不動遊星の初体験を奪いたい   作:うおのめちゃん

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13話 決着!!奇跡をめぐる闘い

 そこにあったのは異様にして脅威だった。

 WRGP決勝トーナメント進出を懸けた闘いも終盤、ラストホイーラーである湯上綴と不動遊星の決戦。綴が繰り出したものは地獄の閻魔も逃げ出すような幻の異形と、闇夜を昏く照らし、最強を超えた存在の姿へと変化する漆黒の太陽。

 その名は《混沌幻魔アーミタイル》、そして《邪神アバター》。デュエルモンスターズの中でも最上位に位置する悪魔である。スタジアムには歓声と悲鳴が入り混じっていた。

 そんな威容の前でも、遊星は呑まれてはいなかった。譲れない想いがある。仲間との絆がある。だからこそ、青年の純情は不屈だった。眼前の敵を見据え、デッキの一番上に指をかける。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

綴SPC8→9

遊星SPC6→7

 

 遊星のターンを迎えた瞬間、《邪神アバター》の姿が黒い《レッド・デーモンズ・ドラゴン》の姿に変化した。同時に、《アーミタイル》の威容も幾分か薄れる。

 

《邪神アバター》ATK10100→3100

《混沌幻魔アーミタイル》ATK10000→0

 

「攻撃力が0になるというのは本当だったのか……」

「そう、《アーミタイル》はあなたのターンだとただの的にしかならないモンスター。そして、今現在、攻撃力が最も高いのはあなたのフィールドの《レッド・デーモンズ・ドラゴン》。だから《アバター》はその姿を写し取ったというわけよ」

 

 観客から安堵のため息が漏れる。異様なる威容を見ているだけで精神的な疲労は大きかったからだ。

 

「《アーミタイル》は戦闘では破壊されないんだったな。ならば、攻撃力3000の《レッド・デーモンズ・ドラゴン》と攻撃力2600の《ジャンク・デストロイヤー》で攻撃すれば、おまえのライフは0になる」

「そんな戦術の穴を突かれて僕が無様に喘ぐと思って?ヤりたければヤるといいわ。次のターンに再び攻撃力10000の脅威が、魔法・罠が使えない状態のあなたを襲うことになるけどね」

「……バトルだ!《レッド・デーモンズ・ドラゴン》で《アーミタイル》を攻撃!『アブソリュート・パワーフォース』ッ!!」

 

 紅蓮魔竜が、力を溜めている状態の異形に、炎を宿した拳で殴りかかる。

 

「もう、忠告したのに……目的は僕が何を仕掛けているか知りたいってところかしら。もちろん対策はしているわ。永続罠《スピリットバリア》発動!僕のフィールドにモンスターが存在する限り、僕が受ける戦闘ダメージは0になる」

 

 炸裂する拳。発生する衝撃波。だが、防護壁に包まれた綴は無傷だった。

 

「やはりな。おまえならそういったカードを用意していると思った。次だ!《ジャンク・デストロイヤー》で《アーミタイル》を攻撃!『デストロイ・ナックル』ッ!!」

 

 怒号の魔神もまた、拳を振りかぶり殴りかかる。結果は先程と同様、綴は無傷の状態だった。

 

「《レッド・デーモンズ》のデメリットを避けるための攻撃ね。けど、僕の牙城を崩すには至っていない。それに、魔法・罠が使えない状態で、次のターンの攻撃を凌げるかしら?」

「やってみればわかるさ。俺はカードを1枚伏せ、ターンエンド!」

 

《邪神アバター》効果継続:残り1ターン

 

(あの自信……多分あれかしら。次のドロー次第ね)

 

 発言から遊星の手札を推測。デッキトップに二本の指を添える。

 

「僕のターン、ドロー!」

 

綴SPC9→10

遊星SPC7→8

 

綴

LP:4000

SPC:10

Hand:1

Monster:《混沌幻魔アーミタイル》《邪神アバター》

FieldMagic:《スピード・ワールド2》

Magic&Trap:Set1+《リミット・リバース》《スピリットバリア》

 

遊星

LP:4000

SPC:8

Hand:2

Monster:《レッド・デーモンズ・ドラゴン》《ジャンク・デストロイヤー》

FieldMagic:《スピード・ワールド2》

Magic&Trap:Set1

 

 綴のターンを迎えたことで、《アーミタイル》が力を開放。再び邪悪なる威容を放つ。そして《アバター》もまた、その威容を模倣。超攻撃力2体が並ぶ構図。スタジアムが影に沈む。

 

《混沌幻魔アーミタイル》ATK0→10000

《邪神アバター》ATK3100→10100

 

「僕はSPCを8つ取り除き《Sp-強引な番兵》を発動!遊星、あなたの手札を確認し、1枚をデッキに戻すわ!」

 

綴SPC10→2

 

『おおっとッ!ここで湯上綴、スタンディングデュエルでは禁止されている凶悪カードのスピードスペルバージョンを使用!反撃の芽を徹底的に潰す気だッ!』

「そのカードの発動に対し、手札から《エフェクト・ヴェーラー》を墓地へ送り、効果発動!相手フィールドのモンスター1体を対象に、その効果をこのターンの終了時まで無効にする!対象は、《アーミタイル》だ!」

「わかっていたわ。ではチェーンを解決」

 

 透き通った翼を携えた中性的な精霊が放つ光が、幻魔の威容をかき消していく。

 そして、遊星の残る手札1枚が白日の下に晒される。

 

手札:《速攻のかかし》

 

「あなたの秘密の花園を見れて、ちょっと興奮したわ。やっぱり直接攻撃を防ぐようなカードがあったわね。じゃあ、あなたのデッキの中に入れてちょうだい?」

「くっ……」

「そして《アーミタイル》は効果を無効化され、攻撃力が0になる。そして《アバター》はフィールドで最も攻撃力が高い《レッド・デーモンズ・ドラゴン》の姿を得る」

 

《混沌幻魔アーミタイル》ATK10000→0

《邪神アバター》ATK10100→3100

 

