「リューキュウこんにちは!ねぇねぇ聞いて聞いて!!旋くん連れてきたよ!!やっとリューキュウ事務所に来てくれたよ!!これでようやく旋くんとインターン出来るの!」
「あらあら!嬉しいのはわかるけどあんまりはしゃぎ過ぎないのよねじれ。隣で回原くんが困ってるじゃないの」
「何で何で?旋くん困ってるの?何で?不思議不思議!」
リューキュウ事務所でのインターン最初の日。
ねじれ先輩に連れられて来たリューキュウ事務所。
その応接室。
応接室のドアをノックし、主からの招きの声を聞くと同時、ねじれ先輩は扉を開き中の女性にとても楽しそうに声をかけた。
ドラグーンヒーロー・リューキュウ。
竜に変化し活動するトップヒーローだ。
必要な時にドラゴンに変化出来るなんてロマンあるよね。
「はじめまして。雄英高校ヒーロー科1年B組の回原旋です。ヒーロー名はスパイラルです。これからインターンよろしくお願いします」
頭を下げて挨拶。まずは挨拶。礼儀は大事。
リューキュウさんはそのどこか冷たさを感じるような美しい顔を、少しイタズラっぽく微笑ませ、
「ご丁寧にありがとう。この事務所の主のリューキュウよ。君とははじめまして何だけど、正直はじめましてな感じがあまりしないのよね。なにせねじれがいっつも君の話ばかりするものだから。これからよろしくね、回原くん」
そう言った。その言葉にねじれ先輩がぷくーっと可愛らしく頬を膨らませて、
「ぶー!!ねぇねぇ何で何で?私そんなに旋くんの話ばかりなんかしてないよリューキュウ!話してないよ!話してないよね?ね?ねえ何でそんな事今言っちゃうの?何で今?不思議不思議!」
「あらあらごめんなさいねねじれ。謝るから許してちょうだい」
「ぶー!!旋くんも気にしないでね!私普段はそんな旋くんの事ばかり話してないからね!」
「あははは……はい、わかりました」
「さて、せっかく来てくれたんだしお茶にしましょう。ねじれから『旋くんはキラキラした女子会みたいなお茶会とか苦手だと思うよ。緑茶とお団子とかがいいと思う』って前に聞いてたからお茶と和菓子を用意しているわ」
「もうリューキュウ!!ねぇねぇ!わざわざソコ言う必要あった?何で言ったの?不思議不思議!」
「はいはい。悪かったわね。じゃお茶淹れるからねじれも用意手伝ってくれるかしら?」
「あ、俺も手伝いますよ」
「いいのよ。君はまだお客様なんだから。ホストがもてなすのが当然でしょ」
そうしてお茶会が始まった。
しかしクールビューティーってイメージだったけど、なんか気さくでお茶目なお姉さんって感じだなあリューキュウさんは。
今もねじれ先輩を適度にからかいつつ、こちらにも色々と話題を振ってくれる。
ヒーローになった時の事。プロヒーローとしてデビューし、数年間はサイドキックの活動をしてから個人で事務所を立ち上げた事など。他所ではなかなか聞く機会の無い話なので新鮮な話題であった。
「やっぱ最初はサイドキックから始めた方がいいんでしょうか?」
俺の問いにリューキュウさんは、
「そんな事はないわよ。実際、プロデビュー後すぐに個人で活躍するヒーローもいるしね。でも個人的には最低1年はサイドキックでどこかに所属した方がいいと思うけど」
「そうなんですか?」
「うん。ねえ回原くん……プロヒーローにとって一番の強敵って何だと思う?」
「強敵ですか……うーん……漠然としてますね。何となく凶悪なヴィランとかしか思いつかないですけど」
「ふっ……まあそうなるわよね。残念、不正解。私が思うに、プロヒーローにとって一番の強敵……それは」
恨み骨髄……そんな憎しみやら怨念……そう言ったモノが強く感じられる冷え切った声でリューキュウさんがその強敵の名を告げる。
「税務署。そして税務署職員。それが独立したプロヒーローにとって一番の強敵よ………」
「えええ……」
一単語一単語から憎しみが滲み出るような声である。
「アイツら……こっちが大人しくしてるからって調子にのって……良いじゃない多少の記載ミスや漏れなんて言われればちゃんと修正すぐするんだから!!それをあんなにネチネチネチネチとイヤラしい!!それに経費の過剰申告なんてしてないわよ!!もう!!」
「うわあ」
俺の隣のねじれ先輩がこちらに近寄ってきて、俺の耳元で、
「リューキュウはいい人何だけど、税務署が大っ嫌いなの。名前を聞くだけで機嫌悪くなるから、事務所ではこの言葉は禁句だよ旋くん」
と囁く。
……どうにも前からねじれ先輩は色々と距離が近い。
