回原のドリルは天を貫く   作:のりしー

26 / 135
回原旋というクラスメイト

side拳藤

 

まるで美しいフィギュアスケートの演技を見ているようだ。

 

目の前のクラスメイトの動きを見ていて心からそう思う。

 

重厚感のある空手の突き、回し蹴り。

ムエタイの肘打ち、膝蹴り。

からの柔術の投げ技。

そして中国拳法の軽快な掌打や蹴りの連続。

 

全く別々の、格闘技という共通点しかないその4つの動き。

驚くべき事にそれがシームレスに、何の違和感もなく流れる一つの美しいプログラムのように連動していた。

 

畳の上を滑るように。

美しく、速く、そして滑らかに。

踊るように回原は動き続けていた。

 

踊るようなその美しい動きが、実は凶悪な破壊力を秘めているなんてなんという矛盾だろう。

 

 

これは、劇薬だ。

劇薬だった。

 

自分と同じ年のクラスメイト。

一体どれだけの長い時間を、今日まで彼は武術に費やして来たのだろう?

 

私も少しは武術を嗜んでいる。

 

だからこそわかる。

 

空手。ムエタイ。柔術。中国拳法。

 

そのどれか一つでも、あのレベルまで習得する事がどれほど大変な事なのか、という事が。

 

それを、一つでなく四つも。

全てを高いレベル……正直、自分とは比較にならない高いレベルで修めている。

 

だからこれは劇薬だった。

拳藤一佳という少女にとっての、とびきりの劇薬。

 

(カッコいいなあ)

 

素直にそう思う。

今も一心に演舞を続ける回原。

流れるような踊るような、でもその一つ一つが敵を打倒する確かな破壊力を秘めた、美しくも危険な演舞。

 

心の底からカッコいいと思う。

その一つ一つの突きが、蹴りが、その他の技が、彼が今までどれだけ一生懸命に武術に取り組んでいたかを証明していた。

 

 

どんな事でも、目標に向かって努力し続ける男の子はカッコいいと思う。

 

真剣な回原の横顔を見る。

 

切奈曰く

「上中下で分けると、上の枠内での、中の下くらいのイケメン」

 

B組女子の中で1番外見に関して批評の厳しい切奈の評価を聞いて、なるほどと納得したのを思い出す。

 

(いい男だよなあ)

本当に、そう思った。

 

 

 

 

 

 

 

日々は少し過ぎ、6月に入っていた。

クラスメイト達からの回原への評価は当然高い。

実技試験トップの成績。

体育祭優勝。

人当たりもいいし、何だかんだで気が利く。

 

直接戦闘向きの個性ではない骨抜などは同じクラスで良かったという評価を隠さないし、私のように直接戦闘系の個性の持ち主にはいい刺激となっていた。

 

鉄哲などが筆頭だが、回原に負けないようにトレーニングに皆励んでいる。

 

当然、私もだ。

 

「組手?いいぞ」

 

体育祭以後、私は回原に組手と武術の指導をお願いしていた。

それ以来、今日のように予定が合うタイミングでちょくちょく組手をお願いしている。

場所は大体いつも雄英高校内の畳敷の武道場の一つ。

 

回原は尊敬する師の1人と同じく、女性を打撃などで攻撃しないという悪癖がある。悪癖とはあくまで私の立場から見ての話で、回原的にはちゃんとした理由があるのだろうけど。

 

故に、私との組手でも直接攻撃はなく、特殊な投げや拘束技、一瞬で意識を刈り取るような絞め技等が中心となる。

 

これはこれで回原的にはいい鍛錬になるそうだ。

 

そんな訳で組手はすぐに頷いてもらったが、指導に関しては、

 

「ん……ちょっと師匠達に相談していいか?」

 

回原曰く、自分のような半端者が人に指導していいのか考えを聞きたいとの事。

 

回原で半端者なら私は何なんだ、と言いたくなるが当の本人は大真面目に。

 

「だってさ、俺が指導とかしたらそれを今後拳藤が実戦で使うかもしれないって事だろ?最悪命に関わるかもしれないのに気軽に指導なんて出来ないじゃん」

 

との事。

私の事を心配しての事だった。

 

このように、回原旋というクラスメイトは本当に本当に武術に関してトコトン真摯だった。

 

後日。

 

「本格的に教えるとかじゃなくて、今の拳藤の良くない所とかアドバイスしたり、こうしたらもっと良くなる、みたいな指導ならオッケーだってよ!」

 

という事で了承頂けた。

 