 紅蓮魔竜の姿へと再び変じる《アバター》。その様子をピットで見ていたジャックが唸る。

 

「ええい、忌々しい!オレの《レッド・デーモンズ・ドラゴン》の姿を何度も……!」

「仕方ねえだろ?一番強い奴の姿になっちまうんだから。けど、これであいつが攻撃できるモンスターは実質《アバター》1体だけになった!」

「攻撃力も3100だから、《レッド・デーモンズ》と《ジャンク・デストロイヤー》のどっちを攻撃されても遊星のライフは残るよ!」

「だけど、遊星の手札は0枚になってしまったわ。このターンを凌げたとしても、逆転する手段はあるの?」

「遊星を信じよう。耐え抜けば必ず何か突破の方法が見つかるはずだよ」

 

 固唾を呑んで見守る5人。一方のヴィラン2人は、興味深げな面持ちで綴を見ていた。

 

「攻撃を凌ぐことにかけても優秀な遊星のことだ。まだまだこっからってところだが……綴も残るリソースは今んとこ伏せ1枚だけだ。どっちに転ぶかな」

「どのような決着になろうと、私は綴が幸せになることを望むよ」

「だな、おれ達は神で大暴れできたんだ。それもこれも綴のおかげ。あとはお天道様次第だが……報われてくれよ?」

 

 両チームの願いが交差する中、綴は攻撃宣言を下した。

 

「バトルよ!《アバター》で《ジャンク・デストロイヤー》を攻撃!『ダークネス・アブソリュート・パワーフォース』ッ!!」

 

 黒い紅蓮魔竜が破壊の魔神を昏き炎の拳で殴打する。超過ダメージが遊星を襲った。

 

遊星:LP4000→3500

 

「くっ……」

「僕はカードを1枚伏せてターンエンド!」

「俺のターン、ドロー!」

 

綴SPC2→3

遊星SPC8→9

 

一瞬の思考。そして。

 

「……《レッド・デーモンズ・ドラゴン》を守備表示に変更し、ターンエンドだ!」

 

《邪神アバター》効果終了

 

 何もしないままのターン終了宣言。ざわつくギャラリー。

 

『不動遊星、手も足も出ずか!?』

「さっき僕が戻した《速攻のかかし》を引き直した、ってこともありえるわよ。もっとも、その場合1ターン凌げるだけで厳しい状況に変わりはないんだけど」

「……《アバター》の効果が終了し、俺は魔法・罠が使用できるようになった。伏せカードが《ミラーフォース》のような逆転のカードの可能性もあるとは考えないのか?」

「想定済みよ。あなたはこのターンで負けないことを考えなさい。僕のターン、ドロー!」

 

綴SPC3→4

遊星SPC9→10

 

 三度《アーミタイル》が悪夢のような威容を放ち、《アバター》はその威容を重ねる。

 

《混沌幻魔アーミタイル》ATK0→10000

《邪神アバター》ATK3100→10100

 

「バトルよ!《アーミタイル》で《レッド・デーモンズ》を攻撃!『全土滅殺 天征波』ッ!!」

 

 極大の闇の球体がスピードの世界の風を巻き込みながら、紅蓮魔竜に迫る。分解され、塵と化す《レッド・デーモンズ・ドラゴン》。

 

「すまない……だが!俺のモンスターが破壊されたことで罠発動!《レベル・レジストウォール》!」

「僕やテイルの技を……」

「おまえ達から学ばせてもらった。いくぞ!破壊された《レッド・デーモンズ》のレベルである8と合計レベルが同じになるように、デッキからモンスターを効果を無効にして守備表示で特殊召喚する!レベル1、チューナーモンスター《ターボ・シンクロン》!レベル1、《スターダスト・シャオロン》!レベル2、チューナーモンスター《ニトロ・シンクロン》!レベル2、《ドッペル・ウォリア―》!レベル2、《ネクロ・ディフェンダー》!」

 

 遊星の仲間達が勢揃い。5体の壁となって遊星を守る。

 

「厄介ね……なら、《アバター》で《ドッペル・ウォリア―》を攻撃!『全土滅殺 天征波』ッ!」

 

 無慈悲に闇に飲み込まれる兵士。だが、守備表示のため遊星にダメージはない。

 

「ここから反撃と言ったところかしら?けど、僕がそれを許すと思って?カードを1枚伏せ、ターンエンド!」

「俺のターン、ドロー!」

 

綴SPC4→5

遊星SPC10→11

 

綴

LP:4000

SPC:5

Hand:0

Monster:《混沌幻魔アーミタイル》《邪神アバター》

FieldMagic:《スピード・ワールド2》

Magic&Trap:Set3+《リミット・リバース》《スピリットバリア》

 

遊星

LP:3500

SPC:11

Hand:2

Monster:《ターボ・シンクロン》《スターダスト・シャオロン》《ニトロ・シンクロン》《ネクロ・ディフェンダー》

FieldMagic:《スピード・ワールド2》

Magic&Trap:

 

 遊星は引いたカードに視線を移す。そのカードは、スピードスペル。

 

「俺はSPCを7つ取り除き、手札の《Sp-サイクロン》を公開して《スピード・ワールド2》の効果発動!カードを1枚ドローする!」

「《サイクロン》、ね。いいわ、好きになさい?」

 

遊星SPC11→4

 

 更なる追加ドロー。遊星は全てを俯瞰する。

 場に存在する仲間、墓地に存在するカード、そして相手の場に在る《アーミタイル》及び《アバター》そして3枚のセットカード……勝ち筋を探し、慎重にカードを繰り出していく。

 

「SPCを2つ取り除き、《Sp-サイクロン》を発動!《スピリットバリア》を破壊する!」

 

遊星SPC4→2

 

「構わないわ。どうぞ続けて?」

「俺は墓地に存在する《ボルト・ヘッジホッグ》の効果発動!フィールドにチューナーモンスターが存在する時、このカードを特殊召喚する!」

 

