朝。ナスカの地には太陽が曇りなくまっすぐに照り付けている。
そこにある簡素な家では、ボマー、遊星、綴の三人が現状確認を行なっていた。マックスとアニーは神殿から離れた場所で、水を汲んだりと家事手伝いをしている。
「テイルがまだ帰ってこないのは、間違いなく紅蓮の悪魔に囚われたということ。あの神殿の内部には、紅蓮の悪魔がいる……!」
「私達が地縛神を鎮めるために造った神殿が、禍々しき者の住処となっているとは……」
「教えてくれ、綴。おまえはこうなることを予測できなかったのか?」
「テイルが攫われることまでは予測できなかったわ。地縛神の復活も紅蓮の悪魔が齎す可能性を考慮していたけれど、その時はあなた達の「セイヴァー」……赤き竜の力で再び抑えられると信じていたから」
「だが、テイルとのデュエルでは赤き竜の力は発揮されなかった。これはジャックに己の闘い方を見直させるためか?」
「……多分そうでしょうね。それは、紅蓮の悪魔を打破するためのきっかけにもなるはず」
「今回の件は、すべてジャック次第ということか」
沁みるような沈黙が落ちる。時折吹く隙間風の声もどこか遠い。しんと静まりかえった家の重苦しい空気を振り払うようにボマーの吐息が落ちて、再び会話が動き出す。
「私が見た予知夢と同じ状況をテイルは再現した。紅蓮の悪魔がジャックを焼き尽くさんとするあの状況を。……私も君達も紅蓮の悪魔に利用されていたのか?」
「確かに、あなたがジャックの身を案じる気持ちと、破滅の未来を変える可能性の一つになりたいという僕達の気持ちが利用されてしまった。けれど、後悔ばかりはしていられないわ。ジャックの帰りを待って作戦を―――」
綴が二の句を告げる前に、空に暗雲が広がった。そして蒼き雷が神殿の方向に落ち、大地に衝撃が轟いた。
「なんだ!?」
「大変だよ!ジャックがいなくなっちゃった!」
「神殿の頂上に登って、光と共に消えてしまったの!」
マックスとアニーが汗を垂らして家に駆けこんできた。
「どういうことだ!?」
神殿の頂上へ5人が駆け上がれば、そこには地下に続く穴と階段。
「綴、君の言う通りだったのか……!?この神殿は石を積み重ねて造ったものだ。中が空洞になっているのはやはり紅蓮の悪魔の仕業!」
「まさか、ジャックはこの中に……」
「ここから先は危険よ。入れば出口は閉じられるし、もしジャックが紅蓮の悪魔に勝利できなかった場合、僕達はその生贄となってしまう。もっとも、その時は外にいても巻き込まれてしまうでしょうけど」
「マックス、アニー、ここから離れるんだ」
「……僕はジャックが勝つって信じてる!だから一緒に行くよ!」
マックスが強く主張する。純粋なジャックへの信頼。
「ダメだ、危険すぎる!」
「けど……!」
「僕が言うのもなんだけど、命を張る時は後悔しない覚悟が必要よ。マックス、あなたにはそれがある?」
「わからない……」
「なら、アニーを一人にしないであげて。家族をちゃんと守ることもまた、ジャックが認めるに足る男の証明なんだから」
「……わかった。ちゃんと戻ってきてね!」
「ああ!任せてくれ!」
「では行くぞ!」
ボマーが先導し、遊星と綴が暗闇の中を降りてゆく。その様子を、マックスとアニーは祈るように見守っていた。
一方、神殿の地下最深部。ジャックが階段を降り切ると篝火が灯り、広場が視界に入る。その奥には、巨大な悪魔像。
「これは……?なんなんだ、ここは?」
「んふふふふふっ」
不気味な笑い声と共に二つの人魂がジャックの周りを煽るように回る。
そして、人魂は一つとなり、尻尾を生やした魔人の形となって悪魔像の前に顕現した。
「いひひ、あっはっはっ!」
「お前は?」
「お待ちしておりましたジャック・アトラス。ようこそ紅蓮の悪魔の元に」
「どこにいる!紅蓮の悪魔は?」
「いひゃひゃひゃっ、主はこの神殿の奥深くにあらせられます。ずっとアナタを待っておりました」
ジャックに左の人差し指を突きつける。標的を定めたかのように。
「ならば姿を見せろ!オレに力を与えろ!」
「ええ、ええ!それはもう。ですが……それには条件がございます。これよりこの紅蓮の悪魔のしもべたるワタクシと契約の儀式を行なってもらいます!」
「契約の儀式?」
「それにアナタ様が勝たれた時、紅蓮の悪魔の持てる圧倒的力を差し上げましょう!」
「圧倒的力!」
己の力不足に悩んでいたジャックにとって、それは魅力的な言葉だった。しもべの笑みが深まる。
「いいだろう!その儀式とやらはなんだ!」
「それは勿論……デュエルでございます!」
「デュエルだと!?」
「驚くことはねえだろ?この世界はデュエルで己の信念を懸ける!欲望を果たす!大概のことはデュエルで決まるんだからさ」
悪魔像の物陰から出てくる長身の男。昨日激闘を繰り広げたテイル・バウンサー。
「テイル!なぜ貴様がこの場所に!?」
「いいところで割り込むなど空気が読めない!」
「ごめぇんね。ざっくり話すとこの紅蓮の悪魔様が地縛神を欲していて、利用されちゃったワケ。ま、もう奪われちゃったから用済みなんだけど。ここで観戦するだけだから、いないものとして扱ってくれ」
あっさり告げられる事実。激闘を繰り広げたあの地縛神を奪われたと宣ったのだ。
「迂闊すぎるぞ!あんな危険なものを!そもそも、綴がそれを奪われる可能性を想定できないほど愚かな奴とは思えん!」
「お、信頼が厚いね!好感度100ポイントアップだ!ちなみに1億ポイントが上限な。それは置いといて、綴は身内のことになると想定が甘くなっちゃうからさ、おれがここに来ることまでは想定してなかったんだと思う」
(くっ……嘘を言っていないことが腹立たしい!すべてを暴露しちゃいたいけど、しかし他の者には秘密にするという契約を交わしてしまった以上、ワタクシがそれを喋ることは出来ない……!)
