不動遊星の初体験を奪いたい   作:うおのめちゃん

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2話 何度でも受け止めてやる

 謎の男の娘、湯上綴と不動遊星のデュエル。互いに予測不可能な策略を巡らせながら、勝負の行方はさらに熱を帯びていく。

 

LP:600

Hand:5

Monster: 《メタモルポット》

FieldMagic:《サベージ・コロシアム》

Magic&Trap: Set2

 

遊星

LP:4600

Hand:5

Monster:《ジャンク・デストロイヤー》

Magic&Trap:Set3(内1枚は《くず鉄のかかし》

 

 手札は豊富だが、綴の場には攻撃力700の《メタモルポット》とフィールド魔法以外なにもない。彼は先程の予言を実行するべく、行動を開始した。

 

「まずは速攻魔法《サイクロン》を発動!《くず鉄のかかし》を破壊する!」

「やはりそう来たか……」

 

 ここまでは遊星の想定内。綴の残る手札は4枚。ここからが勝負の行方を左右する。

 

「《メタモルポット》をリリースし、《エネミー・コントローラー》を発動。このターンのエンドフェイズまで《ジャンク・デストロイヤー》のコントロールを得る!さあ、こっちにおいで?」

 

 壺の中の魔物を電源に、ABCのコマンドの付いたコントローラーの端子が《ジャンク・デストロイヤー》に接続。綴の場に移動する。

 

「また遊星のモンスターのコントロールを……!」

「くっ……これではまるで……」

 

 【機皇帝】のようだ、と遊星は想起した。自分が信じたモンスターを捉えて、己が力とする脅威の敵。綴の言う心揺るがす出来事とはこれか、と一瞬疑念を持つ。

 

(だが、まだ望みはある!)

 

 遊星の闘志は潰えていない。そんな様子を綴は面白そうに見つめていた。

 

「まだ余裕がありそうね。いいわ、何を伏せていても構わない!奥の奥まで暴いてあげる!バトルよ!《ジャンク・デストロイヤー》で―――」

「攻撃宣言を行う直前、俺は2枚のカードをリバース!1枚目!《ロスト・スター・ディセント》!2枚目!永続罠《強制終了》!まずは《強制終了》の効果により、《ロスト・スター・ディセント》を墓地に送ることでバトルフェイズを終了させる!そして、《ロスト・スター・ディセント》の効果で墓地の《ジャンク・アーチャー》のレベルを一つ下げ、守備力を0にし、守備表示で特殊召喚!!」

 

《ジャンク・アーチャー》:☆7→☆6 DEF2000→0

 

 《ジャンク・デストロイヤー》の拳がぴたり、と止められる。そして遊星の場に蘇る《ジャンク・アーチャー》。その身からは力が失われている。

 

「一度発動したカードは、効果処理中に墓地に送られても“発動した事実”が残るから無効化されない。それを利用して《ロスト・スター・ディセント》を《強制終了》のコストにしたのか。流石遊星、このピンチを切り抜けた!」

「また厄介なものを……しかも攻撃宣言していないから、《ジャンク・デストロイヤー》はこのままだと《サベージ・コロシアム》の効果で破壊されちゃうじゃない。

だったら、このメインフェイズ2でうまく処理してあげる。僕はレベル8の《ジャンク・デストロイヤー》をリリースして伏せていた《アドバンスドロー》を発動!カードを2枚ドローする」

 

 手札補充に次ぐ手札補充。自分の信ずるモンスターをうまく利用されたとあっては、遊星も悔しさで歯噛みせざるをえなかった。

 

「カードを1枚セット、モンスターは……出せないわ。あら、手札が4枚なのに動けないし、《強制終了》が除去できないと自分の《サベージ・コロシアム》のせいで防戦一方になっちゃう……。あれ、僕ってば地味にピンチ?」

「キミのことだ、伏せカードか手札の中にバトル回避のカードがあるんじゃないのか?」

「手品のタネ明しは無粋よブルーノちゃん。でも言っておくけど、バトル回避のカードはないわ!」

 

 堂々と断言する綴。嘘偽りはないという風に手を大きく広げる。

 

「“ちゃん”ってキミは……彼の言っていることは本当かな?」

「……綴の発言は事実だろう。戦術に奇抜さこそあれ、今までの言動に嘘はなかった。だが、『バトル回避』のカードがないだけで、最低でもダメージを防ぐカードは持っているとみていいはずだ」

