回原のドリルは天を貫く   作:のりしー

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VSパチマイト

side緑谷

 

 

……実際の所、例え何度も何度も現実に目の前で見たとしても……一切、欠片も、全くもって理解が出来ない程にトンデモナイ技なのである。

回原くんの切り札、流水制空圏という、その技は。

 

 

「私を怒らせたことを後悔させてやるよ!!くら……え?」

 

 

戦闘開始直後。パチマイトがこちらに投げつけようとした数枚の金貨……それが、その手を離れた瞬間、事前にそのスペースに伸ばされていた回原くんの放つ細く長い竜巻によって遠くへと飛ばされていく。

そして遠くでその個性が発動したのだろう。金貨より変化した全ての攻撃が明後日の方向へと飛んでいった。

 

「……は、はっ……はは!!ラッキー!?ラッキーだったな少年!!だがこんな偶然!!そう何度も続かないぞ!!次はこれだ!!」

 

そう言うとまたパチマイトが大きく手を振りかぶりこちらへと何らかの攻撃を仕掛けようとして……振りかぶった手を振り切った先にすでにあった回原くんの竜巻によってその動きが逸らされる。

そして逸らされた手の先から……多分個性で生み出したのだろう。多分強力な力を秘めているのであろう巨大な腕……ロケットパンチのような巨腕が生まれ、凄まじい勢いで僕らを掠めて遠くへと飛んでいく。

 

「ははは……ラッキー……ラッキーだねえ!!2回も連続!!そんなまさか……いや!!そんな筈は無い!!あり得ない!!」

 

 

 

そして繰り返される先程とほぼほぼ全く同じその光景。

パチマイトの放つ全てのありとあらゆる攻撃……それを最小限の動きで捌く回原くん。

 

あの時の体育祭の決勝……かっちゃんと回原くんの戦いの焼き直しみたいだった。

焦りながら強力な個性攻撃を連発するかっちゃんと……涼しい顔で全ての力を受け流していく回原。

 

どこか懐かしさすら覚える……そんないつか見たその光景。

 

 

 

 

「……な!!クソ!!ならばこれなら!!!……ぎゃぁぁぁぁ!!!!」

 

戦闘開始直後はまだ余裕のあった声……その声に、今、その残滓は欠片も無い。

 

 

……不思議だ。まるでそこにソレが来る事が事前にわかっていたかのように……パチマイトの手からこぼれ落ちた金貨が、こぼれ落ちたその瞬間から回原くんが事前に放っていた竜巻に吸い込まれるようにして遠くへと飛ばされていき……そこで金貨が変質!!本来こちらを攻撃する筈のパチマイトの攻撃が明後日の方向へと飛んでいく。

 

……ならばと繰り出されるパチマイトのパンチ!!

だがしかし、大振りでテレフォン極まりないそのパンチは回原くんにとっての絶好のカモだ。

 

半歩身体をずらしつつ回原くんはそのテレフォンパンチを最小限の動きで躱し受け流しつつ……

 

「ギャァァァ!!!!」

 

受け流しつつ……昼寝してる猫を撫でているような、本当にそんな穏やかな手の動きで……自らに殴りかかって来た手首の関節を外し、肘の関節を外し、そしてさらに肩の関節までも外していた!!

 

 

「………………」

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………………

 

 

……空気がざわめく音が、確かに聞こえた気がした。

 

 

一瞬にして片手の関節を複数外されて激痛に悶えつつ後退りするパチマイト……そのパチマイトに、圧倒的なまでの強者としての威圧感を放ちつつ……放ちつつ、余りにもそれと反するような穏やかな足取りで回原くんはパチマイトへ一歩……また一歩と……少しづつ少しづつ距離を縮めていた。

 

身に纏う圧倒的なまでの強者のオーラ。

極限の集中力。

 

 

……そして、それと反対に……本当に何でだろう?……それとは真逆の、不思議なくらい反対に涼しく穏やかな回原くんの表情……

 

能面のような……アルカイックスマイル?とでも言うのだろうか?この局面では正直違和感しか感じられないような……そんな、不思議な表情。

 

(不思議な穏やかさなんだけど……だけど!!だけど!!毎回そうなんだけど!!それが本当に恐ろしい!!)