横にいる男と契約したことを後悔しそうになったが、目の前のメインディッシュの前で醜態を晒すわけにはいかない。慇懃無礼な態度を取り続ける。
「くふふ、地縛神が相手になりますがこの勝負、受けますか?それとも拒みなさるか?いっひひひひひ!」
「オレは、オレは欲しい!力が!そのためならば、相手が地縛神だろうと―――!」
その瞬間だった。悪魔像が鼓動し、ジャックの眼からハイライトが消えた。意志を誘導される。
「はじめろ、儀式を」
「そうでしょう、そうでしょう!叶えましょう、叶えましょう!その思いを!では、ショータイムの始まりです!ふっははははははっ!」
「……」
ジャックは黙したまま、動かない。テイルは呆れた様子でそれを眺めていた。
(こうして無理矢理儀式を行なわされて、犠牲になった連中はどんだけいるのやら)
「いひひひひひっ!これより契約の儀式が行われます!古より伝わるそれは、デュエルによって行われる!んふふっ、アナタがワタシに勝てば願いを叶えられます」
ジャックのデュエルディスクが持ち主の意志に関係なく起動。デッキがオートシャッフルされる。
「「デュエル!」」
ジャックが5枚の手札を引き抜き、しもべがカードの石板を5枚展開する。
まさに開始される直前で、階段を下りる3人の姿。ジャックの姿を見つけ驚愕する。
「こ、これは!」
「ジャック!」
遊星が決闘場と化した広場へ向かおうとする。しかし、しもべはそれを許さない。
「邪魔なのですよ!」
しもべが地団駄を踏むように踊ると広場に亀裂が走り、ジャックが立っている場所だけが円柱状に切り抜かれ、他の足場が崩れ去る。そして、そこに続く階段の先も崩落した。大きな地鳴りが神殿内に響く。
「ひっはははははっ!いっひひひひひっ!」
腹を抱えて嗤ったかと思えば、掌から紫の光線を飛ばし、地上へとつながる出口を潰した。
「やはり出口が……!ジャック!」
遊星の呼びかけに、正気を取り戻すジャック。
「遊星……」
「いひひっ」
遊星目掛けて光線が放たれる。綴は遊星の上着の襟を引っ張り、間一髪で躱した。
「ありがとう」
「どういたしまして。愛する人は守るものよ」
「遊星!綴!」
「ジャック、私も綴もテイルも、あの紅蓮の悪魔の霊に利用されてしまったんだ!貴方をこの地に呼び、地縛神を我が物とするために」
「なんだと!?」
紅蓮の悪魔のしもべを睨むが、しもべは嗤うだけだ。
「いっひひ、ダメダメ。もう遅いよ。契約の儀式は始まってしまったものね」
「そんなものは無効だ!」
「それは許さない!!この儀式にオマエさんが勝ったら力をあげるよ?でもねぇ、ワタシが勝ったら、うひひひっ!アンタの身体は紅蓮の悪魔のものとなる!ひっははははっ!」
「なんだと……」
「ジャック・アトラスの肉体を手にして、1万年の眠りから紅蓮の悪魔を地上に復活するのさ!」
遊星達3人と背後のテイルを見て、しもべはさらに言葉を紡ぐ。
「アンタたちはね、この儀式の生贄となってもらうよ?」
「うええ、用済みになったらポイってことかよ。容赦ないなあ!」
「テイル!いたのね!?」
「ずっといたぜ!空気読んで黙ってたけどな!」
「アンタはそこでじっとしてなさい!」
「わかってますよっと」
再び物陰に潜むテイル。像を傷つけるわけにもいかず、しもべは苦々しい表情になる。
「おのれ!ふん、いいさ。ジャック、アンタを選んだのはね、紅蓮の悪魔自身なのだよ。オマエのたとえ地獄に落ちようともただひたすらに力を求める赤く燃える執念。それを包む器たるオマエの肉体こそ、紅蓮の悪魔が蘇るに相応しい。光栄に思わなきゃ!んふふふふふふっ!」
「奪えるものなら、奪ってみろ!」
「ジャック!」
「待っていろ遊星!さっさとこいつを片付けてやる!」
「ひゃははははっ!ならば、儀式をはじめよう!先攻はもらうよ?ワタシのターン!」
ドローの宣言の代わりに、石板が一つ、しもべの眼前に増える。
「ワタシは《手札抹殺》を発動!お互いに手札を全て捨て、捨てた枚数分新たにカードを引きいれる!」
「いきなり手札交換を……?」
ジャックが訝しむ中、お互いに5枚の手札を墓地に捨て、5枚のカードを新たに引く。
「これからが驚きの時間だよ?フィールド魔法《オレイカルコスの結界》発動!」
「あれは、綴が使った!」
決闘場の上空から、二人のデュエリストを囲むように翡翠色の円状の文字盤が地面に敷かれる。するとその円の中に、線が迸って、六芒星を描く。結界が完全に張られると、翡翠が一際輝き、場の異様さを際立てていた。
「このカードはコイツから奪ったただのカード。だけど!紅蓮の悪魔の力によって本来の機能は再現されている!敗者の魂はこのカードに封じられるのさ。もっとも、この儀式でアンタの肉体を奪うんだからついでのようなものだけど!」
「ぬうっ……」
「ちなみにこのカードがフィールドにある限り、ワタシのモンスターの攻撃力は500ポイントアップし、さらにこのカードは1ターンに1度破壊されない。カードを2枚伏せてターン終了」
静かな立ち上がり。だが、不気味な雰囲気を漂わせている。
(フィールド魔法を発動したのにモンスターを召喚しないだと?ならば伏せカードの正体は明らか!)
