不動遊星の初体験を奪いたい   作:うおのめちゃん

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19話 その天秤は傾かない

  紅蓮の悪魔による、自身の復活の為の儀式。その裏で糸を引いていた、とジャックに指摘された綴とテイルは平然と微笑んでいた。疑われているというのに困惑すら浮かんでいない。そう言われることを最初から想定していたかのように。

 

「ま、違和感を抱かないほうがおかしいよなあ」

「けど、ちゃんと論拠を語ってもらわないと。真実は一つずつ紐解いていくものよ?」

 

 犯行を認めたに等しい発言。遊星とボマーが戸惑う。

 

「待ってくれ綴、テイル!今回の事件を全て仕組んでいたというのか!?」

「君達は紅蓮の悪魔に利用されていたのではないのか!?」

「それは違うわ!……とも言い切れないのよね」

「リスキーなことをやった自覚はあるし、天運に身を任せすぎた自覚もある。……とりあえず、ジャックの推理を聞こうぜ?」

 

 話を促す二人の声には自嘲が含まれていた。それを意に介しているのかいないのか、ジャックは口を開く。

 

「オレのデッキに入っていた《神禽王アレクトール》と《マテリアルドラゴン》。あの二枚はしもべの戦術を打ち破るカギになった。見事なほどに。それをデッキに入れたのは綴、お前だな?」

「ええ、テイルとのデュエルで散らばってしまったカードを集める時にね」

「おかしい。君はうっかり混入させたと言っていたが、それにしてはカードが適切すぎる」

「地縛神を主軸とした、効果ダメージで相手を追いつめるコンセプトであることがわかっていたかのようだ……そうか!」

「そうだ!こいつらは最初から地縛神を奴に奪われることを知っていたのだ!」

 

 突きつけられる真実。綴とテイルは真剣な表情で頷いた。

 

「そうね。ボマーさんとのデュエルの後にしもべが僕に干渉してきた時から、それは確信に変わったわ」

「一度《アバター》で追い払いはしたんだが、いつでも精神に干渉できる相手だからな。抵抗しても無駄って理解したワケ」

「だから、対抗策を気付かれないように仕込んでおいたの。うっかりって言ったのは、紅蓮の悪魔の怒りを少しでも買わないようにしたかったからよ」

「……つまり、俺達にも嘘をついたということか」

 

 遊星の問いに、綴は頷いた。

 

「ええ。ジャックに事前に説明したら、あのしもべにも伝わってしまうかもしれなかった。だから、知らないままでいてもらったの」

「……」

「でも、ジャックを負けさせるつもりなんてなかったわ。むしろ逆よ。あなたならあの二枚を使いこなせると思ったから、デッキに入れたの」

 

 そこに嘘はなかった。

 しかし、綴がジャックの意思を確かめることなくデッキを変更したのも事実だった。

 

「ジャックの実力を信頼していなかったのか? その対抗策がなければ負けると確信していたのか?」

 

 ボマーが問いかける。

 

「あの二枚がない状態で勝てるヴィジョンがあるのなら、教えてほしいくらいだわ」

 

 綴は即答した。

 

「相手の繰り出したカードに対する回答がなければ負ける。そして、デッキにないカードは引けない。それがデュエルモンスターズよ」

 

 綴はジャックを見た。

 

「けれど、デッキに入れたからといって、必ず引けるわけじゃない。引けたとしても、どう使うかはジャック自身が決めること。僕は、あの二枚があれば勝てると保証できたわけじゃないの」

「……ふん」

 

 ジャックは腕を組んだまま、綴を見下ろしている。

 

「だから、勝つために必要だと思ったカードを、勝手に入れたというわけか」

「……ええ」

「貴様が何を考えていたかはわかった。だが、オレのデッキはオレのものだ。次からは勝手な真似をするな」

「……ごめんなさい」

「もっとも、あの二枚を使って勝利を掴んだのは、このオレだ。そのことまで否定するつもりはない」

 

 綴は小さく微笑んだ。

 

「ええ。だからこそ、あなたに託したのよ」

 

 ジャックはそれ以上答えなかった。

 

