藍色の夜空の下、火で灯されたハチドリの地上絵の上をホイール・オブ・フォーチュンとスーパーライザー、二機のDホイールが駆けはじめる。
まず、唸るような低音を伴って、ホイール・オブ・フォーチュンが飛び出した。冴えた蒼を星の尾にして月夜を疾駆する白い機体は、まるで彗星のようだった。一方で翠の機体スーパーライザーは後を追うような焦りもなく、距離を保ったまま、静かに疾走している。
唸りを上げるホイール・オブ・フォーチュンがそのまま第一コーナーに差し掛かったその瞬間だった。スーパーライザーが急加速し、インラインギリギリを攻めてホイール・オブ・フォーチュンを抜かさんとする。ジャックはそれを妨害しようとするが、テイルの発言で躊躇を余儀なくされた。
「折角並べた燭台を倒しちまうと火事になるかもなー。ラフプレーは今回無しにした方がよくね?」
「貴様、ぬけぬけと!」
「おれはライディングテクニックで燭台を倒さずあんたを追い抜かそうとしてるだけ。ほうら追い抜いた」
翠の機体がコーナーを抜け切り、そのコンマ1秒の差で白の機体もコーナーを抜ける。
「く……」
「第一コーナーを制したやつが先攻な!おれのターン!ドロー!」
テイルSPC0→1
ジャックSPC0→1
デッキから一枚カードを引き抜いたテイルは引いたカードと手札の内容を確認すると、素早く手札から三枚のカードを選択した。相変わらずの即断即決。
「モンスターセット、カードを2枚伏せて、ターンエンド!さ、どっからでもかかってきな!」
「オレのターン、ドロー!」
テイルSPC1→2
ジャックSPC1→2
ジャックはテイルの敷いた布陣を分析する。力で押し切ること、それは考えなしに行動することとは違う。相手を読み切ってこその力。それこそが一流。
(奴のセットモンスターや伏せカードにモンスターを除去するものが1つもないとは思わない方がいいだろう。特に、奴が予選で見せた《伝説の柔術家》。あれの守備力は1800もあるうえに、戦闘したモンスターをデッキの一番上に戻す厄介な効果を持つ。ならば、最低限のアタッカーで様子を見る他あるまい……そのような選択しかできないことが腹立たしいがな!)
「《ビッグ・ピース・ゴーレム》は相手フィールドにモンスターが存在し、自身のフィールドにモンスターが存在しない時、リリースなしで召喚する事ができる!」
ジャックが若干乱暴な手つきでカードを躍らせると、石柱が地面を裂いて飛び出し、手足を伸ばして命宿らぬ岩人形へと完成した。
《ビッグ・ピース・ゴーレム》ATK2100
「バトルだ!《ビッグ・ピース・ゴーレム》でセットモンスターを攻撃!」
発された命令を忠実にこなし、岩塊で出来た腕部を振り上げて飛び跳ねる。遮られることも無く、肉が潰されたような音を立てて、ゴーレムの腕が伏せられていたモンスターを叩き潰す。
「俺のセットモンスターは《霞の谷のファルコン》。守備力1200だからそのまま破壊されるぜ」
(……何も仕掛けてこない、だと?いや違う、破壊されたモンスターの能力、そしてそれと関連するモンスターを考慮すれば、間違いなく次のターンに奴はシンクロ召喚をする!ならば!)
「オレはカードを3枚伏せ、ターンエンドだ!」
「じゃあおれのターン、ドロー!」
テイルSPC2→3
ジャックSPC2→3
テイルは逡巡なく、1体のモンスターを手札から繰り出す。
「チューナーモンスター《ドラグニティ-ブラックスピア》を召喚!」
《ドラグニティ-ブラックスピア》ATK1000
黒槍の名を持つ小竜がスピードの世界に混じりこむ。これから始まるは風属性の収穫祭。
「《ブラックスピア》の効果発動。「ドラグニティ」のドラゴン族である自身をリリースして、墓地のレベル4以下の鳥獣族モンスター《霞の谷のファルコン》を復活させる!」
小竜の頭部に備わった黒槍が命を賭してドリルのように墓地を掘り進み、埋もれていた翼持つ亜人を復活させる。
「蘇るのはこいつだけじゃあない。永続罠《リミット・リバース》を発動。攻撃力1000以下のモンスターである《ブラックスピア》を攻撃表示で復活させる。そんで、「ミストバレー」モンスターである《ファルコン》に《ブラックスピア》をチューニング!」
小竜が三つの輪となり、亜人の身体を包み込む。同時に、亜人の身体も4つの星となった。それを束ねるのはテイルの祝詞。
「風吹き荒む谷を束ねし長よ、大地揺るがし天を雷で満たせ!―――シンクロ召喚!来い、《霞の谷の雷神鬼》!」
シンクロ召喚特有の緑の閃光が晴れれば、そこから登場したのもまた、緑色の巨体持つ鬼。背中から生やした翼で空を駆け、荒々しさを隠そうともしない。
《霞の谷の雷神鬼》ATK2600
「まずは《デモンズ・チェーン》があるか確認するぜ?《リミット・リバース》を対象に、《雷神鬼》の効果発動!対象カードを手札に戻し、《雷神鬼》の攻撃力をこのターンの終了時まで500アップさせる!さあ、どうするんだ?」
「何も発動はしない。さっさと効果を解決しろ」
「へいへい。そんじゃ、《リミット・リバース》を手札に回収して、《雷神鬼》の攻撃力アップ!」
《霞の谷の雷神鬼》ATK2600→3100
右拳に雷が纏う。何物をも砕かんとする拳。
「はりきってるところ悪いけど、バトルはしない。伏せ3枚もあるのに返り討ちにされない方がおかしいからな。《プライドの咆哮》だったら対処できねえし。カード2枚伏せて、ターンエンド!」
《霞の谷の雷神鬼》ATK3100→2600
「オレのターン、ドロー!」
テイルSPC3→4
ジャックSPC3→4
(奴も伏せカードは3枚か……だが、このタイミングで勝負に出ずして何がパワーだ!)
