冬休みが終わると同時に、ヒーロー公安委員会主導によるデトネラット社・そして代表取締役社長である四ツ橋力也に対する情報発信が各種メディアで行われた。
昨年末の泥花市での一件。そこで現行犯逮捕したヴィランとの強いつながり。
それらの情報を統合し、デトネラット社をヴィランのフロント企業と認定。デトネラット社のメインバンク二行の口座凍結という処分の決定。解除して欲しければ代表取締役社長の四ツ橋力也自身によるヒーロー公安委員会への出頭し弁明するように、と。
年明け一発目に飛び込んで来た大ニュースに対し、年末年始の平和で退屈なテレビ番組やニュースに飽き飽きしていた市民達は大沸騰!!
一気にデトネラット社と四ツ橋力也は大炎上した。
ヒーロー公安委員会の情報発信から翌日にはネット世論もマスコミの各種報道もデトネラット社と四ツ橋力也への批判一色へと染まる。
ネット上での過激な発言くらいならともかく、デトネラット社の本社への爆破予告やイタズラ電話などまあとんでもない大炎上っぷりに、流石民度最悪の我らが日本、と思わず感心してしまう。
これに対する四ツ橋力也含むデトネラット社の対応の悪さが、更にこの炎上に油を注ぐ。
何せ、事実として四ツ橋力也は異能解放軍のリーダーなのだ。
証拠は十分抑えている。ヒーロー公安委員会への出頭イコール即逮捕。
それを避けるために四ツ橋力也はSNSや無料動画サイトで釈明動画・反論動画を流す。
が、しかし『ちゃんと出るとこ出て説明しろよ!!』『こんだけ社会を騒がせてるんだ!!反論があるならマスコミ集めて反論・謝罪会見くらいしたらどうなんだ!!』と炎上は止まらない。
まあこの辺は物間の予想通りとの事。
「こっちの方は僕たちに任せてくれ。いずれ君の力を借りる時もちゃんと来るからね。それまでは普通にインターン頑張ってくれ」
との力強くもありがたい話に頷き、俺はインターンへ専念する事にした。
「よ、トンガリ!」
「おう」
ここはベストジーニストさんの事務所。その更衣室。
本日からお世話になる事への挨拶をすると、俺専用に用意してくれていたらしいデニムを渡され更衣室へと案内される。どうもヒーローコスチュームの下はデニムで固定の方針らしい。流石ベストジーニストさんである。
んで更衣室に着くと先に到着していたらしいトンガリがいたのだ。
「水臭えなあ。目的地一緒なんだから一緒に行こうぜ!って連絡したのに先行っちまうんだもんなあお前」
「アホか!何でテメエとそこまで馴れ合わなきゃいけねえんだよ!!テメエもいずれは俺が倒す敵なんだぞボケ!!」
更衣室で着替えながらトンガリと話す。
「そーんな事言って、実は塩崎と一緒に先に都内に来てお茶でもしてたんじゃねえの?」
「……あのツタ女が行きてえ行きてえってうるせーから、都内の教会に付き合ってやっただけだよボケ。色ボケのテメエと違えよ。茶なんぞしばくかアホが」
「それ結局一緒じゃねーか!!」
そんな話をしながらも着替えを終え更衣室を2人で出る。そしてこの事務所のメインフロアへ。
「ふむ。着替え終わったか」
そしてメインフロアに到着し、この人に改めて迎えてもらう。
ベストジーニストさん。
説明不要のトップヒーローである。
「本日からインターンでお世話になる雄英高校ヒーロー科1年B組の回原旋。ヒーロー名はスパイラルです。これからよろしくお願いします」
ベストジーニストさん、そしてフロアにいる人達全員に聞こえるようにしっかりとまずは挨拶する。挨拶大事。
「私の用意したデニムの具合はどうかな?」
「素晴らしいデニムですね!!これは生地が特殊なんですか?タイトなのに不思議と脚の動きを阻害しない!!これなら蹴りの邪魔をしない!本当に素晴らしいデニムです!」
「……ふ、やはり君にはデニムの才能があるな。プラス10デニムポイントだ」
「ありがとうございます!」
「何だよそのデニムポイントってのはアホか!!」
「……相変わらず酷い言動だな爆豪。雄英高校で様々な経験を積み、多少は丸くなったかと期待していたが」
そのジーニストさんの言葉に、はっ!とトンガリは笑い、
「多少変わろうが何だろうが俺は俺だよ!爆豪勝己だ!!本質は変わんねーわ!俺は俺のままでトップヒーローを目指す!そう決めてんだよ!」
この場で挨拶の代わりに吠える辺りが実にトンガリらしい。
この獰猛さ、正直俺は決して嫌いではない。
その様子を見てジーニストさんは軽く呆れたように笑い、
「……まあ、お前らしいといえばお前らしい。それはそれで矯正のしがいがあると言うものだ」
「けっ!」
呆れたようで、しかしどこか楽しそうなジーニストさん。それを見てトンガリも笑う。
「……名は願い。己がどう在りたいか在るべきか……私の予想より早くなったが、名は決まったのか?爆豪勝己?」
それはおそらく、俺の知らない2人だけの大切な約束なのだろう。
静かなその問いに、
「ああ」
静かに、トンガリが答える。
「今日から俺はぁ……」
そこで一拍。そしてフロア中に響くような大きな声で!
