『Yeah!!とうとう予選Dブロックも最終戦だッ!このライディングデュエルを制し、決勝へ進出するのはどちらのチームだぁぁぁッ!?』
MCの声がスタジアム中に響き渡る。
WRGP予選最終戦。その火蓋が今切って落とされようとしていた。
これから行われる闘いで決勝進出チームが決定するとあってか、観客達の歓声は今まで以上の熱気が篭る。
『では、改めてチームを紹介しよう!まずは、チーム5D’s!!』
高らかなMCの紹介と共に中央のモニターに遊星、ジャック、クロウの顔が表示されると、スモークの焚かれた通路の一画から3人が姿を現した。その後にブルーノと龍亞、龍可が続き、ピットへと移動する。
『そのチーム5D’sに対するは、今大会のヴィラン!チームエイチクロス!!』
MCの紹介と共にモニターに映る映像が5D’sからエイチクロスに変わると、一転して会場の空気が変わった。テイル、アリア、綴が通路から姿を現せば、大歓声の中に畏怖の視線が混じる。
その視線や感情も当然と言わんばかりに、3人は堂々と、優雅にピットへと移動。
両雄が向かい合う。口火を切ったのは綴だった。
「やっとこの日が来たわね。この戦いで世界の行末が決まると言っても過言じゃないわ。覚悟はできていて?」
「ふん、昨日気落ちしていたとは思えんほど強気だな。だが、貴様らがいかなる強敵であろうと、オレ達が勝利を手にする!」
「恐れ知らずか。いいね、最高の音楽を奏でようじゃないか。クロウくんはコンディションバッチリかい?」
「ああ、今ならテメェら全員ぶっ飛ばせそうだぜ!」
「そんなあんたらに、ここで衝撃の真実をお届けだ。ピットのモニターに画像を送ったから見てみな」
「……なんだ?」
テイルの言葉に従い、六人がモニターへと視線を向ける。
そこに映っていたのは、夜の室内でマグカップを片手に並ぶ男女。片方はテイル。そしてもう片方は、遊星達にとって見間違えようのない女性だった。
「マーサ!?」
「な、なんでマーサとテメェが一緒にいやがる!」
「貴様のような奴をマーサが家に招くはずがない! 偽物ではないのか!」
「画像の真偽は、ここでは判断できない」
遊星はモニターから目を離さずに答えた。
「だが、本物なら説明してもらう必要がある。テイル、マーサに何をした?」
「おいおい。何かしたって、まるで犯罪者扱いじゃねえか」
「少なくとも、おまえ達が俺達を挑発するためにこの写真を見せたのは確かだ。警戒する理由としては十分だろう」
「ははっ、そりゃごもっとも」
テイルは愉快そうに笑った。
「けどな、『年齢を重ねたマダムからしか得られない栄養がある』。自己紹介の時に言ったよな? あの人はドストライクだったんだよ。だからちょいと会いに行った。それだけさ」
「それだけでマーサが貴様を家に入れるものか!」
「もちろん、最初から歓迎されたわけじゃねえよ。子供達への土産を持って訪ねたが、警戒はされた。中身を確かめられたし、さっさと帰るつもりだったさ」
「……つもり?」
「その時、懐からこいつが落ちちまってな」
テイルが取り出したのは、一枚の古びた写真だった。
幼いテイルと、彼によく似た若草色の髪の女性。カードショップの前で、二人は笑っていた。
「ガキの頃、大会で優勝した時の写真だ。隣はおふくろ。病気で、この後すぐに亡くなっちまった。親父もいつの間にかいなくなってたな」
いつもの軽薄な口調のまま、テイルは写真の端を指でなぞった。
「それを拾ってくれたマーサさんに、つい昔を思い出した顔を見せちまったわけだ」
「……マーサなら、事情を聞くだろうな」
遊星が低く呟く。
「そういう人だろ? おれも話したよ。あの人におふくろの面影を重ねたことも、親のいない子供達を支援したいってことも。そしたら『仕方ないねえ』って、お茶を淹れてくれた」
「……それで、写真まで撮ったのか」
「ああ。頼んだら少し渋られたが、許してくれた。笑ってほしいってのは、おれからお願いしたけどな」
テイルは写真をしまい、口の端を吊り上げた。
「いい人だよなあ。だから好きになった。おれの事情を聞いてくれたことも、あの人の優しさも、全部本当だぜ」
「だったら、なぜその写真を今ここで見せる?」
遊星の問いに、テイルは笑みを深くした。
「そりゃあ、好きな人の写真だからこそ、使い道があるってもんだろ?」
「……テメェ!」
