『回原!!回原ぁ!!無事か!?生きているか!?』
「物間か!大丈夫だ生きてる!!怪我も無いよ。そっちこそ大丈夫か?」
個性でつながった物間から、最近のコイツには珍しく焦りを隠さない声が届いた。それに返事をしながら周囲を……足元の光景を見回す。
先程までの泥花市の普通の街並み……それが全て崩れ落ちた無残な光景を……全てのモノが土に還ってしまった……その悲惨な光景を。
「……足元の光景は酷いもんだな」
『……すまない。少し取り乱した……とりあえず無事で良かったよ回原』
俺の返答を聞いて落ち着きを取り戻した物間と、とりあえず状況を整理する。
「よくわからないけれど……何か恐ろしい力が街を破壊しながらこちらに迫って来ていた。危機感知とホークスさんの言葉に従ってとりあえず上空に逃れたけれど……」
『こちらでも状況は確認している。市街地のある地点から同心円状に建物が崩れ落ちていった……君の言った通り空は無事……地面に接している物が建物でも車でも何でも崩れていった感じだね』
2人で状況を整理する。
インカムからはヒーロー達のそれぞれの生存報告が上がってきている。良かった。皆無事みたいだ。
『大したものだねホークスは……自分の羽根を飛ばして出来るだけ多くのヒーローを……異能解放軍の人も救っているみたいだ』
そう、今も周囲の空を舞う赤い羽根が……そしてその羽根に拾われて空を舞う多くの人達が見えた。
あの短時間に状況を把握し、多くの人を救ったのだ。
やはりスゴイ人だなホークスさんは。
……おそらくホークスさんの事だ。自分が空を飛べる最低限の羽根だけを残し、残りを人命救助に使用している事だろう。
……そちらで手一杯になるくらいには、だ……
だから……
『……行くのかい?回原?』
物間からの問いかけ。それに俺は、
「ああ……行くさ、物間」
そう、冷静に答える。
「ホークスさんはしばらく動けないだろう。そして……そしてこの恐ろしい事をしでかした犯人を抑えるのは……おそらく、空を飛べる能力が無いと難しい」
この恐ろしい破壊の力が、地面に接しているもの全てを破壊するのだとしたら……俺のように空を飛べるヤツが抑えるしかない。
そして……こんな恐ろしい力を持つヴィランを……見逃す訳にはいかない。ここで取り逃す訳には、いかない!!
俺のその言葉に物間はとても苦しそうな声で、
『……わかった。無事に戻れよ回原……僕らは他のB組連中に内緒でここに来ているんだ……君の訃報を持ち帰るだなんて、僕にそんな嫌な役割をさせないでくれよな』
「ああ……わかってるさ。行ってくる!!」
そして、俺は空を翔ける!!
この絶望的な光景の中心地を目指して!!
この絶望的な景色を生み出したヴィランの元へと!!
何もかもが崩れ去り、土へと還った不毛な大地。
大体の方角はわかっている。
破壊の波は同心円状に広がっていた。つまり、その中心地を目指せばいい。空を飛べるから中心地は簡単に確認出来た。
そしてそれ以上に!!俺の危機感知センサーがビンビンと全力全開で警戒アラートを鳴らし続けている!!そのアラートの強くなる方向に向かえば良いのだから!!
そうして空を飛ぶことしばらく!!
「……いた!!」
破壊の中心地に1人立つボロボロの青年。
事前にもらった資料。そこにのっていたヴィラン!!
「死柄木弔!!!」
ヴィラン連合のリーダー!!
コイツがこの破壊を起こしたのか!!
確か個性は崩壊……手で触ったモノを崩壊させる個性!!
その個性が何らかの原因で凄まじい成長を遂げたのか!?
なかなか考え難い程の成長っぷりだけど!!それ以外の事が考えられない!!
空を飛び接近する俺に死柄木も気がつく。
「お前は……確か雄英の……」
お互いの声が届く距離になった時、死柄木から俺に声をかけてきた。
……驚く程、穏やかな声だった。
「……雄英高校ヒーロー科1年の回原旋だ……確認だが……これは……この破壊は、お前がやったのか死柄木弔?」
問いかけに答え、こちらからも問いかけを投げる。
「そうだ……って、俺が言ったらどうすんだよお前?」
死柄木は俺の問いかけに答え、またこちらに問いを投げた。
だから、俺は答えた。
「俺がお前を止める……ここでお前を倒す!!そして!!もう2度こんな恐ろしい力は使わせない!!」
こんな恐ろしい破壊の力を!!他の場所で!!他の街で!!使わせるような事を!!決して許す訳にはいかない!!