今も俺の肩に手を置き、俺の耳と先輩の唇が触れるくらいの距離なもんで、いい匂いやらほのかに伝わる体温やらでドギマギしてしまう。
正直男だから悪い気はしないけど、何だかなあ。どうしたもんか。
「……おっと!あらあらごめんなさいね。ちょっと恨み言が漏れちゃったみたい」
「リューキュウリューキュウ!!全然ちょっとじゃなかったよ!」
「まあそれはさておき」
「おくんですね」
「おくのよ。まあ……とりあえず1年はサイドキックやるのをお勧めするのは、単純なヒーロー活動以外での地味な経理処理やら税金の申告作業とかをサイドキック時代に経験した方がいいと思うからよ。何ならいい税理士とか紹介してもらった方がいいくらいだわ。日中はヒーロー活動。それで疲れて帰って来たら夜は経理事務……なんて未経験のプロヒーロー1年目でやるべきじゃないと思うもの。多分経験無いと滅茶苦茶苦労すると思うわよ」
「リューキュウはサイドキックで経験してきたのに今もすっごく苦労してるよね!不思議不思議!」
「ねじれおだまり。はしゃぎすぎよ、もう」
「えー!私全然はしゃいでないよ!ホントだよ!もうリューキュウの意地悪!不思議不思議!」
お茶を飲みながら楽しそうに会話を続ける2人の美女を見ながら、俺も一口茶をすすり考える。
「……なるほどなあ」
保須の事件の後でバーニンさんと事務作業を大量に行い苦労した経験があるので、その言葉はすんなりと受け入れられた。
特に日中ヒーロー活動して、疲れて帰って来たら夜は経理事務作業というフレーズが実に実感が篭っている。
……大変なんだなあプロヒーローって。
確かに最低1年は誰かのサイドキックになり、教えてもらいながら一通り全ての実務を経験した方がいいのかも。
「あ、そうだリューキュウ!お願いしてた追加のインターン受け入れの件どうかな?」
「麗日さんと蛙吹さんだったかしら。うん。雄英から取り寄せた資料も確認して問題なかったし、何より貴方の推薦だものね。いいわよ。また向こうの都合の良い時に事務所に来てもらってちょうだい」
「うわあ!良かった!ありがとうねリューキュウ!!」
なんか新鮮な光景。
普段は年上のねじれ先輩がまるで妹みたいになっている。
クールでビューティーで落ち着いたお姉さんがリューキュウさん。
天真爛漫で無邪気で好奇心旺盛な妹がねじれ先輩。
実に仲の良い姉妹のようだった。
しかも2人とも美女。
正直峰田に嫉妬で殺されそうな光景である。
その後もお茶会は続き、お茶会後には簡単な事務仕事などを教えてもらいながらこなす内に時間が過ぎていった。
「お疲れ様。次からはねじれと組んでパトロールとかもお願いするからよろしくね」
「はい。こちらこそよろしくお願いします」
「旋くんとパトロールするの楽しみ!!よろしくね旋くん!」
こうして俺のインターン初日は終了した。
「A組の蛙吹だっけ?こうしてちゃんと話すのは初めてかな?B組の回原旋だ。これからインターンよろしくな」
翌日。リューキュウ事務所に向かう仲間が2人増えた。
A組の麗日と蛙吹だ。
麗日に関しては一学期にねじれ先輩も混ざりスーパーとかで一緒に買い物した仲なので知ってるのだが、蛙吹とはちゃんと話すのは初めてな気がする。
「けろ……ご丁寧にありがとう回原ちゃん。A組の蛙吹よ。よろしくね」
お互いに挨拶を躱す。
「うん!じゃ挨拶も終わったね!よーし、じゃあリューキュウ事務所に向かって出発しん………」
「ごめんなさい波動先輩。少し待って欲しいの」
「蛙吹?」「梅雨ちゃん?」
雄英高校を出て最寄り駅に向かおうとした俺たちを、何故か蛙吹が止める。
「けろけろ……ごめんなさい皆。私、思った事はすぐに何でも言っちゃうの。だから回原ちゃん……これは独り言……独り言なんだけど聞いてくれないかしら?」
「……独り言を聞けって言われてもなあ……」
正直困るのだが。
戸惑う俺。そしてねじれ先輩と麗日を置き去りにし、蛙吹が続ける。
「先月の神野区の件……爆豪ちゃん救出の時の話よ」
「梅雨ちゃん!!それは!!」
蛙吹の言葉を聞き、麗日がそれを止めようとする。
だが……
「けろ……大丈夫よお茶子ちゃん。これは独り言よ。だから誰かを困らせるような事だけは決してしないと約束するわ」
「梅雨ちゃん……」
「私はね回原ちゃん。爆豪ちゃんを助けに向かおうとするクラスメイト達に『ルールを破るのならヴィランと同じ』っていう厳しい事を言ってしまったのよ。だから貴方に聞きたいのよ回原ちゃん」
蛙吹の強い視線。それが俺を決して逃さないと縛りつける。