「勘違いすんなよ、クロウ。マーサさんを騙して何かさせたわけじゃねえ。おれが今ここで、あんたらを嫌な気分にさせてるだけだ」
開き直ったように肩をすくめる。
「ま、それが一番腹立つってのは分かってるけどな!」
薄笑いを浮かべて楽しそうに語るテイル。同じく、薄笑いを浮かべる綴とアリア。
6人は、特にマーサの元で育った遊星、ジャック、クロウはまだ納得がいっていないようだった。
「この写真の出処についてはわかった。その後交流はあったのか?」
「直接の交流はこれとあんたらが顔を出した日の夜の2回。子供達への支援は郵送で続けてるけど、後は文通してるだけだな。今のところは」
「文通だあ?それに今のところは、ってのはどういう意味だよ?」
「『素敵なあなたへ』って毎回文頭につけて、近況を1週間に1回報告してる。マーサさんは、無難に『支援には感謝するよ。けど、あんたを大事にしてくれるいい相手を見つけな』って律儀に返信してくれてる」
「脈無しではないか!それに、この大会での貴様らの蛮行を、マーサも知っているはずだ!正体を知って尚、文通を続けるはずがない!」
「と、思うだろ?ところがどっこい。「最後の手紙には、こう書いたんだ。『おれ達があんたらに勝ったら、またお茶でもしませんか?』ってな」
「それで、マーサは何て答えたんだよ?」
クロウが食い気味に尋ねる。
「『あの子達があんた達なんかに負けるわけがあるかい。期待には沿えないよ』だとさ。いやあ、信頼されてるねえ、あんたら!」
「マーサ……」
遊星は小さく呟いた。
「当然だ! 貴様のような不埒者に、マーサが靡くものか!」
「そうそう。マーサさんはあんたらを信じてる。おれもそこは疑ってねえよ」
テイルは頷く。
「ただし、ひとつ問題がある」
「……なんだよ」
「その返事、あんたらが負ける可能性を考えてないんだよなあ」
クロウの眉がぴくりと動いた。
「だからさ。万が一おれ達が勝ったら、どうなると思う?」
「負けたからといって、マーサがおまえの誘いを受ける義務はない」
遊星が即座に答えた。
「その通り!断られるかもしれない。けど、もう一度誘う理由くらいにはなるだろ? そんでお茶を飲んで、話が弾んで、気が合っちまうかもしれない。子供達とも仲良くなって、いつの間にかおれがあんたらのお兄ちゃんみたいな立場になってたりしてな!」
「そんなことになるかよ!」
「未来の可能性は誰にも否定できないわよねえ?」
綴が、待ってましたとばかりに口を挟んだ。
「それに僕もいるわ。昨日、遊星と約束したもの。僕達が勝ったら、デートしてくれるって!」
「……約束したのは、デートに付き合うことだけだ」
遊星が釘を刺す。
「ええ、覚えているわ。嫌がることを無理やりさせない、でしょ?」
綴はあっさりと認めた。
「だからこそ楽しみなのよ。今度はあなたが自分の意思で僕と出掛けてくれる。そんな初体験、僕だってしたことがないんだから!」
「……綴」
「もちろん、その先で何が起きるかは分からないわ。仲良くなって、僕があなた達のお兄ちゃんみたいな存在になるかもしれない。ねえ、ジャック、クロウ。そうなったら僕のこと、なんて呼んでくれる?」
「誰が呼ぶか!!」
「残念。『綴お兄ちゃん』って呼んでくれたら可愛がってあげるのに」
「私はその二人の友人だから、当然、君達にとっても身近なお姉さんということになるね」
今度はアリアが口を開いた。
「龍亞くん、龍可くん。私が君達のお姉さんになったら、どうだい? 毎日が退屈しなくなると思うよ」
「絶対いやだ!!」
「……近づかないで」
「おや、つれないねえ。私はこんなにも君達に興味があるというのに」
アリアは心底残念そうに首を傾げた。
「とまあ、こういう未来もあり得るわけだ」
テイルが両手を広げる。
「マーサさんとお茶を飲むおれ。遊星とデートする綴。子供達を可愛がるアリア。おれ達三人が、あんたらの身内みたいな顔をしてポッポタイムに遊びに来る……」
「想像させんでいい!!」
「はははっ! 嫌だろう? だったら勝つしかねえな!」
綴とアリアも、実に楽しそうに笑っていた。
彼らの語る未来は、何ひとつ確定していない。
だが、確定していないからこそ厄介だった。彼らなら、本当にそんな未来を実現させようとしかねないのだから。
しかし、そんな中でも遊星は冷静だった。
「……おまえ達の言っていることは、すべて都合よく進んだ場合の話だ」
