回原のドリルは天を貫く   作:のりしー

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12月、泥花市

sideエンデヴァー

 

「……本当に、一人で行くつもりかよオッサン?」

「ああ」

バーニンの問いかけ。それに短く答える。

 

12月に入り、新白連合よりとある情報の提供があった。

 

荼毘……燈矢が属するヴィラン連合と異能解放軍がとある地方都市で大規模な抗争をしようとしている、という情報だ。

 

異能解放軍とやらに関しては正直知識がなかったが、デストロという過去の人物の思想に共感し、今の世を武力行使も含む手段で変えようとしている……まあヴィランと呼んで差し支えのない組織であるようだ。

 

その2つが対立……というかどうも異能解放軍の方からヴィラン連合にケンカをふっかけたようではあるが、異能解放軍が実質的に支配している地方都市にヴィラン連合を呼び寄せ、そこで勝敗を決めよう、という事になっているらしい。

 

新白連合が送り込んだスパイからは、作戦の全貌とまでは行かないが、ヴィラン連合の移動速度から大体この日辺りが抗争の日程になるだろう、という情報が送られて来ている。

ヴィラン連合が攻め込んでくるなら迎撃の準備は必須。迎撃は上の連中だけでなく末端の人員も参加する。その末端まで大体この日が戦闘になるぞ、と言われているそうだから、これはかなり確度の高い情報だろう。

 

「信じられねえよ……地方都市在住の約11万人全てが異能解放軍のメンバーだなんて……良く今まで公安やらに知られずしれっと活動してやがったなコイツラ……」

 

「全くだな」

 

これほど大規模な組織がこの国の警察などに全く見つからず平然と活動していた事には驚きを隠せない。

……しかし、今現在、現実にこうなっている。

ならば、これが運命ということなのだろう。

 

「……もう一度聞くぜオッサン……本当に、一人で行くのか?」

 

「ああ」

 

「……敵は約11万人だぜ……それでも、それでも行くのかよ?」

 

「……別に、11万人全てを1人で倒す訳ではない。あくまでも……あくまでも俺の狙いは荼毘……燈矢ただ1人だ」

 

……もちろん、これがそんな簡単な話ではないのはわかっている。

俺が「ヴィラン連合の荼毘を逮捕しに来た。結果として異能解放軍に協力することになるから黙って通せ」と言ったところで、そんなすんなり事は運ばないだろう。

 

俺はこれまでのヒーロー活動でヴィラン達から強く憎まれているし……元とはいえ一度はNo.1ヒーローとなった身である。俺を倒し組織の手柄としてアピールする為に、間違いなく俺も攻撃されるだろう。

 

本来は所詮ヴィランとヴィランの抗争……放っておいて漁夫の利を狙うのが一番良い。一番賢い。

 

だが……

 

「……それでも、そこに俺の息子がいるというならば……俺は、俺は泥花市に行き、息子を止めなければならない」

 

警察の捜索にも引っかかる事の無かったヴィラン連合。

……それが、確定で現れる場所の情報が手に入ったのだ。

 

ならば、俺は行くしかない。

 

それが……それが、例え俺が親失格だったとしても……親の責任というものだろう。

 

「……これは完全な俺のエゴだ。ヒーローとしては、ここは勝手にヴィラン同士で相打ちさせ、戦力が弱った所を攻撃するのが一番良い……つまり、ここで仕掛けるのは……仕掛けるのは、完全な俺の都合だ。合理的な判断でない以上……他の連中を巻き込む訳にはいかない」

 

「……オッサン」

 

「……だから、俺は1人で行く」

 

「……」

 

最悪、約11万人のヴィランと戦うかもしれない、そんな絶望的な戦い。

……非合理的な俺の都合に、他のヒーローを巻き込む訳にはいかない。

 

……当然、死ぬつもりはない。

燈矢の戦いは目立つ。

全ての敵を倒す必要はない。

ヴィラン連合と異能解放軍の戦いが始まったら、その目立つであろう燈矢のいる場所を特定し、そして捕らえ逃走すればそれでいい。

……その為に必要な道具も、公安から譲り受けている。

 

死なずに、俺にとっての勝利条件を達成する目はあるのだ。

……ただし、その難易度が絶望的なくらいに高いというだけで。

 