警戒心はあれど、これは己の意志を貫かんとする闘い。ジャックに止まるという選択はなかった。
「チューナーモンスター《フレア・リゾネーター》を召喚!」
燃え盛る炎を背負った「リゾネーター」の一角が登場。熱い戦いの始まりを告げるように。
「レベル5の《ビッグ・ピース・ゴーレム》にレベル3の《フレア・リゾネーター》をチューニング!王者の鼓動、今ここに列を成す!天地鳴動の力を見るがいい!―――シンクロ召喚!我が魂、《レッド・デーモンズ・ドラゴン》ッ!!」
岩人形が音叉の悪魔と同調すれば、現れ出でるは灼熱の猛り。滾る血汐の紅。
持ち主の魂であることを示すように強靭な肉体と不屈の精神を持ち合わせた紅蓮魔竜が嘶く。
「《フレア・リゾネーター》をシンクロ素材としたシンクロモンスターの攻撃力は300ポイントアップする!」
《レッド・デーモンズ・ドラゴン》ATK3300
「んげ、《雷神鬼》自身の効果による強化値を上回ったか。ちとやばいか?」
「貴様の小手先の戦術など、通用しないことを教えてやる!バトルだ!《レッド・デーモンズ・ドラゴン》で《霞の谷の雷神鬼》を攻撃!『アブソリュート・パワーフォース』ッ!」
地上絵のコースにジャックの高らかな攻撃宣言が木霊する。王者の発破に応え、滾る炎を拳に載せ、猛進する紅蓮魔竜。
「待てよ。まずは《リミット・リバース》を発動!墓地から《ドラグニティ-ブラックスピア》を釣り上げる。おれのモンスターの数が増えたことで巻き戻しが発生。攻撃対象を再び決めないといけないワケだが……」
「関係のないことだ!当然、《雷神鬼》を攻撃対象にする!」
「攻撃対象を決めたな?そんじゃ《雷神鬼》を対象に2枚目のリバース、《ディメンション・ガーディアン》発動!対象モンスターは破壊されなくなる」
「構うか!」
一気呵成に突き出される炎渦を留めた掌底の一撃。迎え撃つは雷を纏った拳。
「ダメージステップに《雷神鬼》の効果発動!《ブラックスピア》を手札に戻し、ターン終了時まで攻撃力を500アップさせる!」
《霞の谷の雷神鬼》ATK2600→3100
「だが、《レッド・デーモンズ・ドラゴン》には及ばない!」
掌底と拳が衝突する。だが、微妙な威力の差が、《雷神鬼》を怯ませた。障壁に守られ無事であるものの、その顔には焦りがあった。そして、超過ダメージがテイルを襲う。
テイル:LP4000→3800
「やれやれ、いろんなカードの使いまわしが出来るのはいいんだが、本体が狙われちまうと割と困るな」
「小賢しいテクニックを披露したところで、力が及ばなければ意味はない!」
「そうだなあ。今のところはそうだ。で、なんか他にすることある?」
「……ターンエンドだ!」
一見圧されている状態にもかかわらず。テイルには余裕があった。ジャックは苛立ちまじりにターンの終了を宣言する。
「そんじゃあ、おれのターン、ドロー!」
テイルSPC4→5
ジャックSPC4→5
テイル
LP:3800
SPC:5
Hand:4(1枚は《ドラグニティ-ブラックスピア》)
Monster:《霞の谷の雷神鬼》
FieldMagic:《スピード・ワールド2》
Magic&Trap:Set1+《ディメンション・ガーディアン》《リミット・リバース》
ジャック
LP:4000
SPC:5
Hand:2
Monster:《レッド・デーモンズ・ドラゴン》
FieldMagic:《スピード・ワールド2》
Magic&Trap:Set3
ドローカードを確認すると、テイルは笑みを深めた。
「SPCを4つ取り除き、《Sp-エンジェル・バトン》を発動!2枚ドローして1枚捨てるぜ」
テイルSPC5→1
行われたのは手札交換。だが、橙色の火が紫色に染まり、デュエルレーンを、地上絵を不穏なものへと変えていく。
「この現象は!まさかテイル!」
「彼は地縛神を呼び出そうとしている。伝承用の模造品であるならば、以前のように影響は出ないはずだが……アニー、マックス!私から離れるな!」
「ええ!」
「う、うん」
「大丈夫よ。最悪の可能性が起きたとしても、テイルならきっと使いこなせるはず……!」
ギャラリーの不安な視線に見守られる中、ジャックにも緊張が迸る。
(この気配、ただのカードでは出せない威容。まさか、来るのか!)
