そして林間合宿3日目。
昨日と同じように個性伸ばし訓練を皆で行った。
印象深いのは相澤先生の言っていた『原点』の話。
回原旋にとっての原点……オリジン。
それは中学の時。
初めて空を飛んだ時のあの景色とあの気持ち。
心が滾るのがわかった。
あの時の景色とあの時の気持ちを思い出して、俺が燃えない訳はないのだ!!!
「おおっしゃあぁぁぁ!!!!!!」
両手両足から放つ竜巻。
それをさらにさらにさらに力強く放つ!!!
昨日より増えた重りを気にしないように高く速く飛び!!
昨日より巨大な土の壁を貫けと更に強く竜巻を放った!!
本日の訓練が終わる。
夜の食事は肉じゃがだ。
皆で手分けして作る。
大量の食材を切り分けて、調理するチームに渡していく。
キャンプで肉じゃが?とは思ったけど何だかんだ皆で楽しく作り、美味しく頂いた。
んで、夜が完全に暗くなった頃に、肝試しの時間となる。
森の中、スタート地点となる広場に皆が集まる。
広場には森へと続く道が2つ。片方が入り口。もう片方が出口。
森の中を入り口から出口へと続く円型の道だそうな。
くじ引きでペアを決めて、基本2人1組でこの道を歩き、中間地点のラグドールさんの所を経由してから戻ってくるというルート。
A組とB組対抗の肝試しなので、まずは俺達B組がA組を脅かす役となる。
「物間がいないから19人か……基本3人で組んで中間地点を挟んで3チームと3チームで配置する感じかな?」
「1つ4人チーム出来るけど、計6チームで分ける感じか。それでいいんじゃね?」
手早くチームを分けて配置に着く。
俺のチームは凡戸と柳。
「凡戸と柳の個性で接着剤を人魂みたいにして飛ばすってどーよ?」
「いーねー良さそう。接着剤の固まる速度調整して上手く人魂みたいな形にしてみるね」
「接着剤くらいなら操るのに問題ないわ。回原はどうするの?」
「俺は飛ぶ人魂にタイミング合わせて気配消して背後から声かけて脅かすかなあ」
空飛ぶ人魂。背後から「うらめしや」する俺。
後は上手く俺が相手の死角を取り続け、相手から見えないようにすれば結構怖いのではなかろうか?
そんなこんなで色々相談しながらプランを詰めていく。
そんで、肝試しが始まった。
「結構皆いい感じに驚いてくれてるね!!」
凡戸が楽しそうにそう言った。
「回原のは別の意味で皆驚いてた気がするわ……」
柳も楽しそう。
A組は5人補習の為、8ペアの筈。
通過した人数的にもうそろそろ終盤。
楽しい楽しい肝試し。
……もう少しで、楽しいまま終われた筈だったのに……
「……凡戸、柳……呼吸をしばらく止めてろ」
「回原くん?」
遠くからは若干の焦げ臭い匂い。
そして夜闇に紛れて広がる怪しい紫の霧のような何か……これはガス攻撃か!?
「ドリルハリケーン!!」
「回原!!何を!!」
その悪意を感じるガスを竜巻で軽く払う。
これでしばらくは大丈夫だろう。
森の中にはクラスメイトもA組もいる。
あまり迂闊に竜巻でガスを吹き飛ばしすぎると、良くない影響が生徒達に出る可能性があった。
「……よし、しばらくはこれで大丈夫。念の為呼吸は細く浅くを意識しといてくれ」
「回原くん……もしかして、今僕達ガス攻撃されてる?」
「攻撃って……そんな……一体誰が?」
3人で顔を見合わせる。
誰かが口に出すとその最悪の予想が現実となってしまいそうで、それが嫌で3人とも口を閉ざす。
だが間違いないだろう。
何者かが……そう、ヴィランと言っていいだろう。
ヴィランが俺達を襲撃してきたのだ。
「さっき払ったばかりのガスが広がってきたな……ガスの発生源はあっちか」
とりあえず再度竜巻でガスを払う。
ここで、頭の中に声が響く。
マンダレイさんの個性だ。
ヴィランの襲撃を受けた事。
出来るだけ戦闘を避けて逃げ、施設に避難するように、との事。
なるほど当然の指示だと思う。
だけど……
「回原……?」
こちらを見てくる2人に俺は、
「……2人は施設に避難してくれ。俺はガスの発生源に向かってヴィランを倒す」
……ガスは、不味い。
ウチの生徒達なら例えヴィランに襲われても耐えながら逃げるくらいは出来るだろう。
しかし、ガスは、不味い。
催眠・痺れ……様々な種類の毒ガス。
それを扱うヴィランを放置すると間違いなく状況が悪化する。
そもそもこのガスは吸うとどうなる?
もうすでに吸ってしまったヤツはいるのか?吸い続けて大丈夫なものなのか?