「大・爆・殺・神ダイナマイトだ!!」
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(小ニかな?)
小ニ!!
小ニ?
ドヤ顔でヒーロー名を披露したトンガリ。
それが直撃し、静まりかえる俺含むベストジーニストさんの事務所の皆様。
……コイツ才能マンのクセして、何でよりによってこんなヒーロー名にしちまったんだか……
「……おいコラトンガリ……テメエ、この空気……一体どうしてくれんだよオイ……」
その固まった空気を何とか動かそうという俺の発言。
それにコイツは……
「んだゴラァ!!何か文句あんのかよクソドリル!!」
がぁーーー!!と吠え返してくる。
そんな様子を見てベストジーニストさんはため息一つ。
「……ふう、まあ自己のヒーロー名の名付けは個人の権利だ。当然それは私の矯正の範囲外でもある。お前がこの名前に何を願い、どう在りたいと思っているのか……それが少しでもいい未来へと向かうよう、私は私の矯正で手助けさせてもらうとしよう」
「なんという圧倒的な大人力!!これこそが出来る大人の魅力デニムというものなのか!!」
「……ふむ。スパイラル。プラス10デニムポイントだ」
「よっし!」
「アホか!!インターンは大喜利じゃねーぞボケドリル!!」
俺に向かって吠えた後、トンガリはベストジーニストさんに向き直り。
「そっちもだベストジーニスト……言われた通りに仮免しっかり一発合格してわざわざもう一度来てやったんだ……職場体験とは一味違う、ちゃんとしたインターンで鍛えてもらうぜ」
でなければここのインターンは途中で打ち切り他の所にインターンにいく……言外にそんな含みを持たせたトンガリの言葉。
その挑発的な様子を見てベストジーニストさんは、
「職場体験の続きの矯正もするつもりではあるが……まあ、いい。余計な心配は不要だダイナマイト……今回のこのインターン……お前とスパイラル以外にもインターンの受け入れ希望はあったが、今回はその全てを断り、受け入れはお前達2人だけに絞っている」
「……へえ、つまり?」
その言葉に含まれた荒事の気配を敏感に察知し、トンガリが獰猛に笑う。おそらく、俺も同じように笑っているのだろう。
そんな俺たちの様子を見て、ベストジーニストさんが告げる。
「今回のインターンでは都内に潜伏する異能解放軍……異能解放軍の名前は公には使えないが、その連中の隠れ家への強襲に多くの時間を使う事になるだろう。公表はしていないが極秘裏に我々ベストジーニスト事務所はエンデヴァー事務所・ホークス事務所・新白連合とチームアップしている。目的は異能解放軍の戦力の削減。社会的・経済的に異能解放軍を別方向から追い詰めつつ、ダメ押しとして実戦力の削減をこのチームで行う」
「……エゲツねえな。攻め手は一切緩めねえってことかよ」
「敵は叩ける時に徹底的に叩いておく……まあ間違いなく有効ですよね」
俺達の発言にベストジーニストさんは頷き。
「そういう事だ……さらに、これはつい昨日くらいに承認された新たな作戦がこれから実行される。これにより社会的・経済的・実戦力……そして政治的な4方向から異能解放軍を攻める事となる」
「新たな作戦だと?」
「政治的……ですか?」
そしてベストジーニストさんが新たな作戦の説明をしてくれた。これの準備とかで最近物間の奴ばたばたしてたのかひょっとして。
「『就業者向けの1年更新での個性の限定使用の許可書の発行』これにより異能解放軍の主張である個性の自由使用をある程度解禁し、奴らの主張の根拠となる正当性を奪い、組織からの離反を狙う」
