この場で御礼申し上げます。
これからも、完結目指して頑張ります!!
あの後。
エンデヴァーさんは呆然と立ち尽くしていた。
目は開いていた、が……きっと、何もその瞳には映っていなかったのだろう。
荼毘の言葉が真実ならば……推測だが、その瞳には過去の記憶が映っていたのではないか?
……そんな顔をしていた。
……やがて救急車が駆けつけ、エンデヴァーさんは係の人に声をかけられ虚ろな表情で言われるがままに救急車に乗り込んだ。
エンデヴァーさんは重傷だ。当然病院での治療が必要となる。
「……すまん回原。すまんホークス。後で必ず事情は説明する……」
救急車に乗り込む前に、そう……搾り出すようにして出した小さな声。
その表情を見て……俺にはかける言葉が見つからなかった。
なので、無言で頷く。
強くなったつもりだった。
……でもまだまだだ。
こういう時に、俺は何も言えない。
言えなかった。
師匠達なら……あの人間的にも素晴らしい人達ならば、何か言葉をかけられたのかもしれない。
でも、俺には出来なかった。
強いだけではダメなのだ。
そう、強く思った。
「スパイラル。俺達もここを離れるよ。まずは病院だね。目立った負傷は見当たらないけど念の為ね」
ホークスさんが俺に近づき声をかけてきた。
「……ありがとうございます。でも大丈夫です……大した怪我はしてないですし……今は、何も考えず動いて気を紛らわせたいので、ここで出来ること手伝います」
俺の言葉に、ホークスさんはフッ、と一瞬微かに笑い、
「……ダメだ。俺達は2人ともここを離れる」
……笑顔を消して、厳しい表情で俺にそう告げた。
「……マスコミ関係者がそこらをウロウロしている……今、君をここに残して彼らに取材させる訳にはいかない」
その言葉に俺は「あ!」と気付かされた。
「……確かに。すみません。俺の配慮が足りませんでした」
俺の謝罪にホークスさんは微かに頬を緩め、
「……君のその素直な性格、本当に羨ましくなるね。わかっているだろうけど……エンデヴァーさんが先ほどの件で何かを発言する前にマスコミに材料を与えるのは不味い。さ、行こうか。あの救急車に乗るよ」
「はい」
こうして俺とホークスさんは同じ救急車に乗り込みその場を離れた。
「呼び出してすまんな2人とも」
エンデヴァーさんの治療が終わり、俺達は病室に招かれた。
部屋にいるのは俺とホークスさん、そしてエンデヴァーさんの3人。
エンデヴァーさんは顔を含む負傷箇所に包帯を巻き、病室のベッドに横たわっていた。かなりの重傷だった。無理もない。
エンデヴァーさんは上半身だけベッドから起こし俺達に向き合った。
「呼ぶのが遅くなりすまない……治療もそうだが……色々と自分の中で整理をする必要があった」
……それにはきっと、記憶だけでなく、心の整理も含まれているのだろう。
エンデヴァーさんは俺を……病院に来る前よりはある程度力を取り戻した瞳でしっかりと見つめて、
「先ずは回原。先程の件。お前に向かって炎を放ち攻撃してしまった事、本当にすまなかった。申し訳ない。心より謝罪をさせてもらう。本当にすまなかった」
そう深く……病室のベッドの上ではあるが、俺に向けて頭を下げた。
「……大丈夫ですよ。俺はこうして無事でしたしね」
俺は軽く笑って謝罪を受け入れた。
元々怒ったりなんだりしていた訳でもないし。
俺のその反応を見てエンデヴァーさんは、
「すまないな回原。ホークス……お前にも面倒をかけた」
ホークスさんはその言葉に軽く肩をすくめて、
「俺も大丈夫ですよ……これから大変そうですけど」
ホークスさんの言葉を受け、エンデヴァーさんは一瞬目を閉じ……そして開く。
「そうだな。今後お前には迷惑をかける。それも含め、お前たちには荼毘の……燈矢を名乗る男についての事情を説明しておきたいと思う」
そうしてエンデヴァーさんの口から燈矢という少年の話……亡くなった筈のエンデヴァーさんの長男の話が語られた。
それは強い炎の個性を持つ少年の話だった。
強い炎の個性に反し、体質的に炎への耐性が低く火傷ばかりしていた少年の話。
火傷ばかりなのに……痛く、辛い筈なのに、それでもヒーローを目指してしまう少年の話。
それが見てられず個性の訓練をしないように、ヒーロー以外の道に進むよう何度も何度も言ったが、それでもヒーローを目指してしまった少年の話。
隠れて個性の訓練を続け、何度も何度も火傷していた少年の話。
そして……エンデヴァーさんが約束を守れなかった少年の話。
「……俺との約束の場所で酷い山火事が……おそらく燈矢の個性の暴走だろう……本当に……本当に酷い山火事が起こり、燈矢はそれに巻き込まれて死んだと思っていた」
その山火事は酷く、少年の燃え残った骨が一部だけ見つかったが、それすらも奇跡と思えるような酷い山火事だったそうだ。