 

 

「……ぐはぁぁ!!!!」

 

 

……今も、片手が塞がれたからと、じゃあ足を使って地面に個性を発現させてこちらを攻撃しよう!!……としたパチマイトの……その足を竜巻で撫でるような穏やかな動きで払い、地面を何回転もさせるようにして転がしている!!

 

 

……全ての攻撃が、攻撃をする前にその全ての動きと意図を完全に読み切られ、動きの起こりの起点を完全に潰され逸らされて、さらに反撃でヤバい攻撃が飛んでくる!!

 

「……何なんだ!!何なんだよ!!」

 

 

……その異質さに、ヤバさに……ようやく、この道化も気づく。

 

 

「何なんだ!!何なんだよ!!一体!!一体これは何なんだ!!キミは!!キミは!!一体何なんだよキミはぁぁぁ!!!」

 

 

 

 

……しかし、もう、遅い………

 

 

真正面から100と100の力と力で……全力全開の個性と個性で殴り合うのを是とするヒーロー社会の理の外にある、その絶技……

 

武術の極み。その最秘奥。

 

 

 

 

「……うわぁぁぁぁ!!来るな!!来るなよ!!……来るな来るな来るな来るなよ!!こっちに!!こっちに来るんじゃない!!うわぁぁぁ!!!!」

 

 

 

回原くんの事前の宣言通り。

地に這いつくばり土を舐めてろと、ボロボロになり汚れたパチマイトが見苦しく尻餅をついたまま、ずりずりと怯えた顔で後ろへと下がっていく。

 

「うわぁぁぁ!!来るな!!来るなぁぁぁ!!!」

 

 

そしてこちらへと投げつけられる金貨……しかし、無情にもその金貨は全て、回原くんが『事前』に『ソコ』に放っていた竜巻に吸い込まれ遠くへと吹き飛ばされて……そして、僕達に全く害を与えない所で力が発現し……そして虚しく消えていった。

 

 

それは戦闘開始から全く同じ光景の繰り返し。

全ての攻撃が最小限の動作で受け流され、手痛い反撃を食らい続けるパチマイトと……その非常識、その理不尽を余りにも穏やかな顔のまま繰り広げる回原くんというある種の地獄絵図。

 

個性による攻撃は全て自分の意図した所以外で発動し受け流されて、ならば直接攻撃を!!となると圧倒的な技量の差で打ち込めされる、

 

……そして、今は更に!!それにワン・フォー・オールの力まで乗っている!!

 

 

その絶大なまでの理不尽!!あり得ないレベルでの不条理に!!尻餅をついたまま必死に決死に後退りするパチマイト!!

 

今も地面を後退りしながら、その手で掴んだ石や砂を無様に投げながら……投げ、それに個性を発現させながら懸命に逃げようとしているが……哀れ、その全てが回原くんの竜巻で受け流されていた。

 

受け流され……そして遠くで発現した……空虚ながらもその強力な力が……まるで汚い花火みたいに……この異質な戦闘を彩っていく。

 

かつて経験したことが無いであろうあり得ないレベルの恐怖……それに顔を引きつらせ、全ての意識が回原くんへと集中するパチマイト。

 

 

まあ無理も無い訳で……今も目の前でゆっくりゆっくりと自分に近づいてくる恐怖の化身……流水制空圏を使う回原くんと対峙している以上仕方の無いことである。

 

当然、皆そうなる訳で……

 

 

(……ここからが、僕の出番だ)

 

 

 

 

ワン・フォー・オール・3rd……発勁

 

 

一定の動作を繰り返す事で運動エネルギーを一次的に蓄積出来るこの個性……三代目継承者の個性。

 

 

パチマイトには決して気取られないようにして……僕は力を蓄えつつ、黒鞭をひっそりと伸ばし、ヤツの視界の外……意識の外へと消えていく。

 

 

 

 

『あ……ありのまま今起こった事を話すぜ……俺はフルカウル100%流水制空圏を使う回原と正面から対峙していると思ったら、いつの間にか緑谷の発勁使ったバカ力の超打撃を側面かつ無警戒の意識外からマトモに食らっていた……何を言っているのかわからねーと思うが……というか俺も今言ってる事が現実だと認めたくねえんだが……頭がどうにかなりそうだ……催眠術とか超スピードとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……なあ親父……俺、コイツらに勝てんのかな……マジで勝てる日来るのかな……なあ親父……』

 

 

 

 

あの日絶望していた轟くん……まあ気持ちはわかる。

ぶっちゃけ自分が同じ立場だとしたら、確実に同じ反応をすると思う!!

