不動遊星の初体験を奪いたい   作:うおのめちゃん

21 / 28
WRGP決勝編
20話 それは希望の前触れか


 早朝に端末が振動する音を聞いてブルーノは起床した。手に取って確認してみれば、「他のみんなには話せない悩みを相談できるチャンスは今だけ!“あっち”の姿で万屋『大嵐』に来てね!勿論遊星達にはどこに行くか気取られないように」と綴からメッセージが届いていた。

 

「……怖いけど、行かなくちゃ」

 

 朝食の後、「ごめんね、今日は一人になる時間をくれないかな?」と告げた。

 シェリーが異次元の間に消えたこと、イリアステルの三皇帝が簡単に歴史の改竄を行なえる脅威であると判明したばかりかチームニューワールドとして表舞台に現れたこと、そして彼らと闘うべくイェーガーが長官となってWRGPの再開が宣言されたこと。

 様々な出来事が一日で起きたために気持ちの整理がしたい旨を伝えれば意外にも全員一致で気持ちよく送り出してくれた。

 

「不安になってしまうのは仕方がない。俺もよく一人で外に出ていた」

「そんな状態のお前にオレ達の機体を預けるわけにはいかん。さっさと調子を取り戻してこい」

「トラブルに巻き込まれそうになったらすぐ連絡しろよ!」

 

 彼らの温かさが心に沁みわたっていく。隠し事をしている申し訳なさを感じながらも、ブルーノは出発した。

 

 

 ネオドミノシティの中心から外れた場所にあるビルの2階。そこに万屋『大嵐』はあった。1階部分はガレージとなっており、3階は住居スペースとなっている。

 朝の太陽が差し込む執務机に、顧客のファイルが仕舞われた棚。そして来客用の長椅子が二つ。座り心地の良さに定評のあるそれは、来訪した依頼主の緊張を解く効果がある。

 万屋を経営しているテイルとその仲間である綴のペアと、謎のD・ホイーラーの姿をしたブルーノはそこに座りながらよく磨かれた杉のテーブルを挟んで向かい合っていた。

 テーブルの上には、掌サイズにデフォルメされた《地縛神 Aslla piscu》ことアスピッピもいる。全員が剥かれてあるみかんの房を掴んだり啄んだりして食べていた。

 

「おいしいでしょう?これ」

「目利きのプロであるおれが選んだ珠玉のみかんだ。よく味わってくれ」

『こんなものが、我への供物になるとでも……美味なのは認めてやる』

「私好みの味だ。本当に嬉しいが……この姿で呼び出した理由を教えてくれないか」

 

 もきゅもきゅ、という音が止む。空気に緊張の色が混じる。

 

「ま、色々あるんだけど、メインはあんたの悩みの一つ、その姿の自分は「一人」だってことを解決するためさ」

「使命以外のことはまっさらであることに不安を覚えているでしょう?けど、導き手であるあなたは遊星達にそれを共有することは出来ない」

「けれど、おれ達なら気軽に話せるだろ?遊星だけじゃなく、この街に生きる者を守るっていう目的も共通してるし」

「そしてあなたがその姿で活動する際に、僕達は全力でサポートできる。どうかしら?僕達とパートナーになってみない?」

 

 挙げられるメリット。彼らの誠意は本物だ。

 だが、すぐに頷くことは出来なかった。

 

「魅力的な提案だが……一つ、聞きたいことがある」

「なにかしら?」

「綴、キミが見た未来では―――“ボク”は死んだんだろう?」

 

 声色が優しさを含んだものになった。だが反対に、事務所は重苦しい雰囲気へと変わる。綴が唾を呑み込んだ音が、いやに響く。

 

「……その質問を最初にしちゃう?でも、気になるのも仕方ないわよね。前にあなたと接触したときに「生きられる可能性があるうちは最後まで足掻きなさい」って忠告したんだもの」

「で、綴が未来を観測したことが判明したってんで、確信に至ったワケだ」

「遊星に希望を託して“ボク”は死ぬ。正体のわからない“私”であれば、キミ達が言うほど遊星の心に深い傷を残すこともないはずだ。しかし、ブルーノとしての私がイリアステルに立ち向かうシチュエーションは想像できない。私の最期は、遊星に正体が判明している状況なのではないか?」

「そうね、間違ってはいないわ」

 

