16話 光の裏の契約
星々の瞬きを見逃すことのないほど、綺麗な夜空が広がっていた。
ネオドミノシティから遠く離れた地、ナスカ。
荒涼とした地には数々の地上絵があり、地縛神が眠っている。
その神たちを鎮めるため、赤き竜の化身たるケッツアーコアトル神を祀る神殿が、この大地の中心に築かれている。
その近くには簡易な住居があった。芯まで柔らかく暗い常闇の中で、ボマーときょうだいであるマックスとアニーは静かに眠っていた。
しかし、悪夢を見せられたボマーの叫び声が、夜の静寂を破った。
「うわぁああああッ!!」
「どうしたの?ボマー兄ちゃん?」
「はぁ……はぁ……」
「すごい汗。大丈夫?」
起きたマックスとアニーが心配そうな表情で見つめる。ボマーは呼吸を整えた。
「大丈夫だ。すまない、起こしてしまって。さあ、お休み」
「うん」
「おやすみなさい」
再びきょうだいが眠るのを確認すると、夢の内容を反芻する。ジャック・アトラスが、己の魂たる《レッド・デーモンズ・ドラゴン》によって焼かれる夢。
心を落ち着けるため、窓から神殿を眺める。すると、何かに導かれるかのようにノートパソコンを開き、メッセージを不動遊星に宛てて送った。
その直後だった。Dホイール独特の駆動音が耳に届き始めたのは。
「なんだ?」
半裸だった身を整え、外にでる。
すると、二機のDホイールが視界に入った。神殿の前で停車している。
一機は翡翠色の鳥を模した『スーパーライザー』、もう一機は悪魔を模した蒼き『アヴァール・デモン』。搭乗者は機体から降りると、ヘルメットを外し、ボマーに視線を向けた。
「よう、ボマーさん。おれらのことは知ってるか?」
「チームエイチクロス、って言えば伝わるかしら?」
「勿論知っている。チーム5D’sと激戦を繰り広げた、伝説のカードを操るチーム。テイル・バウンサーと湯上綴。君達は何を目的としてここに来た?」
「これよ」
綴が1枚のカードを見せつける。黒き鯱の姿が描かれたそのカードは、《地縛神 Chacu Challhua》。かつて、ダークシグナーに堕ちたボマーが所有していた、罪の象徴。
「なぜ君がそのカードを!?」
「よーく見てみろ。これは秘密結社Kが作った伝承用のカード。効果は弱体化してるし、特別な力も、邪悪な意志も宿っちゃいない。ただ、やっぱ懸念点があってな。使用にあたってここに眠っている地縛神の依り代になる可能性がある」
「僕達はこれらのカードをネオドミノシティを守るために使いたいの。そこまでしないといけない脅威が街に迫っている。けど、召喚の際にそこに住む人々の魂を生贄に捧げるなんてことになったら本末転倒でしょ?」
「だから、守り神であるこのケッツアーコアトルの御前で試さないといけないのさ。おれ達が「地縛神」を制御することができるかをな」
「だからデュエルよ。あなたがこの罪の象徴を打破することが出来れば、鎮魂は完全なものになる。一方で僕達が完全に制御出来たのなら、それもまた鎮魂に成功していると言える」
「……いいだろう。その勝負、受けて立つ!」
因縁のカードを持つ相手を前に、逃げることなどできない。ボマーは覚悟を決めた。
「折角だしライディングデュエルでやろうぜ?そのためには、準備が必要なんだろ?」
「ああ。テイル、君には手伝ってもらおう」
そうして、鯱の地上絵に沿って並べられた燭台に火がともされる。
それは鎮魂の火となるか、それとも、魂を焼く炎となるか。
地上絵のコースに、ボマーの規格外のDホイールとアヴァール・デモンが並ぶ。
両者共に準備が完了しようとしている状態。そこにテイルがボマーに駆け寄る。
「あ、これ渡すの忘れてた。どうぞ」
「これは……!?だが、ダークシンクロモンスターではない?」
渡されたのは《ダーク・フラット・トップ》。罪の象徴たるダークシンクロモンスターのはずが、穢れのない白い枠の正規のシンクロモンスターとしてそこにあった。
「元は闇の力だったかもしんないけどな、うまく自分の力に出来りゃ、それもまた克服と言っていいんじゃねえの?使う使わないはあくまであんたの判断だけど」
「これもまた試練だ。ありがたく受け取らせてもらう」
「じゃあ、これで儀式の準備は整ったわね。いくわよ」
互いにDホイールを操作し、ライディングデュエル用のAIを起動させる。