「綴、確認したいことがある。おまえは俺達に関する未来を見たと教えてくれただろう?その中には、今回の紅蓮の悪魔の事件もあったはずだ。テイルは言った。俺達もこのナスカを訪れる未来は確定していると。そして、地縛神の鎮魂のため、赤き竜に睨みをきかせてもらって悪事を働かせないようにデュエルを頼む、とも」

「よく覚えてんなあ」

「遊星、彼が未来を見たというのは……」

「僕が観測した未来は、あくまで僕達が存在しない“もしも”よ。けど、遊星、あなたの言う通り、僕達は紅蓮の悪魔事件を知っていた」

「ならば聞かせてもらうぞ!なぜ紅蓮の悪魔が復活を目論んでいる状況で地縛神をこの地に持ってきた?なぜ地縛神の復活という危険な可能性を踏まえていてなお、この地に来た!」

 

 ジャックが語気を強めて追及する。綴は言い淀むことなく回答した。

 

「前にも言ったでしょう?神としての耐性のある状態の地縛神が僕達に必要だったからよ。アリアを取り戻すために、運命の神に対抗する手段として!そのためには、一度紅蓮の悪魔の力を経由させなければならなかった」

「綴はボマーさんとデュエルして、地縛神を扱うこと自体に問題はないか一応確認はしたぜ?その時はしもべが干渉してきたに過ぎなかった。んでもって、紅蓮の悪魔が俺達の想定を超えた何かを仕掛けてこようが、地縛神に一度勝ったあんた達ならなんとかしてくれるっていう期待もあった。とはいえ、まさか死者の魂を糧にするなんてせこい真似するとは思わなかったけど。楽観視しすぎだった。悪いな……」

「ごめんなさい」

 

 目を伏せる二人。本気の後悔が感じられる。その様子に遊星がフォローに入った。

「ジャック、綴もテイルも、アリアを助けるために必死だったんだ」

 

 遊星が静かに口を開いた。

 

「だからといって、二人の判断が正しかったとは言えない。俺達に危険を知らせなかったことも、軽く考えていい問題じゃない」

「……遊星」

「だが、今は二人の話を最後まで聞きたい。何を考えて、どこまで覚悟していたのか。それを知らなければ、俺達も判断できない」

 

 ジャックは綴とテイルを見据えたまま、腕を組み直した。

 

「……いいだろう。まだ聞くべきことは残っているからな」

「地縛神は再び本来の力を失い、ケッツアーコアトルが下した審判も、神殿の修復だけだった。罪は赦されたのではないのか?」

「……テイル、お前は紅蓮の悪魔に利用され地縛神を奪われた。その事実に違いはないな?」

「正確には《オレイカルコスの結界》含めたその他のカードを渡しちまった、だな。あいつ、地縛神を手に入れたはいいんだけど、あの3体を全部入れたデッキの構築に悩んじまって。他のカードもよこせ!って紅蓮の悪魔の像の前で脅してきたんだ。間近で見るあの像の迫力はそりゃあ凄くて。抵抗は出来なかったな」

 

 テイルは証言する。嘘を交えずに。だが、逸らされた真実をジャックは見逃さなかった。

 

「奪われたとも、操られたとも言わないのだな、お前は」

「ジャック、まさかテイルは!」

 

 聡明な遊星は気付いた。ジャックの言わんとすることに。

 

「自分の意志で地縛神を紅蓮の悪魔に渡した、そういうことだ」

「くっ。くっくっくっくっ……」

「ふっ。ふっふっふっふっ……」

 

 堪えるような嗤い。胸を掻きむしられるかのような嗤い。

 

「ぴんぽーん。その通り。しもべちゃんと地縛神を貸す契約を結び、ついでに《オレイカルコスの結界》でしもべちゃんの魂を封じ込めるよう図ったのさ」

「一体、何が目的でそんなことを!」

「なにかが掛け違っていれば、甚大な被害が出たかもしれないんだぞ!」

「……そうだな」

 

 テイルは珍しく、すぐには反論しなかった。

 

「ただ、何の勝算もなく突っ込んだわけじゃねえ。赤き竜がこの地の守り神だってことは知ってたし、ジャックが紅蓮の悪魔を打ち破る未来も、綴は観測していた」

「だが、綴達が介入したことで未来は変わっているはずだ」

 

 遊星が指摘する。

 