「オレのターン、ドロー!カードを2枚伏せターンエン―――」
「おやおや力で攻めないの?ま、正解なんだけどね!そのエンドフェイズ、《早すぎた復活》を発動!!墓地から「地縛神」を復活させる!顕現せよ!《地縛神 Chacu Challhua》!」
地縛神の核たる拳の形の心臓が中空に現れ、引き裂かれた石畳の穴から霊魂が吸収され、そして紫光の柱へと変じていく。それが晴れれば奈落より巨躯が這い上がり、地の境界から超弩級の鯱が上半身のみを出して吼え、背ビレを出した状態で潜る。
《地縛神 Chacu Challhua》ATK2900→3400/DEF2400
「やはり、地縛神を……!!」
「このカードの効果で復活した地縛神は攻撃しても意味がないから守備表示さ。けど、このカードが守備表示の時、アンタはバトルフェイズを行うことが出来ない!んふふふふっ!」
「しもべちゃんは力で押し通させない戦術を取った。どう立ち向かうのかしら……?」
「ワタシのターン、《地縛神 Chacu Challhua》の効果発動!このターン、攻撃しない代わりに相手にこのカードの守備力の半分のダメージを与える!1200ポイントのダメージを喰らいな!『ダーク・ダイブ・アタック』ッ!!」
回避不可の大波。黒い衝撃波がジャックを襲う。実体化したダメージにより、円柱の淵へと追いやられる。
「ぬうぅううううっ!」
ジャック:LP4000→2800
「ワタシはカードを1枚伏せてターンを終了しちゃったよ!」
「オレのターン、ドロー!リバース・カード・オープン!《リバイバル・ギフト》!墓地よりチューナーモンスター《ドレッド・ドラゴン》を特殊召喚し、相手フィールドに「ギフト・デモン・トークン」2体を特殊召喚!表示形式はオレが決める!守備表示だ!」
ドレッドヘアの小竜がジャックのフィールドに現れると同時、トカゲのような姿の悪魔が楽し気にしもべのフィールドに登場する。
「むざむざワタシの場にトークンを出してなんのつもり?何を召喚したところでバトルフェイズが行えないアンタは何もできないよ!」
「ぬるい!その程度でオレを止めた気になるな!相手フィールドに同じ属性のモンスターが2体以上存在することで、手札より《神禽王アレクトール》を特殊召喚!」
彫像めいた肉体を持つ、白磁の鎧を纏った鳥人の王が赤い羽根を散らして舞い降りる。違和感を抱いたのは遊星。
「ジャックはあのカードを持っていなかったはずだ。一体どこで……」
「あ、もしかしたら昨日のデュエルでジャックのカードを回収したときに僕の持っていたものと“たまたま”まざっちゃったのかも。うっかり」
「だが、ファインプレーかもしれないぞ。あのカードの効果は……」
「《アレクトール》の効果!フィールドに表側表示で存在するカード1枚を対象にし、その効果を無効にする!当然、対象は《地縛神 Chacu Challhua》だ!」
「な、なんと!」
鳥人が紅の燐光を放てば、大鯱の身体が強く震え、身体を弛緩させた。闇の神威が消滅したのだ。
「そして、レベル6の《神禽王アレクトール》にレベル2の《ドレッド・ドラゴン》をチューニング!王者の鼓動、今ここに列を成す!天地鳴動の力を見るがいい!―――シンクロ召喚!我が魂、《レッド・デーモンズ・ドラゴン》ッ!」
炎が舞う。ジャック・アトラスという男を象徴する紅の竜が吼える。襲い来る試練を自身の力で打破せんという意思の表れとして。
《レッド・デーモンズ・ドラゴン》ATK3000
「バトルだ!《レッド・デーモンズ・ドラゴン》で「ギフト・デモン・トークン」を攻撃!『アブソリュート・パワーフォース』ッ!!」
炎を纏った拳の一撃がトカゲの小悪魔に迫る。当然、それを見逃すしもべではない。
「無駄なんだよね!永続罠《地縛神の咆哮》を発動!相手モンスターの攻撃宣言時、その攻撃力がワタシのフィールドの地縛神より攻撃力が低い場合、そのモンスターを破壊!そして破壊したモンスターの攻撃力の半分のダメージを与える!《地縛神 Chacu Challhua》の攻撃力は3400!残念だったね、返り討ちさ!」
「手札より速攻魔法《禁じられた聖槍》を発動!対象となった《レッド・デーモンズ・ドラゴン》は攻撃力が800ダウンするが、このターン、このカード以外の魔法・罠の効果を受けない!」
「小癪な真似を!これでは攻撃が通ってしまうよ……!」
《レッド・デーモンズ・ドラゴン》ATK3000→2200
拳は見事トークンに命中。そしてその拳が纏う炎が空へと昇る。
「《レッド・デーモンズ・ドラゴン》の効果!このカードが相手の守備モンスターに攻撃を行ったダメージ計算後、相手フィールドの守備モンスターを全て破壊する!『デモン・メテオ』!!」
炎は隕石となって降り注ぐ。当然、地中に潜んでいた地縛神も例外ではない。
全身に襲い来る衝撃に耐えきれず、消滅する。
「うまい!完全な力を取り戻した地縛神を1ターンで倒した!」
「《リバイバル・ギフト》と《神禽王アレクトール》のコンボ……完全な力押しではない、ジャックは、新たな戦い方を見つけ始めている!」
「カードを1枚伏せ、ターンエンド!」
「んっふふふ、褒められて嬉しい?ジャック・アトラス?ですが、これは前座。本番はこれから!ワタシのターン!」
しもべ
LP:4000
Hand:3
Monster:
FieldMagic:《オレイカルコスの結界》
Magic&Trap:Set1+《地縛神の咆哮》
ジャック
LP:2800
Hand:2
Monster:《レッド・デーモンズ・ドラゴン》
FieldMagic:
Magic&Trap:Set2
新たに追加された石板を見て、元々深かった笑みをさらに深める。
「いっひひひひ!あっはははははっ!来ちゃったよ!《終末の騎士》を召喚!召喚成功時の効果によりデッキから闇属性である我が主、《地縛神 スカーレッド・ノヴァ》を丁寧に埋葬する!」
《終末の騎士》ATK1400→1900
瞬間、ジャックの立つ円柱の周囲を赤い巨大な蛇がうねり、地中から飛んでは地中へと移動する。
「あの姿は!どうして思い出さなかったんだ!既に地縛神というキーワードは出ていたというのに!紅蓮の悪魔と言い伝えられた地縛神……五千年前に地上絵に封印された地縛神よりさらに五千年前、赤き竜をすんでのところまで追いこんだ邪神が地上絵よりさらに地下深くに封印された。その邪神こそ、《スカーレッド・ノヴァ》!」
「そう、ダークシグナーでも使いこなすことのできなかった地縛神こそが我が主……んふふふふっ、ひはははははっ!」
(なんだ……この根源的な恐怖は?)