「行ってくる。後は頼んだぞバーニン」

「……」

 

苦しそうな顔で俺を見送るバーニン。

そんな彼女には……いや、彼女含むサイドキックの皆には感謝してもしきれない。

……あの燈矢の告発動画以降も、誰一人欠ける事無く俺の事務所で活動してくれた。

……それが原因で皆が心無い言葉を市民からかけられていることも知っている。しかし、誰一人それに愚痴を零すことなく、ヒーロー活動を続けてくれた。

 

……俺には勿体ないサイドキック達だ。

 

……だから、俺は行く。

ここで燈矢を……荼毘を捕らえ、サイドキック達の名誉を取り戻す為にも。俺は今ここで泥花市に行かなければいけなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

泥花市一帯を見渡せる丘の上から様子を見ることしばらく。

 

「……始まったか」

 

遠くから見てもはっきりとわかる、戦いの狼煙が上がった。

……焦るな……焦るな。

……逸る心を懸命に抑えつける。

 

荼毘の……燈矢の青い炎は目立つ。

 

……冷静に……その炎を探せ……見つけだせ!!

 

「……そこか!!!」

 

見つけた!!

 

「おおおおおお!!!!!!」

 

足裏から!背中から!!全力で炎を放つ!!

あの忌まわしき福岡で得た唯一のモノ。

 

炎による飛行能力!!!

 

丘から飛び立ち!街並みを飛び越え!!

 

「燈矢ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「おい!何だあの炎!!」

「まさか!!あれはエンデヴァー!?」

 

俺に気づいた眼下の連中が慌てて俺にも攻撃を加えてくる、が!その全てを躱し俺は一直線に燈矢の青い炎の元に向かう!!

 

「……は!!おいおい!!まさか!!来たのかよエンデヴァーお父さん!!」

 

「燈矢ぁぁぁぁ!!!」

 

氷を操るヴィランと戦っていた燈矢!!

その燈矢の元に俺はついにたどり着いた!!!

 

「やあお父さんこんにちは!!まさか会いに来てくれるとはね!!随分といい顔をしてるじゃんか!!まるで最近やっと念願のNo.1ヒーローになったのに!!過去の自分の不始末でその栄光から叩き落されたような酷い顔をしているよお父さん!!ねえお父さん!!今どんな気持ち!?ねえ今どんな気持ちなのお父さん!?」

 

「燈矢……」

 

「そんな哀れなお父さん!!ねえ!!こんな所に何しに来たのさお父さん!!まさか!!まさか俺を止めに来たとか言わないよねお父さん!!!ねえお父さん!!」

 

「燈矢」

 

とてもとても楽しそうに荼毘が……燈矢は両手を広く広げて、

 

「状況わかってるのかいお父さん!?ここはあんたみたいなヒーローを憎む連中の本拠地だぜ!!こんな所にのこのこと来て!!アンタみたいなヒーローが無事に帰れると思っているのかよ!?」

 

その言葉に、周囲にいた連中が……燈矢と戦っていたヴィラン達全てが俺を強く睨んでくる。

 

当然だ。奴らにとっては俺も燈矢も敵なのだから。

 

「まさかまさか敵の敵は味方だとか思ってたのかいお父さん!!そんなおマヌケな甘い甘い考えでここまで来たのかよお父さん!!!本当に!!本当に1人で俺を止めに来たのかよお父さん!!」

 

……ああ、そうだ。

 

「……そうだ。俺は、お前を止める為にここに来た」

 

その言葉に燈矢が……周りのヴィラン達も、皆が笑う。

 

「……ふっ……ふふふ……はーっ!ハッハッハッ!!まじかよぉ……マジかよお父さん!!本当に!!本当に1人で俺を止めに来たのかよ!!」

 

「ああ」

 

「ハッハッハッ!!笑い死ぬぜ!やめてくれよ!!状況知ってんのか?ここには11万のヴィランがいるんだぜ!!そんな所にあんたは1人で来たってのかよ!!」

 

「ああ。そうだ」

 

その言葉を聞き、くしゃっ、ととても哀れなモノを見るように、とても嗜虐的な笑顔を浮かべ、

 

