不動遊星の初体験を奪いたい   作:うおのめちゃん

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14話 神に並ぶ英雄

 暗雲に染まっていたネオドミノシティ。それを快晴の空へと変えていくのは、新たな境地に目覚めた遊星のアクセルシンクロモンスター《シューティング・スター・ドラゴン》。

 街に混沌を齎していたプラシドは進化した流星の竜の連続攻撃により爆散、その機械の身体は腰の上部からもげ、ネオダイダロスブリッジの中央で愛用の剣と共に上半身を無様に転がしていた。

 

「大丈夫か!?」

 

 敵であったにもかかわらず、遊星が駆け寄る。凄惨な状態を見て尚そう言えるのは彼の情の深さゆえか。

 

「ふっふっ、この男に敗者の情は要らぬ」

 

 老人の声と共に、上空へと浮き上がっていくプラシドの残骸と剣、そしてDホイールであるT・666。

 

「君に情けをかけられたことを知ったら、この男は大層傷つく。このぐらいの歳の男とはそういうものだろう?」

 

 残骸たちはモニュメントの頂上に在る巨大な宝石のオブジェに置かれる。

 遊星が見上げれば、そこには4人の男が立っていた。白いフードを被った少年と高身長の老人。そして不敵な態度の綴とテイル。少年は剣を回収すると、一振りして嗤った。

 

「おまえは、龍亞と龍可を襲った!それに綴、テイル!どうしてそこにいる!?」

「よう、さっきぶり!詳しくは役者が揃ってからだ!」

「あなた達に伝えそびれた真実を伝えないといけないからね」

「公開処刑されるってのに余裕だな……。ま、いいや。プラシドもおまえのプログラムを盗んでディアブロ軍団を作ったのにとんだ無駄骨だったな!こーんなボロボロになっちゃって!」

 

 嘲笑する少年。彼が口にした言葉を遊星は反復する。

 

「プログラム……?そうか!俺達のプログラムを盗んで、ゴースト達に使っていたのか」

「副長官のイェーガーにやらせたみたいだけど、あいつも身の危険を感じてどっかにバックレたみたいだね。プラシドの下で働かされたら、どんなに命があっても足りないもんね。で、そのプラシドの野郎は……」

 

 少年は屈んでプラシドの腕からデッキを取り出した。

 

「“計画通り”とはいえ、僕のカードを持ち出したのはやっぱむかつくぜ!デッキは全部もらっとくよ。こいつ当分動けそうにないし……あん?」

 

 Dホイール特有のエンジン音が聞こえたかと思えば、ジャック、クロウ、謎のD・ホイーラーが合流した。

 

「遊星!」

「遊星、無事か!?」

「ああ……それよりも……」

 

 遊星が再び視線をオブジェに向けると、集まった3人の視線もそこに注がれる。

 

「あいつらは……?それに綴、テイル!貴様ら、なぜそこにいる!?」

「それ2回目だぜ!もっともな疑問だけどさあ。話が回ってくるまではほっといてくれ、気になるのはこの二人だろ?」

「不動遊星、ジャック・アトラス、クロウ・ホーガン。ひとまずの役者は揃った。始めるぞ……ここにあるのは、シティとサテライトが統合された証のモニュメント。この下でお前達と出会うことも運命づけられていたとは皮肉なことだな」

 

 大柄の老人が語りだす。激昂するクロウ。

 

「今回の事件はテメェらの仕業か!」

「誰だ、貴様たちは!」

「まだ名乗っていなかったな、これは失礼。儂達はイリアステルの三皇帝」

「イリアステルの三皇帝?」

「イリアステルだと……」

 

 遊星とジャックが問い返す。

 

「儂はリーダーのホセ」

「ええ?やっぱあんたがリーダーってことにすんの?」

 

 ホセが少年を睨むと、若干委縮した。

 

「まあ、そうなるよな!僕がサブリーダーのルチアーノ。そしてこいつが一番下っ端のプラシドだ!」

「イリアステル!なぜネオドミノシティにこんなことを!?」

「それはこの二人にも語ってもらうとしよう……知ったところで“結果が変わる”ことはない」

 

 話を振られた綴とテイル。まずはテイルが口火を切った。

 

「このイリアステルの方々の目的は未来を変えること。前哨戦の時ちょろっと喋ったよな、おれ達みたいな奴がのさばるとろくな未来にならないって話」

「このままだと未来は破滅する……その破滅の未来を実際に目にし、僕達が測り知ることのできない絶望を味わったからこそ、イリアステルは結成され、その未来を変えるため彼らは有史以前からあらゆる手段をとってきた」

