紅の神龍が、蒼き豪腕が、金色の太陽が、夜のスタジアムの景色を完全に塗り替えていた。会場はその神威に呑まれている。誰もがその姿に畏敬の念を抱く。君臨するは伝説。そう、伝説の三幻神!
アリアは歓声と悲鳴を少しの間愉しんでいた。そして、余韻には浸らず後方を走る敵を見据えた。ジャック・アトラス。伝説を前にしても揺らがぬ不屈のデュエリスト。それに並び立つは魂たる《レッド・デーモンズ・ドラゴン》。放たれるは極上の闘気。
「いい表情だ。そうだね、伝承に屈服するようでは闘い甲斐がない。ここから君がどう抗うか……見せてくれ!」
(来るか!)
ジャックが身構える。アリアは優雅に指を躍らせ、伏せていたカードを開いた。
「リバース・カード・オープン!SPCを2つ取り除き、《Sp-サイクロン》発動!破壊対象は当然、《スクリーン・オブ・レッド》だ!」
アリアSPC3→1
竜巻が透き通る緞帳を捲り上げて、空の彼方へと飛ばす。敷かれた境界線は消え、神は攻撃可能な状態となった。
「ああ!攻撃を防ぐことができなくなっちゃった!」
「強制的にライフコストを支払うことによる自滅はなくなったが、これは……」
ピットで龍亞と遊星が動いた盤面に懸念を示す。
「さて、幕が上がったところで《ラー》の特殊能力を説明しなければならないね。まず、《球体形》からバトルモードへ移行した場合、《ラー》の攻撃力は4000となる」
《ラーの翼神竜》ATK4000
「ふん、仮にも神なのだ。その程度の攻撃力は持っているだろう」
「……そうだね。そうあるべきだよ。では、さらなる特殊能力を発動!コストは私のライフ1000ポイント。フィールド上のモンスター1体を対象とし、破壊する。焼き尽くすのは勿論、君の《レッド・デーモンズ・ドラゴン》だ!」
アリア:LP4000→3000
遥かなる空を、金色の竜が舞い上がっていく。同胞により赤く染まった空を背に、両翼を広げ、紅蓮魔竜目掛けて一直線に急降下する。
「ぬるい!その程度の効果が通じると思うか!―――発動せよ!《バスター・モード》ッ!!」
魔竜の身体を包むように、紅蓮の炎が溢れ出る。炎の氾濫は勢いを増し、龍の身を呑み込んだ。周囲が灰になるのではないかと懸念する中、燃え続ける炎の中で光を放つものがあった。
輝きは勢いを増し、遂に炎の檻は膨れて弾けた。現れ出でるは紅蓮魔竜。だが、その身に異変が起きていた。血色の鎧を纏っているのだ。
《レッド・デーモンズ》の全身を用い、悪魔の顔を模すような造形。禍々しさと力強さを兼ね備えた、強化の象徴。
「自分フィールドのシンクロモンスターをリリースし、デッキよりそのバスター・モードを特殊召喚!!《レッド・デーモンズ・ドラゴン/バスター》ッ!!」
王者の声に応えた魔竜の咆哮が、三幻神の威光に及ぶほど、轟然とスタジアムを揺さぶった。纏う業炎で血色の鎧甲が妖しく輝き、その威容を引き立てている。その姿は、神の雷により力が削がれた半死半生のそれではない。以前の姿を明らかに凌駕した魔竜の姿が、そこにはあった。守りを固めるように腕を交差させながらも、伝説に対して挑むように眼光を光らせる。
《レッド・デーモンズ・ドラゴン/バスター》ATK3500/DEF2500(守備表示)
対象を失ったことで、ルールに従い再び上空に舞い戻る太陽の神。
「ふふっ」
アリアが嗤った。胸を掻きむしりたくなるかのような嗤い。
「躱されることなど、初めからわかっていたさ。だが、《ラー》の効果に回数制限はない!再び私のライフを糧に、焼き尽くせ!」
アリア:LP3000→2000
二度目の飛翔。空から再び黄金が突貫をかけようとする。
「無駄だ!《亜空間物質転送装置》発動!《レッド・デーモンズ・ドラゴン/バスター》をターン終了時まで除外する!」
強化された紅蓮魔竜が、突如出現した次元の穴へと退避。再び目標を見失い、上空で待機する《ラー》。
「ふむ。そこまでして《レッド・デーモンズ》を守りたいのか……だが、君の伏せカードはこれで2枚も消費された。そして君のフィールドにモンスターはいない。バトルだ!《ラーの翼神竜》のダイレクトアタック!『ゴッド・ブレイズ・キャノン』ッ!!」
太陽神の顎が開く。口内に充填されるは膨大なる金色のエネルギー。見続けていれば、目を眩ますほどの光。小型の太陽そのものへと形成されると、ジャック目掛けて発射される。