遊星は三人を見据えた。
「そんな仮定の話まで持ち出して、俺達を挑発する理由はなんだ?」
「決まっているじゃない。あなた達に、全力を出してほしいからよ」
綴が答える。
「僕、嫌なのよ。プレイングミスとか、慢心とか、そんなつまらない理由であなた達が負けるのは」
「前哨戦の時、私達に勝てなければ未来が破滅すると話しただろう?」
アリアが続けた。
「しかし、根拠を示せない話では実感が湧かないだろう。ならば、もっと身近なものを賭けていると思ってもらった方がいい」
「マーサさんとか、デートとか、あんたらが大事にしてるものだな。ついでに、おれ達の欲望も満たせる。いいことずくめじゃねえか」
「……待て」
ジャックが眉をひそめた。
「貴様らは、オレ達に勝ってほしいのか?」
「散々挑発しといて、負けてほしくないってのかよ?」
クロウも不審げに尋ねる。
「勘違いしないで」
綴の笑みが深くなった。
「僕は勝ちたいわ。あなた達を全力で叩き潰したい。それは本心よ」
「私も同じだ。手加減された相手を倒したところで、面白くもなんともないからね」
「おれだって勝つ気満々だぜ。マーサさんとのお茶の約束もかかってるしな!」
テイルが軽く笑った。
「けどよ、もしおれ達が負けるんなら、あんたらには全部出し切って勝ってもらわねえと困るんだ」
「……困る?」
遊星がその一語を拾った。
「どういう意味だ?」
「言葉の綾だよ。せっかくここまで来たんだ。後から『あの時こうしていれば』なんて悔やむのは、お互い御免だろ?」
「それだけか?」
「それだけで十分じゃねえか。おれ達はデュエリストなんだからな」
テイルは笑みを崩さなかった。
しかし、その答えを聞いた遊星の疑念は消えなかった。
「……未来が破滅するという話も、本当なのか?」
「あら、そこをまだ疑っていたの?」
「根拠を示されていない以上、確かめる必要がある」
「いい姿勢ね。だからこそ、僕はあなたが好きなのよ」
綴は嬉しそうに目を細めた。
「本当よ。けれど、これ以上のことを知りたければ、僕達に勝つことね」
「勝てば教える、ということか?」
「勝った後で、話せることならね」
綴はそう言って、テイルに視線を送った。
「さあ、そろそろ準備しないと。出番よ、テイル!」
「ほいほいっと。んじゃ、ひとつよろしく頼むぜ」
「おう!その減らず口、デュエルが終わっても叩けると思うなよ!」
「怖いねえ。けど、そんくらいの方が楽しめそうだ」
テイルは鳥型のDホイールへと歩き出す。
綴とアリアも自軍のピットへ向かう。
残された遊星は、去っていく三人の背中を見つめていた。
彼らは勝利を望んでいる。それは疑いようがない。
だが同時に、自分達が敗北した場合のことまで考えている。
しかも、ただの負け惜しみや意地とは違う、何か別の理由があるように思えた。
「遊星?」
ブルーノに呼ばれ、遊星は振り返った。
「……ああ。今はデュエルに集中しよう。俺達は、俺達の力で勝つんだ」
「オレがいくぜ!そこのナンパ野郎をぶっ潰してやる!」
クロウもまた、愛機であるブラック・バードに搭乗。スタート地点に鳥使いが並んだ。
「クロウの右肩、まだ完全に治ったわけじゃないよね……」
「デュエルに響かないといいけれど……」
「安心しろ、あいつはそんなやわな奴ではない!あの不埒者を成敗するはずだ!」
「クロウを信じるんだ」
「この日のために特訓してきたんだ。必ず勝ってくれるよ!」
仲間達の声援を受け、サムズアップで返すクロウ。
「いい絆だな!けどな、希望が大きければ大きい程、絶望への落差はひどいもんだ」
「へっ!テメェの思い通りにいくかよ!」
このデュエルを譲るわけにはいかない。マーサのためにも、自分達の夢を叶えるためにも。観戦に来ている牛尾も、チーム5D’sの勝利を願っていた。
「頼むぜ……未来はお前達の手にかかっているんだ……」
『両チーム共に準備が完了した!それではフィールド魔法、《スピード・ワールド2》!セェェット、オンッ!!』
MCの声がスタジアムに響き渡る。その声にあわせてD・ホイールのAIがフィールド魔法を発動させた。
『DUEL MODE ON』
世界の色が変わる。
スピードの中で進化したデュエル。それ特有の空気が、闘気が、会場を支配する。
両者の目の前でカウントが始まった。誰もがこれから行われるだろう激戦に期待を膨らませる中、スタジアムにMCの言葉が木霊する。