「僕をよく見てくれているようで何より。狙いがわかっているのなら、かかってきなさい?」

 

 お互いに言葉を投げ合う。投げ合った後の波紋を伺うかのように。

 

LP:600

Hand:4

Monster:

FieldMagic:《サベージ・コロシアム》

Magic&Trap:Set2

 

遊星

LP:4600

Hand:5

Monster:《ジャンク・アーチャー》(☆6)

Magic&Trap:《強制終了》

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 新たなカードを手札に加えた遊星は静かに瞼を閉じた。

 すると遊星の脳裏に手札に揃ったカードと場に残った《ジャンク・アーチャー》のカードが光で結ばれると一筋の道となる。

 ここに逆転の道筋は整った――その心意と共に、目を見開いた遊星は手札からモンスターカードを引き抜いた。

 

「俺はチューナーモンスター《ニトロ・シンクロン》を召喚!」

 

 タンク状のボディに手足と眼鼻口をつけたモンスターが出現する。頭部と胴体が一緒くたのそれは、身体の頂点に圧力のメーターがついているチューナーモンスター。

 

「遊星の場にはレベル6となった《ジャンク・アーチャー》がいる、ということは……」

「狙いはレベル8のシンクロ召喚ね……!なら、《砂塵の大竜巻》をリバース!《強制終了》を破壊する!」

「かまわない!いくぞ!俺はレベル6の《ジャンク・アーチャー》にレベル2の《ニトロ・シンクロン》をチューニング!」

 

 《ニトロ・シンクロン》が二つの環をなし、《ジャンク・アーチャー》を六つの星へと変えると八つの星々が風を切って宙を舞った。

 その星々を束ねるのは遊星の言葉――思いを繋げる絆の詩だ。

 

「集いし願いが、新たに輝く星となる。光さす道となれ!」

 

 遊星の詩に導かれた八つの星々が、その願いである絆で結ばれあう様に光の道を造った。

 光の道の中で遊星の思いを受け取った星々は新たな姿と力を得て、今ここにその威容を現す。

 遊星は光の道からいずる、そのモンスターの名を――己がデッキの真のエースの名を高らかに呼んだ。

 

「―――シンクロ召喚!!飛翔せよ、《スターダスト・ドラゴン》ッ!!」

 

 声に導かれ、白き星屑の竜が煌く光を零しながら闘技場に舞い降りた。

 

「出た!遊星の《スターダスト》!」

「おいでなすったわね……攻撃表示で出した以上、僕の仕掛けに飛び込むことになるけどいいのかしら?」

「やってみなければわからないさ。バトル!」

「やってみなくてもわかるわよ!バトルステップに突入したことで手札の《ジュラゲド》の効果発動!このカードを守備表示で特殊召喚し、ライフを1000回復する!」

 

 焦点の合わぬ瞳。剣のように長い爪。脚部の無い下半身。猟奇的な造形の悪魔が、殺意を潜めて戦場に出る。

 

綴:LP600→1600

 

「だけど、そのモンスターの守備力は1300。一時しのぎにしかならない!」

「どの道《サベージ・コロシアム》で攻撃は強制されている。いくぞ、《スターダスト・ドラゴン》で《ジュラゲド》を―――」

「攻撃宣言、したわね?」

 

 静かになった。音が消えた。不自然なほどに。だが、激しい嵐より凪の海の底にこそ恐ろしいものが潜んでいることもある。

 

「何を……」

 

 汗が流れて、床に落ちた。汗をかかない方法を忘れたように、いやにゆっくり、血が巡る。

 

「これが僕の今回の切り札。このカードは相手の攻撃宣言時、手札およびフィールドの悪魔族モンスターを墓地に送ることでのみ特殊召喚ができる。僕は手札の《軍神ガープ》とフィールドの《ジュラゲド》を墓地へ送る!おいで、僕の大いなる闇!」

 

 甲殻虫を模した軍神と異形の悪魔が綴の足元の影に沈んでいく。無様に赤く腫れあがった天井の下に、深い色の影が伸びていた。そこに穴があいているかのような、くっきりとした妙に形の印象の強い影が、そこにある。

 そこから伸びるは金色の爪を生やした悪魔の腕。這い出るように全体像が徐々に明らかになっていく。傷んだ赤色の長髪。布で覆われた目元。天使を想起させる翼と、悪魔を想起させる翼が左右に一対。まさしく異形というべき姿が誕生する。

 

「―――究極の絶望を齎せ、《ダークネス・ネオスフィア》!!」

 

