sideホークス
「……じゃあ、これは最後の策なのですが」
「……まだあるの?」
「これはおそらくこの場で即答が難しい要望だと思いますので、また後日の回答で問題ありません」
そうして物間くんが最後の策を……そう来たかぁ……という最後の策を述べる。
「事がここまで進んだ状態で『異能解放軍』の名前をまだ公表しないのはこういう狙いだった訳ね……確かに、これは私の一存ではすぐ回答出来ません。また後日連絡します」
「よろしくお願いします」
そして本日の会議が……何とも濃い時間だったなぁ……が終了した。
side回原
雄英高校1年の年末年始は慌ただしいようで落ち着いているようで……忙しいようでそんなでもないような、まあ不思議な終わりを迎えていた。
寮生活の皆の為に実家へ1日帰省を許された訳ではあるが、昨今の悪化する治安を考えヒーローが同行。1日だけの帰省となった。
……なので、実家に帰っていない間は結局いつも通りに寮生活となる。小大やねじれ先輩のように実家が遠方だと目茶苦茶慌ただしい移動のようで、ねじれ先輩がぶーぶーと言っていた。
まあ状況が状況なので仕方ない所ではあるけどさ。
そんなこんなでついに大晦日。今年最後の日となる。
「ん」
「お!小大おかえり!!これはおみやげ?の出雲そば?へー島根の名物なんだ。年越し蕎麦用に小大の実家が寮のみんなで食べなって持たせてくれたって?」
「ん」
「そりゃありがたいな!!年越しで皆でいただこうか」
日課のトレーニングが終わり寮へ戻る途中、校内を歩く小大とばったり出会う。ちょうど小大は実家から戻って来た所のようで、おみやげの出雲そばの話をしながら一緒に歩く。当然、おみやげとか重そうな荷物は持ってあげる。トレーニングにもなるし。
「ふうん釜上げそばって食べ方もあるんだ。旨そうだな。年越しはそれで食べてみるか?」
「ね」
「確かに、普通に温かいそばのがいい奴もいるかもな。そんな手間でもないしどっちの食べ方がいいか希望聞いてみようか」
「ん」
そんな感じで2人で話しながら歩いているといつの間にやら寮へと到着。
「ん」
「あ!唯おかえり!!実家ゆっくり出来た?家が遠いと慌ただしくて大変だね!!」
入り口の扉を開いて寮の中へ。1階の広間では拳藤や骨抜が物間他クラスの何人かの勉強を見てあげている所だった。
「物間が勉強苦手ってのはホントにバグな気がするよな」
「コイツの場合やる気とか性格的な問題だろな。頭の回転とか地頭自体は目茶苦茶いいしな」
今も英語の教科書を前にウンウン唸っている物間を横目に骨抜と話す。いや本当に何でお前勉強苦手なのよ……やれば絶対出来んだろ……
「回原?その荷物は?」
今が休憩のチャンス!!とばかりに円場が俺の持っていた荷物を見て聞いてくる。それを見て全くコイツは……と軽く呆れて笑う骨抜。
まあ、教師の許しが出たなら答えてやってもいいんだろう。
「実家帰ってた小大からのおみやげだよ。出雲そばだってさ。年越し皆で食べようぜ」
「ん」
おおおおお!!!