「そう。そこが賭けだった」

 

 テイルは肩をすくめた。

 

「遊星は気付いているだろ? この地にジャックを呼んだのは、紅蓮の悪魔だけじゃなく、それを利用した赤き竜でもあったんじゃねえかって」

「……それは」

「しもべとのデュエルで、赤き竜がタイミングよく現れたことを理由に、そう推測しているのか」

 

 ジャックが問い返す。

 

「……そうね」

 

 綴が答えた。

 

「瓦礫を落としてジャックを殺そうとしたしもべの行為がきっかけとなって、赤き竜は顕現した。あれは、しもべが儀式とは別の方法であなたを殺そうとしたからでしょう」

「そして、奴がそんな行動に出たのは、オレがバーニング・ソウルに目覚めたからだ」

「ええ。赤き竜は、最初からあなたを見守っていたんだと思うわ」

 

 綴は一度、言葉を切った。

 

「でも、必ず間に合うとわかっていたわけじゃない。赤き竜がどこまで助けてくれるのかも、僕達には確かめようがなかった」

「それでも、やったのか」

「……ええ」

 

 綴はジャックの視線を受け止めた。

 

「あなたが勝てる可能性を信じていたから。赤き竜が、あなたを見捨てないとも信じていたから」

「そ。だから、地縛神をしもべちゃんに貸してやった。勝てば地縛神は戻ってくるし、紅蓮の悪魔の力を経由させることで、本来の神としての力を引き出せるかもしれなかった」

 

 テイルは続ける。

 

「それができれば、運命の神に対抗する手段になる。アリアを助けられる可能性が増えるんだ」

「……しかし、失敗すれば?」

 

 ボマーが尋ねる。

 

「ジャックの身体は紅蓮の悪魔に奪われ、地縛神も奴の手に渡ったまま。おれ達だって、無事じゃ済まなかっただろうな」

 

 テイルは淡々と答えた。

 

「だから危険な賭けだったってのは認めるぜ。正直、ここまで大事になるとは思ってなかった。死者の魂を勝手に吸い上げるなんて、予想もしてなかったしな」

「……ごめんなさい」

 

 綴も頭を下げた。

 

「僕達は、アリアを取り戻すための力が欲しかった。そのために、あなた達の力を借りようとした。でも、危険を全部説明したわけじゃなかった」

 

 ボマーは険しい表情のまま、二人を見ている。

 

「君達の目的が最初から一貫していることはわかった。被害について気にかけていることも。だが、あまりにも赤き竜やジャックに運命を委ねすぎではないか?」

「……そうね」

 

 綴は俯いた。

 

「僕達は、本来なら脇役ですらない観客だったのよ。完璧に近い存在に歯向かうなら、天に縋るしかないじゃない……」

 

 毅然としようとしていたが、不安は表に出ていた。

 

「運命の神が抱えている覚悟や信念はすげえの。そんじょそこらの奴じゃかなわない」

 

 テイルは綴の背中を撫でた。

 

「綴は前世の記憶を持っているだけだし、おれはなんか特別な力を持っているっぽいけど、それは綴のためのものじゃないといけないし、ささやかな効果しか出せてない」

 

 そして、ジャックと遊星を見た。

 

「そんなおれ達でも、大切な仲間のために足掻かねえといけないんだよ。それなら、地縛神も、赤き竜さえも利用してやる」

 

 その声には、普段の軽薄さがなかった。

 

「……お前達の思いはわかった。そして、ようやく本音を出したなテイル」

「ん?」

「オレとデュエルしろ。お前が示した覚悟を、新たな力を得たオレが試してやる!」

 

 ジャックがデュエルディスクを構える。綴がぼそり、と呟いた。

 

「前のデュエルが消化不良だったからリベンジしたいのもあるわよね」

「あるだろうな」

「デュエリストは皆負けず嫌いだ。さあ、どんな闘いを見せてくれる?」

 

 3人が沸く中、テイルも仕方ねえな、とデュエルディスクを構えた。

 

「アスピッピは使わねえぞ。折角の棚牡丹を消滅させるわけにもいかねえし。あとさ、お互い疲れてっからライディングじゃなくてスタンディング。でもって、ライフ2000でやろうぜ。それに伴い効果ダメージと《ディメンション・ウォール》禁止な。で、先攻はあんたに譲る。このルールが嫌ならやりあうのはまた今度にしてくれ」