《ダークネス・ネオスフィア》:ATK4000

 

 言葉にならなかった。理解ができなかった。

 その異形は、蹂躙、虐殺、そんな言葉さえ連想させない程ある種純粋な存在感を放っていた。エンターテインメントと推しの初体験を奪いたい、真摯なようでいてどうしようもない綴の姿勢を表すように。

 そして、そんな中でも《スターダスト》はその口内に白き光を輝かせてしまっていた。

 いや、それは光ではない。幾千幾万に集まった星屑の粒子の煌きだ。

 本来ならばバラバラとなって零れ落ちるはずの星屑の粒子たちを風の力で一つに纏め上げているのである。

 

「「……なっ!!」」

 

 遊星とブルーノの中で止まっていた時間が動き出す。大いなる闇に戦慄している間に、《スターダスト》が攻撃の準備を始めていた。攻撃力が劣っているにもかかわらず、だ。

 

「《サベージ・コロシアム》は残酷な戦場。闘いを始めてしまえばもう止まらないわ。ふふっ、あなたの心は確かに揺らいだでしょう?さあ、受け止めてあげるわ!あなたの『シューティング・ソニック』を!」

「ぐっ……《スターダスト・ドラゴン》で《ダークネス・ネオスフィア》を攻撃!

響け!『シューティング・ソニック』ッ!!」

「だめだ!」

 

 遊星の言葉と共に《スターダスト・ドラゴン》の口内から星屑たちが風の力によって放たれる。だが、異形の悪魔はそれを確かに下腹部で受け止めた後、笑みを浮かべる。そして、顔を後ろに向け、後頭部に備わった巨大な眼から極太の光線を放ち、星屑の竜を撃ち抜いた。光線の余波が遊星を襲い、砂煙が舞う。

 

「消えなさい!」

「ぐううぅううっ!!」

 

遊星:LP4600→3100

 

 だが、砂煙が晴れた後も、遊星の希望たる竜は消滅していなかった。

 

「あら?どうして?」

「墓地の《シールド・ウォリアー》の効果!ダメージ計算時にこのカードを除外することで、自分のモンスターはこの戦闘では破壊されない!」

「そのカードが墓地に置かれたタイミングは……《調律》の効果ね。悪運がいいこと。けど、僕のとっておきの切り札をどう攻略するのかしら?……そうそう、《サベージ・コロシアム》の効果であなたのライフが300回復するわ」

 

遊星:LP3100→3400

 

「遊星……」

「俺はカードを4枚伏せ、ターンエンド!」

 

 遊星の意思は折れない。

 

(いい!瑞々しい青年が挫けずに立ち向かおうとする意志のなんて美しいこと!僕はこれを待っていたんだぁ……)

 

 綴の笑みが深まる。彼の愉しみはまだ終わらない。

 

「僕のターン、ドロー!」

 

LP:1600

Hand:2

Monster:《ダークネス・ネオスフィア》

FieldMagic:《サベージ・コロシアム》

Magic&Trap:Set1

 

遊星

LP:3400

Hand:1

Monster:《スターダスト・ドラゴン》

Magic&Trap:Set4

 

「墓地に眠る5体のモンスター《ヘル・セキュリティ》2体、《ダーク・ネクロフィア》、《ジュラゲド》、《軍神ガープ》を対象に《貪欲な壺》を発動!この5体をデッキに戻し、カードを2枚ドローする!」

「また手札補充を……!」

「手札は可能性。そしてデュエルはカードの応酬こそが華。だったらドローしなくてどうするのよ?」

 

 辞書から頁を引きちぎって喰らうかのように、貪るような引き。

 

「伏せが4枚あるけど……バトル!」

「この瞬間、《シューティング・スター》を発動!このカードは《スターダスト》が存在することで発動でき、相手フィールドのカード1枚を対象として破壊する!俺が選ぶのは、当然、《ダークネス・ネオスフィア》だ!」

「手札から《ダークネス・ネオスフィア》を対象に速攻魔法《禁じられた聖槍》を発動!ターン終了時まで、攻撃力を800ダウンし、他の魔法・罠の効果を受けなくする!」

「まだだ!俺も速攻魔法を発動する!《ハーフ・シャット》!このターン、《ダークネス・ネオスフィア》の攻撃力を半分にし、戦闘では破壊されない!」

「なんですって!ということは……」

 