「「フィールド魔法《スピード・ワールド2》セット!」」
『DUEL MODE ON. AUTO PILOT STAND BY』
二機を中心に広がっていく、速さが力に変わる世界。その中で信念を賭けて、男達が声を張り上げた。
「「ライディングデュエル・アクセラレーション!!!」」
アヴァール・デモンに特別なエンジンは組み込まれていない。
ボマーを追い越そうとしても、間違いなくその巨大なDホイールに妨害されるだろう。故に、綴はあえて速度を落とした。適度に緩むことで、いつでも飛び掛かれる凄みの有る態勢。
最初のコーナーを曲がったのはボマー。そのまま先攻を奪われる。
「私のターン!」
ボマーSPC0→1
綴SPC0→1
引き当てたカードを含めた6枚のカードを元に、戦術を組み立てていく。
「私は《Sp-オーバーブースト》を発動!SPCを6つ増やす!」
ボマーSPC1→7
「あら、いきなりスピードスペルを連発するつもりね?」
「SPCを4つ取り除き、手札からモンスター1体を墓地へ送ることで《Sp-ワン・フォー・ワン》を発動!デッキからレベル1モンスターである《ダークシー・レスキュー》を特殊召喚!」
ボマーSPC7→3
ゴムボートに乗った二人組の覆面男がスピードの世界に先鋒として登場。
「さらにSPCを3つ取り除き、《Sp-闇の誘惑》を発動!デッキからカードを2枚ドローし、手札から闇属性モンスターを除外する。私が除外するのは《サモン・リアクター・AI》!」
ボマーSPC3→0
着々と切り札の召喚への準備を進めていく。その様子を綴は黙したまま見ていた。
「そして私はまだ通常召喚を行なっていない!チューナーモンスター《ブラック・ボンバー》を召喚!このカードの召喚に成功したことで、墓地に存在する機械族・闇属性・レベル4モンスターを特殊召喚する!蘇れ、《トラップ・リアクター・RR》!」
「おっ、モンスターの合計レベルは8か。早速呼び出すんだな」
「私は、レベル1の《ダークシー・レスキュー》とレベル4の《トラップ・リアクター・RR》に、レベル3の《ブラック・ボンバー》をチューニング!」
笑顔が付いた爆弾が三つの円環となり、覆面男達と爆撃機の人型ロボットを包み込む。包み込まれた機械達は五つの星となり、シンクロ召喚特有の緑の閃光を放つ。
「闇したたる黄泉に沈みし戦船よ、怨念の碇を捨てて、光の世界に浮上せよ!—――シンクロ召喚!現れろ!《ダーク・フラット・トップ》!」
閃光が晴れれば、紫紺の巨大空母が空を占める。戦闘機部隊を修理・展開することに特化した、捻子と鉄板の錬金術師。
《ダーク・フラット・トップ》DEF3000
「《ダークシー・レスキュー》がシンクロ素材となったことで、カードを1枚ドローする。そして、《ダーク・フラット・トップ》の効果発動!墓地の「リアクター」モンスターを復活させる!蘇れ、《トラップ・リアクター・RR》!」
長い長い滑走路から、修理された爆撃機が出撃。空をさらに制圧する。
「カードを2枚伏せ、エンドフェイズに《オーバーブースト》の効果で私のSPCは1になる」
ボマーSPC0→1
「僕のターン、ドロー!」
ボマーSPC1→2
綴SPC1→2
綴が行動する前に、先んじてボマーが動く。
「このスタンバイフェイズに永続罠《闇次元の開放》を発動!除外されている闇属性モンスターを帰還させる!戻ってこい、《サモン・リアクター・AI》!」
エンジン音を轟かせ、《トラップ・リアクター・RR》よりも大きな人型戦闘機が現れる。両肩に備えたプロペラが激しく回転し、その重低音を以て空気を振動させているかのような錯覚を与える。
「もう少しで布陣完成といったところかしら?なら、僕も早く呼び出さないとね。
《終末の騎士》を召喚!召喚成功時、効果発動!デッキから闇属性モンスターを墓地へ送る!」
「相手フィールドにモンスターが召喚されたことで、《サモン・リアクター・AI》の効果発動!相手に800ポイントのダメージを与える!」
「ふふっ、必要経費よ!」
綴:LP4000→3200
「《終末の騎士》の効果解決。墓地に送るのは《地縛神 Chacu Challhua》!」
「狙いは墓地からの復活……!」
「僕はカードを4枚伏せて、ターンエンド!」
