sideオールマイト
「やあ、久しぶりだねAFO」
「…………」
ここはタルタロス。
4月の頭から進めていた調査が終わり、私は久しぶりにAFOと面会する為にココに来た。
タルタロスの底の底に幽閉されているAFOは、その能面のような顔にも関わらず……何故かぐったりとしているのがハッキリとわかった。
そんなAFOが、疲れ果てた様子で億劫そうに口を開く。
「やあ……君かオールマイト。全く、いつもいつもホントに君はタイミングが悪い……ようやく
「……ああ。そう言えば君の企みの所為で壊れたタルタロスの警備体制が復旧するまで、日本政府から正式に依頼を受けた一影九拳が警備に当たっていたんだっけ?」
「……そうだよ。しかも連中、僕の事がメチャクチャ嫌いらしくてね。大特価大サービス価格でこの仕事を引き受けたらしいよ……酷い話だ。そんな嫌われるような事したかね僕は?」
「うーん……まあ、武術家の皆さんはもれなく君の事嫌いそうだから……うん。仕方ないよね」
「解せぬ……」
納得いかない様子のAFO。
だがまあちょっとでも考えれば当たり前の事ではある。
鍛えに鍛え抜いた肉体と技を競い合う武術家達。
そんな彼らからすれば、他人の個性を奪い取って魔王を気取るコイツのあり方が気に食わないのは当然の結論であった。
当然の結論何だけど、AFOにはそれが理解出来ない。
この男はそういう男なのだ。
だからこそ嫌われているのだろう。
「……おっと、面会時間も限られているからね。そろそろ本題に入ろうかな」
「……そうしてくれ。本当に疲れてるんだよ僕はさ。ようやく達人達の監視が解けてホッと一息ついてる所なんだ……早く要件を済ませて帰ってくれないかなオールマイト」
「……そうか。じゃあ、手短に……落ち着いて聞いてくれよAFO」
そこで私は一拍。
そして、
「君が持っていた財産……その全てがこの度0になりました」
「………………………………………………………………………………………………………………………は?」
今、自分が何を言われたのかわかっていない様子のAFO。
そんな彼に、私はこの一ヶ月の間に新白連合が調査してくれたレポートの内容を淡々と伝える。
「ヒーローとヴィラン連合の最終決戦でね、荼毘くんが錬金という個性を限界を超えてブン回したんだ……ああ、錬金っていうのはお金やそれに準ずるモノを消費して様々な力を産み出す個性だよ。それによって君の銀行口座、隠し口座や他名義の口座を含む全ての銀行預金。隠し金庫に保管していた金塊。株式や不動産、債券含む全ての資産を荼毘くんがすっからかんに溶かしちゃったみたいなんだ。時間はかかったけど新白連合の調査だから多分間違いは無い。君は……何と言うか……うん、無一文の素寒貧になってしまった訳だね」
「…………………………………………」
(……あれ?何も言い返して来ないけど……大丈夫かなこれ?)
……うん、まあでも……面会の時間も限られているし……とりあえず言わなきゃいけない事だけちゃんと言っておかないと。
こほん、と一息ついてから、
「だから、もし君が上手いことやってこのタルタロスから脱獄したとしても、君にはその後の活動資金が無いんだよAFO。ひょっとたら人脈は残っているのかもしれないが……金の切れ目が縁の切れ目。タルタロスに幽閉された君の事をいつまでありがたがるのかな君の協力者達は?だから……まあ……」
もう全部諦めて、ここで余生を過ごし給えよ、と言おうとした所で……
「あ………あ……あ、あ、あ、あ……ああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
……突如、全てを理解したAFOが叫ぶ。
「帰れぇ!!帰れぇ!!!ああ!!帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れぇぇぇぇぇぇ!!!!」
急にジタバタとし始めたAFOに周りの機械が反応し、私は面会室からの退出を促される。
(……さらばだ我が宿敵……AFO……)
「………!!!!!」
鎮圧用の電気ショックで悶える宿敵を見て、私は面会室を出ていった。
……哀れだ。
……素直に、そう思ってしまう。
(……たまには面会に来るとしよう)
そうだ。それがいい。
ヤツは嫌そうな顔をすると思う。
でも構うものか。
漫画や小説……そのくらいの差し入れなら許されるのかな?
