sideエンデヴァー
雄英高校で死闘が繰り広げられている一方その頃。
「ぬぅぅ……」
我々ヒーロー達は急ぎ戦場へ向かおうとし、しかし行く手を阻むハイエンド脳無達によってその進行を妨げられていた。
「ちぃぃぃい!!!」
今も何度目かの突破を試みたホークスが……それも、単独でなくベストジーニストやエッジショットに援護されながら突破を狙ったホークスがだ、敵の集中砲火を浴び何度目かの後退を余儀なくされていた。
「……厄介だな……あのハイエンド脳無とやら……こちらが思っていた以上に頭がしっかりと回っている」
「まさか脳無が市街地戦である事を上手く利用して遅滞戦術を取ってくるとは予想してなかったすからねえ……これは完全に想定外っすよ……」
苦虫を噛み潰したようなホークスの顔と声。
それがこの場の全ヒーローの気持ちを代弁していた。
広大な雄英高校……その学校付近には人々が住んでいる市街地が広がっている。
当然、今もだ。今も雄英高校付近の市街地には人が住んでおり、当然のように雄英高校へ向かう俺達ヒーローとそれを防ぐハイエンド脳無達の戦いに巻き込まれていた。
厄介なのはハイエンド脳無達が上手くこの状況を利用している事だろう。民間人の被害が大きくなるような行動をワザとみせる事により、俺達がそれに対応せざるを得なくさせ、それによって俺達の進軍スピードを大きく遅らせる事に成功していた。
「……とはいえ、そろそろ何かしら一発かましてやりたいところですが……」
特に、ホークスへの対応だ。
超スピードでの移動かつ超広範囲の偵察まで可能なホークスの突破に関してだけは徹底的にヤツラはマークしている。反面、超スピードでの移動は出来るが索敵が決して得意でないミルコに関してはチェックが甘い。
事前の指示出しが適切だったのか?そうだとしてもそれをここまで上手くやってのけるハイエンド脳無達の知性の高さには戦慄せざるを得ない。
とはいえ戦慄してばかりもいられない。ホークスの言う通りだ。ここまでは上手く敵の指揮官の策にハマってしまっている。が、そろそろ我々ヒーロー側も何かしら有効な一手を打ちたいところではある。
「……このままでは埒が明かんな。優れたデニムの完成までには沢山の工程が必要なのは周知の事実ではあるが……そうは言っても、何時までも敵ご自慢のヴィンテージコレクションのお披露目会に付き合ってやる道理もないだろう?」
「……ベストジーニスト」
……そして、そんな状況を動かす為についにこの男が動く!!
「作戦変更を提言するぞホークス」
「はい。お願いしますベストジーニストさん」
この場のリーダーであるホークス。その許可を取りベストジーニストが口を開く。
「……これまで我々ヒーロー側は、今の雄英高校の戦況的に最高の一手となりうるホークスの現地到着を最優先としてきた。しかしこれまでそれは上手くいっていない。何故ならば、おそらくは敵の最優先目的こそがホークスの雄英高校到着を防ぐ事だったからだ。そして、残念ながら敵の目論見は今までのところ上手くいってしまっている……ならば、これまでの最善と思われた一手から、次の次善の一手へと切り替えるのが我々ヒーローのなすべき事だろう」
「はっ!!……つまり?だから何だってんだよ!!上野クリニックのCMモデルみてえな格好してる所為で口元隠れて声がよく聞こえねえんだよ!!さっさと結論言えや!!」
……吠えるミルコ。その言葉にその場にいた約8割くらいの男性ヒーローと、何故か半数くらいのハイエンド脳無も『しゅん……』としてしまう。
……いい加減にしろ。そういうのは全部終わってからにしろ。
「……こほん。つまりだな。私が言いたいのはこういう事だ」
……気を取り直す為にごほん、と一息つきベストジーニストが話し出す。
「作戦目標の切り替えだ。この場での作戦目的を『ホークスを囮としたハイエンド脳無の足止め』へと変更する。そして同時に『戦闘能力こそ決して高くはないが、状況判断と索敵に優れたヒーロー達を雄英高校へと向かわせる』……ホークス。私はこの策を提案する」
……ベストジーニストの献策。
その提案は俺も考えていた事だ。
最優先のホークスを雄英高校に送り届けられないのは痛いが、学生ヒーローに相手をさせるのは流石に酷なハイエンド脳無達をここで拘束出来るのであればイーブンと言えなくもない。
「……わかりました」
同じ様な事は考えていたのか?しばし考えた後にホークスは頷き。