空の制圧に対し、地雷を埋めることで対抗する。
「私のターン、ドロー!」
ボマーSPC2→3
綴SPC2→3
あからさまに罠を張られている状況。しかし、ボマーは進んだ。己が信念のために。
「私は《マジック・リアクター・AID》を召喚!」
竜の姿を模した爆撃機の1体が、さらに空を埋めていく。
「そして、3種類の「リアクター」が揃ったことで、《サモン・リアクター・AI》の効果!このカード達を墓地に送ることで発動!デッキからあるモンスターを特殊召喚する!」
「その効果にチェーンし、罠発動!《早すぎた復活》!墓地から「地縛神」を復活させる!さあ、どんな光景を見せてくれるのかしら?顕現なさい!《地縛神 Chacu Challhua》!」
「来るか……!!」
驚天動地。墓地の深淵より巨躯が這い上がり、地の境界から超弩級の鯱が迫りあがる。舞い上がる大波。コースを彩る火が紫色へと変化し、大鯱が浮上した瞬間、地上絵一帯を覆いつくすほどの波紋が広がった。
《地縛神 Chacu Challhua》DEF2400
「……魂を吸収するなんてことはないみたいね。さあ、あなたも切り札を召喚なさい!」
「挑ませてもらう!来い、《ジャイアント・ボマー・エアレイド》!!」
3体の「リアクター」の技術の粋を合体させた、巨大なる人型近代殺戮兵器。爆撃用のミサイルを下部に、プロペラを翼に、機関銃を先端に。超弩級サイズの強襲爆撃戦闘機が、大空でかつての罪と睨みあう。
《ジャイアント・ボマー・エアレイド》ATK3000
(相手は召喚を妨害しなかった。ならば、セットカードは地縛神を守るカードに違いない。だが、《地縛神 Chacu Challhua》は守備表示の時に敵にバトルフェイズを行わせない効果、そして攻撃権利を破棄する代わりに効果ダメージを与える能力を持つ。持久戦になればこちらが不利。ここは相手にカードを切らせる!)
「私は手札を1枚墓地に送り、《地縛神 Chacu Challhua》を対象に《ジャイアント・ボマー・エアレイド》の効果発動!対象カードを破壊する!堕ちろ、『デス・ドロップ』ッ!!」
「勿論通すはずがない!カウンター罠《闇の幻影》を発動!闇属性モンスターを対象にする効果モンスターの効果を無効にし、破壊する!」
殺戮兵器が高度を上げ、がらがらと標的に爆弾の雨を降らせる。だが命中したと思えばそれは幻。神に歯向かう愚を犯した罰か、瘴気が戦闘機を覆い、爆散させた。
「やはりその手のカードがあったか!だが、《ダーク・フラット・トップ》の効果発動!墓地より《ジャイアント・ボマー・エアレイド》を復活させる!」
即座に修理され、発進する脅威の殺戮兵器。綴が嗤った。
「ふふ、使いこなしているようでなにより。一々迎撃しても何度でも復活するその布陣。厄介だわ。けれどそこには穴がある!僕のターン、ドロー!」
ボマーSPC3→4
綴SPC3→4
ボマー
LP:4000
SPC:4
Hand:0
Monster:《ダーク・フラット・トップ》《ジャイアント・ボマー・エアレイド》
FieldMagic:《スピード・ワールド2》
Magic&Trap:Set1+《闇次元の開放》
綴
LP:3200
SPC:4
Hand:2
Monster:《終末の騎士》《地縛神 Chacu Challhua》
FieldMagic:《スピード・ワールド2》
Magic&Trap:Set2
地縛神と共にスピードの世界を駆ける。そこにあるのは畏れと敬意。
(今のところは何も被害は出ていない。けれど、火の色は変わった。……これは見ているぞ、っていう警告かしら?でも、やるしかない)
「《早すぎた復活》で蘇生された地縛神が攻撃しても、相手に与える戦闘ダメージは0になってしまう。けれど、効果ダメージは別!《地縛神 Chacu Challhua》の効果発動!1ターンに1度、相手ライフにこのカードの守備力の半分のダメージを与える!『ダーク・ダイブ・アタック』ッ!」
大鯱が大地を透過し地中へ潜る。
背ビレ一つを地表に突き出し、大地を泳ぐ。その巨躯が移動する。それだけで大波のような衝撃波が巻き起こる。防御不能。回避不可。黒い衝撃波がボマーを機体ごと覆う。
「ぐうぅぅううッ!」
ボマー:LP4000→2800