まあダメならダメで仕方ない。
差し入れがOKなら彼は読むかな?どうだろう?読まない気がするけど……読んでくれたなら感想を聞きたいものだ。
私が生きている間。
彼が生きている間。
そう……時間を……お互いに短くなった残りの人生を、そうやって過ごしていこう。
我が憎き宿敵へ。
「……どちらがより長生きをするか?……そういう勝負で決着をつけたっていいだろう?」
じゃあね。また来るよAFO。
次は……今日とは少し違った話が出来るといいね。
sideホークス
「いやー!!随分と物が少なくなりましたね!!こんだけ家が大きいと引っ越しって大変ですねえ!!でもいい物件が見つかって良かったですねエンデヴァーさん!!」
とある春の日。
午後からは半年ぶりのヒーロービルボードチャートJP。
……そんな大切なイベントを午後に控えた午前。
俺は久しぶりにエンデヴァーさんのお宅へお邪魔していた。
細かな家具が荷造りされて少し寂しくなった居間。
「……ふん。相変わらず落ち着きのないヤツだ。俺の引っ越しなどよりも自分の心配をしたらどうなのだホークス?」
「へへへ♫」
そんな居間で俺とエンデヴァーさんはお茶を飲んでいた。
エンデヴァーさんの奥さんが淹れてくれたお茶を。
その奥さんはお茶を淹れるとすぐに、小さな赤ん坊を抱きかかえて縁側の方に行った。
小さな赤ん坊。
……知っている人間からすると、あの子は荼毘だ。
……そして、知らない人間からすると……轟家に新しく迎えられた養子という事になる。
あの日、荼毘は死んだ。
そういう事になった。
そしてエンデヴァーさんは一人の赤ん坊を養子として迎えた。
当然、綺麗事だけでは済まない情報操作も必要となった。
だけどまあ……全部終わった話だ。
「……♫♫♫……♫♫」
縁側から聞こえる鼻歌。
それを聞き喜ぶ赤ん坊の小さな笑い声。
それを聞いて穏やかな顔になるエンデヴァーさん。
「……へへへ♫」
……そんな、穏やかな空気。
……それだけを確かめて、俺は少しだけ笑って……そして席を立つ。
「……何だ?もう行くのか?」
「……ええ。何せこの後ビッグイベントが控えているもので」
「……そうか。落ち着いたら新居に遊びに来い。少し田舎だが良いところだ。相手が貴様でも歓迎してやる」
「はは!!ありがとうございます!!スパイラルくんでも誘って近いうちに遊びに行きますね!!」
「ふっ」
その穏やかな顔に見送られ、俺は轟家を出た。
『この家には悲しい思い出が多すぎる』
そう言ってこの大きな家を引き払い、財産分与した上で一人で田舎に引きこもろうとしたエンデヴァーさん。
一人でも赤子になった荼毘を育てるつもりだったのだろう。
……そんなこの人の隣には、赤子になった荼毘を抱いた奥さんが立っていた。
まだその顔にはぎこちなさが残っていたけれども。
次男さんは今の彼女さんと結婚し、そして向こうに婿入りするそうだ。彼は轟の家から出ていく。
長女さんは一緒についてこようとしたそうだけど『もうこれ以上付き合わなくても大丈夫だ。これからはお前はお前の人生を楽しんでくれ』と伝えたらしい。
焦凍くんはすでに優秀なヒーローだ。彼の未来はすでに祝福されている。
だからこれからは轟炎司と轟冷と……新しい養子の物語なのだろう。上手くいって欲しい。心の底からそう思う。
……あんなに厳しくて辛い人生を歩んで来た人だ。
これからは暖かくて……穏やかな日々を過ごしてくれれば良い。
そして、そうなりそうだってのは確かめられた。
だから、俺はこれでいい。
当然、それが全てじゃないのも知ってる。
綺麗事ばかりで世の中が動かないのは知ってるさ。
だからこそ、せめてこの人の最後だけでも綺麗事だらけの世界であって欲しいのだ。
(……さあ!!見ててくださいよエンデヴァーさん!!)