と1階にいたクラスメイト達から歓声が上がる。
「へへへ!!実家に気軽に帰れないのは嫌だけどさ!!なんかクラスの皆で年越し蕎麦食べて年越しってのもいいよな!!」
こちらに近寄って来た峰田がそう言う。いや完全同感。
実家で家族とノンビリも良いけどさ、こういう年越しも楽しいよね。
「ふっふっふ……年越し蕎麦を食べた後は、オイラ厳選のスペシャルDVD視聴マラソンで年越しだ!!クックック……忘れられない年越しにしてやんよ!!」
「峰田が燃えてやがる……」
「クックック……闇の宴という事か……」
燃える峰田。
「ん」
「……全く、峰田も懲りないねホント……」
それを遠目から冷ややかに眺める女子連中。俺達男子連中としては、ぶっちゃけ興味が全く無い訳ではない分なんとも薄っすらとした針の筵というかなんというか……まあそんな感じである。
「峰田のだと皆で見れないからねえ……じゃあ、せっかくだし僕が何かとっておきの作品でも出そうかな?」
何とも困った空気……それを引き裂く吹出の宣言。
「吹出大先生のとっておきかぁ……」
「それはそれで不穏なんだよなぁ……」
「……明日が元旦で休みな分まだ救いはあるか……」
峰田の上映会は間違い無く危険なのだが、吹出のとっておきもまた不穏な匂いしかしないのが困りものである。
「ちなみに……吹出大先生よ……一体何を上映するつもりなのかな?」
骨抜の問いに、吹出は朗らかな声で、
「とっても楽しい話だよ。可愛い絵柄の少年少女達の冒険の物語さ」
「……お前のその前フリネタにはもう引っかからねえぞ」
「なんだつまんないなぁ」
「やっぱりトラップかよ」
タネがバレてちょっと残念そうな吹出。
「はあ……バレちゃしょうがないね。うん、じゃあ年越しメイドインアビス全話視聴マラソンなんてどうかな?」
「「どうかしません!!」」
俺と骨抜渾身の即否定。
むしろ何故年越しでそんな過酷なマラソンをしなければならんのか……
「あはー!やっぱダメかぁ!」
「むしろ何故受け入れられると思ったのか?」
「何故こんな平穏な年越しをそのままに終わらせようとしないんだ吹出よ……」
「ぎゃああああ!!そんな殺生な!!返して!!返してくれよぉ拳藤!!」
「……アンタが今後一切、一階の公共スペースにこの手のいかがわしい物を持ち込まないと約束するなら返したげるよ」
「約束するする!!するからさぁ!!」
「全くもう……」
あちらはあちらで拳藤が峰田の持ってきたヤバい物を没収!!からの峰田へのお説教。年末という事もありお母さん感がスゴイ光景な感じがする。気のせいかしら?
「ふっ……全く、中々癒される年末だね」
英語の教科書を片付け物間がこちらにやって来る。
「そうか?癒されるかこれ?」
そう言って目の前の光景を2人で眺める。
「じゃあ骨抜!!今度は王道のロボットアニメはどうだろう!?悪い宇宙人から地球を守る為に少年少女が戦う!!みたいなの!!」
「……お前はこの流れでザンボット3とか平気で持ち出して来そうだからなぁ……」
「あはー!バレてるー!!!」
「はい……じゃあ峰田返すよ……ってこら!!」
「へへーん!!返してもらえりゃこっちのもんだい!!」
わっちゃわっちゃとしている俺達の寮の一階。
その騒ぎを物間と2人で眺める。
「……最近どうも大人の世界の話というか……何というか謀略とか策謀とかそんな話ばっかりしてたからね……正直、クラスの皆とのこういう時間は癒されるよ本当に」
そんな事を物間が言う。
まあ最近コイツ色々大変そうだったからなあ……夜遅くまで資料を作ったり何処かと打ち合わせをしていたし。
大人の世界に片足突っ込んでる物間からすると、こういったクラスメイト達の年相応の空気は癒しになるのだろう。まあ気持ちはわからんでもない。
俺だってそうだ。
エンデヴァーさんやホークスさん達と行動するのはいい経験になるし素晴らしい事なんだけど、やっぱクラスメイト達との年相応の空気は身体に馴染むしいいものだなと感じる。
そう考えると、本当に俺達は大人と子供の境目に立っているのだなと感じる。まあ俺だけでなくヒーロー科の生徒はそれぞれ多少差はあれど皆そうなんだろうけどさ。
……こうして俺達の大晦日の時間は慌ただしく楽しく過ぎていった。最終的には皆で無難な映画の上映会をしたりトランプとかのゲームをしたり、普通にテレビを見たり年越し蕎麦を食べたり……そんな賑やかでとてもとても楽しい年越しとなった。
「「「「あけおめ!!!」」」」
「「「「ことよろ!!!」」」」
年が明けて1月1日。
早朝のトレーニングが終わり寮に戻ると、起きてきたクラスメイト達がそれぞれ年明けの挨拶をかわしている所だった。
「お!回原おはよ!あけましておめでとう!今年もよろしくね!」
「ん」
「ああ!あけましておめでとう!今年もよろしくな!!」
「てか回原流石だぜ!!新年明けて早々に朝からトレーニングかよ!!熱いぜ!!あけましておめでとうな!!今年もよろしく!!」
「おう鉄哲もあけましておめでとう!今年もよろしくな!」
クラスの連中と新年の挨拶をした後、汗を流すためシャワーを浴びに向かう。
この後皆で雄英高校近くの神社に初詣に行く予定なのだ。流石に汗臭いと皆に申し訳ない。
事前にブラキン先生には外出許可提出済み。
念の為引率でブラキン先生もついてきてくれるらしい。ありがたいけど……本当に雄英高校の教職ってマジブラックよね?