「……エンデヴァーさん。索敵と判断力に優れたヒーローを選抜して下さい。その選抜メンバーのリーダーをエンデヴァーさんとします。そしてこのハイエンド脳無の防衛網を突破し雄英高校にたどり着いてください。援護はこちらでしますので」
「……ホークス……貴様……」
俺に最前線に立つな……と、心配するような事を言いつつも貴様は……
……俺のそんな視線。それを受けてホークスはニヤリと笑い。
「んな訳でエンデヴァーさん!!無理しちゃダメですよ!!でも頑張ってくださいね?例え戦闘能力が下がっていたとしても、貴方の判断力とか現場対応力の高さを信じてこの役割を任せるんですからね!!」
戯けた様子ながらも『決して最前線には立つな』と『期待してるのは戦闘能力以外の面で、決して荼毘との戦いの最前線には出るな』という釘をさしながらのホークスの言葉。
俺は……それを正面から受け取り。
「……ああ、任せろホークス」
「……………うっす…………」
それを聞き曇るホークス……すまんな。言い難い事を言わせているのはわかっている。
だがそれが暫定ながらもNo.1ヒーローの役割と理解し、俺にこんな役割を……屈辱的かつストレスの溜まる役割を任せていると自覚しているのだろう。
ああ、だから心配するなホークス。
「……頭を下げるな。顔を上げて前を向けホークス」
「……エンデヴァーさん」
……そんな隠そうとしても隠しきれない気落ちした顔のホークスに、俺は正面から告げる。
「心配するな。ちゃんとわかっている……その上で、俺は全てをちゃんとやってみせる……だから安心しろ。そして顔を上げろ。前を向け。そして笑え。何故ならお前はNo.1のヒーローなんだからな」
「……言っても無駄かもしれませんが……あんま無茶しないでくださいよ……」
「ふん……」
その俺の言葉に少し救われたようなホークスの声。
……それに背を向けるようにして俺は背後のヒーロー達に声をかける。
「……これから数名のヒーローの名を呼ぶ。聞いていただろうが、そのメンバーは俺とこの戦場を離脱し、雄英高校へと向かう事になる……こちらも大切な役割だ。呼ばれたヒーローはよろしく頼むぞ」
(……燈矢を止めたい……という思いは決して薄れてはいない……当然だ。しかし……)
……しかし、それだけをしている訳にはいかないのだ。
だから……だから、俺はチャンスを待つ……待つのだ。
(……そう、これまでと同じようにな……)
……そして俺は数名のヒーローを選び、ホークスやベストジーニスト達のサポートを受けて戦場を離脱。雄英高校へと向かった。
side物間
『ポイントβクリア!!荼毘本体の姿は無し!!』
『こっちはもう少しで終わる!!』
「………」
雄英高校の地下にある司令部。
そこに立つ僕の元に、続々と地上の索敵へと向かった皆の声が聞こえてくる。
僕の立案した作戦。その為に命をかける皆。
未来の為に体を張る皆の声。
安全な所にいて指示を出す僕。
危険な場所に出向いて僕の指示を信じて動いてくれる皆。
……正直、気が重い。
それはそうだ。
自分1人が無茶をして、その責を自分だけで受ければいい立場とは違う。そんな大多数を指揮して、その痛みと引き換えにしてでもより良い未来を描くことを求められるフィクサー。
慣れてきつつあるとはいえ、ね……
『No.1から10までのヒーローを顎で使うフィクサー……何でそんなアホなポジションが成立するかっていうと、ただただ単純に顎で使われる側であるヒーロー達こそがオマエを有効だと認めるからこそ成立するんだよ』
……それは、いつかの総督の言葉。
『真正直に真正面からフルパワーVSフルパワーでアホなヴィラン共と殴り合うことしか考えられないヒーロー共に「何正面からやり合ってんすかアホじゃないんすか?」って後ろから冷笑かましつつ有効な策を示し続ける。それがテメエの仕事だ』
それを思い出す。
『そして、その策が有効であり続ける限りテメエはフィクサーとして君臨し続けられるだろうし、その結果としてヒーロー達への被害……ヒーローの犠牲を抑えることも出来るだろうよ。だからこそテメエには責任がある。有能さを示し続けろ。最小の被害で最大の戦果を上げ続けろ。そのために泥を被ってても出来る事は全部やる……それがテメエの役割……フィクサーの役割だ』
総督の指導を受け、そして鍛えてもらってきたこれまでの時間。その集大成……それがきっと今!!
