side緑谷
一進一退の死闘を繰り広げていたヒーローVS異能解放軍の戦いは、物間くん主導による雄英高校1年チームのゲリラ戦+それを好機と見たヒーロー達の全面攻勢によって一気に戦局が傾いた。
言うまでもなくヒーロー側優勢へと、だ。
ヒーロー達の決死の大攻勢を受けた異能解放軍は次々と倒され拘束され、ついには残ったメンバーが臨時株主総会の開催された貸しホールのある建物内へと退避・籠城する事となる。
……そう、長い長い戦いではあったが……ついに僕達ヒーローは、異能解放軍を追い詰める事に成功したのである。
「……各位。異能解放軍が立て籠もった貸しホールのある建物の包囲は継続。継続しつつ、順番に休息を取るように」
「この機会に水分補給だ!!他!!栄養補助ゼリーとかでしっかりエネルギーも補給するようにね!!」
「小休止の後……籠城した異能解放軍へと全面攻勢をかける……くれぐれもデニムのベルトは緩め過ぎないように」
そうして僕らは異能解放軍の籠城する貸しホールを包囲しつつ、束の間の休息を取ることになったのだった……
「よぉう!!ちょっと見ないうちに随分と男前っぷりに磨きがかかったじゃねえか!!このモノマネ小細工黒幕野郎!!」
「……男前に磨きがかかったのはお互い様じゃないかな爆豪……それと、なんだか僕の肩書がさりげなく一個増えた気がするね!!はは!!君が『ここまで来たら名前呼びのが楽だわ!!』ってなるまで後どれだけ時間がかかるんだろうねえ?」
頭に冷えピタを貼ってアスファルトの路上に横たわる物間くん……そんな彼に、ヒーローコスチューム含め色々とボロボロになったかっちゃんが楽しそうに声をかけた。
「けっ!!テメエが情けねえ姿晒したら取り下げてやっからよぉ!!俺に名前呼ばせたければ精々気張れや!!」
「ふふ……肝に命じておくよ」
「かっちゃん!!かっちゃん!!小休止の開幕から何してるのさかっちゃん!!」
へへ……ふっ……と笑い合うかっちゃんと物間くん。
「けろけろ……これも男の子の友情というモノなのかしらね?物間ちゃんはスゴイ頑張っていたから私としては素直に褒めてあげて欲しいのだけど……」
「は!!そんなん知るかよ!!」
「やれやれね」
小休止になってすぐ、僕とかっちゃんはこのヒーロー側快進撃の立役者となった同級生の方へと足を向けた。
物間くん、轟くん、骨抜くん、拳藤さん、麗日さん、蛙吹さん、そして小大さんの所へ。
場所はすぐにわかった。
何せ周囲のヒーローとヒーロー、そこらのヒーロー達皆が彼ら彼女らを一言だけでも讃えようと皆のいる場所に集まっていたのだから。各々路上で小休止を取る彼ら彼女らの元には、僕らが着いた時には多くのヒーロー達がその活躍を一言だけでも讃えようと集まっていたのだ。
(……うん。皆、それだけの事をやってのけたんだ。スゴイよ皆!!)
多くのヒーロー達に讃えられる同級生。
それを見て、同級生が褒められ評価される事が誇らしく嬉しいという素直な気持ちと、その反面自分の胸の奥を『チクリ』と少し刺す微かな痛みを自覚する。
(…………)
これは誰にも……誰にも言えない……いや、事情を知っているかっちゃんには……言えるかなぁ?言えるかなぁ言ってもいいのかなぁ?でも……でもオールマイトにも言い難い、僕が……僕だけが抱える悩み。
(本当は……本当は……僕がもっと……もっとしっかりしないといけないのに……)
それが……それが、僕だけが抱える心の痛み。
(本来なら……本来なら、オールマイトの個性を受け継いだ……オールマイトの後継者である僕が……僕が、もっと……もっと頑張らないといけないのに……)
本当に情けなくて……情けなくて胸の奥でジクジクと心が痛む。
オールマイト不在の時代。
後継者不在と言われる時代。
昨年末のエンデヴァーの一件以来、急速に悪化した治安。割に合わないとヒーローを辞めてしまった多くの元ヒーロー達。
その隙間を埋めるようにして……『まるで学徒動員ではないか!』と偉そうなコメンテーターに酷評されながら、僕らヒーロー候補生達は、今もこうしてインターンという名目でヴィランとの最前線に立っている。
(……正直皆には……学生には危険だよね……)
学徒動員……そう言われる事にも理解は出来る。
急速に悪化した治安。
急速に不足したヒーロー……ちょっと前まではヒーロー飽和社会とか言われていたのに。
平和の象徴不在と言われる時代……学生の友人達が最前線に立たざるを得ない、そんな状況………
だからこそ……だからこそ、思う……
(僕が……僕が……もっともっと!!頑張らないと!!)