「おい、実際に目にしているだと!じゃあこいつらは……」

「その破滅の未来から来た超次元の存在ってことだ。とある一人の、いや神によって作り上げられた歴史修正組織。この説明で足りてるか?」

 

 テイルがホセに目配せする。彼は首を一度振ると、説明を引き継いだ。

 

「我々はこの地球上のあらゆる事象に浸透している。貴様らがどんなに手を尽くそうと、この男達が持つ知識があろうと、その全貌を掴むことはできまい」

「嘘つけ!じゃあ、世界中の政治家や起業家たちも、みんなテメェらの仲間ってことかよ!」

「世界の全てを動かすのに全ての人間に我々の存在を知らせる必要はない」

「どういうことだよ?」

「生物の世界に食物連鎖のピラミッドがあるように、人の世界にも権力構造のピラミッドが存在する。我々が操っているのは、その頂点にいるわずかな人間たちだ。我々はその者たちに利益を与える代わりに、世界の歴史を導かせている」

「な、なんだと?……だが、そのわずかな人間の中に綴達が入っているとでもいうのか!?なぜ、おまえ達の隣にいる!?答えてくれ、綴!」

「とうとう聞かれちゃったな!ちゃんと答えないとどうなるかはわかってんだろ?」

 

 ルチアーノが嗤う。綴は、意を決して話を始めた。

 

「僕は、あなた達チーム5D’s、そしてこのイリアステルが辿る未来の可能性の一つを知っているからよ。それは、破滅の未来を回避し、両者共に幸せな結末を迎えるもの。……だけど、その未来の中に僕は入っていない。あくまでそれは、僕が観測したものに過ぎない。だからこそ、その結末に近づくよう、僕はイリアステルからの勧誘を受けた。彼らの計画が進むことは、僕の知る可能性に近づくために必要だったから。そして遊星、あなた達チーム5D’sに伝説のカードを用いて闘いを挑んだのも、あなた達がその未来を辿る力があるかを確かめるため……」

「最初からオレ達を裏切っていたというのか!?その不確定な未来とやらのために!」

「裏切り、ではないだろ。むしろあんたらが幸せな結末を迎えることを願ったからこその行動だ。でもま、許されないことはしちゃってるんだよな。綴、自分で話せるか?」

 

 優しい声が問いかける。綴は一瞬の間をおいて頷いた。

 

「僕の罪は、その可能性の一つに拘って、辿るまでに出る犠牲を見逃したこと。クロウとアキさん、あなた達が狙われることを知りながら、僕は止めなかった。それどころか、イリアステルにその襲撃を推奨した」

「なんだと!?オレは肩一つで済んだが、アキは重傷を負ってもおかしくなかったんだぞ!それに、チームナレシーも出場ができねえ程の傷を負った!」

「……謝っても許されることではないわ。最終的な結末に囚われた僕が浅慮だった」

「これから綴をどう扱うかはあんたら次第だ。とはいえ、こっちもこの方々にアリアを人質にとられて、試練を与えられたばっかりなんでな。それも人の命にかかわる大仕事だ。できればほどほどに頼むぜ?」

 

 テイルが頭を下げる。瞬間、ホセの巨大な掌がその頭を掴み、身体ごと持ち上げた。

 

「ぐぅっ……!」

「テイル!ホセさん、やめて!」

「喋りすぎだ。自分の立場を弁えろ。身内に甘い態度を取りすぎだ。お前も可能性を秘めているといえども、湯上綴ほど重視されているわけではないのだからな」

「ここで始末したっていいんだぜ?湯上綴が絶望の中でどれほど足掻けるか試してやりたいくらいだ!」

「お前とアリア・ラスティが生きていられるのは神の慈悲によるものと知れ。二度目はないぞ」

 

 掌が開かれると、テイルは膝をついて倒れこむ。駆け寄る綴。

 

「大丈夫!?しっかりして!」

「へーき。ちょっと頭がクラクラするくらいだ。……お二方につきましては、大変失礼いたしましたよ、っと」

 

 ふう、と息を吐き、立ち上がろうとしてふらついた。綴が肩を貸す。

 

「無理しないで……」

「なんだ?あいつら仲間じゃねえのかよ?」

「綴の思惑を、イリアステルが利用しているんだろう。破滅の未来を変えようとしているイリアステルにとって、それを回避した未来を知る綴は重要な存在だ。試練を与えたというのも、綴に破滅の未来を回避する可能性があるか、試しているに違いない」

「だからといって、奴の罪がなくなったわけではないがな」

(……未来を知っている、か。彼らが私に忠告したのは、その未来と関わりがあるからか?)

