あの後の事。
警察に見つからないようにあの場から離れ、隠しておいた着替え等の入った袋を回収。
公園のトイレなどでさっと着替えて静岡でない都内の梁山泊まで走って向かった。
家に着いたのは深夜。
事情は先に伝えていたので、起きて待っていてくれた師匠の一人にお礼を伝え中に入れてもらう、
風呂まで沸かしてくれていたのでありがたくいただく。
風呂から出てようやくちょっと落ち着いた気がする。
スマホをチェックすると、クラスメイト達やねじれ先輩からたくさんの連絡が入っていた。
『ん』
『……いやそれだけだと流石にわからんわ』
……まあ小大のこれは御愛嬌と言ったところか。
『何がとは言わないけど大きなケガとかない?大丈夫?』
本当にたくさんの心配のメッセージ。
……何だかんだ皆にバレバレだったようだ。
『何がとも言えないけど特に大きなケガは無いよ。大丈夫。心配してくれてありがとよ』
『……何がとは言わないけど……あれで大怪我もなく無事なのは正直どうなのさ……いや、本当にいいことなんだけど。安心したけど』
皆心配半分、呆れ半分って感じ。
皆からの一つ一つの連絡に対し丁寧に返していくと、結構な時間が経っていた。
『無事で本当に良かったけど無事なのが不思議不思議。何とは言わないけど。でも無茶はダメダメだよ旋くん』
『回原……あまり無茶しちゃだめだよ。アンタが強いのはわかってるけど心臓が止まっちゃうかと思った。何とは言わないけど』
『……何とは言わないけど無事で本当に良かった。安心した。今日はもうゆっくり休んでね。出来ればあまり無茶はしないで……貴方の事を心配してる人もいるんだから』
最後の最後まで何度か返信のラリーをしていたねじれ先輩、拳藤、小大へとメッセージ返し、俺は眠ることにした。
……流石に疲れた。
……でも……すぐには眠れなかった。
オールマイト………
偉大なる大英雄。
その彼の……おそらく最後の戦いに立ち会い、その背中を見てしまった。
その興奮が……俺を中々眠らせてくれなかったのだ。
……まあそうは言っても朝の5時には起きて鍛錬が始まる訳で。
日課の朝の鍛錬を終えて朝食を取る。
この後静岡の方の家に戻るのだ。
梁山泊を出て駅まで歩き、電車に乗って移動しながら、スマホでニュースをチェックする。
昨日の事件のまとめには簡単にアクセス出来た。
その凄惨な被害に顔を顰めながら目を通す。
何本かの電車の乗り換えをしながら静岡の家まで到着。
帰宅早々に鍛錬をこなしていると、居間から俺を呼ぶ声がした。居間にあるTV。画面の中ではオールマイトが会見を行っていた。
内容をまとめるとオールマイトの事実上の引退発表。
……わかってはいたがやはりショックを受けた。
でもその日の修行のメニューが軽くなる事はなかった。
はい知ってました。
「雄英高校が全寮制に移行ねえ……」
学校から届いたその連絡を受けて考える。
夏休み途中からの雄英高校全寮制への移行のお知らせ。
4月からの度重なるヴィラン襲撃。
それに対し生徒達を守る事を第一に考え全寮制にする、というような内容。
雄英高校には遠方の親元を離れ、学校近くで一人暮らしをしている生徒達も多い。
そう言った生徒達が今後襲撃を受けるような事態を避けるため、防衛設備の整った雄英高校内で寮暮らし生徒の命を守るという趣旨。まあ良いことだよね多分。
……正直ヴィランの襲撃に対してなら、雄英高校内よりも梁山泊暮らしの方がむしろ安心安全な気がするんだが……まあそれは言わぬが花というものか。
ちなみにヴィラン襲撃に対しては安心安全な代わりに、梁山泊内には他の命の危険がそれ以上にたくさんある訳なんだけど。主にその名は修行というね。ガッデム。
「しかし家庭訪問して親に趣旨の説明かぁ……ウチだと長老ですかね?」
「……旋ちゃんや……内弟子にしておいてこう言うのもあれなんじゃが……こういう時は普通都内の実家のご両親を指すのではないかな?」
「あ……」
「おいちゃん娘にそれやられたら流石に泣くね」
指摘されてようやく思い出す。いや本当にごめんなさいお父さんお母さん。
いやいや別に仲悪いとかでは全然ないのよ。今でもたまに実家帰って一緒にご飯食べたりしてるし。親子関係は良好である。
……ただごめんなさい……ほんとごめんなさい今のは……
どうしても存在感が薄くなってしまうの……
師匠達としては俺が雄英高校通うのに寮生活が条件ならまあいいんじゃないの?という感じ。
後は両親と俺で決めるように、との事。
両親に連絡を取ると既に話が入ってるようで、家庭訪問の日程を調整する。
んで家庭訪問の日となる。
来てくれたのはブラキン先生とミッドナイト先生。
二人ともきっちりとしたワイシャツなどのビジネススタイル。