 綴は内心で身構えた。発言は慎重にしなければならない。今後の動きが大きく変わってしまうからだ。

 

「さらにキミは言ったな。希望を託せる確信を得られるのは遊星がWRGPに優勝した少し後だと。これは、あの三皇帝を倒した後にもイリアステルは脅威として存在しているということなんだろう?そう、キミ達が必死になって対抗策を探している運命の神こそ最大の……?」

 

 言葉が出なかった。「敵」。彼をそう呼ぶことを魂が拒んだ。一瞬、視界がぶれ、身体のどこかが警鐘を鳴らす。

 

「くっ……!これは……?」

「今核心に迫るのはまずいってサインかもな。おれ達の発言から推測を広げすぎだぜ。合ってる部分もあるが、違う部分もあるって回答しか出来ねえよ。というか、自分が死ぬ未来があるってわかってんのに、びびったりはしてねえんだな」

「正直に言えば、恐れがないとは言えない。だが、恐怖は自分の可能性を小さくする。それでは己の使命を果たせず、遊星を守ることが出来ない。そんな自分を私は許せない。それに……私はキミ達を信じている。WRGPの予選で見せた神々、あれを心正しく扱った。そんなキミ達が私が死ぬことを許さないんだろう?それは、とても心強い」

 

 僅かに表情をほころばせる。そこには、信頼があった。

 綴は勢いをつけて立ち上がり、思いっきり謎のD・ホイーラーの両手を取ると視線を合わせて熱っぽく話を進める。

 

「ええ、あなたも未来を歩めるよう、協力は惜しまないわ!頑張りましょう、お互いに!」

「ああ、よろしく頼む!」

 

 満更でもなさそうな表情の謎のD・ホイーラー。絆はここに結ばれた。

 うんうん、とテイルは頷く。

 

「ところで、アスピッピはどう思う?謎Dの魂についてさ」

『穢れがなくてつまらん。他の人間と比較して欲が少なすぎる。純粋な奴め、“元から”そうだったのであろうな。仮に死んだとしても今の我がその魂を闇に染めることは難しかろうよ』

「……保持は出来そう?」

『やれなくはないが、器がなくてはどうしようもない』

「だってさ。やっぱ死なないことが第一優先だ。ま、クリアマインドする分には問題ないならなにより。そら、みかん食べていいぞ」

『もぐ。病みつきになるうまさだなこれは……』

 

 すっかり飼いならされているアスピッピ。謎のD・ホイーラーはふ、と微笑ましく眺める。

 

「あの地縛神でさえも懐かせるとはな。その実力も相俟って、キミ達の才能には驚かされる」

『懐いてなどおらんわ!こいつらの足掻きを高みで見物しているだけだ!もぐ』

「みかん食べながら言っても説得力ないわよ。ねえ、折角パートナーになれたのだし、交流ライディングデュエルしない?」

「かるーい気持ちでやれるデュエルだ。こんなチャンス、なかなかないぜ?おれはあんたと綴のDホイールのデータを取りたいから次の機会で」

「いいだろう、受けて立つ!」

「じゃあ、下に行きましょ。アスピッピ、出番よ」

『闘いか?ふん、雑に扱うことは許さんからな』

 

 階下に降り、スーパーライザー、アヴァール・デモン、デルタイーグルはネオダイダロスブリッジへと移動する。セントラルへのデュエル申請も終了し、デュエルレーンが展開される。

 蒼い悪魔の機体と、流線形のDホイールが並び立つ。

 

「楽しいデュエルをしましょう?あなた、心からライディングデュエルが好きだったんだから」

「確かに、この瞬間は心躍るな……。何も背負わずにデュエルするということに楽しみを感じている」

「そんじゃ、初めていいぜ」

 

 テイルが合図を出せば、二機のモーメントエンジンが唸りをあげる。

 

「フィールド魔法《スピード・ワールド2》セット!」

『DUEL MODE ON. AUTO PILOT STAND BY』

「「ライディングデュエル・アクセラレーション!!!」」

 

 デュエル開始の宣言と共に、謎のD・ホイーラーはアクセルを前回まで踏み込み加速する。未来の最新鋭機であるデルタイーグルに凡百のアヴァール・デモンが追随出来るはずもなく、第一コーナーを制するのは当然謎のD・ホイーラー。

 

「私のターン、ドロー!」

 

謎のD・ホイーラーSPC0→1

綴SPC0→1

 