俺の言葉に、死柄木弔は不快そうな顔で……しかし、どこか楽しそうに、
「生意気だな……たしか林間合宿で捕まえた爆豪ってのも生意気だったな……雄英高校のヒーロー科の連中はみんなこんなに生意気なのかよ?」
「……そりゃこれまで会ってきたヤツが悪いぜ。お気の毒さま……生意気具合をランク付けするなら、俺とその爆豪が雄英高校でダントツのトップ2だよ」
「は!!そうかよ!!」
そして死柄木弔が俺に向かって構える。
……だが、もう遅い!!
……全ての準備が終わった俺は、地面に降り立ち死柄木弔の目をしっかりと見る。
第一段階
本来自分の間合いを覆っている制空圏を、自分の体から薄皮一枚まで範囲を絞る。
これにより反射能力を強化。相手の動きの流れに逆らわず合わせる。
第二段階
相手の目を見て、相手の立場に立って相手の心と同調し、相手と一つになる。
そして、第三段階へ……
……コイツの……死柄木弔の力が……あの恐ろしい破壊の力が接触を起点とする個性で良かった。
……これならば、俺が完封してみせる!!
さあ!!行くぞ死柄木弔!!
「
静の極みの奥義。
この技で、俺がお前を倒す!!
side死柄木弔
「ぐはぁ!!」
……不思議だ!!
この回原とかいう生意気なヤツを殺す為いつものように手を伸ばす……
……が、まるで俺の手の動き・身体の動きを全てわかっているかのように奴の蹴りが俺の腹に突き刺さる!!
「ごほぉ!!」
……じゃあ、さっき目覚めた力……連鎖する崩壊で近くの地面ごとコイツを殺してやるか……そう思って地面に手を伸ばすと、しゃがもうとする顔の動いた先に既に膝蹴りが待ち構えていた!!
……なんだよ……
「ぶべ!!」
……なんだよ……
「がっ!!」
なんだよ……なんだよ……なんだよ……!!
「……何なんだよ!!お前はぁ!!!!!」
まるで自分の全ての動きが……全ての考えが読まれているようだ!!
俺が動こうとした先に、既にヤツの攻撃が待ち構えているのだ!!
俺の攻撃は全て紙一重で躱され、反対にヤツの攻撃が吸い込まれるように俺に直撃する!!
むしろ!!むしろ俺の方からヤツの攻撃を喰らいに!!ヤツの攻撃に吸い込まれていっているような!!
そんな!!そんな訳のわからない理不尽さ!!
「何なんだよこれはぁ!!!」
そんな意味のわからない事が!!先程から何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も繰り返されていた!!!
「何なんだよぉお前はぁ!!!」
俺の攻撃はヤツにかすることすら出来ない!!
「げほ!!」
一旦距離を取ろうとすればそれがわかっていたかのように詰められ一撃!!
「ごはぁ!!」
じゃあいっその事何も考えず幼児のようにがむしゃらに手を振り回してみれば、それすらも全てわかっているかのように手を掻い潜り一撃!!
何だこれは!!何だこれは!!何だこれは!!
「こんなヤツ!!一体どうすりゃ良いんだ!!ぐはぁ!!」
全ての攻撃は躱され!!
地面ごと崩壊させようと足元に手を伸ばす事すら出来ず!!
今も自分からヤツの攻撃に当たりにいっているかのように!!一方的にヤツの攻撃だけを喰らい続けている!!
「がぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」
わかってんのかよこのクソガキ!!
俺の手に触れればお前は死ぬんだぞ!!
俺が触れた地面に触れても死ぬんだぞ!!
ホントにわかってんのかよ!!
ホントにわかってんのかよ!!
「全部わかってて!!それでも俺に接近戦挑んで来てるのかよ!!狂ってる!!狂ってるぞテメエ!!!」
何で!!何でそんなに!!
「何でそんな平然とした顔で!!当たり前みたいに死地に踏み込めるんだよテメエは!!ごほぉ!!!」
ヤツの極悪な直蹴りを喰らい、胃液を吐きながら少しの間宙を舞う!!
そして……
BANG!!!!!!
「ぐはあ!!」
先程までの打撃とは全く違う痛み!!まさか!!撃たれた!?
「……良くやってくれたスパイラル……これで、これでもう終わりだ」
「ここでエンデヴァーだとぉ!!!」
しまった!!眼前の回原に集中し過ぎて!!まさかエンデヴァーの接近に気づけなかっただなんて!!