 

 謎のD・ホイーラーが脳裏で考察していると、再びDホイールのエンジン音が近づいてきた。

 

「イリアステル!私のお父様とお母様を消したのは、お前達か!」

 

 シェリーの冴えた声が、ネオダイダロスブリッジに響く。

 

「歴史の修正で消えていく者など、一々覚えてはいない」

「なら、思い出させてあげるわ!!」

 

 シェリーが騎乗するDホイールが記念碑を高速で駆け上がり、ホセに突撃をかけた。

 

「今こそ、復讐を遂げる!!」

「小賢しい!」

 

 思いを乗せた一撃は、ホセの右腕一つで容易く止められる。驚愕するシェリー。

 

「なに!?」

「こんなことで儂を殺すことは出来んよ!」

 

 勢い良くDホイールが投げられる。シェリーは愛機から飛び降り、オブジェの上へと着地した。Dホイールは海へと沈んでいく。

 

「お嬢様ッ!!」

 

 シェリーに忠誠を誓うミゾグチもまた、Dホイールで突貫。ホセはそれを払いのけ、ルチアーノがプラシドの剣を構え跳躍すると、ミゾグチもデュエルディスクに備え付けた短剣で応戦する。

 

「こんな手が僕達に通用するかよ!」

 

 ルチアーノが中空で一回転し、ミゾグチに踵落としを喰らわせる。彼はオブジェの端に追いつめられた。

 

「人間とは傲慢で欲深な存在だ。故に人間は崩壊と創造を繰り返しながら歴史を作り出してきた。しかし、常にその影には我々イリアステルの力があった。我々は人間達が愚かな道を進もうとする度に正しい道を助言してきた」

 

 ホセが右拳を握りしめる。そこにはある種の絶望があった。

 

「だが我々は、どんなに歴史を修正しても、避けきれぬ未来があることを知った」

「僕達が語った破滅の未来の原因。それは遊星、あなたの父である不動博士が発明したモーメントが齎した災いによるもの」

「モーメントが開発された時、我々はルドガー・ゴドウィンを使い、モーメントそのものを消滅させようとした。しかし、それは全て無駄な努力だった。ゼロ・リバースごときでは、世界の歴史からモーメントが消滅することはなかったからな。そこで我々はこの事態を打開するために、この世界に新たな修正を加えることにした。それはネオドミノシティの消滅!」

 

 衝撃の宣告。この街を守るために戦ってきた遊星達に動揺が走る。

 

「なんだと!綴、それは本当なのか!?モーメントが破滅の未来を齎す原因であることも、イリアステルがこの街を消滅させようとしていることも!」

「本当よ。信じたくない気持ちはわかるけれど……」

「遊星、おまえの呪いはまだ終わってなんかいないんだぜ!」

「俺の呪い……」

「そんなことはさせない!」

 

 シェリーが一気に距離を詰め、ホセに強烈な蹴撃を喰らわせようとする。躱すホセ。

 そしてその脚をテイルが掴んだ。

 

「やめとけよ。このお二方は人間を超えた存在だ。リアルファイトで倒せる相手じゃあない」

「なぜ貴方が邪魔を!離しなさい!」

「返り討ちに遭って大怪我されたくないからさ。ミゾグチさん、勝てる勝てないの判断は流石につくだろ?お嬢様の無事を最優先するなら、一時撤退を推奨するぜ?そら!」

 

 掴んだ脚を反動をつけて投げると、シェリーの身体はミゾグチに受け止められた。

 

「テイル・バウンサー、余計なことはするなと言ったはずだが?」

「あのお嬢さんが抗ったところで、計画に支障はないだろ?こんな手段をとってくる時点で、本物のデュエリストじゃないんだからさ」

「ふん、いいだろう……」

「お嬢様!今は体勢を立て直すべきです!」

「待ちなさいミゾグチ!目の前に仇がいるのに……!!」

「みすみす死なせるわけにはいきません!」

 

 ミゾグチはデュエルディスクからパラシュートを展開。シェリーと共に降下する。

 両者ともに悔し気な表情を浮かべていた。

 

「ホセ、ルチアーノ!この街を消滅させるというのは、どういうことだ!」

「それが知りたければWRGPを勝ち進むことだ。本戦には我々も出場する」

「貴様らが、本戦に……?」

「これよりその準備を開始する。来たぞ……!」

 