『決勝進出はどちらのチームか!!WRGP、予選最終戦――――』
その一言一句に観客達の期待と、D・ホイールのエンジン音が徐々に高鳴っていく。
既に指し示す針の目は臨界点。
必要なのは軛を解き放つ言葉のみだ。瞬間が永遠に変わる。
そして、
『ライディングデュエル・アクセラレーション!!!!!』
今ここに戦いの火蓋が斬って落とされたのだった
黒き鳥と翡翠の鳥、それを模した2機はタイヤ痕だけをその場に残し、決戦の舞台へと躍り出る。
第一コーナーまで5秒弱。唸りを上げるエンジンがさらなる咆哮を上げ、ブラック・バードはテイルのDホイールを置き去りにしようとしていく。だが、コーナーを目前にしたその時。
「ぐ!」
「おっとラッキー」
肩の痛みがクロウを襲い、ブラック・バードは減速。その隙を突き、思い切りテイルのアクセルが絞られ、インサイドを抑え、そのままコーナーへ。
第一コーナーを抜けきったとき、テイルはクロウと二馬身程の差をつけていた。
「ちきしょう……!」
「コーナーを制したから先攻いただき!おれのターン、ドロー!」
テイルSPC0→1
クロウSPC0→1
まず先手をとったのはテイル。素早いドローに、素早いカード選択。
「んじゃ、モンスターをセット、カードを2枚伏せて、ターンエンド!さ、どっからでもかかってきな!」
6枚もの選択肢があるというのに、テイルには迷いがなかった。それは熟練の証か。
「オレのターン、ドロー!」
テイルSPC1→2
クロウSPC1→2
他方、クロウは落ち着いて状況を細かく分析する。
(あいつの使っていたカードで、セットされるモンスターは《魔装機関車 デコイチ》や《ライトロード・ハンター・ライコウ》のようなリバース効果を持ったカード。あるいは《カードガンナー》のように墓地に行くことで効果を発揮するカード……そいつらのステータスは低い。オレのモンスターなら簡単に倒せる。だが、あの2枚のリバースカードは間違いなく罠だ。なら、オレが採る選択は……)
クロウに油断はない。己のペースを掴むべく、布石を打った。
「《BF-蒼炎のシュラ》を召喚!」
《BF-蒼炎のシュラ》ATK1800
現れたのは藍色の羽毛を持つ鳥人。無数の羽を周囲に散らし、スピードの世界がにわかに活気づく。
「バトルだ!《シュラ》でセットモンスターを攻撃!」
大地を蹴り、《シュラ》が宙を舞う。追い風を纏い、敵目掛けて弾丸のように突撃する。しかし、その突貫は受け止められ、岩石のような逞しい腕に、右腕と左足を掴まれてしまった。立派な髭を蓄えた、筋骨隆々の老人に。
「一体何が起きやがった……!?こいつは今までに見せたことのないモンスター……!」
「こいつは《伝説の柔術家》!守備力はあんたの《シュラ》と同じ。だから戦闘で破壊できてない。手札から攻撃力を上昇させる《カルート》の効果を使えば話は別だけどな!……で、ダメージステップに入るけどなんかある?」
「……なにもしねえよ」
「そんじゃあ、《柔術家》の効果適用!守備表示のこいつと戦闘を行ったモンスターはダメ―ジステップ終了時にデッキトップへ戻る!」
「んなっ!そんな効果が!」
驚いている間に《柔術家》が《シュラ》を巴投げ。デッキの一番上へと飛ばされた。
「『様子見で一発殴ってみるか……リバースカードで《シュラ》が除去されてもなんとかなる。セットモンスターを戦闘破壊できれば御の字』、だとか考えていたんだろうが、甘ちゃんだな!」
「うるせえ!テメェに甘ちゃんと呼ばれる筋合いはねえ!カードを3枚伏せ、ターンエン―――」
迎撃の構えを取ろうとするも、逆風は吹き続ける。
「手札を1枚捨て、俺から見て一番右のカードを対象に、《鳳翼の爆風》を発動!対象カードをデッキトップに戻す!」
「クソッ、またオレのカードを!」
炎を伴った強烈な風が吹けば、布陣の一角が崩れた。
「ここはスピードの世界。風に乗れなきゃ置いて行かれるだけだぜ?」
「まだデュエルは始まったばかりだ!すぐに追いついてやるよ!ターンエンドだ!」
吼えるクロウ。嗤うテイル。
「追いつく、なあ……出来ると思ってるのか?おれのターン、ドロー!」
テイルSPC2→3
クロウSPC2→3
軽く挑発しながらも、テイルは状況を俯瞰した。
テイル
LP:4000
SPC:3
Hand:3
Monster:《伝説の柔術家》
