超大型ヴィランを倒した後の事。
「……小さくなった?」
「……だね……とは言っても3メートルくらいはまだ身長あるけど」
俺達3人の個性合体による攻撃で四肢を切り離された超大型ヴィランは、自らの決定的な敗北を悟ってから一気に小さくなった。
巨体自体も個性だったのだろう。
「……これで運びやすくなったな……」
「ですね」
自らの敗北を受け入れ、呆然とし急に電源が落ちたようになるヴィラン。
コイツを運ぶ為にインカムで他のヒーロー達へ助けを要請。
「……まさか正面から力押しで倒してしまうとはな」
「……やっぱテメエ生意気だな梁山泊のクソガキ」
「回原くん!!お互い無事で良かったんだよね!!」
ベストジーニストさん、ミルコさん、通形先輩……他にも多くのヒーロー達が要請に応えてこちらに駆けつけてくれた。
「……私の個性で奴を引っ張るロープを作る。引きずる形にはなるがそれでコイツを運ぶとしよう」
ベストジーニストさんが作った即席だが強靭なロープを使い、3メートル程に縮んだヴィランを運びながら、崩壊した泥花市を皆で歩く。
(あー……流石に疲れたわ……もうホント今すぐ座りたい……今すぐ寝たい……)
体力には自信があるが、流石に今日は俺も疲れて疲労困憊だった。
よろよろと歩く俺。
「……背筋を伸ばせ。そしてしっかりと力強く歩けスパイラル」
「……エンデヴァーさん?」
……そんな俺の甘えを、決してこの人は許さない。
「……今も何処で誰がお前のその歩く姿を見ているかわからない……疲れているのも、辛いのもわかっている。当然だ。しかし、それでも背筋を伸ばせ。そしてしっかりと前を向き力強く歩け」
自分も俺と同じくらい疲れて辛い筈の、それでも威厳の溢れる力強い足取りで歩くその姿。
そんなエンデヴァーさんの、その言葉を俺はしっかりと聞く。
「あれほどの凶悪ヴィランを倒し……それでも力強く前を歩くヒーローの姿は、これから犯罪を犯そうとするヴィラン達への抑止力となる。あれほどの凶悪ヴィランを倒し、それでも力強く前を歩くヒーローの姿は、その姿に憧れて将来ヒーローを目指す子供達の道標となる」
「………」
その威厳の滲み出る声と姿……長年トップを走り続けてきた、その歩く姿。
その言葉が、俺の胸に響く。
「だから……だから俺達ヒーローは犯罪の抑止力として、子供達の憧れとして、例えどれだけ辛く疲れていたとしても力強く背筋を伸ばし毅然と歩くのだ。歩かなければならない……本来、学生のお前にこれを要求するのは酷だとわかっている……しかし、もうすでにお前は……お前は、自分もそういう場所に立っているのだと……そういう所に来ているのだと自覚しろスパイラル。凶悪ヴィランを倒し、それでも疲れを見せず歩くお前の姿が、やがて犯罪の抑止力となり、ヒーローを目指す子供達の憧れとなる。何処で誰がお前のそんな姿を見ているかわからない。だから、辛くとも背筋を伸ばせ。しっかりと力強く歩け。お前は、もう、そういう所に来ているのだ」
「……エンデヴァーさん……はい、わかりました!」
……エンデヴァーさんの言葉。
それに支えられるようにして、俺は疲れた身体を最後の最後に残った気力で支え、しっかりと背筋を伸ばし毅然と歩き出した。
「……そうだ、それでいい」
そして俺達は死柄木弔の凶悪な個性で崩壊した街を歩く。
疲れているけれど、そんな様子は全く見せず毅然とした、力強い足取りで。
異能解放軍は……そんな俺達ヒーローを遠巻きに見るだけで襲って来ることはなかった。
……彼らにも色々思うところはあるのだろう。
……例えば、それは失いかけていたヒーローへの敬意。
死柄木弔の個性。
それから救ってくれたホークスさん。
超大型ヴィラン。
それを倒した俺達ヒーロー。
本来は敵ではあるが……それでも、それでも自分達を助ける為に体を張ったヒーロー達への敬意が、異能解放軍の中にも生まれているような気がした。
……まあ、それでも一部血気盛んな連中はいて襲撃は何度か受けた。それはミルコさんや通形先輩とかに瞬殺されていたけど。
「お疲れ様です皆さん。車を用意しています。中でゆっくり休んでください」
そして物間のいる司令部へとたどり着く。用意してもらった車へと乗り込んで……流石にその辺で俺の意識が切れた。
「……お疲れ様。ゆっくり休んでくれよ回原……全く……ホント凄いヤツだよ君って男は」
その物間の声が、とりあえず俺が泥花市で聞いた最後の声だった。
雄英高校へと俺を送ってくれる車。
その中で俺は一切目覚める事なく深い深い眠りへと落ちていった。
(回原と物間帰って来たぞー!!)