Chain3:《ハーフ・シャット》

《ダークネス・ネオスフィア》ATK4000→2000

Chain2:《禁じられた聖槍》

《ダークネス・ネオスフィア》ATK2000→1200

Chain1:《シューティング・スター》

《ダークネス・ネオスフィア》が《聖槍》の効果を受けたため無力化

 

 異形の悪魔は攻撃力が大幅に減少。《スターダスト》が放った流星には耐えたものの、その姿には疲労が見える。

 

「そして、《サベージ・コロシアム》によって、おまえは強制的に攻撃宣言をしなければならない!」

「うっ……《ダークネス・ネオスフィア》で《スターダスト・ドラゴン》を攻撃!」

 

 傷んだ赤色の髪に隠れた後頭部の巨大な眼から細い光線が発射される。攻撃力が減少したことで、出力が低下しているのだ。

 

「迎え撃て!《スターダスト・ドラゴン》!!」

 

 竜から放たれた幾万と集められた星屑たちの流れが、光線を押し返し、《ダークネス・ネオスフィア》を飲み込まんとする。

 

「だけど、《スターダスト》の攻撃力は2500。《ネオスフィア》との攻撃力の差は1300。僕のライフは300残るわ……」

「それはどうかな?ダメージステップに罠カード《スキル・サクセサー》を発動!《スターダスト》の攻撃力を400ポイントアップさせる!」

「なんですって!」

 

《スターダスト・ドラゴン》:ATK2500→2900

VS

《ダークネス・ネオスフィア》:ATK1200

 

「これでダメージは1700!遊星の勝ちだ!」

 

 星屑の流れが威力を増し、弱った異形の悪魔ごと綴を襲い、爆発。闘技場に再び砂埃が舞い、辺り一面を暗くする。遊星はじっと、じっと、爆発地点に目を凝らす。静寂の中では、何も動く気配はない。

 

(どうなった?)

「……このデュエル、簡単に終わらせるわけないでしょ?また受け止めてあげたわ。あなたの『シューティング・ソニック』を」

 

 視界が開かれた瞬間も、綴はデュエリストとして立っていた。薄ら笑いと共に。

 

綴:LP1600→1600

 

「ライフが減っていない!どうして!」

「手札から《アルカナフォースXIV-TEMPERANCE》を捨てて、その効果を発動していたわ。この戦闘で受けるダメージを0にしたの」

「やはり、一筋縄ではいかないか……」

 

 今までの攻防の中で、綴のライフを自力で減らせたのは《ジャンク・アーチャー》が《ダーク・ネクロフィア》を攻撃したときだけだ。それもたった100ポイント。それ以外は凌がれ続けていた。

 

「そして戦闘が成立したことにより《サベージ・コロシアム》の効果でライフを300回復」

 

綴:LP1600→1900

 

 自爆特攻でライフを大きく減らしたにもかかわらず、綴のライフは徐々に回復をしていた。砂山の棒を倒さないように限界まで砂を払っていくかのようなデュエルをしたかと思えば、まるでこちらの行動をすべて読んでいるかのような余裕を見せている。

 

「カードを1枚伏せ、ターンエンド。そして互いのモンスターの攻撃力は元に戻る」

 

《スターダスト・ドラゴン》:ATK2900→2500

《ダークネス・ネオスフィア》:ATK1200→4000

 

(このままでは……)

 

厳しい状況。目の前に立ちはだかるは異形なる闇の化身。今度こそ相手の防御を崩し、勝利への道を切り開くための決定打が必要だった。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

LP:1900

Hand:0

Monster:《ダークネス・ネオスフィア》

FieldMagic:《サベージ・コロシアム》

Magic&Trap:Set2

 

遊星

LP:3400

Hand:2

Monster:《スターダスト・ドラゴン》

Magic&Trap:Set1

 

デッキから引き抜いた新たなカードを手札に加えた遊星は、その内容に笑みを浮かべると手札の中から一枚のカードを手に取った。

 

「《戦士の生還》を発動!墓地に存在する戦士族モンスター《ジャンク・シンクロン》を手札に加える!そして《ジャンク・シンクロン》を召喚!その効果で墓地に眠る《スピード・ウォリアー》を特殊召喚する!」

 

 再度召喚された《ジャンク・シンクロン》と二度召喚された《スピード・ウォリアー》が闘技場に並び立つ。

 だが、遊星の手はこれで終わりではない。

 

「さらに、リバース・カード・オープン!《エンジェル・リフト》!墓地のレベル2以下のモンスターである《チューニング・サポーター》を復活させる!」

 