FieldMagic:《スピード・ワールド2》
Magic&Trap:Set1
クロウ
LP:4000
SPC:3
Hand:2
Monster:
FieldMagic:《スピード・ワールド2》
Magic&Trap:Set2
(セットカード2枚がちょいと気になるが、【BF】は場にモンスターがいる時に発動できる強力なカードが多い。裏を返せば、モンスターがいなければそこまで脅威となるカードはないってことだ。じゃ、ちょいと小技を見せようか。それで終わるんなら、希望なんてなかったってこった)
テイルは無駄に長引かせる気はなかった。彼は、適度に緩み、そして、いつの間にか決着をつける。そういうスタイルの男だった。
「おれは《伝説の柔術家》をリリース!」
熟練の老人がスピードの世界に溶けていく。スタジアムの風が一層強くなり、テイルの後方から翡翠の鎧を纏った王がコースを恐るべき速さで駆け、そして翠のマントをはためかせながら跳躍した。
「《風帝ライザー》をアドバンス召喚!!」
《風帝ライザー》ATK2400
宣言と同時、コースを砕かんばかりの衝撃を伴って帝王はテイルの前方に降り立った。風がさらに荒れ狂い、クロウのDホイールを揺らす。
「《風帝ライザー》の効果発動!アドバンス召喚に成功した時、フィールドのカード1枚をデッキトップに戻す!対象はあんたが伏せた真ん中のカード!」
風帝は対象へ掌を翳し、握りしめると同時を風を凝縮。竜巻が発生し、華麗に指を鳴らせば、あっという間にセットカードはクロウのデッキの一番上へと吹き飛んだ。
『おぉっと!これでクロウのデッキの一番上に3枚のカードが戻った!つまり、3ターンの間、ドローするカードは確定していることになる!』
「くそっ……」
「あんたの場にはセットカードが1枚だけ。そいつで《ライザー》の攻撃を凌げたとしても、次のドローも、その次のドローも魔法か罠で確定。モンスターで捲り返すことは出来ない。逆転の芽はないってことだ」
運命は定められたと宣告される。クロウは沈黙した。
「……」
「だんまりか。ま、しょうがないわな。じゃあ、一発喰らっとけ!バトルだ!《ライザー》でダイレクトアタック!!」
轟、と空気を切って風帝が肉薄する。閃く手刀。それがクロウの首を捕える直前、5枚のカードで構成された壁が発生した。クロウがほくそ笑む。
「んあ?」
「ダメージを受ける直前、オレは《パワー・ウォール》を発動したぜ!このカードは受ける戦闘ダメージ500につき、“デッキの一番上から”カードを墓地に送ることでそのダメージを無効にする!受けるはずだったダメージは2400。よって墓地に送るカードは5枚!これでテメェが固定した3枚のカードは逆風から解放されたぜ!」
墓地に空気を送り込むことで、固定されていた風向きを変えた。
「うまい!」
「流石だクロウ。このピンチを切り抜けた!」
ブルーノと遊星がピットで感嘆する。残る3人も、続くように安堵の息を吐いた。
「やるなあ。やっぱ小手先の技じゃあんたらは倒せねえか」
「へっ!そう簡単にこのクロウ様がやられるかよ!」
「困ったな。残りの手札2枚もすぐに使えない。仕方ねえからこのままターンエンド!」
「ここからが本番だぜ!オレのターン、ドロー!」
テイルSPC3→4
クロウSPC3→4
ドロー後、クロウは再び考え込む。テイルは弛緩しているというのに、全く隙がみえないからだ。
(あいつの場には《ライザー》1体とリバースカードが1枚のみ。だが、あのリバースカードが《マジカルシルクハット》だったら攻撃力3000の《古代の機械巨竜》を2体も展開されちまう……)
チームユニコーン戦で見せたように1枚でひっくり返してくる可能性がよぎる。絶妙な攻め辛さ。
「迷っちまうか。そうだよな。だが、今回はギャラリーが大勢いるから早く決断してもらわねえと。だからおれは情報を与える。セットカードは《マジカルシルクハット》じゃあない。今回は別のギミックを搭載したから、あのコンボを投入できるほどデッキに空きがなかったんだ」
「そんな言葉をオレが信じるとでも思ってんのか!」
「おれは嘘はつかない。情報開示まで行ったんだぜ?これ以上の正々堂々がどこにあるってんだ?臆病風に吹かれて負けていいのか?おれがあんたのお兄ちゃんになっちまうぞ?」
挑発される。いやな未来を想像させられる。ならば、何を躊躇う必要がある?