(嘘ノコ?……聞いた感じ結構車の中で寝てたノコよね?それでも……それでもあの回原がこんな……ここまで疲れ切って寝てるノコ?)
(ふっ……神々の黄昏……ラグナロクから生還したか、回原よ……)
(とりあえず回原を部屋に運ぼう……俺達が色々聞けるほど今日は余裕ねえだろこれ。ゆっくり休ませてやろうぜ)
(ん)
(……そうだね。今日はゆっくり休ませてあげよう……細かい事はアンタが答えてくれるんでしょ物間?)
(……僕も結構疲れてるんだけどね……ま、事情の説明もフィクサーの仕事か)
深い深い眠りの中で、そんなクラスメイト達の声が聞こえた気がする。
しかし、あまりにも疲労が酷く……俺は結局、起きる事なく部屋に運ばれそのまままた眠り続けた。
……明けて、翌日。
「……知ってる天井だわこれ」
泥花市の決戦後、送迎の車に乗った瞬間気を失うようにして寝てしまったのだが、無事寮の部屋に送り届けてもらったようだ。
時刻は朝の6時。
毎日早朝鍛錬してる俺としてはかなりの寝坊。
……やはり無茶が過ぎたせいでかなり身体に負担がかかっていたらしい。
初めての3人での個性合体。
全力攻撃怒涛の四連発。
……まあ、無茶したな我ながら……
とりあえずシャワー浴びたい。
まだ朝早いし授業まで余裕はある。
タオルやら着替えやら用意して1階の風呂へと向かうとしよう。
……男のシャワーシーンとか誰得って話だよね?
まあ、そんな感じでサクッとシャワー浴びてさっばり。
「回原!!起きたのか!!」
「もう体調は大丈夫なのですかな?」
「ああ。もう大丈夫だ。心配してくれてありがとな」
B組でも早起き組の骨抜や宍戸と挨拶しながら、身支度を整えてから1階の食堂へと向かう。
「お。起きたのかい?おはよう回原。昨日はお疲れ様」
「物間。おはよう。そんでお疲れ様。お前のおかげで助かったよ」
食堂には目覚めのコーヒーを飲みながら、新聞・テレビ・SNSをチェックする物間がいた。
「前空いてるから座りなよ。あの後どうなったか気になっているだろう?」
「……そーね。正直目茶苦茶気になってるわ。悪いけど色々解説してくれると助かる」
「了解……ま、とりあえずまずはこれを見てくれ」
そう言って物間は新聞・スマホの画面を俺に見せてきた。
それは。
「……いつの間にこんな写真撮ってたんだ?」
「……それは企業秘密だね」
……新聞とスマホのSNSの画面……それには、とてつもなくカッコいい1枚の写真が掲載されていた。
エンデヴァーさん。
エンデヴァーさんの両脇を歩く俺とホークスさん。
……そして更にその隣に並んで歩くミルコさんやベストジーニストさん、エッジショットさんにバーニンさんに通形先輩に……その他多くのヒーロー達がほぼほぼ横一列に並んで歩く写真。
……まるで映画のアルマゲドンのあのシーンみたいだ。
死柄木弔の個性で崩壊した、何一つ遮る物がない寂れた平地。
バックは抜けるような青空。
……そこを、エンデヴァーさんを中心にヒーロー達が横並びに歩いているという、とてつもなくカッコいい1枚の写真だった。
「……まあ当然うちの新白連合のスタッフが撮影した写真だよこれは。これを金払って適当に提灯記事書いてくれるマスコミとかSNSでニュースサイト経営してる人らにばら撒いた訳さ……わかりやすいカッコよさってのは大切でね。エンデヴァーに好意的な記事を書かせつつ、見た目としてもエンデヴァーのイメージアップを狙ったのさ。この辺が取り上げればいずれ地上波でもこの写真は使われる……今回の成果もあるし、かなりエンデヴァーの社会的な評価は回復すると思うよ」
そして、物間がその成果を記事の要約と共に説明してくれる。