 

フルカウル100%流水制空圏を使う回原くんがゆっくりゆっくりと正面から悠然と近づいて来ていて……

 

……そこに、全ての意識が向いてしまったら。

 

 

(ワン・フォー・オール3rdの発勁!!それでじっくりゆっくりコトコトと力を蓄えた打撃を!!全くの無警戒でマトモに食らう事になるんだもんね!!)

 

 

……ちなみに、例え僕のそんな怪しい動きに気づいたとしても、僕に一瞬でも意識が向いた瞬間に、そのスキを決して見逃さない回原くんが突撃してきて打撃もらって即詰みである。

 

なおソースはかっちゃん。

 

……個人的には、この回原くんを正面に迎えつつ、側面からの僕の不意打ちに気づけただけでもマジで才能マンの鑑だと本当に思う。

 

 

 

そんな事をゆっくりと思い出す……それくらいの余裕が今の僕にはあった。

 

 

 

 

まあとりあえず!!今の僕のやる事は!!

 

 

「タイランド・スマッシュ!!」

 

「ぐはぁぁぁ!!!」

 

 

発勁で蓄えた渾身の力!!それを全く完全完璧にこちらに関して無警戒だったパチマイトへとぶちかます!!

僕の渾身の一発が意識・視界の外からパチマイトの顔面を直撃!!グシャッという音と共に顔の歪んだ巨漢が後方へとすっ飛んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side回原

 

 

……極限の集中……それを解く。

 

「……よ。きっちり仕留めたな緑谷」

 

そして感覚の戻った世界……

 

「うん!!上手くいったね回原くん!!」

 

互いの役割をキッチリとやり遂げた俺達は軽く互いを讃えあい。そして。

 

「次は」

「アンナさんだね」

 

完全にノックアウトしたパチマイト……その近くにいた無表情のアンナさんへと歩いていく。

 

「お嬢様!!」

 

途中、追いついてきたジュリオさんと合流し、3人でアンナさんの所へと辿り着いた。

 

「ガキ様方……お願いします」

「うっす!」

「はい!!」

 

そして緑谷から伸びる黒鞭!!

黒鞭が俺達とジュリオさんを繋ぎ、そして黒鞭を経由し個性合体!!ワン・フォー・オールの力をジュリオさんへと流していく!!

 

「とりあえず……5%くらいフルカウルで強化してみましたけど」

「どうですジュリオさん?」

 

「……………」

 

目を閉じ集中し、何かを確かめていたジュリオさんが少しして口を開いた。

 

「……確かに……以前右手だけにあった力が、微弱ですが身体全体から生み出されている感覚があります……これならば!!」

 

 

きっと、いける!!

 

絶望の中で見つけた微かな希望!!それに無意識なのか顔をほころばせるジュリオさん。

 

良かった!!何とかなりそうだな!!

 

「では早速!!……しかしどうするか?とりあえず右手に近い右肘あたりでお嬢様に触れて試してみますか」

 

……にも関わらず、ジュリオさんがそんな日和った事を言い出すもんだから思わず、

 

 

「えー!!何をカマトトぶってんすかジュリオさん!!ここはハグでしょハグ!!どこをどう考えてもハグの一択すよ!!」

 

「ドリルのガキ様!?」

「回原くん!?」

 

俺の言葉にブッ!!と吹き出す緑谷とジュリオさん。後無表情ながら若干眉がピクピク動いた気がするアンナさん。催眠状態でも多少は意識あんのかね?知らんけど。

 

 

「おいコラガキ様……こっちは真面目なんだ、あんま茶化すような事は……」

 

「こっちもマジもマジ。大真面目ですよ。そもそも恩人の娘だからって理由だけにしてはやってる事が無茶苦茶過ぎですよジュリオさんは。大規模ヴィラン組織に一人で喧嘩売りながらお嬢様に向かっては『お前を殺す』ムーブだなんて……ガンダムWも真っ青ですってば。恩人の娘の為に……って理由だけでは弱すぎる」

 

「………」

「………」

 

なんか無表情のままのアンナさんからスゴイプレッシャーを感じる気がする……何?もっと言えって?気の所為かなあ?