ジャックは腕が震えていることに気が付いた。本能的な恐れ。
「ひぃはっはっ!わかりますよ!嬉しいのでしょう!もうすぐ紅蓮の悪魔が蘇るのですから!……ですが、残念なことに我が主の身体はまだ本調子ではない。よって!同胞の身体を用いて、まずは一時的に仮初の身体を手にする!墓地の我が主を除外し効果発動!手札から「地縛神」モンスターである《Aslla piscu》を墓地に送り、デッキからさらなる地縛神を特殊召喚する!我が主の器となれ!《地縛神 Wiraqocha Rasca》ッ!!」
大地が蠢動し、地縛神の核が中空に現れると、無数の魂と共に赤い蛇がそれに入り込んでいく。そして天地が鳴動する。鳴り響く轟音。開けてはいけない地獄の門が開かれたかのような恐怖。核が紫光を放てば、そこに在るのは巨大なシルエット。全てを震撼させる超弩級のコンドル。奈落の底に半身を沈め、壮大なスケールの上半身がジャックの眼前に立ちはだかる。
《地縛神 Wiraqocha Rasca》ATK1→501
「ゴドウィンが操っていた最強の地縛神、《Wiraqocha Rasca》……!!」
「そう、まさにこのカードは最恐!その特殊能力を発動!このターンのバトルフェイズをスキップする代わりに、相手のライフを1にする!『ポーラスター・オベイ』ッ!」
《Wiraqocha Rasca》が禍々しく脅威的、且つ圧倒的な紫焔を放つ。
「ぬぉおおおおおっ!」
吹き飛ばされるジャック。かろうじて円柱の淵に片腕を掴み、堪える。
ジャック:LP2800→1
「いっひひひっ!しぶといね!けどこれで終わり。《火炎地獄》発動!相手ライフに1000ポイントのダメージを与え、ワタシに500ポイントのダメージを与える」
「バトルフェイズが行えなくても、効果ダメージを与えることに制限はない……!」
「ジャック!!」
業火が円柱を辛うじて登ったジャックを襲う。迫りくるそれを、避ける術はなかった。
―――そう、避ける術は。
「罠発動!《竜の転生》!場の《レッド・デーモンズ・ドラゴン》を除外することで、墓地よりドラゴン族モンスター1体を復活させる!」
「無駄無駄!今更何を復活させても!」
「蘇れ!《マテリアルドラゴン》!」
それは三対の翼を持つ金色の竜だった。迫りくる業火がジャックを飲み込むが、その身を焼き尽くすことはなく、むしろ癒しの力へと変換されていた。しもべに降りかかる火も癒しの火となる。
ジャック:LP1→1001
しもべ:LP4000→4500
「な、なにが!なぜ生きている!?」
しもべが狼狽え、吼えた。
「《マテリアルドラゴン》がフィールドに存在する限り、ライフポイントにダメージを与える効果は、ライフポイントを回復する効果へと変換される」
ジャックは静かに言った。極限の状況に追い込まれても彼は冷静だった。
「あのカードは元々ジャック・アトラスのデッキにはなかったはず!先程の《アレクトール》といい、湯上綴!余計な真似を!」
「“偶然”を余計と言われても困るわ。それに、このカードを手繰り寄せたのはジャック自身の運命力によるもの。王やドラゴンは彼に所縁が深いものなんだから。恨むなら、勝負を急いた自分を恨みなさい」
「やってくれる……!だが、所詮は一時しのぎにすぎない!ターンを終了!」
悔し気な表情でターンを譲渡する。ここに来て初めて、しもべは焦りを見せていた。手札が0枚になってしまった焦り。
「オレのターン、ドロー!……バトルだ!《マテリアルドラゴン》で《終末の騎士》を攻撃!」
癖のないまろやかなブレスが騎士をさらりと撃ち抜く。
しもべ:LP4500→4000
「ぬぅ……ですがワタシのライフを削るにはまったく足りない!」
「構わん!カードを1枚伏せ、ターンエンドだ!」
「ワタシのターン!再び《地縛神 Wiraqocha Rasca》の効果を発動!このターンのバトルフェイズをスキップし、相手ライフを1にする!『ポーラスター・オベイ』ッ!」
「ぐうぅうううっ!」
再度放たれる破滅の光線。吹き飛ばされるジャック。柱に捕まるも、裂けた大地から巨大な赤い蛇の群れが獲物を狙う。
ジャック:LP1001→1
「さらに!《マテリアルドラゴン》をリリースして、アナタの場に《ヴォルカニック・クイーン》を特殊召喚!」
「なに!?」
金色の竜を燃やし尽くし、現れ出でるは燃え盛る身体を持った鈍色の竜。頭部には女性を象った部分があり、そのヒトガタも燃えている。嫌悪感を抱かせるカード。
《ヴォルカニック・クイーン》ATK2500
「あひゃひゃひゃひゃっ!邪魔な《マテリアルドラゴン》は消滅しました。そしてその《ヴォルカニック・クイーン》は、自分のモンスター1体をリリースしないとアンタのエンドフェイズ毎に1000ポイントのダメージを与える!さっさと処理しないと負けちゃうよ?ターンを終了!」
「ジャック!」
