1次試験を順調に通過し、俺達は控室で休憩していた。
この後1次試験の通過者100人が揃い、休憩の時間が終わり次第2次試験が始まるとの事。
軽食なども用意してもらっていたのでそれを食べながらクラスメイト達と話し時間を潰す。
そして、時間になり2次試験の説明が始まった。
今度の試験は救助演習。
ヴィランによって発生した大規模テロ。
建物倒壊により怪我人多数。建物や道路の損壊が激しく救急の到着に著しい遅れが発生。
その到着までの救助活動をバイスタンダーとして俺達受験者が行うという試験だった。
要救助者役はHUCという要救助者役のプロが行うとの事。世の中には色々な仕事があるもんだなあと思わず感心してしまう。
要救助者を全員救助した時点で試験終了。
受験者はその試験中の救助活動の内容を採点され、その結果で合否が決まるそうな。試験は減点方式で、一定以上の成績で合格となる。
説明が終わり俺達は試験会場のフィールドに移動する。
そのフィールドを見て……
「これあれだな……」
「ああ……神野区のあれの再現だ多分……」
隣にいた骨抜とそんな事を話す。
直近で発生したヴィランによる痛ましい事件。
都市部での大規模破壊を伴うヴィラン災害。
……その再現を試験のフィールドでするとは……
「……考えたヤツはいい性格してるぜきっと」
「全くだな」
直近で大多数の人的被害を生み出した大事件。
それをわざわざ試験に持ち込んだ計画者の意図はおそらく。
『これは確かに試験ではあるが、実際に事件に立ち会ったと想定して緊張感をもって試験に臨むように』
というメッセージだろう。
「拳藤?」
突然、俺達の集団から小走りに拳藤が皆の前に進み振り返る。
俺達雄英生……そして他の受験者達に向かって彼女が、
「突然すみません!私は雄英高校ヒーロー科、1年B組のクラス委員長をしている拳藤と言います!!」
1次試験の合格者全員に聞こえるような大きな声で、
「先ほどの説明内容を聞くと、この試験は受験者同士で競い合うような趣旨の試験ではありません。やり方によっては受験者全員が合格出来る試験だと思います。ですから……」
彼女は俺達の目を一人一人じっくりと見るように皆を見て、
「全員で協力しませんか?皆で協力してこの試験を全員で合格しましょう!!」
そう言った。
拳藤の言葉を聞き、少し皆が考えて……
「ここにいる士傑生のクラス委員長してる者だけど、その提案に俺たちも賛成だ」
そう言って賛同してくれた男の言葉に、他の学校のクラス委員長・代表者達からも賛同の言葉が続く。
「ありがとうございます!!では皆で協力してこの試験を全員で合格しましょう!!」
全員の賛同を見事に集めた拳藤。
こうして俺達は100人全員で協力し、この試験に臨む事となった。
……多分だけど、この時点でお前は合格だよ拳藤。
この凄惨な景色……これが神野の事件をイメージしたフィールドなのだとしたら。
「……受験者同士で功を競って争いあってる場合じゃないもんな」
ヒーロー志望なのだ、俺達は。
だから、今そこでたくさんの助けを求める人達が待っている状況で、たかが試験如きで争いあって良い訳がないのだ。
そして、そんな状況を見て率先して皆に協力を呼びかけた拳藤。
……俺が試験官だったら、この時点でコイツだけは合格させるね、間違いなく。
……そして、試験開始の合図とともに試験が始まった。
「回原!!緊急度の高い負傷者発見!!なるべく身体に負担を与えず!かつなるべく素早く救護エリアへと搬送をお願い!!」
「わかった!もしもし!もう大丈夫ですよ!!意識をしっかりもってくださいね!!」
「……すげえ……あんだけ早く走ってるのに重心も体幹もほとんどブレてねえ……」
「めちゃくちゃ早く走ってるのに救助者の身体ほとんど上下してねえぞ……一体どんなトレーニングしてるんだ雄英高校は……」
「今の見て気にしないでくださいというのは無理かもしれませんが……あれはウチでもとびっきりの外れ値です。あれをウチの基準と思われるとかなり……かなりめちゃくちゃ困ります」
「そっかぁ……そうだよね……」
「あんなの同年代に何人もいたらたまらないよね……」
救助演習は概ね順調に進んでいると思う。
「◯◯が悪い!!減点!!」
など都度都度減点行為を指摘してもらえるので、その辺を修正しながら活動出来るのが大きかった。
そして、俺達雄英高校B組の生徒。
「ん」
「瓦礫の固定完了!!」
「負傷者確保!!」
物の大きさを自由に調整出来る小大や、物を自在に溶接出来る泡瀬。人の重量くらいの物なら簡単に動かせる柳。
ウチの連中の個性はこういう状況で活躍出来る個性が多い。
「要救助者1名。崩れた建物の中で発見!」
黒に潜り移動出来る黒色はこういう状況では何処にでも潜れて調査などで活躍する。
建物の倒壊への備えは先ほどの泡瀬に加えて凡戸もいる。それ以上建物が崩れないように固定・補強はスムーズに行えた。
骨抜はその個性で邪魔な障害物を柔らかくして崩した後、再度硬化出来る。
先に作っておいた救護エリアへスムーズに移動出来る通路確保を行う。
物間は複数の個性を使い分けて八面六臂の活躍を見せていた。
……うん、概ね順調に演習は進んでいる。
それは間違いない。
だが……
(……やっぱ、見られてるな……間違いなく……)
先ほどから俺は、結構離れた所から俺に向けられる攻撃的な視線をずっと感じていた。
(採点してる係の人……って感じじゃないね、どうも……)
当然、採点してる人達の視線も感じる。
だが、それとは確実に別種の……剣呑極まりない攻撃的な視線の存在……それを俺はずっと感じていた。
そしてその誰かは……俺がその事に気づいているとわかっている。わかった上で、この挑発的で攻撃的な視線を俺に向け続けていた。
……それが俺を先ほどから少し不安にさせている。
……こんなに試験は順調に進んでいるのに。
おそらくこの試験……このまますんなりとはいかないぞ、と。
そしてやはりその予感は的中した。
地形操作系等の個性持ちによって、応急仮設ベッドなどが整えられた救護エリア。俺がその救護エリアに先ほどの負傷者を運び終わった瞬間。
『警告!警告!!大規模なヴィラン達の再侵攻を確認しました!!周囲で活動中のヒーロー達はヴィランの攻撃を防ぎながら救助活動を続けて……、って!!待ちなさい!!』
ゾクッ!!
