プラシドが召喚した《機皇神龍トリスケリア》が、蒼い稲妻を放ちながらT・666の後続に着いたデルタイーグルの騎乗者、謎のD・ホイーラーを機械仕掛けの顔面でターゲッティングした。プラシドが煽る。
「さあ。貴様のターンだ。守勢に回った瞬間、この《トリスケリア》が愚かなシンクロモンスター共を吸収する!」
「ふ、裏を返せば攻勢に出ればいいということだ。お前のSPCは《オーバーブースト》の効果で1となった。そしてそのモンスターの弱点は既に見抜いている!私のターン、ドロー!」
TURN8
プラシドSPC1→2
謎のD・ホイーラーSPC7→8
プラシド
LP:100
SPC:2
Hand:0
Monster:《機皇神龍トリスケリア》
FieldMagic: 《スピード・ワールド2》
Magic&Trap:Set1(《リミット・リバース》)+《クリムゾン・ブレーダー》(装備状態)
謎のD・ホイーラー
LP:4000
SPC:8
Hand:6
Monster:《TG ハイパー・ライブラリアン》
FieldMagic: 《スピード・ワールド2》
Magic&Trap:
デルタイーグルがコーナーを抜けた瞬間、ドローしたカードへと視線を落とす。
すると、そのカードを目にした謎のD・ホイーラーは静かに笑った。
「チューナーモンスター《TG サイバー・マジシャン》を召喚!」
謎のD・ホイーラーが先鋒として選んだのは白い装束を纏った小さな魔術師。
「確かそいつは……」
「そうだ!《サイバー・マジシャン》は「TG」モンスターのシンクロ素材とする場合、手札の「TG」モンスターも素材にすることが出来る!手札の《TG ラッシュ・ライノ》に場の《TG サイバー・マジシャン》をチューニング!リミッター解放、レベル5!ブースターランチ、OK!インクリネイション、OK!グランドサポート、オールクリアー!―――GO!シンクロ召喚!カモン!《TG ワンダー・マジシャン》!」
中空で計器やデータが表示され、光の柱から出でるは妖精のような桃色の髪の魔法使い。テイルが残した同胞の司書と並び、スピードの世界を駆ける。
「《ハイパー・ライブラリアン》の効果発動!シンクロ召喚が行われた時、カードを1枚ドローする!そして《ワンダー・マジシャン》もチェーンする形で効果発動!相手フィールドの魔法・罠カード1枚……即ち!《トリスケリア》に装備された《クリムゾン・ブレーダー》を破壊する!」
「チッ!吸収したシンクロモンスターが破壊されたことで《トリスケリア》の攻撃力は元に戻る……」
《機皇神龍トリスケリア》ATK5800→3000
神龍が放っていた稲妻の出力が低下する。その隙を見逃す謎のD・ホイーラーではない。
「以前は妨害されたが、今回は逃がさない!味わうといい!アクセルシンクロの力を!」
蒼き機体が加速し、その機体が切り裂く風が光を帯び始める。煩悩を超越した境地を示すように、それは鮮やかな色を示していた。
「来るか……!」
「いくぞ!クリアマインドッ!レベル5の《TG ハイパー・ライブラリアン》にレベル5の《TG ワンダー・マジシャン》をチューニング!」
魔術師がその身を5つの光輪へと変じ、司書を囲むと、司書は風と一体となり光を纏う。
「リミッター解放、レベル10!メイン・バス・ブースター・コントロール、オールクリアー!無限の力、今ここに解き放ち、次元の彼方へと突き進め!GO!アクセルシンクロッ!!」
《ライブラリアン》、デルタイーグル、そして搭乗者たる謎のD・ホイーラーは光に包まれ、デュエルレーンから消失。だがそれも一瞬のことだった。プラシドの背後からデルタイーグルと謎のD・ホイーラーが姿を現し、続けて一際大きな光の柱がレーン全体を覆う。
「―――カモン!《TG ブレード・ガンナー》ッ!!」