「《グリーン・ガジェット》を召喚!召喚成功時、デッキから《レッド・ガジェット》を手札に加える」

 

 先陣を切ったのは歯車を胴体とした緑色の小型ロボット。スピードの世界がにわかに活気づく。

 

「あら、僕達のプレゼントを使ってくれるのね。嬉しいわ」

「今回は【TG】とどれほど嚙み合うか実戦で試すまたとない機会だからな。カードを2枚伏せ、ターンエンドだ!」

「僕のターン、ドロー!」

 

謎のD・ホイーラーSPC1→2

綴SPC1→2

 

「モンスターをセット、カードを4枚伏せてターンエンドよ」

 

 静かな立ち上がり。策を張り巡らせ、獲物が掛かるのを待っているのか。

 警戒心を上げ、謎のD・ホイーラーはデッキトップに指をかけた。

 

「私のターン、ドロー!」

 

謎のD・ホイーラーSPC2→3

綴SPC2→3

 

「《レッド・ガジェット》を召喚!召喚時の効果により《イエロー・ガジェット》を手札に加える。バトルだ!《グリーン・ガジェット》でセットモンスターを攻撃!」

 

 歯車を背負った赤い小型ロボットを召喚し、手札を切らさない状態で攻勢を仕掛ける。

 セットされていたモンスターは、軽鎧を装備した白い犬。《グリーン・ガジェット》の右拳で砕かれる。

 

「《ライトロード・ハンター ライコウ》のリバース効果発動。あなたのセットカードを1枚破壊。デッキトップからカードを3枚墓地に送る」

「(……《次元幽閉》が破壊されたか)だが、キミのフィールドにモンスターはいない。《レッド・ガジェット》でダイレクトアタックだ!」

 

 赤の「ガジェット」もまた、パンチを仕掛ける。綴はセットカードを発動させず、そのまま攻撃を受け止めた。

 

「ふふっ……まだまだ」

 

綴:LP4000→2700

 

 余裕を見せる綴。まだ相手の動きを伺う探り合いの状況。

 

「カードを1枚伏せて、ターンエン―――」

「そのエンドフェイズ、SPCを2つ取り除き《Sp-終焉の焔》発動!闇属性モンスターのアドバンス召喚に使用できる「黒焔トークン」を2体特殊召喚する!」

 

綴:SPC3→1

 

 単眼の付いた焔が2つ、不気味に揺らめく。布石は打たれてしまったのだ。

 

「……カードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

「僕のターン、ドロー!」

 

謎のD・ホイーラーSPC3→4

綴SPC1→2

 

謎のD・ホイーラー

LP:4000

SPC:4

Hand:4(1枚は《イエロー・ガジェット》

Monster:《グリーン・ガジェット》《レッド・ガジェット》

FieldMagic:《スピード・ワールド2》

Magic&Trap:Set2

 

LP:2700

SPC:2

Hand:2

Monster:「黒焔トークン」「黒焔トークン」

FieldMagic:《スピード・ワールド2》

Magic&Trap:Set3

 

 トークンの出現により、スピードの世界に熱が混じる。綴の闘気が増す。彼は嗤った。

 

「2体の「黒焔トークン」をリリース!おいで!僕達のかわいい神様!―――《地縛神 Aslla piscu》!」

 

 黒い焔が天に昇って、その天の穴蔵から規格外のハチドリが降臨―――することはなく。規格外のはずのハチドリは、掌サイズのアスピッピのまま地面からフィールドに躍り出た。

 

《地縛神 Aslla piscu》ATK2500

 

『どうなっている!決闘の場でもこの屈辱的な姿とは聞いていないぞ!』

「だって、デカすぎるじゃねえかあんた。万が一カーリーさんに見られたらまずいから、赤き竜が調整したんじゃねえかな。本来の大きさで闘えるのはそうだな……北欧神話の連中とかセフィロトを司る連中とかが相手の時なんじゃねえの?」

 

 小鳥の文句に後続のテイルが綴のDホイールを介した通信で答えた。重要な情報をさらりと言いのけながら。

 

『おのれ赤き竜!』

「はいはい、恨み節はそこまでにしてちょうだい。神様なんだから、もっと威厳に満ちた堂々とした態度であるべきよ。違う?」

『……我に歯向かう愚か者に、身の程を弁えさせてやれ!』

「そうそうその調子。じゃあいくわよ!バトル!「地縛神」は相手に直接攻撃できる!《Aslla piscu》でダイレクトアタック!」

 

 小さなハチドリがスピードの世界を自在に飛び、「ガジェット」達をすり抜け、敵に目掛けて突進する。思考を巡らせる謎のD・ホイーラー。

 

(あのカードはフィールドを離れた時に私のフィールドの表側表示モンスターを全て破壊する能力を持っている……だが、それを防ぐ手段はある!)