オールマイトの個性を受け継いだ僕。
オールマイトの後継者となった僕。
……僕が……僕が今……今、オールマイトの後継者に相応しい存在だと……次代の平和の象徴に相応しい力があれば……ありさえすれば、こんな苦労を皆にはかけなかったのに……
普段の飄々として、余裕たっぷりのニヒルな物間くんですら冷えピタを貼って地面に寝そべり。
轟くん他皆は疲れ切ったと……やりきったと地面に座り。
かっちゃんはボロボロで……
そして……回原くんは……同級生ながらも現トップヒーローの一角と周囲から見られている回原くんは、エンデヴァーとホークスと一緒に、この大切な小休止……あれだけの激戦の後、最初に誰もが休みたいのに……休みたい筈なのに、休みたいだろうに、周囲の皆を休ませるために、彼は学生ながら、休息のローテーションは最後の最後となっていた。
エンデヴァーとホークス……2人と一緒に。
(僕は……僕たち雄英高校の生徒たちは休息の最初のローテーションに……皆入れてもらえたのに……)
正確には通形先輩……ルミリオンも同じ最後の休息枠に入っていた。
様々な感情が……本当に、本当に様々な感情が胸を抉る。
(本当は……本当は僕が……僕こそがあの2人が今いる場所に……立ち位置に立って皆を……いや、2人だけじゃない……2人も、全てのヒーローも……全てを救うような……そんなヒーローとしてあそこにいるべき筈なのに……)
本当の本当に……いや、僅かな嫉妬は……嫉妬はちょっとだけあるかも……あるかもしれない……
でも……だけど……
だけど……
(……ごめん……ごめん、皆……)
申し訳なくて泣きそうになる。
ああ……そうだ……そうだろ……僕が……僕こそが……
(僕が……僕が、僕が!!オールマイトの力を受け継いだ僕が!!僕が!!僕が今!!オールマイトと同じように活躍して!!彼の後継者に相応しいと!!彼の後継者は僕だと!!そう!!誰もがそう認めるだけの力を!!力を!!活躍を!!今この瞬間にも!!瞬間にも見せられれば!!『まるでオールマイトがこの場に居るみたいだ!!』そう誰もが語るだけの活躍を見せられれば!!きっと!!きっと!!きっとこんな事にはなってないのに!!)
それが僕の心を、心の奥底からジクジクと痛め続ける。
痛め続けている。
(僕が……僕さえ……僕さえ、しっかりと……もっとしっかりとしていれば……)
後悔は常に胸を貫く。
回原くんは、小学生になったくらいから地獄のような特訓をしていたらしい。それが、彼の強さの根底だ。
僕はどうだ?
