……とあるヒーローの話をしよう。
……いや、とあるヒーローなんて言い方は良くないな。
世はヒーロー飽和社会。
ヒーローなんて呼び方では適切ではなかった。
世に溢れかえるヒーローと彼を同列に並べるのは正直適切ではない。
……そう、英雄。
英雄だ。
なんなら大英雄と言っても過言ではないだろう。
そんな英雄……大英雄。
……今も、俺の目の前で立っている傷だらけの英雄。
こんなにもボロボロなのに……これまでの長年の戦いでこんなにも弱ってしまっていたのに……
……それでも、俺達の為に戦い続けてくれている英雄。
立ち続ける大英雄。
大英雄・オールマイト。
……今夜は、そんな彼が主役の物語。
そんな……物語だ。
俺達が、そんな物語にしてしまった……
してしまったんだ……
「……オールマイト、お願い……助けて!!」
オールマイトの守った背後の女性……彼女の必死の呼びかけ。
「……お嬢さん……勿論さ。ああ……多いよ……ヒーローは……守る物が多いんだよAFO……だから……負けないんだよ!!」
英雄が……構えた。
ボロボロで、弱りきった瀕死で……それでも……構える!!
力を振り絞って……叫ぶ!!
「何だ貴様ぁ!!その情けない姿は何だオールマイトォ!!!」
エンデヴァーさん!
仮面のヴィランに牽制の炎を放ちながら、エンデヴァーさんが到着!!参戦する!!
増援!!待っていたヒーローの増援だ!!
これなら何とかなる!!なんとでもなる!!
俺はそう確信した。安心した。
でも……
彼は……英雄は……
……オールマイトさんは、少し違った。
……もう、貴方は後ろに下がってもいいのに。
……下がっても、誰も文句は言わないのに。
「知っているかAFO?まあ知っているだろうけどな」
「何だいオールマイト?」
守るべき人を背後に庇い、増援が来たのに、英雄は尚魔王に立ち向かう。
……その傷だらけの姿で。
……俺達の先頭に、一人、立って。
まだ、前に立っていた。
戦おうとしていた。
……まだ、俺達に伝える事があると。
まだ戦いの中で伝える事があるのだと。
「私は今、雄英高校で教師をしているんだ」
「…………」
「良い生徒が良い教師を育てるのだろうな……本当に……私が見ている生徒達は皆いい子達だよ。本当に……日々たくさんの事を逆に皆から教えてもらっている。AFO、君はこんな素晴らしい言葉を知っているか?」
……そこで、オールマイトさんが俺の方をチラッと見る。
「『天を、貫く』」
「………何を言ってるんだい、オールマイト……」
「ふふ……『天を貫く』……素晴らしい言葉だ……本当にね。私は自分の目の届く範囲を守ってきた……でも、彼は……彼と共に学ぶ彼等なら……きっと目の届く範囲だけでなくその外まで……ひょっとしたら天を貫いて宇宙の果てまで……全ての救いを求める人達を守れるんじゃないかって……最近は本当にそう思うんだよ。私が勝手に決めていた限界を超えて……彼等は今後、大きく羽ばたいて行くんだろうねきっと」
「だから……何だって?」
「私はヒーローになってから色々な所をずっと飛び回ってきて……ふふ……こんなにも一つの所に落ち着いて人々と接する機会がしばらく無かった。良いものだね。一つの所に留まり、多くの人たちと関係を深めるという事は。私は多くの人を救ってきたつもりで……でも本当は表面をなぞっただけで、本当に人を救ってはいなかった……そんな事すら最近考えるんだ」
「気でも触れたのかい?オールマイト?」
「そんな事ははないさ。ここからが良いところなんだぜAFO……いや……オール・フォー・ワンだなんて貴様にはだいそれた名前だな、ただの『ワン』」
「……はあ?何を言ってるんだい?」
「オール・フォー・ワンだなんて素晴らしい名前は、お前には似合わないって言ったのさただの『ワン』。お前は何処までも何処までも1人だろう?仲のいい友人や仲間はいるのか?部下を使う柄でもないだろう?お前はせいぜい利害関係で縛った駒を扱うくらいだ。お前には部下すらいないんじゃないか、なあ『ワン』?」
「貴様……オールマイト……」
「守る物が多くて大変なんだよこっちはね、ただの『ワン』……でも、それは幸せって事なんだぜ、ひとりぼっちの『ワン』……守りたいって思えるのは大切だからだ、ソロの『ワン』……それは幸せって事なんだぜ。お前にはそんなものないだろう?なあ『ワン』よ……1人だけで生きている『ワン』。大切なものを何一つ持たない悲しい『ワン』」
「きさ……貴様ぁ……」
「大変だけど、私はヒーローをやってきて良かったよ。おかげで多くの大切なもの……多くの素晴らしい人達に出会う事が出来た。その代償がこの傷だらけの姿なのだとしたら……この傷の数だけ素晴らしい出来事があったと言う事さ。何も後悔はないね」
「……御託はその辺にしたらどうだい?早く死んでくれないかなぁオールマイト……」
「ふっふっふ……そんなに焦るなよ『ワン』……魔王を気取る割にちょっと小物過ぎないか?もう少し話させてくれよ……今、とてもとても大切な所なんだ」
