これは作者が早めにバイク二人乗りを書きたいという完全なるエゴ丸出しの理由によるものです。
寛大な御心でスルー頂けると幸いです。
side拳藤
寮生活が始まった。
そして残り少なくなった夏休みを利用し、私たちは必殺技を編み出す訓練を行っている。
……そんな中の、空いた時間の話。
前々からの約束。
「お待たせ。んじゃ行くか」
「うん」
回原のバイク。
その後ろに乗せてもらって、少し遠出してコーヒーを飲みに行く約束。
その約束の日。
2人とも外出許可は提出済みだ。
(……男連中はどうだか知らないけど、多分女子には気づかれてるんだろうなあ……)
校門の所で待ち合わせをしていた回原と合流する。
寮の前で待ち合わせをしなかった理由。
それは恥ずかしかったのが一つ。
もう一つ……それは唯への、配慮。
(……何となく気づいていたとしても、流石にいい気はしないだろうしね)
自分の想い人が、他の女の子を後ろにのせてバイクで出かける所を見るだなんて。
自分だったら間違いなく嫌だ。
心が、傷つく。
……だから、その様子を見せないように校門を待ち合わせ場所にしたのだ。
(……まあ多分バレてるけど)
それに関しては、仕方ない。
「ほいヘルメット」
「ありがと」
……そんな乙女達の微妙な心のモヤモヤをわかっているのか?わかっていないのか?素知らぬ顔で回原がヘルメットを渡してくれる。
流石に自分のヘルメットは無いので、回原の予備を貸してもらう事になっていた。
いつもサイドで結んでいる髪を解く。
「へえ……髪を下ろすと雰囲気変わるんだな拳藤」
「そう?」
「おう。こうして比べて見ると、サイドで結んだ時は可愛くて、降ろすと大人っぽくて綺麗な感じになるのな」
「……そりゃどーも……正直嬉しいけど……減点」
「何でだよ!」
「褒め方が手慣れすぎてる。ムカつく」
回原の師匠に年上の女性がいるのは知っている。まあそういう人達と接して来てるからこそ自然と出た言葉なのはわかる。
でも手慣れてるのは嫌で、ムカつくのだ。
でも嬉しい。
この辺複雑な乙女心である。
「何じゃそりゃ……」
「さ!行こ行こ!ここで突っ立ってても仕方ないし」
受け取ったヘルメットを被る。
解せぬ……といった様子の回原の肩を叩き、出発を促す。
「全く……なんだかなぁ……」
回原も自分のヘルメットを被り、バイクにまたがる。
私はその後ろに。
後ろから回原の身体に手を回す。
……良くマンガとかであるような、後ろから自分の胸を押し付けるような真似は、しない。
あまり自分を安売りする気もないし、そういう色仕掛けみたいなのは自分のキャラじゃないと思うし。
……まあ、コイツが私より先に波動先輩を後ろにのせた時、どうしていたのかは知らないけど。
知ってるけど、知らない。
「しっかり掴まってろよ。出発すんぞー」
「うん、よろしくね!」
私が探しといたカフェは、雄英高校から1時間もかからない所にある、川沿いの長閑な所にあるカフェだった。
ネット情報だとコーヒーが美味しくて、後内装も適度におしゃれだった。
雄英高校近くの市街地を抜けて、道路を走りながらカフェへと向かう。
運転に集中している回原の邪魔にならないよう気をつけながら、信号で止まった瞬間などに2人で色々な事を話した。
クラスメイトの事。
始まったばかりの寮生活の事。
必殺技の事。
好きなマンガの話。
ドラゴンボールでは誰が好きか?とか。
「へえ……回原はクリリンなんだ……でも何となくわかるかも」
クリリンってのが何とも回原らしいと思った。
市街地を抜けると、段々と自然が増えてくる。
季節は夏。
青い空に白い雲。
鮮やかな木々の緑。
地面の道路はグレー。