 針の代わりにボルトを生やした黄色い体毛のハリネズミが飛び出した。瞬間、綴が動く。

 

「僕もシンクロキラーになってみようかしら!永続罠《死の演算盤》発動!」

 

 生物の体を枠に、眼球を珠にしつらえた悪趣味なデザインの演算盤。死者の数を計測する悪魔の道具が展開される。

 

「このカードが場に存在する限り、フィールドのモンスターが墓地に送られる度に、持ち主に1体につき500ポイントのダメージを与える。そして、シンクロ召喚を行うときには、一部の例外を除き、フィールドのモンスターが2体以上墓地に送られることになる。つまり、この瞬間からシンクロ召喚を行う度、あなたは1000ポイント以上のダメージを受けることになる!」

「易々と逆転させるつもりはないということか……」

「このまま5体のモンスターを壁にして凌ぐ選択もあるわよ?あなたのライフはまだ3500もあるのだし……」

「いいや、俺はこの選択をする!いくぞ!レベル1の《スターダスト・シャオロン》とレベル2の《ネクロ・ディフェンダー》、そしてレベル2の《ボルト・ヘッジホッグ》に、レベル2の《ニトロ・シンクロン》をチューニング!」

 

東洋の龍、守護の悪魔、ハリネズミがその姿を輝く星に変えていく。それらを指揮するように《ニトロ・シンクロン》が指を振ると星々は直列に並び、指揮者自身の頭部の圧力計器が振り切って、その姿を二つの星に変える。

 

「集いし想いが、ここに新たな力となる!光さす道となれ!」

 

 7つの星々が集い一際大きな輝きが決闘場を包み込むと、遊星は新たに新生するモンスターの名を高らかに呼んだ。

 

「シンクロ召喚!!燃え上がれ、《ニトロ・ウォリアー》ッ!」

 

 光が弾ければ、緑の体色を持つ、悪魔の如き相貌の戦士が舞い降りた。鍛え抜かれた筋肉の鎧に身を包み、頭部から天を突くように伸びる白い角を誇示している。何よりも目を引くのは臀部についているタンク。「ニトロ」の名を冠する通り、中には爆薬が搭載されている。

 

《ニトロ・ウォリアー》ATK2800

 

「あなたがシンクロ召喚に成功した瞬間、《死の演算盤》の効果が処理される。自身の効果で特殊召喚された《ボルト・ヘッジホッグ》は除外されるけど、それ以外の3体は墓地に送られた。よって1500ポイントのダメージを受けてもらう!」

「ぐっ……!」

 

遊星:LP3500→2000

 

「だが、《ニトロ・シンクロン》の効果!「ニトロ」と名のついたモンスターのシンクロ素材となった時、カードを1枚ドローする!……な!?」

 

 遊星のデッキトップが金色に輝いていた。同時に、ジャック、龍可、クロウ、遊星、そして病室で眠るアキの右腕に宿る赤き竜の痣が光り、遊星の背に赤き竜の紋章が煌めく。

 

(え……?確かに、《ターボ・シンクロン》と《ニトロ・ウォリアー》をシンクロ召喚すれば、《スターダスト・ドラゴン》はシンクロ召喚できる。そして、それをトリガーとして《スターダスト・シャオロン》を復活させることで、《セイヴァー・スター・ドラゴン》召喚の準備は整う……けど、《死の演算盤》があることでそれを行うためのライフが足りないのに……おかしい、何かがおかしい!少なくとも《スターダスト》が場に出ていない時に赤き竜が力を貸すなんてこと、僕は見たことがない!)

 

 異常事態に戸惑う綴。必死に思考を回す。

 

(遊星の手札は今1枚。それが効果ダメージを防ぐようなカードであったのなら、《セイヴァー・スター・ドラゴン》の召喚は成立する。そして召喚を成立させた場合、僕は伏せカードの1枚を発動せざるを得ず、結果として僕のフィールドは“全滅”する……それだけならいいわ。けど、赤き竜がそれだけで済ませるはずがない!間違いなく遊星が勝つ道を作っている!だあったら!)

 

 綴は結論を出した。そして遊星もまた戸惑いながらも、赤き竜が導いた道を切り開くため、金色のカードを勢いよく引き抜いた。混沌に染まっているスピードの世界を切り裂く縦一筋の光。ドローカードは当然、《救世竜 セイヴァー・ドラゴン》。

 

「俺は―――」

「僕はあなたがカードを手札に加えたこの瞬間、カウンター罠を発動する!《強烈なはたき落とし》ッ!!あなたはそのカードを捨てなければならない!」

「なっ……!?」

 

 混沌からさらに混沌を齎す横一筋の光。綴が構えていた必殺の罠。無慈悲な十字架が審判を下す。

 

「奇跡なんて起こさせはしないわ。今までの敵と同じように果てると思ったら大間違いよ。これも初体験ね?」

「……ッ!!」

 

 遊星は動けなかった。引き抜いた腕は、一瞬、硬直していた。そして赤き竜の紋章の輝きが潰え、同時に痣の光も消えていく。デュエルディスクのAIに促されるまま、《救世竜 セイヴァー・ドラゴン》を墓地へ送る。

 

「マジかよ!?赤き竜の奇跡を潰しやがったぞあいつ!」

「そんな……今までこんなことなかったわ!」

「だ、大丈夫なの!?遊星が負けちゃうなんてこと、ないよね!?」

「狼狽えるな!……よく考えてみろ、このように中途半端な盤面で赤き竜の奇跡が齎されたことに違和感はないのか?」

「そうだね、赤き竜の奇跡はシグナーの竜をパワーアップさせるものだ。《スターダスト》がいない状況で現れるのはおかしい気がするよ。今のはまるで、彼のカウンター罠の発動を誘導したみたいだ」

 

 デュエルに関して慧眼を持つブルーノが推測する。ジャックは頷いた。

 

「ああ……あの赤き竜がそんな手を使わざるを得ないと判断するほど、あの綴という男は強敵ということだ」

 