「SPCを2つ取り除き、《Sp-月の書》を発動!《地縛神 Aslla piscu》をセット状態にする!」

 

謎のD・ホイーラーSPC4→2

 

「チェーン!《地縛神 Aslla piscu》をリリースし、《ナイトメア・デーモンズ》を発動!あなたの場に3体の「ナイトメア・デーモン・トークン」を攻撃表示で特殊召喚する!」

「なんだと!?」

『くくくっ!これから見せてやろう!敗北に至る狂乱の嵐をな!』

 

 小さなハチドリの姿が消え、代わりに謎のD・ホイーラーのフィールドに黒い妖精が3体、踊りながら登場。対象を失ったことで《月の書》は不発となった。

 

「ナイトメア・デーモン・トークン」ATK2000

 

「チェーン終了。そして、フィールドを離れた《地縛神 Aslla piscu》の効果発動!相手フィールドの表側表示モンスターをすべて破壊し、1体につき800ポイントのダメージを与える!あなたのフィールドのモンスターは5体!よって4000ポイントのダメージよ!」

「そうはいかない!手札を1枚捨て、カウンター罠《天罰》を発動!モンスター効果を無効にする!」

 

 綴の墓地に雷が落ち、ハチドリを戒める。そこからアスピッピは不満を漏らしかけたが、堂々とした態度を取った。

 

『……ふん、一回で倒せるとは思ってはおらん。だが、神に罰を下したその不敬、後悔することになるぞ』

「そんなものを恐れる私ではない」

「そうね、あなたは揺るぎなき境地に辿り着いているのだから。僕はこれでターンエンド!」

「私のターン、ドロー!」

 

謎のD・ホイーラーSPC2→3

綴SPC2→3

 

 状況を確認する。綴のモンスターゾーンはがら空きだが、セットカードが2枚。そして自分のフィールドは「ガジェット」2体とトークン3体で埋められている状態。実質、シンクロ召喚を封じられている。

 

(ここは攻撃し、相手の反応を伺うべきか)

「バトルだ!「ナイトメア・デーモン・トークン」でダイレクトアタック!」

「永続罠《洗脳解除》を発動!全てのモンスターのコントロールは元々の持ち主に戻るわ!3体の「ナイトメア・デーモン・トークン」は僕のフィールドに移動する!」

 

 踊り続ける漆黒の妖精達が、手を振って綴の場に集い、攻撃力の低い「ガジェット」達の前に壁として立ちはだかる。

 

「ならばバトルは終了。メインフェイズ2だ。フィールドを空けてくれて感謝するぞ。チューナーモンスター《TG サイバー・マジシャン》を召喚!」

 

 出現したモンスターは、白い装束を纏った小さな魔術師。

 

「さらに、手札の《TG サイバー・マジシャン》を対象に、チューナーモンスター《TG ギア・ゾンビ》の効果発動!このカードを特殊召喚し、対象モンスターの攻撃力を1000下げる」

 

 歯車で強化された機械の死人を繰り出す。ここからが謎のD・ホイーラーの展開の始まり。

 

「だけど《サイバー・マジシャン》の攻撃力は0。攻撃力の減少はデメリット足り得ないというわけね」

「レベル4の《レッド・ガジェット》にレベル1の《TG ギア・ゾンビ》をチューニング!リミッター解放、レベル5!レギュレーターオープン!スラスターウォームアップ、OK!アップリンク、オールクリアー!―――GO!シンクロ召喚!カモン!《TG ハイパー・ライブラリアン》!」

 

 中空で計器やデータが表示される中、赤い小型ロボットは4つの星となり、死人が一つの輪となり光の柱を紡ぎだす。その中から現れ出でるはバイザーをかけ、情報端末を手にした白く丈の長いローブを纏った司書風の男。

 