 快晴の青空に、焼け燃えたような真っ赤な光が煌めいた。徐々にそれは地上へと近づき、記念碑を中心にあたかも炎の中にあるかのような光に一様に染め上げる。

 ホセが手を翳せば、その光は宙に留まり、石板となった巨大なカードが姿を現した。

 そこから放たれた光の粒子が、翳された掌に集まるとデッキが構成され、石板に罅が入り、割れた。ホセは自身の腹部に備え付けられた光のデュエルディスクを展開。5枚のカードを十字の形に並べていく。途端、ネオダイダロスブリッジに振動が走った。

 

「なんだ!?まだ何かあんのか!」

 

 不意に、大きな水飛沫が無遠慮にハイウェイ高架下の海から沸き起こり、鉄骨に反響して静寂を破る。水で覆われた巨大なシルエットが群青の空にせりあがっていく。

 

「これが我が力!」

 

 それは黄土色の人型兵器だった。頭部の赤いモノアイは、遊星達を睥睨しているようだ。圧倒的な巨体は水深に収まりきるサイズではない。どうあがいてもその存在を見上げてしまうほどの威圧感。胸部には機皇帝共通の、無限を示す形状の穴。奥に蠢くは青白い光。破滅の未来からの使者にして、絶望の象徴が降臨した。

 

「《機皇帝グランエル》!!」

「おお……デカさも俺らの神様より上だな」

「呑気だなおまえ!」

「チーム5D’sよ、真実を知りたければWRGPを勝ち上がるのだ。湯上綴、テイル・バウンサー、只人の身で歴史を変えようという傲慢さはいずれ裁かれる時がくるだろう……行くぞ」

「こいつの剣、まだ使えるかな?」

 

 ルチアーノがプラシドの剣で一閃。光の穴が生じ、ホセとルチアーノ、プラシドの残骸はその中に消えていく。遊星が制止するも、《グランエル》もまた姿を消した。高所に残された綴とテイル。

 

「えっ、と……僕達、放置されちゃったわね」

「このままだと降りらんねえな。おーい、謎のD・ホイーラーさん!おれ達を下まで連れて行ってくれねえか?」

「……私か?」

「他に誰がいるんだよ?一気に二人まとめて乗せられそうな形のDホイール、それしかねえだろ。断るならそれもいいが、遊星の師匠やってんだから、恰好はつけなくちゃあな?」

「……仕方ない」

 

 デルタイーグルが力学的法則を超えた加速をし、モニュメントの頂上に到達。綴とテイルが近づく。

 

「ありがとう、助かったわ。ところで僕達が渡した【ガジェット】使ってる?」

「【TG】との組み合わせも悪くないんじゃねえかなって思ってんだけど」

「……キミ達ならば、私の正体も知っている、か。機会があれば使う気はある、とだけ答えよう」

「安心して、僕達から遊星達にあなたの正体をばらすなんてことはしないから」

「まだわかってない記憶についても、話せる範囲のネタバレなら出来る。おれの店に来れば相談はいつでも乗るからな」

「感謝しよう。乗ってくれ」

 

 綴は謎のD・ホイーラーの身体にしがみつき、テイルはデルタイーグルの規格外の長さのあるフロント部分に跨った。操縦者の視界を遮ってしまっている。

 

「前が見づらいのだが」

「降りるだけだし、あんたなら余裕で出来る。いつでもいいぜ」

「まったく……いくぞ!」

 

 デルタイーグルが発進し、オブジェから跳躍。相当な高さにもかかわらずその機体は遊星達の近くに華麗に着地。運ばれた二人が下りる。

 

「どうもどうも。あ、おれ達のDホイールスタジアムに放置しっぱなしだ、どうすっかな」

「ゴースト共の襲撃の前に牛尾が回収していたぞ。連絡をすれば迎えをよこすはずだ」

「その前に、テメェらには聞きたいことが山ほどあるんだけどな!」

「ええ、イリアステルに排除されない程度のものであれば……」

「待てクロウ。まず謎のD・ホイーラー、あんたにも聞きたいことがある」

「……なんだ?」

 

 遊星が1歩近づく。謎のD・ホイーラーは赤いグラス越しに視線を合わせた。

 

「あんたは、俺がアクセルシンクロをすることを知っていた。シンクロを否定する機皇帝、シンクロを進化させるアクセルシンクロモンスター……それが同じような石板からカードを得た。これはどういうことなんだ?」

「私にもわからない。私が知っているのは、キミがいずれアクセルシンクロを完成させるということだけだ。だが、考えられるとすれば、キミに力を与えた者。それを運命の神と呼ぶなら、彼は迷っているのかもしれない。進むべき道を」