 

 

「か!!回原くん!!いいの!?そういうのは遊園地でお手々つないだりした後じゃないのかな!?」

 

「ある意味ここがもう遊園地みたいなもんだろ……遊園地にしてははた迷惑すぎるけどな」

 

ホントに、悪趣味なテーマパークだったぜ、全く……

 

 

「いや……しかし……」

 

まだ煮え切らない態度のジュリオさん。

そんな彼に、

 

「さっさと観念してハグして個性使ってアンナさんを助けて上げてくださいよ。言ってる事ではなく、やってる事がその人の本質何ですから。とっくの昔に答えなんて出てるんでしょ?ねえジュリオさん?」

 

『男のツンデレなんて流行らないすよ!!』とまでは言わないのは俺のせめてもの優しさである。まあ、これがトンガリ相手だったら100%言うけど。言ってたけど。

 

「…………」

 

俺の言葉を聞いて、本当に……ほんっ!!とーに!!苦々しい顔になったジュリオさん……そして……

 

「……全く……このドリルのガキ様は……マジのマジで本当に生意気なクソガキ様だな……ああ、ホントによ」

 

「……ガキではありますがこれでも可愛い彼女が3人いましてね……先駆者からの忠告、って事にしといてください」

 

「彼女が3人!?リアルハーレムですかよ!?……全く!!本当にマジで生意気すぎるガキ様だなテメエは!!」

 

「はっはっは!!」

まあその分苦労も多い訳ですが……

 

 

……そして、最後には観念したように笑ったジュリオさん。

 

ゆっくりとアンナさんに近づき、ハグをしてそして個性の力を使い……

 

「……出力が足りない?消しきれないお嬢様の力があふれて俺へ向かって流れ込んで……しかし!!何だ!!逆に俺の個性の力が上がっていく!!……これは!!まさか!!俺も!!俺もお嬢様の適合者だったのか!?」

 

……えー……何この茶番……

 

個性を抑えようするジュリオさんと、何故かこのタイミングで個性が暴走するアンナさん……その暴走によってジュリオさんの力が増幅されて……結論、何とかなれー!!で何とかなった感じ。

 

 

 

 

「……幸せの青い鳥は最初から貴方のそばにいたのよ……的なオチってこと?はあ……全く、はた迷惑なカップルだぜ」

 

 

 

細かい検査とかは後になるんだろうけど、まあ……こちらの物語はめでたくハッピーエンドで終わりを迎えられそうだ。

でも……

 

 

「回原くん!!後ろ!!」

「ああ、わかってる」

 

 

目の前のジュリオさんとアンナさんから視界を真後ろへと向ける。

そこには。

 

「……迷惑料だ……テメエの個性……俺がもらってやるぜ」

 

「荼毘!!」

 

地面に打ち倒されたパチマイトに手を当てて、その個性を奪っている荼毘と、

 

 

「……フルカウル100%流水制空圏……見せてもらったぜヒーロー側の切り札……」

 

「……死柄木弔……そしてヴィラン連合か」

 

荼毘の後ろにいる死柄木弔達、ヴィラン連合の全メンバーがそこにいた。

 

「ハッ!!結局このピエロが何しに日本に来たのかはよくわからねーままだったなあ!!だがテメエの個性は使えそうだ!!ちゃんと僕がもらっておいてやるぜえ!!」

 

そう吠えながらも、個性を奪い用済みになったパチマイトの顔をぐりぐりと土足で踏みにじる荼毘。

そんな荼毘に。

 

「やめとけ荼毘……こう見えてもそこの道化は欧州最大のヴィラン組織のリーダーらしい……無駄に、本来は不要な大多数のヘイトを集める理由はねえ」

 

 

 

 

「これが欧州最大のヴィラン組織のリーダーのまま野放しとか!!頭沸いてんのかよ欧州の連中はよぉ!!値段が高いだけで対して価値があるんだか無いんだかわかんねえブランドモノの服とかバッグを高値で売るしか脳がねえのかよ連中はぁぁ!!」

 

 

 

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 

 

……沈黙の巻でござる。

なかなか珍しい事に、ヴィラン達とも意見が一致したな……そんな事を考えた早春。

 

……この長い長い一日は、まだ……終わらない。

 

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