光を裂いて降臨するは、近未来的な人型ロボット。だがその瞳に無機質さはない。翡翠を思わせる緑色の機械仕掛けの肢体には、力が満ち溢れている。
《TG ブレード・ガンナー》ATK3300
「《トリスケリア》よりも攻撃力が勝るか!」
「ふ、そのモンスターの吸収能力は、時として「機皇帝」よりも脅威になる。だが、防御が疎かだな!カードを4枚伏せ、バトルだ!《ブレード・ガンナー》で《機皇神龍トリスケリア》を攻撃!『シュート・ブレード』ッ!」
飛行する敵目掛けて一直線に滑空し、一息で十数発もの光弾を光の銃剣から連射する。軌道がぶれる突貫中の射撃である以上、命中に期待は出来ない。だが、怯ませるには十分だった。
身動きできない隙をついて一気に距離を詰めた《ブレード・ガンナー》は、銃剣を振り下ろし、神龍の巨体を頭から両断した。綺麗に分割され、爆発四散。
その余波がプラシドの残り少ないライフを削り切る。
「ぬぅああッ!」
プラシド:LP100→0
敗北の証となる白煙を上げながら、T・666は減速しつつピットに着く。
「ふん、ここまでか……」
「なにやられてんだよプラシド!僕達のとっておきを出しておきながらあの青い奴に瞬殺されたじゃねえか!」
「ああ、実に癪だぜ!だが、やるべきことはやった。そもそも、テイル・バウンサーに完封されたお前に言われたくはないな」
「なんだと!お前だってライフ100まで追いつめられてたくせに!」
「二人とも、そこまでにしろ。後は私がやる。時間は限られているが、侮られたまま終わらせるわけにもいかんのでな」
ホセがそう告げると、格納されていた重厚感あふれる巨大な焦げ茶色のDホイール、G・ヘカトンケイルが自動的にピットにイン。ホセが飛び乗る。
「走らないの?」
「合体しねえの?」
野暮な突込みを入れるのは綴とテイル。ホセが二人を睨む。
「お前達も理解しているだろう。このデュエルは我々が本気を出す時ではないことを。……そして、我々は目的遂行の為に与えられた機能を駆使しているにすぎん。お前達の笑いの種の為の芸ではない」
「揶揄っているつもりはないのよ。ごめんなさい?」
「見れたらラッキー、って思っただけだぜ。おれは綴から又聞きだからどんなもんかって」
「物怖じしない姿勢だけは褒めてやろう。……ゆくぞ!」
荒々しく豪快なドライビングで轍を残しながらデルタイーグルの右横に着く。合体しておらずとも、貫禄は充分。存在感は抜群だった。
「最後の戯れだ。もっとも、戯れで無様を晒すことになるやもしれんがな」
「それはこちらのセリフだ。お前も倒し、全てを明らかにする!」
「「デュエル!!」」
先攻はホセ。右腕に備え付けられたデッキケースが開く。
「私のターン、ドロー!」
TURN9
ホセSPC2→3
謎のD・ホイーラーSPC8→9
「《グランド・コア》を召喚!そしてSPCが2つ以上存在することで《Sp-ハイスピード・クラッシュ》を発動。《グランド・コア》とお前の伏せカードを対象に取り、破壊する!」
「対象となったカードをリバース!《TGX3-DX2》!墓地の「TG」3体、《サイバー・マジシャン》、《ラッシュ・ライノ》、《ワンダー・マジシャン》を対象にし、デッキに戻すことでカードを2枚ドローする!」
「では効果解決だ。お前のドロー後、《グランド・コア》は破壊される」
砕け散る茶色の卵型機械。それは大地を震撼させる前触れだった。
「《グランド・コア》がカードの効果で破壊されたことでその効果が発動する。デッキから《機皇帝グランエル∞》、《グランエルT》、《グランエルA》、《グランエルG》、《グランエルC》を特殊召喚する!」
《機皇帝グランエル∞》ATK0
《グランエルT》ATK500
《グランエルA》ATK1300
《グランエルG》ATK500/DEF1000(守備表示)