「そして、《サイバー・マジシャン》は「TG」モンスターのシンクロ素材とする場合、手札の「TG」モンスターも素材にすることが出来る!手札の《TG ラッシュ・ライノ》に場の《TG サイバー・マジシャン》をチューニング!リミッター解放、レベル5!ブースターランチ、OK!インクリネイション、OK!グランドサポート、オールクリアー!―――GO!シンクロ召喚!カモン!《TG ワンダー・マジシャン》!」

 

 再びのシンクロ召喚。光の柱から登場したのは、魔法使いをモチーフとした機械装束を身にまとった少女。背中に妖精のような羽根を生やし、二つに分けた桃色の後ろ髪を大きく揺らす。

 

「連続シンクロ召喚……!ちょっとまずいかしら?」

「《ハイパー・ライブラリアン》の効果発動!シンクロ召喚が行われた時、カードを1枚ドローする!そしてその効果にチェーンする形で《ワンダー・マジシャン》の効果発動!キミの伏せカードを破壊する!」

「対象となったカードをリバース!《ゴブリンのやりくり上手》!僕の墓地にある《ゴブリンのやりくり上手》の数+1枚ドローし、その後手札を1枚デッキボトムに置く。僕の墓地には《ライコウ》の効果で送られた2枚の《やりくり上手》がある。よって、僕は3枚ドローし、1枚をデッキの一番下に戻す!」

 

 互いに手札補充を行う。激戦に備えるために。

 

「躱されたか。だが、これでキミに妨害の手段はなくなった!見せてやろう!アクセルシンクロの力を!」

 

 デルタイーグルが加速し、その機体が切り裂く風が光を帯び始める。恐怖、苦悩、欲望。それらを超越した境地を示すように、それは鮮やかな色を示していた。

 

「生で見るのは初めてね。楽しませてちょうだい!」

「いくぞ!クリアマインドッ!レベル5の《TG ハイパー・ライブラリアン》にレベル5の《TG ワンダー・マジシャン》をチューニング!」

 

 魔術師がその身を5つの光輪へと変じ、司書を囲むと、司書は風と一体となり光を纏う。

 

「リミッター解放、レベル10!メイン・バス・ブースター・コントロール、オールクリアー!無限の力、今ここに解き放ち、次元の彼方へと突き進め!GO!アクセルシンクロッ!!」

 

 《ライブラリアン》、デルタイーグル、そして搭乗者たる謎のD・ホイーラーは光に包まれ、デュエルレーンから消失。だがそれも一瞬のことだった。綴のアヴァール・デモンの背後からデルタイーグルと謎のD・ホイーラーが姿を現し、続けて一際大きな光の柱が綴の横を掠める。

 

「―――カモン!《TG ブレード・ガンナー》ッ!!」

 

 光を裂いて降臨するは、人型の機械だった。その鮮やかな緑の体躯は洗練されており、細身ながらも力強さに満ち溢れている。全身から煌めく光の残滓がその身体を美しく魅せ、右腕の光の刃を備えた銃剣を振りかざし、構える。

 

《TG ブレード・ガンナー》ATK3300

 

「現れたわね。魔法・罠に耐性を持ち、僕のターンにはいつでもその身を亜空間に転移出来る、まさしくスピードの世界で生きる進化の象徴!」

「果たしてついてこれるか?《グリーン・ガジェット》を守備表示に変更。カードを1枚伏せ、ターンエンド!」

「僕のターン、ドロー!」

 

謎のD・ホイーラーSPC3→4

綴SPC3→4

 

謎のD・ホイーラー

LP:4000

SPC:4

Hand:1

Monster:《グリーン・ガジェット》《TG ブレード・ガンナー》

FieldMagic:《スピード・ワールド2》

Magic&Trap:Set1

 

LP:2700

SPC:4

Hand:4

Monster:「ナイトメア・デーモン・トークン」「ナイトメア・デーモン・トークン」「ナイトメア・デーモン・トークン」

FieldMagic:《スピード・ワールド2》

Magic&Trap:《洗脳解除》

 

 綴はドローしたカードへと視線を落とす。そして、口元を僅かにほころばせた。

 

「来たわよ!アクセルシンクロを攻略する手段が!僕は3体の「ナイトメア・デーモン・トークン」をリリース!」

 

