夏休みの日々は特にイベントも無く過ぎていった。
クラスメイト達と学校のプールで遊んだ以外だと、ねじれ先輩と近くの大型ショッピングモールへ買い物行ったくらいかな?
「ねぇねぇ旋くん旋くん!!バイクの後ろ乗せて乗せて!!バイクで行こうよ!!私旋くんのバイク乗ってみたいな!!」
と言われたけど流石にショッピングモールへは距離があるからまだ危ないとお断り。
もう少し慣れてからですタンデムは。
夏休みにたくさんバイクで走って慣れてきたら、夏休み終わり頃位にはタンデムしてみてもいいかなとは思い始めている。
「ぶー!!!……じゃあ旋くん!オッケーになったら最初は私を後ろに乗せてね!!約束だよ!!」
とまあ納得は頂いて、その日は普通の公共交通機関でショッピングモールに行き楽しんだ。
それ以外は基本師匠達との修行の日々である。
合間合間にバイクで出かけたり、クラスの予定合う連中と遊んだり、そこそこ充実した夏休みだと思う。
んで雄英高校ヒーロー科1年の林間合宿の日となった。
「なんか久々学校来たって感じ」
「わかるわー夏休みの登校日ってそうなるよな」
登校日という訳ではないが、合宿の最初の集合場所は雄英高校の校門前だった。すでに目的地へ向かう為のバスは来ている。
バスが2台ということは、A組とB組で別れて乗るのだろう。
最早様式美とも言える物間のA組煽りを拳藤が手刀で仕留める光景。それを横目に俺達は何事も無かったようにバスへと乗り込む準備を進める。
拳藤すまんいつもありがとね。
「物間のやつ……自分も期末試験赤点だったのに、よく赤点ネタでA組煽れるよな……」
「マジでどういうメンタルしてんだろなアイツ……」
「……久々に見た女子のミニスカ制服……合宿はオイラ達B組だけでなくA組も……じゅるり」
「そして峰田も変わらんなマジで……」
「お前も程々にしとけよホント……」
久々に会うクラスメイト達の変わらぬ様子に頬を緩めたりしかめたりしながら、それでもやっぱり皆浮き立つ気持ちを抑えられないでいた。
合宿という響き。それが俺達を高揚させるのだ。
「よし全員乗ったな。出発するぞ。1時間後にトイレ休憩を取ったら、後は目的地まで一気に向かうからな」
そうしてバスが出発する。
活性化するヴィランを警戒し、今回の合宿は例年と目的地を変更しているらしい。
しかも俺達生徒にすら目的地を隠すという徹底振り。
知っているのは本当に極々一部の人間だけだそうな。
「回原菓子食うか?」
「お!マジ?いいの?じゃあもらうわあんがと」
バスでの俺の隣の席は泡瀬。
お互い夏休みに何してたとか話していると、後ろの席の円場や鱗も話に混ざってくる。
んで席を挟んで4人で話す。
「しかし回原のバイクは良いよな!」
「インターン始まると確か給料出るんだろ?俺も金貯めてそのうちバイク買うから皆でどっか走り行こうぜ!!」
「いいなそれ!!俺も買うわ!めっちゃ楽しそうじゃん!!」
そんな普通の高校生のような会話で盛り上がった。
……そして時間が過ぎ………
「先生……いったいここは何処でしょうか?」
クラス委員長の拳藤が代表し、ブラキン先生にそう聞いた。
……うん、俺達は林間合宿の目的地にバスで向かっていた。
それは間違いない。
だが……
「……どう見ても未整備の樹海ノコ……」
小森の言葉に皆がうんうんと頷く。
そう、バスが止まり降りた目の前。
そこはどう見ても未整備の森。
それもかなり広く広大な森。
見るだけで人の気持ちを不安にさせるような、黒くて暗い恐ろしい森。
それが俺達B組生徒の前に広がっていた。
見ればいつの間にやらA組のバスが見えない。俺達と違う何処かに降ろされたのか連中?
そしてバスの横には見慣れない車。こんな所に車?
「ここが目的地で間違いない。元々ここでお前達の合宿をサポートしてくれる人達と合流する計画だ。では早速紹介しよう。よろしくお願いします」
ブラキン先生の呼び声に応えるように、その車から2人のヒーローが飛び出して来た!!
