回原のドリルは天を貫く   作:のりしー

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長い1日の終わり

sideエンデヴァー

 

(……一体何故こんな事になってしまったのか……)

天を仰ぎ思わずそんな事を考える。

時刻は夕暮れ。

夕焼けの朱に染まる、戦いの余波でボロボロとなった街。

その中で俺は息子と向き合っていた。

 

正直言って困惑が隠せない。いやどんな父親でも無理だろうこれは。

大切に育ててきた……あくまで俺の視点であり、他人から見ればそう見えないかもしれないが……その息子が、突然俺を超える為にキャバクラに行きたいとか熱弁したのである。

 

最近読んだ子育て関連の本『思春期を迎えた息子との上手な付き合い方』にも、こんなケースでの対応方法など書いてはいなかった。それはそうか。

 

激しい戦闘を終え色濃く疲労の残っている俺の体と脳は、全く予想外の衝撃に襲われていた。

 

「……むぅ……」

思わず天を仰いだまま目頭をもみ、唸ってしまう。

 

困惑を隠せないまま……しかし、ずっとこのままでいる訳にもいかないので、俺は視線を天から目の前の焦凍に移す。

 

今も俺を強い意志を秘めた目でじっと見てくる焦凍。

その真剣な瞳。成長への強い意志を秘めたその瞳で俺を見る事を俺はこれまで望んでいた筈なのに……まさかその望みがこんな形で叶ってしまうとは……本当に俺の人生はままならない。

 

「……あ。ヤッベ目があった」

 

「……ホークス……やはり貴様が全て悪い……」

 

「えー……俺的にはなぁぜなぁぜ案件なんですがコレ……」

 

ふと視線をずらした所にいたホークスと目があう。

そう、全てはコイツが悪い。コイツを信じてインターンに行かせたのが悪かったのだ。

その選択を悔やむが……今更時間は戻す事は出来ない。ならばここから俺は父親として息子を再び正しい方向へ導かなければならないのだ。

 

「……お前の話はわかった……そうだな、確かに俺に……その……『モテ力』?……なるものがないという事はまぁ、確かにそうだろうなと俺も認めるとしよう。確かにそうだな。お前の言う通りだ焦凍。俺に『モテ力』がなく、それがヒーローとしてのオールマイトに届かなかった一つの原因でもある……それを認めるのはまぁ、吝かでもないのだが……」

 

努めて冷静に……決して子供の考えを頭から否定し、怒鳴りつけるような事はしない。そうだ、最近読んだ『正しい子供の叱り方〜高校男子編〜』にも書いてあったように、その本の内容を思い出しながら俺は言葉を続ける。

 

「……わかってくれたのか?親父?」

 

……うん。わかってはいないぞ焦凍。ちゃんと言葉に含まれた意図を察してくれな焦凍。

 

……だが、ここで怒鳴りつけるようではダメだ。それでは今までと一緒なのだ。それではダメだと学んだのだろう轟炎司。

 

……だから、冷静に落ち着いた声で息子に話しかける。

 

「……一部はわかったという話だ。俺に『モテ力』が足りないから、俺を超える為に『モテ力』を鍛える……鍛えるでいいのか?まあともかくそれは賛成しよう。うん、親としても応援しよう」

 

「そうか!なら!!」

 

「……だが!!何故キャバクラなのだ!!『モテ力』を鍛えるのはいい!!だが別にキャバクラとかでなくても良いだろう!?普通に学校に通って!ヒーロー活動をしながらでも良いのではないかな焦凍よ!!!」

 

あ、しまった思わず大きな声で叫んでしまった。反省しろ轟炎司……冷静に……冷静に……

 

幸い、焦凍は気を悪くした様子はなく、じゃあ……と、

 

「そうか……親父はガールズバーとかラウンジとかのが良いって言うんだな。そうなんだな親父?」

 

「違う!!違うそうじゃない!!」

 

また思わず叫んでしまう!!

しかし無理じゃないかこれ?冷静になるのはちょっと無理ではないか?世間の男親というものは皆こんな過酷な経験をしているのだろうか?

 

「何故ダメなんだ親父?親父はこういった店に行かず、普通に学校行って普通にヒーローしてたから今のモテ力なんじゃないか?そんな親父を超える為には、俺はやはりキャバクラとかに行くべきなんじゃないのか親父?」

 

「いや!それはそうだが!!」

 

「親父……俺は親父を超えるヒーローになる為ってのもあるし、それにウチの問題……轟家の問題って、実は親父に『モテ力』があればこうはならなかったんじゃないかって思ってて……その為にも俺はモテ力を鍛えてぇんだよ親父」

 

「……どういう事だ?とりあえず……とりあえず父さんちゃんと聞くから話して御覧なさい」

 