「さあ、因縁の対決の始まりだ!今しがた手札から捨てた墓地の《地縛神 Aslla piscu》を対象に《リビングデッドの呼び声》を発動!対象モンスターを攻撃表示で復活させる!」
テイルの宣言と同時、“どこかの地下”にある巨大な悪魔像が鼓動した。すると、空に拳のような形の心臓が現れる。これこそ、地縛神の核。
「貴様!それは伝承用のカードではなかったのか!!」
「そうなんだけどなあ。紅蓮の悪魔の仕業でおかしなことになってる」
心臓に無数の光る何かが吸収されていく。周囲にいる人間達には影響はない。本来、人の魂を生贄にするもののはずだというのに。
「まさか、この地に眠る霊魂を吸収しているのか!?」
「待ってくれ!その魂というのは……」
「悪事を行って封印された魂だけではない。遥か昔よりこの地を安息の場所として選んだ者の魂もまた、吸収しているのだとしたら……!」
「一万年以上の歴史を持つこの地なら、生贄の数に不足はないわね……!」
青年たちが畏れを抱き、少年と少女はボマーにしがみつく。
そして、充分な数を吸収しつくした核が強烈な紫の光の柱を放ち、その中から誕生するように声を上げたのは巨大なハチドリの神。畏れられ、崇められてきた存在が、真に復活したのだ。
『我を呼び覚ましたのは誰だ……?』
ナスカの地全てに轟くような、邪悪な存在の声。デュエリストでなければ平伏の姿勢をとっているであろう神威が、そこにある。
「依り代を持っているデュエリストはおれだけど、蘇らせたのは紅蓮の悪魔。眠っていたところ悪いが、目の前に宿敵がいるぜ」
『赤き竜の眷属!そして荒ぶる魂を宿すシグナー!我を滅ぼした憎き存在!』
《レッド・デーモンズ・ドラゴン》とジャックを視認して、地縛神が大きく嘶く。それは怒りに満ちており、大地を振るわせた。
ギャラリー5人の身体が竦む。一方、テイルは平気な顔で話を続ける。
「そうそう。で、どうする?おれは死者じゃないからダークシグナーの要件を満たしてない。あんた好みの女の子でもない。それ以前に、生贄に差し出されたのは昔っから眠っていた死者の魂。どう考えても満足できるような条件での復活じゃあないが……リベンジはしたいだろ?」
『我を煽り利用する気か?驕るなただの人間風情が!死者でなくとも、その身体なぞ乗っ取れるわ!そしてデュエルを続行すれば済むこと……』
「それ、マジで言ってる?前にあいつらに負けた時と同じ轍踏もうとしていることに気付かない?もう一度滅ぼされたいなら好きにしていいけど」
『なんだと?』
再びの敗北。屈辱的な未来を突きつけられ、空の闇が濃くなる。
「だって赤き竜がシグナーに力貸してパワーアップさせてんのに、地縛神はどうよ?特にパワーアップとかさせてねえだろ。それじゃあ勝てないわな。ついでに言うと【フォーチュンレディ】の戦術デザインは見事だけど、あんた自身とは《フューチャー・ヴィジョン》しかシナジーなかったじゃん。要するにあんたはデュエルに卓越してるわけじゃない。身体を乗っ取るよりは協力した方がいいんじゃねえの?この世界は絆の力が勝利を引き寄せるものなんだからさ」
『戯言を!貴様との間に絆など……』
「これから作っていけばいいだろ?そら、目の前には共通の敵がいる。駄弁るのもそろそろ終わりにしねえとターンが強制終了しちまう。負ける可能性増やすよりは勝つ可能性を増やそうぜ」
『ええい、今回は貴様の言に乗ってやる!だが我を使いこなさなければ、その身体、すぐにでも乗っ取ってくれるぞ!』
「“使いこなせばいいんだな”?よし、契約成立。デュエル続行だ!」
大地を支配する戦慄に変化はない。だが、地縛神を見事に口車に乗せたテイルに、綴を除くギャラリーは困惑していた。
「口達者とは彼のことを言うのだな……」
「あの地縛神を、従わせたのか……」
「よく平気な顔で話せるよね、テイル……」
「私じゃ、無理だわ……」
「今の地縛神は、あなた達シグナーに敗北した記憶が根強く残っている状態。そこを突けば、共同戦線を張ることはできるわ」
「待ってくれ綴。この後のことはどうするんだ?……おまえたちが俺達の敵に回るなんてことはないだろう?」