「ふん、滾った熱がすぐに冷めることなどないわ!いいだろう、お前が提示したそのルールで受けて立つ!」

 

 一定の距離を置いて対峙。高まる緊張感。そして軛は解き放たれた。

 

「「デュエルッ!!」」

 

 明け渡された先攻。ジャックがデッキトップに指をかける。

 

「オレのターン、ドロー!手札から《バリア・リゾネーター》を捨て、《パワー・ジャイアント》を特殊召喚!」

 

 ジャックの先鋒は、結晶で構成された巨人。

 

「このカードは、手札のレベル4以下のモンスターを墓地に送り手札から特殊召喚できる!そして、召喚コストとなったモンスターのレベルの数だけ、このカードのレベルは下がる。《バリア・リゾネーター》のレベルは1!よって《パワー・ジャイアント》のレベルは6から5に変更される!そして、チューナーモンスター《クロック・リゾネーター》を召喚!」

「お、合計レベルは8か」

「王者の鼓動、今ここに列を成す!天地鳴動の力を見るがいい!―――シンクロ召喚!我が魂、《レッド・デーモンズ・ドラゴン》!」

 

 ジャックを象徴する存在が、 テイル目掛けて吼える。空気が震えた。

 

「1ターン目から《レッド・デーモンズ》を!」

「早々に決着をつけるつもりか!」

「むしろ試されているんじゃない?これはテイルの覚悟を見るためのデュエルなんだから」

 

 ギャラリーが活気づく。果たして予想はどちらが当たっているのか。

 

「カードを2枚伏せ、ターンエンド!」

「おれのターン、ドロー!モンスターをセット、カードを2枚伏せてターンエンド」

 

 ゆったりとした手つきで布陣を敷くテイル。だが、強者は強者を知る。この場にいる者すべてが、ただ守備を固めただけではないと直感していた。

 

「オレのターン、ドロー!《紅蓮魔竜の壺》を発動!このターンの召喚行為を封じる代わりに、カードを2枚ドローする!そしてバトルだ!《レッド・デーモンズ・ドラゴン》でセットモンスターを攻撃!『アブソリュート・パワーフォース』ッ!」

 

 炎を纏った拳による一撃により、セットされていた魔法使いが戦闘破壊される。それをきっかけに、テイルの作戦が起動した。

 

「破壊されたのは《黒き森のウィッチ》。フィールドから離れたことで効果を発動するが、それにチェーンして《レベル・レジストウォール》を発動!破壊された《黒き森のウィッチ》のレベルは4。それと合計レベルが同じになるようにデッキからモンスターを効果を無効にして特殊召喚する!レベル1、《ヴォルカニック・バレット》!レベル1、《アンノウン・シンクロン》!レベル1、《ダークシー・レスキュー》!レベル1、《サイバー・ヴァリー》!」

 

 炎の弾丸と小さな機械軍団が集結。布石を打つ。

 

「でもって、《ウィッチ》の効果を処理。デッキから守備力1500以下のモンスターである《サンダー・ドラゴン》を手札に加える」

「カードを1枚伏せ、ターンエンドだ!」

「おれのターン、ドロー!《サンダー・ドラゴン》の効果発動。デッキから同名カードを2枚手札に加える。そして、レベル1の―――」

「そこだ!罠発動!《無力の証明》!このカードはオレのフィールドにレベル7以上のモンスターが存在する時に発動可能!相手フィールドのレベル5以下のモンスターを全て破壊する!」

「んな!?」

 

 紅蓮魔竜の全身から、滾る炎が燃え盛る。それはテイルのフィールドを蹂躙し、並べられた布石を全て灰燼にせしめた。テイルが瞠目する。

 

「想定外だったか?だが、《レベル・レジストウォール》はオレの想定内だ!何度も見た戦術がオレに通じると思うな!」

「やってくれるじゃねえか……とはいえ、まだやれることはあるぜ?リバース・カード・オープン!永続罠《メタル・リフレクト・スライム》!」

 

 棘を生やした球体のような銀色のゲルが湧き出でる。

 

