「よっしゃ準備出来たぞ。んじゃ行こうか小大」
「ん」
いつもスカートの小大には珍しく今日はジーンズ姿。
そんな彼女に予備のヘルメットを渡す。
秋も終わりかけの冬の入り口といったタイミング。今日は朝から暖かな日差しが差しており、気分転換にバイクで少し走りたくなった。これからもっと寒くなるとバイクは厳しそうだしなぁ。
雄英高校の外に出ると色々騒がしそうだし、この広い敷地内を走って良さげな所で昼食でも取ったら気持ちいいだろうな。そんな事を小大と話していると、何とそのまんま昼食がてら軽くピクニックに行くことになった。
そこから二人でおにぎりやらサンドイッチやら卵焼きやら唐揚げの入ったお弁当を作り、寮を出てバイク置き場へと向かった。
んで予備のヘルメットを小大に渡し、バイクに跨り小大を後ろに誘う。
「ん」
おっかなびっくり俺の後ろに乗った小大は『きゅっ』という可愛らしい音でも聞こえて来そうなくらいささやかに俺の背中の服を掴む。
「ん~……それだと走り出すと少し危ないかもな。俺の両肩か……もしくは腹にしっかりと捕まってくれ」
「……ん」
俺の言葉に小大はおずおずと……恥ずかしそうに後ろから俺のお腹に手を回した。
……何だか、バイクの後ろに乗るだけでも色々と性格の違いが見えるもんだ、なんて事をついつい思ってしまう。
拳藤はあまり遠慮とかしないで力強く手をお腹に回してくる。
ねじれ先輩は背中に抱きつくようにしてしっかりと捕まってくる。
んで小大。恥ずかしがっていたり遠慮してるんだろう。捕まっていいのかな?なんて感じで俺の服の背中側をきゅっと掴んだ。
それが奥ゆかしく健気で小大らしいな、なんてついつい思ってしまう。
まあ、危ないからダメだけどね。
「よし、しっかり捕まったな。んじゃ出発するぞー」
「ん」
小大の返事を確認し、俺達はバイクで走り出した。
雄英高校は広い敷地を持つ。
その広い敷地内には様々な施設があり、授業ではバスで移動する事もある為しっかりと道は整備されている。
本当は校外に行けたら良かったんだけど……思いつきが急だったのと、昨今の様々な事情があるので外出は自粛。
残念ながらバイクで走るのは雄英高校敷地内となった訳だが……まあ普段の授業で移動する時とは視点も違うしこれはこれで中々面白い。
とりあえずの目的地は川沿いのエリア。前に行った時はいい感じに芝生となっており、下にレジャーシートでも広げればまさにこれぞピクニック!という感じになりそうだった。
「ん」
「ああ……普段はバスとかで移動だからな。こうしてバイクで走ってみると普段通る道でもなんか違って感じるよな」
特に信号とかは無いので止まる事はなく、特に急ぐ事もないのでのんびりと風を楽しみながらバイクは進んでいく。
信号がないのはいいね。
そうこうしている内に目的地へ到着。
目の前にはそこそこに広い川と芝生が広がっていた。
川の水色と優しい芝生の緑が見ているだけで心地良い。
バイクを止めてレジャーシートを広げ昼食の準備をする。
「いただきます」
「ん」
2人手をあわせいただきます。そして食事を始める。
「んん!」
小大は早速トマトの入ったサンドイッチを食べていた。トマト好きだなあホントに。
俺はまずは唐揚げに手を伸ばす。
「うん。旨い」
揚げたての熱々もいいけれど、弁当に入れて時間が経ち少ししなっとした唐揚げもまた良いものだ。
唐揚げ担当は小大。冷めてもいいお弁当用に少し味付けもこだわってるのかなこれは?
「ん」
「卵焼き旨いって?なら良かった。少し甘めな方が小大好きだもんな」
「ね」
「ああサンドイッチ気になってたんだ。ありがと。1個もらうな」
「ん」
口数が少ないというか基本的に「ん」とか「ね」とか言わないから口数が少ないも何もないのだが……不思議と会話の通じる彼女とぽつぽつ話しながら食事を続ける。
日差しは穏やかで暖かく、風はそこまで冷たくもない。
「ん」
「お、お茶か。ありがと。ちょうど飲みたかったんだわ」
「ね」
水筒に入れて持ってきた温かいお茶を2人で飲む。
……そんな、穏やかな時間。
最近のむしゃくしゃやら……塞ぎがちだった気分が晴れていくのがわかった。
福岡の一件と、エンデヴァーさんと荼毘の件から俺を取り巻く環境は大きく変わった。
福岡での活躍とその後エンデヴァーさんから攻撃されたこと等もあり、俺に対してのマスコミの取材申し込みが途切れず雄英に来ているそうだ。
それが、世間一般からの俺への関心の強さを証明していた。
その取材の申し込みはブラキン先生やら校長が全て断ってくれているのだが、俺が望まない形での俺への注目は正直かなりのストレスであった。
ぶっちゃけ、多分俺に関しては外出許可が中々降りないだろうな、とは思わせる程度には酷い。
だからしばらくは外に出るのはインターンとかの関係じゃなきゃ難しそうで、プライベートは多分無理。
外に出たら色々根掘り葉掘り聞かれそうだし、マスコミに見つかりでもしたら大変そうだ。
……そんなこんなで、俺は俺にしては珍しく強いストレスを抱えながらの日々を過ごしていた。
なので、今日のこれは気晴らし、気分転換、まあそんな感じのイベントだった。
「ご馳走様でした」
「ん」
食事を終えて、俺はレジャーシートの上にごろりと横たわって青い空を見上げる。