「皆、あけましておめでとう。今年もよろしくな」
「「「「「あけましておめでとうございます!今年もよろしくお願いします!!!」」」」」
ブラキン先生と校門で待ち合わせをし、新年の挨拶をしてから皆で神社へ向かう。
「回原は一応変装したのか」
「まあな。念の為ね。前回みたいな事もあるしな」
「いーよなー!オイラも可愛い女の子のファンに連絡先もらったりキャッキャッって言われたいぜ!!」
「峰田はファンにソッコーでDM送って晒されてそーだよな」
「わかるわー」
「何だよぉ!!可愛い女の子のファンがいたらDM送るくらい仕方ないじゃねえかよぉ!!」
「まー気持ちはわかるけどなー」
泡瀬や峰田、円場とかと仲良く話しながら道を歩く。
新年初日は雲一つ無い晴天。青い空が広がっており、少し肌寒いのを我慢さえすれば絶好の散歩日和だった。
そんな空の下を楽しく話しながら最寄りの神社に向かう。
目指す神社はそんな大きな神社ではなく、特に有名とかではない極々普通の神社。地元の人達だけが行くような神社だった。
……本来なら。
「結構雄英生らしき人が多いな」
「まあ、皆寮暮らしだもんなあ……」
「それが初詣するってなると、被るかそれは……」
辿りついた神社……そこは混雑混雑大混雑!!といった様子だった。本来はこんなに多くの人が初詣に来ることはないのだろう。狭い境内に人が溢れているような状態だった。
普段は地元の人しか来ないような神社……それが雄英高校が全寮制になり、そいつらが皆来たらこうなるわなぁ。
神様も巫女さんも皆てんてこ舞いな感じ。
反面、普段はそんなに売れ行きが良いわけでもなさそうな屋台は大繁盛している様子。ちょっとしたバブルが来ていた。
「あ!旋くんだ!!」
「この声はねじれ先輩?」
境内に溢れる人。多種多様なざわめきの声。
そんな中不思議と目を惹く姿、耳を惹く声。
その持ち主がわたあめ片手に俺の方へと近づいて来ていた。
「やっぱ旋くんだ!!ねぇねぇ不思議不思議!!こんな人混みスゴイのにすぐに旋くんの事わかっちゃった!!あけましておめでとう!今年もよろしくね!!」
「こちらこそ。あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いしますねねじれ先輩」
「うん!」
にっこり笑うねじれ先輩は相変わらず可愛い。可愛いかつ美人。
「先輩は一人で来たんですか?」
「ううん。私も旋くんと一緒だよ。クラスの皆と来たの!!ねぇねぇ聞いて聞いて!!このわたあめね!!お店の人がサービスしてくれたの!!スゴイでしょ!こんな大きいの!!屋台でしか食べないけどわたあめって不思議と美味しいよね!うん不思議不思議!!」
そう言って明らかに周りの人が持つわたあめより大きなわたあめを俺に見せてくれる。うん。屋台のおっちゃんの渾身の特別サービスなんだろうなあ。ねじれ先輩可愛いし気持ちはよくわかる。
「はい旋くん!あーん!」
「……え?あ、あ……あーん」
お裾分け、とねじれ先輩がわたあめを少しちぎって俺にあーんしてきたので思わずもらってしまう。口の中にふんわりとした甘さが広がった。
「えへへ!じゃあクラスの皆と合流しなきゃいけないから私はもう行くね!!旋くん!!またね!」
「はい。また。わたあめありがとうございます」
そう言ってねじれ先輩と別れる。
「……」
「ん」
いつの間にやら近くに来ていた小大と拳藤。
そのジト目がぐさぐさと心を抉る。
「あ、あははは……と、とりあえず初詣すませないとな。さ、行こうぜ2人とも」
「ん」「そうだね」
2人に挟まれ連行されるようにしてお参りする為の列に並ぶ。
確か拝殿って言うんだっけ?お賽銭いれて鈴鳴らすあそこに続く列。俺を中心に小大、拳藤が挟む形。その並びで列を前に進んでいく。
そして俺たちの番になり、3人でお賽銭を入れて鈴を鳴らしお参りする。
(今年もいい年になりますように)
そんな俺のお祈り。
『もげろ』
……え?
空耳かもしれないけど、ふと、なんか神様からそんな事を言われた気がした。
……ここの神様は男の神様なんだろか?知らんけど。