「そいつは……!」

「こいつを見るのは三回目だよな!想定してたか?《メタル・リフレクト・スライム》を神の現身へと変える!」

 

 銀は質量を増し、巨人の姿を模す。三幻神が一柱、《オベリスクの巨神兵》を。それは堅固なる水の壁であり、神を呼ぶ礎。

 

「変化完了!《神・スライム》!こいつは3体分のリリースを必要とするアドバンス召喚をする場合、このカード1枚で3体分のリリースにできる。てなわけで、《神・スライム》を“生贄”に捧げる!」

 

 水で出来た神の虚像が流体となって天に昇っていけば、夜空が赤くなった。

 否、視線を導くほどの鮮烈な赤が空に在った。静かな夜に戦慄を齎す赤。

 

「無限の空より顕現せよ!おれの神、《オシリスの天空竜》!!」

 

 天の支配者が堂々降臨。その深紅の神竜こそ、気高き存在の暴力。威光と重圧がジャックを襲う。

 

「やはり来たか……!!」

「今回のテーマは赤い竜同士の対決だ!そして《オシリスの天空竜》の攻撃力は、おれの手札1枚につき1000ポイントアップ!今の手札は5枚!よって攻撃力は―――」

 

《オシリスの天空竜》ATK5000

 

「《レッド・デーモンズ・ドラゴン》との攻撃力の差は、丁度ジャックのライフと同じ……!」

「まだだぜ?ライフを500支払い墓地の《ヴォルカニック・バレット》の効果発動!同名カードを1枚手札に加える。これで6枚!」

 

テイル:LP2000→1500

《オシリスの天空竜》ATK5000→6000

 

「手札を増やすことに特化した戦術……!まるで果てしない大空のように攻撃力が上がっていく!」

「バトルだ!《オシリス》で《レッド・デーモンズ》を―――」

「やらせん!永続罠《スクリーン・オブ・レッド》発動!このカードが存在する限り、お前のモンスターは攻撃宣言できない!」

 

 透き通る紅の幕がテイルとジャックの間に現れた。複雑に光を乱反射させる緞帳が境界線を引く。

 

「ライフ2000制で、エンドフェイズに1000ライフ要求するそれ使うのか。ま、いいや。《オシリス》第二の効果は知っているだろ?あんたのフィールドにモンスターが“攻撃表示で”召喚・特殊召喚されると、『召雷弾』が発動し、そのモンスターの攻撃を2000ダウンさせる。で、この効果で攻撃力が0になった場合、そいつは破壊される。つまりチューナーを並べての《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》への進化は容易には出来ないってことだ!カードを1枚伏せてターンエンド!」

 

《オシリスの天空竜》ATK6000→5000

 

 召喚に制限が掛けられた状況。だが、ジャックに焦りはない。

 

「オレのターン、ドロー!永続罠である《スクリーン・オブ・レッド》を墓地へ送り、《マジック・プランター》を発動!カードを2枚ドローする!そしてオレは―――手札の《地縛神 スカーレッド・ノヴァ》を除外し効果発動!フィールドの《レッド・デーモンズ・ドラゴン》を墓地へ送ることで特殊なシンクロ召喚を行う!……荒ぶる!荒ぶるぞ!オレの魂が!」

 

 ジャックの全身に赤き闘志が迸る。バーニング・ソウル、荒ぶる魂の覚醒。

 墓地が真紅の輝きを放つと、紅蓮魔竜がその身に猛々しい炎の渦を纏って登場。

 燃え盛る火球となって、赤い空を緋色の光で照らし出す。それはまるで、地上に落ちた太陽。

 

「深淵に封じられし真紅の魔神よ!我が魂と一つとなりて、天地創造の叫びをあげよ!—――シンクロ召喚!!出でよ、《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》ッ!!」

 

 

 轟く轟音。真紅の星の内側より紅き炎の如くうねった炎熱が噴き出し、現れ出でたのは緋色の巨影。灼熱の欠片を巻き散らし、堂々とその威容を誇る巨竜が、天の支配者たる赤を傲然と睨みつける。

 

《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》ATK3500/DEF3000 (守備表示)

 