背筋に寒気が走った。
それは俺が持つ危機感知能力からの、特別な警告!
つまり!俺が先ほどからずっと警戒していた相手!!
ソイツが今、猛スピードで一直線にこちらに近づいて来ている!!それを感知したのだ!
先ほどの救助活動から一変!急速に戦場の気配を纏い始めるフィールド!!その一転した気配が俺に最大限の警告を発していた。
『待ちなさい!!って!!ああ!!ハンデ用の拘束プロテクターまで外して!!何やってるんですか!!待ちなさい!!』
「全員警戒!!俺は迎撃に出る!!」
救護エリアから少しでも離れる為に、急いで俺は移動を開始!!
移動する俺に合わせ、剣呑な例の気配も進行方向を変えてやはり一直線にこちらへ向かってくる!!クソ完全にタゲられてやがる!!
そして、救護エリアから俺がある程度離れた所で、
『待ちなさい!止まりなさい!一体何のつもりですか!!ミルコ!!!』
「よお!テメエが梁山泊育ちって悪ガキか!?はっ!特別生意気そうなツラしてやがる!!」
……ついに、俺達はお互いをお互いの間合いに捉えた。
俺の前には、二十代半ばの勝ち気そうな美人。
ウサギを模したコスチュームを着ている、有名な武闘派ヒーロー。
「ミルコさんですか」
「おうよ!!ようやく会えたな!!こっちは雄英体育祭の決勝見てからずっと昂りまくってんだ!!」
ラビットヒーロー・ミルコ。
機動力を活かした近接格闘を得意とするトップヒーローだ。
「お前ぐらいの年頃の男の子が、綺麗な年上のお姉さんにバニー姿で遊びに誘われてるのに……まさか遊びの誘いを断るだなんて事はないよなぁ?」
「……そうですねぇ……出来れば遊園地で遊ぶとかでお願いしたいところですけど……」
「は!生意気だ!!こういうのはリードする年上のお姉さんがデートの内容を決めるに決まってるだろ!!」
「なるほど……出来れば穏便な方向でお願いします」
「ああ……当たり前だろ……お前はこの年上のお姉さんが直々に……」
ミルコさんは妖艶な…蕩けるような魅力的な笑みを浮かべながら……
「優しくやさぁしく……」
……強い目の輝きだけ、危険な光を放っていた。
「たぁっぷり可愛がって……」
そして穏やかな言葉と裏腹に、どんどんと高まる闘気!!
「優しく撫で回すように……蹴り飛ばしてやるよ!!!」
「ですよね!!」
凄まじい勢いでこちらに向けて跳躍!!
ミルコさんが凄まじい蹴りを放ってくる!!
俺は横っ飛びでそれを躱す!!
俺の背後にまで抜けたミルコさんは、背後の建物の壁を利用し急速反転!!
おいおいまじかよ!!
あの周囲の自然や物を利用する変則的な立体機動術は!!
「プンチャック・シラット!!」
ジャングルファイトを真髄とする!!上下左右あらゆる方向からのアクロバティックな攻撃術!!
「ご明察だあ!!さあ!!お姉さんと楽しく遊ぼうぜ悪ガキ!!」
その強靭な脚力を活かし周囲の建物や瓦礫を跳ね回りながら、世にも危険なバニーさんが再度攻撃を仕掛けてくる!!
不味いな!!
出来る!!強い!!
個性頼りでなく、ミルコさんはしっかりと武術を高いレベルで修めてる!!この僅かな対峙でもそれがはっきりとわかる!
個性無しでの武術勝負でも警戒が必要なレベルだ!!
そしてヤバい!!
俺!!女性殴れない!!攻撃出来ない!!どうしよう!!
補足。
他のヴィラン役はバイトで雇われたヒーローという設定です。