地面からミニチュア程の小さな鍋が飛び出し、ひっくり返ると、それを被った小さな機械人形が登場した。

 

「なにをシンクロ召喚する気?言っておくけれど、《ダークネス・ネオスフィア》は攻撃力4000を誇る上に戦闘破壊耐性がある。生半可なモンスターじゃ倒せないわよ」

「生半可じゃなければいいんだろう?《チューニング・サポーター》の効果!このモンスターはシンクロ素材となる時、レベルを2として扱える!いくぞ!レベル2の《スピード・ウォリアー》、《チューニング・サポーター》に、レベル3の《ジャンク・シンクロン》をチューニング!!」

 

疾風の戦士、機械人形がその姿を輝く星に変えていく。それらを指揮するように《ジャンク・シンクロン》が自身に備え付けられたリコイルスターターを引くと、星々は直列に並び、《ジャンク・シンクロン》自身もその姿を三つの星に変える。

 

「集いし怒りが、忘我の戦士に鬼神を宿す!光さす道となれ!」

 

 7つの星々が集い、一際大きな輝きが決闘場を包み込むと、遊星は新たに新生するモンスターの名を高らかに呼んだ。

 

「―――シンクロ召喚!!吠えろ、《ジャンク・バーサーカー》ッ!!」

 

 光が弾ければ、赤い鎧を身にまとった、鬼の如き相貌の戦士が舞い降りた。頭部から天を突くように伸びる金色の角を誇示している。何よりも目を引くのは掲げられている超巨大な斧。圧倒的な存在感を放っている。

 

「攻撃力2700……だけど遊星が考えなしにモンスターを召喚するはずがない!」

「墓地に存在する「ジャンク」モンスター、《ジャンク・デストロイヤー》を除外することで《ジャンク・バーサーカー》の効果発動!《ダークネス・ネオスフィア》の攻撃力を、除外したモンスターの攻撃力分ダウンさせる!」

 

 斧に《ジャンク・デストロイヤー》の意思が宿り、《ジャンク・バーサーカー》がそれを振るう。巻き起こる衝撃波。それに襲われた異形の悪魔は思わず膝をついた。

 

《ダークネス・ネオスフィア》ATK4000→1400

 

「くうっ……こういう時に限って効果を無効にするカードが来ないんだから!」

「まだだ!《ジャンク・バーサーカー》の効果は1ターンに何度でも使える!《ジャンク・アーチャー》を除外することで、攻撃力を再びダウンさせる!」

 

《ダークネス・ネオスフィア》ATK1400→0

 

異形の身体が、腐るように崩れ落ちてゆく。地に這い蹲りながら、呪うような苦悶の声が響く。

 

「攻撃力、0。しかもその効果は永続するのね……まともにバトルしたら敗北へ一直線……だぁったら!《威嚇する咆哮》を発動!このターン、あなたは攻撃宣言できない!」

 

 まだ余裕が残る綴の一手。

 

「攻撃宣言しなかったモンスターは、攻撃表示の状態のままだと、エンドフェイズに《サベージ・コロシアム》によってすべて破壊されてしまう。それを狙ったコンボか!だけど!」

「カードを1枚伏せ、エンドフェイズ!」

「《サベージ・コロシアム》の効果発動!」

「やらせはしない!《スターダスト・ドラゴン》の効果!フィールドのカードを破壊する効果が発動したとき、このカードをリリースすることでその効果を無効にし、破壊する!『ヴィクテム・サンクチュアリ』ッ!!」

 

 高らかに言い放たれた遊星の言葉と共に《スターダスト・ドラゴン》はその身を幾千幾万の星屑へと変える。

 その星屑が部屋を覆っていた闘技場全体を取り囲むと、今まさに発動されようとしていた破壊の力を包み込んだ。この効果により《サベージ・コロシアム》は効果を発動することなく砕け散り、竜と共に星屑と消えたのであった。

 綴の部屋は、元の殺風景なものへと戻る。

 

「やってくれたわね……」

「そして、リリースされた《スターダスト》が俺の場に舞い戻る!再び飛翔せよ、《スターダスト・ドラゴン》ッ!!