「大丈夫だ遊星!オレがお前達を救ってやる!こんなところでくたばるオレではない!!」
柱を再びよじ登り、決意を露わにする。
「負けぬ!オレのこの荒ぶる魂の尽きぬ限り、オレは闘う!あらゆる手を使ってでも、オレの魂が燃え尽きるまで!」
紅蓮の悪魔の像に指を突きつけ、絶対勝利の意志を示す。
「荒ぶる魂、バーニング・ソウル……そうだ、紅蓮の悪魔を葬ったのは赤き竜だけではなかった!バーニング・ソウルを持った伝説のシグナーがいた!」
「伝説のシグナー?」
「伝説って?」
「ああ。一万年前、五千年毎に行われる赤き竜と邪神との闘いで最強の地縛神、紅蓮の悪魔こと《スカーレッド・ノヴァ》は赤き竜を劣勢の淵へと追い込んだ。だがその時、火山の炎よりシグナーの祖となる男が現れた。バーニング・ソウル……荒ぶる魂が彼の身を貫いた時、奇跡は起きた!」
ボマーの解説に熱が入る。その目に希望を宿して。
「赤き竜の力を得て、男は紅蓮の悪魔を倒し、封じた。荒ぶる魂、バーニング・ソウルを
持つ者が!」
「バーニング・ソウル……」
「いくぞ、紅蓮の悪魔よ!オレのターン、ドロー!」
しもべ
LP:4000
Hand:0
Monster:《地縛神 Wiraqocha Rasca》
FieldMagic:《オレイカルコスの結界》
Magic&Trap:Set1+《地縛神の咆哮》
ジャック
LP:1
Hand:3
Monster:《ヴォルカニック・クイーン》
FieldMagic:
Magic&Trap:Set2
引き当てたカードを確認。即座に行動に出る。
「地縛神は攻撃対象にすることは出来ないが、貴様を攻撃対象に出来る!そして、《地縛神 Wiraqocha Rasca》の攻撃力は501。《地縛神の咆哮》は意味をなさん!バトルだ!《ヴォルカニック・クイーン》でダイレクトアタック!」
炎の渦の如き竜が、主に歯向かわんと火山弾を放つ。しかし、しもべはそれを見越していた。
「弱点を放っておくほどバカじゃないよ!罠発動!《ディメンション・ウォール》!この戦闘で発生するダメージは相手が受ける!力に頼った戦法は無意味さ。自滅だね!いひひひひっ!」
「罠発動!《デストラクト・ポーション》!自分フィールドのモンスター1体を破壊し、その攻撃力分自分のライフを回復する!」
「なんですと!」
竜が爆散し、その身をジャックに融かしていく。己の戦術がまたも躱されたことにいらだちを覚えるしもべ。大地の裂け目の赤き蛇がジャックのみならず、しもべをも睨む。
ジャック:LP1→2501
「ひっ!申し訳ございません!ええい、なぜこうも……」
「お前のそのデッキは、テイルから奪ったカードを主軸にしている。どんな強力なカードを繰り出そうが、信念無きデッキ如きに負けるオレではないわ!」
「戯言を!今の《地縛神 Wiraqocha Rasca》は我が主を宿した状態!アンタのやっていることはわずかばかりの寿命を引き延ばしているだけ!いつまでも凌げるはずがない!」
「ならば、カードを1枚伏せ、ターンエンドだ!」
「モンスターを出さないままターンを渡すのか!?」
ボマーが疑問を呈すると、綴が仮説を立てた。
「《Wiraqocha Rasca》が間違いなく次のターンも効果を使ってくる以上、ただ壁を出しても効果は薄いからじゃない?シンクロ素材を並べるとしても、効果ダメージを与えるカードは相手フィールドのモンスターを参照するものが多いからリスクが高い。《自業自得》や《停戦協定》がそうね」
「それに、相手を揺さぶる効果もあるだろう。今のジャックは闘い方を変えて、パワーよりもテクニックを重視している。敵からすれば何をしてくるかわからない、といった不安は付きまとうはずだ」
(ああ、綴とテイル、あいつらのおかげで見えてきたものがある。そして、その果てに何かがあるはずだ。新たなオレの闘いの魂が!)
模索を続けていたジャック。暗闇の中の光を、彼は確かに捉えはじめていた。
「調子に乗るのもそこまで!ワタシのターン!永続罠《地縛神の咆哮》を墓地へ送り、《マジック・プランター》を発動!カードを2枚追加する!そして、三度《地縛神 Wiraqocha Rasca》の効果を発動!このターンのバトルフェイズをスキップし、相手ライフを1にする!『ポーラスター・オベイ』ッ!」
放たれるは生命を奪う光。だが、ジャックはその軌道とタイミングを読み、敢えて足場から後ろへと飛ぶことで回避した。
「なに!」
そして、円柱に両の掌を乗せ、再び決闘場へと舞い戻る。
「三度も同じ技が通じるか!」
「しかし、ルールはルール!アンタのライフは1になる!」
ジャック:LP2501→1
ジャックのライフが変動したことを確認すると、やかましかったしもべの動きが止まった。
(どうしてこの重要なタイミングでこのカードが!我が主の宿りし地縛神を手放すなどあってはいけないというのに!)