「運命の神……」

「僕から補足を入れるわ。彼は破滅の未来をなんとしてでも回避するため、あらゆる可能性を探っている。イリアステルの取る強硬手段も、遊星、あなたが示す希望も。僕に関しては、どこまで足掻けるか試されているだけよ」

 

 最後は肩を竦めて語った。敗者の身でどこまで出来るか不透明で、安心できていないからだ。

 

「おれからも追加情報。あんたらチーム5D’sが優勝しないとイリアステルの野望が達成されて街が消滅するのはほぼ確定。綴の知る未来には辿り着けない。他のチームも三皇帝に勝てる確率は0ではねえんだけど、進化の可能性って点ではあんたらが一番だ。期待してるぜ?」

「彼らの言う通りだ。キミ達の可能性が、希望の道を示すことになる」

 

 言いたいことは言ったとばかりに、謎のD・ホイーラーはデルタイーグルを駆り、去っていく。

 

「俺達の、可能性……」

「綴、テイル!貴様らは明日俺達の元に来い!話せることは話してもらおう!」

「わかっているわ」

「じゃ、おれらはここで牛尾さん達のお迎えを待つことにするぜ。またな!」

「ちゃんと来いよ!じゃあな!」

 

 遊星、ジャック、クロウもまた、スタジアムへ戻っていく。残った二人は、橋の脇によりかかってため息をついた。

 

「これからどうすんだ?アーククレイドルに突入するまで時間結構あるよな?」

「まず、僕達のデッキが【時械神】と相性が悪すぎることを解決しないといけないわ。どんな高い攻撃力を持っていても、あのテーマのモンスターの共通効果がそれを無意味にする」

「破壊されないうえに効果ダメージ持ちが数体いるもんな。まともに殴り合いはしない方向でいく……となると“アレ”か」

「ええ、それを扱う危険性を減らすためにも、遠出をしないと」

 

 ヴィラン達が策略を巡らせていると、テイルの端末からコール音が鳴る。画面上部に表示された名前を確認すると、すぐに応答ボタンを押下した。

 

「もしもし?」

『テイル・バウンサーか?牛尾だ。まずは無事か確認させろ。状況はどうなってる?』

「今おれは綴と一緒にネオダイダロスブリッジにいる。抹消はされなかったけどアリアが人質にとられた。決戦の場所に向かうことを奴さんは許してくれたけど、ある条件をクリアしないと殺すってさ」

『……ブルーノのことか?』

「答えられねえなあ。ま、全員生存はしてる。無事っちゃ無事だ。おれ達Dホイール置いてきたまんまだから、迎えをよこしてくれると助かるんだけど」

『わかった。湯上綴はどうしている?』

「本人の声聞いたらわかるんじゃねえかな。てなわけで代わるぜ」

 

 そら、と端末を綴に渡す。戸惑う男の娘。

 

「えっ?誰からの電話?」

「牛尾さんから。おれ達がスタジアムから急に消えたから、心配で状況確認しにきてくれた」

「そうなの……いい人よね、ほんと。もしもし!湯上綴です」

『おう、俺だ。……元気か?』

「え、ええ……色々あって疲れてはいますけどなんとか……」

「そうか、何よりだ。迎えはすぐに来るから心配すんな。今日はゆっくり休めよ!」

 

 通話は切られた。労われて、綴の中に暖かいものが広がっていく。

 

「なんだかお父さんみたいだった……」

「包容力溢れる年上の魅力、わかったか?」

「……ちょっとわかっちゃったかも。けど、牛尾さんは深影さん一筋なんだし、そもそも、遊星を好きなことに変わりはないんだからね!」

「へいへい、けど安心しただろ?……“この世界”では結んだ絆が力となる。縁は大事にしろよ?」

「テイル、そういう神様や仏様のお告げのようなことはよく信じてるわよね?お母さんの影響?」

「どうだろうなあ?家に神棚は飾ってたような、そうでないような……?ダメだな、そこんとこの記憶はすかーん、って抜けてる」

 

 首を傾げるテイル。綴は心配そうに彼を見上げた。

 

「大丈夫?もしかしてあなた記憶を奪われていたりしない?」

「あ、可能性あるかもな?けどZ-ONEがそんなことする理由はねえだろうし、なによりおれの身体はガキの頃から成長してるのは見ただろ。ブルーノちゃんみたいな高性能アンドロイドでもねえよなあ?んー、気のせいじゃね?」

「だといいんだけど……」

「心配すんな、何があってもおれは綴の味方だからさ。んなことより明日だ。質問攻めされんぞ?」

「わかっているわ。今日は牛尾さんの言う通り、ゆっくり休むことにしましょ……」

 