「いいぜ、その挑発に乗ってやる!墓地の《BF-大旆のヴァーユ》の効果を発動!こいつと「BF」モンスターを除外することで、そのレベルの合計と同じレベルを持つ「BF」シンクロモンスターを効果を無効にして特殊召喚する!レベル1の《ヴァーユ》とレベル7の《BF-激震のアブロオロス》を除外する!」
地面に開いた穴から飛び立つ一つの影。銀と黒が混じった翼に、金色のアクセントが入った黒い夜叉。中空でそれは姿を転じ、黒い羽根が舞う中降り立った。
「出ろ!《BF-孤高のシルバー・ウィンド》!!」
《BF-孤高のシルバー・ウィンド》ATK2800
「《パワー・ウォール》で墓地に送られた5枚のうちの2枚が《ヴァーユ》と《アブロオロス》だったか。運がいいじゃねえか」
「風は今オレに吹いている!びびるわけにはいかねえ!バトルだ!《シルバー・ウィンド》で《ライザー》を攻撃!」
夜叉が帝王に迫り、手にした細剣で鎧の隙間を的確に貫いた。風と共に消える《ライザー》。
テイル:LP4000→3600
「お勤めご苦労さん、《ライザー》。さてクロウ。おれは嘘をついてないが、攻撃しない方がいいとは言ってない」
「なんだと……!」
「あんたが《パワー・ウォール》で風向きを変えたなら、こっちも「ウォール」で風向きを変える。《ライザー》が破壊されたことで《レベル・レジストウォール》発動!合計レベルが破壊された《ライザー》のレベルである6になるように、デッキからモンスターを効果を無効にして守備表示で特殊召喚する!レベル1、チューナーモンスター《アンノウン・シンクロン》!レベル1、《ダークシー・レスキュー》!レベル1、《サイバー・ヴァリー》!レベル3、《カードガンナー》!」
単眼の丸い正体不明の機械、ゴムボートに乗った二人組の覆面男、機械を被った龍の死骸、おもちゃのような機械戦車。合計4体の肉壁が登場する。
「こいつは、アンドレが使っていた……!」
「便利だろ?絶賛人気の罠だ。こんだけモンスターがいれば、いろいろなことが出来る。さあ、どうする?」
「ちっ、オレはカードを1枚伏せ、ターンエンドだ!」
悔し気にターンを譲渡する。テイルは仕掛けていた罠の発動成功に薄く笑みをうかべていた。
「そんだけか?じゃあおれのターン、ドロー!」
テイルSPC4→5
クロウSPC4→5
テイル
LP:3600
SPC:5
Hand:3
Monster:《アンノウン・シンクロン》《ダークシー・レスキュー》《サイバー・ヴァリー》《カードガンナー》
FieldMagic:《スピード・ワールド2》
Magic&Trap:
クロウ
LP:4000
SPC:5
Hand:2
Monster: 《BF-孤高のシルバー・ウィンド》
FieldMagic:《スピード・ワールド2》
Magic&Trap:Set1
テイルはここが好機とばかりに、行動を開始した。
「まずはデッキからカードを3枚墓地に送ることで、《カードガンナー》の効果発動!攻撃力を墓地に送った枚数1枚につき500ポイントアップさせるが、《レジストウォール》の制約によって無効化される」
「墓地を肥やすのには問題ねえじゃねえか!」
「まあまあ、何が落ちるかわからねえんだし、そこは許容範囲内ってことだ!といっても結局落ちはよかったんだけどな!今墓地に送られた《ヴォルカニック・バレット》の効果をライフを500払うことで発動!デッキから同名カード1枚を手札に加える」
テイル:LP3600→3100
炎の弾丸が補充される。だが、彼の物資補給はこれだけにとどまらない。
「次だ!SPCを4つ取り除き、《Sp-エンジェル・バトン》を発動!カードを2枚ドローし、1枚捨てる」
テイルSPC5→1
「捨てたカードは当然……」
「もちろん2枚目の《ヴォルカニック・バレット》だ!ライフを500支払い、こいつの効果を発動!3枚目の《ヴォルカニック・バレット》を手札に加える」
テイル:LP3100→2600
「弾丸補充完了。続いては展開だ!レベル1の《ダークシー・レスキュー》にレベル1の《アンノウン・シンクロン》をチューニング!」
二人組のレスキューの身体が崩れ、1つの星となると、正体不明の機械もまた、1つの星へと変わる。それを束ねるはテイルの祝詞。
「これぞ新たなる可能性の扉。資格持つ者を遥かなる地平へと誘え!—――シンクロ召喚!シンクロチューナー、《フォーミュラ・シンクロン》!!」