 

 遊星の場に小さな綺羅星が幾万と集い始め、凝縮されて竜の姿を再構成していく。時間を巻き戻すように、《スターダスト》は戦場に舞い戻った。

 

「ターンエンドだ」

「あんなに恐ろしかったモンスターを無力化した。やっぱり遊星はすごいよ!」

「勝負はまだこれからよ!僕のターン、ドロー!うっ……」

 

LP:1900

Hand:1

Monster:《ダークネス・ネオスフィア》(攻撃力0)

FieldMagic:

Magic&Trap:Set1

 

遊星

LP:3400

Hand:1

Monster:《スターダスト・ドラゴン》《ジャンク・バーサーカー》

Magic&Trap:Set2

 

 綴は困ったそぶりを見せた。

 

「状況を打開できないわ……だけど誘い込むことはできる!《ネオスフィア》を守備表示に変更!カードを1枚伏せ、ターンエンド!」

「そのエンドフェイズにリバース・カード・オープン!」

 

 遊星は強い瞳で倒すべき敵を見据え、伏せられたカードに手を翳す。滾る闘志、決意の象徴が今、開かれる―――!

 

「……これがおまえを追いつめる切り札だ!―――発動!《バスター・モード》ッ!!」

 

 竜の身体を包むように、白い光が溢れ出る。光の氾濫は勢いを増し、竜の身を呑み込んだ。輝きは勢いを増し部屋がその色に染まる中、1つのシルエットが、存在感を放つ。

 光が消えれば、現れ出でるは星屑の竜。だが、その身に異変が起きていた。蒼の鎧を纏っているのだ。全身を包む多重構造に加え、翼には刃の如き鋭い爪が装備されている。

 

「《バスター・モード》の効果により、自分フィールドのシンクロモンスターをリリースし、デッキよりそのバスター・モードを特殊召喚した‼即ち!《スターダスト・ドラゴン/バスター》ッ!!」

 

 遊星の声に応えた竜の咆哮が、轟然と部屋を揺さぶった。纏う蒼は散りばめられた星屑を、さながら夜空にあるかのように引き立てている。以前の姿を明らかに凌駕した竜の姿が、そこにはあった。

 

《スターダスト・ドラゴン/バスター》:ATK3000

 

「なぜこのタイミングで召喚したの?」

「《/バスター》にはカードの効果が発動したとき、このカードをリリースすることでその発動を無効にし、破壊する効果がある!そして、このカードも元の《スターダスト》同様、効果を発動したターンのエンドフェイズにフィールドに舞い戻る!」

「すごいや!これで彼がどんな罠をしかけていようと、無力化できるわけだね!」

「けど、《ネオスフィア》の守備力は4000。どちらのモンスターも攻撃力は超えていない!」

 

 強がる綴。だが、遊星は残酷な事実を突きつける。

 

「《ジャンク・バーサーカー》は守備表示モンスターを攻撃したとき、ダメージ計算を行わずに破壊する効果を持つ。どんなに守備力が高くとも、突破できるということだ!」

「うっ、うう……でも、あなたの狙い通りにいくもんですか!《/バスター》が効果を無力化できるのは一度だけ。2枚のリバース両方は止められないわ!これで本当にターンエンドよ!」

 追いつめられてなお、闘志は消えていない。遊星は内心で彼を賞賛した。

 

(綴もまた、強敵だ。その意志の強さはほかのデュエリストにも負けていないだろう。実力も高い。だから最後まで油断はしない、全力で戦う!)

「俺のターン、ドロー!」

 

LP:1900

Hand:0

Monster:《ダークネス・ネオスフィア》(守備表示)

FieldMagic:

Magic&Trap:Set2

 

遊星

LP:3400

Hand:2

Monster:《スターダスト・ドラゴン/バスター》《ジャンク・バーサーカー》

Magic&Trap:Set1

 

 遊星は引き抜いたカードを確認すると、そのまま攻めの姿勢を続けた。

 

「バトルだ!《ジャンク・バーサーカー》で《ダークネス・ネオスフィア》を攻撃!」

「罠発動!《強制脱出装置》!《スターダスト・ドラゴン/バスター》を手札に戻す!」

「……発動せざるを得ないか。《/バスター》をリリースし、この効果を無効にして破壊する!そしてバトルは続行される!」

 

 青き鎧を纏った竜が、その身を星屑へと変え、場から消える。そして、忘我の戦士が巨大な斧を振りかぶり、弱った異形を真っ二つにした。

 