だが、ボマーもDホイールも無事だった。肉体と走行に支障がないことを確認して、ほっ、とため息をつく。
「一応確認しておくわ。ダメージの実体化はない?」
「ああ……どうやら君達の言った通り、その地縛神に力はないようだ。だが、油断するな。何が起きてもおかしくはない」
「じゃあ、何が起きても驚かないで頂戴。《終末の騎士》を守備表示に変更。そして……僕は《ダーク・フラット・トップ》と《ジャイアント・ボマー・エアレイド》をリリース!」
「なに!?」
地表から溶岩の腕二本が勢いよく射出。空に蔓延る戦闘兵器と母艦を握りつぶす。
重力に従って腕が地表に落ちれば、ずるり、と溶岩で構成されたゴーレムがボマーの右横に這い出てきた。当然、腕は再構築されている。
「《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》をあなたのフィールドに特殊召喚!」
鉄製の檻をぶらさげたゴーレムが、その鈍重そうな見た目に反し、すいすいとボマーのDホイールに並走。紫色に染まった灯とあいまって、ボマーは灼熱の中にいるような錯覚を覚えた。
「なるほど、攻撃を制限し効果ダメージで攻める戦術か」
「その通り。《ラヴァ・ゴーレム》はコントローラーのスタンバイフェイズに灼熱の身体を溶かし、1000ポイントのダメージを与える。そして《地縛神 Chacu Challhua》によって攻撃は止められた状態。あなたが兵器で制圧しようというのなら、僕は大波と溶岩という自然現象で対抗するわ。僕はこれでターンエン―――」
「君のエンドフェイズに永続罠《リビングデッドの呼び声》を発動!墓地より《ダーク・フラット・トップ》を攻撃表示で発艦させる!」
地面から浮上する巨大母艦。ボマーは自嘲する。
「ダークシグナーから生者として復活した私が、このカードを使うのも皮肉なものだが……贖いの為ならば使えるものは使わせてもらう」
リビングデッド、即ち生ける屍。まさしくダークシグナーを表している。
「それであなたの気持ちが晴れるのなら、ね。後悔のないデュエルをしましょう?改めて、ターンエンド!」
「私のターン、ドロー!」
ボマーSPC4→5
綴SPC4→5
スタンバイフェイズを迎えたことで、ゴーレムの身体から溶岩が、ボマーのDホイールへと流れ込む演出が入る。
ボマー:LP2800→1800
だが、彼に動じる様子は見られない。油断なく敵を見据えるのみだ。
「《ダーク・フラット・トップ》の効果発動!三度発進せよ、《ジャイアント・ボマー・エアレイド》ッ!」
不屈の意志の表れか。何度でも近代戦闘兵器は飛翔する。
「そして私は手札を1枚墓地へ送ることで、《ジャイアント・ボマー・エアレイド》の効果を再び《地縛神 Chacu Challhua》に対し発動!今度こそ堕ちろ!『デス・ドロップ』ッ!!」
「チェーンはないわ。ごめんね、《Chacu Challhua》?」
無数の爆弾による超高度爆撃が大鯱を襲い、いたるところでその巨躯に爆風が巻き起こる。耐えきれず断末魔をあげて地面に沈みゆく地縛神。
その光景を信じられない、という風に見ていたのは効果を発動したボマー自身だ。
「……倒したのか?」
「ええ。あなたの執念がかつての罪の象徴を堕とした。あっけなくて実感がないのかもしれないけど、誇るべきことだわ。後は僕を仕留めるだけね?」
「君の伏せカード2枚の中に、《Chacu Challhua》を蘇生するカードがないとは言い切れまい」
「なら、この地の守り神たるケッツアーコアトルに誓って断言しましょう。ないわ!」
ドヤ顔で言い放つ綴。そこに嘘があるとは思えないほどの潔い宣言だった。
ボマーも納得したが、リバースカード2枚への警戒は怠らない。
「いいだろう。では《ダーク・フラット・トップ》を守備表示に変更し、バトルだ!《ラヴァ・ゴーレム》で《終末の騎士》を攻撃!『ゴーレム・ボルケーノ』ッ!」
溶岩魔神の口内から放たれた火山弾が守備体勢を取っていた騎士に直撃。灰となって散る。
「……」
(攻撃が通った?いや、《ディメンション・ウォール》の可能性もある。攻撃を反射されれば私の敗北だ。だが……そのような形で彼がこのデュエルを終わらせるとは思えない。ここは攻める!)
