夏休みも終わりが近づく頃。
ブラキン先生に案内されて俺達B組生徒達は雄英高校内を歩いていた。
校舎から徒歩5分。
そこには極々僅かな時間で建てたとはとても思えない立派な寮があった。
地上5階地下1階建て。
生徒一人一人に個室を用意。
風呂や洗面は男女別で共用で1階に。
……興奮した峰田が先生から注意を受けたのは御愛嬌といったところかな?
2階から上が生徒達の個室がある居住エリア。建物は2階から男女別の棟となる。
生徒達の個室にはエアコン、トイレ、冷蔵庫、クローゼット付きという何ともありがたい贅沢仕様。
いいのかねこんなに至れり尽くせりで。
まあありがたいけどさ。
「今日はこの後各自自分の部屋を整えるように。事前に送ってもらった荷物は既に部屋に入れてあるからな」
先生のその言葉に従い、俺達は各自自分の部屋に向かう。
部屋割りは単純に五十音順かと思えばそんなことも無かった。
峰田を角部屋にし、その隣に物間。
峰田の部屋の階には別棟の女子の部屋は無し。
……この辺りに先生達の気苦労が偲ばれる……ほんとええ加減にせえよ峰田、と。
さて部屋片付けるかぁ……と思ったけど基本物欲がない俺の部屋なんて片付けるようなものがほんとに無い。
ベッドに勉強机……あとテーブルと椅子くらいか。
理想は畳で和風がいいんだけど……まあそこまで無理言っても仕方ないし。
後はバイク関係の物がちらほらくらい。
……あっという間に片付けが終わってしまう……
『お疲れ。部屋の片付け終わったわ。何か手伝うことあったら声かけてくれ。一階の共用スペースいる』
クラスのグループチャットにさっとメッセージを送り部屋を出る。
『ほんとか?回原の事だし、エグいトレーニング機材とか山程持ち込んで片付け大変かと思ってたけど』
『ああ、それなら「見るだけでも他の生徒達の心の健康に悪そうだ」って言われたから学校の倉庫の一角借りてそっちに置かせてもらってる』
『……それは先生の配慮に感謝するべき事なんだろうねきっと』
『流石ブラド先生』
共用スペースのソファで茶を飲みながらメッセージを返していると、
「ん」
「おお小大か。そっちも早いな」
部屋の片付けが終わったらしい小大がソファの隣に座った。
「ん」
「そっか。小大の場合個性使えば部屋の片付けとか楽だもんな」
サイズを大きくしたり小さくしたり出来るのだ。そら片付けが捗るだろう。何せ物を移動させる苦労が少ない。
「ね」
「俺か?俺はあんま物欲無くてな……そもそもあんまり物を持ち込んでないのよ」
「ん」
「そーねーインテリアとか拘れる人ってスゴイよな。男だと物間とか骨抜がスゴそうだけど。小大はインテリアこだわる方か?」
「ね」
「ああ……そっか小大も一人暮らしだったな。こだわりたくてもあまりインテリアにお金かけると親に悪いもんな」
「ん」
「そうだな。早く自分でお金稼いで色々楽しめたらいいよな。インターンは給料出るらしいしこれから楽しみじゃん」
そんな感じで楽しく小大と話す。
不思議な喋り方をする穏やかで可愛いクラスメイトの女の子。
不思議と意図が伝わるので意思疎通は問題ないんだけどほんとなんでなんだろ……
今までは昼弁当だったけど今度からどーしよーかとか色々話していると、徐々に片付けの終わったクラスメイト達が下に降りてきた。
早く降りてくるのはやっぱ男のクラスメイト達ばかり。
女の子はインテリアとかで部屋こだわるタイプが多いのかな?大変そうだなあ。
俺なんか寝れれば正直それでいいもん。まあそういうこだわりを持つのも楽しそうだとは思うけど。
降りて来たクラスメイト達含め皆で色々と話す。
今夜は一階の食堂で皆で入寮記念パーティーをする予定。
校内の食堂からデリバリーを頼んだり、俺のように料理を作ったりで皆で食べ物を持ち寄ってのパーティーである。
それまでは各自自由行動。下に降りてきたクラスメイト達と話したりなどで時間が過ぎていく。
途中吹出の部屋に行ってマンガ読ませてもらったり、俺の部屋見て呆れられたりなどまあ楽しい時間であった。
調子にのった峰田が「オイラ小大の部屋見てみたい!」と叫んで滅茶苦茶小大に拒否され凹むなどの一幕もあったり。
そんなこんなで皆の部屋を見学などしてるうちに段々と夕方近い時間となった。
「ん」
「お、食堂に頼んでた食材届いたのか。んじゃ少し早いけど飯の準備すっか。小大も料理作るんだよな?」
「ん」
「トマト多すぎないそれ?まあ俺もトマト好きだけどさ」
さあてパーティーの準備といくか。
料理は出来るけど師匠仕込の大皿の家庭料理ばっかなのよね俺のは。皆気に入ってくれるといいけど。
side小大
「んん!」(これ美味しい!トマトと卵の中華炒め!)