「「「「ジャック!!」」」」
見守る仲間が呼ぶ声が響いた。その刹那―――ジャックの瞳孔が大きく開いた。
激しく火花が飛び散る。振り子型の悪魔の放つ音波によって光は動きを止められ、相殺されたのだ。
「相手が直接攻撃を宣言した瞬間、手札より、《バトルフェーダー》の効果発動!このカードを特殊召喚し、バトルフェイズを終了させる!」
「……やはりね。このターンで君を倒せるとは思っていなかったよ。私はカードを1枚伏せ、ターンエンド」
「このエンドフェイズ、《/バスター》はフィールドに舞い戻る!」
瞬間、ジャックの背後の空間に亀裂が走り、鎧纏いし紅蓮魔竜が再び戦場に降り立つ。
「オレのターン、ドロー!」
アリアSPC1→2
ジャックSPC4→5
アリア
LP:2000
SPC:2
Hand:0
Monster:《オシリスの天空竜》《オベリスクの巨神兵》《ラーの翼神竜》
FieldMagic:《スピード・ワールド2》
Magic&Trap:Set2+《闇次元の開放》《ディメンション・ガーディアン》
ジャック
LP:1000
SPC:5
Hand:1
Monster:《レッド・デーモンズ・ドラゴン/バスター》《バトルフェーダー》
FieldMagic:《スピード・ワールド2》
Magic&Trap:Set1
立ち塞がり、聳え立ち、神威を放つ三幻神。だが、ジャックは果敢に勝負を挑んだ。
「《/バスター》を攻撃表示に変更し、バトル!《/バスター》で《オベリスクの巨神兵》を攻撃!」
『なんと!攻撃力の劣る《レッド・デーモンズ》で神に攻撃を仕掛けたッ!いったい何が狙いなのかッ!?』
「……《/バスター》には攻撃したダメージ計算後に自分以外のモンスターを全て破壊する能力があるね。守備力が1000しかない《オシリス》を狙っても効果を発動できるのに、わざわざ《オベリスク》を狙ったのは、効果を無効化されてもその伏せカードを使って戦闘で破壊できるようにするためかな?でも言ったはずだよ、神には触れることさえできないとね!リバース・カード・オープン!《/バスター》を狙え!《デモンズ・チェーン》!」
クロウも使った悪魔の鎖が、紅蓮魔竜の身体を縛り上げんとする。
「やらせるか!SPCを1つ取り除き、手札から《Sp-禁じられた聖槍》を発動!《/バスター》はターン終了時まで、攻撃力が800下がるが他の魔法・罠の効果を受けない!」
ジャックSPC5→4
「このターンでドローしたカードだね。私同様、引きの強いことだ。だが、それでも届きはしないさ!その発動にチェーンし、《強制脱出装置》をリバース!《/バスター》を手札に戻す!」
明暗を分ける一撃が発動される。
『アリア・ラスティ、二重の罠を仕掛けていたッ!これが通れば、ジャック・アトラスの逆転の芽は完全に摘まれることになるッ!』
「や、やべえ!」
ピットで闘いを見守っていたクロウが目を見開いた。
「ますいよ!《/バスター》がいなくなっちゃったら、ジャックはもう……」
「あの人は引きが強い。ジャックの反撃の対策も万全にそろえていたのか!」
「それに、今までのジャックの動きからして、残った伏せカード1枚は攻撃力を上げるためのカードでしょう?《バイス・バーサーカー》を用いた《レッド・デーモンズ・ドラゴン》のシンクロ召喚と攻撃、あれは、その伏せカードによる補助で神を正面から倒すためだよね?」
「……いや、ジャックはそれによりアリアというデュエリストを見切ったんだ。万全の布陣を敷くことは出来ても、さっき俺達が考察したように駆け引きを仕掛けることは出来ないのだと。おそらくジャックは、このターンで『神を攻略する』!」
「ええっ!?」
遊星の言葉に驚愕する4人。そして、ジャックは、伏せカードを開いた。運命の瞬間。
「ようやく貴様を捉えたぞ!《強制脱出装置》にさらなるチェーンを行う!リバース・カード・オープン!《トラップ・スタン》!このターン、このカード以外の罠は無効化される!」
「なっ!なぜそのカードが……?攻撃力上昇のカードでなければ、先のターンも、このターンも、《オベリスク》に攻撃する理由がない!」
アリアは初めて混乱した。顔が青ざめる。
「最初は貴様を試した。神を操る以上、それを突破する手段を止めるカードがあるに違いない。ライフを大幅に失ってまで攻撃を仕掛ければ、何かある、と判断しカードを使うだろう。今までのデュエルでも素直な闘いしか出来なかった貴様ならば、猶更そうすると思ったぞ。そして、見事にこの伏せカードを攻撃力上昇のカードと誤認した」
