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「ヤレヤレ…回原にも困ったものだね…」
物間の言葉はクラス皆の心を代弁していた。
今もウチの茨、A組の轟と爆豪と話してる回原を見る。
まあ控えめに言っても全開で暴走していた。
でも…
だけど……
「な、なあ物間……あのさ……」
でも多分…皆同じ事を、考えていた。
鉄哲の言葉に、物間は、
「最後まで言わなくていいよ鉄哲。気持ちは僕も同じだ」
改めて皆を、全員の顔を順番に見ながら物間が言う。
「皆も多分同じ気持ちだよね?回原にはこのまま好きにやらせてあげたいってさ」
そう。
そうだった。
皆多分気持ちは同じだった。
「そうだぜ!!そうだよな!!皆同じ気持ちだよな!!」
鉄哲が叫ぶ!!
「アイツさ!!回原さ!!皆見てただろ!!アイツ!!障害物競走の第一関門で!!皆が大ケガしないようにトップ争い辞めてまでわざわざ皆を助けてくれたんだぜ!!!」
そう。
アレを皆が見ていた。
「回原のヤツ!!あそこであんな時間かけないで!!皆助けたりしないでさっさと前に進んでたら絶対1番になってたんだぜアイツ!!でも!!でもよ!!!アイツ一言も言い訳しないんだよ!!あんなに!!あんなに悔しそうだったのに!!!」
そうだ。
誰もが皆、それを見ていた。
巨大なロボットが凍り、砕ける瞬間を。
下手すると下敷きになり死人が出ていた。
回原は、それを止める為に前に進むのを中断しロボットを粉々に破壊していた。
障害物競走で走り終えた時に見た回原の顔を思い出す。
私は比較的遅くゴールした方だ。
回原は先にゴールしていた。
彼は両手を両膝に付き、下を向いて黙っていた。
疲れてるのかな?
もしかしたら何処かケガしちゃったのかな?
少し近づいて、少し屈んでその回原の顔を覗いてしまった。
……それを、物凄く今は後悔している。
私は今まで生きてきて、あんなにも悔しそうな顔をしている男の子の顔を見たのは初めてだった。
本当に悔しそうな顔だった。
悔しくて悔しくて、本当に今すぐ死んでしまいそうなくらい悔しそうな顔をしていた。
そんな顔を見られたくなかったと思う。
だからすぐ覗くのを辞めたから、きっと回原は気づいていないけど。
「だからさ!!だからここはアイツに好きにさせてやろうぜ皆!!俺!!俺さ!!ここで『悪いけど俺達B組狙うのを勘弁してくれよ!!』なんてアイツに言えねえよ!!そんなこと言ったら!!俺は一生アイツの事ダチだって胸張って言えなくなっちまうよ!!」
鉄哲の言葉。
暑苦しいけれど、その言葉は皆の気持ちを正確に代弁していた。
皆のために1位を逃して、あんなに悔しそうにしていた回原。
それを一言も言い訳しない回原。
…ここで何か言ったら、もう二度と彼と対等に立てなくなってしまう。
皆がそう思っていた。
「そうだな。付け加えるならゴール直前での俺達へのアシストもだな。アレがなければ俺と塩崎は順位が2つ下で終わってた…多分、その借りを返すつもりもあって塩崎は回原のチームに加わってるしな」
骨抜がそう言った。
そうなんだ。そんな事もしてたんだ回原は。
「回原旋……孤高を貫く強さを持ちながらも、甘さを捨てきれない悲しき男よ……」
「黒色……何言ってるノコ?」
「こ、小森!!これは!」
何やってんだかアソコは…
ヤレヤレと一瞬、少し気を緩めた。
そして…
「そうだね…そうだね!うん!鉄哲の言う通りだ!」
クラス委員長の一佳が代表し答える。
「私達B組はアイツのやりたい事を邪魔しない!!でも!!大人しくアイツの餌食にはならない!!逆に私達がアイツらのハチマキを取って利用してやる!!そういうつもりで行くよ皆!!!」
一佳の力強い言葉。
皆がそれに頷く。
「そうだね拳藤。恨みっこ無しで行こう…すまない、僕が障害物競走前に変な事言ったから皆を困らせてしまった」
「気にしないでいいよ物間。アンタの提案は今でも間違ってないと思うし、おかげで得たものもある」
例えば、唯一この騎馬戦に残っている普通科の生徒の個性の事など。
「多分…あれは催眠とか洗脳とかそういう類いの能力だと思う。対象を自分の命令に従わせる個性。今も庄田がチームを組んでる。庄田の性格的に、誰にも何も言わずここから離れるとは思えない」
障害物競走で異彩を放っていた彼。
正直目立っていた。
障害物競走に夢中になっていたら気づかなかったかもしれないが、周囲を観察していればあの光景は明らかに異常だった。
「妥当だね。発動条件は彼の言葉に答えるとかかな?障害物競走ではそんな感じだった」
「この事、回原に伝えてもいいかい?」
一佳の言葉に物間も、クラスメイトも頷く。
「当然だろう。A組の2人に口止めするのが条件だけどね」
「わかった。後で私が責任持って伝えておく」
全員が一佳を見て頷く。
これぐらいしか私達は彼に返せるものがない。
せめて少しでも役立ってくれたら良いんだけど。
「……さて、そろそろこちらもチーム決めをしないとね」
物間の言葉に皆がまた頷く。
B組は20人。
「そのうち回原と塩崎が離脱。庄田も離脱…峰田もA組と先にチーム組んでるから僕らは残り16人だ」
「4人チームが4つだね。急いでチームを決めよう」
そうしてチーム決めが始まる。
その言葉を聞きながら、私は考える。
回原に助けてもらうのは、多分これが3回目だ、と。
3度目はさっきの障害物競走。
2度目は入試の実技試験。
そして、最初の1回目……
忘れもしない。
今も胸に鮮烈にあの光景は残っている。
中学1年の初夏。
7月の3連休。
地元の島根から東京へ家族旅行に来ていた私は、東京の街中で両親とはぐれてしまい、1人不安になりながら立ちすくんでいた。
そこに現れた巨大なヴィラン。
私に向かって落ちてくる巨大なビルの破片。
あ、多分これ死んじゃうな…
そう、ぼーっとしながら考えていたのを今でも思い出す。
『ギガドリルゥブレェェイクゥゥゥゥ!!!!』
助けてくれたのは、私と同じくらいの年の男の子だった。
両足から竜巻を起こし空を飛び、自分自身をドリルにして私に向かって落ちてくる巨大なビルの破片を砕き、私を助けてくれた。
あの時、彼は間違いなく私のヒーローだった。
その後助けに来たヒーローに助けられ、すぐ避難したから結局その男の子にはお礼を言えなかった。
でも、あんなスゴイ男の子なのだ。
同い年くらいだった。
だから、雄英高校に来ればきっとまた会えると思った。
だから勉強も個性の特訓も頑張った。
そして雄英高校を受験し、実技試験でまた彼に会うことが出来た。また助けてもらった。
正直顔は全然覚えてなかったけど、あんなギガドリルブレイクなんてする中学生が何人もいるとはとても思えない。
そして、さっきのが3回目だった。
回原旋は、私のヒーローだった。
だから…
「…頑張って、回原」
この気持ちは感謝の気持ちだけなのか?
憧れのヒーローに向けた気持ちなのか?
それとも恋なのか?
本当にそれはまだ自分でもわからない。
でも、
頑張って、回原。
私は今、彼を応援していたい。
あんなに悔しそうな顔をしていたんだ。
次は、飛び切り嬉しそうな顔で笑って欲しいと、そう思った。