本にも書いてあった。まずは頭ごなしに否定せずちゃんと子供の意見を聞くこと、と。

……正直このケースでは意見など聞かず頭ごなしに怒鳴りつけるのが正解なのでは?と疑っているのだが……まずは冷静に話を聞くことにする。

 

「親父……モテ力ってのは女性への優しさや気遣い……言葉の裏にある気持ちや要望、助けて欲しいって気持ちとかにちゃんと気づいてあげて、ちゃんと応えてあげる……それが真のモテ力だと思うんだよ親父。結局、そういう男がどんな所でもモテると思うんだよ親父。俺はベストジーニストとエッジショットと過ごして……本当にモテる男達はそういう男だって気づいたんだよ親父」

 

「……焦凍?」

 

そして、また爆弾が落ちる。

 

「俺さ親父……色々な人に聞いたんだよ親父の事をさ。親父はヒーローとして本当にスゲェと思うよ親父。こんなにヒーローとしてスゲェのに、家庭まで完璧だったら本当に凄すぎるぜ親父。それこそオールマイト以上かもしれねえ。だからもし……もし親父にモテ力があれば……多分当時は滅茶苦茶難しくて大変だったのかもしれないけど……親父の鍛えたモテ力で当時の母さんのケアがもう少し出来ていたとしたら……そしたら轟家の問題なんて何も起こらなくて、家族皆でエンデヴァーヒーロー事務所を支えるような……家族皆でオールマイトを超えるような……そんな最高のヒーローになれたんじゃないかな俺達は」

 

「なっ!!!!」

 

(……あ、ヤベェなこれオーバーキルか脇臭オッサン?)

 

(……けろけろ……私思ったこと何でも言っちゃうの。一見良いこと言ってる風なのだけど、ただ単に父親にキャバクラ行きたいってごねてるだけなのよねアレ……)

 

外野の声が微かに聞こえる。煩いぞバーニン、俺はまだ頑張るからな!!

 

「ぬ……ぬぅ……」

 

だが……しかし……

 

(当時の俺にモテ力が……か……)

 

確かに、あの時こうしていれば……だなんてことは考える事はある。当然、それは妻に対して取ってしまった行動などもだ。

 

確かに……俺にモテ力があれば……あの時の俺にもっと妻への気配りや優しさがあれば……多くの問題は解決していたのかもしれない。そんな事は確かに考え、夢に見たことすらある。

 

そして家庭で苦労させてしまった息子である焦凍が……俺を超える為にモテ力を鍛えたいというのは……うん、決して間違いではないのかもしれない……

 

「……話は、わかった……」

 

「親父!!じゃあ!!」

 

ちょっと待ちなさい焦凍……お父さんにも冷静になる時間がいるから。

 

すうううぅぅう……

はああぁぁぁぁ……

 

 

大きく深呼吸をする。そして、

 

「……ベストジーニスト。息子の話はわかった。お前先導でそういう店に連れて行くことも良い気はしないが理解した。だが、出来ればキャバクラとかではなく……うん、未成年も連れて行ってOKのような店にしてはくれないだろうか?これは真面目に父親としての頼みだ。焦凍も出来れば胸をはって入れるような店に通うようにしてくれ。それが俺からの条件だ」

 

「……ふむ、確かに私も悪ノリが過ぎていた所はあるからな。承知した。未成年もOKなコンカフェやメイド喫茶などで経験を積ませることにしよう」

 

「すまんな……すまんなでいいのかこれは……?」

 

「親父……わかってくれたのか?ありがとうな親父!!」

 

「うん……うん。これで良かった……良かったのか……本当に良かっただろうか……?」

 

しかし嬉しそうな息子の顔を見ると、まあこれで良かったのかもしれないと考える。複雑だが。

 

「ああ!そうだ親父?」

 

「うん?どうした焦凍?」

 

そして、また爆弾が落ちた。

 

 

 

「なあ親父。親父も一緒にメイド喫茶に行かないか?」

 

「「「「「「「…………………………………」」」」」」」

 

……空気が、凍った。

 

その凍りついた空気に、きょとんと不思議そうに首を焦凍は傾げて、

 

「聞こえなかったか親父?ならもう一度言うけど。親父も一緒にメイド喫茶に行かないか?」

 

(2回言った!!2回も言ったよメンタル鋼なのかな轟くん!?)