「大丈夫、僕達を信じて」
「……わかった」
観戦者も落ち着いたことを確認し、テイルは地縛神に指示を出す。
「さあ、バトルだ!地縛神は相手プレイヤーに直接攻撃できる!そして、今の《Aslla piscu》は相手の魔法・罠の効果を受けない!覚悟はいいか?ダイレクト―――」
「この瞬間!リバースカードを2枚発動する!《強欲な瓶》!そして《強制終了》!」
「ありゃパワーで押し通すと言ってたわりにゃ、防御も充実しているようで……?」
「地縛神を相手にするとわかっている以上、その攻撃を耐えることも必要だと理解している!《強制終了》の効果発動コストに、《強欲な瓶》を墓地へ送りバトルフェイズを終了させる!そして、《強欲な瓶》の効果で1枚ドローする!」
「魔法・罠の効果は受けなくても、バトルフェイズ自体を終了されたら止まっちまうな……」
強大な一撃を放とうとしていた太陽に近き地縛神が、戦場の境界線を越えられず憤る。
『対策されているではないか!使いこなすと言っていたのは……』
「勿論使いこなすぜ?メインフェイズ2、《リビングデッドの呼び声》を対象に《雷神鬼》の効果発動!対象カードを手札に戻し、パワーアップ!」
『待て、貴様!それでは我が!』
「いやいや、フィールドから離れた時の効果があんたの本領だろ。《雷神鬼》の強化はバトルできなくなったからスルー。本番はこっからだ!《リビングデッドの呼び声》がフィールドを離れたことで、対象となっていたモンスターは破壊される」
大地に沈んでいく《Aslla piscu》。恨めし気にテイルを睥睨していたのは気のせいではない。
「《地縛神 Aslla piscu》の効果発動!このカードがフィールドを離れた時、相手フィールドの表側表示モンスターをすべて破壊し、破壊したモンスター1体につき800ポイントのダメージを与える!」
「なに!?」
「おっと、確かこの効果はあんたとのデュエルじゃ使われなかったんだったか。じゃ、吹き荒れろ、狂乱の神風!」
黒く染まった竜巻が紅蓮魔竜を襲い、容赦なく切り刻む、そして地縛神が復活したことでダメージが実体化。ジャックはアクセルを踏み加速することで竜巻を躱すも、頬に切り傷が出来る。
「ぬうっ……!」
ジャック:LP4000→3200
「悪いな。その整った顔に傷つけちまった。けどまあ、イリアステルを相手にするんだからこれがデフォルトだと思っといてくれ。んでもって、絶望注意報だ。《リビングデッドの呼び声》が手札に戻ったということはつまり《Aslla piscu》をまた復活させることができるということであり、《雷神鬼》はいつでも《リビングデッドの呼び声》を手札に戻し使いまわせる……。即ち太陽のごとく昇ったり沈んだりを繰り返すワケだ」
「ふん、この程度で絶望だなどと笑わせてくれる!」
「まだ余裕があるみてえだな。おれはまだ通常召喚してねえからモンスターをセット。カードを1枚伏せてターンエンド!」
「オレのターン、ドロー!」
テイルSPC1→2
ジャックSPC5→6
テイル
LP:3800
SPC:2
Hand:3
Monster:《霞の谷の雷神鬼》《???》
FieldMagic:《スピード・ワールド2》
Magic&Trap:Set1+《ディメンション・ガーディアン》《リミット・リバース》
ジャック
LP:3200
SPC:6
Hand:4
Monster:
FieldMagic:《スピード・ワールド2》
Magic&Trap:Set1+《強制終了》
下手に攻めようとすれば《Aslla piscu》を蘇生され、神風により全てを吹き飛ばされる状況。必然、守りを固めなければいけない状況に歯噛みする。
「……モンスターをセット、カードを2枚伏せ、ターンエン―――」
「そのエンドフェイズに《雷神鬼》の効果発動!《リミット・リバース》を手札に戻す。そして《リビングデッドの呼び声》を発動!昇れ、《地縛神 Aslla piscu》!」
再びハチドリの神が飛翔。戦慄と恐怖の帰還。やはりというべきか、機嫌を損ねている。
『不敬な!これでは使いこなすではなく使いまわすではないか!』