『逆襲のエンデヴァー!!』
『やはり頼れる男エンデヴァー!!』
『エンデヴァーの大活躍!!』
ヴィラン連合と大規模ヴィラン組織の抗争の情報を入手したエンデヴァーが、自分を囮にする大胆な作戦でこの抗争に介入。
ヴィラン連合のリーダーである死柄木弔を逮捕。
幹部のトゥワイスも逮捕。
息子であり凶悪ヴィランの荼毘を逮捕する事は出来なかったが、回数制限はあるが相手の個性を消す力でその個性を封印。手傷を負わせる事に成功。
他、大規模ヴィラン組織の幹部を大勢逮捕する事に成功した。
荼毘に関しては危険性は著しく低下したが、まだ危険性は高い為今後も警察と連携ししっかり追跡する。
「まとめるとこんな所かな?荼毘を逃がしてしまった件についても、死柄木弔の連鎖する崩壊や、約25メートルの超大型ヴィランへの対処を優先したためやむを得ず……という美談の方向に持っていく予定だ。これでもマイナス100点がプラス圏内に復帰するくらいだけど……かなりエンデヴァーは今後動き易くなると思うよ」
「……そっか……それは良かった……でも、大規模ヴィラン組織?って名前にしたのか?異能解放軍って名前わかってるんだから異能解放軍って呼んでいい気もするけど?」
「……その辺は事情があって一旦隠す予定だ……まあ、色々と手は打っているよ。トランペット、外典、キュリオスとかの異能解放軍の捕らえた幹部の名前を伏せてるのも同じ理由だ。君も言わないようにしておいてくれ」
「……そっか、わかった」
隠すには隠すなりの理由があるのだろう。
この手の搦手は物間に任せるとしよう。
こんな所が泥花市決戦のリザルト。
ヴィラン連合。
死柄木弔逮捕。
荼毘は個性封印したものの逃走。
トゥワイス逮捕。
トガヒミコ逃走。
Mr.コンプレス逃走。
異能解放軍
トランペット逮捕。
キュリオス逮捕。
外典逮捕。
他実働部隊の主戦力・指揮官クラス大勢逮捕。
リ・デストロ逃走。
スケプティック逃走。
他、所属不明の超大型ヴィラン逮捕。
……これが、泥花市の決戦でのリザルトとなる。
ヒーロー側は負傷者は多かったものの死者ゼロ。
ヒーローサイド会心の勝利と言っていいだろう。
エンデヴァーさんの一件以来、暗かったヒーローサイドについに明るいニュースが……と、皆が待ち望んでいた明るいニュースとなった。
side?????
「死柄木弔が負けたか……」
怪しい光が室内を満たす。
そんな何処とも知らぬ、怪しい施設。
その一角。
そこで怪しい男が撮影された動画を見ながらつぶやく。
「……魔王の後継ならず……か。あまりいい気はせんが……まあ、元々考えていた魔王の後継のスペアだけは何とか確保出来たしのう。寿命の不安はあるが……まあ、その辺は個性の組み合わせで何とかするしかないのう……元々素体としてのスペックは最上クラス……強化の仕方によってはかえって死柄木弔よりも化けるかもしれん……」
男は……男は、不吉な言葉を……呪いのような言葉を続ける。
「かえってこれで良かったのかもしれんのう……ヴィラン連合は崩壊した。これからは異能解放軍へとヒーロー達の関心は向かうじゃろ……その影に隠れて、こちらは魔王の後継のスペアの完成と……ハイエンド脳無の調整が出来る……どの道タルタロスに囚われた魔王も助けんといかんし……ヒーロー達の警戒がこちらに向かなくなったのは不幸中の幸いかもしれん。まぁまだまだこちらにもツキはあると言うことじゃな」
世を呪うように……世界を呪うように……
……ヒーロー達の戦いは、まだ終わらない……
?????だって!!一体!!一体何者なんだ!?(白目)
そして魔王の後継のスペアとは一体!?(白目)