「ここよ!破壊された《ネオスフィア》を対象に《レベル・レジストウォール》を発動!デッキから、破壊されたモンスターとレベルの合計が同じになるようにモンスターを効果を無効にして守備表示で特殊召喚する!《ネオスフィア》のレベルは10!おいで、僕のかわいいしもべたち!レベル1《ヘル・セキュリティ》!レベル1《ダークシー・レスキュー》!レベル2《ジャイアントウィルス》!レベル2《ダーク・リペアラー》!レベル4《黒き森のウィッチ》!」

 

 一気に5体ものモンスターが勢揃いする。3体の悪魔に1体の機械と1体の魔女。まさしく肉壁といった様相。

 

「モンスターを展開してきたか……エンドフェイズに《/バスター》が舞い戻る」

 

 星屑が集い、再び鎧を纏った竜の形を成す。

 

「……呼び出されたモンスターの中にはチューナーもいる。シンクロ召喚で呼び出されるモンスター次第では、逆転もありうるかもしれない」

「ありうるかもしれない?いいえ、するのよ!僕のターン、ドロー!」

 

 綴が勢いよくカードを引き抜く。強者同士の戦いはついに佳境に入る。

 

「まずは下準備よ!レベル4の《黒き森のウィッチ》にレベル1の《ヘル・セキュリティ》をチューニング!」

 

 綴の声と共に《ヘル・セキュリティ》が一つの星となり《黒き森のウィッチ》の周りに環を描く……すると、魔女も身体を四つの星へと変じさせた。

 そんな五つの星々を束ねるのは凛と響く美しい綴の祝詞だ。

 

「虚無より生まれし正義の闇が、万の魔を断つ刃となる!」

 

 綴の言葉に導かれ、五つの星々は一直線に並ぶ。

 その星々の集まりは光の道となり一筋の道へと列をなす。その一瞬の後、道が弾け、そこより出でるは災害の名を冠する正義の同盟者。

 

「―――シンクロ召喚!!おいで、僕の殲滅兵器!《A・O・J カタストル》!!」

 

 立ち塞がる者を尽くなぎ払う白亜の機獣。金色の頭部に存在する翡翠色の単眼は、レーザーを放つ装置だ。

 

「《黒き森のウィッチ》が墓地に送られたことで効果発動!デッキから守備力1500以下のモンスターを手札に加える。ただしそのモンスターはこのターン、効果を発動することはできない。……《/バスター》で無効にする?」

「……いいや、ここでは発動しない」

 

 一瞬の逡巡。すでに駆け引きははじまっていた。

 

「なら、守備力0の《偉大魔獣 ガーゼット》を手札に加えるわ。そして、《カタストル》をリリース!アドバンス召喚!おいで、僕の暴力の化身!《偉大魔獣 ガーゼット》!」

 

 君臨するは、桃色の外骨格を纏った、筋肉質な青き身体の偉大なる悪魔。驚くべきは、その攻撃力―――

 

《偉大魔獣 ガーゼット》:ATK0→4400

 

「攻撃力4400だって!?」

「《偉大魔獣 ガーゼット》の攻撃力は、アドバンス召喚のためにリリースされたモンスターの攻撃力の倍となる。《カタストル》の攻撃力は2200。その倍だから4400よ」

「攻撃力の変動は永続効果。つまり、《ウィッチ》の制限した“効果の発動”には該当しない。うまく利用してきたか……」

「バトルよ!《ガーゼット》で《スターダスト・ドラゴン/バスター》を攻撃!『グレート・パンチ』ッ!!」

 

 偉大なる悪魔による小細工の一切ない拳の一撃が、鎧纏いし星屑の竜へと襲い掛かる。竜がブレスで迎撃するも、純粋な力で押し返され、霧散。抉りこむように拳は竜の腹目掛けて撃ちこみ、その余波は遊星にも及ぶ。

 

「ぐっ!」

「遊星!」

 

遊星:LP3400→2000

 

 だが、鎧は砕け散ったものの、星屑の竜は健在だった。

 

「《/バスター》が破壊された時、墓地の《スターダスト・ドラゴン》を、フィールドに特殊召喚する!!」

 

 通常の状態に戻った竜は、ひとたび大きく翼を薙いで、星屑の残滓を吹き飛ばす。

 

「しぶといわね……けど、これで障害は取り払われた!メインフェイズ2、僕はレベル1の《ダークシー・レスキュー》とレベル6の《偉大魔獣 ガーゼット》に、レベル2の《ダーク・リペアラー》をチューニング!」

 

 綴は口元に笑みを浮かべながら星々を束ねる祝詞を紡ぎ出す。

 それは力強き詩。

 遥か先にある勝利を掴み取らんとするエンターテイナーにして求道者の詩。

 