「私の経験の浅さを利用するとはね……しかし、今のターンの動きはなにかな?《禁じられた聖槍》を引けていなかったら、どうするつもりだったんだい?」
「ふん、《デモンズ・チェーン》に関していうならば、オレのデッキには魔法・罠1枚に対処する手段はいくらでもあるからな、セットカードの1枚については問題視していなかった。だが、引きのいい貴様のことだ、本命は別にあるに違いない。そこにこの《トラップ・スタン》を合わせることは、最初から決めていた。チェーンの処理に入るぞ!」
Chain4:《トラップ・スタン》
Chain3:《強制脱出装置》(《トラップ・スタン》により無効化)
Chain2:《Sp-禁じられた聖槍》
Chain1:《デモンズ・チェーン》(《トラップ・スタン》により無効化)
《レッド・デーモンズ・ドラゴン/バスター》ATK3500→2700(《Sp-禁じられた聖槍》の効果)
《ディメンション・ガーディアン》(《トラップ・スタン》により無効化)
弱体化した紅蓮魔竜。だが、攻撃の体制は充分とばかりに拳に炎を宿しはじめる。
「だが、君は既に《オベリスク》へと攻撃命令を下した。攻撃力の差は1300。君のライフは1000。自滅することになるよ?」
「構わん!オレは……チームでの勝利を目指す!目の前に立ちはだかる伝説を超えてな!バトル続行だ!『エクストリーム・クリムゾン・フォース』ッ!!」
「迎え撃て!《オベリスク》!『ゴッド・ハンド・クラッシャー』ッ!!」
業火を纏う紅蓮の魔龍は爆進する。空気が熱量で歪み、スタジアムは蜃気楼のように歪んでいた。紅の鎧が雄叫びの如く軋みを上げ、赤熱する。放出される熱量が収束される先は、《/バスター》の拳。極限まで破壊を突き詰めた真紅の一撃と、《オベリスク》の光輝く右拳が、衝突する!
「ぬううぅぅううッ!!」
ジャック:LP1000→0
ホイール・オブ・フォーチュンが白い煙を上げて減速。だが、それと同時、紅蓮魔竜が繰り出した拳より発せられた炎が、大きな爆発をしてフィールドにぶち撒けられた。
《オベリスク》だけでなく《オシリス》も、《ラー》さえも呑み込んで焼きつくしている。拳に着弾した瞬間、業火は氾濫し、難攻不落と思われた布陣を内側から殲滅し始めた。―――囂々と解き放たれた熱量が、伝説を塗り替えていく。
WRGPのルールでは、プレイヤーが敗北した場合、そのターンのエンドフェイズまでは処理が続行されるのだ。
「なっ……こんな、ことが……」
「先程貴様が説明した通りだ!《/バスター》が攻撃を行ったダメージ計算終了時、このカードを除くすべてのモンスターを破壊する!!」
燃える。燃えてゆく。伝説が、神威が―――最上級の強者が、崩れてゆく。
天を染めていた赤も、大地に在った青も、全てを照らす金も、何もかもが消滅した。
『わ、我々は今、伝説が超えられた歴史的瞬間を目撃しているッ!!ジャック・アトラスが、己の身を削りながらも、三幻神全てを破壊したッ!!』
会場が大きく沸いた―――見事な、見事すぎる伝説への勝利に。歓声が轟き、ジャックの名を呼ぶ。声を張り上げ、彼を賞賛している。
「喜ぶのはまだ早いぞ!《/バスター》が破壊された時、墓地の《レッド・デーモンズ・ドラゴン》を、フィールドに特殊召喚する!!」
燃え盛るフィールドから、その声に応えて灼熱の龍が躍り出る。全身を覆っていた鎧は神の拳によって砕かれ、散っていた。再び戦場に舞い戻った魔竜は、ひとたび大きく翼を薙いで、炎の残滓を吹き飛ばす。
処理を終えたジャックはピットへと戻り、遊星にワッペンを渡す。
「すごいやジャック!あの神を全部倒すなんて!」
「本当にすごかったわ!」
「気分爽快だぜ!よくやった!」
「でも、いいのかい?結果論とはいえ、《オシリス》を攻撃していればキミのライフが0になることはなかったのに」
「奴に全てのカードを使わせること、そして、次につなげること。両方を取るためにはあの選択がベストだった。後悔はない!後は頼んだぞ、遊星!」
「ああ、行ってくる!」
赤き機体、遊星号がスタートを切り戦場へと躍り出ると、アリアのモノクロの機体の後方に着く。
『チーム5D’s、ラストホイーラーは不動遊星!伝説を超えた勢いのまま、エイチクロスを圧倒なるか!』
