「ねえねえねえ!その走りながら両の掌で鷲掴みしてるお地蔵さんって本当に石で出来てるの?重くない?不思議ー」
「本物の石ですよ!めっちゃ重いし指も疲れます!」
「ねえねえねえ!腰に結んだロープにつながってるタイヤの上の人が君をビシビシしてる鞭って本物?痛くない?不思議ー」
「本物の鞭ですよ!痛いです!後当然重い!」
「はあっ!はあっ!…ねえねえねえ!そんなに重いのに何で全力疾走してるの?辛くない?不思議ー」
「めっちゃ辛いですよ!今すぐにも死んじゃうくらい!」
「…はぁっ!…はぁっ!ね、ねえねえ…そんなにも死んじゃうくらい辛いのに、何で必死に…走るの…?辛く…ない?不思議…」
「必死に走らないと死んじゃうからです!」
「ねえねえ!…はっ!はっ!…何で!必死に!走らないと!…はっ!はっ!死んじゃうの!…はっ!はっ!」
「必死に走り込みしないと普段の鍛錬で死んじゃうからです!!」
「ねえねえねえ!!!!!」
「なんですか?」
息を荒げ、少し遅れ気味の彼女が、辛そうな声で
「何で!はあはあ!そんなに!はあはあ!余裕で走ってるの!!??不思議ーー!!??もうムリー!!!!」
ついに限界を迎えてその場にビターンと少女が倒れた。
「おや?限界かな?」
「みたいですね」
早朝の河川敷。
柔らかな土の上だ。
倒れてもケガはないだろうし、この辺は雄英高校も近く治安もいいから特に問題はないだろう。
本人も事前に、もし付いて行けなかったら置いていって構わないと言っていたし。
「さて、美少女とゆっくり話せて休憩も十分だよね?そろそろラストスパートと行こうか旋くん」
「マジですか?僕この後入学式なんですけど…」
当然雄英高校の入学式である。
俺が引くタイヤの上で師匠は朗らかに笑いながら、
「ちゃんと可愛い女の子と話せる時間取ってあげたし、休憩も出来たから十分でしょ?いやあー僕って優しいなあ。ねえ、師匠達の中で僕が一番優しいんじゃない?」
「完全にケースバイケースですね…皆自分が一番優しいって言いますし」
「そうか…!なら、あんま優しくしても仕方ないか…」
「ひっ!」
背後で危険な気が膨れ上がる!
「さあて何をノンビリタラタラ走ってるの!朝ご飯も食べなきゃ行けないしシャワーも浴びるだろ!ここからラストスパート!!!全力で走れー!!!」
そう言うと、ビシビシと俺を鞭で叩いてくる!!
「ひいー!!!!!」
俺は出し惜しみせず全力で疾走し、静岡の家まで戻った。
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いつもの早朝のランニングが終わり、静岡の家に戻る。
古い家だが広く、数人で寝泊まりするには十分だった。
ありがたいのは庭が広く、鍛錬が十分に行える事だった。
中学卒業と同時に、俺はリフォームの済んだ静岡の家に住むようになっていた。
春休み期間はみっちりこの家で稽古となる。
まあ元々それは覚悟していたのでいいんだけど。
周囲の人と比べて少し目立つのか?
気になって俺に話しかけてくる人も春休み中に増えた気がする。
先ほどの女の子…この4月で雄英高校の3年になるらしいので先輩なのだが、彼女もそうだ。
近くで一人暮らししているらしく、ランニングやら買い物の途中で顔を合わせるようになり、やがて話をする仲になった。
今朝は俺が走っていると、途中で彼女がランニングに付き合いたい、と希望したので一緒に少し走ったのだ。
好奇心旺盛というか、物好きな先輩である。
家に戻ると庭で軽くいつもの鍛錬を行い、汗を流して朝食の準備をする。
内弟子なので当然俺の仕事だ。
師匠の中には料理上手な人もいるので、料理も教えてもらっていた。そこそこ美味しいものは作れると自分でも思う。
師匠達と朝食を取り終えるといい時間になっていた。
急いで洗い物済ませ、学生服を来て準備を整える。
「じゃあ、行ってきます」
「行ってらっしゃい。気をつけてね」
「はい!」
さあてついに入学式だ。
俺は家を出て、雄英高校へと向かった。
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雄英高校は巨大な敷地を持つマンモス校だ。
校門からしてすでにマンモスって感じ。
校内の案内に従って、自分の教室に向かう。
体の大きな生徒への配慮だろう。
門だけでなく、全体的に大きな造りをしている。
俺の教室は1年B組。
教室の前に付き、教室のドアを開く。
中にはすでに多くの生徒達がいた。
これから俺は、彼や彼女達と高校生活を過ごす事になる。
「ん」
「お!回原じゃん!」
「ん」
「やっぱ回原も雄英受かってたんだね」
教室に入ってすぐ呼びかけられそちらを向くと、前に実技試験で出会った2人の少女がいた。
「おー拳藤に小大か!久しぶり!お互い雄英受かれて良かったな」
「だね!これからよろしく!」
「ん!」
2人と軽く挨拶を交わす。
見知った顔がいるのはありがたい。
なんせ地元を離れた完全な新生活の始まりなのだ。
「けっ!イケメン様はいいですなー!入学初日で早速女子と仲良くなりやがって!早速ナンパですかー悔しいぜオイラも混ぜろ!!」
