職場体験2日目。
内容は当然昨日と同じパトロール。
本日も楽しい楽しい追いかけっこの幕開けである。
「……ふん。昨日より僅かだが飛行速度が速くなっているな。後続のサイドキックとの位置関係も意識しているか」
俺の少し先を走るエンデヴァーさんに早速気づかれた。
この人スゴイわ。
良く周りを見てる本当に。
敵も味方も民間人も全て、良く見て考えて最善の手を打ち続けてる。見分けるスピードも判断速度もケタ違いだ。
エンデヴァーさんは早速コンビニ強盗をしたヴィランを捕まえると、また走り出しながら、
「……ヴィランとの戦闘はまだ許可出来ん……が、人命救助が俺よりも早く出来ると判断したのならやってみろ。サイドキックにフォローさせてやる」
「……はい!!」
やったぜ!
お許し出ましたよん!!
昨日と今朝で少し工夫をした足の回転を更に早め、竜巻を強化する!!
やったるぜ!
はりきっちゃうもんね!!
昨日からやりたくてやりたくて仕方なかったのだ!!
エンデヴァーさんより早く、誰かを助けるって事を!
エンデヴァーさんがスゴイのは良くわかった。
でもさ、負けてばかりはめちゃくちゃ嫌だもんね!!
……こうして、午前中に俺はエンデヴァーさんより早く2名の人命救助活動に成功した。
当然俺よりも多くの人をエンデヴァーさんが救っていた。
俺もまだまだだわなあ。頑張らないと。
何時までも負けてるつもりはない。
「……スパイラル、午後は少し後ろに下がれ。サイドキックがどういう事を意識し行動しているか背後から学べ」
本日のお昼休憩。
またビルの屋上でパンを食べながらエンデヴァーさんの指導を受ける。
「お前個人の活動に関しては、後は場数を踏んで経験値を更に高めれば勝手に良くなるだろう。午後はサイドキックがどういう事を意識し、どういう活動・フォローをしているか良く見るように。サイドキックの活動への理解が深まれば、お前が最前線で取るべき行動の優先順位をつける際に参考になるだろう」
「はい!わかりました!ありがとうございます!」
「ふん」
なるほどなあ。
今まではエンデヴァーさんばかり見てたけど、サイドキックの仕事内容への理解が深まれば、何を人に任せて、何を自分でやるか決める指針になるもんなあ。
おっしゃる事御尤も。
午後は後ろでサイドキックの人達の仕事を観察させてもらおう。
「おや!いいんですかエンデヴァー!スパイラルは午後は事務所で事務仕事の予定では!?」
によによしながらそう言うサイドキックの方。
それをげらげら笑いながら見るバーニンさん。
「……予定は変更だ。事務仕事なんぞどのヒーロー事務所でも体験出来る。貴様らはしっかり仕事振りを見せつけてやれ」
お!なんか予定変更してくれた!!
ありがたい。
いずれ事務仕事もやるのだろうが、せっかくエンデヴァーさんの事務所で職場体験出来るのだ。
どうせならここでしか体験出来ないトップレベルの体験をしたい!!
「ありがとうございます!皆さんよろしくお願いします!」
「おう!!サイドキックの仕事も地味だが覚えておいて損はないぞ!良く見とけ!!」
バーニンさんが代表してそう言ってくれた。
「焦凍は昨日と同じだ。午後は炎の個性のみの使用を許可する。必死で喰らいついてこい」
「……ああ、わかった……」
「ふっ」
悔しそうな轟の顔を見て、エンデヴァーさんが笑った。
こうして昼休憩が終わり、午後のパトロールがスタートした。
side焦凍
「今日もありがとうございました!明日もよろしくお願いします!!」
おつかれー
おつかれー
事務所で挨拶をして回原が部屋に戻る。
親父の事務所には職員用の宿泊施設があり、回原はそこに泊まっているようだ。
俺は自宅がそんな遠くないので自宅から通っていた。
「思ったよりも早く壁にぶつかったようだな、焦凍よ」
親父が俺に声をかけてくる。
「……ああ、そうだな」
それに素直に答える。
お母さんの力だけでは勝てない相手。
それが回原だった。
お母さんとの問題も進展し、俺は親父の力を使う事を決意した。
それでもこの2日間、俺は親父にもアイツにも追いつけなかった。
正直悔しかった。
だから、今は早く回原に追い付きたい。
「回原なら多分部屋で軽く飯食ってこの後自主練するぞ!焦凍くんも頑張らないとね」
近くにいたバーニンがそんな事を教えてくれた。
アイツ……あんだけ今日1日動いてまだ自主練するのかよ……