「《ジャイアント・ボマー・エアレイド》でダイレクトアタック!『デス・エアレイド』ッ!」
放たれる数十のミサイル。伏せカードは開かれることなく、綴に直撃し、爆発。砂煙を起こす。
「ううっ……」
綴:LP3200→200
(なにも発動しないのか……?だが、火はまだその色を変えたままだ。おそらく……)
「私はこれでターンエン―――」
「エンドフェイズにSPCを2つ取り除き、《Sp-終焉の焔》を発動!僕のフィールドに2体の「黒焔トークン」を守備表示で特殊召喚する!」
綴SPC5→3
単眼の付いた焔が2つ、不気味に揺らめいている。紫色へと変化した灯もまた、勢いを増す。
「そのカードを使えば、《ジャイアント・ボマー・エアレイド》の攻撃を防ぐことが出来た。だが、このタイミングで発動したということは……」
「そう、このトークンはアドバンス召喚のためのリリースに使用できる!闇属性限定ではあるけれどね」
「だが、知っているだろう。君のターンに君がモンスターを召喚・特殊召喚した時、《ジャイアント・ボマー・エアレイド》はそのモンスターを破壊し、800ポイントのダメージを与える。残りライフ200では何を召喚したとしても、破壊されれば先にライフが尽きるのは君の方だ!」
「なら、試してみればいいじゃない。ターン終了でいいかしら?」
「……ターンエンドだ!」
(仮に破壊耐性を持っていたとしても、墓地に捨てた《超電磁タートル》でバトルは回避できる。できる、が……)
胸騒ぎを覚える。《地縛神 Chacu Challhua》は鎮めた。《ダーク・フラット・トップ》を光の道の標とし、己が罪とは向き合えたはずだ。しかしさらなる試練が待ち受けていることを状況が、綴の余裕が、伝えてくる。
「僕のターン、ドロー!」
ボマーSPC5→6
綴SPC3→4
ボマー
LP:1800
SPC:6
Hand:0
Monster:《ダーク・フラット・トップ》《ジャイアント・ボマー・エアレイド》《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》
FieldMagic:《スピード・ワールド2》
Magic&Trap:《闇次元の開放》《リビングデッドの呼び声》
綴
LP:200
SPC:4
Hand:2
Monster:「黒焔トークン」「黒焔トークン」
FieldMagic:《スピード・ワールド2》
Magic&Trap:Set1
綴は引いたカードを確認したが、それとは別の、初期手札にあったカードを繰り出す。
最初のターンが始まった時から、彼には計画があったのだ。
「僕は、2体の「黒焔トークン」をリリース!」
黒い焔が天に昇ると、その穴蔵から規格外のハチドリが翼を広げ、降下する。太陽と縁が深いからか、漆黒の身体に走るラインは夕陽色。上空50―――25―――10メートル――吹きすさぶ強大な風。空に蔓延る戦闘兵器達をも怯ませる巨躯。
「降臨せよ、《地縛神 Aslla piscu》ッ!!」
大気を歪ませる圧倒的存在感がボマーを震撼させた。
「ッ……やはり2体目の地縛神を!だが、《ジャイアント・ボマー・エアレイド》の効果発動!召喚されたモンスターを破壊し、相手に800ポイントのダメージを与える!『シャープ・シューティング』ッ!」
「リバース・カード・オープン!《亜空間物質転送装置》!《地縛神 Aslla piscu》をゲームから除外する!」
胸と胴体に装備された機関銃の掃射により迎撃を行わんとする。だが、ハチドリの姿は消え、弾は無駄打ちに終わった。
「破壊されなければダメージは与えられない。残念だったわね?」
「だが、これで君も攻撃手段を失った」
「それはどうかしら?すでに勝負はついている!フィールドから離れたことで《地縛神 Aslla piscu》の効果発動! 相手フィールドの表側表示モンスターを全て破壊し、1体につき800ポイントのダメージを与える!」
