「ね、いつ産まれるんだろうね。」
私は耳を澄ませていた。そっと、彼らの会話を邪魔したくなくて、物音1つたてないように身動きを取らなかった。しかし、こんな状況下であるから、私の心臓の鼓動がやけに響く。病室にいる彼らには知られていないと分かっていても、聞こえているのではないかと常々感じる。コソ泥のように盗み聞きしているという状況が私の鼓動を速くする。
「うーん。……1週間後とかじゃないかな。」
その声はとても悩ましげな声だったけども、嬉しさが微かに滲み出ていた。彼女は彼の返答に、そう。と呟いたきり黙したままだった。しかし、私より彼との付き合いが長い彼女には、彼の返答に含まれている本心が私よりも多く伝わっていたのかも知れない。
私はその関係性が羨ましかった。誰かと何かを共有するという嬉しさ。私には無いものを持っている彼らがどうしても目映かった。いつも暗黒の空間に閉じ込められている私には彼らの姿は見えない。でも、目映い。
私はいつの間にか作られている甘酸っぱいこの空気感とそれを盗み聞きしている罪悪感に耐えられなくなり、私と彼らを隔てている壁1枚を3回叩くことにした。
「田中さん。失礼してもよろしいでしょうか?」
少し時が経てから、病室の扉は開けられた。
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今日の見舞いの客は彼だけでは無かった。彼女の親友とも言える人も見舞いに来てくれたのだとか。
その日の彼女は幸せそうだった。お互い仕事や家庭で忙しいので久々に会ったのだという。その夜、親友と話したことで少々、口が滑っていた。高校時代はー、そうそう中学のときにねー。と昔を懐かしながら思い出話を私に対して語ってくれた。
時々、よく分からない表現やことがあるがあえて聞かず私は彼女の話を聞いていた。最近、疲れ気味の彼女がこうも楽しそうに話してくれるので、私は彼女の話だけをただ満足するまで黙したままで微笑んでいた。
この日だけでも彼女が楽しくなるのならと、私は彼女の身体よりも彼女の心を優先した。
その翌日、いつもと違った原因による眠気に彼女は悩まされた。
この日は私が死ぬ10日前だった。
もし、この日をやり直せるのなら、彼女を直ぐに寝させてやるべきだった。彼女がこの日に夜更かしをしていなくても後の結末には些細な影響しか与えない筈だ。いや、影響を与えないと確信できる。しかし、それでも、この日、彼女の思い出を聞くべきでは無かったと今は想う。