回原のドリルは天を貫く   作:のりしー

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嫌な話

「チャージ満タン!出力30!!やるよ旋くん!」

その言葉と共にねじれ先輩が俺に背中を預けて来る。預けるってのは文字通りだ。俺の腕の中にすっぽり納まるように身体を預けて来た。俺の胸元にねじれ先輩の背中がくっつく。

 

 

「はい!」

俺は背後からなるべく変な所を触らないように気をつけながら手を伸ばし、ねじれ先輩の腕に触り力をつなぐ。

 

空を飛び重なる俺達。眼前には暴れる巨大なヴィランが2人。

 

「「個性合体!!スパイラル・ねじれる波動(グリングウェイヴ)!!」」

 

 

個性合体で俺のドリル属性を付与し、更に速く!力強くなったねじれ先輩の波動が巨大なヴィラン達を襲う!!

 

「があぁあ!!!」

「なんじゃこりゃあ!!!」

 

巨大なヴィラン2体はその強力な波動に囚われ、拘束された状態で宙をふよふよと浮くこととなった。

 

「わあ!!スゴイスゴイ!ねぇねぇ旋くん聞いて聞いて!私ね、本当はあのヴィラン達を地面に転がすだけのつもりだったの!!でもねでもね!!旋くんと個性合体したら転がすだけじゃなくてそのまま拘束して宙に浮かせちゃったの!!スゴイねスゴイね!!不思議不思議!!」

 

俺に背中を預けた状態のまま、ねじれ先輩がこちらに振り返りそう楽しそうに話しかけてくる。

 

何とも距離が近すぎる!

柔らかくて温かくていい匂いがして、ここが戦場じゃなけりゃどうにかなってしまいそうだ!!

 

「わっひゃあ!こりゃすっごいね梅雨ちゃん!うんうん!色々とすっごいね!」

 

「けろけろ……結局私達のフォローはいらなくなってしまったわね。ええ、色々すっごい光景ねお茶子ちゃん」

 

後ろから追いついてきた麗日と蛙吹がそんな事を話してる。やかましい。まだここは戦場ですよ。

 

本来は俺とねじれ先輩で転がし、後ろの2人で詰めの攻撃をする予定だったのだ。

 

だが俺とねじれ先輩だけで宙に拘束して無力化してしまったので、後ろの2人の出番を奪ってしまう形となった。

 

「あらあら!ねじれったらはしゃいじゃってもう!でも皆!警察にヴィランを引き渡すまで油断しちゃダメよ!回原くんを見習いなさい……うん、後ろからねじれを抱きしめてるみたいな状態でまだちゃんと集中維持出来てるなんて本当スゴイわねこの子……肉体面だけでなく精神面も仕上がり過ぎてない?本当に高校生?」

フォローする為後ろに下がり様子を見ていたリューキュウさんも追いついてきた。

 

「まあ……色々鍛えられておりますので」

 

これが平時であれば流石にここまで平静でいられる自信は無いけど。

 

「ウラビティもフロッピーも出番は無かったけどいい動きだったわよ。……うん。ねじれが連れてきただけあって皆優秀ね。これなら3人ともあの案件に連れていっても大丈夫そうね」

 

「あの案件?何ですかそれは?」

 

俺の疑問の声にリューキュウさんが答える。

 

オールマイトの元サイドキックであるヒーロー。

サー・ナイトアイからのチームアップ要請。

 

彼の事務所主導での大掛かりな作戦があり、その作戦への参加者決めを悩んでいたらしい。

当初はねじれ先輩だけ参加させるつもりだったそうなのだが、俺達の動きなどを確かめ、俺・麗日・蛙吹の3人も参加させることに決めたのだそうだ。

 

警察に連行されていくヴィラン達。

しっかりとそれを確認し終えると、リューキュウさんが、

 

「さ!パトロールを続けましょう。作戦当日までに少しでも現場の空気に慣れておかないとね」

 

こうして俺達はリューキュウ事務所でのインターンの日々を過ごしていった。

 

 

 

『ねぇねぇ旋くん旋くん!!明日だけど集合時間より少し早く向こう行ってみない?』

『いいですよ。せっかく久しぶりに都内行く事ですしね。少し近くのお店とか冷やかしたりしましょうか』

『うんうん!私クレープ食べたいな!近くに美味しいお店あるといいね!』

『じゃあ最寄り駅の近くに良さそうなところないか調べておきますね』

『わーいわーい!ありがとうね旋くん!!』

サー・ナイトアイ主導での多くのヒーロー達が参加する一大作戦。その顔合わせの会議を控えた前夜。ねじれ先輩から来たメッセージに返信しながら夜が更けていく。

 

 

多くのヒーロー達が参加する大作戦かあ。

さあて、一体どんな感じなのやら。

明日が楽しみである。

 

 

 

 

 

sideお茶子

「どひゃー!!ねじれ先輩めっちゃ攻めとるなぁ!!」

 

自分の携帯にねじれ先輩から送られてきた画像を見て思わず大きめの声が漏れる。

 

「ケロケロ。気持ちはわかるけど声が大きいから少し控えましょうお茶子ちゃん。ここは電車の中よ……で、どんな画像が送られてきたのかしら?」

 

「はいこれ」

 

「……攻めてるわねぇ。2人でお手て繋いでクレープ半分こしてるわね」

 

そう。ねじれ先輩から送られてきた画像。

それはしっかりと手をつなぎ、困り顔した男の子の持ったクレープを嬉しそうに食べる女の子が自撮りをしている画像だった。

 

つまり!回原くんとねじれ先輩が手をつなぎ、困り顔の回原くんが持っているクレープを嬉しそうに食べるねじれ先輩というアツアツな画像である。

困り顔ながらも、戦闘中と違って回原くんが照れてるのがわかるのが非常にポイントが高い!!