ヒーローコスチュームでないキッチリとしたこういった服装は新鮮だなあ。
特に何も問題なく、あっさりと家庭訪問は終了。
「あの……我々が言うのもなんですが……こうもあっさりと決めていただいてよろしいのでしょうか?」
「正直。もう少し反対というか……何か厳しい事を言われると覚悟して来たのですが」
先生2人のそんな言葉にウチの両親は。
「旋の決めた事ですから」
「元々中学時代から内弟子生活ですし……正直今とほとんど変わりませんので」
とあっさりと許可。
理解があるのか適当に扱われてるのか、コイツはそんな簡単に死なないだろうという謎の信頼なのか?確かに不思議ではある。
あっさりと終わった家庭訪問。
両親の許可は取れたので、この後梁山泊に行き正式に寮生活をする事の報告をする予定だった。
先に連絡しておいたので、多分師匠達は全員いると思う。
そして、俺は梁山泊へと足を進めた。
『無敵超人』
『あらゆる中国拳法の達人』
『哲学する柔術家』
『喧嘩百段』
『裏ムエタイ界の死神』
『剣と兵器の申し子』
『風を斬る羽』
『一人多国籍軍』
梁山泊に着くと、やはり師匠達は全員揃っていた。
俺は師匠達が集まる部屋に入ると正座し頭を下げた。
「本日は皆様お集まりいただいてありがとうございます。私の通う雄英高校がこの度全寮制に移行する事となりました。一度内弟子を抜け、寮生活の許可を頂きに参りました」
俺の言葉に対し、室内には擬音語しそうな勢いのゴゴゴゴゴ……的な気配が漂う。
そして、
「良いじゃろ。許可する」
「……あれ?思ったよりあっさりと許可していただけるんですね」
「ヒーローになる為に雄英高校に通う事は旋ちゃんの決定じゃ。それに必要なことじゃからのう……そう言う訳で……」
そこで長老が真剣な目で俺を見て、
「回原旋くん。梁山泊を代表し君の梁山泊の内弟子、そして弟子卒業を今ここに認めよう」
……そんな不思議な言葉を、長老が言った。
そつぎょう……卒業……卒業?
「え……」
卒業?
弟子の卒業?
「……あの、雄英高校が寮生活になるから一時的に梁山泊を出るだけで、卒業したらまた戻ってくるつもりでいたのですが……」
なのに……弟子も卒業だって?
……予想外過ぎて……ちょっと頭が回らない……
「よい機会じゃからな。元々は中学卒業と同時に内弟子卒業の予定じゃったしのう」
「それに元々1年前くらいに実力に関しては弟子級を卒業して妙手級までは到達出来ていたしね」
「そっからじっくり約1年くらいは仕込めたからな。しかも兼一の修行時のノウハウ付きだ!!後は卒業して自分一人で修行しても勝手に強くなっていけるだろうよ!!」
「……でも卒業……さびしい……」
「旋!!アパチャイ寂しいよ!!」
「小さい子供の頃から一緒にいますもの……私も寂しいですわ……」
「お子さんがいない師匠にとっては……旋くんは自分の子供みたいな所もありましたからね……まあそれで皆で雄英近くまで押しかけた所もありますし」
「おいちゃん子供いるけど旋ちゃんも自分の子供みたいに思ってたよ」
「師匠達……」
次々に師匠達から温かい言葉をかけてもらう。
それを聞いて、すっ……と自然、胸にようやくその言葉が降りてきた。
内弟子、そして梁山泊の弟子卒業。
……目から、ほろりと涙がこぼれた。
……何だか泣いてばかりだな最近、ほんと。
再度、頭を下げ、
「今まで本当に!!本当にありがとうございました!!」
改めて言葉を伝える。
「本日!!回原旋!!梁山泊の弟子を卒業させて頂きます!!でも!!」
……でも……だけど!!
「……だけど!!だけど!!」
だけど!!だけど!!
「また!!また梁山泊にお邪魔させていただいてもいいでしょうか!!また皆さんに会うためにここに来てもいいでしょうか!!」
俺の言葉に師匠達は笑い……そして長老が代表し、
「勿論じゃよ。いつでもおいで旋ちゃん。ここは君の……旋ちゃんの第二の家……ここの皆も君の家族なんじゃからのう」
その言葉を聞いて、俺は!!
「はい!!ありがとうございます!!これからもよろしくお願いします!!」
そう!
卒業して関係が終わりなんて寂しいじゃないか。
皆本当にいい人達なのだ。
たかが卒業くらいで終わる……そんなのは嫌だ。
だから……これからもよろしくお願いします!!
「ほっほっほ……本当に旋ちゃんはこういう時はすぐ泣き虫になるのう………だから一つ注意しておくぞい」
そして長老はこう言った。
『流水制空圏からギガドリルブレイクをする時は気をつけろ』
と。
「旋ちゃんは基本『静の気』何じゃが……ギガドリルブレイクをする時だけ……瞬間だけ『動の気』に変わる瞬間がある」
……だから、気をつけろ、と。
「………はい」
それはいつか聞いたとある技……技術かな?