「猫の手手助けやって来る!!」
「どこからともなくやってくる……」
「「ワイルドワイルドプッシーキャッツ!!」」
可愛らしい服を着た女性と、可愛らしい服を着た筋骨隆々のお方。
そんな2人のヒーローが俺達の目の前でポーズを決めて名乗りを上げた。
「プロヒーローのワイルドワイルドプッシーキャッツのお二方だ。本来4人のチームだがA組の方にも2名行っている。こちらが虎、こちらがラグドール。皆しっかり挨拶するように」
「「「「「「よろしくお願いします!!!」」」」」」
「わー!!ワイプシノコ!!いーなーコス可愛いノコ!!」
2人を見て小森が歓声を上げた。俺はあまり詳しくないけど有名なヒーローなのかな?後で誰か知ってそうな奴に教えてもらおう。
虎と紹介されたヒーローは俺達B組生徒全員を端から端までじーっと品定めするように見ると、
「さて……バスの目的地がここだと聞いて戸惑っている者もいるだろう。簡単な話だ。バスの目的地はここ。合宿の目的地はここではない。単純にただそれだけの話だ」
「つ……つまり、どういう事ノコ……?」
聞きたくないノコ……聞きたくないノコ……
さっきの歓声が嘘のようにテンションの下がった小森の声。
……あー、つまりこれは……
「貴様ら有精卵共はこれからこの森を……我特製の
「「「「やっぱそういうオチか!!!」」」」
「「「「しかもまさかのトラップ付き!!!!」」」」
「もし森で迷っても安心!!アチキの個性でしっかり見つけてあげるからね!!!」
「「「「「しかもなんか迷う前提!!!!」」」」」
「どうしたぁ?貴様ら林間合宿に来たんだろう?楽しい楽しいハイキングだよハ・イ・キ・ン・グ」
「目的地の宿舎にはここから真っすぐ森を通り抜ければ辿り着けるよ!!さあ皆張り切って行ってみよー!!!」
「我等であれば3時間もあれば宿舎まで辿り着ける……そうだな、今が9時半。昼食には間に合う計算だ」
マジかよ……森で真っすぐってかなりハードル高いぞ。
しかも舗装された道と違い、こういう未整備の森は歩くだけで体力も時間も使う。
ホントに3時間で着くのかこれ?
拳藤の方を見る。クラス委員長。リーダーはどういう判断を下すか?
B組全員が拳藤を見ていた。誰もが拳藤をリーダーとして、指揮官として認めている。信頼している。
拳藤はしばらく考えた後、
「回原、とりあえず上に飛んで真っすぐ進んだ先に目的地の場所が見えるか確かめてくれる?」
「オーケー」
指揮官の指示に従い空を飛び上空から森を偵察する。
とりあえず真っすぐ方向には……と、アレか?
森の中、確かに人の手で整備された建物らしき何かが見えた。おそらくあれが目的の建物だろう。
目的地を確認すると下に降りて拳藤に報告する。
「確かに真っすぐ行った所に建物らしき物は見えたぞ」
「わかった。レイ子、泡瀬が作ってくれた矢印型に溶接したこの木の枝を私の上空に浮かせてくれる?矢印の向きはこのまま真っすぐ維持して」
「わかったわ。なるべく矢印の向きは維持するけど、私が気が付かないうちに向きがズレるかもしれないから時々確認する時間をちょうだい」
「わかってるよ。切奈、時々上空に飛んでレイ子の向きの確認お願い」
「オッケー」
「回原、使ってばかりで悪いけどトラップが森に仕掛けられてる以上、アンタの武術と危機感知を当てにさせてもらうよ。回原を先頭に鉄哲、私、宍田、庄田と近接得意なメンツで前を進む!骨抜、塩崎は中間で皆のフォロー!物間は最後尾から全体見ながら必要そうな所のフォロー頼むよ!!必要そうな個性があったら必要に応じてコピーさせてもらって!!」
「「「「「わかった!!!」」」」」
「よし!!行くよ皆!!!」
拳藤の掛け声を合図に、俺を先頭にB組全員でこの森へと踏み込む……
む………
む…………?