思考で雁字搦めになりそうなところを、テイルが小声でアドバイスを入れる。カードを子供の身長以上の石板で用いているため、手札が丸見えなのであった。
「使うか悩んでんの?使えば可能性が広がって、このターンで勝負を決められる可能性だってあるのになあ。勝てば契約はあんたらが得する結果で終わるんだ、まさか……覚悟のないままデュエリストやってるなんて言わないよな?」
「ワタシはデュエリストを名乗った覚えは―――」
「デッキはデュエリストに応えるもの。信じれば結果は齎されるぜ?勝ちたいって単純な気持ちも立派な信念だ。とりあえず、やってみろ!(ま、ルールを守っている限り、なんだけど)」
「…………ワタシは《地縛神 Wiraqocha Rasca》をリリースし、《アドバンスドロー》を発動!新たにカードを2枚追加する!」
「馬鹿な!自ら地縛神を手放すなど!」
大地の割れ目へと沈んでいく最強の地縛神。だが、しもべに対し、主が罰を与えることはなかった。
「《異次元からの埋葬》を発動!我が主を再び墓地へ戻す!そして、墓地の《終末の騎士》、《Chacu Challhua》、《Aslla piscu》、《Wiraqocha Rasca》、我が主《スカーレッド・ノヴァ》の5枚を対象に《貪欲な壺》を発動!これらをデッキに戻し、新たにカードを2枚追加!」
空中から石板が二つ降下すると、紅蓮の悪魔像が怪しく紅い光を放ち、容赦のない衝撃をジャックに与える。怯む身体。
「我が主の怒りは、頂点を極めておりますぞ!それは炎となり、キサマを喰らいつくす!ワタシは《エクストラ・ヴェーラー》を宣言し、永続魔法《禁止令》を発動!宣言したカードはフィールドに出すことも、効果の発動も許されない!そして、手札の我が主を除外して効果発動!《Wiraqocha Rasca》を手札から墓地へ送り、《地縛神 Chacu Challhua》に我が主を宿す!」
《地縛神 Chacu Challhua》ATK2900→3400
超弩級大鯱が再び降臨。その身体には赤い蛇が纏わりつき、異様な威容を放っていた。
「紅蓮の悪魔の裁きを受ける覚悟はいいか!!」
紅蓮の悪魔像に罅が入り、再び紅い光を放つ。先程のプレッシャーとは比べ物にならない。割れた石を飛ばし、風が吹き荒れる。ジャックは円柱の淵まで後退させられた。
そして割れた像の隙間から紅蓮の悪魔《スカーレッド・ノヴァ》がその瞳で全てを睥睨し、大地の裂け目からは6匹の赤き大蛇が湧き出でる。
「いひひっ!今まさに紅蓮の悪魔が復活しようとしている!そしてこの裁きの鉄槌により、ジャック・アトラス、キサマは終わり!《地縛神 Chacu Challhua》の効果発動!このカードの守備力分のダメージを与える!《エクストラ・ヴェーラー》が封じられた今、防ぐ手立てはない!『ダーク・ダイブ・フレア』ッ!!」
炎で構成された大波がジャックに襲い来る。回避不可能な一撃。
「やらせん!《リビングデッドの呼び声》を発動!《マテリアルドラゴン》を墓地より復活させる!!」
「なに!?」
大波がジャックを焼き尽くさんとするも、勝負はつかなかった。金色の竜の力により痛みは癒しへと変わる。
ジャック:LP1→1201
「よくも!よくもよくも!しかし、魂たる《レッド・デーモンズ・ドラゴン》を自ら除外したアンタに、勝利の道なんてものはないのさ!今の《地縛神 Chacu Challhua》は、アイツが持っていた原本の力を引きだされ、攻撃対象に選択できなくなっている!つまり、ワタシに直接攻撃することは出来ない!ターンを終了!いっひっひ!契約の儀式は最終章を迎えつつありますぞ!」
紅蓮の悪魔像がさらに割れ、《スカーレッド・ノヴァ》の右腕が出現する。神殿が蠢動し、天井が崩れ始め、さらに悪魔像も崩壊。左腕と顔を顕わす。
「我が主、紅蓮の悪魔が復活なされる時が来たッ!!」
「これが《スカーレッド・ノヴァ》!紅蓮の悪魔……」
「主も言っている!ジャック・アトラス、オマエに逆転の手段はないと!」
天井と階段がさらに崩落。遊星達3人は階段の上部へ避難する。テイルはどこかへ消えていた。
「遊星、ボマー、綴!」
「いっひっひ!どうせキャツラは儀式の生贄!その断末魔の悲鳴でクライマックスを迎えてもらいましょうか!」
「おのれ!させるか!大切な仲間、かけがえのない同士!たとえこの身が、魂が燃え尽きようとも、絶対に守り抜く!」
「何を言う!自らの主義を捨てたキサマに、何ができる!生贄共も、オマエの肉体も、我が主、紅蓮の悪魔のものだ!」
「オレの魂が、そうはさせん!オレの魂は不滅だ!オレのターン、ドロー!」
しもべ
LP:4000
Hand:0
Monster:《地縛神 Chacu Challhua》
FieldMagic:《オレイカルコスの結界》
Magic&Trap:《禁止令》
ジャック
LP:1201
Hand:3
Monster:《マテリアルドラゴン》
FieldMagic:
Magic&Trap:Set1+《リビングデッドの呼び声》
ジャックが拳を左胸に力強く充てる。すると、心臓から聖なる紅い光が溢れでる。その輝きは確かな力強さと大きな信頼を正しき心を持つ者に強く感じさせた。
「《魂の開放》を発動!オレの墓地に存在する《ドレッド・ドラゴン》、《神禽王アレクトール》を除外!そして、ライフを半分払い、《異次元からの帰還》を発動!除外されているオレのモンスターを可能な限り特殊召喚!帰還せよ!《ドレッド・ドラゴン》、《神禽王アレクトール》、そしてオレの魂に火を点けろ!《レッド・デーモンズ・ドラゴン》!」