「……俺はつい先程まで燈矢は……息子は死んだと思っていた。それが急にヴィランとして目の前に現れ……燈矢の名を語り、俺に助けを求め、2人の最後の約束の場所の名前を叫んだ……そして……俺の頭は真っ白になってしまった……」
「「…………」」
俺とホークスさんは何も言えなかった。
心情を予想する事は出来た。
が、何も言えない。
こんなにも辛い出来事を努めて冷静に話す大人に、まだ俺はかけられる言葉を持っていないのだ。
「……ヒーローとしてお聞きします。エンデヴァーさん……これからどうするんですか?」
私人ではなく、公人として……ヒーローとして、この後どうするのか聞くホークスさん。
……その姿を見て、比較的歳が近い筈のこの人が随分と大人に見えた。きっとこれが人生経験の差なんだろうな。
ホークスさんの問いかけに、エンデヴァーさんは、
「……明日、マスコミを集めて会見を開く予定だ。今、お前たちに話した内容を正直に伝えるつもりだ」
「……そうですね。今日の出来事はもうテレビに映って放送されている。エンデヴァーさん本人の説明は必要ですね」
「その上で、あの荼毘が……本当に俺の息子の燈矢なのかはわからないが……事実であれ虚言であれ、どちらにしろ俺が必ず捕まえてみせる……と、そう話す予定だ……世間がそれでどう反応するかは予想がつかないが……」
「……率直にお聞きします、エンデヴァーさん」
「……なんだ?」
「荼毘は……荼毘は、本当に貴方の息子の……燈矢くんだと、そう思いますか?」
ホークスさんの問いかけ。
それにエンデヴァーさんは……
「……わからん」
「………………」
「…わからん、だが……」
「………………」
「……だが、確かに……確かに面影は感じられた……最後に見た時よりもずっと大人になっていた……酷い火傷もしていた……だが……だが……確かに面影はあった。燈矢の面影を俺はヤツに見てしまった。そして……父親失格の俺がこんな事を言う資格は無いのかもしれないが……俺の父親としての部分が……心なのか?血なのか?身体なのか?わからないが……それでも俺は、荼毘が燈矢だと……自分の血を分けた息子だと感じてしまっているんだ……」
悲痛な、弱々しい声だった。
……あのエンデヴァーさんの口から出たとは信じられないような、そんな声だった。
「……わかりました。答えて頂きありがとうございます。今日は……今日はこれくらいにしましょう。お互いケガも疲労もありますしね」
「ああ」
「……さ、行こうか回原くん。エンデヴァーさん、失礼します」
「……あ、はい……失礼します」
「ああ」
最後に挨拶し、2人でエンデヴァーさんの病室を出た。
「……回原くん。君も疲れただろう?今日はゆっくり休んで、明日また色々話そう」
「……はい。わかりました」
「素直でよろしい。うん、じゃあまあ明日ね。お休み」
「はい。また明日よろしくお願いします。お休みなさい」
ホークスさんと別れ、俺は用意してもらった個室の病室に移動する。
(……考えても仕方のない事なんだけど……)
ついつい考えてしまう。
明日のエンデヴァーさんの会見。
……人々は、一体どういう反応をするのだろうか。
翌日。
エンデヴァーさんはマスコミを集めて会見を行った。
目的は昨日の件……ヴィランを助ける為に俺に攻撃した件についての説明だ。
会見内容は前日にエンデヴァーさんが俺達に語った通りの内容だった。
マスコミ連中から遠慮のない質問が飛び交い、反論する事なくエンデヴァーさんは一つ一つ丁寧に答えていた。
……大人しいエンデヴァーさんが珍しく、今が好機とばかりに過激な質問をした記者もいる。まじいい加減にしろやマスゴミは。
会見を受けての世間の反応はある程度は予想通り。
『あれはヴィランの苦し紛れの嘘なんじゃないのか?』
『あれが本当にエンデヴァーの息子だとしたら、No.1ヒーローとしてどう責任を取るんだ?』
『エンデヴァーどうするんだろ?味方の……しかも学生に攻撃してたぞ?』
……とか、そんな所だ。
どちらかと言えば全体的に否定的な……マイナスの意見が多かった。
そんな世間の声をSNSでチラチラと見ながら、俺は雄英に戻った。病院から福岡の空港まではホークスさんが車を手配してくれたし、飛行機も色々手を回していい席を取ってくれたようだ。
……まあこの状況で俺をエコノミーの狭い席に座らせたら大変な混乱が起きるという配慮なんだろうなあ。
周囲の人達が好奇の視線で俺を見るくらいなら耐えられるが、あれ結局どうだったの!!とか皆が聞きたがって俺の方に集まって来たりしたら大変な事になる。
そんな事情もあり俺は人生初めてのなんだがすんごい席に座っていた。これ何て名前の席なのかしら?いくらくらいするんだろ?