《グランエルC》ATK800
本体及び、魚を模したT、A、G、貝を模したCが一気に登場。
「合体せよ!《機皇帝グランエル∞》!」
ホセが高らかに天へ左腕を掲げれば、パーツが次々と変形し、本体と合体していく。そうして完成するは黄土色の人型兵器だった。頭部の赤いモノアイは、やはり謎のD・ホイーラーを睥睨しているようだ。どうあがいてもその存在を見上げてしまうほどの威圧感。胸部には機皇帝共通の、無限を示す形状の穴。奥に蠢くは青白い光。破滅の未来からの使者にして、絶望の象徴。その3機目が降臨した。
「《機皇帝グランエル∞》の永続効果!このカードの攻撃力、守備力は自分のライフポイントと同じになる!」
《機皇帝グランエル∞》ATK4000
「攻撃力4000!やはり最後の機皇帝は伊達ではないということか……」
「バトルだ!」
「なに!吸収効果を使わずにバトルだと!」
謎のD・ホイーラーが危険を察知すると同時、綴がピットボードから指示を出し、「Use Monster Effect」の文字がデルタイーグルのモニターに表示される。
「待て!メインフェイズ終了前に《ブレード・ガンナー》の効果発動!このカードを除外する!」
近未来的な緑のサイボーグの姿が揺らめき、スピードの世界から消えようとする。
「ほう……勘がいいようだな。《グランエルT》はバトルフェイズ中相手のシンクロモンスターの効果を無効化する。故に、メインフェイズの間であれば逃げられる……などと思っていたか!SPCを1つ取り除き、《Sp-禁じられた聖杯》を発動!《ブレード・ガンナー》の攻撃力を400上昇させ、効果を無効にする!」
ホセSPC3→2
「そうはいかない!こちらもSPCを1つ取り除き、《Sp-禁じられた聖槍》を発動!《ブレード・ガンナー》は攻撃力を800ダウンする代わりに、このカード以外の魔法・罠の効果を受けない!」
謎のD・ホイーラーSPC9→8
「ふむ……チェーンはない」
「では効果解決だ!」
《TG ブレード・ガンナー》ATK3300→2500→ゲームから除外
《禁じられた》シリーズの応酬が終わり、《ブレード・ガンナー》は一時的な撤退に成功した。
「だが、これでお前のフィールドにモンスターは存在しない。十中八九、攻撃を防ぐカードが伏せてあるのだろうが、それも一時しのぎにすぎん」
「果たしてそうかな!私のモンスターが除外されたことをトリガーに、罠カード《ゼロ・フォース》を発動!フィールドに表側表示で存在するモンスター全ての攻撃力を0にする!」
「なんだと!」
黒光りする紫毒のリングが《グランエル》の全てのパーツ目掛けて飛び、中に入り込まんとする。
「やらせん!私もSPCを1つ取り除き、《Sp-禁じられた聖槍》を発動!《機皇帝グランエル∞》は攻撃力を800ダウンし、このカード以外の魔法・罠の効果を受けない!」
ホセSPC2→1
「やはり握っていたか……だが、他のパーツの攻撃力は0になる!」
《機皇帝グランエル∞》ATK4000→3200
《グランエルT》ATK500→0
《グランエルA》ATK1300→0
《グランエルG》ATK500→0/DEF1000(守備表示)
《グランエルC》ATK800→0
「だが、本体に影響はない。改めてバトルだ!《機皇帝グランエル∞》でダイレクトアタック!『グランド・スローター・キャノン』ッ!!」
未来世界を崩壊に導いた殺戮者が、その砲口を謎のD・ホイーラーに向け、熱光線を発射する。最後のリバースカードが開かれることはなく、彼に直撃を浴びせる。
「ぐぅわぁあああ!」
謎のD・ホイーラー:LP4000→800
ダメージが現実化していなくとも、機体を揺らすほどの衝撃。本気を出されればいかほどか。