「なにか違いでもあるのか?いつでもその神風を放てるという重圧を与えているうえ、さっきはシグナーの竜を葬ったんだ。あんた、結果が全てなタイプだろ?これは使いこなしているといえるんじゃねえかな?ついでに、太陽に縁が深いあんたに相応しいコンボだろこれ?」
『ぬう……』
「不満か?じゃあ、次のおれのターンにもっと使いこなしているところを見せてやるよ。それで納得してくれ」
『……(嫌な予感しかせん……)』
「沈黙は肯定ってことで。じゃあおれのターン、ドロー!」
テイルSPC2→3
ジャックSPC6→7
地縛神を丸め込んだテイル。彼は、楽しそうにデュエルをしていた。
「いくぜ?おれは《ドラグニティ-ブラックスピア》を召喚。そしてさっきセットした《霞の谷のファルコン》を反転召喚。んでもって、《霞の谷のファルコン》に《ブラックスピア》をチューニング!闇から出でよ、鉄血の翼!黒き暴風となりて、すべての敵に絶望を与えん!―――シンクロ召喚!来い、おれの秘密兵器!《ダーク・ダイブ・ボンバー》!」
シンクロ召喚の演出が完了すると同時、空より戦闘機をモチーフにした橙色の人型殲滅兵器が降下。肩に二つのジェットエンジンを搭載し、両手の甲には防御盤。錆鉄色の羽を背負う。かつてどこかの世界でフィニッシャーとして名を馳せた、デュエリストのトラウマ。“この世界”ではエラッタされたOCG版が刷られている。
「さらなるシンクロ召喚を!しかも、そいつの効果は……!」
「話が早くて助かるぜ。1ターンに1度、メインフェイズ1にモンスター1体をリリースし、そのモンスターのレベル1つにつき相手に200ポイントのダメージを与える!もちろん、おれがリリースするのは、《地縛神 Aslla piscu》!」
『な!?貴様、我を!』
「《強制終了》で戦闘を防がれちまうんだからこうするしかねえだろ。今度はシグナー自身に直接ダメージを与えられるんだ。あんたのレベルは10だからダメージは2000。結果としちゃ上々。じゃ、飛んでいけ!」
『おのれ!』
神を糧にし、殲滅兵器にエネルギーが充填。自らの身体を折りたたみ戦闘機へと変形。急降下爆撃を仕掛ける。広がる巨大な爆炎。ジャックとホイール・オブ・フォーチュンを熱風が襲う。焦げ付く肉体と機体。
「ぬうぅううううッ!!」
ジャック:LP3200→1200
傷つきながらも、バランスを崩しかけたホイール・オブ・フォーチュンをレーンに維持する。己の矜持が、デュエルを止めることを許さない。
「まだ終わりじゃねえぞ?バトルだ!《雷神鬼》でセットモンスターを攻撃!」
「セットモンスターを墓地に送り、《強制終了》の効果発動!バトルフェイズを終了させる!そして、コストとなった《クリッター》の効果発動!デッキから攻撃力1500以下のモンスター、《バトルフェーダー》を手札に加える!」
「止められるのは想定内なんだが、《バトルフェーダー》?状況わかってるか?《ダーク・ダイブ・ボンバー》が次のおれのターンに生き残ってたら効果ダメージであんたは敗北する。直接攻撃を防ぐそいつを持ってきても逆転の芽どころか焼け石に水だぜ?」
「……」
「ありゃ、だんまりか。それなら《雷神鬼》の効果で《リビングデッドの呼び声》を回収して、カードを2枚セット。ターンエンド!」
「オレのターン、ドロー!」
テイルSPC3→4
ジャックSPC7→8
テイル
LP:3800
SPC:4
Hand:2
Monster:《霞の谷の雷神鬼》《ダーク・ダイブ・ボンバー》
FieldMagic:《スピード・ワールド2》
Magic&Trap:Set2+《ディメンション・ガーディアン》
ジャック
LP:1200
SPC:8
Hand:3(1枚は《バトルフェーダー》)
Monster:
FieldMagic:《スピード・ワールド2》
Magic&Trap:Set3+《強制終了》
ジャックの眼が見開かれる。彼は思い描いていた逆転の手をここ一番で引き当てた。彼は耐えた。地縛神の攻勢に2回も耐え続けた。そうして耐えに耐えて、ドローを続けて、そして今、足掻きの成果が盤面に現れる―――!