高速で空を飛び、会場に向かいながら強く思う。
この後のヒーロービルボードチャートJPを。
貴方から暫定No.1ヒーローの座を受け継いだ、この不適格ヒーローがそこでどんな爆弾を落とすのかを!!
side回原
「さーてそろそろかね」
「ん」
「だね」
ここは雄英高校の敷地内に新たに建設された学生寮。
俺達2年B組の寮の一階。
そこに俺達B組生徒が集まり皆でテレビを見ていた。
半年に一度のビッグイベント。
ヒーロービルボードチャートJP。
その発表がこれから行われる。
「……つーても、なんか物間辺りはランキングの内容とか事前に全部知ってそうだよなー」
「ああ……わかるわ……」
「ふふ……まあ否定しないけどね」
「「「「「いやマジで知ってるんかい!!!!」」」」」
なんかとんでもない事を言い出した物間にビビりまくる俺達。ホントにお前突き抜けちまったなあ……
「ほら、僕ばっか見てても面白くないだろう?さあ!!ヒーロービルボードチャートJPが始まるよ!!」
「「「「「メッチャ誤魔化された気がする!!!!」」」」」
……まあ、とりあえずこんな感じでヒーロービルボードチャートJPが始まった。
……そしてイベントは順調に進み……ついに本題とも言えるトップ10のヒーローの発表となったのだが……
「マジかよ!!」
「No.10は該当無しぃ!?」
「どゆこと!?」
出鼻をくじくような司会の言葉。
『今回のビルボードチャートでのNo.10は、本来は選考対象外となる人物が選ばれてしまった為、該当無しとさせて頂きます』
ぶーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!
ブーイングが鳴り響くテレビ越しの会場。
「ふふふ♫」
「……あ、ひょっとしてこれ……」
「……まさか……」
「……またやりやがったのかコイツ……」
「ん」
「?」
『落ち着いて!!落ち着いてください!!落ち着いてください!!ではー!!次の発表に移ります!!』
そしてブーイングの鳴り止まない会場で、懸命に司会の人がNo.9から順番に発表していく。
その内容は半年前とほぼ同じ。
エンデヴァーさんが引退した為、前回メンバーがそれぞれランキングが1つ上がった……そんな内容だった。
そして……
『そして!!今回のヒーロービルボードチャートJP!!No.1ヒーローに選ばれたのは!!そう!!それは早すぎる男!!その人の名前は!!』
『はーいマイクもらいまーす』
『ほ!!ホークスゥゥゥゥゥゥゥ!!!』
「……お!!なんか面白くなってきたんじゃね?」
「「「なんか急にワクワクしだすじゃん回原!!!」」」
へへ!!そらそうでしょ!!
さっきまでのお行儀の良さを何処に隠したのか?
ホークスさんが、俺の大好きな不敵な笑みを浮かべて司会からマイクを奪い話しだした。
『どもー!!ついにNo.1ヒーローになったホークスでーす。で、そんな俺から1個提案があるんですよねー』
そして、司会があわあわと慌てるのを尻目に、ぷかぷかと飛びながらホークスさんがぶちかます。
《こんなクソくだらねえヒーローランキングって制度、今回限りで辞めにしませんか?》
と。
『ねえ?皆もさっき思ったでしょ?選考対象外だからNo.10が該当無し?そんなんあり得るんすかねえ!!ねえ!!皆もうわかってるんでしょう!!』
画面越しにホークスさんが俺を見た。そんな気がした。
『No.10は螺旋道ヒーロー・スパイラル!!回原旋くんだ!!彼はまだ正式なヒーロー免許を持っていない仮免だから今回選考対象外となった!!人々に素晴らしいヒーローとして認められた彼が!!クソくだらねえ制度の問題でトップヒーローとして認められ無かった!!こんなアホな事を許してたまるかって話ですよ!!』
「「「やっぱマジかーー!!!!」」」
「「「一瞬そうじゃないかと思ったけど!!!!」」」
「「「ホントにコイツやりやがった!!!」」」
「はは……へー……マジか……」
