sideホークス
荼毘の告発動画は人々の心に大きな闇を落とした。
まずは自分がエンデヴァーさんの実の息子だと証明するDNA鑑定の証明書の話。
……まあこの時点で地獄が確定した訳で……
そこから続くエンデヴァーさんのNo.1への執着心の話。
自分では無理と考え、自分の後継者にその夢を継がせる為にした個性婚の話。
生まれた子供への、幼い頃からの厳しい訓練の話。
……その途中で失敗作と判断され見捨てられたという話。
そこからの憎しみの日々の話。
そして荼毘が罪も無い多くの人々を殺してしまったという話。
この告発動画を受けて世論はエンデヴァーさんへの批判一色に染まる。
こういった世間の反応を受けて、俺は今後の協議を行う為公安の本部へと呼び出されていた。
「厄介な事になったわね……」
公安委員長がそう疲れた声で呟いた。
「世間ではエンデヴァーのヒーロー免許を剥奪しヒーローを辞めさせるべきだ……なんて意見も出てきているわ」
「……この状況で何考えてんですかねそいつらは……この状況でエンデヴァーさんまで居なくなったら更に街の治安は悪化するでしょうに」
犯罪への抑止力というものがある。目には見えないが大きな影響力を持つ、その力。
俺の当然の反応に、公安委員長は疲れた笑みを見せ、
「……エンデヴァーがヒーロー辞めても何とかしろよ残りのヒーロー達で!世はヒーロー飽和社会!他にもたくさんヒーローはいるだろう!皆、俺たちが払ってる税金から給料もらってるんだろ!だから残りの連中で何とかしろよ!平和は当然に維持しろよ!当たり前だろ!……という事らしいわよ、彼らの主張をわかりやすく要約するとね」
「……ヒューッ……相変わらず民度終わりまくりの我らが
全く……簡単に言ってくれる。
オールマイトに勝てなかっただけで、何年も何年もトップオブトップで活躍し、人々を救い続けてきた偉大なヒーローだぞ。
オールマイトが引退し……そしてエンデヴァーさんまでヒーローを辞めさせられるだなんて……そんな世の中、考えるだけで恐ろしい。
「何とか政府にも働きかけ、ヒーロー免許剥奪だけは阻止するつもりよ。だけど……No.1ヒーローの地位の剥奪は避けられないでしょうね……」
「……まあ、そうでしょうね」
「……その上で……その上でエンデヴァーの活動は荼毘の逮捕が最優先となるように方針が定められる可能性が高いわ」
「……お前は親なんだ。子供が凶悪犯罪者になって暴れてるんだから責任取って捕まえてこいよ、って事ですか」
まあド正論。
ぐうの音も出ない正論だ。
反論のしようもない。
「警察とも協力し、荼毘逮捕の為のチームを組む事になるでしょうね……エンデヴァーの活動の大部分はそちらに制限される事になるわ」
「……普通に街中で人助けしてても『あの荼毘とかいうヴィランを放っておいてなにやってんだよエンデヴァー!!』……ってなるでしょうしね」
「一般人の気持ちへの解像度が高くて助かるわ……そんな訳で、繰り上げで貴方が暫定のNo.1ヒーローとなるのだけど、今のうちにご感想でも聞いておこうかしら?どう?この状況でNo.1ヒーローになった今のお気持ちは?」
「……勘弁してください……」
そうだ……この荼毘の告発の一件……さらにスパイラルへの攻撃も含め、間違いなくエンデヴァーさんはNo.1ヒーローの座を追われる事になるだろう。
そうなると自然……繰り上げで、俺がNo.1ヒーローになってしまう……
「俺が平和の象徴ですって?……冗談じゃない……」
……正直、役者不足だ。
卑下せず正直な意見として、自分が優秀なヒーローであるという自覚はある。
しかし……ダメなのだ。
ダメなのだ……
「オールマイトを継ぐ平和の象徴……あの力強く、誰からも頼られ安心させられるようなヒーローとしての姿……象徴としてのあり方……俺では役者不足……正確には役割として不向きです」
誰もが信頼し、頼れる、安心出来る力強いヒーロー像。
平和の象徴。
エンデヴァーさんであれば……エンデヴァーさんであれば、それを継げる資格があった、と思う。
あの力強く大きな背中。
厳しくも威厳のある立ち振る舞い。
今まで長く平和に貢献してきた圧倒的な実績。
オールマイトとは違う……しかし、また別の平和の象徴としてのあり方を、エンデヴァーさんなら今のこの状況でも示せた筈なのだ。
俺では……難しい。
俺は実績もあの二人から比べると劣り、言葉は軽く、軽薄で……なんならこの前のビルボードチャートの一件から生意気とすら取られている可能性すらあった。
俺に反発するヒーローは出てくるだろう。
素直に従わないヒーローもいるだろう。
……特に年配のヒーローが心配だ。
これからのヴィラン連合との決戦に向けて、治安の悪化が容易く予想される状況で、多くのヒーローの力を結集し立ち向かう平和の象徴としては、俺は明らかに不向きで役不足なのだ。
じゃあ誰が後継者に……平和の象徴の後継者に相応しいのだ……と、そこでふと最近見た頼り甲斐のある背中を思い出す。
……が!!!