(僕は……僕は……、オールマイトに認められてからしか……認められてからしか……本当に、本当の強くなるための努力をしていない……)
最近、毎晩とは言わないが良く夢に見るんだ。
それは、僕が……僕が、回原くんみたいに、小学生くらいから体を鍛えて、武術を学ぶ夢を。
その夢の中では……夢の中では、僕は……僕は、オールマイトと出会ってすぐにワン・フォー・オールを゙使いこなして、そして雄英高校に入学するんだ。
入学早々の相澤先生の意地悪な個性把握テストで圧倒的な大活躍をして、USJではヴィランどもを軽々と撃退して……
そして……そして……
(そして……そして、雄英体育祭の決勝で僕はかっちゃんの代わりに回原くんと戦って……戦って、そして勝つんだ)
それは、僕がたまに見る夢。
僕にだけとてもとても都合が良くて……とてもとても残酷な夢。
ひょっとしたらあり得たかもしれない夢。
(僕が……僕が、オールマイトに出会う前から自分を鍛えていれば……いさえすれば、あり得たかもしれない……そんな、そんな自分だけに都合がいい……そんな、夢……)
でも今は……今は……今は、今は…今は、残念だけど……とても、とても残念だけど……残念だけど……僕は……僕は……それでも前に向かって進んで行かなければいけないんだ。
「……デクくん?大丈夫?ちゃんと水分補給しとる?休んどる?」
「……ああ、麗日さん」
……やっぱダメだな僕は。
路上に立って悩んでいる僕に……僕に、本当は、本当は僕に讃えられるだけの活躍をした麗日さんが、彼女が僕を心配して声をかけてくれる。
「……うん。ありがとう。大丈夫だよ麗日さん」
「………」
その麗日さんに。そんな麗日さんに。僕は出来るだけ普通の……いつも通りの笑顔でそう答えた。
……この気持ちは……この歪んだ夢は……これは、僕が……ワン・フォー・オールを受け継いだ僕が……僕が墓まで持っていくべき、そんな思いだ。
……決して、他の人にこんな思いを見せるべきではないんだ。
「……デクくん……」
「……うん、本当に……本当に、大丈夫だよ麗日さん」
心配そうにこちらを見てくる麗日さん。そんな彼女に僕はそう答えた。
大丈夫だよ。
大丈夫だよ麗日さん。
僕は大丈夫なんだ。
大丈夫。
そして……そして、これから大丈夫にするんだ。
そう、足りないものはこれからの努力で埋めていこう。
今は遅れているのかもしれない。
でも、これから頑張って追いつく。追いつくのだ。
ここから!!ここから!!今!!遅れているここから!!絶対にトップに追いついてみせる!!
だから!!だから僕は大丈夫だ!!
「おう緑谷」
「やあ轟くん。もう休憩は大丈夫なの?」
そんな決意を固めた僕に、轟くんが声をかけてくれる。ごめんね!!本当は僕から「皆凄かったね!!」って声をかけるべきなのに。
……そんな轟くんから、
「なあ、俺達お互い頑張ったよな?」
「うん!!そうだね!!お互い頑張ったね轟くん!!」
そんな、轟くんから、
「そうだよな。俺達頑張ったよな緑谷」
「うん!!」
轟くんから、
「そうか、なら……」
から……
「なら……なら、お前もキャバクラに行かないか緑谷?」
「………………………………………………………………………………………………………………………………へ?」
へ?……ん?……いま?……なんて?
「聞こえなかったか緑谷?ならもう1回言うぞ」
「……いや、あの……うん。うん?言わなくてもいいよ轟くん」
……そんな、そんな僕の言葉が聞こえなかったのか轟くんは、
「もう一度言うぞ。お前もキャバクラに行かないか緑谷?」
「轟くん!!轟くん!!『お前も鬼にならないか!』みたいなテンションで何言うのさ轟くん!!」
どうしたの!!どうしたのさ轟くん!!何か!!何が!?スゴイ事言い出したよ轟くん!!!
僕の返答に轟くんは「なんか変な事言ったか俺は?」みたいに首を傾げたけど結構!!結構変な事言ってるよ轟くん!!
「そうか……ベストジーニストとエッジショットから、この作戦が無事に終わったらお疲れ様会でキャバクラ奢ってやると言われててな。友達も誘っていいと言われたから誘ったんだけどよ」
「あの2人のキャラマジで!!マジで何なのさ!!」
「ちなみに回原と爆豪も誘おうかと思ってる。前に一緒に楽しんだ事もあるしな。誘わないのもなんか悪いしな」
「ぎにゃぁぁぁ!!!!」
ぎゃあああですらなかった!!
なんか爆弾が!!爆弾が落ちたよ今!!今!!!
大丈夫!?これ大丈夫!?
「………フィッシュ……」
「が!?クソ!!何だ急にこのツタ女!!」
……何か大丈夫じゃなさそうな声が聞こえた気がする……
そして……
「……えー……えー?なぁになぁに?不思議不思議……不思議だなぁ……ねえ……ねえねえ轟くん……ちょっとその話……もう少し詳しく聞かせてくれるかな……うん、不思議不思議……」
「……ん」
「そうだね……とりあえず……とりあえず詳しく聞かせてもらおうかな……うん……うん、とりあえずね」
「ぎにゃぁぁぁぁあ!!!!」
そして更に!!更にヤバく!!ヤバくなった!!
大丈夫!?皆息してる!?
今!!今休憩だけど!!ヒーローとヴィランの大決戦の最中だけど!!ねえ!!ねえ大丈夫!?これ大丈夫!?