「《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》の効果!墓地のチューナー1体につき、攻撃力を500ポイントアップさせる!墓地には《バリア・リゾネーター》と《クロック・リゾネーター》の2体!よって攻撃力1000ポイントアップ!」

 

《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》ATK3500→4500

 

「《オシリス》に攻撃力は及んじゃいねえし、『召雷弾』を避けるためとはいえ守備表示じゃなあ。ちっとばかしかっこわるいぜ?」

「ならば挑んでくるがいい!カードを1枚伏せ、ターンエンドだ!」

「ふうん?おれのターン、ドロー!」

 

ジャック

LP:2000

Hand:2

Monster:《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》

FieldMagic:

Magic&Trap:Set2

 

テイル

LP:1500

Hand:6(内3枚は《サンダー・ドラゴン》2枚及び《ヴォルカニック・バレット》)

Monster:《オシリスの天空竜》

FieldMagic:

Magic&Trap:Set1

 

 手札を確認し、なるほどね、と頷いた。

 

「まずはライフを500支払い墓地の《ヴォルカニック・バレット》の効果発動。同名カードを手札に加える」

 

テイル:LP1500→1000

 

 弾丸を装填。手札補充に余念がない。

 

「んで、速攻魔法《手札断殺》を発動。お互いに手札を2枚墓地に送り、カードを2枚ドローする」

「おれが墓地にカードはチューナーモンスター《ドレッド・ドラゴン》、《フォース・リゾネーター》だ!よって、《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》の攻撃力はさらに1000ポイントアップする!」

 

《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》ATK4500→5500

 

 超新星の紅蓮魔竜に力が滾る。しかしテイルはどこ吹く風だ。

 

「今のおれの手札は6枚。《オシリス》の攻撃力は6000!守備力3000の《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》を余裕で倒せる。バトルだ!《オシリス》の攻撃!『超電導波サンダーフォース』ッ!!」

 

 天空竜が顎を開く。第一の口が開き、神の雷が抗う者を焼き尽くさんとする。

 

「させるか!《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》の効果発動!このカードを除外し、相手モンスター1体の攻撃を無効にする!」

「残念だが、速攻魔法《禁じられた聖杯》を発動!《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》の効果をターン終了時まで無効にし、その攻撃力を400ポイントアップさせる!」

「無駄だ!速攻魔法《禁じられた聖槍》を発動!《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》はこのターン、攻撃力を800ポイントダウンし、他の魔法・罠の効果を受けない!よって、《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》の効果は適用される!」

 

 禁じられた力を宿した魔法の応酬。されど、逆順処理により後に発動された槍の効果が適用され、聖杯の効果は弾かれた。悪魔の力を宿した紅蓮魔竜は炎の残滓を残してフィールドから亜空間へと転移。発生した障壁により神の雷が弾かれる。

 

「やるなあ」

「おまえもこの程度で突破できるだなどとは考えてはいまい」

 

 言葉を投げ合う。水面に小石を投げた後の波紋を伺うかのように。

 

「ははっ、そうだな。カードを1枚伏せ、ターンエンド!今のおれの手札は4枚だ」

 

《オシリスの天空竜》ATK4000

 

「このエンドフェイズ、《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》はフィールドに帰還する」

 

 時間が巻き戻されたかのように炎の残滓が収束し、超新星の竜は舞い戻った。

 

「空気がいやに重い。達人同士の闘いとはこういうことか」

「テイルは自ら手札を減らし、《オシリス》の攻撃力を下げた。罠をしかけているに違いない」

「読みあいを制するのはどっちかしらね?」

 

 神殿の跡地は緊張に満ちていた。隙を一瞬でも見せれば即敗北につながる状況。

 

「オレのターン、ドロー!チューナーモンスター《チェーン・リゾネーター》を召喚!その効果により、デッキから同名カード以外の「リゾネーター」モンスターを特殊召喚する!」

「チェーンして《オシリス》の強制効果発動!『召雷弾』ッ!攻撃力100のそいつは抹殺される」

 

 深紅の神竜の二つ目の顎から放たれる雷は、神に対する反逆の芽を踏みにじる。天からの雷が大地を容赦なく焦げ付かせた。

 

「《チェーン・リゾネーター》の効果でデッキから《クリエイト・リゾネーター》を“攻撃表示”で特殊召喚!」

「あー……そういうことね。『召雷弾』でそいつも破壊されるぜ」

 

