side蛙吹
けろけろ……私は蛙吹梅雨……そう、思った事はなんでも言っちゃう女の子。
そんな私が今思っている事はただ一つ。
(この席に座ったのは……やっばり間違いだったのではないかしら?)
私の隣でガクガクブルブルと震えているお茶子ちゃんを見て、改めてそう思う。
透(バッチバチで草)
最初の段階では面白がってそんなメッセージを1年A組女子のグループチャットに送ってきていた透ちゃんも、先ほどからふるふると震えている……
(まあ、無理もないのよね……)
ふう……とため息一つ。
改めて周囲をちょい確認。
ここは雄英高校。
その中にある広くて綺麗な食堂。
その、昼休み。
……まあ、ここまではいい。
ここまではいいのだ。
(問題は……そう、私達の後ろの席……)
……そう、それが全ての問題なのだ。
波動ねじれ。
拳藤一佳。
小大唯。
色々と噂やら何やら山盛り小盛り大盛り特盛りのそれぞれ魅力に溢れる3人の女の子。
……なんと、その3人が、昼休みの雄英高校の食堂で席を共にしている……
大事件だ。
大事件である。
……少なくとも、ある程度事情を察している……そう、雄英高校の女子生徒達にとって、凄まじい大事件である。
波動ねじれ、拳藤一佳、小大唯……この3人が初めてなのか?『3人』だけで同じテーブルについているのである。
(けろけろ……まあ、大事件よね……)
3人が座るテーブル。その隣には私達A組女子が座り、その反対側には取陰ちゃん達……B組女子が座っていた。
他にも色々なクラスの……そう、雄英高校の女子生徒達が、この3人の女子生徒の座っている一つの席を……絶対に、この会話を男には聞かせないぞ!!という強い連帯感をもって囲んでいた。
具体的には3人の座る席を中心に、雄英高校の女子生徒達がまるで生垣を築くようにして周囲の席を占拠し、座っていた。
……まあぶっちゃけ、最初は面白がってこの3人の話を聞きたくて近くの席に座った女子生徒達もいたかもしれない。
……しかし、段々とバチバチ具合の過熱する話に接し、皆ふるふると震え、怯えるようにして、誰もが身をかがめて少しでも少しでも体を小さくするようにして、あの3人の話をひっそりと聞いていた。
まあ、スタートからしてこんな感じ、
『ねえねえ!!私ね!!文化祭の時に旋くんに告白したよ!!拳藤さんと小大さんは告白はしたの?してないの?告白してないならなんで?ねえねえ不思議不思議!!』
『告白はまだしてませんね。どちらかというと告白するよりされたいという気持ちが強いからですけど……ご不満ですか?でしたら今から回原に告白してきますよ?それでご満足ですか?』
『ん』
三奈(バッチバチ!!バッチバチだよ!!)
透(やっば!!マジでバッチバチで草!!)
百(お二人とも……真面目なお話ですので、あまり茶化すのもどうかと)
スタートからもう不穏な感じだったのよね。
波動先輩、拳藤ちゃん、小大ちゃん。
……そして、3人の想い人の回原ちゃん。
この恋愛の行きつく先はどうなるのか?わりと皆気にしてはいたと思うのよ。
……だから『男には聞かせられない!!』という大義名分で女子生徒達がこの3人の席を囲むようにして陣取ったのも無理はないと思うわ。
……でも、でも、きっと計算違いだったのは。
『……ふうん?告白もまだしてないの旋くんの事を好きな気持ちで私と競争するつもりなんだ2人とも。不思議不思議!!ねえねえ!!なんで告白もしてないのに私より旋くんに好きって思ってもらえると思ってるの?そう思える理由が何かあるのかな?ねえ!!不思議不思議!!』
『……私も不思議ですね。告白の順番ってそんなに大切ですか波動先輩?色々な恋愛ってあると思いますけど。告白されたから、そんな好きでもない女の子ととりあえずお試しで付き合う!!ってタイプじゃないですよね回原は。だったらお互いに付き合うってなってから告白でもいいと思いますけど……それとも、何か先に告白でもしておきたい理由とかあったんですか先輩は?』
『ね』
『……うーん!!そうだね!!確かに!!告白されたからとりあえずお試しで付き合おうか!!みたいなタイプじゃないもんね旋くんは!!確かにそうかもね!!不思議不思議!!告白の順番はそんなに大切じゃないかもね確かに!!うん!!じゃあ2人は告白しないでそのまま行ってくれると嬉しいな!!私はガンガン好き好きアピールするから!!』