 

 

私が興奮しても仕方ないと思うんだよね!!

うっひゃー!!って興奮しても仕方ないと思うのだ。

 

「手!お手て繋いでクレープを半分こ!!そ、それはもう付き合ってるって事!?」

 

デクくんのその言葉に、思わずカチンと固まってしまう。

 

「緑谷ちゃん……違う、違うのよ。そうじゃない……そうじゃないの。人はお手て繋いでクレープ半分こしただけでは付き合ってることにならないのよ」

 

「そ!!そうなの蛙吹さん!!……やっぱ遊園地とかでやらないとダメなのかな!?」

 

「けろけろ……梅雨ちゃんと呼んで……でも困ったわ。強敵だわどうしようかしらこれ……」

 

(……ズレとる……ズレまくっとるけどそんなとこも可愛いなあデクくんは)

 

「……お茶子ちゃんも役にたたないし……どうしようかしらこれ……」

 

「けっ!!あんの色ボケドリル……人の事散々からかっておいてこれかよ!!後で会ったらからかい殺したるわクソが!!」

 

「……あー。周りの皆さんあまり深く気にしないでくださいねー。こいつのはこういう殺す発言滑りまくり芸ですので」

 

……しばらく時間が飛んだ気がした。

意識を戻すと、ちょっとイラッとした感じの爆豪くんをデクくんと切島くんが困ったように、でもどこか楽しそうに宥めている光景が目に入ってきた。

 

……爆豪くんと仲直り出来て良かったねデクくん。

 

多分、決定的なのはあの仮免試験の夜だろう。

 

あの夜から、2人は急速にこれまでの関係を清算しているような気がする。

爆豪くん主導の自主練にも、デクくんは積極的に参加し、それを爆豪くんが受け入れていた。

明らかに一学期とは違う関係。

 

……そういう関係に2人はなっていた。

 

(良いなあ、男の子の友情って)

 

今も少し困り顔で、でもとても楽しそうに爆豪くんと話すデクくんを見る。それは私に向けてくれるのとは全く違う顔なのだ。

 

この気持ちは胸に秘めると決めた。

でも、その笑顔を見るくらいは許されていいと思う。

 

……願わくば、決して、この笑顔が曇る事なんて無いように……

 

……そんな儚い願いは、こんな大それていない願いですら、この後すぐに砕け散ってしまうのだけど。

 

……私達は、この後すぐにヒーローとして活動する事の、その責任の重さを、重大さ、誰かを?何を救うのか?救うものはどうやって選ぶのか?という重いテーマをぶつけられる事になる。

 

電車にのって皆で都内に向かい、集合場所に指定された建物に向かう。

この辺りまでは皆で楽しく、まだ皆同じ方向に行くんだー不思議だねー、って感じだった。

 

「おー皆おそろいなのね。トンガリまでいるのか」

 

「いちゃ悪ぃのかよ」

 

「別にそんなことねえけどよ。インターンでここまで同級生と被るってのもなんか不思議だよな」

 

「……つまり、そんだけデケェヤマって事だろ」

 

「……だな」

 

建物の入口辺りで通形先輩と天喰先輩、そして回原くんと波動先輩に出会う。

 

爆豪くんは早速回原くんに絡みに行く。

爆豪くんの暴言オブ暴言を適度にスルーする回原くんの接し方は、正直A組全員にとって素晴らしい教材となっていた。

こんな感じなのに2人とも楽しそうなのが伝わるから不思議である。これも一種の男の子の友情なんだろうなあ。

 

建物の中にも多くのヒーローがいた。

相澤先生までいる。

 

そして会議室に全員が揃い、サー・ナイトアイの呼びかけをきっかけに会議が始まる。

 

ナイトアイ事務所のサイドキック、バブルガールの司会で会議が始まった。

 

死穢八斎會という指定ヴィラン団体の事。

死穢八斎會とヴィラン連合との接触があった事。

HNの事など。

 

個性を壊す薬の話。

相澤先生が失った個性の話と、その薬との違いの話。

 

そんな中、切島くんの活躍の話。

おかげで薬の中身の入った銃弾が1個手に入った事。

 

その銃弾には人の血や細胞が入っていたという、おぞましい話……

 

違法薬物の流通経路。

その中での死穢八斎會の関わり。

 

そして、死穢八斎會の若頭の個性の話。

 

……1人の女の子の、話。

……小さい小さい女の子の、その話。

……傷だらけで、通りすがりのヒーロー見習いに助けを求めた、そんな女の子の話。

 

……その子を、デクくんと通形先輩が一度は保護しようとし、先を考え保護をしなかったという話。その場で助けなかったという話。

 

(あああ……)

 

……デクくんの、顔が曇った。

 

声にならない悲痛な叫び。

 

後悔して後悔して後悔して後悔して……いくらそれを繰り返してもどうにもならない、その悲しい顔。悔しい顔。罪悪感で今にも潰れてしまいそうな、そんな曇り顔。

 

曇らせっていう、そんなジャンルがあるのは知っている。

 

 

……でも、好きな人が曇る顔なんてみたくもない。

 

……こんな辛そうなデクくんの顔なんて見たくなかった。

 

……ヒーローが辛い時、誰がヒーローを守ってあげられるのだろう。

 

そして、ヒーローだけを助ければいい訳じゃないのだ。

 

絶望的な状況。

その中で必死に手を伸ばし、そして否定された女の子。

 

私達ヒーローは、そのどちらも助けなければいけないのだ。

 

 

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