「……回原?早速だけど何かあった?」
まじかよ……見たいな顔で拳藤が代表して俺に問いかけてきた。
それに……
「あったわ。まじかよガチのトラップだぞコレ……」
こちらに近づいて来た拳藤に、俺は足元を指差し示した。
「……これは糸?ワイヤーか何かかな?」
「どちらかと言うと釣り糸が近そうだ。手で触っても皮膚は切れないけど、光が反射しないから森の中では気づきにくい……」
「回原……聞きたくないけど皆を代表して聞くよ……この糸の先には何があると思う?」
拳藤の不安そうな問いかけ。それに応える為、俺はその張り詰めた糸の先に歩き、それを見つけた。
「アマッポです……アマッポですよB組の皆様……」
「アマッポって……その、ゴールデンなカムイのあれに出てくる、アマッポ?」
「ああ、そのアマッポだ……」
アイヌの伝統的な仕掛け罠。
糸などの仕掛けに引っかかった獲物を撃ち抜く自動設置弓。
「流石に鏃はゴムに変えてるけどな……森の中で気付かず食らうとダメージデカいぞこれ……」
アカン……入り口からこれか……
恐ろしい……まだちゃんと森に入ってすらいないのに……
思ったよりトラップの森はしっかりトラップの森をしていた。
「黒色……個性で先行してアマッポ見つけたらこちらに教えてくれる?」
「待て黒色……個性をコピーさせてくれ。僕も行く……他、罠に気づいたら大声出して連絡するよ」
「頼む物間……峰田、モギモギで盾作って矢が来たら防御頼むよ。泡瀬に協力頼んで即席の盾を溶接で作ってもらって。円場も矢を防ぐフォロー頼む。凡戸は見つけたアマッポを個性で固めて矢を撃てないように頼む」
「この感じだとアマッポだけじゃねえだろな罠は……」
「俺の個性スティールで先行する!俺の個性なら大体の罠にも耐えられる!!皆!!俺の通った道をついてこい!!」
「待て鉄哲!!罠がアマッポだけって決まったわけじゃない!!って!!早速かよ!!!」
「「「ぎゃあーーーー!!!!鉄哲が落とし穴に落ちたーー!!!!」」」
「ポニー!!個性で鉄哲を落とし穴から引っ張りあげて!!」
「ハイ!!ワカリマシタ!!」
「「「って!!その鉄哲を助けに森に入った角取も罠にかかった!!!」」」
あれはくくり罠か?
山や森の中でイノシシとかを捕まえる罠。
特定の範囲に足を踏み込むと糸やワイヤーが締まり、対象の足を縛るアレだ。
やべえなコレ……
何がヤバいって、まだちゃんと森にすら入っていないのだ俺達。
罠の密度がヤバい。
ヤバすぎる。
ぶっちゃけ殺意を感じるぞこの罠の密度は……
後ろを見る。
そこには笑う虎とラグドールの2人のヒーローがいた。
「どうした?まだハイキングのハの時にも辿り着いてないぞ。後ろを振り向くより先に前に進んだらどうだ?」
「大丈夫!!罠はたくさんたくさん仕掛けてるけど死なない程度の罠にはしてるから!!!」
「さあ急いで進まないと昼飯が無くなるぞ。UltraしろよUltra。Plus Ultraをしに来たんだろうオマエらは?UltraするんだよUltraを」
「それってつまり死ぬ事以外は妥協しろって言ってるのと同じ事ノコーーー!!!!」
結論めちゃくちゃUltraした。
UltraUltraUltraSOULって感じ。
「丸太飛んできたー!!!!!」
「こっちはワイヤーネットだ!!!」
「唯!!ワイヤーネットのサイズ巨大に変えて皆を助けて!!!丸太は吹出が止めてくれたの?ナイス!!」
「骨抜!!この辺の地面沼地みたいになってる!!個性で柔らかくしてからもう一回固められないか!?」
「やってみる!!」
「ってこんな所にデカい川かよ!!茨!!ツルで橋作れる?」
「任せてください……主よ、皆を助ける力をここに」
……んで何とか夕飯までには合宿の宿舎に辿り着けた。
皆ぐったりって感じ……
先頭を歩き罠を見つけたり引っかかった罠を破壊したりしていたので、正直俺も疲れた……
「アチキもっと時間かかるって思ってたから予想外だにゃん」
「うむ……これなら明日からも厳しい訓練にしても問題なさそうだな」
それを聞いてクラスメイトの何人かがバタンと地面に倒れた。
気持ちはわかる。
絶望した!ってやつだろ。
うんうんよくわかるよその気持ち。
まあ明日からも皆で頑張ろう。