『ん』
『……そうだね。唯の言う通りです……先輩は先輩でどうぞご自由に。私達は……私達のペースでしっかり回原と距離を詰めていきますので』
『ね』
『うん!!そうだね!!そうしようか!!じゃあ私はドンドンアピールしていくね!!来月はバレンタインだし!!チョコを持って、私自身にリボンを巻いて『ハッピーバレンタイン!!』とかやってみようかな??ねえねえ!!どうかなどう思う!?『バレンタインのチョコはリボンを巻いた私だよ!!』とかは流石に旋くんでもクラクラっと来るんじゃないかな?どうだろ?くるかな?来てほしいな?ねえねえどっちだろ!?不思議不思議!!』
『……どうでしょうね?回原はあれでそーいうとこ真面目な感じなので……付き合う前の女の子がそんな感じで来たらドン引きしそうですけど……まあ、やってみてもいいんじゃないですか?』
『ん!!!』
透(バッチバチで草)
バッチバチだわ。私も思った事は何でも言っちゃうの。
確かにバッチバチなのよ。
なんかこの3人の座る席……そのテーブルを中心に……ゴゴゴ……みたいなとてつもなく圧力のある擬音のプレッシャーを感じるのだわ。
(命短し恋せよ乙女……けろ)
『うーん……でも心配にならないの2人は?』
『ん?』
『何がですか?』
『旋くん……めっちゃモテてるよ』
『……ね』
『……まあ。確かに』
『雄英体育祭で優勝……からの職場体験とインターンで活躍……それで仮免取ったら福岡と泥花市での大活躍……正直、旋くん滅茶苦茶モテてるよ。雄英高校でもヒーロー科以外の普通科とか経営科でも狙ってる子多いし、普通の人でもファン増えてると思う。顔も良いし優秀。将来性バツグンのヒーロー候補生だよ……2人は不安にならないの?』
『不安?というと?』
『……そんな不思議不思議な話かな?このままいくと……旋くんモテるし。何処の誰とも知らない相手と出会って付き合っちゃう……そんな心配はないのかな2人は?ねえ?無いの本当に?不思議不思議!!』
『ん……』
『それは……まあ……』
『私……やだよ…やだもん』
『先輩……』
『ね……』
『私ね……私ね……私は、旋くんの恋人になりたいって頑張って、2人と競争して……それで2人と勝ったり負けたりだったらまだ我慢出来る……私は2人の事は嫌いだけど……2人だったら嫌いだけど、まあ、仕方ないかな……って納得できるの。でも……でも……2人以外の誰とも知らない人に旋くんを奪われるのは嫌。絶対に許せない。それは我慢出来ないの』
『波動先輩……』
『ん……』
(無理もないのよね)
ねじれ先輩の心配はもっともで……回原ちゃんはモテるのだ。
顔も正直良いし、優秀なヒーローの卵。
将来確実にトップヒーローの座を争うだけのキャラクターである。
……当然モテる。すでに週刊誌やSNSなどで回原ちゃんはそこそこインプレッションを稼ぐネタとなっていた。
……だがら……だからそんな回原ちゃんが……このねじれ先輩とも拳藤ちゃんとも小大ちゃんとも違う、他の誰かと付き合ってしまうような……そんな未来は容易く想像がついてしまう。
故に、この3人が焦るのは無理も無い。
『だからね……だから、私はハーレムとかは無理だけど……うん、ハーレムはやだよ。でもね、浮気は〈2人〉までだったら許してあげようかと思ってるの!!』
『……は?何言ってるんですか先輩?』
『……ね?』
そこでねじれ先輩はにっこりと……そう、仏様よりもにっこりと……菩薩のような笑顔で、
『うん!私ね!!ハーレムは無理!!でも!!でも!!旋くんがどうしても!!どうしても!!って言うならね!私が一番!!って前提だけど!!私が一番なら浮気相手2人くらいなら許してあげようかなって!!そう思ってるの!!』
『『………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………』』
怖!!!
透(怖!!)
三奈(怖!!!!)
お茶子ちゃんはチャットすらせずにブルブルと震えていた。
え……スゴイ怖いのだけど……だけどだけど……大丈夫なのかしらこれ……
……結論、大丈夫じゃなかった!