 雰囲気が重くなったチーム5D’s側のピット。

 エイチクロス側のピットでも、敗れた2人が少しばかり騒めいていた。

 

「うえ、ズルいことするなあ、赤き竜さんは!……そんなに綴が嫌いか」

 

 琥珀の瞳がぎらつく。噴火を待つマグマのように。

 

「大丈夫なんだろうか、神に嫌われているのだとしたら、綴の未来は……」

「なあに、この世界にも神様が沢山いるんだ。捨てる神もいれば拾ってくれる神もいる。というワケで、あの邪神様に必死でお願いしてみようか。信仰が深くなりゃ、もしかしたらがあるかもだ。そら、アリアも一緒に手を合わせて、拝め!」

「あ、ああ。どうか、綴を頼む……!!」

 

 テイルとアリアが拝礼すると、《ニトロ・ウォリアー》の姿に変化していた《邪神アバター》が漆黒の太陽と呼ばれる姿へと変化し、昏く、そして神秘的な輝きを放った。

 スタジアム全てを照らす、膨大な光。誰もが思わずその神を見上げ、その超然たる姿に、幾多の人間が魅入られた。

 そして、太陽は再び《ニトロ・ウォリアー》の姿へと戻る。しかし、先程とは威容がまるで違う。畏怖と尊敬を抱かねば罰を受ける、と心に刻みこまれる程の“神”。魔の頂点に立つ《アーミタイル》さえも超える神性存在。

 硬直していた遊星も、赤き竜の奇跡を叩き落とし安堵していた綴も、何事か、と目を見張る。そして綴のデュエルディスクに置かれた《邪神アバター》のカードに光の波が走り、テキストが“書き換わった”。

 

『い、今の現象は何事か!?あの《アバター》は、否、神は何を行なったのか!?』

「……ッ、決着をつけようという場面で能力を全て教えていないのはフェアじゃないから、ソリッドビジョンが空気を読んだのよ。“この”《邪神アバター》には自身以外のカードの効果を受けない、という特殊能力がある!」

『なんとッ! 《邪神アバター》はどんな攻撃力のモンスターよりも攻撃力を100ポイント上回るという特殊能力があるッ!つまりは、戦闘で勝つことは不可能ということ!そのうえ、カードの効果を受けないということは……!?』

「そう、最強にして無敵の神ということよ!」

(属性も「神」になっているし、種族も「邪神獣族」になっている!どういうこと……!?)

 

 アドリブで説明をしたものの、不可解な現象に未だ混乱している綴。

 ピットから「とりあえず落ち着いてデュエルしろ」と指示ボードが出される。

 綴は呼吸を整え、盤面を確認する。

 

綴

LP:4000

SPC:5

Hand:0

Monster:《混沌幻魔アーミタイル》《邪神アバター》(神化)

FieldMagic:《スピード・ワールド2》

Magic&Trap:Set1+《リミット・リバース》《スピリットバリア》《死の演算盤》

 

遊星

LP:2000

SPC:2

Hand:1

Monster:《ターボ・シンクロン》《ニトロ・ウォリアー》

FieldMagic:《スピード・ワールド2》

Magic&Trap:

 

(かなりびっくりしたけど、元々の予定とは変わらない。遊星の選択肢を奪い、僕は勝利する)

「さあ、その手札1枚で状況をひっくり返せるのかしら?」

「……確かに、今の状況では逆転は難しいだろう。だが!俺はカードを信じる!」

 

遊星は高らかに言い放つと、残る1枚のカードをデュエルディスクへと振り下ろした。

 

「《ジャンク・シンクロン》を召喚!」

 

 橙色の装甲を纏った機械の戦士が勢いよく飛び出した。不動遊星のデュエルを、それたらしめる調律師。小柄な機械の体躯を精一杯躍動させ、闘志を示す。

 

「このカードが召喚に成功した時、墓地に存在するレベル2以下のモンスターを守備表示で特殊召喚する!甦れ、《チューニング・サポーター》ッ!!」

 

 機械の人形が己らを調律する腕を持つ者のもとへと集う。

 

(効果ダメージを防ぐカードじゃない……!?やってくれたわね、赤き竜!)

「俺は、レベル1の《チューニング・サポーター》にレベル3の《ジャンク・シンクロン》をチューニング!集いし勇気が、勝利を掴む力となる。光差す道となれ!」

 

 スピードの世界に融けあう4つの星が束ねられ、光を放つ。

 

「―――シンクロ召喚!《アームズ・エイド》!」

 

 召喚のエフェクトによる翠の光の中から、赤く鋭い爪を持つ機械的な片腕がフィールドに降り立った。

 

「あなたのフィールドのモンスターが2体墓地に送られたことで、《死の演算盤》の効果を処理。1000ポイントのダメージを受けてもらう!」

「くっ……」

 

遊星:LP2000→1000

 

「これであなたは実質シンクロ召喚を行うことができない……」

「まだだ!シンクロ素材として墓地に送られた《チューニング・サポーター》の効果発動!カードを1枚ドローする!」

 

 運命のドロー。遊星の中で一つ、強き鼓動が脈打つ。自身が引き当てたカードの内容に、遊星の脳裏で稲妻の如き閃きが走る。

 場の《ターボ・シンクロン》、《ニトロ・ウォリアー》、《アームズ・エイド》とドローカード、そして綴の場の《混沌幻魔アーミタイル》、《邪神アバター》、《死の演算盤》……全てがつながり、遊星が進むべき光差す道となった。

 

「俺はSPCを2つ取り除き、《Sp-ミラクルシンクロフュージョン》を発動!自分の墓地からモンスターを除外することで、シンクロモンスターを融合素材とした融合モンスターを融合召喚する!俺は墓地のドラゴン族シンクロモンスター《レッド・デーモンズ・ドラゴン》と戦士族の《ジャンク・デストロイヤー》を除外する!」

 

遊星:SPC2→0

 

「ジャックが神に《/バスター》で自爆特攻を仕掛けたのは、シンクロモンスターである素体の《レッド・デーモンズ》をこの瞬間に使うことを想定していたから……!?」

 