「私の場には、モンスターが3体……!!」
「合計2400ポイントのダメージを受けてもらうわ!吹きすさべ、極限の烈風!」
極大の大嵐が、殺戮兵器も母艦も溶岩のゴーレムも巻き込んで切り刻む。敵を巻き込むことで、さらに勢いを増す嵐。容赦のない一撃が、ボマーを襲った。
「ぐうぅううううッ!」
ボマー:LP1800→0
白煙を出してDホイールは軸をブレさせながらも停止。紫色だった灯も、元の色に戻る。綴はアヴァール・デモンから降りてボマーに駆け寄った。
「大丈夫!?」
「ああ、体に異常はない。……君は最初から《Aslla piscu》で決着をつけるつもりだったのか?」
「ええ、《Chacu Challhua》を鎮めるというあなたの目的を達成させたうえで、という前提でね。もっとも、結局このカード達は秘密結社K製の伝承用のまま。危険性がないことが分かった以上は、この状態をキープした方がいいかもね」
(くふふふふッ。そんなの嘘。アナタの望みはさらなる力を得ること!空っぽの地縛神でも見事な勝利を得たアナタが、真の力を得た地縛神を手に入れれば、運命の神とやらにも勝てちゃうよ?)
綴の脳内に響く声。綴はこの人を喰ったような口調をする者を知識として知っている。
「う……しもべちゃんが何の用かしら?あなたのターゲットは別にいるでしょう?」
(もちろんそちらも狙っておりますが……我が主が仰っております!汝、その欲に従っちゃいなよって、んひひひひッ)
「君、どうした?」
「あー……地縛神を使ったから紅蓮の悪魔のしもべに干渉されてる。ちょい待ち、綴、借りんぞ。あとごめん」
テイルが綴のデッキから《Chacu Challhua》と《Aslla piscu》を丁寧にひったくると、思いっきり頭突きをかました。
「痛ッ!……テイル、止めてくれたのね」
「待ってくれ君達。紅蓮の悪魔がすぐ近くにいるというのか!?」
「正確にはそのしもべが暗躍してる。近くの村での家畜殺しもそいつの仕業。ついでに精神干渉はお手の物ってね。綴、《アバター》を天に翳せ。んでもって、ボマーさんはおれと一緒にお祈りだ!手を合わせて、拝礼!」
「え?わ、わかったわ!」
「奴を退けるのだな、わかった!」
2人が手を合わせてお辞儀をすると、綴の指先の邪神のカードが光り、辺り一帯を照らし、邪念を払わんとする。
(こ、小癪な真似を!我が主に歯向かうとは恐れ知らずにも……!!)
(それなんだけどさ、あんたらの計画におれを1枚噛ませてほしいんだな。ジャック・アトラスを煽る役はおれがやる。《Aslla piscu》がいるんだ。条件は揃ってるぜ?)
悪魔の誘いには悪魔の誘いを。光が満ちる中でテイルがしもべに干渉する。
(……何が目的ですかアナタ?契約とはお互いに利益が発生するよう行うものですよ?)
(あんたがジャックと契約の儀式を行うときにおれ達が持ってきた地縛神を貸してやるよ。あんたに操られて奪われたってことにするけど、最強の《地縛神 スカーレッド・ノヴァ》ならあいつらを本来の力を取り戻した状態にできるだろ?ただし、あんたがジャックに負けたら地縛神は返してもらう)
(なるほどなるほど。しかしそれだとワタクシに利益がありません。そもそも、借りずともワタクシが勝っちゃうよ?)
(利益ならあるだろ?奪ったジャック・アトラスの肉体が持つデュエルセンスなら、地縛神全員従えて、赤き竜を完全に滅することも可能だ。念願の復讐が叶うぜ?あと、【黄泉】だと負けるの確定だぞあんた。綴はそれを観測してる。地縛神を繰り出した方が勝てるんだなこれが。封印されてるあんたの主の力も発揮できるしな。他の奴には秘密だぜ?)
(…………いいでしょう。ただし!余計なことをすればアナタと湯上綴は我が主の生贄になりますよ!)