「オレはSPCを7つ取り除き、《Sp-タイラント・フォース》を発動!このターン、オレのフィールドのカードは効果によって破壊されない!そして、相手フィールドのカードがカードの効果で破壊される度に、1枚につき300ポイントのダメージを与える!」
ジャックSPC8→1
「《Aslla piscu》の神風が効かなくなったってワケか。どんな手で反撃に出るか、見させてもらおうじゃねえの」
「さらに、リバース・カード・オープン!《ロスト・スター・ディセント》!墓地に存在する《レッド・デーモンズ》のレベルを一つ下げ、守備力を0にした状態で守備表示で特殊召喚!!」
☆8→7 ATK3000 DEF2000→0
蘇る《レッド・デーモンズ》。だがその身からは圧倒的な威圧感は失われていた。
「弱ったそいつじゃ、おれは堕とせねえぞ?」
「舐めるな!今オレの心を焦がしているものは、勝利への渇望!!忌々しき地縛神を操る貴様を、全身全霊を以て倒す!!」
強い瞳で倒すべき敵を見据え、伏せられたカードを開く。滾る闘志、決意の象徴が今、開花する。
「これが力というものだ!―――発動せよ!《バスター・モード》ッ!!」
ジャックの背後に眩き光が立ち上ぼり、中より炎が飛び交い、紅蓮魔竜の体躯に纏わりつく。炎は緋色の鎧となり、竜の肉体、能力を強化する。WRGP予選でも神を打破した力が、ここに誕生した。
「《バスター・モード》の効果により、自分フィールドのシンクロモンスターをリリースし、デッキよりそのバスター・モードを特殊召喚!!《レッド・デーモンズ・ドラゴン/バスター》ッ!!」
《レッド・デーモンズ・ドラゴン/バスター》ATK3500
魔竜が嘶く。その圧倒的力に、テイルのシンクロモンスター達が怯んだ。
「だが、《雷神鬼》は《ディメンション・ガーディアン》により破壊されないんだよな。どうやって……」
「最後のリバースだ!《トラップ・スタン》!このターン、このカード以外の罠カードの効果を無効にする!」
「ああ、それもあったのか……んん、《リビングデッドの呼び声》をチェーンして《Aslla piscu》を蘇生させてもむざむざ破壊させちまうだけだし、ここはスルーかな。代わりに、《雷神鬼》の効果で《ディメンション・ガーディアン》を手札に戻すことで攻撃力500アップ!」
《霞の谷の雷神鬼》ATK2600→3100
どうせ破壊されるのであれば、被害を最小限にするべきだ。テイルはそう選択した。
「これで障害はなくなった!バトルだ!《レッド・デーモンズ・ドラゴン/バスター》で《ダーク・ダイブ・ボンバー》を攻撃!『エクストリーム・クリムゾン・フォース』ッ!!」
業火を纏う紅蓮の魔龍は爆進する。熱量が収束される先は、その掌。破壊、その言葉を突き詰めた真紅の一撃が、殲滅兵器の胸部を貫き、爆発四散させた。その衝撃がテイルを襲う。
「くうぅうううッ!」
テイル:LP3800→2900
「さらに、《/バスター》が攻撃を行ったダメージ計算終了時、このカードを除くすべてのモンスターを破壊する!!」
業火の氾濫。殲滅兵器を燃やしつくした炎が《雷神鬼》をも包み込み、苦悶の声を上げる暇なく焼却される。
「そして、カードの効果により《雷神鬼》が破壊されたことで、《タイラント・フォース》の効果が適用され、貴様に300ポイントのダメージを与える!」
「あっつ!」
テイル:LP2900→2600
フィールドが殲滅されてなお、テイルには余裕がある。《リビングデッドの呼び声》が残っているからだ。一方のジャックに余裕はなく、只管に集中していた。目の前の相手が油断ならない強敵であるがゆえに。
「……ターンエンドだ!」
「おれのターン、ドロー!」
テイルSPC4→5
ジャックSPC1→2
テイル
LP:2600
SPC:4
Hand:4(1枚は《ディメンション・ガーディアン》)
Monster:
FieldMagic:《スピード・ワールド2》
Magic&Trap:Set2(1枚は《リビングデッドの呼び声》)
ジャック
LP:1200
SPC:2
Hand:2(1枚は《バトルフェーダー》)
Monster:《レッド・デーモンズ・ドラゴン/バスター》
FieldMagic:《スピード・ワールド2》
Magic&Trap:《強制終了》
テイルがドローカードを確認すると、電撃の如き閃きが走る。
「ははっ、これで綴の計画通りってね。《怪鳥グライフ》召喚!召喚成功時、《強制終了》を対象に効果発動!対象に取った相手の魔法・罠を破壊する!」
紅色の鳥が羽ばたき木枯らしが発生すると、戦場の境界は破壊された。
