「ようこそエンデヴァーヒーロー事務所へ!!」
職場体験初日。
指定されたエンデヴァーの事務所に顔を出すと、燃える髪が特徴的な元気のいい女性が出迎えてくれた。
「はじめまして!雄英高校1年B組の回原旋です。ヒーロー名はスパイラルです。これから数日間よろしくお願いします!」
事務所の中の人達全員に聞こえるように大きな声で挨拶する。
この辺の礼儀はちゃんと仕込まれておりますので。
「サイドキックのバーニンだ!よろしくなスパイラル!まずは更衣室に案内するからヒーローコスチュームに着替えてこい。その後書類手続きとかしてエンデヴァーへの挨拶だ。キビキビとな!」
バーニンさん他、事務所内の人達がよろしくなとか頑張れよとか声をかけてくれた。
「はい!頑張ります!よろしくお願いします!」
それに応える。
そしてバーニンさんに案内してもらい更衣室に向かう。
んで中に入って着替えた。
俺が使っていいロッカーがあるとの事だったので、俺の名札をつけて用意してくれていたロッカーに荷物をしまった。
サイドキックの集まるさっきのフロアに戻ると、
「お!来たかスパイラル!トロトロしてねえのは良いことだな!」
俺を見かけたバーニンさんが声をかけてくれた。
あらかじめフロアの人の出入りに注意しててくれたんだろうな、俺に気がつく早さ的に。
言葉は少し乱暴だけど気が利く人なのだろう。
「んじゃ早速だが、この書類にサインしろ。内容はだな…」
そうして書類の説明をしてくれる。
職場体験の受け入れ確認。
職場体験中での個性使用許可について。
エンデヴァーヒーロー事務所の名で、職場体験に関する下記活動内で個性の使用を一時許可する事。
『パトロール中、移動する為の個性使用』
『パトロール中の事故防止・人命救助の為の個性使用』
『ヴィラン襲撃の際に、自衛行動としての個性使用。
ただし戦闘は極力避け、周囲のプロヒーローへの救援を求める活動を主とする事。ヴィランであっても過剰な反撃は禁ずる』
内容を説明してもらいながら確認しサインする。
まあプロヒーローでもないし仮免もないんだからこんなもんだろ。妥当だよな内容的に。
「書いたな!んじゃエンデヴァーのとこ挨拶行くぞ!」
そうしてバーニンさんに連れられ、事務所の奥の特別大きく立派なドアに向かう。
バーニンさんがノックをすると「入れ」と中から声がした。
「失礼します!」
「いいねえ私より礼儀正しいじゃん」
「…そこはキサマも意識しろ」
「へーい」
「はじめまして!雄英高校1年B組の回原旋です!ヒーロー名はスパイラルです!これから職場体験よろしくお願いします!」
ドアを開けて挨拶しながら中に入る。
ドアの奥はいわゆる社長室的な実務的かつ豪華な部屋だった。
奥には立派な机。その奥の椅子に腰掛ける男と、
「轟か。おひさ」
「回原か。話すのは体育祭以来だな」
机の前に立つ俺と同学年の少年がいた。
轟焦凍。
騎馬戦で俺と組み、準決勝では戦ったヤツだ。
そして、
「今さら自己紹介など不要だろう。俺がエンデヴァーだ。では早速パトロールに行くぞ」
奥には威圧的な炎を放つ巨体。
存在感の塊のような男。
エンデヴァーさんがいた。
説明不要のNo.2のヒーローだ。
「職場体験だが、俺からお前に特に何かを教えるつもりは無い。俺は焦凍以外は指導するつもりは無いのでな」
おっとぉ!!いきなりどういう事なの!!
「学びたければ必死についてこい。俺の傍でお前が勝手に学ぶ分には止めはせん」
そう言って部屋を出る為椅子から立ち上がり、歩き始めた。
多分このまま事務所出てそのままパトロール行くのだろう。
おーなるへそ!なるへそね!!
そういう事ね了解ですよ。
「はっはっは!!だとさスパイラル!どーするよいきなり突き放されたけど!!」
笑いながらそう言うバーニンさん。
それにニヤリと笑って、
「突き放されたならついていくだけですね。んで学べるものは学ぶし盗めるものは勝手に盗みます」
俺のその言葉と表情を見て、バーニンさんはニヤリと笑い。
「……なるほど!礼儀正しいだけじゃねえって事か!!気に入った!フォローはしてやる!頑張れよ!」
「はい!」
そうして俺達は事務所を出てパトロールを開始した。
先頭にはエンデヴァーさん。
その後ろに俺と轟。
その少し後ろにバーニンさん他サイドキックの皆様。
どうやらフォローしてくれるという言葉は本当だったらしい。
しばらく町中を歩きながらパトロールする。
……ん?あれは!
