あの後の事をまず話そう。
テンションブチ上がって空高くまで飛び上がったはいいものの、このまま地面に降りると間違いなく怒られる。
資格も無いのに街中で個性使ったのだ。
当たり前だろう。
だから俺は出来るようになったばかりの脚ドリルの竜巻を使いその場を移動し、人目のなさそうな所を見つけて降りる事にした。
そこから走って梁山泊まで戻った。
今日は訓練休みなのに顔を出した俺に、師匠達がどうした?と問いかけてくる。
そこで俺は、出来るようになったばかりの竜巻での飛行を披露した。
俺の目標を知っている師匠達は皆大いに喜んでくれた。
お祝いに、本来休みのハズが何故かお祝い特盛めちゃくちゃハードメニューの鍛錬をする事になった。
お祝いだそうだ。
この人達基準では特別ハードな鍛錬こそがお祝いだそうな。
まじかよ。
でもここは梁山泊。
個性社会に馴染めない、武術を究めてしまった達人達の集まる場所である。
世間一般の基準でここの常識を考える事こそがそもそもおかしいのである。
結論、絶望した。
その夜、梁山泊では長老主導で豪傑会議という梁山泊の達人全員集めての重要な会議が開かれたそうな。
内容は、俺こと回原旋を残りの中学生の期間内弟子とする事について。
内弟子とは、通常の弟子と異なり道場に住み込んで師と寝食を共にし、武術のノウハウや秘伝を伝える制度。
今、俺は家から梁山泊に通っている。
もし内弟子となると、中学生の残りの時間は梁山泊に住み込み、みっちり鍛錬をする事となる。
「旋ちゃん、高校は雄英高校目指すんじゃろ?ヒーロー科に入ればその後はヒーローとしての鍛錬の時間が増えるじゃろうし、中学生のうちに出来るだけ鍛えた方が今後いいと思うんじゃがどうかな?」
長老にそう言われて考える。
確かに、俺は高校の進路を雄英高校に行きたいと希望を出していた。受かるかどうかはこれからだが、雄英高校が静岡であり、梁山泊が東京である以上通学時間なども含めて考えると鍛錬の時間が減るのは間違いないだろう。
そうなると、確かに残りの中学生としての時間を内弟子とし、集中的に鍛錬するのは今後の事を考えると正しい判断なのかもしれない。
竜巻で空を飛べるようになった今。
幼い頃の夢を再度思い出す。
グレンラガンのようなヒーローになる、その夢を。
俺の道が決まった。
「内弟子にしてください!よろしくお願いします!」
カッ!と師匠達が目を光らせる!
「「「「「よくぞ言った!!!!」」」」」
長老が代表し、
「回原旋。我々梁山泊は君を内弟子として迎え入れる。そして残りの期間で君が武術の高みに出来るだけ近づけるよう全力で指導することを約束しよう」
「はい!よろしくお願いします!」
「これより、回原旋は我々梁山泊の内弟子となる!」
そうして、内弟子としての日々が始まる。
生活の全てを武術で染め上げる日々。
武術の疲れを武術で癒し、武術あっての自分だという事を思い知らされる生活。
人生最後に選ぶものは、武術か?それとも死か?みたいな日々。
控えめに言っても中学生のやる生活じゃなかった。
あの時のテンションのままに頷いた事を何度も後悔した。
絶望した。
「えー!!!街中でヴィラン退治!だ、駄目ですよ!ヒーローや警察に怒られますよ!!プロヒーローでも無いのに勝手にそんな事しちゃ!!!」
中学2年になると、実戦経験を積む為に街中で暴れるヴィラン退治が鍛錬メニューに加わった。
「旋くん。それは個性を使ってヴィランを自発的に退治するから怒られるのだ」
「……つ、つまり……」
ゴクリ…俺の喉が思わず鳴る、
カッ!と目から光を放つ師匠!