ジャック:LP1201→601
炎が一瞬ジャックの周囲を廻ると、紅蓮魔竜が同胞を連れてその姿を現す。壮観。
「そして、《神禽王アレクトール》の効果発動!《地縛神 Chacu Challhua》の効果を無効にする!」
悪を正す無慈悲な光。大鯱と紅蓮の悪魔が一瞬怯む。
「またしても!しかし!オマエの場には《Chacu Challhua》を超える攻撃力を持つモンスターはいない!《レッド・デーモンズ》如きが、ワタシに立てつくことは許されぬ!」
「感じるぞ!魂の鼓動を!」
ジャックの右拳に滾るように炎が出でる。それは、伝説の再現。しもべが瞠目する。
「それは!」
「荒ぶる!オレの魂が!」
「バーニング・ソウル!やはりジャックは、伝説の男の……」
「させぬぞ!させませぬぞォッ!!」
紅蓮の悪魔が吼え、ジャック目掛けて天井から巨大な瓦礫が降下する。命を奪わんとする一撃。狭い足場では回避不能。目を背けたくなる現実が迫ろうとする。
―――その瞬間だった。遊星とジャック、二人のシグナーの痣が輝き、嘶きと共に赤き竜が降臨した。その身体が一撃を防ぐ。
「赤き竜!」
「ケッツアーコアトル!この地で崇められている守り神だ!」
(来たわね!問題は……)
(おれ達をどうするか、だ。流石に見殺しにはしないと思うが、どんな審判を下すやら……)
歪なペンで物語を弄った自覚のある二人が思考を巡らせる中、ジャックは己の中に滾る熱意のままに、カードを振り下ろす。
「チューナーモンスター《フォース・リゾネーター》を召喚!そして、レベル8の《レッド・デーモンズ・ドラゴン》にレベル2の《ドレッド・ドラゴン》とレベル2の《フォース・リゾネーター》、2体のチューナーモンスターとダブルチューニング!!」
「チューナーモンスターを2体!?」
「そんなシンクロがあるのか!?」
「バーニング・ソウルを持つ者は、赤き竜の力を得て奇跡を起こすのよ!」
小竜と悪魔の身体の端々が轟々と燃える4つの輪となり、紅蓮魔竜の身を囲う。そしてジャック自身の身体もまた、轟々と燃える炎の闘気を迸らせる。
「荒ぶる魂よ!再び紅蓮の悪魔をその力によりて封印せよ!」
天に掌を翳せば、紅く輝くカードが現れる。ジャックはそれを力強く掴んだ。
「な、なに!?どうゆうことだ!?」
しもべの驚愕も束の間、紅蓮の悪魔が赤い光となって揺らめく。大鯱に宿っていた欠片もまた、その姿を朧げにする。
「まさか、まさかまさかッ!?」
右を向き、左を向き、信じがたい出来事に血の気が引いていくしもべ。
「紅蓮の悪魔よ!お前の力を、全て根こそぎ奪ってやる!—――王者と悪魔、今ここに交わる!荒ぶる魂よ、天地創造の叫びをあげよ!」
回転する日の輪は光輪となって、紅蓮の悪魔を吸収していく。紡がれる奇跡を、止められるものはいない!
「―――シンクロ召喚!!出でよ!《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》ッ!!」
光輪が紅蓮の悪魔を吸いつくすと、猛々しい炎の渦が《レッド・デーモンズ・ドラゴン》の呑み込み、燃え盛る中で進化を遂げ、儀式の場を緋色に照らし出す。
一瞬の閃光、巻き散らされる赫灼の炎熱。現れ出でた敢然たる佇まいの緋色の巨影が咆哮を上げた。
暗き赤宿す体躯。取り込んだ悪魔の力を以て、新たな次元へと昇華されたジャックが抱く荒ぶる魂がここに新生したのだ。
《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》ATK3500
「ありえない……我が主を、紅蓮の悪魔を従えたというのか……!?」
「《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》の効果!オレの墓地に存在するチューナーモンスター1体につき、攻撃力を500ポイントアップさせる!墓地には《ドレッド・ドラゴン》、《フォース・リゾネーター》、そしてお前の《手札抹殺》によって送られた《ダーク・リゾネーター》、《チェーン・リゾネーター》の4体!よって、《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》の攻撃力は2000ポイントアップし、5500となる!」
《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》ATK3500→5500
「そ、そんな……」
「さらに、《受け継がれる力》を発動!《神禽王アレクトール》を墓地に送り、その攻撃力を《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》は継承する!」
《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》ATK5500→7900
圧倒的力の差。しもべは今度こそ本当に狼狽えた。
「主無きワタシめに、何を……!?」
「力を見せてやろう!あらゆる手を尽くし、そのうえで辿り着いた究極のパワー!これがオレの新たなる闘いの魂!《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》で、《地縛神 Chacu Challhua》を攻撃!『バーニング・ソウル』ッ!!」