放って置くといつまで滞留する?その場合生徒の救助活動に影響しないか?
……色々と嫌な想像が浮かんでくる。
そして、肝心なポイント。
「さっきのマンダレイさんの指示に、ガスへの注意が無かった。つまりプロヒーロー達はまだガスの事を把握していない」
……だから、このヴィランを放置するのは不味いのだ。
俺はそんな事を2人に説明する。
そして、
「ヴィランを見つけて物理的に仕留めて行動不能に……最低限ガスだけは止めてくる」
「でも……私たちまだ仮免もないのに、勝手にヴィラン退治なんてしたら不味い事にならない?」
柳の最もな疑問。だが、
「おそらく大丈夫だ。保須市での経験上、後で先生達が倒したとこじつけられる様な物理手段とかで倒せば、後は何とかなる」
ヒーロー殺しはエンデヴァーさんが倒し、捕まえた事になった。
今回は俺が倒し、プロヒーローの誰かが倒したとしてもらえばいい。まあ色々後で言われるだろうが。
それはもう覚悟した。
「……わかったよ。僕と柳さんは戻ってこの事を伝えてくるね。回原くん……気を付けて」
「ああ、2人もな」
そうして俺は森の中に飛び込んだ。
竜巻でガスを吹き飛ばしながら進む。
ガスは渦を巻くように動いていた。
一方の側面から迫るガスを吹き飛ばしながら、ガスの中心を探る。吹き飛ばしたガスの断面。その色の濃い方向。
その方向におそらくこのガスの中心がある。
そしてこのガスを発生させているヴィランもそこにいるのだろう。
自分の周りのガスを吹き飛ばしながら、慎重に進んで行く。
そして……
「やあ。君は雄英体育祭の優勝者だっけね。こんな派手にガスを吹き飛ばしながら進んで、こっちが気づかない訳ないだろう?体育祭優勝者だけあって体力バカ自慢の脳筋なのかな?つまり君はバカって事ね」
いた。
小柄で学生服を着た、顔をマスクで隠しガスの中心で1人立つヴィラン。
ヤツは俺の方に拳銃を向けると、
「君みたいな脳筋バカばかりがチヤホヤされてムカつくんだよね!!間違っ……!」
……のんきにそんな事を語りだしたので、呼吸をずらして一気に懐に飛び込む。
ヴィランが慌てて一発発砲するが、銃口から弾道はわかるし引き金を引く指の動きもバレバレ。簡単に避けられる。
「間抜け」
「な!!く!!グエ!!!」
調子にのって片手で拳銃を持っていたので、その手ごと拳銃を蹴り飛ばす。ヴィランの手から拳銃が吹き飛んだ!!
んで続けてマスクごと顎を砕く一撃を叩き込む!
打撃の勢いで吹き飛び、倒れるヴィラン。
大して鍛えてなさそうな貧弱さが服の上からも伝わる体型。
間違いなく今の一撃で意識を刈り取っただろう。
周囲に漂うガスを竜巻で吹き飛ばし、ヴィランを観察する。
新しいガスはヴィランから発生していない……
やはりコイツが個性でガスを発生させていたようだ。
倒れたヴィランを拘束。相手の衣服を利用して拘束するのには手慣れている。動いていないなら楽勝ですらある。
拘束している間に、先ほどのマンダレイさんからのテレパスでの連絡について考える。
プロヒーロー・イレイザーヘッドによる戦闘許可。
ヴィランの攻撃で施設に火災が発生。現在消火中の為、念の為肝試しのスタート地点の少し後方を避難エリアとすること。
余力がある者は消火活動に協力して欲しいということ。
そしてヴィランの狙いがトンガリということ。
当初の目的であるガスを止める事には成功した。
さてこれからどうするか……
ざっくりと状況を整理する。
ラグドールさんを挟んで肝試しのコースを前半と後半に分けた時。
俺がいる前半側にはクラスメイトで拳藤のチームと鉄哲のチーム。A組は八百万ペアと麗日ペアかな多分。
後半側にはそれ以外のクラスメイトと……A組の爆豪ペアと常闇ペア・葉隠ペアか。
心配なのは後半側には俺のクラスメイトでは直接戦闘力のあまり高くないクラスメイトが固まっていること。
ただし、A組からはトンガリ・轟・常闇という強力なメンバーが揃っている。
逃げるだけならなんとでもなりそうなメンバーではあるが……
それにこちらにいるメンバーも気になる。ガスを吸ってしまっていたら大変だ。助けないと。
そんな事を考えていると、
「回原!!」
「それヴィランか!!流石だぜ回原!!」
「拳藤!!鉄哲!!無事だったか!!」
何処で手に入れたのかガスマスクをつけた拳藤と鉄哲が走ってこちらに近づいて来る。
二人もガスの危険性を考え止めに来たのだろう。
手早くお互いの情報を交換する。