「貴方は決定的な証拠を残さなかった。先生達もだから追求のきっかけがないから不問にするしかない。もしも追求のきっかけがあれば貴方を徹底的に追求し、処罰するしかなくなる。だから先生達は貴方に何も聞けない。何も問えない。何も言えない。言う事が出来ない。何も無かったのだとするしかない。見事よ……本当に見事だと思うわ。私には絶対にこんな芸当は無理だし……恐らくヒーロー科1年の誰にも不可能だと思うわ」
ヘビに睨まれたカエル?冗談じゃない。
このカエルは……俺を睨んで、言葉で縛ろうとしていた。
「だからそんな貴方に向かって独り言を言うのよ私は……例えば誰もが賛同するような素晴らしい目的があり、かつそれを完全完璧な形で実行出来るのだとしたら……ルールなんて無視していいと。そういう考え方はあるのかしら?」
「梅雨ちゃん……」
「ごめんなさいお茶子ちゃん。そして波動先輩、回原ちゃん……でも、この気持ちを抱えたまま、私、皆と笑ってインターン活動出来ないと思うの。本当にごめんなさい……」
その言葉に静まる場。
麗日は蛙吹を心配そうに見ている。
ねじれ先輩は俺を見ている。
……だから、回答するのはやはり俺の役割なんだろう。
「……今から俺は独り言を、言う」
「回原ちゃん……」
頭をガリガリとかきながら、
「何が何やらわからんが……まぁ、神野区の件での立ち回りはヒーロー志望の奴がやるには褒められた事じゃないよな。褒められるどころか処罰されるような事なんだろうな」
「………」
「だけど」
信じてるよ、旋くん。
そんな感じのねじれ先輩の、優しく俺に向けられる信頼の目に背中を押され、
「俺には梁山泊の……小さい頃から俺が憧れ、追い求めてきたカッコいい人達の背中が心の中にいつもあるんだ。俺が目指すヒーローだけではなく……武人として生き、ここまで俺を連れてきてくれた人達の為にも、俺には決して曲げられない一線がある」
「回原ちゃん……」
「だから……今は認めてくれとは言えない。これがいいとは胸をはって言えない。でも、しばらく俺を見ていて欲しいんだ」
「旋くん……」
この場にいる3人……その瞳を順番にしっかりと覗き込みながら、
「我が師。梁山泊の師匠達より学びし武人としての道。雄英高校に入り、尊敬すべき教師とヒーロー達より学びしヒーローとしての道。その2つが捻れて交わる。それが俺の目指す螺旋道だ」
「………」
「だから、俺にしばらく時間をくれないか?期待に応えられるかわからない。もしかしたらもっと酷い事になるかもしれない。でも、ルールも守って、悪友もしっかり助ける。そんな今よりもっともっと凄くなった俺を見てほしいって思うから。だから俺にしばらく時間をくれないか?俺さ、今よりもっともっと頑張るからさ」
俺の懸命の独り言。
それに蛙吹は、
「回原ちゃん。私ね、仲良くなりたい人には自分の事を『梅雨ちゃん』と呼んでもらうようにしているの」
「………」
蛙吹は俺の目をしっかりと見ながら、
「でも、今の貴方に私の事を『梅雨ちゃん』とは呼んでほしくないのよ。ごめんなさい」
「蛙吹……」
「だから……証明してちょうだい回原ちゃん。貴方がこれから貫く螺旋道の先に、私が貴方に『梅雨ちゃん』と呼んでもらいたくなる未来があるのだと」
「……わかった。頑張るよ蛙吹」
最後まで俺を、しっかりと見て、そこまで言ってのけた少女に心からの敬意を払いそう応える。
総督から事前に言われてた通りだ。
俺の選んだ選択肢は、誰かを傷つける可能性があると。
だから、この責任は俺が背負うべきものなのだ。
ならば、言わなくてもいい余計な事を言って傷つく彼女の心を晴らせるくらいには、俺は頑張るべきなのだ。
「……そろそろ大丈夫?あまり遅くなるとインターンの時間も無くなるからそろそろ行けるかな?」
ねじれ先輩のその切り替えの言葉に、
「けろ……ごめんなさい。もう独り言は言い切ったわ。大丈夫よ。行きましょう。皆ごめんなさいね」
蛙吹が応え、そしてようやく時間が動き出した気がする。
「やぁ~!よーし!インターン頑張ろう梅雨ちゃん!回原くん!!やったるぜぇ!!」
重い空気を振り払うように麗日が元気な声を張り上げた。
「波動先輩……ごめんなさい。せっかくインターンに呼んでくれたのに早速困らせてしまって……後、私はそちらには参戦することはないから安心して欲しいの。けろけろ」
「………」
「よーし!!回原くんはこっちだぁ!!駅まで競争しようぜぃ!!」
「え!おいおい麗日?」
「レッツゴー!!」
そうして俺達はリューキュウ事務所に向かって出発した。