「個性を使っちゃダメなら、個性を使わずヴィラン退治しちゃえばいいじゃない!!!!!」
「ぎゃあああ!!!相変わらず無茶苦茶過ぎるー!!!!」
「君は巻き込まれて仕方なく自己防衛の為に武術を使いヴィランを退治しただけの被害者だあ!!!はい!復唱!!!」
「僕は巻き込まれただけです!何も悪くありません!!悪いのは無茶苦茶な事言う師匠達なんです!!!!」
「違っがーう!!!!」
「ぎゃあああ!!!!」
そんなこんなでヴィラン退治が日課に加わった。
テキトーに街中で暴れるヴィランに師匠達がちょっかいをかけ、人目の無いところまで誘導。
後は俺にはいどうぞ、という事である。
「遅っそーい!!!早く仕留めないと警察やヒーローが来ちゃうだろうがあ!!!!」
「うわあああん!!助けてヒーロー!!!!まず俺を助けてー!!!!」
そんなこんなでヴィラン退治を行う日々。
警察やヒーローに見つからないように時間制限付き。
絶望した。
確かに、高校入学までに詰め込めるだけ詰め込んだ方がいいのはわかる。わかっているのだ。
で、でもこれは…
「ちょ、長老!また何か今三途の川から戻ってきましたよ!!今また死んで生き返ったんですが!!」
「良かったのー川渡り切る前で」
「そ、そうですけど!!!」
鍛錬中に師匠から良い一撃をもらい「あ、ヤッベ」という師匠の声とともに意識は通い慣れた三途の川に飛び、馴染みになった川の渡守さんと挨拶して怪しい薬で生き返ったところだ。
この流れが、あまりにも最近普通になりつつある。
「いくら何でも最近僕死に過ぎですよ!!僕の人権は無いんですか!!!」
「ん?人権?無いのう」
「え?」
「え?」
不思議そうに俺を見る長老。
多分俺も長老を不思議そうに見ていると思う。
長老が、口を開く。
「だって、内弟子は人間じゃないからのう!!!」
ねー。
って感じで周囲の師匠達と目で会話する。
他の師匠達もうんうんと頷く。
え?今のに違和感持ってるの俺だけ?
絶望した。
そんな生活が続いた。
そして、ついに中学3年も終わりかける頃。
雄英高校入学試験が始まる。
くっくっく…入学試験なんぞナンボのもんじゃ。
ヒーロー科?どんだけ授業がキツかろうが俺の過ごした内弟子生活から比べれば大したことはないだろうよ…
絶対受かってやる。
受かれば、めでたく内弟子生活卒業だ。
受かれなかった場合、都内のヒーロー科のある高校を受験する事が決まっていた。
その場合、当然内弟子生活は継続だろう。
梁山泊から通えるのだ、当然である。
間違いなく師匠達もそう言うだろう。
あんな生活してたら、いつか本当に死んでしまう。
内弟子生活から逃げ出す為に、俺は雄英高校に受かるしかなかった。
くっくっく…やってやる…俺はやってやる…
生きるのだ。
切実な願いであった。
周囲の受験生は将来の希望に満ちあふれていた。
雄英高校に受かって立派なヒーローになるという希望に満ちあふれていた。
覚悟が違うよ。
俺は絶望から逃れる為に、死にたくないから雄英高校に受かるのだ。
雄英落ちる、イコール死。
希望なんてあやふやなものを追いかけている連中とは覚悟が違うのである。
こっちはマジで命かかってんだ。
顔つきから決死さが、必死さがまるで違うのである。
生き残る為にも、俺は絶対に雄英高校に受かる!!!
まだ死にたくないよ!!!俺!!!
生まれてこの方武術武術武術武術武術で、彼女も出来たことないのよ!!!
雄英高校に行ったら楽しくヒーローアカデミアするんだい!!
きっと色々なんやかんやとあって結論可愛い彼女とかも出来ちゃうんだい!!!
彼女や友達と仲良くキャッキャうふふふしながら楽しい高校生活をするんだい!!!
するんだもん絶対!!!
後日、結局雄英高校に受かっても内弟子生活が続くと知り、俺は絶望することとなる。
なんだよ…静岡の雄英高校近くの安いボロ家を譲り受けたから、そこに住めば内弟子生活継続出来るね!って!
家はボロいけど広いし、庭も広いから鍛錬するには十分だよ!って!!
大丈夫!梁山泊全員が来るのは難しいけど、週単位で当番決めて俺の鍛錬はしっかりするから安心してね!って!
安心出来ませんが!!!
まるで安心出来ないのだが!!!
やったね!旋ちゃん!じゃないのだが!!
…それはまだ、もう少し先の話。
結論、俺は雄英高校に受かっても絶望する。
俺の絶望の日々はまだまだ続く。