途端、光が溢れ返り、レーシングカーを胴体に装着した人型ロボットが登場した。
加速する世界に在るものだと主張するように、車体の前輪が駆動する。
「おい、なんでそれをテメェが持っていやがる!シンクロチューナーの「シンクロン」……遊星のカードだろうが!」
「こいつ自体は世界に1枚しかない特別なカードってわけじゃあない。いずれシンクロチューナーも珍しくなくなるみたいだしな。文句がこれ以上なければ、シンクロ召喚成功時に効果発動!カードを1枚ドローする。んでもって、シンクロ素材となった《ダークシー・レスキュー》の効果でもう1枚ドロー」
シンクロ召喚を行いながらの手札補充。これでテイルの手札は7枚となった。
「さらに、《サイバー・ヴァリー》を手札に戻して墓地の《BF-精鋭のゼピュロス》の効果発動。こいつを特殊召喚する!400ポイントのダメージは受けちまうがな!」
蒼い体毛に黒き翼の鳥人が飛翔。クロウが用いる「BF」カテゴリの1体。
テイル:LP2600→2200
「オレのBFまで……!!」
「怒らない怒らない。すぐにラクにしてやるからよ!おれはレベル3の《カードガンナー》とレベル4の《ゼピュロス》にレベル2の《フォーミュラ・シンクロン》をチューニング!」
テイルは9つの星々を束ねる祝詞を紡ぐ。
「魔を滅ぼす聖なる槍、氷結を纏いて世界の全てを蒼へと閉ざす!―――シンクロ召喚!!来い、おれの秘密兵器!《氷結界の龍 トリシューラ》!!」
光の道が弾け、そこから三つの頭部を持つ蒼き氷雪の龍が周囲に吹雪を撒き、雪光を煌かせながらテイルの場へと舞い降りた。
「《トリシューラ》の効果発動!シンクロ召喚に成功した時、相手の手札・場・墓地のカードをそれぞれ1枚除外するぜ!」
「そんなインチキ効果を使わせるかよ!《トリシューラ》を対象に永続罠《デモンズ・チェーン》発動!対象となったモンスターは攻撃できず、効果を無効化される!」
脅威の氷結龍が、悪魔の鎖によって四肢を雁字搦めにされた。かろうじて飛行は出来ているものの、ぐったり、と三つの首が垂れ下がっている。
「あれ、それジャックのカードじゃねえの?なんであんたが使ってるんだ?」
「テメェらはオレ達のデッキを知ってやがる。だからこうして、使うカードを入れ替えることで不意を突かせてもらったぜ!」
「なるほどこりゃ想定外。そんじゃ《サイバー・ヴァリー》を通常召喚して、《ヴァリー》と《トリシューラ》を対象に効果発動。こいつらを除外してカードを2枚ドローする」
役割を終えた龍を活用し、新たな可能性を掴む。これでテイルの手札は8枚。
「《Sp-オーバーブースト》を発動!自分のSPCを6つ増やす!」
テイルSPC1→7
テイルがさらに加速。クロウとの距離を大きく引き離す。
「さあこっからだ!SPCを3つ取り除き、《Sp-オーバーロード・フュージョン》を発動!墓地のモンスターを融合素材として除外し、闇属性・機械族モンスターを融合召喚する!除外するのは墓地の《サイバー・ドラゴン》……ってありゃ、《サイバー・ドラゴン》がいねえ!!」
禁断の技術も元となる素材がいなければ不発に終わる。ぷすん、と間抜けな音がした。テイルが初めて動揺する。
テイルSPC7→4
「へへっ!ご自慢の化け物を作るための核はぶっこ抜いたぜ!手札から《D.D クロウ》を捨てることで、墓地から《サイバー・ドラゴン》を除外したのさ!」
「うえ、悉くおれの行動が封じられちまってるよ。メタメタにしてやるって病院で言ってたって聞いたが、メタ張ってるぜってことだったワケか」
「ダジャレのつもりで言ったんじゃねえよ!とにかく、通常召喚をしたテメェがこのターンできることは……」
「あるんだなそれが!SPCを2つ取り除き、墓地の《アンノウン・シンクロン》、《ダークシー・レスキュー》、《フォーミュラ・シンクロン》、《ヴォルカニック・バレット》2体の計5体を対象に《Sp-貪欲な壺》を発動!こいつらをデッキに戻してカードを2枚ドロー!」
テイルSPC4→2
貪るようなドローカードの連発。それこそ、欲望の表れか。
「おれは墓地の闇属性モンスター《BF-精鋭のゼピュロス》と風属性モンスター《風帝ライザー》を除外して手札の《ダーク・シムルグ》の効果発動。このカードを特殊召喚する!来い!地に伏すことを許さぬ天空の覇者!」
