sideホークス
2月のとある日。
ついにデトネラット社の臨時株主総会の日となった。
今俺が居るここ、都内にある巨大な貸しホールが会場である。
今回はリアルとオンラインの同時開催。
基本的には株主の多くはオンラインでの参加を推奨している。
今回のTOBは四ツ橋力也=ヴィランの代表取締役社長交代を目的としている。その為、臨時株主総会妨害を目的とした万が一の異能解放軍の襲撃を警戒しての事だ。
個人的にはこの臨時株主総会を異能解放軍が襲撃=四ツ橋力也が本当にヴィラン組織と関係があると世間に知らしめるだけの愚行な気がするので襲撃は流石に無いのでは……と考えているのだが、
「君は……いや、君たち新白連合は異能解放軍の襲撃があると予測しているよねファントムシーフ?」
俺の隣に立つ少年……ファントムシーフ、物間くんに軽く聞いてみる。
「僕と言うより総督の予想ですが……世間の注目がこれだけ集まっている臨時株主総会は、異能解放軍にとっては絶好の名乗り上げの機会だろう、との事です」
「世間の注目が集まっているのを逆手に取り、ここで異能解放軍として名乗りを上げるって訳か……このタイミングで異能解放軍の、解放思想を大々的にアピールするってことは……」
俺の言葉を引き継ぐようにして、ファントムシーフは頷き、
「……はい、おそらく四ツ橋力也は……リ・デストロは、今日ここでデトネラット社の社長としての表の立場を捨てると決めたのでしょう。今後は異能解放軍のリーダーとして表も裏もなく活動すると決めたのでしょうね」
「表の地位を捨てると決めたのなら、もう世間体とか気にしないでいいからね」
「ええ。どの道もう正攻法では表の地位を取り戻す事は不可能だと悟ったのでしょう。だからこのタイミングで表の地位を捨て去り、今後は異能解放軍のリーダーとしての活動に専念するつもりなのでしょうね」
「……それなら、確かにこの臨時株主総会は彼らの解放思想を……異能解放軍の存在をアピールする絶好の機会になる訳か」
「予想が外れればそれはそれで良いとの事です。ただ条件が揃い過ぎているので、おそらく襲撃があるのでは?と予想されていました」
そんな事を話している俺達2人に、一人のヒーローが近づき、
「……新白連合の総督の予想であれば、その通りになると考えて備えておくに越したことはないだろうな」
そう話しかけてきた。
「エンデヴァーさん」
そう、エンデヴァーさんだ。
今日の臨時株主総会の会場の警備は、俺とエンデヴァーさんの事務所が担当していた。
周囲を確認のため見て回ってる所で、俺達の姿が見えたので話しかけて来たのだろう。
……そして、そんな、何気なく近づき話しかけて来たエンデヴァーさんから、何故か俺に向けて『ゴォッ!!』と炎が放たれた!!
「うぉぉお!!!」
それを慌てて躱す俺!!
「な!!エ!!エンデヴァーさん!!何するんですか突然!!」
慌てて抗議する俺に、エンデヴァーさんはしれっと、
「ああ……すまんなホークス……炎が滑った」
「炎が滑るって何なんですか!!炎が滑る訳無いでしょうが炎が!!」
「ふん……だからすまんと謝っただろうが」
全然謝ってる人の顔には見えないんですが……
これはあれか……
「いやだから焦凍くんについては誤解だって説明したじゃないですか!!」
あれだわ!!絶対焦凍くんの件だわ!!
俺のとこにインターン来てから急に息子が夜のお店に興味津々になったがキサマ息子に何してくれてんだコラ、とエンデヴァーさんから連絡があった時に懇切丁寧に説明釈明したのだが、どうもまだまだ怒りが収まりきらない様子。
「だからあれはベストジーニストさんが原因です!!俺は関係無いんですって!!」
「そうは言うが、俺はお前がしっかりと焦凍の面倒を見ると言うから信頼し預けたのだぞ。監督責任というものがあるのではないか?」
「クソぉ!!社会人の鑑のようなセリフを言いやがって!!って!!この人家庭のヤラカシさえなければマジで社会人の鑑だった!!」
「ふん」ゴォッ!!