(けろけろ……あれ単に天然なだけだととも思うわ)

 

外野のヒソヒソ声が微かに聞こえる。

やるな焦凍よ……この天然がその手のお店に通うことで、多少なりともそういう所が治るのであれば……本当に父親として応援するべきかもしれんな。知らんけど。

 

「……ああ、すまんな聞こえているぞ焦凍。誘ってくれてありがとう。だが父さん昨年末からのゴタゴタがあってからのメイド喫茶通いは再度炎上してしまいそうだから遠慮しておく。ああ、だが誘ってくれたのは本当に嬉しかったぞ。ありがとうな焦凍よ」

 

子供からの好意的な誘いは基本受け入れ、どうしても駄目なら丁重に断る。『息子に寄り添う親父の作法』にも書かれていた。それをとりあえず実践する。

 

俺の返答を聞き、焦凍は少し残念そうに……まあ、この顔が今日見れただけで良かったとしようか……

 

「そうか。残念だな。じゃあ……俺は頑張ってくるよ親父」

「ああ……頑張れ、焦凍」

 

そう、最後には晴れやかに笑った。

 

「い、いやぁ~!!良かった良かった!!これにて一件落着ですねぇエンデヴァーさん!!」

 

そう馴れ馴れしく話しかけてきたホークスに、

 

「そうだな。最後に貴様を焼けば全て解決だ」

 

「何で!?!?」

 

ホークスと入れ替わりで去って行く焦凍。その背中をホークスと見送りながら、

 

「……飲みたい気分だ……ちょっと田舎の60歳位のママさんが一人でやってるスナックとか行きたい。ママさんの作ったつまみを食べて薄い焼酎の水割り飲みながら愚痴でも吐きたい気分だ……付き合えホークス……」

 

「お父さんは大変ですねぇ……ヒーローやってお父さんもやって……お疲れ様ですエンデヴァーさん。今日くらい飲んでもいいと思いますよ」

 

「すまんな……そう言えば回原の奴は?」

「ああ……回原くんならあそこに」

 

……そして、2人で正座したままの回原を見る。

3人の美少女。その美しい少女達の中心で正座したままの回原を。

 

 

 

「うんうん!!偉いね偉いね旋くん!!じゃあ!!最後にまとめで復唱しようか!!キャバクラには!?」

 

「行きません!!」

 

「キャバクラに誘われたら!?」

 

「断ります!!」

 

「ん!!」

 

「付き合いとかで誘われてどうしても断れない場合!!その時点で連絡を入れます!!」

 

「延長は!?」

 

「しませんさせません!!」

 

「連絡先の交換は!?」

 

「絶対に断ります!!」

 

「ん!?」

 

「名刺は受け取り拒否します!!」

 

ギャースカギャースカと騒ぐ4人。

 

「モテ力がいいと言うが……モテても大変なのではないかあれは?」

 

そうホークスにあちらを指差しながら聞く。

ホークスはやれやれ……といった顔で、

 

「あれはあれで回原くんが真面目で良い子過ぎますからねえ。本当にハーレム気取るならもっと堂々としてればいいし、女の子をもて遊ぶ遊び人を気取るなら悪びれなければ良いのに。あの真面目さで3人を大切にしてるからあーなるんでしょうね」

 

「三股の回原ならぬ三等分の回原ということか」

 

「そういう事ですね。まあリアルに現実世界でハーレムとかやろうとするとああなりそうな気もしますけど」

 

そうして大人2人、正座しながら叫ぶ回原を見守る。

 

 

 

 

 

「キャバクラにもガールズバーにもコンカフェにもメイド喫茶にも轟とかに誘われてもついていきません!!騙されて連れてかれたら即連絡して延長せずに帰ります!!!」

 

「「「よろしい!!じゃあ……最後に(ん)!!!」」」

 

「はい!!もうすぐ来るバレンタインは3人からしかチョコ受け取りません!!朝昼晩で少しずつでも3人とそれぞれ一対一で遊べる時間作ります!!!」

 

「「「『遊べる』じゃなくて(ん)!?!?!?』」」」

 

「はい!!デート!!デートします!!」

 

「「「よろしい(ん)!!!!」」」

 

 

 

 

 

その様子を見て、ふと思った。

 

……貴様も大変だな回原よ。

 

……そのうちお前が20歳を超えたら飲みにでも行こう。

それまでに、3人の女性に怒られず連れて行けるようなスナックでも探しておく。

 

俺とホークスと貴様の3人で、あの時はああだったなぁ、等と思い出を振り返りながらのんびりと飲もう。

 

たまには息子の愚痴を聞いてくれ。

 

回原の女性絡みの愚痴も代わりに聞いてやるさ。

 

ただしホークス、貴様は知らん。

 

 

 

……それはいつか叶うかもしれない、そんなささやかな俺の願い。

 




いつも読んで頂きありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。厚く御礼申し上げます。

はいそんなこんなで99話となります。
次は記念するべき100話目なんですねぇ………

書き始めからある程度シナリオは出来てまして、その通りに進行している拙作です。
話が長くなったから分割したりはしてますが、基本想定通りの進行です。

……んで、この後の100話と101話は続けて書くから意味ある話なんですが……すごいな話数調整しないでこれが100話になるのか。
下手すると101話が記念するべき100話目になった可能性もあるのか……

この101話が記念するべき100話に来なかったのは良かったのか悪かったのか……

この後もお楽しみ頂ければ幸いです。
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