間抜けだ!!間抜けすぎる!!
慌ててエンデヴァーと……回原……スパイラルの2人を視界に収められるように移動する。
が……
「無駄だ死柄木弔……今お前に撃ち込んだのは、個性を消失させる特殊な弾丸だ……貴様らも死穢八斎會とは関わりがあるのだろう?奴らから押収した最後の一発……それをお前に撃たせてもらった……だから、お前はもう……個性を使えない」
「…………………は?」
……今……今、エンデヴァーは、なんて………?
個性を……消失?
死穢八斎會?
「……あ!」
そこで思い出す!!
仲間を殺したヤクザ!!
アイツラが作り出した!!俺達も狙っていた弾丸!!
個性消失弾!!
それを!!俺に撃っただとぉ!!!
慌てて俺は地面に手をつく。
先程までそれを止めていたスパイラルは……すでに動かない。
そして……
「……何も……何も、起きない……だと?」
俺が触れた地面……地面には、何も変化が起こっていなかった。
先程のような連鎖する崩壊も。
昨日までのような崩壊も。
何もかもが……全く……
つまり……それは……
「あ、あ、あ………あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああ!!!!!!!」
俺は本当に!!個性を!!力を!!失ってしまった!!!
「ああああああ!!!!」
叫びが!!心の奥底からの叫びが!!止まらない!!!
「あぁぁぁあああああああああああああああああああ!!!!」
俺は!!俺は!!俺は!!!!!!!!!!!
side回原
極限の集中を解き、エンデヴァーさんを見る。
死柄木弔は……おそらく、もう問題無い。
だから……問題は……
「エンデヴァーさん……」
「……何だ?」
「荼毘は……?」
「……………」
インカムからは……エンデヴァーさんが荼毘を捕まえた、という連絡は無かった筈だ。
ならば……ならば、今、荼毘は何処に……?
「……かなりのダメージは負わせている。そして……そこの死柄木弔と同じように個性消失弾を撃ち込んだ……そのタイミングであの破壊の波が迫って来た為、燈矢を後方に下げ、俺はこちらの対処を優先した……」
「……エンデヴァーさん……」
エンデヴァーさんは……全ての苦しさを飲み込むような声で、
「……俺は……俺は何処までも父親失格……家庭人として最悪なのだろうな……俺は……俺は結局息子ではなく……ヒーローとして……この破壊を止める事を優先した……本当に……本当に父親失格だ、俺は……」
「……エンデヴァーさん……」
……全てが……エンデヴァーさんの心の苦しみの全てがわかるだなんて……そんな事はとても言えなかった。
……でも、きっとこの人は……息子さんの安全をしっかりと確保した後に、息子の為ではなくそれ以外の皆の為に行動したのだろう。
あの恐ろしい力を……死柄木弔の崩壊の力……放っておけば、更なる被害……悲劇を生み出してしまっていたかもしれない、恐ろしい力を。
だからそれを止める為に……息子ではなく、それ以外の多くの人の為に……エンデヴァーさんはここに来てしまった。
……あの状況では……俺のように空を飛べるヤツが対処するしかなかった。そして、エンデヴァーさんも空を飛べる。
だから、ここに来たのだろう。
本当は、息子さんを捕らえて一時避難しても、誰も文句は言わなかった筈なのに。
……でも、ここに来た。
これこそがエンデヴァーさんなのだ……
……本当に、不器用な人だ。
ヒーローとしては素晴らしい決断であり……そして、家庭人としては最悪の決断。
……これまでのエンデヴァーさんの……その苦悩の人生を象徴するような……そんな決断であった。
「……死柄木弔は俺が運びます。だから……だから、エンデヴァーさんは息子さんの所へ」
……崩壊の一波から、まだそれほど時間は経っていない。
今ならば……今ならばエンデヴァーさんは息子さんの……荼毘の元に戻り、再度彼を捕らえる事が出来ると思う。
個性を失い、手傷を負った人間が、この短時間でそう長い距離を移動出来る筈はないのだ、
だから……今、エンデヴァーさんが行けば……きっと……きっと間に合う。
まだ!!まだ間に合う!!間に合う筈だ!!
……なのに……
『総員!!警戒!!』
なのに……インカムからは無情な声が……無情なサー・ナイトアイさんの声が聞こえて来てしまう……
『超大型ヴィランが!!市街地を破壊しながら街の!!崩壊の中心地に向かっている!!近くにいるヒーロー達は全員警戒を怠るな!!!』
崩壊の中心地……それはつまり、ここだ……
……死闘は、まだ終わらない。