「うわぁ!!って!!また炎!!あぶねー!!」
またまた滑ったらしい炎を躱す。
そんな俺達2人をやれやれ……という目でファントムシーフが見ながら、
「仲がよろしくて大変に結構ですがお二人とも……じゃれ合いはその辺りで。もうすぐ臨時株主総会が始まります……つまり、襲撃の時間が近づいて来ています。警戒をお願いしますね」
「む……そうだな」
「で、ですね……」
年下にそんな注意をされ、2人の大人が姿勢を正す。
「さて……では警備に戻りますか……ファントムシーフ、ここからはまた君の仕切りだと聞いているんだけど……間違いないのかな?」
俺の問いにファントムシーフは肩をすくめ、
「はい……間違いありませんよ。ここからは僕が臨時株主総会を進行させてもらう予定です……しかし真面目な話。何で僕は会社法とかそれ関係の書籍を高校1年生で読み漁ってるんでしょうね……学校の成績的には、英語の教科書とかと向き合いたいのが本音なのですが……」
そんな事をやたらと疲れた表情で言う物間くん。そんな彼に。
「……もうそこは諦めろ。前にスパイラルにも言ったが、そういう立場に立った以上、不本意であったとしてもそれ相応の振る舞いが求められる。そういうポジションが世の中にはあるのだ」
「エンデヴァー……貴方にそう言ってもらえましたので、褒められたと思っておきます……しかし、中々大変な立場なのですね、世間の矢面に立つという事は」
本来であれば、学生である彼や回原くんが背負う必要の無いプレッシャー。
それを背負い、物間くんは……ファントムシーフが笑う。
(……そうだね。それでこそ君たちだ)
『黄金世代』
前に彼らを称してそう評価した気持ちに一切の偽りはない。
それだけの力を……単純な戦闘力だけでない力を、彼らは身につけているのだ。
だから、ここは彼に……ファントムシーフに任せる。
俺とエンデヴァーさんのそんな視線。
それをしっかりと受け止めファントムシーフは頷き。
「……では、行ってきます。会場の警備をお願いします」
「任せろ」「了解!!」
エンデヴァーさんと俺。2人の返事を聞き、力強く頷くとファントムシーフはこの場から去って行く。
彼には彼の戦場があるのだ。
俺達にも俺達の戦場があるように。
そして、臨時株主総会が始まった。
『さて定刻になりました。これよりデトネラット社の臨時株主総会を開催させて頂きます。なおこの臨時株主総会は、デトネラット社の総株式を3%以上、6カ月以上に渡り所有した新白連合の請求により開催を請求された臨時株主総会となります。そして委任状を含め、デトネラット社の総株式の過半数を超える株主様に出席を頂いておりますので、この臨時株主総会が適法に開催された株主総会であると宣言させて頂きます』
ついに始まる臨時株主総会。
ホール中央の壇上。物間くんが……彼がマイクを持ち人々の耳に響く声で告げる。
『定款により、本来は臨時株主総会の議長はデトネラット社代表取締役の四ツ橋力也氏に努めて頂くべきですが、本日は欠席であります。職務代行権限上、次席以降の方たちも本日は欠席であります。その為。本日の臨時株主総会の仮の議長を、この臨時株主総会を請求した新白連合代表の委任状を持つ私、物間寧人が努めさせて頂きます』
誰もが口を開かない会場。
その広い会場に彼の声が響く。
『それではまず、この臨時株主総会の仮の議長である私、物間寧人が株主の皆様に議長の選任について起案させて頂きます。この臨時株主総会の議長を、私、物間寧人に選任頂きたく、これに賛同頂ける株主様は議決権の行使をお願い致します』
『意義無し』
委任状を持つヒーロー公安委員会の委員長が賛同。
……まあ茶番的なものだけどね。ぶっちゃけ総株式の51%以上を保有している以上、議案が否決される事はないのだ。
……つまり、この場は、法的にはワンサイドゲームの会場なのだ。
だから……
『……ありがとうございます。ご出席頂いた株主様の過半数以上の賛同を頂きました。よって、この臨時株主総会の議長は私、物間寧人が務めさせて頂きます』
そう。だから、ここでの議案が否決される事はあり得ない。
故に、心配するべきは……
『……では続きまして、第一号議案、現代表取締役である四ツ橋力也含む、全ての取締役の解任についての審議を致したいと思います。株主の皆様。この議案について賛同頂ける方は議決権の行使をお願い致します』
……ビィーッ!!!ビィーッ!!!
……ここで!!ホール内に警報が鳴り響く!!
「大規模ヴィラン組織の襲撃です!!『事前の指示に従い』皆様対処をお願い致します!!」
……そう、俺たちが心配するべきは、臨時株主総会の進行ではなく!!その妨害活動!!
予想していた通り!!異能解放軍の襲撃だ!!
法的な面での戦い。
武力的な戦い。
……両面での戦いがこれより、始まる!!