「……ああ、そうかそうか……そうだよなぁ……あんたはもうNo.1ヒーローじゃないもんなぁ……家族関係クソ極まりない最低最悪のヒーローだもんなぁ!!そんな奴に!!そんなヒーローに!!誰もこんな戦いに!!こんな絶望的な戦いについて来たがる奴なんていないよなぁ!!あーそうかそうか!!お父さんもついに1人になったんだなぁ!!ああ!!可哀想なお父さん!!誰もお父さんについてきてくれなかったんだね!!だから1人で来るしかなかったんだね!!」

 

「……ああ、そうだな」

 

……そうだ、これは……これは、今までの俺のやって来たことの結果……

その結果……俺は今、ここで1人ヴィランに囲まれ……息子と向き合っている。

 

それが、事実だ。

 

「お前の言う通りだ燈矢」

 

「……あ?」

 

……その全てを飲み込み、俺は燈矢に向き合う。

 

「お前の言う通りだ燈矢……全て、お前の言う通りだ……お前の言う通りに俺は今これまで自分がしてきた事への報いを受け……そして今、1人でお前を止める為にここにいる」

 

「……」

 

「なあ、燈矢……」

 

「……なんだよ?」

 

「瀬古杜岳行かなくて……ごめんな……」

 

「!!!!!」

 

燈矢の目を見て、しっかりと向き合う。

……本当は、もっと昔に……こうするべきだったんだろう。

燈矢がわかってくれるまで、何度も、何度も……

 

「遅くなってごめんな……でも、会いに来たんだ燈矢。お前を止める為に……たくさん、たくさん話をする為に……」

 

燈矢は……俺の言葉を聞き……ふるふると全身を震わせ、

 

「……はっ、ははは……遅え……遅えよ。今さら……今さら遅えんだよ……」

 

「……燈矢」

 

「……今さら……今さら止まれるかよ……辞められるかよ……止められるもんなら……止められるもんなら止めてみろよ!!この絶望的な状況で!!俺を倒して!!止めて!!1人で生きて帰れるってんならやってみろよ!!!」

 

その言葉が周囲への合図になったようだ。

今まで遠巻きに俺たちを見ていた解放軍達も、俺と燈矢に向けて構えを取る。

 

そう。

そうだった。

これは三つ巴の戦い。

絶望的な戦いなのだ。

 

俺1人での、戦い……

 

「この状況!!一人で何とか出来るってんならやってみろよ!!エンデヴァー!!」

 

吠える燈矢。

敵ではあるが、呼応するように闘志を燃やす解放軍。

 

そこに……

 

 

 

「……ところがどっこい。実はヒーロー側も1人だけじゃないんですよねえ!!」

 

 

 

「その声は!!まさか!!」

 

周囲を敵に完全に包囲されている俺!!

その俺の傍らに、包囲なんてまるで無いように極々自然に降り立つ、大きな翼を持つヒーロー!!

 

「ホークス!!!」

 

暫定ではあるが、現No.1ヒーロー!!

速すぎる男。

 

その男は、この絶望的な状況がわかっている筈なのに……まるで普段と変わらない、あのいつもの飄々とした様子で、

 

「せっかく楽しいお祭りに繰り出すっていうのに、俺を誘ってくれないだなんて水臭いじゃないですかエンデヴァーさん。ま、それはそれとして。はいこれインカム。ちゃんと耳につけてくださいね」

 

「……貴様……何を?」

 

言われるがままにインカムを耳につける。

すると……

 

『こちらスパイラル!!ヴィラン連合のトゥワイスを捕らえました!!』

 

インカムから!!絶対ここにいてはいけない学生の声がしてきた!!

 

「ホークス!!貴様!!まさかスパイラルまで巻き込んだのか!!いくら強くても奴はまだ学生だぞ!!」

 

俺の怒りの声にホークスは冷静に、

 

「……どーせ誘わなくても彼はここに来ちゃいますよエンデヴァーさん。素顔でいるか?それとも仮面被ってここにいるか。その2択です。俺達より新白連合と関係深いんですから彼は。それだったら……最初から組んでおいた方がいいでしょう?」

 

「……全く……呆れた奴だ……」

 

ホークスの言葉で怒りを鎮める。完全な正論で反論の余地がまるで無い。確かに回原……スパイラルであればどうせここに来るだろう。そういう奴だ。

 

「……それに、ここに来たのは俺達だけじゃありませんよエンデヴァーさん」

 