「魔を滅ぼす聖なる槍、氷結を纏いて世界の全てを蒼へと閉ざす!」

 

 綴の詩に導かれた九の星々が空を飛び交い、一列の光をなした。

 その光よりいずるのは、投擲すれば3つの悪魔の都市を消滅させたと云われた神の槍……。それと同じ名を冠した氷雪の龍。

 その名は――――。

 

「―――シンクロ召喚!!おいで、僕の最恐の隠し玉!《氷結界の龍 トリシューラ》!!」

 

 光の道が弾け、そこから三つの頭部を持つ蒼き氷雪の龍――トリシューラが周囲に吹雪を撒き、雪光を煌かせながら綴の場へと舞い降りた。

 

「攻撃力が高い《ガーゼット》を素材にしてまで行うレベル9のシンクロ……?」

「《ダークシー・レスキュー》がシンクロ素材となった時、僕はカードを1枚ドローする。《ダーク・リペアラー》も素材となった時、デッキの一番上のカードを確認して、デッキトップかボトムに戻す。そして《トリシューラ》の効果!シンクロ召喚に成功した時、相手の手札・場・墓地のカードをそれぞれ1枚除外する!」

「なにっ!」

「カードを一気に3枚も除去だって……!?」

 

 《トリシューラ》の特殊能力に二人が驚愕した。『未来』の可能性を拓く手札、『現在』の可能性であるフィールド、『過去』より可能性を齎す墓地。その全てを1枚ずつとはいえ全て除外するなどと、初見で誰が予想できたであろうか。驚愕を意に介さず、綴は除外するカードを選択した。

 

「手札は僕から見て一番右のカードを、場からは《ジャンク・バーサーカー》、そして墓地からは《ジャンク・シンクロン》を除外する!」

 

 《トリシューラ》は風雪の嵐を巻き起こし、遊星の可能性を吹き飛ばさんと猛威を振るう。抗う術はなかった。

 

「くっ……」

「どう?風向きは変わったわ。やはり逆転に次ぐ逆転こそ、至高の展開!だから面白いのよ、デュエルは!」

 

 大仰に両腕を開いて熱く語る綴。

 

「だが、まだ勝負は決まっていない!」

 

遊星は強い意志を込めて声を張り上げた。彼の眼は、燃えるような決意で輝いている。

 綴はその言葉に、笑みをますます深めた。

 

「そうこなくちゃ。負けを認めない限り、デュエルは終わらないわ!カードを2枚伏せ、ターンエンドよ!さあ、見せて頂戴、あなたの可能性を!」

「俺のターン、ドロー!」

 

LP:1900

Hand:0

Monster:《氷結界の龍 トリシューラ》《ジャイアントウィルス》

FieldMagic:

Magic&Trap:Set2

 

遊星

LP:2000

Hand:2

Monster:《スターダスト・ドラゴン》

Magic&Trap:Set1

 

 デッキから引いたカードを目にした遊星は一つ思案する。

 

(あいつは《トリシューラ》の効果で墓地から《スキル・サクセサー》を除外しなかった。このカードは墓地から除外することで俺のモンスター1体の攻撃力を800アップさせる効果がある。攻撃力2500の《スターダスト》を対象に発動すれば攻撃力は3300となり、《トリシューラ》の攻撃力2700を上回る……攻撃を誘っているのか?)

 

 無策に飛び込むのは自殺行為……しかし、消極策に出てこの機を逸せば遊星の勝利は遥かに遠のく。

 迂闊に動く事が出来ないのに、動かなければ勝機はない。仮に動いたとしても分の悪い賭けだ……雁字搦めに思考が絡む中、遊星はその思考を快刀乱麻を断つがごとく振り払うと決断を下した。

 攻めるならば今だ。迎撃を恐れては勝つ事はできない――と。

 決意を固めた遊星は一つ頷くと、戦闘を開始した。

 

「バトルだ!《スターダスト・ドラゴン》で《氷結界の龍 トリシューラ》を攻撃!『シューティング・ソニック』ッ!!」

 

 遊星の下した号令と共に星屑の竜が翼をはためかせる。

 口内に幾万と煌く星屑たちを束ねると、それを眼前に立ちはだかる氷の龍へと放った。

 




この話だけ見るとまともなデュエル小説。

次回、『遊星、初体験を捧げる』 お楽しみに!
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