 

 

 

「……ん、気分どーだ拳藤?」

一通りの演舞を終え、回原が私を見る。

 

「んー……そうだね、大分良くなったかな。上着ありがとね」

 

畳から体を起こし、座りながらそれに答えた。

 

さっきまで私は回原の投げ……空中巴投げなんだろうけど、空中で何回も何回も何回も超高速で回転させられ、遠心力やらで目が回り、さらに頭に血が昇り気持ち悪くなった所で畳の上に丁寧に転がされていた。

 

頭の下には枕代わりの回原の上着。気を遣って枕代わりに貸してくれていた。

 

(……こーいうとこ地味に優しいんだよなあ)

 

「大丈夫か?水飲む?」

「ん……じゃ、もらう」

 

ほらまた。

こーいうところだ。地味にちゃんと優しい。

 

回原は近くに置いておいた私の水筒を取り、手渡してくれる。

 

「ほい」

「ありがと」

 

私に水筒を手渡すと、回原は自分の飲み物を取り、私の横に座った。

 

「?どした?」

「……んーん、別に、何でもないよ」

「そか」

 

そう言って私の隣に座って自分の飲み物を飲む。

多分まだ私が気持ち悪くないかとか気にしてくれてるんだろう。

 

そういうのが、素直に嬉しい。

優しくて、強くて、気の利くクラスメイト。

 

ふと、職場体験の時のメッセージのやり取り。

それを思い出す。

 

職場体験が思っていたのと全く違い、悩んでいたりした私に回原がくれたメッセージを。

 

『そらしんどいなあ。正直せっかくの職場体験なのにあまりいい気はしないよな。でも「間違えた選択肢を選んじまった経験」ってのも、将来貴重な財産になるかもしれないぜ。とりあえず今はお互い出来ることで頑張ろうや』

 

そういう前向きな言葉。

正直結構救われた。

あれで気持ちを切り替えられた気もする。

 

生きていれば間違えた選択肢を選んでしまうこともあるだろう。

大切なのは、それを次に活かすかどうか、って事。

それが大切だと、そして今出来ることを頑張ろうと。

 

(いい男なんだよなあ、ほんとに)

 

全く、困ったもんだ。

 

雄英高校の実技試験で会った時から、回原はスゴイ奴だった。

 

コイツは間違いなく試験に受かっているだろう。

間違いなく会場の誰もがそう考えていたと思う。

 

 

無事私も雄英に受かる事が出来て、再会してからもそのスゴさは見せつけられてばかりだ。

 

 

正直言って異性として気になっている。

ここまでダイレクトに私に刺さる要素が盛り沢山なのだ。

無理も無いと思う。

 

決して、最初の戦闘訓練でお姫様抱っこされて可愛いとか言われたから意識している訳ではない。

 

流石に私はそこまでチョロインではないぞ、と。

 

 

でも、異性として正直意識はしている。

 

(ウチのクラスだと……他には唯かな)

 

小大唯。

クラスメイトのとても可愛い女の子。

唯も、多分回原の事を意識してると思う。

同じ女なので、そういうのは何となくわかるのだ。

 

(波動先輩は……正直まだよくわからないけど)

 

波動ねじれ先輩。

ヒーロー科3年生のとても綺麗で可愛い不思議な先輩。

 

ちょこちょこクラスに顔を出して回原とかとお昼を一緒にしてる所は見かける。

好奇心旺盛だから、好奇心だけなのか?それとも?

 

どうにも掴み所の少ない人である。

 

 

「ふむ……ぼちぼちいい時間だな。今日はこれくらいにするか?」

時計を見ながら回原がそう言う。確かに家の近い回原はともかく、電車で千葉まで帰る事を考えるといい時間となっていた。

 

「そうだね……うん、今日はこの位にしようか」

 

そして今日の組手はお開きとなる。

 

「拳藤の家遠いだろ。片付けとくから先帰っていいぞ」

 

「組手に指導にと付き合わせてるのに片付けまでお願いしたら申し訳ないよ。一緒にやって早く片付けて帰ろ」

 

「そうか?色々お世話になってるし、全然これくらい構わないんだけどなあ」

 

「回原をお世話?こっちが世話してもらってる気はするけど、お世話した覚えはないけどなあ」

 

これが峰田や物間であれば別だけど。

 

「あ!……そーか、うーん……」

 

「どしたの?」

 

あ、やべ言っちゃったよ…

みたいな、失敗しちゃった、という顔を回原がしていた。

なんだろう?