神秘的な黒に満ちたスピードの世界に白い渦が発生する。直後、渦の中心から反旗を翻すように光が溢れた。

 その輝きの中に在るは人型のシルエット。それは手に持つ巨大な槍を一振りし、満ちる光を切り裂いた。

 

「―――融合召喚!《波動竜騎士ドラゴエクィテス》ッ!!」

 

 手に持った巨大な突撃槍を提げた竜人とでも呼ぶべき姿の希望。銀の兜から生える暖色の角と、背で広がる翼。そして自在に動く尻尾が竜の要素を示す。その身は青く清廉な鎧に包まれ、金で縁取られたそれが光を反射して輝きを放った。

 

《波動竜騎士ドラゴエクィテス》ATK3200

 

「……!!《ドラゴエクィテス》には、カードの効果によって発生する自分へのダメージを相手が代わりに受ける効果を持つ……!!」

「これでシンクロ召喚が可能になった!俺はレベル7の《ニトロ・ウォリアー》にレベル1の《ターボ・シンクロン》をチューニング!」

 

 《ターボ・シンクロン》が一つの環をなし、《ニトロ・ウォリアー》を七つの星へと変えると八つの星々が風を切って宙を舞った。

 その星々を束ねるのは遊星の祝詞。想いを繋げる絆の詩だ。

 

「集いし願いが、新たに輝く星となる!光さす道となれ!」

 

 遊星の詩に導かれた八つの星々が、その願いである絆で結ばれあう様に光の道を造った。

 光の道の中で遊星の思いを受け取った星々は新たな姿と力を得て、今ここにその輝きを現す。

 遊星は光の道からいずる、己がデッキの象徴の名を高らかに呼んだ。

 

「―――シンクロ召喚!!飛翔せよ、《スターダスト・ドラゴン》ッ!!」

 

 声に導かれ、白き星屑の竜が、煌く光を零しながらスピードの世界に舞い降りた。

 

《スターダスト・ドラゴン》ATK2500

 

「くっ!《死の演算盤》により、あなたが受けるはずだった1000ポイントのダメージは……」

「《ドラゴエクィテス》の効果により、おまえが受ける!」

 

綴:LP4000→3000

 

 綴はライフの減少に眉が動いたが、それも一瞬。不敵に嗤う。同時に、《邪神アバター》の姿も竜騎士のものへと変わる。

 

《邪神アバター》ATK3300

 

「僕のライフは3000。攻撃力3200の《ドラゴエクィテス》で攻撃力0の《アーミタイル》を攻撃されれば負けてしまう……だけど忠告するわ。その選択をした瞬間、あなたは敗北する!」

「読めていたさ」

「なんですって?」

 

 綴が瞠目する。遊星は尚も語った。

 

「おまえほどのデュエリストが、《アーミタイル》の隙を埋めるカードを《スピリットバリア》1つに依存するはずがない。今の言葉で最後の伏せカードがわかった。それは戦闘ダメージを相手に跳ね返す罠カード、《ディメンション・ウォール》!」

「その通り。だからあなたは、無敵の《邪神アバター》を無視して僕に勝つなんてことは出来ない。どうするのかしら?」

「おまえは言ったな。《邪神アバター》は人類が超えるべき試練だと。ならば、俺はその試練を超えてみせる!《アームズ・エイド》の効果発動!モンスター1体の装備カードになる!対象となるモンスターは、《邪神アバター》だ!」

「!今の《アバター》はカードの効果は受けないけれど、効果の対象にはなる……」

 

 黒い竜騎士の左腕に装着される機械の籠手。だが、能力に変化は見られない。

 

「《アームズ・エイド》を装備したモンスターは攻撃力が1000ポイント上昇するが、今の《アバター》は自身以外の効果を受けない!よって攻撃力は3300のままだ!」

「元々の《アバター》の特性もあって、3300になることは変わりないんだけどね。……僕は覚悟を決めたわ。おいで、その大きな槍を受け止めてあげる!」

 

 大きく両腕を広げ、迎え入れるポーズをする綴。Dホイールが一瞬制御を離れたが、すぐに持ち直す。

 

「いくぞ!《波動竜騎士ドラゴエクィテス》で《邪神アバター》を攻撃!『スパイラル・ジャベリン』ッ!!」

 

 肩に担いでいた巨大な突撃槍の穂先を同じ姿の邪神に突きつけ、方位を固定。そして両翼を広げ、角度を保ったまま腕を大きく後ろに捻る。瞬間、竜騎士は瞬きの間にその槍を投擲した。目で捉えることが不可能な音速の一撃。通常ならば回避する暇もない。

だが、黒い竜騎士は装備された機械の腕を以てそれを掴み、砕く。そして、オリジナルの竜騎士が放った一撃を、そのまま返した。返すことを“強制”された。

 《ドラゴエクィテス》は槍に貫かれ、その身を散らす。

 

「ぐっ……」

 

遊星:LP1000→900

 

「《ドラゴエクィテス》が墓地に送られたことで《死の演算盤》の効果を処理。あなたは500ポイントのダメージを受ける」

 

遊星:LP900→400

 

「だが、モンスターを戦闘で破壊し墓地へ送ったことで《アームズ・エイド》の効果が発動!破壊したモンスターの元々の攻撃力分のダメージを与える!《ドラゴエクィテス》の攻撃力は3200!よって、綴!おまえは3200のダメージを受ける!」

「あーあ……もう終わっちゃうのね。ごめんね《アバター》。なんでか神様になってくれたけど、届かなかったわ」

 

 余人に届かぬ呟きを、綴は虚空に投じていく。

 破壊された竜騎士の魂が形となって、再び場に現れる。そして、高速で突き放たれた突撃槍の幻影が、黒き邪神を超え、綴の身体を貫いた。衝撃で砂煙が巻き起こる。

 

「くううぅうううッ!」

 

綴:LP3000→0

 