「……やあ、遊星くん。綴が待っている。前座の私など早く倒すことだ」
「前座、だと?」
「いずれわかるさ、いずれね。それでは」
「「デュエル!!」」
ルールにより、敗者側のチームが先攻となる。即ち、先手をとるのは遊星。
「俺のターン、ドロー!」
アリアSPC2→3
遊星SPC4→5
アリアの場にはモンスターがいない。場には、無意味に残った3枚の罠のみ。
一方、遊星の場にはジャックが残した《レッド・デーモンズ・ドラゴン》が存在している。
(……このまま直接攻撃すればアリアを倒すことは出来る。だが、次の相手はあの綴だ。邪神のように、三幻神と同等のモンスターを召喚すると想定した方がいい。ならば)
「俺はカードを3枚伏せ、バトルフェイズ!《レッド・デーモンズ・ドラゴン》でアリアにダイレクトアタック!『アブソリュート・パワーフォース』ッ!」
攻撃を防ぐ術は無い。紅蓮魔竜は唸り声とともに右の拳を握り締め、腰溜めに振り被り、無防備なアリア目掛けて熱を叩き込んだ。
「くうぅうううッ!」
アリア:LP2000→0
敗北を示す煙を出すモノクロの機体。緩やかにピットへと向かっていく。
『決まったぁぁあああッ!!不動遊星、チームエイチクロスのセカンドホイーラー、アリア・ラスティを撃破ッ!!さあ、闘いもついに佳境を迎えるぞ!』
ピットに到着したアリア。当然というべきか、憔悴している。ワッペンを綴に渡すも、その手に力はなかった。
「すまないね……神をもう少し君臨させていたかったんだが、私の技量不足だったよ」
「仕方ねえよ。秘密結社Kが原作の再現をきっちりやんねえのもわりいだろ。《ラー》なんか、特に酷いじゃねえか」
「はいそこまで。二人とも、充分盛り上げてくれたから大丈夫よ。後は僕に任せて!行ってくるわ!」
悪魔を模した青いDホイールを、綴が起動させ発進。遊星の後方を走る。
『さあ、チームエイチクロス、ラストホイーラー湯上綴の登場だ!三幻神を撃破された後にも拘わらず、余裕がありそうだぞ!さらなる伝説を、見せてくれるのだろうか!?』
「もう、ハードル上げちゃって……遊星!来たわよ!忘れられないデュエルを見せてあげる!」
「いいだろう。全力をぶつけてこい!」
「「デュエル!!」」
最後の闘いが始まった。
二つの機体が咆哮を上げ、その能力全てを発揮する。
遊星は疾走する。より速く、自分と仲間達の想いを果たすために。
綴は疾走する。より遠く、自分と仲間達の結末を華やかに飾るために。
先攻は綴。女性らしさのある美しい指をカードに添える。
「僕のターン、ドロー!」
綴SPC3→4
遊星SPC5→6
綴
LP:4000
SPC:4
Hand:6
Monster:
FieldMagic:《スピード・ワールド2》
Magic&Trap:《闇次元の開放》《ディメンション・ガーディアン》《デモンズ・チェーン》
遊星
LP:4000
SPC:6
Hand:2
Monster:《レッド・デーモンズ・ドラゴン》
FieldMagic:《スピード・ワールド2》
Magic&Trap:Set3
綴は場の状況を確認すると、嗤った。
「今回のあなたはどんな罠で守りを固めているのかしら?まずは様子を見させてもらうわね。《ライトロード・マジシャン ライラ》召喚!」
落ち着いたカード捌きから展開されたのは白い衣に身を包んだ女魔術師。
「【ライトロード】……デッキのカードを墓地に送る特性を持つテーマか」
「あら勉強してるのね。テイルが《ライコウ》見せたからそのせいかしら。じゃ、《ライラ》の効果を発動するわね。自身を守備表示にすることで、あなたの魔法・罠を1枚破壊する。対象は、僕から見て一番右のカード!『ライトニング・スタッフ』ッ!」
魔術師の杖の先に光が集中する。全身全霊の魔力を込めた光弾が、遊星のフィールドに炸裂。粉塵が舞う。
「くっ……」
「あら、チェーン出来たり、墓地に送られることで発動するカードじゃないのね。なら、いくわよ!場の3枚の永続罠《闇次元の開放》《ディメンション・ガーディアン》《デモンズ・チェーン》を墓地に送り、おいで、僕の紅の竜!―――罠を司りし三幻魔が一角、《神炎皇ウリア》ッ!!」
コース上に火口が発生すると、膨大な炎が噴き出し、スタジアムの視界を一瞬紅に染める。墓地の残骸を薪代わりに大燃焼。炎の中から巨大な竜が舞い上がる!