(そうだ、だからコレでいいんだ物間寧人……これが!!ここが僕の戦場なんだから!!)
胸の奥底で一人叫ぶ僕。そんな僕の耳に、
「エンデヴァーを中心としたヒーローチームが雄英高校へと到着しました!!」
「そのエンデヴァーより連絡が入りました!!『遠慮せずに俺を囮に使え!!やり方は任せるぞファントムシーフ!!』との事です!!」
ホークスが来れなかった……顔に出さないようにしながら少し意気消沈しそうになり……続くエンデヴァーからの僕への伝言を聞き頭の中が急速に回転する!!
そして出た結論は!!
「雄英高校敷地内の生き残ってるスピーカー全て使っていい!!エンデヴァーが雄英高校に到着したと全域に響かせるんだ!!探索に出てるメンバーでも叫ぶ余裕がある人は同じように叫んでくれ!!」
(……流石はエンデヴァー!!全力でこの状況を利用させてもらうよ!!)
正直無茶をするな!!とは思う。だがそれでこそエンデヴァーなのだろう!!ならば!!全力で利用させてもらう!!
「雄英高校敷地内に隠れている荼毘にエンデヴァーの到着を知らせるんだ!!隠れている荼毘をエンデヴァー絡みで挑発しまくって表に引っ張り出す!!」
荼毘の不安定過ぎるメンタルとエンデヴァーへの強過ぎる執着を利用させてもらうまでだ!!
ここだ!!ここが勝機!!
「あ!!」
人に任せるだけでなく、自ら校内放送用のマイクを奪い取り!!そして叫ぶ!!
『ヘイヘイヘイ!!どーしたんだいファザコンキモキモ魔王の荼毘くぅーーん!?!?そんな情けなくてキモすぎる君のことを心配して!!大好きなパパ上サマサマであるエンデヴァーが雄英高校に駆けつけてくれてるよぉ!!一体いつまでかくれんぼしてるつもりなんだぁい!!ちょっと君メンタルザコザコ過ぎないかぁい!!』
僕の罵詈雑言挑発山盛りディスりまくりの叫びがマイクを通しスピーカーから広がり雄英高校敷地内へと広がっていく!!
「……何といいますか……ヒーローらしいエレガントさは欠片もないのですが……ええ!!勝つために出来る事は何でもやる!!それこそがワタクシの愛するファントムシーフ様の美学!!流石ですわ!!惚れ直してしまいますわ!!」
印照さんの称賛の声を聞きながらも叫び続ける!!
ぶっちゃけホントに僕のファンのままでいてもいいのかい?なんて酷い姿を見せているという自覚はあるのだけど、でもこういうのが僕の役割で、ここが僕の戦場なんだ。
そんな僕を評価してくれる好意。素直に嬉しいと思う。
戦場に響きまくるのはエンデヴァーの到着を知らせる叫び。
そして、それでも出てこない魔王・荼毘に対する罵倒。
(……来る……絶対に、来る!!出て来る!!)
それは僕の。そしてこの場にはいないエンデヴァーの確信。
そして!!
「……荼毘!!荼毘!!荼毘ですわ!!」
その全ての能力を索敵メンバーから流れ来る情報処理に当てていた印照さんが!!叫んだ!!
「荼毘です!!荼毘が出てきましたわ!!出てきましたわぁぁぁ!!」
「ああ!!ついに出たね!!」
興奮する彼女声につられて見れば、モニターに大きく映し出された荼毘!!ほぼ間違いなく本体らしき荼毘の姿が映し出されていた!!
隠れていたらしきスペースから飛び出し、それを必死で止めようとしている死柄木弔の声さえも振り払い!!ついに姿を見せた荼毘が飛び立つ!!
『来い!!俺はここだぁ!!燈矢ぁぁぁ!!』
そう!!エンデヴァーの元に!!