 砂煙が晴れると同時、遊星号と綴のDホイールが緊急停止する。

 スタジアムの巨大スクリーンに映し出されたライフ0の表示。一瞬唖然とする観客。

 だが、思い出したかのようなMCの声が静寂を破る。

 

『け、決着ッ!! 決勝トーナメント進出を懸けた、前代未聞の大決戦ッ!! 壮大なるスケールで繰り広げられた激闘を制したのは――チーム5D's!! 盛大な拍手を贈ろうッ!!』

 

 高らかな歓声と拍手が、スタジアム中に響き渡った。

 巨大スクリーンに映し出された勝敗の表示を見つめ、綴はしばらく呆然としていた。

 

「……負けちゃった」

 

 口にしてみると、不思議と実感が湧いた。

 遊星に勝つために用意した数々の切り札。三幻魔も邪神も、最後には自分でも理解できない力まで現れた。それでも、届かなかった。

 悔しくないわけがない。

 けれど、悔しさの奥には、奇妙なほど澄み切った満足感もあった。

 

『そして!歴戦のデュエリスト達が繰り広げた、あらゆる伝説をこの一戦に集結させたチームエイチクロスにも拍手を!我々は確かに、歴史的瞬間を幾度となく目の当たりにしたのだからッ!!』

 

 最初はまばらだった拍手が、徐々に広がっていく。

 やがてそれは、勝者へ向けられたものにも劣らない歓声となった。

 

「あら……? 結構、怖い思いをさせちゃったと思うんだけど」

「それだけ、おまえ達のデュエルが観客の心を動かしたんだろう」

 

 隣にDホイールを寄せた遊星が答える。

 

「俺達も全力を尽くした。おまえ達がそれだけの相手だったからだ。あの神々も、幻魔も、確かに恐ろしい力だった。だが、その力を前にしても諦めずに戦えたことを、俺は誇りに思う」

「……本当に、あなたって人は」

 

 綴は小さく笑った。

 

「そんなこと言われたら、負けたことまで素敵な思い出になっちゃうじゃない」

「俺にとっても、忘れられないデュエルになった」

「ふふっ。そうね。僕もよ」

 

 二人は並んで、歓声の中を走った。

 ピットへ戻ると、真っ先に龍亞と龍可が遊星へ駆け寄った。

 

「やったね遊星! すっごいデュエルだったよ!」

「あんなに強いモンスターが相手でも、最後まで諦めなかったものね!」

「クロウとジャックが繋いでくれたおかげだ。二人がいなければ、俺はあそこまで戦えなかった」

「当然だ! オレの《レッド・デーモンズ・ドラゴン》を託したのだからな!」

「ったく、今回ばかりは文句も言えねえぜ。三幻神を倒すわ、最後の融合にまで繋げるわ……大活躍じゃねえか」

 

 クロウが肩をすくめると、ジャックは得意げに胸を張った。

 

「ふん! このオレが勝利のために必要な手を打った。それだけのことだ!」

「でも、今回のジャックはいつも以上にチーム全体を意識していたね」

 

 ブルーノの言葉に、ジャックの眉がぴくりと動く。

 

「チームユニコーンとの戦いで、連携の重要さを思い知らされたからだ! まして、こいつらが相手ならば、個々の力だけでは押し切れん!」

「へえ。ジャック・アトラスがそこまで言ってくれるとはね」

 

 テイルが楽しそうに笑った。

 

「おれ達も、あんたらが全力で来てくれなきゃ面白くなかった。ありがとよ」

「礼などいらん! 貴様らを倒すために戦ったのだからな!」

「ははっ!それでこそジャック・アトラスだ」

 

 その隣で、アリアは腕を組んだまま穏やかに微笑んでいた。

 

「私も楽しませてもらったよ。もっとも、三幻神を全て失った身としては、少々複雑なところだけれどね」

「もう、アリアったら」

 

 綴が呆れたように口を挟む。

 

「三幻神を三体とも並べるだけでも大変なのよ? あの耐性のない仕様で、あれだけ戦えたんだから十分すごいわ。胸を張りなさい」

「君がそう言うなら、そうすることにしよう」

「それにしても……耐性といえば、あの《アバター》よね」

 

 綴はデッキから一枚のカードを抜き出した。

 そこに記されていたのは、見慣れた闇属性・悪魔族の文字。先ほどまで確かに存在したはずの神属性も、邪神獣族という種族も、カードの効果を受けないという能力も見当たらない。

 

「……元に戻ってる」

「やっぱりか」

 

 テイルが覗き込む。

 

「おれ達がお祈りしたら、いきなりすげえことになったからな。願いが届いたってことかもしれねえ」

「お祈り?」

 

 クロウが怪訝な顔をした。

 

「ああ。赤き竜が遊星に力を貸すんなら、こっちにも、ってアリアと一緒に、あの邪神様にお願いしてみたんだよ」

「私は、綴が幸せになれるようにと願ったんだ」

「ちょ、ちょっと! 本人の前でそんなことを堂々と言わないで!?」

「本当のことだからね」

 

 アリアは悪びれない。

 綴は頬を赤くしたまま咳払いをした。

 

「……まあ、二人ともありがとう。それはそれとして、龍可ちゃん。ちょっと教えてほしいことがあるの」

「なあに?」

 

 綴は龍可と目線を合わせるように屈んだ。

 

「この《邪神アバター》に、精霊が宿っていたりするのかしら? それと、赤き竜が僕のことをどう思っているのか、何かわかる?」

 

 龍可は少し目を閉じ、傍らの精霊に問いかけた。

 

「……《エンシェント・フェアリー・ドラゴン》が言うには、そのカードに精霊の気配は感じないって。でも、カードがデュエリストの想いに応えることはあるから、そういうことが起きたのかもしれないって」

「そう……」

「赤き竜については、わからないみたい。ただ、あなたを憎んでいるって決めつけることもできないと思う」

「……そうよね。わからないことを、勝手に決めつけるのはよくないわ」

 

 綴はカードをデッキへ戻した。

 