「……何?」

 

インカムから、また聞き覚えのある声が聞こえてくる。

 

『こちらミルコ!!地雷女蹴っ飛ばしたぞ!!』

『エッジショットだ。敵の中堅指揮官らしきヴィランを複数撃破!!』

 

……他にも、何人もの聞き覚えのある声が……ヒーロー達の声が、耳につけたインカムから聞こえてくる。

 

そして……

 

『こちら司令部。今回の脚本を担当させて頂いた新白連合所属ヒーロー事務所インターン、ファントムシーフです。これより全体の作戦指揮をサー・ナイトアイに引き継ぎます』

 

『紹介頂いたサー・ナイトアイだ。これより全体の指揮を取らせて頂く。作戦目的はヴィラン連合の荼毘の逮捕。そして可能であればヴィラン連合・異能解放軍の指揮官クラス全員の逮捕だ。絶望的な戦況に見えるかもしれないが……何、11万の敵を全て倒す訳ではない。ここにいるヒーロー達ならば可能な筈だ。全員で無事に帰るぞ!!!』

 

「お前達……」

 

どうして……ここに……

 

『おいボケッとしてんなよオッサン!!』

 

「この声は!!バーニン!!」

 

まさかお前も来たのか!!

 

『オッサンは確かに家庭人としてはマジクソで脇も臭くてヒーローとして以外なら欠点もたくさんあるが……』

 

『『『………』』』

 

『……それでも、アンタは素晴らしいヒーローだ!!確かに!!民間人には不評でNo.1の地位からは引きずり落とされたけれど!!それでも!!それでも私たち現役ヒーローが選ぶ!!現役ヒーローの支持率No.1ヒーローはアンタのままだ!!』

 

「……バーニン」

 

『……だから胸を張ってくれよ!!顔を上げて前を向いてしっかりしてくれよ!!ここに!!今ここに!!アンタを助ける為に集まったヒーロー達の為にも!!アンタがしっかりしなきゃ始まらないよ!!』

 

……その言葉に、多くのヒーロー達が……皆がインカム越しに力強く頷く。

 

……それが、俺の心に火を灯した。

ゴォ!!!

強く、大きな炎を、俺の心に灯した。

 

「おわっと!!」

 

傍らのホークスが思わず俺から少し離れる程の、強い炎が俺の全身から溢れ出す!!

 

……すまない。みんな。

 

「……なんだよ……なんだよなんだよなんだよ……何なんだよこれは……No.1からは引きずり落としただろぉ……世間の評価は目茶苦茶だろぉ……なのに……なのになのになのになのに!!なのに何で!!何で!!こんなにも多くのヒーローが!!親父を助ける為にこんな絶望的な戦場に集まって来てるんだよぉ!!!」

 

状況を察して、混乱する燈矢。

当然だ。俺ですら混乱している。

 

……それでも、それでも!!混乱してばかりの情けない姿は皆には見せられない!!

俺を助ける為に!!ここに集まってくれたヒーロー達の為にも!!

 

俺を見てくれ、とは言えるような男じゃない。

俺についてこい、と言う資格はもうないだろう。

 

だから……

 

『エンデヴァーだ』

 

短く、インカムで皆に伝える。

 

『俺に、力を貸してくれ』

 

ここで、今ここで全ての災厄の根を刈り取る。と。

 

『……貴方のその言葉を待っていた』

 

『……お前も来ていたのか?』

 

神野区で重傷を負ったヒーロー。

そろそろ復帰という噂もあったが……

 

『我々は2人続けて平和の象徴を失い……民心は荒れ、治安は悪化し、ヒーローは今もこうして絶望的な戦いに臨もうとしている……しかし、それでも……それでもなお、希望の糸は紡がれている……そう、過酷な状況に耐えたデニムこそが素晴らしいヴィンテージデニムへと育つように……』

 

『………』

 

『ここで我々が勝利し!!この不利な盤面をひっくり返す!!』

 

そしてその男が!頼れる男が今!復活の声を高らかに上げる!

 

『ベストジーニスト!!今日より活動復帰する!!』

 

 

 




ここでまた唐突に作者の好きな性癖発表ドラゴン!!

絶望的な戦いに1人で臨むヒーローを助ける為に、続々と仲間たちが集まってくる!!
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