「そっか。そう言ってもらえると嬉しいなやっぱ」
夜になりパーティーが始まった。
食堂にはたくさんの料理!!
ランチラッシュ先生の料理がやはり人気だったけど、私が最初に狙ったのは回原お手製の料理だった。
料理中から私の好きなトマトを使って一品作ってもらうようお願いしていたのである。
目に鮮やかな卵の黄色とトマトの赤。アツアツの湯気が食欲を刺激するいい匂いと共に登っている。
回原はなんてことない普通の家庭料理と言ってたけど、普通に料理上手いぞコレ。
多分私より……と思い少し凹む。女の子的にはあまり負けたくないポイントである。
一緒に料理出来たのは楽しかったけど。
「こっちのチンジャオロースも美味しいよ!回原って中華料理が得意なの?」
一佳が回原の料理を食べながらそう聞く。
「そうでもないんだけどな。基本ウチで作ってたのが大皿で安くて腹にたまる料理ばっかでな。そうなると中華っぽいのが必然多くなるってだけ」
「ふーん、そっか」
「和食とかも一応一通り作れるのは作れるけどな。でも安くて量作るならやっぱ中華なんだよなあ」
「ん」(それは確かにわかるかも)
「ありゃ飲み物切れちまった。ちょっと取ってくるけど2人は何かいるか?ついでに持ってくるけど」
「ん」(ありがとう。でもまだあるから大丈夫)
「私もまだあるからいいや。ありがとね」
「そっか。んじゃちょっと取ってくるな」
回原が飲み物を取りに少し離れる。
そのタイミングで、
「唯、アンタ部屋の片付け全然してないでしょ?大丈夫?」
「ん」(ぎくっ)
一佳が小声でそう聞いてくる。
完全に確信している声だ。
……バレバレかぁ……
「……いくら何でも片付け早すぎるよ……個性使ったとしても流石に無理でしょうが……」
「ん」(まあね……)
実は私は、今日部屋の片付けを全然していない。
……本当はちゃんとやるつもりだった。
でも、回原がさっさと片付けて一階に降りたのを知って、片付けを中断して下に降りてしまったのだ、
……2人だけで話せるチャンスかな、と思って。
そう思った瞬間、私は部屋を飛び出して下に降りてしまった。
片付けが終わったクラスメイトから下に降りてくるだろうという事はわかっていた。
どれだけの時間2人で話せるか何てわからなかった。
……でも、少しの時間でも2人で話せたら嬉しいな。
……そう思ってしまったら、止まれなかったのだ。
部屋の片付けなんかパーティーの後ですればいい。
個性で物を小さくすれば物音は抑えられるからクラスメイトにも迷惑はかけないだろう。
夜遅くまで時間はかかるかもしれないけど、それでも、ちょっとの時間だけでも2人で話したかった。
「大丈夫?手伝いいるなら声かけてね」
一佳が優しく声をかけてくれる。
普通に心配してくれる優しいクラスメイトの女の子。
私が何でそうしたか全てわかっていて、その上で手伝いを申し出てくれる女の子。
「ん」(大丈夫。ほんとに1人でも大丈夫だよ。ありがとうね一佳)
……そして、恋のライバルである素敵な女の子。
彼女の想い人と2人で過ごす為にした行為の後始末を、彼女に手伝わせるのは流石にそれはダメダメが過ぎる。
「そっか……でも本当に必要だったら遠慮なく声かけてね」
「ん」(うん。ありがとう)
全てわかっていて、その上でそう言ってくれる子。
いい子なんだよね、本当に。
こちらに戻って来る回原を見ながらそんな事を考える。
「2人ともピザ食ったかピザ!?いやー流石ランチラッシュ先生!!めちゃくちゃ美味いぜ!!」
飲み物と一緒に取ってきた皿の上のピザを見せながら回原が話しかけてきた。
「ん」(んーん、まだ。美味しそうだね。私も取ってこようかな?)
「それなら私も行こっかな!行こ!唯!」
「ん」(うん!行こ一佳!)
2人席を立つ。
そして一緒に歩き出す。
ピザは分けられる。
……でも分けられないものもある。
その分けられない人……大切な人の、一番を争うライバルの女の子と、私は並んで歩き出した。