 そうして、次の朝が迎えられる。ディアブロ事件による被害のため、治安維持局によりWRGPの中断が発表された。

 ポッポタイムの前では、チーム5D’sの面々とシェリー、ミゾグチ。そして綴とテイルの計11人が集まっていた。

 

「どういうことなの?イリアステルの証拠が全部消えていたって?」

「事件の最中は全ての電子機器が停止。監視カメラの映像もなく、ゴーストのメモリーチップは全て削除されていた。証拠は何もかも隠滅されている」

「彼らの影響力は底知れないことがわかったでしょう?まともにやりあうならデュエルという土俵に立つしかない……」

「湯上綴、貴方は未来を知ると言っていたわね?それもチーム5D’sとイリアステルの両方が幸せな結末を迎えるというもの……つまり、破滅の未来を回避することができたということなのね?だけど、その未来で私の復讐は叶ったのかしら?」

 

 シェリーと綴の視線が交差し、空間を切り取った。一触即発の空気が流れる。

 

「あなたが満足する結果になったわ。けれど、その未来に辿り着くには結局のところチーム5D’sがイリアステルの三皇帝を打破しなければはじまらない」

「結局オレ達が頼みの綱ってことかよ。だけどな!そのためにアキが大怪我をする理由はあったのか!?」

「そりゃ、サイコ・パワーを失ったと身を以て自覚しないと、危ないからだな。あれ以上の命の危険をその力で回避しようとして、結果発動せずに死ぬのは嫌だろ?」

「テイル、庇わないで。アキさん、あなたは怖い思いをしたでしょう。ごめんなさい。許してもらおうとは思わないわ」

「……こういうわだかまりが生じた時、デュエリストならどうするか知っているわよね?」

「え?」

 

 綴が目を見張る。

 

「デュエルよ。怪我の影響もあるからスタンディング形式になるけど。受けてくれるでしょう?」

「ならオレも参加するぜ!この肩の恨み晴らさせてもらおうじゃねえか!」

「クロウ、それってアキ姉ちゃん一人だと心配だからなんじゃないの?相手は神を操るデュエリストなんだから」

「か、関係ねえよ!オレがやりたいだけだ!」

「遊星、いいのかしら?湯上綴にはまだ聞きたいことがあるんでしょう?」

「ああ、だがデュエルで分かり合うことも、また大切なことだ」

 

 アキとクロウ、綴が一定の距離を置いて対峙する。

 その距離が意味するもの、それは決闘盤を使ってデュエルを行うためのプレイヤー間にとるべき距離。

 互いがおいた距離が定まった時―――それは、デュエルを開始するという意思表示に他ならなかった。

 

「ルールを確認するわね。互いのライフは4000。初期手札も5枚。最初の1ターン目は誰も攻撃できず、全体破壊効果はお互いのフィールド全てに及ぶ。そして先攻は僕がもらう。これでよくて?」

「ええ、問題ないわ」

「ハンデがないからって後悔すんなよ!」

 

 高まる緊張感。それが、引き絞られた弦のように限界まで張り詰めたその刹那、

 

「「「デュエルッ!!」」」

 

 重なる美声が決闘の開始を宣言し、互いに硬く構えた総身を解放した。最初に動くのは綴。緊張と期待を孕んだギャラリーの視線が集中する。

 

「僕のターン、ドロー!僕はデッキからカードを3枚墓地に送ることで《光の援軍》を発動。デッキからレベル4以下の「ライトロード」を手札に加える。《ライトロード・マジシャン ライラ》を招集し、そのまま召喚するわ」

 

 先鋒として現れたのは予選最終戦でも登場した白き女魔術師。

 

「「ライトロード」……いきなり墓地にカードを溜めるつもりね」

「僕はカードを3枚伏せて、エンドフェイズに《ライラ》の効果発動!デッキからカードを3枚墓地に送る。そして、今墓地に送られた《ダンディライオン》の効果!2体の綿毛トークンを守備表示で特殊召喚する!」

 

 墓地から薄透明のライオンがくしゃみをすると、笑顔としかめっ面のついた綿毛が、それぞれ風に漂いながら浮かんだ。

 

「僕はこれでターンエンド」

「クロウ、私が先に行くわ。私のターン、ドロー!」

 

 アキはドローしたカードへと視線を落とす。

 すると、そのカードを目にしたアキは口元を僅かにほころばせた。

 

「《ローンファイア・ブロッサム》を召喚!」

 

 突然、地面から黄土色のツタが伸びてくる。そしてその先端に現れたツタよりも色の薄い実は丸く膨らみ、その頂点からは火花が迸っている。それはまさしく爆弾の様な実であった。