「むっ……」
「そして《リビングデッドの呼び声》発動!三度昇れ!《地縛神 Aslla piscu》!」
大地より飛翔する巨大ハチドリ。神の威厳が薄れてきたのは気のせいか。
「相手がモンスターを特殊召喚したこの瞬間!手札の《エクストラ・ヴェーラー》の効果発動!このカードを特殊召喚する!」
赤い旗をはためかせ、闘牛士がスピードの世界に登場する。
「そして、このカードが特殊召喚したターン、相手の効果によってオレが受ける効果ダメージは、代わりに相手が受ける!」
「なるほど?《Aslla piscu》の効果ダメージの対策か」
『……言っておくが、奴を倒さねば使いこなしたとは看做さないぞ。手札に《バトルフェーダー》もある以上、このターンでは仕留めきれまい』
「今更かよ。ま、仕留めきれなくても相手の勝ち筋を潰すことならできるんだけどな!いくぜ?おれは、フィールドの《グライフ》、《Aslla piscu》、そして墓地の《雷神鬼》を除外する!」
『な、なにをする!?』
「馬鹿な!地縛神を除外するだと!?」
邪なる神威が消え、新たな風がスピードの世界を塗り替える。現れ出でるは鎧を纏った、空間を司る鳥。おぞましき地縛神とは対照的に美しい羽根を広げ、神聖な声で嘶いた。
「《The アトモスフィア》を特殊召喚!そして、《地縛神 Aslla piscu》の効果発動!相手フィールドの表側表示モンスターを全て破壊する!」
「だが、破壊した時に発生するダメージは貴様が受ける!」
「承知の上さ!最後の神風を喰らいな!」
黒き竜巻が再びジャックのフィールドを蹂躙する。破壊される闘牛士と紅蓮魔竜の鎧。だが、最期に闘牛士が力を振り絞り旗を縦横無尽に振り回すと、竜巻の進行方向が反転、テイルに襲いかかる。彼もそれを理解していたのか、余裕をもって躱すが、ダメージ判定によりフライトジャケットの肩口が裂け、血を流す。
「ぐっ……お気に入りだったんだけどなこれ」
テイル:LP2600→1000
「そんな余裕をかましていられるのも今の内だ!《/バスター》が破壊された時、素体である《レッド・デーモンズ・ドラゴン》を特殊召喚する!」
鎧が身代わりとなって、紅蓮魔竜はフィールドに健在だった。吼える《レッド・デーモンズ・ドラゴン》。
「そのセリフ、そのまま返すぜ。だってもう終わりなんだからな!《The アトモスフィア》の効果発動!相手フィールドの表側表示モンスター1体を吸収!そのモンスターの攻撃力を自身の攻撃力に加算する!」
「な、なんだと!?」
空間鳥の爪にがっしりと掴まれた水晶玉が、紅蓮魔竜を吸い上げる。それは「機皇帝」を想起させるものであった。
《The アトモスフィア》ATK1000→4000
「あんたのデッキは《レッド・デーモンズ・ドラゴン》一本槍。遊星のようにバリエーション豊かってわけじゃない。つまりあんたの魂が奪われたらどうにもならないってことだ!」
「ぬうっ……貴様ァ!!」
「バトルだ!《The アトモスフィア》でダイレクトアタック!」
今までにない程の暴風が吹き荒れる中、水晶球から吸収された《レッド・デーモンズ・ドラゴン》が現れその身を炎で包み込み、ジャックを襲う。
ボマーは瞠目した。自分が見た予知夢と全く同じ状況だからだ。
「夢と同じ……!自らの力によって滅びる、やはり、そういうことなのか……!?」
「紅蓮の悪魔……!?」
ジャックも動揺する。だが、彼にはこの一撃を防ぐ手段が用意されていた。
「ふざけるな!そんなものによってオレが倒されるか!手札から―――!?」
《バトルフェーダー》を翳そうとした、その一瞬だった。超暴風によりホイール・オブ・フォーチュンの制御が効かなくなり、デュエルレーンから大きく外れ、騎乗者を振り下ろす。そして白き機体もまた、その先で横転し動かなくなった。
地面に突っ伏した状態のジャック。デュエルが強制終了され、テイルのスーパーライザーも停止する。
「おーい、大丈夫か?」
テイルが近づくが、身を起こしたジャックに振り払われた。
「オレに触るな!」
こっそりホイール・オブ・フォーチュンの近くで散らばったジャックのデッキをかき集め元の場所に戻していた綴と、遊星、ボマー、マックス、アニーの5人が駆け寄る。
その視線は心配に満ちていたが、それは今のジャックにとっては忌々しかった。
「こんなことで、オレから力を、パワーを奪ったなどと思うな!」
「ああ、じゃあ奪っちまった《レッド・デーモンズ・ドラゴン》返すぜ?」
「貴様……!!」
差し出された己の魂を乱暴に受け取る。怒りで爆発しそうな自分を抑え込むことに必死だ。再びホイール・オブ・フォーチュンに乗り込む。