《神炎皇ウリア》ATK3000
「罠を用いて召喚される最上級モンスターだと!?」
「そんな驚くことはないでしょ?神に比べたらまだまだ。けど、スペック自体は劣らなくてよ。このカードは墓地の永続罠1枚につき攻撃力を1000ポイントアップさせる。今は、召喚のために墓地に送った3枚だけだから3000しかない。けど、墓地に送ることに特化すればその攻撃力は飛躍的に増大する!」
「【ライトロード】と組み合わせているのは、それが理由か……」
「まだよ!《ウリア》の効果発動!1ターンに1度、相手フィールドにセットされた魔法・罠を破壊する!この効果に対して、あなたは魔法・罠を発動できない。僕が対象にするのは、真ん中のカード!」
綴が右手を振り上げた。それを合図に、紅の竜の顎が大きく開く。セットカードに狙いを定め、綴は指をパチン、と打ち鳴らす。
「『トラップ・ディストラクション』ッ!!」
顎から放たれた火炎弾が地雷を跡形もなく燃やし尽くす。だが、その燃えカスに風が収束し、竜巻へと変化していく。
「えっ?このエフェクトって……」
「《荒野の大竜巻》の効果!セットされたこのカードが破壊され墓地へ送られた時、フィールドの表側表示のカード1枚を対象にして、破壊する!俺が対象にするのは、当然《ウリア》だ!」
「ちょっとッ!?裏目引いちゃった!?」
濁った竜巻が炎の皇を切り刻む。断末魔を上げ、消滅する《ウリア》。
『おぉっと!湯上綴、神に匹敵する可能性のあるモンスターを早速失ってしまったッ!これは辛いか!?』
「……ふふふっ!そう慌てないの。歴戦のデュエリストが切り札の一つや二つを失って戦意を失ったことがあるかしら?そう、これも作戦のうちよ!」
「裏目を引いたと言わなかったか?」
「あら……なんのことかしらね?僕はカードを3枚伏せて、エンドフェイズに《ライラ》の効果が発動!デッキの一番上から3枚を墓地に送る。これでターンエンド!」
不敵に嗤う綴。会場の中にはブーイングもあるというのに、そこには余裕があった。遊星は油断なくデッキに指をかける。
「俺のターン、ドロー!」
綴SPC4→5
遊星SPC6→7
綴の場には女魔術師とセットカードが3枚。遊星は思考する。
(綴は永続罠を使った戦術を使うことが分かっている。その中には、攻撃を止めるカードも多い。だが、《レッド・デーモンズ・ドラゴン》には攻撃宣言をしていない味方のモンスターをエンドフェイズに破壊するデメリットがある……ここは綴が伏せたカードの正体を明らかにするためにも、《レッド・デーモンズ・ドラゴン》だけで攻撃するしかない)
逡巡を終え、遊星は仲間の魂たるカードに指示を出す。
「バトルだ!《レッド・デーモンズ・ドラゴン》で―――」
「ここでリバース・カード・ダブルオープン!1枚目、《ゴブリンのやりくり上手》!2枚目、《強制終了》!そしてリバースした《ゴブリンのやりくり上手》を墓地に送ることで、《強制終了》の効果を発動する!」
拳を構えようとした紅蓮魔竜の動きが止まる。戦場に調停の境界線が敷かれた。
「やはり……」
「効果は知っているでしょう?このターンのバトルフェイズを終了する。そして《ゴブリンのやりくり上手》の効果を処理。墓地にある《ゴブリンのやりくり上手》の数に1加えた枚数をドローし、手札から1枚を選んでデッキの一番下に戻す。僕の墓地には、《ライラ》の効果で墓地に送られた2枚と、《強制終了》のコストで墓地に送った1枚、計3枚の《やりくり上手》がある。よって僕は4枚のカードをドローし、1枚をデッキボトムに戻す!」
「なに!ここで多くの手札を補充するだと!?」
収支を合わせれば、手札に3枚のカードが追加されるという驚異のコンボ。綴の手札は5枚に増強された。
「《ライラ》の効果で墓地に送られたカードを見た時は、笑いをこらえるのが大変だったわ。《荒野の大竜巻》に引っかかった分、運が良くなったみたいね!」