 

「うーん……まあ、隠す事でもないんだけど、いずれバレるし。拳藤のおかげでちょっとあってだな」

 

「勿体ぶるなんて回原らしくないね。一体どうしたのさ?」

 

うーむ……と、珍しく回原がもごもごと、

 

「実は、拳藤のおかげもあってCM出演が決まりましてだな…」

 

「CM?スゴイじゃん!!」

 

私と八百万は職場体験でCMに出演していた。

そういう前例もあり、回原にもCM出演の話があったそうな。

 

雄英高校としても、本人にその気があるなら出演を許可する方針との事。

 

「で?何のCM出るの?」

「……笑わない?」

「なにそれ?内容によるけど」

 

うーん……と回原は悩み、そして「どうせそのうちバレるしなあ……」と、覚悟を決めて白状した。

 

「カツ丼のCM」

「へえ……カツ丼……カツ丼………」

 

カツ丼…

カツ丼…

カツ…

 

『喝』

 

あ!そーいうことか!!!

あの喝の動画だ!!

 

「あーはっはっはっはっ!!喝でカツ丼って事!!喝でカツ丼!!安直!安直過ぎでしょ!!見ないでもCMの内容想像ついちゃったじゃん!!ひーウケる!!」

 

「クソ……だから言うの悩んだんだよ」

 

ぶす……っと膨れ顔で回原が顔を逸らす。

 

「くすくす……ごめんごめんて!!でもそんな嫌なら断っても良かったんじゃない?私と違って強制でも無いんだろ?」

 

「……欲しいもんがあってな。正直CMのギャラ聞いて心が折れたわ……」

 

「アンタ物欲無さそうなのに……そんな欲しいものあったんだ。何か意外。ちなみに何それ」

 

「バイク。前から欲しかった。もうすぐ誕生日で16になるから単車の免許取れるし、色々タイミングが良すぎた……」

 

バイク。

回原がバイク。

バイクかあ……

 

……まーた色々私に刺さる要素が増えてしまった。

 

「……その感じだと何買うかある程度決まってる感じ?」

 

「まあな。これ」

 

そう言って。回原はスマホを操作してあるバイクの画像を見せてくれた。

 

「Vツインマグナっていう、昔の復刻モデルの中古」

 

回原の師匠のバイクをメンテしている所で購入予定との事。

 

「けっこうアメリカンな感じだね。もっとスポーツっぽいのが好きかと思ったけど」

 

「スポーツスポーツしてるのも楽しそうだけどなあ、こういうので走るのも楽しそうだろ?」

 

「まあ確かに」

 

確かにこういうので海岸線とか走るのは楽しそうだ。

 

「最速で欲しいバイクに乗るために魂を売ってしまった……」

 

がくっと項垂れる回原。

 

「そう?でもいい売り方じゃないの?間違った選択肢だったとしてもそれでもいい、って考えたってことでしょ?」

 

「まあそらそうだが……」

 

ぶーっとまだ不服そう。

まあでもいくらバイクが欲しくても喝でカツ丼がお茶の間に流れるのはけっこうなダメージかもしれない。

 

バイクの画像を改めて見せてもらう。

 

確かにカッコいいバイクだった。

これで走るのは楽しそうだ。

 

そこで、気づく。

 

多分このバイク、オプションつけるとタンデム出来るヤツだ。

 

……どうしよう?

これはちょっと踏み込み過ぎか?

 

少し悩む。

惹かれているのは事実。

でも今の段階でここまで踏み込むべきか……

 

……少し悩む。

 

だけど……

 

「……もうすぐ誕生日なんだっけ?回原さ?」

 

「ん?ああそうだけど」

 

…だけど、少し踏み込んでみよう。

 

「じゃあさ、バイク買ったら後ろ乗せてよ」

 

…後になって、これが間違った選択肢だったって気づいたとしても、それでもいいじゃん!

 

「コーヒーが美味しいカフェ探しとくよ。誕生日のお祝いに美味しいコーヒーご馳走したげるからさ、後ろに乗せてソコに連れてって」

 

私がそう言うと、回原は一瞬キョトンとした顔をしてから、

 

「誕生日のお祝いがコーヒーで俺がバイク出すの?釣り合い取れてない気がするけど……ま、楽しそうだしいいか」

 

そう言って、笑ってくれた。

 

私もそれに笑顔で答える。

 

「じゃあ。約束」

「おう」

 

 

こうして、小さな約束をした。

大きな勇気を出してした、とても小さな大切な約束を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。