「オレは力を捨てぬ!」
ジャックは全員を背に走り去る。それを憂いる遊星。
「ジャック……」
「やれやれ。で、《Aslla piscu》さんよ。どうだった?」
『貴様の技量は認めてやる。だが、再び我を使うならば、常に身体を奪われる覚悟をすることだな』
「おっけー。この神様、意外と無害かもしれないぜ?そんじゃあ……」
微笑を浮かべていたテイルの表情が“無”になった。スーパーライザーに乗り込み、ケッツアーコアトルを祀る神殿に辿り着く。そして、その裏側の壁をノックしたかと思えば、それはテイルの身体を巻き込んで反転。中に収めると何事もなかったかのように沈黙する。
「ちょっとテイル!なにをして……あら、どこへいったの……?」
「姿が見えなくなったのか?」
「この壁を調べていたみたいだけど……いきなりどうして」
「私達がこの神殿を作った時に、特に構造を特殊なものにはしていなかったが」
「押しても何も起きないよ」
「テイルさん、どこへ……?」
ジャックは頭を冷やしにいったと思えるが、様子を一変させ、いきなり行方をくらませたテイルについては心配だ。
「大変!テイルに地縛神を預けたままよ!」
「なんだって!」
「……まさか全ての地縛神を預けていたなどということは」
「“いいえ”。この地に持ってきたのは《Chacu Challhua》、《Aslla piscu》、そして《Wiraqocha Rasca》の3枚よ。全部持ってきてしまうと、再び赤き竜と冥界の王の闘いがイレギュラーに発生する可能性があったから……」
「それでも、1体が目覚めた以上は他の2体も目覚めてしまう可能性が高い。先程テイルはダークシグナーにならなかったとはいえ、今度もそうとは限らないぞ」
「迂闊だったわ……ごめんなさい」
「構わない。まずは対策を考えよう」
ボマーの家に戻っていく一行。一方、神殿の地下では言い争いが始まっていた。
「話が違うではありませんか!地縛神を全て従え、赤き竜に復讐出来るとアナタは言った!しかし、手元にあるのは3体だけ!契約違反―――」
「してないぜ?おれは契約の儀式を行うときに“おれ達が持ってきた”地縛神を貸すって言った。ジャックの身体を使って全員従えられるってのはあくまで仮定の話でしかない。そもそもだな……」
テイルは紅蓮の悪魔のしもべに人差し指をつきつけた。重要なことを自覚させるサインとして。
「地縛神って基本フィールドに1体しか存在できないんだよ。オリジナルなら《太陽の書》使ったりすればいけなくもないけど、ただでさえ重いデッキにそんなギミックを入れる余裕はない。んでもって、地縛神はそこの主様を除けば7体いるワケだが、あんた、全員をデッキに入れてぶん回せないだろ?綴でも無理って言う。そこでだ」
「……なにを言うつもり?これ以上アナタと契約を結ぶ気は……」
「この《蛇神ゲー》を媒介に紅蓮の悪魔さん、依り代となるカードを作ってみる気はない?そう、《地縛神 スカーレッド・ノヴァ》として」
悪魔に提案を持ちかけるテイル。黙って見ていられないのは《Aslla piscu》。
『待て、こいつらに力を与えるというのか!?《スカーレッド・ノヴァ》はともかく、この矮小なしもべに使われるのも反吐が出るというのに!既に結ばれた契約である以上、無効に出来んのが忌々しい!』
「なにを!我が主の手により復活した分際で!」
「あれ、やっぱり仲良しじゃないんだ。ま、いいや。そんな仲良くないチーム地縛神にある程度シナジーを与えられるのがあんたの主様。受ける?この提案」
「……それでジャック・アトラスを倒すことが出来るのであれば、と主は仰っております」
「あんた自身はまだ封印されているから力を発揮できないけど、同胞を呼び出すことは出来る。後は《Wiraqocha Rasca》の機嫌次第かな。どう、《Aslla piscu》?最強の効果を持つ地縛神は協力してくれそう?」
『奴は無口だ。正直何を考えているか理解が及ばぬ。だが、あの荒ぶる魂を持つシグナーを倒すという目的が一致している以上、そこのしもべにも力を貸すだろう』
「よかったな!そんじゃ、カードになってみよう。大丈夫、きっと気持ちがいいだろうからさ」
悪役の会議は踊る。イレギュラーにイレギュラーが重なったナスカの地。
歪んで綴られる物語の一端。その決着は、遠くなかった。
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テイル大暴れ。しかし綴も仕込みはしています。
次回、最強の地縛神VSジャック。