風は少し冷たいが、日差しが暖かい。
ホントいいピクニック日和である。
気晴らしに付き合ってくれた小大にはマジ感謝。
「ん」
「?どした?小大?」
呼びかけて来た小大の方を見ると、彼女は俺と違い座った状態で自分の太ももを軽くぽんぽん、と叩いていた。
ん……これひょっとして……
「……いいの?」
「ん」
これは膝枕ってやつだぞ。
これは膝枕ってやつだぞ。
これは膝枕ってやつだぞ。
嬉しくて思わず頭の中で3回も唱えてしまった。
小大はやはり少し恥ずかしいのか……その普段表情に中々感情を見せない彼女には珍しく、少し両頬を赤く染めていた。
それが何とも可愛らしいと思ってしまう。
「……んじゃ、失礼して……」
「ん」
もぞもぞと身体を動かし、彼女の太ももの上に頭を預けた。
「おお……」
日光とは違う暖かさが俺の後頭部にじんわりと優しく広がっていく。
普段雄英で厳しいトレーニングをしているにも関わらず柔らかい太ももの感触が何とも素晴らしい。
青い空を小大の太ももに頭を預けながら、穏やかな気持ちで見上げる。
物凄く安らぐ時間だった。
最近の諸々でささくれだっていた俺の気持ちがどんどん癒されていくのを感じる。
「ん」
小大は穏やかな顔で、上から俺を見下ろしていた。
彼女の手が……柔らかい指先が俺の髪を優しく梳いてくれる。
……何で女の子の身体ってこんなに柔らかいんだろうね?あんな厳しいトレーニングしてるのにさ?ホント女の子って不思議である。
小大の優しい目と穏やかな雰囲気。
比べると失礼なのかもしれないが、これは拳藤やねじれ先輩には無いものだった。
穏やかで優しい時間。
こういう所が小大の良さなのだろう。
……もし彼女と付き合ったなら……きっとこんな穏やかで優しい時間をこれからもたくさん過ごせるのかな?なんて事を考える。
……3人の、魅力的な女の子。
とてもとても魅力的な彼女達。
3人それぞれ全く違う別々の魅力溢れる女の子達。
猶予はもらってるけど……いずれ、きっと誰か一人を選ばなきゃいけないんだよな俺が……
それがとても悲しくて……じくじくっと心が痛くなる。
「なあ、小大……これは独り言なんだけどさ……」
「ん?」
「……小大……小大さん的には……的には、ハーレムって……ハーレムって、どう思われますでしょうか?」
「………ん!」
……ぎゅっ!
「痛てて……冗談……冗談てか独り言だって」
小大に軽く頬を……出発の時に服を最初に掴んだのと同じくらいの強さで頬をつねられる。
はいすみません……ハーレムとかダメですよねごめんなさい……
まあ自分で言っててこれはないわな。
デートの最中にハーレム打診は我ながらないわ……ほんとすんません……
「ん!」
全くもう……と言いたげな小大の顔を見あげながら、そんな事を考える。
本気で怒ってる訳ではないのだろう。
多分冗談だとわかってるだろうし。
……うん、わかってるよね、大丈夫だよな……うん……
また優しく髪を梳くのを再開してくれたから、多分きっと大丈夫なのだろう……きっと……
そんな事を考える。
昼食の終わったばかりの、そんなとてもとても穏やかな昼下がり。
これは、小大と過ごした、そんなとても穏やかで優しい時間の記憶。
「さあてA組ぃ!!!今日こそ白黒つけようかぁ!!!!」
そして日が変わり、A組とB組対抗の合同訓練の時間となる。
まずスタートは物間の咆哮。
こちらをギラギラとした目で睨んでくる戦意MAXのトンガリ。
かなり……かなり気疲れしてそうだが、それでも内に秘めた闘志を燃やす轟。
そして……最近成長著しいと評判の緑谷。
んで、うちのクラス連中も負けないぐらい闘争心を燃やしていた。
いいね、こういう雰囲気は嫌いじゃない。
訓練場で顔を合わせた俺達。
A組VSB組。
その対戦。
ブラキン先生が合同訓練の内容を説明する。
「本日の訓練は合同訓練だ。想定するのは実戦……20対20のヒーローVSヴィランの対戦だ。そこにヒーロー科への編入を希望する心操をA組とB組に交互に加え、公平を期すために2回対戦を行う」
「大人数同士の戦いでは目立てる奴と目立たない奴の差が顕著に現れる。そこで功を焦って周囲の足を引っ張ると当然減点だ。諸君らは周囲の足を引っ張ること無く、自分も周りに埋もれず活躍出来るような立ち回りを望む……ハードルが高いのは承知している。だが、今はそういう事が必要な状況だと理解して欲しい」
相澤先生の続けての言葉。
……確かに大人数になると埋もれる奴もいるけど、そこで焦って目立とうとすると周囲の足引っ張るしなぁ。
中々ハードル高いぞこれ。
「おうドリルコラァ……覚悟しとけよ!!」
「かっちゃん!……でもごめんね回原くん……正直、君に挑めるのは僕もワクワクしてる」
「体育祭では氷の個性しか使えず悪かった……今日は全力で行くぞ回原」
トンガリ緑谷轟というA組TOP3の俺への宣戦布告。
それに対し俺は……
「……はっ!俺にばかり注目してるのはいーけどよ!!そんなだと俺以外のB組に足をすくわれるぜ!!精々覚悟して挑んでこいや!!」
それに獰猛な笑みで返す。
そして俺以外のB組皆も同種の笑みを浮かべA組連中を睨む。
さあて!!祭りの時間だ!!
いっちょ暴れるとしようか!!
最近暗い話が多かった……イチャイチャに後悔はない……