「ふん、《禁じられた聖槍》のおかげで生き延びたか。だが、次で終わりだ。カードを2枚伏せ、エンドフェイズ!《機皇帝グランエル∞》の攻撃力は元に戻る」
《機皇帝グランエル∞》ATK3200→4000
「こちらも《TG ブレード・ガンナー》の効果が適用され、フィールドに帰還する!」
機皇帝とアクセルシンクロモンスター。相反する者が睨みあう。
「私のターン、ドロー!」
TURN10
ホセSPC1→2
謎のD・ホイーラーSPC8→9
ホセ
LP:4000
SPC:2
Hand:0
Monster:《機皇帝グランエル∞》《グランエルT》《グランエルA》《グランエルG》《グランエルC》
FieldMagic: 《スピード・ワールド2》
Magic&Trap:Set3(1枚は《リミット・リバース》)
謎のD・ホイーラー
LP:800
SPC:9
Hand:4
Monster:《TG ブレード・ガンナー》
FieldMagic: 《スピード・ワールド2》
Magic&Trap:Set1
謎のD・ホイーラーが動こうとした矢先、ホセが先んじて動く。
「この闘いも終幕だ。スタンバイフェイズにリバースカードを発動する。《停戦協定》!フィールドに存在する効果モンスター1体につき、相手に500ポイントのダメージを与える。該当するモンスターは6体。よって3000のダメージを受けてもらおう」
「当然、そんなものは通さない!罠発動!《トラップ・スタン》!このカード以外の罠の効果を無効に―――」
「終わりと言ったはずだ。カウンター罠《魔宮の賄賂》を発動!相手の発動した魔法・罠の効果を無効にし、相手はカードを1枚ドローする。もっとも、ドローしたところで敗北は決定づけられているのだがな!」
「なっ!」
カウンター罠にはカウンター罠でしかカウンターできない。なれば、謎のD・ホイーラーの手札が4枚であろうと防ぐ術はなく。デュエルレーンを終幕の閃光が覆いつくす。
「ぐぅああッ!!」
謎のD・ホイーラー:LP800→0
デルタイーグルは加速力を失い、スピードを落としながらピットへ戻る。そしてまた、G・ヘカトンケイルもピットへと帰還し停止。騎乗していたホセが勝負は終わったとばかりに下りる。抗議するのはプラシド。
「おい、まだ湯上綴とやっていないだろう!なぜ中断した!」
「時間が限られている中で10ターン付き合ったのだ。もう遊んでいる時間はない」
「ホセ!あんた、時間切れの場合ライフの少なかった方が負けって言ってたよな!けど、あんたも湯上綴も無傷。これって引き分けってことになるのかよ?」
「そういうことになる。……だが、サーキットの完成に近づいたという利益を我々が得た以上、奴らの要求はある程度飲まねば対等とはいえまい」
「あら、優しいのね」
上品な仕草でホセに近づく綴。テイル、謎のD・ホイーラーも後に続く。
「ふ、利己的な人間とは違うということだ。アリア・ラスティの様子は見せてやろう」
「超驚くから期待してなよ!」
「ふん、非生産的な行動をする奴を生かす理由がわからん」
「な、なにをやっているというの……?」
ぱっ、と中空に立体モニターが出現すると、無機質な部屋で朽ちかけた洗濯機を回すアリアとシェリーの姿があった。彼女たちはバスローブを纏い、指と指を絡ませて淫靡な雰囲気を醸し出している。
「ふふ、また朝までかかってしまったが、ヨカっただろう?不安になったらいつでも私の胸を貸してあげよう、抱きしめてあげよう……」
「アリア……まさか貴女にここまで惹かれるだなんて……」
「需要と供給が一致した結果だよ。君の時は復讐を決めた瞬間から止まったままだった。だが、君が本当に求めるものは人のぬくもりだった。真実、愛してくれる人が必要だったのさ。私も空の器を欲で満たそうとしていたが、今は違う。まっさらで純粋な心を慈しみ、愛することが私の真の欲望。さあ、一緒に希望の時を求めようじゃないか」