「……わかったの旋ちゃん。気の掌握をマスターしていない今の旋ちゃんでは……まだその技術を満足に使えんじゃろ。一瞬なら問題はないじゃろうが……注意するように」
「……はい。ありがとうございます」
……いつか聞いた静と動……二つの相容れない気を使ったとある技術……そしてその反動を。
……他ならぬ長老の見立て……間違いはないだろう。
……俺の中に、そんな爆弾が潜んでいる。
……だから、気をつけろ、と。
……考え込む俺の顔を見て長老はふっ……と笑い、
「……まあ、そういうのは後じゃ。せっかくの目出度い梁山泊の弟子卒業の場じゃよ旋ちゃん!そう言うのはこれから君が修練の果てに使いこなせるようになればいいだけじゃしのう!今日は弟子の巣立ちという目立たい日を祝うとしよう!!」
……確かに、そうだな。
その通りだ。
今日は今この瞬間……この時を楽しまないと。
「ですね……今後克服出来るよう頑張ります!」
ニコニコ顔でお祝いしてくれる師匠達。
「「「「「うんうん」」」」」
「ほっほっほ……じゃあ……ここからは旋ちゃんの弟子卒業お祝いパーティじゃな」
ニッコリニッコリしてる師匠達。
「「「「「うんうん」」」」」
「ありがとうございます!」
……ああ……なんて……なんていい人達なんだろう。
……本当……梁山泊の弟子になれて……良かった……
「……ほっほっほっ」
「「「「うんうん」」」」
ありがとうございます師匠達。
俺は……俺はほんとに……
ほんとにほんとに……
「よーし!!じゃあ旋ちゃん!!ここからは卒業お祝いの組手じゃの!」
……ほんと、ほんと………に……
「は……………は!!!!!はあ!!!」
「やったね旋ちゃん!!今から梁山泊の師匠達との卒業組手大パーティじゃぞう!!」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぉぁぉぉぉぉぉぉぁぁぁぉあぉあぉぉ!!!!!!!!!!!!」
ギン!!!
さっきまでニコニコ笑ってた師匠達の目からビームのような光が放たれる!!!
やだなあ!!目からビームがギンギンしてるわあ!!
卒業!!組手!!
しかも師匠達相手の!!!!
大パーティだとう!!
だとう!!
だ…………とう!!
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぉぁぉぉぉぉぉぁぁぉぉ!!!」
俺は!!俺は!!
俺は!!本当に!!不幸だ!!!!!
死ぬやんか!!死ぬやんけ!!
そんなん死ぬ死ぬ死ぬやんけ!!
「あぱ!!やっぱ最初の組手はアパチャイね!!ぶっ殺すよ!!」
「ダメえ!!最初からぶっ殺すはダメえ!!」
そしてすぐ組手が始まる!!常在戦場過ぎるでしょ!!!
「あぱぱぱぱ!!!」
「ぎゃあああ!!!」
「はっはっは!!アパチャイの奴先日のあれで旋の奴がムエタイ技使いまくったからって嬉しそうだなあオイ!!」
「何の何の!!あの仮面のヴィランの攻撃を凌ぎ続けたのはおいちゃんの仕込んだ化勁のおかげね!!」
「……あの爪の個性の攻撃は武器……避けられたのは……つまりボクのおかげ……ふふん♪」
「ふふん!!でも旋ちゃんの個性と相性いいのはおいちゃんの化勁だもんね!!旋ちゃんの個性とおいちゃん仕込みの化勁があるから下位の達人級の攻撃くらいなら軽く凌げるぐらい旋ちゃんは受けに強くなってるんだから!!」
「……まあ強化化勁があるのなら、それでも防げないように攻撃するだけだから結局同じなのですが……」
「あぱぱぱぱぱぱぱば!!!!!」
「ぎゃああああぁ!!!!」
「……旋の奴大丈夫か?アパチャイだいぶテンション上がってるぞあれ……」
「逆鬼どんは何だかんだ心配性ね……まあ、そろそろ薬用意しようかね……」
「ふむ……私も手伝おう」
「あ!!旋くん!!夏くんから『卒業祝いに組手でもしてやるよ!!』って誘いが来てるよ」
「卒業祝いで達人級と組手っておかしいでしょ!!行くわけないじゃないですか!!」
「でも『卒業祝いに奥義1個仕込んでやるよ』って言ってるよ」
「……ああ!!完全に俺の性格見抜かれてますねそれ!!『明日の午前中お伺いしますのでどうぞよろしくお願いします!!』って返信お願いします!!」
「おっけ〜〜」
「ふむ……しかし組手中にそんな他に気を取られていいのかな?」
「ダメですわね……」
「今日は……1回目……」
「アパンチ!!」
「ぎょあぁぁぁあぁぁぁおぁぁぁぉ!!!!」
「……さておいちゃん薬取ってくるね」
……そしてそんな感じに今日が過ぎていく。
俺の梁山泊の弟子生活の卒業。
そんな大切で……本当に大切な時間が。
……今まで、本当にありがとうございます。
これからもよろしくお願いいたします。