「……カードを1枚伏せて、ターンエンドだ」
ターンを譲渡せざるを得ない状況。遊星は歯噛みした。
「僕のターン、ドロー!」
綴SPC5→6
遊星SPC7→8
綴
LP:4000
SPC:6
Hand:6
Monster:《ライトロード・マジシャン ライラ》
FieldMagic:《スピード・ワールド2》
Magic&Trap:Set1+《強制終了》
遊星
LP:4000
SPC:8
Hand:2
Monster:《レッド・デーモンズ・ドラゴン》
FieldMagic:《スピード・ワールド2》
Magic&Trap:Set2
綴は豊富な手札を指でなぞると勢いよく決闘盤にセットした。
「僕はモンスターをセット。カードを3枚伏せて、エンドフェイズ。《ライラ》の効果でデッキの一番上から3枚を墓地に送る。これでターンエンド!」
『湯上綴、怒涛のセット!だがこれは、何らかの準備に違いない!』
「そうね、準備完了しちゃったわ。後は次のターンのお楽しみよ。さあ、遊星?僕の企みを打ち破ってごらんなさい?」
蠱惑的な笑みを浮かべて誘う綴。“準備完了”、その言葉に遊星は警戒を強める。
(次のターン、あいつは最上級モンスターを出す可能性が高い。ならば、それに対抗する手段を引き当てなければいけない……)
「俺のターン、ドロー!」
綴SPC6→7
遊星SPC8→9
引いたカードを確認すると、心意のままにカードを振り下ろす。
「SPCを4つ取り除き、《Sp-エンジェル・バトン》を発動!カードを2枚ドローし、1枚を捨てる!」
遊星SPC9→5
手札交換を終え、遊星は事態を打開するために動く。
「チューナーモンスター《クイック・シンクロン》は手札からモンスター1体を墓地に送り、特殊召喚できる!」
ガンマン風の小さな機械人が登場。反撃の狼煙たり得るか。
「さらに、《クリア・エフェクター》を召喚!」
神秘的な衣装を纏った女性がスピードの世界に混じりこむ。
「そして、永続罠発動!《エンジェル・リフト》!墓地から《チューニング・サポーター》を特殊召喚!」
鍋のような形状の頭部を揺らし、小さなロボットは跳ね回った。
「いくぞ!レベル1の《チューニング・サポーター》とレベル2の《クリア・エフェクター》に、レベル5の《クイック・シンクロン》をチューニング!」
遊星が腕を振るうと、《クイック・シンクロン》は5つの円環へと変化する。それに追従するように残る2体のモンスターも3つの星へと姿を変えていく。
「集いし闘志が、怒号の魔神を呼び覚ます!光差す道となれ!!!」
束ねられた8つの星が描くのは魔神の姿。三叉の黄金角が伸びる頭部に真紅の眼光が灯る。藍の鎧に包まれた胴体、そこからは四本の腕が伸びていた。魔神はレーンを砕きながら二対の羽根を広げ、降り立つ。
「―――シンクロ召喚!!粉砕せよ、《ジャンク・デストロイヤー》ッ!!!」
凛々しさと荒々しさを兼ね備えた佇まい。「ジャンク」きっての破壊者がその存在を誇示する。
《ジャンク・デストロイヤー》ATK2600
「シンクロ召喚に成功したことで、《チューニング・サポーター》、《クリア・エフェクター》、《ジャンク・デストロイヤー》の効果が発動!まずはシンクロ素材となった《チューニング・サポーター》の効果でカードを1枚ドロー!さらに《クリア・エフェクター》もまた、同様の効果を持つ!そして《ジャンク・デストロイヤー》の効果が発動ッ!このカードがシンクロ召喚に成功した時、チューナー以外の使用したシンクロ素材の数までフィールドのカードを破壊する事が出来る!俺が素材にしたモンスターは2体!俺が破壊するのは《強制終了》と、俺から見て一番左のセットカードだ!『タイダル・エナジー』ッ!!」
4つの巨腕に蓄えられたエネルギーが全て放出される。氾濫する莫大な力の渦はそのまま、2枚のカードを粉砕した。