 音叉の悪魔達が容赦なく雷によって消滅する。しかして、その犠牲は無駄にはならない。

 

「チューナーモンスターが2体墓地に送られたことで、《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》の攻撃力が上昇する!」

 

《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》ATK5500→6500

 

炎の勢いが増す。天空の支配者を優に超える力。

 

「なるほど、強制効果を逆手に取ったのか」

「今回のテイルは《オシリス》と《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》の対決をコンセプトにしている。攻撃力を増加させる戦略は正しいわ」

「だが、このままテイルが静観しているはずがない。何かがある……」

 

 テイルの場には伏せられたカードが2枚。だが、それに臆するジャックではない。

 

「バトルだ!《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》で《オシリスの天空竜》を攻撃!『バーニング・ソウル』ッ!!」

 

 超新星は巨大な紅蓮の弾丸となって、遥かな空へと向かう。目標は空を染め上げる赤。炎を纏いしそれが、数メートルまで迫る。このまま攻撃が通るか―――そう観戦者が思った瞬間、テイルは嗤った。

 

「リバース・カード・オープン!《無謀な欲張り》!次のドローフェイズを2回スキップする代わりにカードを2枚ドローする!」

「ふん、だがそれでもお前の手札は6枚。《オシリス》の攻撃力を6000に上げたところで、攻撃力の6500の《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》にはかなわん!」

「だからこうするぜ?―――もう1枚の《無謀な欲張り》を、オープン!これで手札は8枚となり、《オシリス》の攻撃力は8000になる!」

 

 真紅の神竜が第一の顎を開く。必殺の雷光砲で天誅を下さんと、口内に雷を迸らせる。

 

「返り討ちか!」

「ジャック!」

「攻撃力対決はテイルに軍配が上がったわね。切り札を失えば、立て直しは……」

 

 勝負の趨勢が決まった。誰もがそう思った。その瞬間だった

 

「その2枚の《無謀な欲張り》の発動に対し、リバースカードを発動させる!《針虫の巣窟》!このカードはオレのデッキの上からカードを5枚墓地に送る!」

「……そいつでチューナーを墓地に送って《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》の攻撃力を上げるつもりか?だが、上昇値は1体につき500。3体送ってようやく相打ちってところだぜ?」

「5体送られれば攻撃力は9000となり、《オシリス》の攻撃力を1000上回る。そうなれば、超過ダメージでテイル、お前は敗北する!」

「ははっ、確かにな!《針虫の巣窟》は5枚一気に墓地に送る処理をするけどさ、今回は特例ってことにして1枚ずつ確認していこうぜ?その方が面白いだろ?」

「いいだろう」

「……!!」

 

 ギャラリーが固唾を呑んで見守る体勢に入る。ジャックはその指先で運命のカードをめくりはじめた。

 

「まず1枚目だ!チューナーモンスター《トラップ・イーター》!」

「幸先がいいな!続けていってみようか」

 

 テイルには余裕があった。それは、楽観視か。

 

「2枚目!チューナーモンスター《アタック・ゲイナー》!」

「んー……まずいか?」

 

 少し焦りを見せ始める。だが、まだ終わりではない。

 

「3枚目!チューナーモンスター《ダーク・リゾネーター》!」

「おっと、相打ち以上は確定じゃねえか。しかし勝負はついちゃいないぜ」

「4枚目!チューナーモンスター《フレア・リゾネーター》!」

「……いや、固まりすぎだろそれは。シャッフル機能ちゃんと作動してんのか?」

 

 表情に余裕がなくなった。後ろへ一歩後ずさる。そして、最後の1枚に指がかかった。

 

「5枚目!……チューナーモンスター《トラスト・ガーディアン》!」

「ば、馬鹿じゃねえの!?どんな確率だよそれは!?」

 

 慄き、狼狽えるテイル。

 ―――チェーンが終了し、神竜と紅蓮魔竜の攻撃力が決定される。

 

《オシリスの天空竜》ATK4000→8000

《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》ATK6500→9000

 