「……ほう、ついて来れるか」
俺が個性を使い飛び出した瞬間、俺より先にエンデヴァーさんが動いていた。どうも俺と同じ事に気づいたようだ、しかも俺より先に。流石!
……ならいいか。
「早速ですが学ばせてもらいます」
「…ふん。当てつけか?まあいいだろう」
体から炎を放ち、更に加速したエンデヴァーがそこに飛び込む!
目の前には車にひかれそうな小さな子供!
「ぬん!!!」
勢いそのまま車と子供の間に飛び込むと、その巨体と個性を活かし車を止めた!
そして車が完全に止まったのを見ると、俺の方を振り向く。
「子供は無事です。ケガありません」
「……そうか」
俺が保護した子供を見るなり、休む間もなくまた加速し走り出した!
「おうやるじゃんスパイラル!この子はこっちで面倒見る!せっかくだからオッサンに吠え面かかせるくらいに喰らいついてってみろ!」
追いついて来たバーニンさん。
「……わかりました!お願いします!」
「おう!頑張れよ!」
他のサイドキックの方の声を背中で聞きながら、先に行ったエンデヴァーさんに追いつくべく加速する!
「こりゃ中々楽しい追いかけっこじゃないの!」
そうして、この間にヴィランを退治していたエンデヴァーさんに追いつく。
「……コイツは後から来た連中に任せる。次だ!」
「はい!」
また炎で加速し走り出したエンデヴァーさん。
一瞬遅れて同じ方向に走り出した俺。
その方向には、工事現場の高所から落ちた鉄骨!
どうもこれは実りの多い職場体験になりそうだ!!
「……中々いい目をしている。良く周りが見えているな」
「ありがとうございます」
午前のパトロールが終わり昼飯時。
サイドキック達が買ってきてくれたパンを、とあるビルの屋上で食べながら昼休憩を取る。
エンデヴァーさんは惣菜パンを食べながらも周囲を観察する事をやめない。何かあったらすぐ飛び出すつもりなのだろう。
「正直、学生とは思えない程に周囲への観察力や判断力、トラブルへの反応速度が優れている。そこらのプロヒーローやヴィジランテと比較しても劣らぬ程には現場に手慣れているな……まあ深くは聞かんが」
おおっとお!!これはひょっとしてバレてらっしゃる!!!
流石No.2ヒーロー!人への観察眼も伊達じゃないようだ。
まあ師匠達と中学の頃からヴィジランテの真似事はしていたからなあ。
何となく注意するポイントはわかっている。
例えば、信号が青から赤に変わりそうなのに横断歩道に突っ込もうとしている子供であるとか。
例えば、周りの車がブレーキしてるのに一拍遅れた車だとか。
例えば、落ち着きなく周囲をキョロキョロし、ヒーローや警察がいないか探している不審者だとか。
それなりに経験はしてきたつもりだ。
とは言え、流石エンデヴァーさん。
そんな俺よりも更に初動が早い。
これは経験やら慣れ何だろうなあ。
圧倒的な現場経験。
それがこの人の屋台骨なのだろう。
「強いて指摘するならば周囲の使い方だな。お前は自分1人で全てを完結するような動きをしていた。仲間や警察など、任せるべきものは他人に任せ、自分が先導して動くべきものと優先順位をつける。そういう見極めを意識するといいだろう」
「……はい!ありがとうございます!」
「……ふん」
あれ?
あれあれ?
エンデヴァーさんどしたん?
轟以外は指導するつもりないんじゃないの?
今ちゃんと指導してもらった気がするのですが!!