 3体の妖精が血液となってデュエルレーンに溶けていく。

 ごぽり、と沸き立つような音を立てて昏い赤の柱が昇り立つ。それが一気に飛沫を立てて弾けると、そこにはダークヒーローが在った。禍々しさの要素をこれでもか、と詰め込んだ英雄。

 

「カモン、運命を司る究極の英雄!《D-HERO Bloo-D》ッ!」

 

《D-HERO Bloo-D》ATK1900

 

 アキとクロウが闘った際に登場した、神に匹敵する能力を持つモンスター。

 

「このカードが場に存在する限り、あなたのフィールドの表側表示モンスターの効果は無効化される!さらに、第二の能力としてモンスターを吸収効果がある!」

「効果を封じたうえで「機皇帝」同様にエースモンスターを吸収する能力か。だが、そのカードには耐性がない!罠発動!《強制脱出装置》!そのカードには手札に戻ってもらおう!」

「……ふふ、チェーンはないわ」

 

 血の英雄はEXITと書かれた機械に吸い込まれると、大きな音を立てて天に打ち上げられた。折角のエースモンスター召喚も無為に終わった。謎のD・ホイーラーはそう、安心してしまった。

 

「残念だけど、僕にはまだ手がある。僕のフィールドに「トーチトークン」を2体特殊召喚することで、あなたのフィールドに《トーチ・ゴーレム》を特殊召喚する!」

「なに!?」

 

 綴のフィールドには頭部が巨大な丸鋸になった鉄の小人2体が、謎のD・ホイーラーのフィールドには小人の本体であろう同型の巨人が登場。スピードの世界を騒めかせる。

 

「そして《洗脳解除》の効果により、《トーチ・ゴーレム》は僕のフィールドに戻る。……これで再び3体のリリースが揃ったわ!」

「ならば、《ブレード・ガンナー》の効果を発動!このカードを除外する!」

 

 技術の進歩を感じさせる緑の人型機械の姿が揺らめき、スピードの世界から消える。綴の次の動きを想定した一手。

 

「構わない!僕は「トーチトークン」2体と《トーチ・ゴーレム》の3体をリリースし、再び《D-HERO Bloo-D》を特殊召喚する!」

 

 灰色の翼を広げ、再び君臨する究極のダークヒーロー。アヴァール・デモンの横に並び、デュエルレーンを飛翔する。

 

「バトルよ!《Bloo-D》で《グリーン・ガジェット》を攻撃!『ブラッディー・フィアーズ』ッ!」

 

 血の雨が容赦なく小型ロボットを襲い、錆びた鉄塊へと変えフィールドから消滅させた。

 

「僕はカードを2枚伏せ、エンドフェイズに入るわ」

「この瞬間、《ブレード・ガンナー》は私のフィールドに帰還する!」

「改めて、ターンエンド。さあ、ここからが本番よ!」

「私のターン、ドロー!」

 

謎のD・ホイーラーSPC4→5

綴SPC4→5

 

(なんにせよ、《Bloo-D》の存在が厄介だ。《ブレード・ガンナー》の攻撃力は3300。対する《Bloo-D》は1900。だが、易々と攻撃を通してくれるほど、彼は甘くないだろう。しかし、ここは攻める!)

 

 動かなければ勝機はない。迎撃を恐れては勝つ事はできない。だから、迷いなどなかった。

 

「バトルだ!《ブレード・ガンナー》で《Bloo-D》を攻撃!『シュート・ブレード』ッ!」

 

 近未来的な銃撃が右腕から放たれる。伏せカードの1枚でも使用してくれれば御の字、そう思考していたところに、別の角度から妨害が入る。半透明な鎧武者が、銃撃を防いだのだ。

 

「このエフェクトは……!」

「墓地の《ネクロ・ガードナー》を除外して、その効果を発動させたわ。相手モンスターの攻撃を1度だけ無効にする!」

「《ライコウ》で墓地に送られた3枚目のカードか!まったく、キミはデッキに愛されているな」

「恐悦至極。さあて、《Bloo-D》を場に残してしまった以上、返しのターンで《ブレード・ガンナー》は吸収されてしまうわ。手はあるのかしら?」

「ふ、想像に任せよう。カードを1枚伏せてターン―――」

「この瞬間!墓地の《地縛神 Aslla piscu》と場の《Bloo-D》を対象に《ギブ&テイク》を発動!墓地からあなたのフィールドに《地縛神 Aslla piscu》を守備表示で特殊召喚し、《Bloo-D》のレベルをターン終了時まで特殊召喚したモンスターのレベル分上昇させる!ま、後者はおまけみたいなものだから省くわ。重要なのは《地縛神 Aslla piscu》の復活!」

 

 鳥の鳴き声がしたかと思えば、謎のD・ホイーラーのデュエルディスクに《地縛神 Aslla piscu》が置かれる。その瞬間だった。身体の奥底まで射抜かれたかのような感覚を覚えたのは。

 

(……!?)