 

「《ローンファイア・ブロッサム》の効果発動。植物族モンスターである自身をリリースしてデッキから植物族モンスターを1体特殊召喚する!来て、《ギガプラント》!」

 

 爆弾状の実が弾け爆発し灰が地面に飛び散る。すると、地面から蔓の触手を複数生やした巨大な植物が生えてきた。赤い蕾状の頭部には2対の眼が備わっており、鋭い牙の生えた口からは涎が出ている。

 

「デュアルモンスターである《ギガプラント》に《スーペルヴィス》を装備!これにより、《ギガプラント》は再度召喚した状態となり、効果を得る!私は墓地の―――」

「その効果発動にチェーン!僕は手札から《D.D クロウ》を墓地に送り、アキさんの墓地の《ローンファイア・ブロッサム》を対象に取る。そしてそのカードを、除外する!」

 

 次元の裂け目から飛び出た改造された烏が、蕾を連れて裂け目へと連れて行った。

 

「くっ……けど、《ギガプラント》の効果は対象を選ばない。私は手札から《ボタニティ・ガール》を特殊召喚!」

 

 巨大な蔓がアキの手札から食虫植物の意向を凝らした女性を引き出す。

 

「カードを2枚伏せて、ターン終了!」

「ようやくオレのターンだな!ドロー!」

 

 クロウがその手をデッキホルダーにかけ、それを引き抜いた。

 

「オレは永続魔法《黒い旋風》を発動!そして《BF-蒼炎のシュラ》を召喚!」

 

 現れたのは藍色の羽毛を持つ鳥人。無数の羽を周囲に散らすと、旋風が舞い、クロウのデュエルディスクが反応する。

 

「「BF」モンスターの召喚に成功したことで《黒い旋風》の効果が発動するぜ!デッキからそのモンスターより攻撃力の低い「BF」モンスター1体を手札に加える!《シュラ》の攻撃力は1800!よって攻撃力1400の《BF-月影のカルート》を手札に!」

 

 サーチがクロウのデュエルを加速させる。狙いは迎撃か。

 

「カードを2枚伏せ、ターンエン―――」

「このエンドフェイズに僕は永続罠《王宮のお触れ》を発動!このカードが存在する限り、このカード以外の罠カードの効果は無効化される!」

「そうはいかないわ!植物族モンスターである《ボタニティ・ガール》をリリースし、カウンター罠《ポリノシス》を発動!その発動を無効にし、破壊する!」

「僕はそのカウンターに対し、カウンター罠《魔宮の賄賂》を発動!《ポリノシス》を無効化し、無効にされたプレイヤーはカードを1枚ドローする!」

「くっ……」

(クソッ!これで《王宮のお触れ》は成立しちまった!罠による迎撃が出来ねえ!)

 

 綴が罠を封じ、純粋な殴り合いの場を作り出す。

 

「ターンエンドだ!」

「僕のターン、ドロー!まず僕は《ライラ》の効果を発動!このカードを守備表示にすることで、相手フィールドの魔法・罠を1枚破壊する。僕が破壊するのは、当然《黒い旋風》!『ライトニング・スタッフ』ッ!!」

 

 杖から光弾が炸裂し、BFの追い風を消し去る。

 

「さらに僕は綿毛トークン1体をリリースし、リバースカードを発動させる!速攻魔法《エネミーコントローラー》!相手フィールドのモンスター1体を対象に、コントロールを得る!僕が対象とするのは、《ギガプラント》!左!右!A!B!」

 

 ABCのコマンドの付いたコントローラーが、綴の指示通りにボタンやキーを動かすと、端子を植物の魔物に接続させ、綴の場に移動させた。

 

「そして《ギガプラント》の効果発動!墓地の植物族モンスターを特殊召喚する!なにもなければ、《ダンディライオン》復活!」

「あの人はやっぱりうまい……」

「そして、奴の場には4体ものモンスターが存在している。来るのか!」

「僕は《ギガプラント》、《ダンディライオン》、《綿毛トークン》の3体を生贄に捧げる!」

 

 空に黒雲が立ち込めると同時、蒼い粒子が綴の背後に雪のごとく降り始める。それは徐々に眩い光を放ち、天にまで昇る巨大な蒼の柱となった。

 

「このエフェクトは、まさか!」

「おいで、僕の神様!無限の力を解き放て、《オベリスクの巨神兵》ッ!!」

 

 噴水広場にいた全ての人間、否、生物が見上げ、感嘆する。巨人、それは“神”。威風堂々聳え立ち、深い深い群青色で視界を染め上げる。何もかもが規格外。その威圧感は対峙する者を戦慄させる。