「ありがとう、龍可ちゃん」

 

 それから立ち上がり、チーム5D'sの面々へ向き直る。

 

「さて、と。まずは、ちゃんとご挨拶をしなくちゃね」

 

 綴が右手を差し出す。

 

「遊星。いいデュエルだったわ。負けたのは悔しいけれど、あなたと本気で戦えて幸せだった」

「ああ。俺もだ」

 

 遊星はその手を握った。

 続いてクロウとテイル、ジャックとアリアが握手を交わす。

 

「今度やる時は負けねえからな、テイル!」

「そいつは楽しみだ。おれも次は別の手を考えとかねえとな」

「貴様もだ、アリア!次こそは三幻神を完全に超えてみせる!」

「ふふ。楽しみにしているよ。君ならば、きっと面白いものを見せてくれるだろうね」

 

 穏やかな空気が流れる。

 しかし、クロウはふと何かを思い出したようにテイルを睨んだ。

 

「……ああ、そうだ! デュエルのことは認めてやるけどな、マーサのことは別だぞ!」

「おっと。まだ気にしてたのか」

「当たり前だろ! マーサの写真をわざわざ俺達に見せつけやがって!」

「だから言ったろ? おれはあの人が好きなんだって。写真を撮らせてもらったのも、話を聞いてもらったのも本当だぜ」

「だからって、それを俺達への嫌がらせに使うな!」

「ははっ! そこは悪かったな。いやあ、あんたらの反応が面白くってよ」

「全然反省してねえじゃねえか!」

「まあまあ。マーサさんが嫌がるような真似はしねえよ。そこは約束する」

「……その言葉、忘れんなよ」

 

 クロウはまだ不満そうだったが、それ以上は追及しなかった。

 

「それから綴」

 

 今度は遊星が口を開いた。

 

「デートの約束について、確認しておきたい」

「ああ……そうね」

 

 綴は静かに頷いた。

 

「僕が勝ったら、あなたにデートをしてもらう。そういう約束だったものね」

「ああ」

「そして、僕は負けた。だから、デートはなし。あなたに何かを要求するつもりもないわ」

 

 きっぱりと言い切ってから、綴は少しだけ寂しそうに笑った。

 

「初体験を奪う計画も、これでお終い。僕の負けよ」

 

 遊星は黙って聞いていた。

 

「……でもね、遊星。ひとつだけ訂正させて」

「なんだ?」

「僕があなたを好きなのは、勝負の条件なんかじゃないってこと」

 

 綴はまっすぐに遊星を見つめた。

 

「フォーチュンカップであなたを見て、その生き方を知って、惚れ込んだの。どんなに追い詰められても諦めないところも、仲間を大切にするところも、強くて、優しくて……ちょっと頑固なところもね」

「綴……」

「だから、僕はあなたの記憶に残りたかった。誰とも違う、特別な存在として覚えていてほしかった。あなたが嫌がることをしてでも、僕のことを意識させたかった」

 

 綴は自嘲するように笑った。

 

「随分と自分勝手でしょう? あなたの気持ちより、自分の欲望を優先してきたんだから」

「……ああ。俺には受け入れられないこともあった」

「ええ。知ってるわ」

 

 その答えを、綴は否定しなかった。

 

「でも、好きになったことまで後悔はしていないの。あなたと出会って、あなたに勝ちたいと思って、今日ここまで来た。全部、僕が望んで選んだことよ」

 

 そして、ふっと表情を和らげた。

 

「負けたからって、急に嫌いになれるわけないじゃない。だから……これからも、あなたを好きでいるくらいは許してちょうだい?」

 

 遊星は少し考えてから答えた。

 

「誰を好きになるかは、おまえ自身が決めることだ。俺が許すかどうかの問題じゃない」

「……ふふっ。そういうところよ」

「だが、その気持ちに恋愛という形で応えることはできない」

「うん」

「それでも、俺はおまえを一人のデュエリストとして認めている。おまえがしてきたことの全てを肯定するわけじゃない。だが、今日のデュエルで、おまえがどれほど本気だったかは伝わった」

 

 遊星は改めて右手を差し出した。

 

「これからも、デュエリストとして、ライバルとして向き合っていきたい。おまえがそれを望むなら、俺は拒まない」

 

 綴は目を丸くした。

 

「……もう。そんなこと言うの、ずるいわよ」

「そうか?」

「そうよ。諦める理由を、またひとつ減らされちゃったじゃない」

 

 小さく笑って、その手を取る。

 

「ありがとう、遊星。あなたに恋をして、よかった」

 

 遊星もまた、しっかりと握り返した。

 その様子を見ていたテイルが、満足げに口笛を吹く。

 

「いやあ、青春だねえ。おれまで胸がいっぱいになっちまうぜ」

「君の場合は、マーサさんのことを考えているだけだろう?」

「おっ、アリア。よくわかったな」

「わからない方がおかしいよ」

「二人とも! せっかくいい雰囲気だったんだから、少しは黙っててちょうだい!」

 

 綴が抗議すると、テイルは声を上げて笑った。

 つられて龍亞も笑い、クロウは呆れたように肩を落とす。

 しばしの間、勝者と敗者の垣根を越えた賑やかな空気が流れた。

 だが、綴はそのまま話を終えるつもりはなかった。

 

「……さて。僕達の勝負はこれで決着したわね」

 

 声の調子が変わったことに、遊星が気づく。

 

「綴?」

「ここからは、デュエルとは別のお話。前にも少し触れたでしょう? この先に待っている、破滅の未来について」

 

 遊星の表情が引き締まる。

 

「ああ。おまえが知っていることを、聞かせてほしい」

「もちろん。そのつもりよ。僕がどこまで話せるかはわからないけれど――」

 

 綴が言葉を続けようとした、その時だった。

 

『そこまでだ。湯上綴、テイル・バウンサー、アリア・ラスティ。我々の元へ来てもらおう』

 

 荘厳な老人の声が、空から響き渡った。

すると、ヴィランだった3人の身体が光り、スタジアムから一瞬でその身体が消えた。

 