例えばA組の麗日。
彼女の個性は建設現場などで非常に有効だ。
……そんな個性を、わざわざヒーロー免許を取得しなければ好きに使えないというのは正直ナンセンスな話である。
「こういった個性を、あくまで仕事限定としてだが1年更新の免許として使用許可書を発行する。当然、違反したら罰則だがな。罰則はその個性に近似するもの……例えば麗日の場合は建設重機の取り扱いに属する罰則が適応される。当然、目的外の悪用はヒーロー達の手で捕まえ厳しく処罰されることになる」
そもそもだ、とベストジーニストさんが続けて、
「そもそも、大の大人がわざわざ個性を自由に使える社会!!なんてよくわからないものの為に活動などする訳がない。休日に近くの公園に皆で集まって火を吹いたり大ジャンプしたり個性で砂遊びして楽しむ……そんな未来予想図の為に大の大人が動く訳がないだろう」
「それはつまり?」
「大の大人が個性を自由に使いたい……その本当の意味は、自分の持つ個性を使い『人より楽にお金を稼ぎたい』『個性を使って楽に通勤したい』といった即物的な願望がほとんどだ。思想的・政治的にそういった理想郷を望む狂信的な思想家もいるだろうが、大多数の人間にとって、個性を自由に使いたい、その意味は仕事や金稼ぎに関する理由がほとんどだろう。故に、先に政府主導でそれを限定解禁し、奴らの政治的な主張の正当性を奪う。これが政治的な異能解放軍への攻撃だ」
「……個性を自由に使って金稼ぎ出来る社会の実現の為に異能解放軍に入ってた連中からすれば、無駄に戦ったり活動する理由が無くなる……って事かよ」
トンガリの問いにベストジーニストさんは頷き、
「その通りだ。これは奴らの潜在的な主張を先に実現する事で、異能解放軍に所属しているメンバーの離反を狙う作戦だ。わざわざヴィラン組織に所属し犯罪者として捕まるかもしれないリスクのある活動をしなくても、自分達の希望が通るなら……それは、もう組織に所属している意味は無くなるだろう?」
「……こんだけ社会的・経済的・実戦力の3方向から追い詰められてどんどん厳しくなっていく状況で、かつ自分が組織に所属していた理由も無くなるなら……それは組織から逃げ出したくなる連中はどんどん増えるだろうな」
「そうだ。そういった理由もあり、ヒーロー公安委員会は『異能解放軍』という名称を公表していない」
「?それはどういう?」
「察しが悪いぞドリル」
「トンガリ?」
そしてこの才能マン……トンガリがベストジーニストさんの発言を引き継ぐ、
「今ヒーロー公安委員会主導で攻撃している『大規模ヴィラン組織』は貴方達が所属している『異能解放軍』とは全く別の組織です。まだ何も悪い事をしていない『異能解放軍』所属の皆さん、今『異能解放軍』から逃げ出せばお咎め無しにしてあげますよ!!って事だろ!!悪辣過ぎんぞこの作戦を立案した野郎は!!」
「……ああ、なるほど……理解したわ」
そうか……それで物間は頑なに異能解放軍の名前を使わないように注意していたのか。
「……そういう事だ。よくわかったなダイナマイト。プラス10デニムポイントだ」
「うるせぇ!んなのいるかよクソが!!」
せっかく褒められたのに吠えるトンガリ。コイツらしい。
「ダイナマイトが上手くまとめたが……つまりそれが作戦の詰めとなる。社会的・経済的・実戦力・政治的に敵をどんどんと追い詰め、敵の離反を促し、最後には『異能解放軍』の存在そのものを完膚なきまでに消滅させる……これが今進行している作戦だ」
……なんとも、俺がのんきに正月を過ごしていた間に恐ろしい作戦が進行していたもんだ。
……大したもんだよ、フィクサー。