更に進むと川沿いに出た。
鮮やかな色彩の中に、川の水色が加わった。
暑いのは暑いけど、でも絶好のツーリング日和だ。
しばらく前から信号をほとんど見かけない。
だから、運転に集中する回原と話すことは無い。
……でもそれでも良かった。
鮮やかな周囲の色彩の中、とびきり鮮やかな色。
……好きな人の、背中。
正直十分過ぎた。
……ふと、唯の事を考えてしまう。
自分のクラスメイトの、とても可愛い女の子。
私とは全くタイプの違う女の子。
私みたいに、自分から好きな人を誘ったりは出来ないタイプ。
……でも、少しだけでも近くにいたくて……隣にいたくて、自分を犠牲にしてでも頑張ってしまうような、そんな健気な女の子。
彼と並び立つ為に、強くなる為にサポート科に出入りし、ヒーローとしても回原の隣に立てるように頑張る女の子。
入寮の日、夜遅くまで部屋の片付けをしていた、とびきり可愛くて健気な私の恋のライバル。
「……強敵だよなあ」
「ん?何か言ったか?」
「んーん……何でもないよ」
「そか」
独り言が口から出てしまい、それを回原に聞かれる。
まあこれくらいなら問題はないけど。
意識を周囲の景色と回原に戻す。
まあ、今日はせっかくのデートだ。
とりあえず今はこの瞬間を楽しもう。
到着したカフェはネットで見た以上に実物はお洒落で雰囲気のいいカフェだった。写真がイマイチだったのかな?
2人で中に入り、案内された席でコーヒーセットを注文する。
注文が来るまで色々話し、コーヒーとケーキが来てからも色々と話す。
ツーリング中に見た景色の感想。
気になった建物。
川の水が綺麗で冷たそうで、水浴びしたら気持ちよさそうとか、本当に色々な事。
美味しいコーヒーとケーキを味わいながら色々な事を話した。
その中で、
「ん?拳藤もうすぐ誕生日なんだ」
「そ」
9月9日は私の誕生日。
毎年夏休みの終わりは私の誕生日が近づく日で、私は昔から夏休みの終わりがそんなに嫌いではなかった。
「そっか。それならまたどっか今日みたいにバイクで出かけてコーヒーでも飲み行くか?」
「……そうだね。それもいいね」
回原からそう誘ってもらえたのがすごく嬉しい。
好きな人が走らせるバイクの後ろに乗るのは、とてもとても素敵な時間だった。
でも……
「……でも、いつまでも後ろに乗ってばかりで、そんなんで良い訳がないもんね」
「拳藤?」
「私もバイク買うよ、回原」
だから、
「だからさ、今度は2人でバイクでどっか出かけようよ!」
唯の事を考える。
彼の隣に立つ為に、あんなに頑張る女の子。
……いつもそんな子を見ているのに、いつまでも後ろに座ってばかりでいるのは私の流儀じゃないのである。
回原は私の言葉を聞いてきょとんとし、
「……そうだな、それも楽しそうだな」
そう言って笑ってくれた。
私の好きな笑顔だ。
それを見て私も笑う。
この恋は、戦いである。
強力なライバルのいる、そんな戦い。
負けたくないから、いつまでも後ろになんていられない。
そんな事していたらきっと負けてしまうだろう。
私だって、彼の隣に立ちたいのだ。
恋人としても、ヒーローとしても。
後ろに控えて彼に助けてもらってばかりのヒロインだなんて、そんなものになる気は更々ないのだから。
……まあ、でも。
「……とりあえず誕生日のお祝いで出かける時は後ろのせてね。免許取ってバイク買うのはまだしばらく先だしさ」
そう言ってウインクしながら軽くペロッと舌を出してみせた。
少し呆れた様子で、回原は頷いてくれた。
拳藤一佳はヒーロー志望だ。
……でも、まだヒーローではない。
……だから、たまにならヒロインやってもいいと思うのだ。