「回原チームに連絡だ!!エンデヴァーと荼毘がエンカウントするであろう中間地点のポイントを伝えて!!そうすれば!!後はアイツラなら何とでもやってのける!!」
「はい!!お任せください!!」
そう言ってすぐに印照さんが回原チームに情報を伝える。
さあ!!仕上げだよ回原!!
全てのお膳立ては整った!!そう断言していいだろう!!
緑谷を囮として!!ヴィラン連合を雄英高校に誘き寄せる!!
その絶好の機会である雄英高校卒業式!!
それすらも利用して!!僕は!!ああ僕はフィクサーとして完全完璧にこの状況を整えてみせた!!
だから!!後は!!
「やれぇ!!回原ぁぁぁ!!!!」
「……キャッ!!ファントムシーフ様渾身の生叫び声ですわぁぁぁ♡」
……ちょっと聞こえなかったことにしていいかな?まあ!!でも!!もうここまで来たら関係無いか!!
「やっちまえ回原!!緑谷!!爆豪!!轟!!ここで!!これで荼毘の本体を倒せさえすれば!!倒せば!!僕達ヒーローチームの完勝だ!!だからやれ!!回原ぁぁ!!」
そう、おそらくは戦場に響いたであろう僕の声。
勝ち確を確信した僕の声。
叫び疲れた僕の声。
そんな僕の、まだ疲れ切ってはいない僕の耳に……
「……え?何ですのこの反応は?」
「……え?」
突如、不穏な声が僕の耳に届く。
「……何なんですのこれは……突然?急に出現した?そんな事ありえますの?まるで雄英高校の外壁付近で突然こんなトンデモナイ大型の船をイキナリ出現させたとしか……そんな理不尽な現象ありえます?ありえますの?」
「…………は?」
勝ちを確信していた僕。
そんな僕……そんな僕の耳に、無情にも印照さんの酷い!!あまりにも酷すぎる情報が流れてくる!!
「雄英高校敷地内へと謎の飛行物体が侵入!!ピカピカデコデコと光りまくる悪趣味極まりない大型船!?船らしき何か!?空を飛ぶ巨大な悪趣味なピカピカ光る何かが雄英高校に侵入しました!!」
「はあぁぁぁぁぁぁ!?!?!?」
「しかも!!その後に続くようにして!!謎の改造されたらしき大型バイクで誰かが雄英高校に侵入しましたわぁぁぁ!!」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!?!?」
……そして、舞台は更に加速していく。
加速していくのだ!!何でだ!!
人々のより良い未来の為に戦うヒーロー達。
自分達の未来の為だけに戦うヴィラン連合。
忌まわしき過去に向き合い、どれだけ辛くとも息子と向き合おうとするエンデヴァー。
そんな父親に復讐する為に受け入れた力の所為で、更なるカオスへと向かった荼毘。
それぞれの未来と過去。希望と絶望が入り乱れるこんな戦場。
そんな戦場に。
『……ああ……悲しいね……何という酷い有り様なんだ……すまない……すまないね……俺が……この俺が来るのが遅れてしまった所為で……』
……そんな、戦場に。
『は?』
『は?』
『『『『は????』』』』
『は?』
この戦場の最終局面。
僕がキャンパスに描いたそこに集まる役者達。
エンデヴァー
荼毘
回原、緑谷、爆豪、轟
そして間に合った死柄木弔
『だけどもう大丈夫……大丈夫さ……何故って?何故ならば………』
……そんな最高の役者達の前で……前にも関わらず、悪趣味極まりないピカピカ光る大型船の上で、一人ピエロが吠えた。
『俺が!!来た!!!』
『『『『『『『……………』』』』』』』
「「「「「「「……………」」」」」」」
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………………………………………………………そして
『『『『『『『『…………………知るかぁ!!!!!!誰だぁ!!!!!!何なんだテメエはぁぁぁぁぁぁ
!!!!!!』』』』』』』』
「……知るかぁ!!何なんだよ君はぁ!!!!」
皆がキレた。
……おそらく、この酷い苛烈な戦いのなかで、唯一と言ってもいいくらい貴重な、ヒーローとヴィランの心が通じた瞬間だと思う。
何の救いにもならないけど。
ダークマイト「……来ちゃった♡」