視界を覆うほどの黒い竜巻が噴き出す。その中で既に、何かが存在感を放っている。竜巻が消えれば。そこに在るのは数ある鳥の中でも上位に位置する黒き巨大な鳥獣。頭の王冠はその象徴。闇に染まりし鳥の王が大きく翼を広げて、クロウを威嚇した。
《ダーク・シムルグ》ATK2700
「そいつは、チームナレシー戦で使っていたやつか!だが、攻撃力は《シルバー・ウィンド》に及ばねえ!」
「そうなんだよなあ、残念なことに。ただ、効果は知っているよな?こいつがいる限りあんたはカードをセットできない。だから実質罠は使えないも同然。だがおれは使える。そんなワケでカードを2枚伏せ、エンドフェイズに《オーバーブースト》の効果でSPCは1になる。これでターンエンド!」
テイルSPC2→1
何かを仕掛けた、という趣旨の発言。クロウが警戒を強める。
「オレのターン、ドロー!」
テイルSPC1→2
クロウSPC5→6
テイル
LP:2200
SPC:2
Hand:4(1枚は《ヴォルカニック・バレット》)
Monster:《ダーク・シムルグ》
FieldMagic:《スピード・ワールド2》
Magic&Trap:Set2
クロウ
LP:4000
SPC:6
Hand:2
Monster: 《BF-孤高のシルバー・ウィンド》
FieldMagic:《スピード・ワールド2》
Magic&Trap:《デモンズ・チェーン》
あからさまに罠を張られている状態。クロウは、最低限のアタッカーで勝負を挑んだ。
「バトルだ!《シルバー・ウィンド》で《ダーク・シムルグ》を攻撃!」
「そんな警戒しなくても大丈夫だぜ?《ダーク・シムルグ》を対象に永続罠《安全地帯》発動!《安全地帯》に避難している限り、破壊されることはなく、対象を取ることもできない!直接攻撃が出来なくなるデメリットはあるけどな!」
「破壊されなくても、ダメージは受けてもらうぜ!」
テイル:LP2200→2100
「こんなもんかすり傷にすら入らねえよ。で、他になんかすることあるか?」
(《ダーク・シムルグ》が意外と面倒だな……あいつがいる限り罠は伏せれないうえ、モンスターを召喚する時は必ず攻撃表示でなくちゃいけねえ。下手に出しても的にされるだけだ)
「……ターンエンドだ!」
クロウのライフは未だ削られてはいない。だが、出来る選択肢が限られている状況。焦りを抱いたままターンの終了を宣言する。
「なあんも出来ねえの?それじゃあ会場が冷めちまう。だったらおれが盛り上げねえとな!おれのターン、ドロー!」
刃物を繰り出すが如き鋭利なドロー。本領発揮と言わんばかりに。
テイルSPC2→3
クロウSPC6→7
「ライフを半分払い、リバース・カード・オープン!《異次元からの帰還》!ゲームから除外されているおれのモンスターを可能な限り特殊召喚する!来い!《サイバー・ドラゴン》、《風帝ライザー》、《氷結界の龍 トリシューラ》、《サイバー・ヴァリー》!」
テイル:LP2100→1050
テイルの場にモンスターが勢揃いする。その光景は圧巻であった。機光竜が、風の帝王が、氷結の竜の頂点が、機械纏いし骸が、スピードの世界に再び参上したのだ。
「こいつは、やばいか……!?攻撃力はどれも《シルバー・ウィンド》を下回ってるが……」
「これで終わるはずがねえよなあ?それではクロウくんのみならず、会場の皆様にもサプライズを与えましょう」
時は満ちた。テイル・バウンサーがエンターテイナーとして、デュエリストとして、正体を顕わしていく。
「さあ、おれの“空”を贈ろうか。《サイバー・ドラゴン》、《ライザー》、《トリシューラ》の3体を“生贄”に捧げる!!」
3つの魂が天へと昇り、夜空が赤くなった。青空の青でもなく、夜空の黒でもなく、人の血よりも赤かった。空は何も変わっていない。空は依然としてそこにある。変わったのは人の心。スタジアムにいる全員の視線が大いなる力によって導かれ、1つの強烈な赤に囚われる。雲が道を譲り、夜の生気が蘇り、空の密度が数十倍にも膨れ上がる。
「無限の空より顕現せよ!おれの神、《オシリスの天空竜》!!」
降臨するは天そのもの。深紅の神龍が空のみならず、スピードの世界も、スタジアムをも支配した。
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《異次元からの帰還》はアニメ放送当時は制限カードでした。