漲る闘志を熱量に変えて、新生した魂が猛りを上げる。此処まで来て、最早小細工などありはしない。真炎を集束させ、紅の輝きで己の身を包み込む。最後の最後、咆哮と共に莫大な輝きを伴って、大鯱へと猛進する。
抵抗する術を持たない地縛神は、紅の閃光に撃ち抜かれた。その余波で以て、背後に立つしもべのライフもまた消え失せる。
「ぬぅあああああッ!!」
しもべ:LP4000→0
爆風と熱波が押し寄せ、それにより発生した衝撃により悪魔像は崩壊。しもべへと落下する。
「そうはいかないんだよな!《オレイカルコスの結界》のしきたりにより、あんたはカードに封印される!」
翡翠色の円陣が怪しく輝き、しもべはそれに取り込まれる。それと共に、石板と化していたカードも、元のサイズへと変換された。
そして、神殿の地下は全て崩落。遊星、ボマー、綴、ジャック、そしてテイルも奈落の底へ降下する。その瞬間、赤き竜が嘶いた。
そして、5人は地上に倒れ伏していた。そして数枚の散らばったカード達。崩れた神殿の近くで、瓦礫に埋もれることのない状態だった。マックスとアニーが駆け寄る。
「大丈夫!?」
「大丈夫ですか!?」
「ああ……」
ジャックが身を起こし、残る4人も立ち上がる。すると、赤き竜が彼ら7人を見守るように、そこにいた。綴とテイルが冷や汗をかく。
(あれ?アニメだとさっさといなくなっていたわよね……)
(何が起きるやら……)
『おい、どうなっている!』
散らばったカードの中の1枚。《地縛神 Aslla piscu》が半透明の状態でイラスト部分の上にいた。手のひらサイズのデフォルメされた姿が小さく羽ばたいて抗議しようとするも、赤き竜が嘶いて騒ごうとしていたハチドリを黙らせる。
「なんと言ってるんだ?」
『おまえたちの復活は全て紅蓮の悪魔によるもの。それが力を奪われた以上、本来の力はなくなり、伝承用のカードの中に封印された状態になっているのだ、だと!……おのれ!』
「あら?他の2体は?」
『あの2体は《スカーレッド・ノヴァ》が魂を蘇らせることなく、傀儡として操っていた。我が奴に反抗的な態度をとったからであろう。あのしもべに応えない可能性を万が一にも避けたというわけだ。実際、我は応えなかったのだからな』
「うわ、どっちも小心者じゃん」
テイルが辛辣な感想を述べる中、ボマーとジャックは《Aslla piscu》を睨んでいた。
「赤き竜よ、なぜこの邪神を封印しなかったのですか?」
「そうだ!こいつのやったことは……!」
カーリーを操り、悲劇を生んだ元凶。苦々しい思い出がジャックの中に蘇る。再び赤き竜が嘶いた。
『おまえたちはもはやどんな魂を生贄として吸収することは出来ない、そしておまえは湯上綴達に愛玩される不自由を味わえ……!?カーリー渚に近づけばその存在を永遠に消滅させる、だと……!?』
「ようするにおれらのペットか。妥当じゃね?あんた、ジャックを傷つけるためにカーリーさんの恋心を利用して巻き込んだワケだし。みみっちいことやった罰だ。受け入れな」
「……ふん、いいだろう。精々生き地獄を味わえ」
ジャックが渋々納得すると、赤き竜がクオーン、とさらに嘶いた。今度はテイルと綴にその顔を向けて。
「なんて言ってるの?」
『大切な者を救うためといえど、過ぎた渇望はやがて身を滅ぼすことになる。心しておきなさい。今回、事を大きくした自覚があるのなら神殿の修復を手伝ってくれる?と』
「わかりました。地縛神を持ってきた僕達に責任があるものね」
「おれはしもべに渡しちまったし……もちろん全力でやりますとも」
赤き竜は最後に一つ嘶くと、遥かな空へと向かい、その姿を消した。
『ふん、「健やかに生きなさい」、か。自分の妹と肉体関係を結んだ不健全な奴が何を言うか』
「呪いの酒、プルケの逸話だな。だが、その姿で詰ったところで滑稽なだけだぞ、地縛神よ」
「にくたいかんけいってなに?ケッツアーコアトル、なにか悪いことしたの?」
「大人になればわかることよ。あなた達二人はきっと素敵な大人になるわ」
「アスピッピ、自分の立場弁えな」
『アスピッピ!?』
「かわいいニックネームでしょ?けど囀りすぎはよくないわ。テイル、デッキケースに仕舞って」
「おっけー」
『待て、まだ言いたいことが山程……』
小鳥に自由はなかった。ケースという暗い籠の中に閉じ込められ、沈黙させられる。
「これで全部解決、したのか……?」
「ジャックの勝利報酬がまだだぜ。はいこれ」
差し出されたカードは《地縛神 スカーレッド・ノヴァ》と《スカーレッド・ファミリア》。先程戦った紅蓮の悪魔とそのしもべだ。
「……」
「微妙な顔になるのもわかるけど、まあ持っておくに越したことは―――」
「いいだろう。だが、後で話がある。綴、お前もだ」
「用件はわかっているわ。好きに暴きなさい」
「ジャック、一体何を……?」
「すぐにわかる。今は、この惨状を片付ける方が先だ」
神殿の周囲に散らばった大小の石の数々。これを放置したままには出来ない。7人全員が綺麗に取り除き、気付けば夜を迎え、食事を済ませ、マックスとアニーは寝静まった。
そして、ある程度形を整えられた神殿の前で綴とテイル、ジャックと遊星とボマーが分かれて向き合う。剣呑な雰囲気が漂っている。
口火を切ったのは勿論ジャックだった。
「今回の件、お前達が裏で糸を引いていたな?」
核心をつく一言。二人は、嗤った。
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▼《Aslla piscu》がなかまになった!(?)
もうちょっとだけ続きます。