(それは覚悟の上さ。契約成立、だな)
光が晴れれば、何事もなかったかのように3人は鯱の地上絵の中で立っていた。ため息をつく綴とボマー。
「いなくなったみたい……」
「その神が君達の守り神なのだな」
「ええ、ちゃんと神頼みしないといけないくらい、礼儀には厳しいけれど」
「WRGP予選の後から毎日おれの家の神棚に飾って朝から拝み倒してるくらいには、ありがたい存在だからなー」
「妄信せず信仰することは良いことだ。実際にこうして助けてくれたのだからな…………しかし、君達はさらなる神の力を求めるのか」
「本当に大切なものを守るために必要だから……だめかしら?」
上目遣いで見上げる。あざとい。
「いいや、君に悪用する気がないことはデュエルでよくわかった。地縛神を制御したうえで私の想定を上回った、見事な戦術だったよ」
「こちらこそ、あなたの信念は見事だったわ」
握手をしっかり交わし、縁を結ぶ。満足そうに頷くテイル。
「ところで、あれはあんたの家族?」
神殿の影で、マックスとアニーが身を潜めてこちらを伺っていた。
「マックス、アニー!無事か!」
「う、うん」
「ごめんなさい、けど、派手な音がしたと思えばすごいデュエルをやっていたから目が離せなくなっちゃって」
「マックスったら戻った方がいいって言ったのに、最後まで見たいって……」
「仕方ないな……デュエルを受けた私にも否はある。ほら、もう終わったんだから今度はちゃんと寝るんだぞ」
きょうだいの背中を押して家まで送っていく。
「はーい。けど、明日になったらそこのお姉ちゃんにもデュエルの話を聞きたいな」
「僕、男の子よ?勘違いさせちゃってごめんなさいね」
「え?そうなんですか?綺麗だからてっきり……」
「おお、綴のかわいさを素直に受け止める貴重な存在」
「お褒めに預かり光栄よ、アニーお嬢ちゃん。ちゃんと寝ないと美貌は保てないから、夜更かししないでね。おやすみなさい」
「「おやすみなさい!」」
ボマーたち3人を見送る綴とテイル。そこには懐かしさと寂しさが浮かんでいた。
「子供って元気よね。アリア、今頃どうしているかしら……」
「しっかりやっているって信じるしかねえさ。あいつもブルーノちゃんも助ける。ここに来たのはその下準備。心配するのはいいが、やることやらねえとどうにもなんねえぞ」
「わかっているわ。じゃあ、テントの準備をしないと」
「今だと広げるだけで立派なものができるんだから技術の進歩ってすげえな。あ、地縛神はこのまま俺が預かっとくぜ。マックスを巻き込まないためにも、俺がジャックの相手をする。その予定だったろ?」
「ええ、ちゃんと管理するのよ?」
「ばっちこい。そんじゃ、おやすみ!」
テントの中で男二人が眠る。猥褻は勿論なかった。
そして3日が経った。マックスは大人げないテイルに【爆風ライザー】を使われながらも、パワーデッキの闘い方を教えてもらい、アニーは綴に化粧や御洒落の仕方を習った。
きょうだいが外の人間に懐いている姿を見て、ボマーは感慨にふけっていた。
夕方になり、遊星号とホイール・オブ・フォーチュンがケッツアーコアトルの神殿に近づくと、ボマー、綴、テイルが手を振って応じた。
「ボマー!綴!テイル!」
「遊星、よく来てくれた。ジャック、久しぶりだな」
ボマーが両者と握手を交わす。
「ふん、貴様の戯言に乗って、わざわざ来てやった」
「久しぶりね?遊星、ジャック」
「よう、お久しぶり」
綴、テイルもまた握手を交わす。綴は遊星の手を握る時間が少し長かったが、好いていることがわかっているためか遊星もそういうものとして受け入れた。
そして、ボマーがこの神殿の説明を始めると、マックスとアニーがジャックに駆け寄ってきた。
「わあい、キングだ!」
「オレはキングなどでは……!」
「“ジャック・アトラス”は子供の期待を裏切らないだろ?怒らない怒らない」
「む……」
「すまない、この子たちは地縛神に囚われていた時のことを知らぬ。だからキングとはジャック・アトラス、君のことなんだ」
遊星と綴、テイルがジャックに視線を向ける。私情に囚われている時ではないぞ、と。
「実はな、マックス」