 

《オベリスクの巨神兵》ATK4000

 

「出やがったな!」

「これが神……!!だけど、《スーペルヴィス》が墓地に送られたことで効果発動!墓地に存在する通常モンスター扱いの《ギガプラント》を守備表示で特殊召喚!」

「僕も墓地に送られた《ダンディライオン》の効果発動!綿毛トークンを2体特殊召喚する!」

 

 再び植物の魔物と、極端な表情の綿毛が風に揺られながら登場。

 

「気をつけろ、アキ!《オベリスク》にはモンスター2体を生贄に捧げることで発動する最上級能力がある……!」

「残念。このターン、僕はそれを発動しないわ。そして僕はまだ展開を終えていない!」

「もう通常召喚はしちゃったでしょ?どうやって他にモンスターを出すの?」

「彼の墓地には、まだ未判明のカードが5枚ある。それを使うつもりなのかもしれない」

「はずれよブルーノちゃん。見せてあげるわ、究極を!僕は、綿毛トークン2体と《ライラ》をリリース!」

 

 3つの魂が血液となって決闘場の石畳に溶けていく。

 ごぽり、と沸き立つような音を立てて血の柱が《オベリスク》の頭部と同等の高さにまで昇り立つ。蒼き神と反比例するような昏い赤。それが一気に飛沫を立てて弾けると、その中にはダークヒーローが在った。

 背中には世界に叛逆するかのような、巨大な三つの鋭利な爪と灰色の翼。右腕には鋭い牙を生やした生物の頭部。腰からは龍を思わせる巨大な尾。禍々しさの要素をこれでもか、と詰め込んだ英雄。

 

「カモン、運命を司る究極の英雄!《D-HERO Bloo-D》ッ!」

 

 それは凶悪な姿でありながらも、神同様、観るものを引き付けた。

 

《D-HERO Bloo-D》ATK1900

 

「3体もリリースを要求するというのに攻撃力が1900しかない……?何かあるわね」

「察しがいいわねシェリーさん。《Bloo-D》が場に存在する限り、相手フィールド上の表側表示モンスターの効果は無効化される!」

「えぇっ!罠も無効化されているのに、モンスター効果も無効にしちゃうの!?」

「それだけじゃないわ!《Bloo-D》は、相手フィールドのモンスター1体を吸収する能力がある。僕は、《シュラ》を選択!『クラプティ・ブラッド』ッ!!」

 

 ダークヒーローの翼から血が飛び出すと、鳥人はそれに包まれ、逆流するかのように翼の中へと取り込まれた。

 

「んなッ!?」

「そして吸収したモンスターの元々の攻撃力の半分の数値分、このカードの攻撃力はアップする」

 

《D-HERO Bloo-D》ATK1900→2800

 

「まずいぞ、今のフィールドの状況は……!!」

 

LP:4000

Hand:0

Monster:《オベリスクの巨神兵》《D-HERO Bloo-D》

FieldMagic:

Magic&Trap:《王宮のお触れ》《BF-蒼炎のシュラ》

 

アキ

LP:4000

Hand:2

Monster:《ギガプラント》

FieldMagic:

Magic&Trap:Set1

 

クロウ

LP:4000

Hand:3(1枚は《BF-月影のカルート》)

Monster:

FieldMagic:

Magic&Trap:Set2

 

 クロウの場にはモンスターが存在していない。そしてアキの場にも守備表示の《ギガプラント》が1体のみ。伏せカードによる迎撃も、《王宮のお触れ》によって半ば封じられた状態。

 

「おおっと、まずいぞ二人とも。クロウには《アレ》があるが、アキさんはどうかな?」

「バトルよ!まずは《Bloo-D》で、《ギガプラント》を攻撃!『ブラッディー・フィアーズ』ッ!」

 

 恐怖を与える血の雨が、守備体勢を取っていた巨大な植物を襲い爆散させる。

 

「そして……《オベリスクの巨神兵》でアキさんにダイレクトアタック!『ゴッド・ハンド・クラッシャー』ッ!!」

 

 完全無防備状態を戒める豪腕が、圧倒的衝撃波を伴いながらアキに迫る。

 

「「アキ!」」「十六夜!」「「「アキさん!」」」「アキ姉ちゃん!」

 

 仲間が叫ぶ。いつの間に増えていた観客も口を手で押さえる。

 迫る死刑宣告。果たして、アキの運命は―――




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Q.迷ったときにはどうするか?
A.デュエルしようぜ!
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