パン!!と、えー!!これ名案!!みたいな感じでねじれ先輩が手を叩き物凄くいい笑顔で!!
『うん!!ねぇねぇ!!どうかな!?これすごくいいアイデアじゃない!?私が旋くんの本命彼女になって!!で!!浮気は2人まで許してあげるの!!ハーレムはダメだよ!!でも!!これだったら旋くんの希望もある程度叶えて!!皆幸せになれそうだけど!!うん!!これが良いよ!!これしかないよ!!これでいこう!!ねえねえどうかな!?ねえこれスゴイ名案じゃない?名案だよね!!うん!!不思議不思議!!』
滅茶苦茶!!滅茶苦茶笑顔で言ったわねねじれ先輩!!
この時点でお茶子ちゃんは「怖い…怖い……」と泡を吹きながらブルブルと震えだした。気持ちはわかるわ。私も怖いもの!!
……そんな怖い事を言われて……それでも……それでも……折れない女の子達もいるわけで……
『へえ……それはそれは……お気遣いありがとうございます……』
『ん』
……そう、拳藤ちゃんと小大ちゃんだ。
透(笑顔って怖い!!)
わかるわ。わかるわ透ちゃん。私も怖いもの。
『……でも……でも……それって……本命が波動先輩である必要は無いですよね?』
『……ね』
『へえ……そうかなぁ?不思議不思議?』
……さっきからお茶子ちゃんの震えが止まらない。だって私も震えているもの。わかるわ。私も怖いのよ……。
……そして、拳藤ちゃんが口を開く。
『じゃあ、こうしましょう波動先輩……回原と付き合うのは私か唯のどちらかで』
……そして小大ちゃんが……あの、無口で無表情の小大ちゃんが、ついに口を開く、
『浮気相手は……遊ばれるのは、波動先輩……そちらです。本命は私達……それなら……それなら私達はかまいません』
透(怖!!)
百(……帰っていいでしょうか?怖)
三奈(怖……雄英ってこんな怖いことあるの……?)
ふるふる震えるお茶子ちゃんの手を握る。わかるわ。私も怖いもの。こんなバッチバチ身近で見ることないもの怖すぎるわ。
……ほんと、当事者の3人はスゴイと思うの。まだ高校生よ。それでこんな……こんな事を考えているのだから。
無言でバッチバチに睨み合う3人……そして……
『……ふう。まあ、とりあえず今日はこれでいいかな?』
そして……まずねじれ先輩が……先輩が、睨み合いを外して、
『私はね……私、拳藤さんも小大さんも嫌い、大嫌い。だって、2人がいなければ私はもっと簡単に旋くんと付き合えてたと思うから』
『ん』
『波動先輩……』
『……でもね……でも……私は2人が嫌いだけど……嫌いだけど、旋くんが私か?2人以外の人と付き合うのはもっと嫌』
『『…………』』
『だから。さっきのは本音。誰かに旋くんを取られるくらいなら、私が……私達で旋くんの一番争いを常にしてるくらいの方がよっぽどいいもん』
『つまり?』
『ん?』
そして、ねじれ先輩はとてもとても綺麗な笑顔で、
『一回付き合って、最後まで行く人は少ないでしょ?私と付き合って別れて、拳藤さんと付き合って別れて、小大さんと付き合って別れて……また私と付き合う……そんな事もあるかもしれないよね』
『……それはお互い様ですよ、波動先輩』
『ね』
その、2人の言葉に、とてもとても綺麗な笑顔をねじれ先輩はうかべ……それに答えるように拳藤ちゃんと小大ちゃんも笑った。
『うん……そうだね。恨みっこなしでいこうね』
『ん』
『ええ……そうですね、先輩』
そうして、いいの?って周囲が思いながら……思いながら、3人が手を伸ばし、ガッシ!!と手を取り合った。
(……回原ちゃん三分の計かしら?)
天下三分の計ではないのだけど………
桃園の誓いの如く手を取り合う3人の美少女。
怖くてそちらを見れない女子生徒達。
……これは、そんな雄英高校の冬の一コマ。
季節は2月に近づいていた。
デトネラット社へのTOBが成立し、新白連合所属の企業が臨時株主総会を要請した。
これより後、2月にデトネラット社の臨時株主総会が開催される。
色々フラグ消化が忙しい!!