人で広範囲の索敵からの強襲が出来るホークスは厄介過ぎるだろ?止めるぞ……その為にハイエンド脳無達を使う!!」
「……なるほどな。わかったよ。お前の言う通りだ。好きに使え」
「ああ」
この場にいたハイエンド脳無達を泥ワープで移動させる。
これで、この場には俺と荼毘とトゥワイス……3人だけになる。
(……とは言え、コイツらにはまだ言えねえよな)
コンプレスは何だかんだでしっかりしている。未成年にしっかりと手を出していたのは流石にどうかと思ったが、それ以外のバランス感覚などはしっかりしている。
(……だから、アイツなら……俺が日本を脱出して、活動の場を海外に移す……なんて、そんな「逃げる」ような選択肢をこの戦いの前に伝えても上手くはやるだろうが……多分、今目の前の2人じゃ無理だもんな)
感情のリミッターが常に外れてる荼毘。
正直者で良い奴すぎるトゥワイス。
この2人にこの戦いの前にこんな考えを伝えていたら……どういう反応になるのかだなんて、考えるだけで恐ろしい。まあでもトゥワイスに関しては何とかなりそうではあるが。何せ良い奴だし。
泥花市の戦いで俺はヒーロー達に捕まって……それから、短いようで長い時間を過ごした。
その中でも特に印象が強いのはやはりオールマイトとの面会の記憶で……今思うと、忙しい筈なのによくもまああんなに来てくれたもんだ。雄英高校の教師してるんだよな?大丈夫なのか色々と?そんな暇な訳ないよな?ヒーローの教師だなんて大切な仕事だし。
『毎度毎度ご苦労さんだぜオールマイト……でもよ、ばあちゃんへの義理だけでわざわざこんなに面会なんて来なくてもいいんだぜ』
『はっはっは!!気にしないでいいよ!!私が君と話したくて来てるだけなんだからさ!!』
でも……
『へっ!!……そうかよ?でも俺は複雑な気分だぜ……負けてタルタロスにぶち込まれてる無様な姿を見られてるってのもあるし……それに、何だかここに収監されてる立場で更にこんなことを言うのもあれなんだが……まるで監視されてるみたいに思っちまう』
『うーん……そう言われると困ってしまうね。私にそんなつもりは微塵も無かったのだけれど……何でまたそんな事を思ってしまったんだい?』
『そりゃぁ……』
だけど……
『俺が死んでた方が良かっただろオールマイト的には』
『………………………………………………………は?』
それでも……
『わかんねえのかよアンタ程の奴でも。ヒーローからすれば俺は決定的な汚点じゃねえか。自分は死ぬまで巨悪と戦うヒーローやっておいて……その結果として家庭は崩壊、孫がヴィランになる……だ。お手本のようなキタネエ物語じゃねえか……それを完成させたのが俺だ』
『……………』
……それなのに、
『わかるだろ?俺が野垂れ死にしてたら全て解決だ。全部それらが無かったことになる……だから、俺が死んでた方が本当は良かったんじゃねえか?なあオールマイト?』
なのに、
『……君の言う通りなのかもしれないね……』
でも……
『それでも……それでも私は……君が生きていて……こうして会えた事を、本当に嬉しいと思っているよ』
『……は?』
……それでも、それでも目の前の大英雄はガイコツのような傷つき弱りきった顔で笑い、
『……生きていてくれてありがとう死柄木弔くん。いや、志村転弧くん……』
『……オール……マイト』
そんな事を、とても嬉しそうに言ったのだ。
『生きていてくれてありがとう志村転弧くん。君が生きていてくれて本当に嬉しい。君が私の師匠のお孫さんという事もあるけれど、それが無くても嬉しいさ……君が生きていてくれるだけで嬉しい。何せ、コレでも私はヒーローなんだからね』
(……ああ、コリャ勝てねーわ……)
……そりゃ負けるわ俺達ヴィラン連合は。