 

 身体だけではない。デルタイーグルの全てが把握されたかのような感覚。だが、それも一瞬のことだった。なにかの錯覚だと誤認する程の、コンマ1秒にも満たない一瞬。

 

「《洗脳解除》の効果により、《地縛神 Aslla piscu》は持ち主である僕のフィールドに戻ってくる。おかえりなさい」

 

 KCの技術のたまものにより、離れているDホイールの間でもコントロールが移る際には一旦電子の状態に変換し、コントロールを得たプレイヤーの元に移動する。

 

『(役割は果たしたぞ。トドメは我に任せてくれるのであろうな?)』

「(もちろんよ)」

 

 小声で話す二人。企みは成功したのだ。

 

「……まさか地縛神の復活までしてくるとはな。ターンエンドだ!」

「僕のターン、ドロー!」

 

謎のD・ホイーラーSPC5→6

綴SPC5→6

 

謎のD・ホイーラー

LP:4000

SPC:6

Hand:1

Monster:《TG ブレード・ガンナー》

FieldMagic:《スピード・ワールド2》

Magic&Trap:Set1

 

LP:2700

SPC:6

Hand:1

Monster:《D-HERO Bloo-D》《地縛神 Aslla piscu》

FieldMagic:《スピード・ワールド2》

Magic&Trap:Set1+《洗脳解除》

 

 綴はドローカードを確認すると、ほくそ笑んだ。

 

「《D-HERO Bloo-D》の効果発動!《TG ブレード・ガンナー》を吸収する!『クラプティ・ブラッド』ッ!」

「手札を1枚捨てカウンター罠《天罰》を発動!《Bloo-D》の効果を無効にし、破壊する!」

「チェーンよ!ライフを半分支払いカウンター罠《神の宣告》を発動!相手が発動した魔法・罠の効果を無効にする!」

「なっ……!?」

 

綴:LP2700→1350

 

 対抗策は打ち消された。そしてダークヒーローの翼から血が飛び出すと、《ブレード・ガンナー》はそれに包まれ、時が逆巻いたかのように戻った血と共に翼の中へと取り込まれる。

 

「《Bloo-D》の攻撃力は、吸収したモンスターの攻撃力の半分の数値分、アップする」

 

《D-HERO Bloo-D》ATK1900→3550

 

「……私もまだ、未熟なようだな」

「《天罰》を積むのは「機皇帝」の対策として悪くないとは思うわ。本体に対象を取る効果が効かない以上、対象を選ばずスペルスピードの関係で《ゴースト・コンバート》にも妨害されないそれは確かに有効策。けど、こうしてカウンター罠で妨害された時には手札コストの関係上厳しくなるわ。手札を切らさない「ガジェット」との相性もいいんだけどね」

「採用した理由まで読み切っていたか。流石だ」

「どうもありがと!さあ、感想戦はここまでよ。《地縛神 Aslla piscu》を攻撃表示に変更し、バトル!《D-HERO Bloo-D》でダイレクトアタック!『ブラッディー・フィアーズ』ッ!」

 

 赤い豪雨が謎のD・ホイーラーを襲う。手札にも墓地にも対抗策のない彼は、まともにそれを浴びた。

 

「くぅううううッ!」

 

謎のD・ホイーラー:LP4000→450

 

 ダメージが実体化していないとはいえ、ソリッドビジョンが齎す衝撃の影響は決して小さくない。デルタイーグルが大きく揺らぐ。

 

「トドメ!《地縛神 Aslla piscu》でダイレクトアタック!」

 

 アスピッピのスピードを伴った突貫。容赦のないそれは、謎のD・ホイーラーの胸に確かに届いた。実体化されていれば、ブレスアーマーがなければ、致命傷だっただろう。

 

「くっ……」

 

謎のD・ホイーラー:LP450→0

 