「容赦がないわね。でも、ちゃんとすべてを受け止めてあげるわ」
「……バトルだ!《レッド・デーモンズ・ドラゴン》で《ライラ》を攻撃!『アブソリュート・パワーフォース』ッ!」
飛び上がる赤の体躯。狙うは守備態勢の女魔術師。真っ直ぐと突き出した拳が空気を、大気を外へと押し遣り退ける。そしてその拳は魔術師の身体を吹き飛ばし、その余波は隣に並んでいたセットモンスターにも及ぶ。
「《レッド・デーモンズ・ドラゴン》が守備表示モンスターを攻撃したダメージ計算後、相手フィールドの守備表示モンスターをすべて破壊する!『デモン・メテオ』ッ!」
「セットモンスターは《カードガンナー》。破壊された時、僕はカードを1枚ドローする」
「まだ攻撃は残っているぞ!《ジャンク・デストロイヤー》でダイレクトアタック!『デストロイ・ナックル』ッ!」
拳を振り被りながら猛進する魔神。だが、綴のDホイールが障壁に包まれ、届くことはなかった。
「手札から《アルカナフォースXIV-TEMPERANCE》を捨てて、効果を発動したわ!この戦闘で受けるダメージを0にする!」
「やはり、一筋縄ではいかないか……ターンエンドだ」
「僕のターン、ドロー!」
綴SPC7→8
遊星SPC5→6
綴は嗤いを深めた。
「僕は永続罠《メタル・リフレクト・スライム》を発動!このカードを守備表示で特殊召喚する!何か発動するカードはあって?」
「……なにもないが、なぜこのタイミングで確認を?」
「ここが分水嶺になるからよ。《メタル・リフレクト・スライム》を《神・スライム》に変形させる!」
銀色のスライムが、未曽有の巨像となって登場。最上級モンスター召喚のキーカードになるからか、会場が盛り上がり始める。
「来るか!」
「残念、まだ来ないわ。今《神・スライム》を召喚したのは、その隠された能力を発揮するため。それはこのカード以外のモンスターを効果の対象にさせない能力!」
「さらなるモンスターを召喚しようというのか……」
「いくわよ!僕は《リミット・リバース》を発動!墓地の攻撃力1000以下のモンスターを攻撃表示で復活させる!対象は、《ファントム・オブ・カオス》ッ!!」
《ファントム・オブ・カオス》ATK0
瘴気の溜池もまた、再び登場。しかし、綴の戦術はそれだけにとどまらない。
「あなたの場に表側表示モンスターが存在し、攻撃力1500以下のモンスターが特殊召喚に成功したことで、このカードが発動できる!SPCを1つ取り除き、《Sp-地獄の暴走召喚》を発動!特殊召喚したモンスターと同名モンスターを手札・デッキ・墓地から可能な限り攻撃表示で特殊召喚する!僕は、デッキから《ファントム・オブ・カオス》を2体特殊召喚!」
綴SPC8→7
瘴気が3つに増殖した。おどろおどろしい雰囲気がスタジアムを包み始める。
「あなたも自分のフィールドのモンスターを選んで、僕と同じように同名モンスターを特殊召喚できるけど……ジャックの《レッド・デーモンズ》はもとより、《ジャンク・デストロイヤー》もシンクロモンスターだからデッキにはいないでしょ?」
「……ああ」
効果の恩恵にあずかれないのは問題ではなかった。3体ものモンスターを並べたことに胸騒ぎを覚える。
「さあ、ここからがショーの本番よ!3体の《ファントム・オブ・カオス》の効果発動!墓地に存在するモンスター1体を除外し、名前と攻撃力、効果を得る。僕が墓地から除外するのは三幻魔!《神炎皇ウリア》!《降雷皇ハモン》!《幻魔皇ラビエル》!裏目なんて引いていなかったのよ!」
「なに!?」
炎を司る龍が、雷を司る骨の神官が、拳を司る豪腕の悪魔が、実体をもった幻影として現れる。
突如として吹き上がるマグマ、スタジアムの照明を明滅させるほどの電撃、そして空を包み込む真っ黒な霧。三幻神がその荘厳さでスタジアムを支配していた時とは対照に、三幻魔は禍々しさでスタジアムを恐怖で染める。