近くではげらげら笑うバーニンさんと、それを見てによによしてるサイドキックの方々。
「スパイラル、お前は今何か意識している課題はあるか?」
更にサービスなのか何なのかそんな事も聞いてくれる。
……まあ指導してくれるというならありがたい。
「課題は現場での個性の効率的な運用の仕方を学ぶ事。後は出来るならこの個性を更に強い個性へと成長させるキッカケを見つける事です」
中学のヴィジランテ活動は個性無しでやっていた。
その為、現場での個性利用は初めてだ。
それを学ぶ事。
後は今以上に個性を成長させる事。
雄英に入り、以前と違い大っぴらに個性の強化訓練が出来るようになったのだ。
せっかくだから今以上に個性を強化したい。
「お前の個性は旋回だったな。ふむ……」
そう言うとエンデヴァーさんはしばらく考えて、
「これがヒントになるかわからんが。お前は個性を単純な増強型だと考えてはいないか?これからは増強型ではない個性として訓練してみるのはどうだ」
「増強型ではない、旋回ですか?」
うむ、とエンデヴァーさんが続ける。
「そもそも、腕をドリルの様に回転させ竜巻を起こす。その時点で単純な増強型の枠を超えているのではないか?」
「確かに…それは…」
「個性の名付けはかなり適当なものだ。その為、本来の個性の全体像を知らず生涯を過ごす者も少なくない。本来その人が持つ個性、その全てを潜在能力まで含めて使いこなしている者は多くはない。故に成長に連れて個性の新たな側面を知り、申請するための個性変更届などの制度がある」
「確かにそうですね」
「そして個性自体がかなりアバウトな要素の強い力だ。俺は体から炎を出し全身を加速させたり飛行の真似事が出来るが、正直真面目に考えればこれは物理法則を無視したナンセンスな力だ」
「あ、言っちゃったよこの脇臭オッサン…」
「いけません…いけませんよエンデヴァー……それは言ってはいけないやつ…」
周囲のサイドキックがそんな事をのたもうた。
それを無視しエンデヴァーが続ける。
「個性とはその発現した表面的な特性を活かし、単純に出来そうな事や派生して出来そうな事が努力次第で出来るようになる力だ。そういう視点で再度お前は自分の個性と向き合って見るのがいいだろう」
例えば……と続ける。
「竜巻を起こす時、お前は手首と腕を一緒に回転させているが、それは一緒に回転させるのが正しいのか?手の形はどうだ?拳を握るのか?指はどうする?指の形まで意識した事はあるか?鉤爪のようにした方がいいのではないか?同じように足もだな。足首は伸ばすのか?それとも伸ばさないのか?膝は伸ばすのか?それとも軽く曲げるのか?お前は今まで単純に増強型として個性を使っていたが、自然現象を発生させる個性として改めて個性と向き合ってみてはどうだ?」
「なるほど…確かにそこまで深くは意識したことはありませんでした」
精々ギガドリルブレイクの時の指先くらいだ。
これは自分にとって新しい視点である。
個性を駆使するヒーローの視点。
ウチの師匠達はやりたい事が出来なけりゃ修行不足で出来るようになるまで鍛えろ的な感じ。
個性を深く考えるというアプローチ。
確かにこれはやった事が無かった。
「焦凍はまずは左の炎を長時間、右の氷と同レベルで使う練習だな。午後は氷の個性の使用を禁じる。左の個性だけを使って追いついてこい」
「……わかった」
ここまで静かだった轟の声。
「スパイラル、お前はバーニンと事務所に戻り、事務作業の体験だ。外に出てパトロールだけがヒーローの仕事じゃないぞ」
「わかりました」
そうして昼休憩が終わり、エンデヴァーさんは轟とサイドキック達を連れてパトロールを再開した。
「どーよウチのオッサンは」
「そうですね。色々と勉強になりました」
「だろう」
ニヤリとバーニンさんは笑い、
「あのオッサンは確かに自分に厳しく他人にも厳しい上に、加齢臭がクサくて言葉も足りない上にコミュ障で更に脇もクサイけどな……」
「い、言い過ぎでは……」
……確かに少し気になったけど。
「それでも、サイドキックを30人以上抱えるNo.2のヒーロー事務所の主だ。それでも私達サイドキックがついて行くだけの価値があると認めたヒーローだ。口ではああ言うが、頑張ってるヤツを見捨てたり放っておくばかりの男じゃない」
ま、他にも理由はあるみたいだけどな。
最後にそうボソッと言った。
「……さて、そろそろこっちも事務所戻るか。事務作業嫌いなんだよな私」
まあ何となくそれはわかる、
「バーニンさん…事務作業終わって今日の職場体験終わってから、個性使って自主練出来る所ありますか?」
俺がそう聞くと、彼女はニヤリと笑い。
「……何だ何だ!!まだ今日の職場体験終わってないのに、早速さっきオッサンに言われた事試したいってか!!」
「はい」
当然だ。
さっきからそればかり考えている。
色々アイデアはもらった。
試したい事ばかりである。
「いい顔してんじゃん!生意気だな!!あるぜ!夜の10時までなら事務所内のトレーニング施設使えるから後で案内してやるよ!!」
「ありがとうございます。それと、もう一つ」
「欲張りだな!まだなんかあんのか?」
「はい。そこは朝は何時から使えますか?」
そう言うと彼女はそれを聞いて一瞬キョトンとし、それからまたとても楽しそうに笑った!
「やる気満々だな!いいぜ!私のお願い聞いてくれるんなら、私が毎朝7時にはそこ開けてやるよ!!」
そうしてこれからの予定が決まった。
午後はヒーロー事務所での事務作業。
そしてそれが終わってから自主練。
こうして俺の職場体験1日目は充実しまくって終わった。