 攻撃を防ぐ術は何もない。《オシリス》の轟雷と《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》の極炎が夜空で激突!天地の境界線上で激しくぶつかり、天の雷は炎の弾丸に突き破られた。神は爆発四散。その強大な衝撃により、爆風と粉塵がテイルに襲い来る。

 

「ぬぅあああああっ!」

 

 砂煙で視界が一瞬塞がる。それが晴れれば、仰向けに転がったテイルがいた。

 

テイル:LP1000→0

 

「ぐえ……」

「ふん……」

 

 ジャックがテイルの手を引いて助け起こす。そして、左手に握られていた8枚の手札を確認した。その中には《クリボー》のように戦闘ダメージを0にするカードや、《D.D クロウ》のような墓地のカードを除外するカードは存在しなかった。

 

「デッキに手札から発動できる効果を持つモンスターは入っていなかったのか?」

「《アルカナフォースXIV-TEMPERANCE》のピン差しだけ。あんまり手札誘発入れてもデッキの動きが悪くなるからそれしか入れなかった。無謀な欲張り野郎に天秤は傾かなかったってワケ」

「なるほどな」

 

 ジャックは澄み切っていた。テイルも澄み切っていた。清々しい気持ちでデュエルは終わったのだ。

 

「「「ジャック!」」」

 

 遊星とボマーが勝者を讃えるために出迎え、そしてマックスが飛びついた。派手なデュエルが行われていたために起きてしまったのだ。

 

「いいデュエルだった」

「想いにデッキは応える。それをまざまざと感じさせられたよ」

「すごいよジャック!あの《オシリス》を倒しちゃうなんて!」

「キングたるもの、どんな相手であろうと薙ぎ倒して進むまで!」

 

 沸き上がる4人。一方で、敗北したテイルに綴とアニーが駆け寄る。

 

「大丈夫?」

「大丈夫ですか?」

「へーき。ま、無茶はよくないということがよくわかったから収穫はあったぜ。あー……眠たい。綴、一緒にテント張ってくれ。寝る」

 

 神殿の壁によりかかって目を閉じるテイル。疲労していることは誰の眼にも明らかだった。

 

「テイルがこうなっちゃったし、今日はもうみんな寝ましょう」

「ああ、ジャックも疲れているだろうしな」

「……まだ余裕はあるが、己を管理できない者が頂きに届くことはない。睡眠はしっかり取るものだ!」

「うん、わかったよ!」

「では、解散しよう」

 

 各々が眠りについた。悪夢に苛まれていることの多かった遊星も、アクセルシンクロの境地に達したからか穏やかに眠ることが出来た。

 そして翌朝、ジャックと遊星はナスカの地を出発しようとしていた。ボマー、マックス、アニー、綴、テイルが見送りに出る。

 

「綴、テイル、おまえ達は残るのか?」

「神殿を修復してって赤き竜に言われた以上、約束は守らないと」

「報いはちゃんと受けるぜ。神頼みしてばかりでなんにもしないとバチが当たるからな」

「ふん、神さえも利用すると意気込んでいた奴が信仰深いというのもおかしな話だ」

 

 その後、ジャックとマックスの微笑ましい談話が軽く行われ、ジャックと遊星はネオドミノシティへと帰っていった。

 残った5人でたのしい石造建築をし、デュエリスト3人の体力もあってか、正午を迎えるころには神殿の一段目は完成していた。

夕方に作業を再開する約束をして各自解散し、二人は計画を企て始める。

 

「地縛神を使うことに支障はなくなったわ。問題は次だけど……」

「イェーガーと、シャトルの中に隠れるのよ!はおれ達が関わるとバランスに問題が生じちまうなあ……」

「ラグナロクに接触は確定よ。万が一ビフレストに乗れなかったらアーククレイドルに潜入できないもの」

「それまで結構期間あるぜ?だったら、ブルーノともう一回単独接触しとくか」

「目的は?」

「身体とか、魂の在り処とか、調べておきたいことがある。特に魂に関してはアスピッピにも手伝ってもらえるかもしれねえし」

「やってみる価値はあるわね」

 

 二人は再び未来のために動き出す。待ち受ける運命が如何なるものであろうと、覚悟は決まっていた。

 




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紅蓮の悪魔編はこれにて終了となります。
読者の皆様方につかれましては、完結まで気長に付き合っていただければ幸いです。
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