体育祭で体力オバケとは思っていたが、まさかこれほどとは。
「しかもアイツ朝も自主練してるからな!いや大したもんだわ!!」
「…朝だと?トレーニング施設は誰が開けた?」
「ん?ああ、私が開けてやった。職場体験中私と模擬戦するって条件で」
「バーニン貴様……職場体験に来た10近くも年下の学生に模擬戦ふっかけたのか……呆れたヤツだな…全く……」
親父の呆れたような声。
それに……
「いや!そりゃそうでしょ!!体育祭であんなトンデモナイもの見せられてるんだこっちは!!気になって気になって仕方無いから模擬戦くらい挑むわそりゃ!!なあエンデヴァー!!オッサンだってそうだろ!!!」
バーニンさんがそう言って反論する。
体育祭で回原が見せたトンデモナイもの。
それは……
「流水制空圏……」
「そう!!エンデヴァー!!オッサンだって気になるだろ!!あの流水制空圏とかいう技は!!ひょっとしたらオールマイトにも届く可能性を秘めた技なのか!!ってさ!!!」
「………」
流水制空圏。
回原が体育祭の決勝戦で見せた絶技。
俺だって小さい頃から近接格闘の訓練は多少は受けている。
それでも全く理解を超えた技。
まさに神技とか絶技という表現が相応しい技だった。
理解出来る範囲でだが、あれは格闘戦において最強クラスの技だとは思う。
オールマイトはその超パワーと超スピードを活かした肉弾戦を得意とする。
確かに、あれはオールマイトにも通用する技なのかもしれない。
オールマイトに異常なまでの対抗心を持つ親父。
確かに、親父があの技に興味を持たないのは不自然だった。
「……正直に言えば、俺は時間がある限りあの体育祭の決勝戦の動画を……回原の流水制空圏の動画を何度も何度も見ている」
「!やっぱり!!」
その上で……と、親父は深く深く思考をまとめつつ、一言一言しっかりと考えながら言葉を続けた。
「俺の…あくまで俺の今理解出来る範囲でだが、試合形式で戦闘区域を区切るような戦いであればオールマイトにも届く可能性はあると見る。だが……戦闘区域を区切らず、いつでも何処でも戦闘を仕掛けられる実戦形式では……あれだけではオールマイトには届かない……と、思う。あの技は……おそらく大規模面制圧攻撃や大規模質量攻撃を出来るような個性とは相性が悪い」
オールマイトであれば、例えばその超パワーで生み出す風圧攻撃や、ビルごと叩きつけるような超質量攻撃が可能。
故に、あれだけでは、オールマイトには届かない。
「……それでも素晴らしいという言葉では称賛が足りぬ神技と言えるだろう。最初は経験や予測で相手の動きを読んでいるのかと思ったが、それだけでは全く説明がつかん。明らかに俺が積み上げ、そして理解出来る範囲には無い技術と経験が使われている」
あの親父が……No.2ヒーローがここまで称賛する回原の技。
トッププロから見てもすさまじい技なのだろう、やはり。
「バーニン……模擬戦をしたのだろう?どうだった?」
親父がそう聞くと、バーニンは、
「いやそれが完全にあの決勝の再現。こっちの攻撃の起点が全て私より先に制圧されて、こっちの攻撃は後ろに逸らされた。最後は近づいて来た回原にぶん投げられて終わったんだけど…」
「……だけど?」
ちっ!っとバーニンは大きな舌打ちをし、悔しそうな声で、
「……空中で何回転かさせられた後に、目が回ってる私をふわりと衝撃が全く無いように地面に転がしやがった。ご丁寧に私のパンツが見えないように角度の配慮までしてたわあれ。至れり尽くせりの敗北だよ!!まるで公園のベンチに座る時に、私の座るとこに先にハンカチでも敷くみてーな優しさだ!!完敗だ!完敗!!」
ふん!と横を向き不満げなバーニン。
そのスカートを思わず親父と2人で見てしまう。
何となしに近くで俺たちの話を聞いていた事務所の人達も、やはりそのスカートを見ていた。
……確かに配慮がいりそうだった……
「あんま見んなエロ助ども!……まあ話が逸れたけど、私をレディ扱いしても完勝出来るくらいには回原は強い。それは事実だよ」
「…………」
サイドキックとして親父にも頼られるバーニン。
その人相手に完勝出来る回原。
……アイツに言われた通りだ。
「デカい壁だぜ……全く……」
親父はバーニンの話を聞いて、
「回原か……やはりヤツが梁山泊の現・一番弟子という噂は本当だったか……」
「梁山泊?親父?何だよそりゃ?」
梁山泊?