「な、なにが起きたの!?」

「どこかに連れ去られたみたいだね……」

「あいつら、悪いやつらじゃねえからな。無事でいてほしいぜ」

「精霊たちが知覚できない場所にいるみたい。残念だけど、どうしようもないわ……」

「遊星、これは敵の仕業か?」

「ああ、そうに違いない。また何かを仕掛けてくるのか……?」

 

 その時だった。MCの声が響く。

 

『たった今緊急ニュースが入りました。街中に謎のデュエリスト集団が現れ、各地でDホイーラーが襲撃されています。観客の皆様につかれましては、その場を動かないようにお願いいたします』

 

 モニターに映像が映し出される。そこでは、複数vs1の強制ライディングデュエルでDホイーラーを襲撃する、通称“ゴースト”の姿が多数あった。

 

「なにが起こっているんだ!?」

 

 遊星達が驚愕する中、チームエイチクロスは未知の空間にワープさせられていた。

否、綴に関しては未知ではなかった。天上に座するホセとルチアーノに見下ろされているこの空間は、綴の記憶に在る、イリアステルの三皇帝が集う神聖なる場なのだから。一つだけある空席はプラシドのものだ。彼は今、ディアブロ達の指揮をとっている。

 3人は、特別に用意された証言台に立たされていた。これから始まるのは裁判だといわんばかりだ。

 

「きひひっ!まずはお疲れ様とでも言っておくよ!いい知らせと悪い知らせがあるんだけど、どっちから聞かせてやろうか?」

「……こういうときはいい知らせを先に言って、悪い知らせで相手を絶望させるものだろう。違うかな?」

「うわ、やろうとしてたことを言われると腹立つな。ま、いいや。ホセ、説明は任せていいよな?」

「……いいだろう。まずはいい知らせを伝えてやろう」

 

 荘厳な声が、空間にいやに響いた。裁きを待つ3人は、それでも堂々とした姿勢を崩さなかった。

 

「お前達が暴れたおかげで、サーキットの完成は当初の計画よりも順調に進んでいる。この結果を無駄にすることはできん。よって、お前たちを歴史の改竄により消滅させることはない」

「散々警戒してたけど、馬鹿だよね!すっげえ利用価値があったんだぜ?消すなんてもったいないことするかよ!」

「三幻神だの三幻魔だの邪神だの出して正解だったワケか」

「けど、これ以上僕達を生かすメリットがあなた達にあるのかしら?」

 

 ルチアーノが嗤った。ホセが鋭い眼光で3人を見据える。

 

「先程の闘い以上のエネルギーを発生させることは難しいだろう。だが、我らが創造主は湯上綴、お前に可能性を見出した」

「……二人は?」

「ここで悪い知らせだぜ!アリア・ラスティ!おまえは僕達が預かる、人質としてな!」

「人質、かい?捕まるのは構わないが、綴に何をさせようとしているんだい?」

「我らが創造主による神託があった。お前達には運命に抗ってもらう。そのためには、必死になる理由が必要なのだ、と」

「決戦の地に入る資格は与えるけど、そこであのブルーノとかいう男を助けられなかったら、この女には死んでもらうってことさ!」

 

 ある意味では消滅よりも厳しい宣告。綴が身震いする。テイルがその肩に左手を置き、落ち着かせると、「はーい」、と挙手する。

 

「アリア一人だけ?おれはどういう扱いをされんの?」

「テイル・バウンサー、お前もまた、可能性を持つ者だ。湯上綴と共に挑んでくるがいい」

「ただのお祈りで一カードにすぎない《邪神》が一瞬でも“神”になるかよ!何者なんだよおまえは?」

「……さあて?おれでもよくわかっちゃいないんだ。願ったらちょっとした幸運が現れる才能っていう認識なんだけどな。さっきのはそれを綴に向けたらなんか起きちゃったってだけ。実際、耐性を得ようが得まいが、《アームズ・エイド》で倒されちまうことに変わりはなかったワケだし?」

「テイル、本当?何も隠してないわよね?」

 

 怯えが混じった視線を向けられる。軽く頭をなでて答える。

 

「隠しちゃいねえよ?ただ、時々靄がかかったような感覚はある。可能性とやらはそこに関わってんじゃねえかな?信じてくれるか?」

「ええ、あなたは嘘をつかない人だから。そこは長い付き合いだからわかるわよ」

「ありがとな、綴。アリアは大丈夫か?ホセさん。どこに軟禁するにしろ、三食と軽い運動が出来るスペースは確保してくれるんだよな?」

「お前達を動かすための人質だ。そこは保証しよう」

「ならおっけー。いける?」

「君達を信じているからね。ちゃんと待っているさ」

 

 サムズアップで応えるアリア。覚悟は決まっていた。

 

「じゃあ、そこの女は預からせてもらうよ!」

 

 光とともに証言台から消えるアリア。転移させられたのだろう。

 

「では、お前たちはプラシドの作戦が終わるまでここで待機してもらおう。終わった時には我々と共に来てもらう」

「おまえが未来を知っている奴だって、あいつらにばらしちゃうよ!覚悟はできてるか?」

「ええ、敗者への罰としては優しい方だわ」

「四面楚歌になってもおれがついてる。安心しろ」

「ありがとう。テイル……」

 

 そして、4人はプラシドの究極体への変形。そして《シューティング・スター・ドラゴン》の攻撃による爆散を見届けた。ホセ以外は、笑いをこらえるのに必死だった。

 そして、運命の瞬間。ネオドミノシティのネオダイダロスブリッジに建造された、水面に映ると∞の形状を示すモニュメントへと4人は転移する。綴とテイル、2人を待ち受ける運命や如何に。




 お気に入り登録・評価・感想、誠にありがとうございます!
 皆様のおかげで決着まで書き切ることが出来ました。感無量です。
 WRGP、書いてみると結構楽しかったです。長いのでデュエル構成が大変でしたが、やりがいはありました。
 
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