「……そんな不思議じゃないさ。去年からの君の活躍を整理しよう。福岡での大暴れから泥花市での決戦。臨時株主総会に群訝山荘。蛇腔総合病院に雄英高校決戦……その全てを最主力で戦い抜いたんだ。控え目に見てもNo.10は妥当だと思うよ」
「まあ……物間に言われるとそうかな?ってなるけどさ……」
「……実際に、君だけってワケでもないのさ。この半年間で活躍した学生ヒーロー数人がランキング上位に食い込んでいる。その全てが資格ナシとしてランキング対象外……ま、ホークスの言う事も尤もなんだよね」
まあ確かに。
この半年間の活躍の度合いだけで言えば物間もトップ10に入っててもおかしくない。
『歪なんですよねー今のヒーローランキングって。本来はもっと評価されるべき人が数多く埋もれてしまっている。そして、その所為で上に上がってしまった少数に過剰な負担がのしかかっている。この醜いランキングは一度ぶっ壊して、細分化し、より良い形に作り直して行くべきだ。戦闘能力が高いヒーローだけのランキングがあってもいい。レスキュー能力に優れたヒーローのランキングがあってもいい。裏方としてサポートに長けたヒーローだけのランキングがあってもいい。後はあれかな?異形差別の問題とかに真摯に取り組むヒーローのランキングがあってもいい……この社会には色々な問題がある。多くの問題がありすぎて、今のヒーローランキングだけではその問題解決に効果が無い。俺はそう思うんですよね!!』
だから、このヒーローランキングは一度ぶっ壊して、新しい形に、より良い形に作り直しましょうよ、と。
ホークスさんはそう力強く宣言した。
『……ま、変えないなら変えないでいいですけどね。それならそれで……俺がこれからもNo.1ヒーローの座を独占してやるだけなんで』
そして、最後に不敵な笑みを浮かべ、
『制度がこのままならそれはそれでいいっすよ。俺はこの次のビルボードでも、その次のビルボードも、その次の次のビルボードも……これから俺が引退するまでの全てのビルボードチャートJPでNo.1ヒーローになってやりますんで!!そして、毎回毎回この生意気極まりない戯言を叫んでやりますよ。ねえ!!こんなクソみたいなヒーローランキング制度のままで本当に良いんですか!?ってね!!制度がこのままだって言うのなら!!俺は引退するまでNo.1ヒーローの地位を守り続けてやる!!そして!!毎回イベント事にこのくだらねえ制度を馬鹿にしてやりますよ!!だから!!それが嫌ならさっさとこの制度を変えてくださいよねお偉いさん方よぉ!!』
そうカメラに向かって中指立てて戯けて舌を出すホークスさん。
そんな俺の大好きなヒーローを見て。
「やっぱカッケェよなあホークスさん」
「だね」
物間と二人、そう笑い合う。
きっとホークスさんは、ちゃんとした形を持たないモヤモヤとした世間の問題を次の
それを倒すために、ヒーロー活動を多分野に分割したいのだろう。
これまでのオールマイトさん、エンデヴァーさん……その活動だけでは倒せなかった様々な問題。
圧倒的な個人ではなく。社会全体で解決するべき問題。
誰かが一人で歯を食いしばって戦うのではなく、様々な問題を皆で協力し合って解決していく社会。
それがきっと俺達がこれから進むべき社会で、ホークスさんはその布石を打ってくれているのだ。
カッケェよなホークスさん。
画面の向こうで全ての賛辞とブーイングを受けているホークスさんを見て、改めてそう思う。
社会を少しづつ少しづつ……徐々に徐々に良くして行く為に吠えたのだホークスさんは。
だからこそ、俺達はそれに続いていくべきなんだろうね。
(後2年……俺が卒業するまで天辺で待っててくださいよホークスさん)
すぐ追いつきますよ。
だから皆で前へ前へと進みましょう。
より良い未来へ向かって。
その為に、俺もドリルを全力で回しますから。
ラストへ向かっての2歩目!!
活動報告の質問箱にコメント頂いた方ありがとうございます!!
完結後のあとがきでまとめて回答させて頂きます!!
……さて、次でいよいよこの長かった物語もラストとなります。
次回!!最終話!!
『雄英高校卒業から5年〜and more〜』
最後までお楽しみ頂ければ幸いです……