「ボマー、みなまで言うな。貴様の弟は間違っておらん!キングは一人!このジャック・アトラスだ!」
人差し指を天に向け、高らかに宣言する。きょうだいが興奮して拍手する。この3人でひとしきり盛り上がった後、ボマーはテイルにきょうだいを預け、綴と遊星とジャックを家に迎え入れた。
そして、なぜナスカを訪れたのかを語り始めた。家族と再会し幸福を取り戻せたこと、自分を許せず過ちと共に前に進むため、地縛神や霊が眠るこの地の管理者として留まる選択をしたことを。
「だが最近、いくつかの村で飼われている家畜らが原因不明で死亡するという事件が相次いで起こった。人々は噂した、紅蓮の悪魔の仕業だと」
「紅蓮の悪魔……」
「だがそれは、大地から溢れだした霊体にすぎない。この地から紅蓮の悪魔が復活しつつあることは確かだ」
「3日前、伝承用の地縛神を使用する影響を確かめるため彼とデュエルした後に、脳内にそのしもべから干渉されたわ。紅蓮の悪魔の狙いは地縛神のみならず自身の復活。それを防ぐために、あなた達の手が必要なのよ」
「ジャック、私が貴方に関する予知夢を見たのも、紅蓮の悪魔の野望を打ち砕くためのお告げだったのかもしれない。だがその内容は、ジャック、貴方が貴方自身の力によって滅びるというもの。あの三幻神を倒したその実力は素晴らしいものだろう。しかし、これはその力を用いた戦術が通じない相手が現れるという啓示なのかもしれない」
「正面突破が無理な相手に対しては絡め手も必要になってくるわ……WRGPでの決戦で遊星が見せたように」
机が勢いよく叩かれた。茶の入った器が揺れる。
「オレ自身も散々悩み、考え抜いたことだ!だがオレにはこの力、パワーで押す戦い方しかありえんのだ!」
「なら、その力をおれ相手に見せるんだな。こいつもリベンジの機会を狙っているかもだし?」
テイルが木製の戸を開けて現れた。突き出された右手の人差し指と中指に挟まれたカードは、《地縛神 Aslla piscu》。ジャックの腕の痣が赤い光を放って反応する。
「お?これは驚き。おれが持ってるこれは魔法・罠の耐性がない伝承用に過ぎねえんだけどな。ま、仮初とはいえ、愛するカーリーさんを弄んだ因縁の相手だ。もちろん受けてくれるよな?」
「当然だ!再び薙ぎ倒し、挑んできたことを後悔させてやる!」
「じゃあ一点だけ教えとく。地縛神が攻撃対象にならないのは知ってるだろ?だが、“オリジナルと違って”秘密結社Kのテキスト改定により、おれのフィールドにこいつしかいない場合、相手は攻撃を行うことが出来ない。そこんとこを加味してデッキ調整しとけよ!もちろんライディングデュエルだ。じゃあまた夜にな!」
言うだけ言って、テイルは再び外に出た。重い空気が流れる。
「ジャック……」
「ふん、一度倒した相手に後れを取るオレではない!」
「《Aslla piscu》は、そうね。けどテイルを侮ってはいけないわ。柔よく剛を制す。それがテイルの戦い方」
「まさしく、今の貴方に相応しい相手ということか」
「……」
日が沈み、夜を迎える。
物思いに耽っていたジャックがマックスと会話する中、鯱ではなくハチドリの地上絵に沿って灯が点けられていく。デュエルレーンが完成した。
「よ!こっちは準備完了だ!あんたの進退を決める闘いだ。覚悟はいいか?」
「覚悟など、真のデュエリストならば常に持っているものだ!」
テイルがスーパーライザーに騎乗しながらジャックを煽る。
ジャックもヘルメットを被り、ホイール・オブ・フォーチュンに騎乗する。
スタートラインに両者が並んだ。
「フィールド魔法《スピード・ワールド2》セット!」
『DUEL MODE ON. AUTO PILOT STAND BY』
遊星、ボマー、マックス、アニー、綴が見守る中、闘いの軛は解き放たれる。
「「ライディングデュエル・アクセラレーション!!!」」
二機のモーメントエンジンの嘶きが轟き、火の灯されたデュエルレーンを白と翠の軌跡がなぞっていく。思惑と迷いが交差する。勝負の行方や、如何に―――
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