「レイ子と凡戸は無事そうだね。良かった」
「そっちは骨抜と塩崎がガスで昏倒中か……」
「今は小大に見てもらってる。どうする拳藤?」
鉄哲に聞かれ、拳藤は少し考えてから、
「……意識の無い2人を守りながらヴィランに襲われるのは避けたいね。一度皆で避難エリアに下がろう」
「……そうだな」
先ほど凡戸・柳と別れた時とは状況が違う。
意識を失ったクラスメイトがいるならまずはそのメンバーを連れて避難するのが先だろう。
……当然、狙われているというトンガリは心配だ。
だが、あのトンガリだぜ。
轟も近くにいる筈。
……きっと大丈夫だ。
大丈夫だろう。
「よし!!そうと決まったら行こうぜ!!一旦小大達のいる所まで戻ってから避難だ!!」
先陣を切って走り出す鉄哲を追いかけ、俺達は森を進む。
そして小大と合流。
「鉄哲は骨抜担いでくれる?唯は茨をお願い。私が先頭に立って進むよ。回原は念の為最後尾で警戒をよろしく」
「わかった」
万が一に備えて俺を最後尾で警戒させるのは正しい判断だと思う。暗い森の中での背後からの不意打ちは一番に警戒しなければならない。
拳藤の指示に従い、俺達は森の中の道を進み、施設へ向かう。
「……途中の肝試しのスタート地点の広場はどうする?」
「……確かさっきのテレパスの感じだと戦闘中だったよね?出来れば避けたいね」
「とはいえ避難エリアが広場の少し後方ってアバウトな指示だからなあ」
「とりあえず近くまで行ってみて様子を見よう」
「ん」
そうして更に進み、広場の近くまで来た。
広場では虎さんがオカマのような男と、マンダレイさんが凶悪な顔をした男と戦っていた。
ヴィランは2人だけか……ならば、
「回原?」
「拳藤、後ろ警戒しといてくれ。1人のしてくる」
「ちょ!ちょっと!!」
狙いはこちらを全く警戒していないマンダレイさんと戦っている男だ!!
音も無く広場に飛び込み、一瞬で間合いを詰める!!
「シッ!!!」
「へ?ぐぶ!!!」
最後の最後に男は俺に気づいたが遅い。
顎を砕く渾身の一撃をお見舞いする。
顎が砕かれ脳を揺らされた男が吹っ飛んだ。
「ちょ!!ちょっと!!いくら不意打ちだからって学生相手に瞬殺!?」
俺の突然の乱入に戸惑うオカマ。
「拳藤!!今だ!!」
「ああ!!クソ!!次からはもう少し説明してよね!!行くよ皆!!」
拳藤の声かけ。
それに合わせ骨抜と塩崎を抱えた鉄哲と小大が広場を突っ切る為走り出す。
それをフォローする拳藤。
「くっ!!」
「させると思ったか!!」
妨害しようとするオカマを虎さんとマンダレイさんが止めてくれる。
「回原くんありがとう!!ここは私たちで大丈夫!!あなたも避難して!!」
「わかりました!!」
広場を通過していく拳藤達の背後を警戒しながら、俺も皆について広場を通過する。
そしてついに、
「相澤先生!!」
「よく無事で戻ってくれた……俺達教師の力不足だ。本当にすまない……」
俺達は避難エリアに到着した。
そこには相澤先生と小さな子供がいた。
「動けないのは骨抜と塩崎か……回原、お前はここに残って避難エリアの防衛を手伝ってくれ。残りは消火活動を頼む。柳と凡戸もそちらに行っている」
「……そんなに火が強いんですか?」
「ああ……ヴィランの個性による火の……その火力が異常に強かった……俺が個性を使えさえすればこんな事にはならなかったのに……」
悔やむ相澤先生。
4月のヴィラン襲撃事件の後遺症が、まさかこんな形で影響してくるとは……
くそ……本当は皆の避難が無事完了したら、俺はトンガリの援護に向かいたかったのに!!!
今、ここにトンガリ達はいない。
間違いなくヴィランの襲撃を受けている。
それを……助けに行けないだなんて……
……しかし……
倒れている骨抜と塩崎を見る。
この2人を放置して、トンガリだけを助けに行く訳にもいかない……
特に塩崎がいる……トンガリの性格なら、俺はいいからそっち守ってろやボケが!!とか間違いなく言うだろう。
……だから、俺はここを離れられない。
「……すまん、回原……」
「……いえ」
こうして動ける奴は消火活動に。
俺と相澤先生は避難エリアの防衛に。
俺たちはそれぞれの役割を果たした。
そして、結果として……
トンガリが、ヴィラン連合に連れ去られてしまった。
昨日までの楽しい楽しい林間合宿。
その全ての思い出。
……その思い出全てと引き換えでもいいから、アイツを返してくれないかな……
なあ……ヒーロー……