聞き慣れない言葉だった。
「教えてくれ親父。俺はアイツに……回原に追い付きたい。その為に知れる事……ヒントになる事、ヤツの強さに繋がる情報は何でも知りてえんだ。頼む……親父……」
「う、うむ……うむ……そ、そうか……」
「頼む!!俺はマジなんだ!親父!!」
「う、うむ……うむ……」
そうして、親父は非常に言い難そうに話し始めた。
梁山泊。
それはこの個性社会になり今やスポーツとしても価値が薄くなりつつある武術。
そんな個性社会に馴染めない、武術を究めた豪傑や達人、超人達が集まる武術道場。
「……都市伝説のようなレベルではあるが、裏社会などでそう伝え聞く存在だ。実際、一部ヒーローの手を借りれない案件などで公安が助力を頼む事もあるらしい。俺もそういう伝手で聞いた事があるくらいだ」
「……いくら何でも胡散臭え……胡散臭えよ…何でそいつら隠れて協力とかするんだよ。そんだけ強いんだったらもっと大っぴらにヒーローや公安と連携してもいいじゃねえか」
「……う、うむ…そ、そうなのだがな……それは……」
親父曰く。
武術界には活人拳と殺人拳という2つの派閥がある。
そしてこの二派は強く対立している。
梁山泊は活人拳だ。
その活人拳が表立ってヒーローや公安に協力すると、殺人拳側もヴィランなどへの協力を誘発する危険性がある。
殺人拳を奉じる闇の組織、正義の梁山泊と対立する闇の一影九拳という組織があり、そこが表に干渉してこないように、干渉の口実を作らないように、梁山泊は表立って大きくヒーローや公安に協力出来ないのだ、と。
「……ふざけてんのかよ、親父!!」
「しょ、焦凍!ま、待て!待て待て待て焦凍!!」
親父の説明を聞き、俺の心はすさまじい怒りに塗りつぶされていた。
「俺は…俺は!俺はな親父!!回原に追い付きたくて!負けてるのが悔しくて!!対策が欲しくて!それで追いつくヒントとか情報が欲しくて!!それでホントは親父に聞くのは嫌だけど!!それでも!!それでも親父に真剣に聞いてるんだぞ!!それなのに!!それなのにそんなマンガとかアニメみたいなふざけた話をしやがって!!俺の事おちょくってんのかよ親父!!!」
「焦凍!!待てぇ!!待て待て待て待て!!待て焦凍!!待て焦凍!!俺はふざけてない!!断じてふざけてなどいない!!こ!こういう話なんだ本当だ!!ウソみたいなマンガのような話だが本当なんだ!!し、信じ!!信じてくれ焦凍!焦凍ーー!!ショートォーーー!!!!!」
「……うーわオッサン加齢臭増してやがる。これマジで焦ってんなホント草生えるわ。臭草草臭って感じ」
「バーニンお前人の心とかないんか……」
「流石にそれは人としてどうかと思うレベルだぞ……」
「…まあ、これ放置するのは流石に可哀想かオッサンが……あー焦凍くん。一応フォローするけどその焦りまくってるオッサンの言う事は本当だ。そういう都市伝説なんだよ、梁山泊ってのは」
「バーニン……」
「……んな情けない顔するなよNo.2ヒーローだろアンタ……」
そうしてバーニン他サイドキックの人達からも同じ事を教えてもらった。
実際にそういう都市伝説があり、回原がどうもそこの一番弟子なのでは?という噂がある事を。
「……まあ、聞いてて思っただろうけど実際は胡散臭い噂話だ。あまり深く考えないでいい。それより明日夕方からは保須市へ出張だろ?早く帰ってゆっくり休みなよ……オッサン……アンタもな……」
「……すまんバーニン……」
「だからしっかりしろっての……」
未だ少し落ち込んだ親父を見て、ちょっと罪悪感がわいた。
……今度はもう少しちゃんと話を聞くとしよう。
こうして、俺の職場体験2日目は終わった。
3日目の明日は、夕方から保須市に移動しての活動の予定だ。