そんな感じでいい席での空の旅を堪能。
空港にはブラド先生と相澤先生が迎えに来てくれた。
そして迎えの車に乗って雄英高校に向かう。どうにも至れり尽くせりだ。事情が事情だけに全く喜べないのだが。
「テレビで見た限り無事だろうとは思っていたが……やはり本人を目の前にすると改めて安心するな。無事でよかった」
「災難だったな……マスコミ連中にしつこくされたりしていないか?大丈夫だったか?」
車に乗り一安心したのか?
先生2人が声をかけてくれる。
「ご心配おかけし申し訳ありません。身体も無事ですし、マスコミにも上手く見つからず何とか戻ってこれました」
……まあ実際は空港に居たマスコミを隠行で躱して来たりはしているのだが。
「……全く、回原に話を聞いても何にもならんだろうに……ニュースに出来ると思えば遠慮なく来やがる……本当マスゴミ共は……」
「お前のマスコミ嫌いは相変わらずだな……と言いたい所だがこの件に関しては同感だ。プロならともかく回原は学生だぞ。未成年にこの件で一体何を聞こうというのだ全く……」
と、そんな空港での事を話すとこうなった。
全く。何であんな偉そうなんすかねマスコミは?
という話で車内はそこそこに盛り上がり、会話は途切れず雄英高校まで辿り着いた。
「ん」
「回原戻って来たぞー!!!」
「全くお前は……定期的にトラブルに巻き込まれないと死んじゃう呪いにでもかかってるのかよホント……」
「よせよ……回原ならマジでありえるかもしれないだろ」
「下手なホラーよりホラーね……うらめしい」
「えー何それ……と思いつつも、回原ならそうかもしれないと思ってしまう」
「運命に呪われし……いや、むしろ運命が呪いし男、回原……か、ふ……ふふ」
「……黒色。その辺で辞めとくノコよ」
「おいおい勘弁してくんね?流石にその呪いは怖いわ。トラブル巻き込まれ体質は否定出来ないんだけど」
クラスのグループチャットに連絡はしていたので、寮に着いた瞬間皆に迎えてもらった。
そして……
「切島に轟か」
A組の二人が何故かB組の寮に居た。
確か鉄哲が切島と仲良かったな。
それ経由で轟に連絡が行って、今ここにコイツがいるんだろう。
エンデヴァーさんの息子である、轟が。
「礼を言う回原。親父を助けてくれてありがとう。お前がいなかったら危なかったかもしれねえ」
轟が俺に頭を下げた。
……何となく、その仕草が昨日のエンデヴァーさんに被ってしまう。親は謝罪で息子は感謝。そんな違いはあったが所作が似ていた。不思議なものだ。
2人は親子なんだなあやっぱり、と変な所で感じてしまった。
「頭を上げてくれ轟。当然の事をしたまでだ」
そんな轟に、俺は声をかけた。
「……今回はたまたま俺だっただけだ。次に……今度俺が……俺以外の誰かがピンチになった時は、お前の力で俺を、皆を助けてくれよ」
俺のその言葉を聞き、轟は下げた頭を上げて、
「……わかった。今度お前が……皆がピンチになった時は、俺が皆を助けてみせる」
「そうさ!俺達はヒーロー見習いなんだ!そんな感じで行こうぜ!!」
……こうして俺達は笑い合い……これからもよろしくな、って感じで今日は別れた。
……今日は、こうして終わった。
……そして、夜が明けて次の日になり……
「荼毘……テメエ……」
無料の動画投稿サイト。
そこに一つの動画がアップされ………急速に再生数を稼いでいた。
それは荼毘の告発だった。
No.1ヒーローになったエンデヴァーさん。
……そんな父親を告発する、悪意に溢れた動画。
この動画の影響で……この動画の所為で物語は加速していく事になる。
……平和の象徴。
その、象徴不在の時代へと……
長くなりすぎたので2話に分割。
出来れば1話にまとめたかった……