 白煙を上げ、停止するデルタイーグル。アヴァール・デモンも停止し、後続にいたスーパーライザーも集結する。

 謎のD・ホイーラーは俯かせていた顔を上げ、機体から降りて近づいてきた綴とテイルを見上げた。

 

「完敗だ。見事なタクティクスだった」

「伏せカードを警戒しすぎて《洗脳解除》を割らなかったことが敗因だと思うぜ。ま、アクセルシンクロを《神の宣告》や《昇天の角笛》されたらキツい場面だし、一概に悪手とは言わねえけど」

「デッキも含めて見直しの必要があるな……」

「大丈夫よ!《Bloo-D》はいわば「機皇帝」とアクセルシンクロへの対抗策の複合。それを攻略できるよう、何回でも練習すればいいわ!」

「じゃ、『大嵐』に戻って復習しようぜー」

 

 帰宅して謎のD・ホイーラーの好物である牛丼をアスピッピと共に食べた後、《Bloo-D》を用いながら対三皇帝戦で想定される盤面とその攻略法についての検討が始まった。最初こそ苦戦していたものの、数十回と重ねれば、謎のD・ホイーラーのデッキも洗練され、突破した回数は8割を超えた。一息ついて窓を見れば、夕陽が沈もうとしている。

 

「……そろそろ戻らなくては。綴、テイル、今日は有意義な時間を過ごせた。感謝するぞ」

「どういたしまして。あ、そうだ。テイル、あれ出さないと」

「おっと忘れるところだった。そら、猫ちゃんのクッション!」

 

 紙袋から取り出された丸々とした三毛猫のクッションは、触り心地が抜群で、掌が沈むほど柔らかい。抱き枕としても使用できる、猫好きにはたまらない一品。謎のD・ホイーラーの顔がほころぶ。

 

「これは!……いいのか?」

「今後ともよろしく頼むんだもの。それに、パートナーなんだから喜んだ顔が見たいじゃない」

「笑顔は幸せの元ってな!」

『貢物は素直に受け取るものだぞ』

「ありがとう。大事にさせてもらうぞ。また会おう」

 

 朗らかな表情の謎のD・ホイーラーがぱたん、と事務所のドアを閉める。

 階段を下りる音が止み、デルタイーグルが出発したことを窓から確認すると、二人と一羽は顔を突き合わせて、彼には聞かせられない話を始める。

 

「アスピッピに確認よ。デルタイーグルの内部ネットワークに潜入できたかしら?」

『ぬかりはない。走行制御プログラムだったか?弄れるようにはしておいたぞ。勿論痕跡は残していない』

「いいねえ。流石神様だ。敗者がブラックホールに飲み込まれるルールでどこまで出来るかはわかんねえけど、保険は残しておかないとだ」

『もっと讃えよ。他の神にシグナー共をいいようにされないよう、わざわざ貴様らを手伝ってやっているのだからな!』

「ふふ、すごいわアスピッピ!明日またおもてなしの品を献上するわ。テイル、アスピッピを介してスキャンした、彼の身体の方はどう?」

 

 作業デスクの上の様々な機器の液晶画面は、人体を模した画像と、数字の羅列を吐き出していた。

 

「あの身体を害そうとする奴に対する迎撃プログラムは確認できた。ただ、記憶を司るメモリがあるであろう脳にあたる場所は解析できなかったな。確か、全てを思い出す時には謎の光が使われたんだったか?」

「ええ、そこが怖いのよね。もし、僕達と接触した記憶がなくなって、遊星に希望を託して逝く選択をしてしまったら……」

『ふん、そんな懸念をするのなら魂に刻まれるほどの思い出を何回でも作ってやれ。それに、我は魂を扱う神だぞ?メモリについては知らんが、Z-ONEとやらがいかなる存在であろうとそこに干渉させる隙など与えん』

「アスピッピ……ありがとう」

「思い出作りなあ。そんじゃあ、綴の予定通り、ラグナロクに会う前に謎Dを連れて一回三皇帝に喧嘩売るか!」

 

 夕暮れは暗い夜に染まり始める。だが、そこでは数々の星が瞬いていた。それは、彼らの希望の証なのだろうか。答えは、まだ誰にもわからない。

 




お気に入り登録・評価・感想、誠に有難うございます!

ブルーノも謎のD・ホイーラーもみかんが大好物なのはタッグフォース6による公式設定。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。