「ここだ!《和睦の使者》を発動!このターン、俺が受ける戦闘ダメージは0となり、俺のフィールド上のモンスターは戦闘では破壊されない!」
「賢いわね。《ウリア》の効果を発動される前に使うのは。けど、本番はここから!……三幻神を束ねた創造神はカードとして使用されることはなかった。だから、僕は古代の伝説を再現できない。その資格も多分ないしね。けれど、三幻魔は別!僕は三幻魔を―――除外するッ!」
「なんだと!?」
綴の宣言と共に、スタジアムに、無限の闇が出現。星火燎原を体現する神炎皇、一罰百戒を施行する降雷皇、食物連鎖を支配する幻魔皇、現実と虚構を行き来する3つの暴力、それら全てが一つに束ねられる。
「三幻魔を融合!混沌の闇より出でよ!《混沌幻魔アーミタイル》ッ!!」
現れ出でるはこの世のあらゆる穢れを凝縮した魔の頂点。《ウリア》、《ハモン》、《ラビエル》の特徴を兼ね備えているが、その姿は人には到底受け入れる事のできない魁偉な異形のモノであった。三幻神とは違った色彩の暴力。とても名状し難く、口にするのも憚られるとはまさにこの事か。観客席がこれまでにないほど悲鳴で埋まる。
《混沌幻魔アーミタイル》ATK10000
『な、ななな、なんとッ!湯上綴、攻撃力10000のモンスターを召喚ッ!だが、あの邪悪で禍々しい姿はなんだッ!?』
「安心なさい。攻撃力10000でいられるのは僕のターンだけ。相手ターンになると攻撃力は元々の0になってしまう。バトルでは破壊されないけど、効果に対する耐性もない。《和睦の使者》を発動された今、どんなに攻撃力を誇っても無意味だわ。けど、驚くのは、まだ早い!僕は通常召喚をしていないのだから!」
「通常召喚……まさか!」
「そのまさかよ。僕は《神・スライム》を生贄に捧げる!」
水で出来た神の虚像が、スピードの世界に融けこんでいくと、黒い瘴気で染まった空から、漆黒の太陽がスタジアムへゆっくりと沈んでゆく。それは混沌とした世界を照らす絶望の輝き。
「おいで、僕らの神!人類が超えるべき試練が一つ、《邪神アバター》!!」
それは三幻神をも超えかねないほどの荘厳さを持っていたが、徐々に姿を変え、スタジアムに悪夢をもたらした幻魔と同じモノへと変化する。違いは身体の色が漆黒に染まっていることのみ。恐怖の二重奏。もはや声も出せない者もいる中で、決闘狂人は嗤っていた。
「《アバター》はフィールドで最も攻撃力の高いモンスターの姿を写し取り、攻撃力・守備力はそのモンスターの攻撃力に100追加された数値になる。今一番高いのは《アーミタイル》の10000。よって攻撃力は―――」
《邪神アバター》ATK10100
『こ、攻撃力10000のモンスターが2体ッ!!先程の三幻神をも超える超攻撃力!そして、《アバター》には恐るべき効果がある!』
「そう、このカードが召喚に成功した場合、相手のターンで数えて2ターンの間、相手は魔法・罠を発動できない!僕はカードを1枚伏せてターンエンド!さあ遊星?真の闘いはこれからよ!」
「くっ……」
神威を超えた悪夢が、スタジアムを支配している。湯上綴の欲望が、スピードの世界を覆う。未曽有の恐怖が、遊星の前に立ちはだかる。果たして、欲望を超え、希望の星を掴むことは出来るのだろうか―――
綴
LP:4000
SPC:7
Hand:0
Monster:《混沌幻魔アーミタイル》《邪神アバター》
FieldMagic:《スピード・ワールド2》
Magic&Trap:Set2+《リミット・リバース》
遊星
LP:4000
SPC:6
Hand:2
Monster:《レッド・デーモンズ・ドラゴン》《ジャンク・デストロイヤー》
FieldMagic:《スピード・ワールド2》
Magic&Trap:
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