(……いや、ダメだダメだ!!一体!今!お前は何を考えたホークス!!)
一瞬脳裏をよぎったとある考え。それを頭を大きく振ることで思考から追い出す。
(……ああ、確かに彼には平和の象徴としての資格があるのかもしれない。将来、間違いなくNo.1ヒーローの座を争う器だろう。これまでの彼の言葉を、行動を見ても将来の平和の象徴の候補として相応しい人物だ)
……でも、ダメだ。
(……流石に……流石に、若すぎる!!)
螺旋道ヒーロー・スパイラル……
優秀であるが、まだ高校1年生。
ヒーロー見習い。仮免取得しただけの学生だ。
(……そんな子供に、次代の平和の象徴の役割を……そんな重責を押し付ける訳には行かないだろうが!!)
せめて彼が高校を卒業し正式にヒーローとしてデビューを……いや、それでも早い……例えば成人さえしていれば……
……そうであったなら、俺含め周囲がサポートさえすればその線はあり得たかもしれない。
彼がこの困難な状況の中ですら、次代の平和の象徴として活躍する未来が。
しかし……しかし、残念ながら彼はまだ学生で、子供なのだ。
(……これがアニメやゲームの話だったのなら、ここで出てくるいい感じの中ボスでも倒して第一部完!!数年後に大人になった彼等中心に第二部スタート!!ここからは君たちの物語だ!!……ってなるけど、物事はそんなに都合良くいかないんだ!!)
そんな都合の良い話は、無い。そもそも頼るべき象徴不在で、中ボスにすら確定で勝てるかすら怪しいのだ。
(そんな状況で……そんな状況でいくら優秀でも学生に……子供に平和の象徴の役割は任せる訳には行かないだろう!!)
……せめて!!せめて!!
今、この窮地を脱してからだ!!
それからならばスパイラルもいるし……雄英高校の秘蔵っ子であるルミリオンもいる。
(……次代の受け皿は……後継者は、いるんだ……)
……今の、このピンチさえ乗り越えれば…、
ただ……ただ、それが難しいだけで……
「ホークス……意図せず暫定No.1ヒーローになってしまった以上……貴方のヴィラン連合への潜入捜査の任は解きます」
「……当然ですね。No.1の仕事だけでも大変ですし……もし万が一ヴィラン連合と何か会合している場面でもスクープされたら……」
「……今回のエンデヴァーとは比較にならないレベルでのこのヒーロー社会を揺るがすスクープになるでしょうね。No.1ヒーローとヴィラン連合の協力関係を想像させるスクープなんてものは」
「……ただでさえエンデヴァーさんのスクープからの……二人連続でのスクープですからね」
「幸い……不幸中の幸いに、情報収集に関しては新白連合の全面協力を取り付けられたわ。裏方はそちらに任せて……貴方は、表のヒーロー活動にこれから専念してもらう事になるわね」
新白連合の全面協力。
……それはこの最悪極まりない状況での唯一の希望だ。
元々情報収集やら策謀やらに強みを持つ事務所。
……そこに裏方を任せられるなら希望はある。
公安委員長は、俺の目をじっと強く見て、
「わかったわねホークス……不本意でしょうけど……今は、今はこの状況を乗り切るしかないの……申し訳ないけど協力してちょうだい」
……その言葉と、その瞳に……この人の心中を察してしまう。
……この人も、きっと辛いのだ。
「……わかりました。……お互い……お互いに、頑張りましょう……」
言葉には出さず、おそらくお互いに同じ事を思っていた。
絶対的な平和の象徴の不在。
……そして、それを継げる平和の象徴の後継者の、不在……
……それでも……それでも……責任のある大人として、俺達は……俺達は平和を維持しなければいけない立場なのだ。
悪化し続ける治安……
どんどんと悪感情に支配されていく人々……
その環境でヒーロー活動に嫌気が差して辞めていくヒーロー達……
活発化するヴィラン……
象徴不在の、この空白の時代を乗り切る為に……
……それでも……それでも……俺達はやらなければならないのだ。
例え役不足であったとしても……バトンを受け取った大人の責任として……
書きたいことが多く2話連続で暗い話に……
ホントは前の話と合わせて1話にまとめたかったけど中々難しい……