「あらま正直なヤツ」
続いて俺に声をかけてきたのは小柄な男のクラスメイト。
個性なんだろうけど、特徴的な髪をしている。
「回原旋だ。2人とは実技試験でたまたま知り合ってな。期待に応えられなくてすまんがこれからよろしく頼むわ」
そう俺が名乗ると
「オイラは峰田実だ。女の子と仲良くなったらオイラにも紹介よろしくな!」
「ブレねえな峰田…」
親指ぐっと立ててこちらに向ける峰田。
だがまあ話しやすいヤツなのはありがたい。
峰田と話していると、同じ事を思ったのか男のクラスメイト達がこちらに集まってくる。
そんなこんなで男連中で自己紹介したり好きなヒーローや漫画とかの話をしていると、
「よーし皆席につけー」
という声とともに1人の教師が教室に入ってきた。
全員席に着いたのを確認すると彼は
「俺がこのクラスの担任の管赤慈郎。ヒーロー名はブラドキングだ。これから3年間よろしく頼む。じゃあ早速だが出欠とるぞ。皆始めてだから各自軽く自己紹介も頼む」
そうして自己紹介も含めた出席確認が始まる。
そして俺の番となる。
「回原旋です。個性は旋回。体を回してドリルみたいな事が大体出来ます。これからみんなよろしく」
そう言って軽く自己紹介を個性の披露と一緒に行う。
「ちなみに、今回の実技入試成績のトップが回原だ。皆も負けないよう頑張るように」
その言葉に、全員がギラギラした目で俺を見る。
負けねえぞ、って目。
いいねこういうの、正直嫌いじゃないよ。
…こういうのが雄英高校ヒーロー科って感じだなあ。
全員の自己紹介が終わると、教室を出て入学式に向かった。
雄英高校の入学式ということで、なんか変わった事でもやるのか?と思ったが別にそんな事もなく粛々と入学式は進む。
ヒーロー科の1年A組が急遽個性把握テストだか何だかで全員入学式を欠席したため、丸々空席となっているスペースが異彩を放っていたが、変わった要素なんてそんなもんかな?
しかし雄英高校は自由な校風がウリなのさ!の一言で許していいのか?入学式を1クラス丸々欠席とか…
そうして特に波乱もなく入学式が終わる。
教室に戻りガイダンスが終わる。
「明日は今A組がやっている個性把握テストを行うからな、各自準備しておくように」
そのブラドキング先生の言葉を最後に、本日の予定は全て終了となった。
さあて帰って鍛錬でもするかなー、と席を立った瞬間、
「あーいたいた探したよ旋くん!」
「どしたんすか波動先輩」
教室の入口から、可愛い先輩の声が聞こえてきた。
波動ねじれ。
雄英高校ヒーロー科3年。
今日俺のランニングについてこようとし、途中で脱落した先輩だった。
どうも俺を探してくれていたようだ。
波動先輩は教室に入り俺の前まで来ると、
「わーすごいすごい!朝からあんなに走ってたのに普通に学校来れてるなんて不思議不思議ー」
私なんて、もう朝から脚ブルブルしてるよー。
と言ってスカートから伸びる美しい脚をぷらぷらさせた。
「おおおお!!!!」
食いつく峰田。ほんとブレない。
「まあ日課ですからねえ。走り込みなんて毎日やってれば慣れますよ誰でも」
「えー絶対嘘だー」
「お、オイラも毎日めちゃくちゃ走り込みしてます!他の所も毎日めちゃくちゃ鍛えてます!他の所は1日最低3回くらい!!!」
「ウソ!今年の1年生ってみんなあんなに頑張って走り込みしてるの?!?!」
「はい!」
「スゴイスゴイ!今年のヒーロー科の1年生はみんなスゴイんだね」
「確かに走り込みくらいはするけど…大丈夫か?話噛み合ってなくね?」
「うん…なんかそんな気がする…」
「走り込みするだけでヒーロー科の3年があんなに褒めてくれるとは思えん…」
後ろでそんなヒソヒソ声が聞こえる。
さてどうなるかね?困るのは俺じゃないからいいけど。
「それでどーしたんですかわざわざ1年の教室来るなんて」
あらためて波動先輩に聞くと、
「あ、そうだ忘れるところだった!」
峰田と話していた先輩はくるりとこちらを向き、
「旋くん、良かったら私が雄英高校案内してあげようか?この後予定どうかな?」
「予定空いてますね。いいんですか先輩?正直めちゃくちゃありがたいですけど」
波動先輩はにっこり笑うと、
「いいよ!だってその為に来たんだもん!」
優しくそう言ってくれた。
いい先輩だ。
「他にも一緒に来たい人いたら、私で良ければ校内案内するよー!」
「はいはい!峰田も案内お願いしまーす!!!」
峰田を筆頭に、この後予定が空いていた多くの生徒が波動先輩に校内を案内してもらう事になった。
ありがたい。
校内でもトレーニングとかしやすそうな穴場とか知りたかったから、後で聞くとしよう。
「あ、そうだ旋くん」
案内希望の生徒達と話していた彼女がこちらを向いて、
「私の事はねじれでいいからね」
「…わかりましたねじれ先輩。案内よろしくお願いします」
「よろしくね、旋くん!」
そうして、雄英高校入学初日は平和に終わりました。
家に帰るのが遅くなったので、その日の鍛錬のメニューが増やされました。
絶望しました。