こんなモンスターみたいな精神性の持ち主ばっかりがヒーローやってるんだろ?そりゃ我欲に支配されるヴィランが勝てる訳なんてねーわ。
結局、その日の会話はそれから2、3の言葉を交換して終わったけれど。
俺は、その夜……それからの夜……俺はこの日の会話を何度も何度も思い返した。
『生きてても……いいのか?俺は……?』
オールマイトとの会話。
その会話が、俺に今まで存在しなかった新しい道を示した……
「……だから、ここからだな」
「突然どうしたよ死柄木!?」
そしてまた現実へと思考が戻る。
ホークス達を足止めするハイエンド脳無達。
雄英の生徒に見つかり戦うコンプレスとトガ。
「……また一体やられた……増やせ、トゥワイス」
「おう!!」
今もあの回原というハズレ値中心のチームと戦う荼毘。それをサポートするトゥワイス。
絶望的ではあるが、俺達にとってもヒーローにとっても、それぞれが未来を目指す為の戦いが続いていた。
(生きていてくれて嬉しいと、アンタは俺に言ったよなオールマイト……だから、俺は生きていこうと思う)
だからこそ色々考えた。
その答えが日本脱出だ。
ああオールマイト……アンタはマジでスゲェよ。
でもオールマイト……やっぱ俺はお前の事嫌いだわ。
(アンタが守って、アンタが基盤を作ったこの国が俺には、俺達には合わないんだよオールマイト……だから俺は、俺達は、全く別のロジックで動く俺達向きの『世界』を探しに行くよ)
(だから……俺はこの国を出ていく。俺と一緒に行きたいと思ってくれる連中と一緒にさ)
それはきっと、口で言うほど簡単な事ではないのだけれど。
日本は島国で、俺達のようなヴィランが国外に逃亡するのはきっと大変な事なんだろうけど……
(……それでも、俺はそれをやってみせる)
それがきっと、ヴィラン連合のリーダーとしての俺に与えられた役割なんだと思うから。
この日本を舞台としたヒーローとヴィラン連合の戦いは、俺達の負けだと素直に白旗を揚げよう。
……その上で、海外でやり直そうと新たなる旗を掲げよう。
そして、それでもついてきてくれる仲間がいるならば……俺は泥水でも吐瀉物でも啜る覚悟で苦難の道を先頭に立ち切り開いて行こう。
それが俺の……今の俺の、死柄木弔の戦いだ。
……あの時の小さな掌……その感触を思い出し、そして手をギュッと握る。
「……この手が何を崩壊させて……この手は何を守るのか……それは、俺が決める……俺だけが決める……」
そんな絶望の先にある希望を掴む為の苦難の道を進む……俺は、それを俺の役割と再設定した。
……布石は撒いている。
この感じだと人的被害は無さそうだが……それでもこの歪んだヒーロー社会を象徴する一つである雄英高校は急速に崩壊していっている。
『学徒動員しておいてその学び舎すら満足に守れないとは!!』
『何をやってるんだ現役ヒーロー達は!!』
ドクターが録画しているだろうこの映像をネットに流せば、この民度最悪の日本を混乱させる事はそれ程難しくないだろう。
マジで民度悪いなホント……
その混乱に乗じて、この国から脱出する手筈を整える。それが俺の考えだった。
(コンプレスは多分俺の考えに乗るだろう……となるとトガも来る。トゥワイスは何だかんだでついてきそうだ。ドクターは……正直わからねえ……そして、荼毘は……)
……荼毘は、正直、わからねえ……
ちゃんと理由を話して、状況を説明して、それで誘うつもりではあるが……それでも、荼毘がどういう反応をするかは予想出来ない。
それでも、最後の最後までちゃんと話そう。
最後には決裂するのだとしても……それがリーダーとしての俺の役割だと思うから。
その全ての痛みを、悲しみを背負い、それでも決断するのが俺の役割だと思うから。