……ほんの一瞬……オールマイトさんは俺を……トンガリを……そしていつの間にか集まってきていたヒーロー達をゆっくりと見回した。
「少年達……そして良ければ皆も聞いて欲しい。『人を助けるって、つまり、その人は怖い思いをしたって事だ。命だけでなく、心も助けてこそ真のヒーローだと私は思うんだ。どんだけ怖くても、自分は大丈夫だって笑うんだ。世の中笑ってる奴が一番強いんだからね』」
……一言も、聞き逃せない。
これは……オールマイトの……
きっとオールマイトの……
最期の言葉……なんじゃないか、って……
「ふっ……心配させたかな我流Z少年……それは違うよ。私は過去も今までもこれからも……一度も死ぬつもりで戦った事などないよ。当然今もね。未来ある生徒達に……『自分が死んでもいいからヴィランを倒せ』だなんて教師の私が教える訳はないだろう?私は生きて、そしてこれからこのヴィランを倒す……その自信があるから今もこうして皆の前で立っているのさ」
「………」
「『限界だ……って感じたら思い出せ。何のために拳を握るのか……原点……オリジンってやつさ。そいつが君達を限界の少し先まで連れてってくれる』」
死を否定するオールマイト。
……でも、わかってしまった。
……これは遺言だ。
間違いなく遺言だった。
オールマイトという大英雄。
その、大英雄としての死。
英雄としての、遺言。
俺達に、英雄が伝えたい言葉。
わかってしまった。
オールマイトは、死なない。
……しかし、ヒーローとしての彼は……
ヒーローとしての彼は……ここで……この瞬間に終わってしまうのだと。
「『限界だって感じたら思い出せ』守る物が多いって幸せを。そしてオリジンを!!だからヒーローは負けないんだよ!!」
……自然、涙が溢れてきていた。
仮面に隠れて、外からは見えないかもしれない。
……だけど、俺は泣いていた。
この偉大なるヒーロー。
大英雄。
オールマイトの、ヒーローとしての最期の場に、俺は今立ち会っているのだと。
弱りきったその姿。
だが、今も日本中で皆が彼を応援している。
俺達の、ヒーロー!!
「さあ来いよひとりぼっちのソロの『ワン』……恋人も家族も作れなさそうだから、精々いても親兄弟くらいかな貴様には。でも貴様は家族にも嫌われそうだからなあ!!親にも兄弟にも姉妹にも嫌われてケンカ別れしてそうだよなあ!!!」
「オオオオルマイトオオオオオオ!!!!」
「安い挑発に引っかかるじゃないか!!図星かよ!!」
そして大英雄と魔王が交錯する!!
「ユナイテッド!ステイツ!!オブ!!スマァァァッシュ!!」
大英雄の渾身の一撃。
それは魔王を地面に打ち倒した。
……そして……
オールマイトさんが……天に拳を突き上げた。
……勝利のスタンディングだ……
弱りきったボロボロの背中。
俺はその背中を見ていた。
ガイコツの背中。やせ細って傷だらけの背中。
しかし誰よりも強く……誇り高い英雄の背中。
そして……おそらく、英雄としての最期の背中……
俺は……それを見ていた。
その偉大な背中を。
「次は……」
「……え?」
「次は……君達だ……」
……それが、オールマイトさんのヒーロー活動最期の言葉だった。
……後に、TVや新聞等の謎の偉そうなコメンテーター達はこれをまだ見ぬ犯罪者への警鐘と伝えた。
……本当に適当な連中だ。
マスコミはマジでそろそろ2、3社滅んだ方がいいレベルと思う。
警鐘だって?
全然違うだろ。本当にセンスも何もない。
……細かなニュアンスは受け取るやつによって違うかもしれない。
でも、あれは明らかに後継者へ……後継者達へと向けた言葉だった。
『すまない。私はここまでだ。後は任せる』
そんな、今まで傷だらけの体でこの国の平和を支えてきた、大英雄からの大切な大切なメッセージ。
「……泣いてんのかよテメエ」
「……まあな」
「……けっ」
「……強くならないとな、トンガリ」
「……たりめえだろボケ」
「……だから、お前も泣くなよ。もらい泣きか?」
「……うるせぇよ……これは汗だよ汗」
「……そうかよ」
俺達は、オールマイトの最期に立ち会った。
……傷だらけで戦うあの背中……その最期を見てしまった。
彼の最期の言葉……それを直接聞いてしまった。
……強くなりたい。
今までよりも、さらに強く。
……託されたものを、守れるように。
あの大英雄が……傷だらけで守り抜いてきたこの平和を。
「……やはり『貴様がキサマだったか』」
「……エンデヴァーさん……」
「……行け。あちらは警察の包囲が薄い……ただし、見逃すのはこれが最後だ」
「……ありがとうございます」
「……だから俺は6月に仮免を取らせておけと雄英に言ったのだ……」
そんなエンデヴァーさんの言葉を背中で聞きながら、俺はその場を走って立ち去る。
未だ目元は濡れた感触。
それを感じながら、夜の街を走った。
……強くなったつもりではいた。
……でも、まだまだ全然足りなかった。
……走りながらあの偉大な背中を思い出す。
強くならなければ。
……心も身体も、全てにおいて……
『次は君達だ』
あの言葉に応えたい。
そう強く思うのなら、俺は強くならなければならない。