「ええ、お父様とお母様が私を迎えてくれた時には、唯一無二の親友として貴女を紹介するわ」
アリアの言葉一つ一つが、手を引いてくるようで、愛を求めるシェリーはそれに乗ってしまっている。急に咲いた百合の花に、綴もテイルも困惑していた。
「ね、ねえアリア!聞こえてる!?」
「む?やあ綴、テイル。久しぶりだね。君達と離れた時は正直寂しかったが、今はシェリーという新たな親友を迎えたことで心身ともに充実しているよ」
淡く微笑む。穏やかなその表情は、とても人質になっているとは思えない。
「もしかして、そこ、お空?」
テイルが指をさした先には漆黒の空に逆さまに聳え立つ、螺旋状の城のような建造物。
「そう、神の居城、最後の一人の眠る地、アーククレイドルよ」
「待て、そんなところにキミ達はいるというのか?」
「おや?謎D君もいたのか。なるほど、私のため、彼のために今君達は足掻いているのだね。そうとも。異次元を移動し、この地に辿り着き、私の友人にもなったあの人の啓示を受けて、今私達はここにいる」
「おい貴様!軽々しく創造主を友人と呼ぶな!」
「黙りなさいプラシド。これは彼が望んだことよ」
「衣服や食事も、遺されたものから使えるものを見繕ってくれたんだ。未来の技術さまさまだね」
どう多角的に見ても彼女たちは満喫していた。ルチアーノがため息をつく。
「あいつら、二人になった途端この調子でさ。マジで呆れちゃうよね。自分の立場わかってんのか?けど、僕達が干渉することは許されてないからどうすることも出来ないんだよ。あーあ、さっさと決勝戦にならねえかな」
「ちょ、ちょっと確認させてね?アリア、私達の敵になった、というわけじゃないんでしょ?」
「相変わらず身内のこととなると鈍くなるね綴。私は人質であるが、“彼”から条件を言い渡されている。最終決戦で計画を邪魔する者を全て排除すれば、私は改変された未来を生きることが出来るのだとね。―――要するに、敵だよ」
クスクス嗤った。己が何を言っているかを理解しながら。
「ばかか。選択は自由だからいいけどさ、わかっているだろ?望みを叶えてくれるかもしれねえが、その後の結末は悲惨なもんになるって。……そりゃあ?目先の欲望を求め続けるのがおれ達エイチクロスだったワケだけど」
「そうだね。結末については承知の上だよ。けど、一言言わせてもらおう。正直に言えば綴、今の君はつまらない。一回振られたからなんだというんだ。もっと不動遊星を貪欲に求めればいいじゃないか。あの頃の君は輝いていたぞ!」
「僕がくすんでいるですって?あなたは新しい愉しみを見いだせて満足しているみたいだけど、満足って妥協で投げやりなものじゃないわ。……それに、遊星の心を手に入れたい気持ちはまだあるけど、それを解き放つのは今じゃない。TPOって知ってる?」
「なるほど、平行線だな」
「ええ、正直今すぐにでもその百合の花を手折って、頭を冷やさせてあげたいくらいには怒っているわ、僕」
声は至って平坦。だが笑顔の裏には己すら燃やしかねないほどの怒りが渦巻いていた。
「湯上綴、私達は同胞を裏切ってでも叶えたい願いがあるのよ。それがどんなに稚拙に見えたとしてもね。アリアは、それをわかってくれた」
「ああ、増長しすぎることは破滅を呼ぶが、“子供”のささやかな夢は守らなければならないからね。そこに、悲鳴をあげたくなるほどの絶望が待っていたとしても。私が傍にいよう。……さらばだ。次に遭いまみえる時を楽しみにしているよ」
「おれ達がやっつける前に、シグナーの誰かにやられてるだろうけどな。それで頭冷えなかったら、訣別だ」
「わかっている」
こうして、映像は切られた。
テイルは、頭の後ろで手を組んで、呆れた表情をしている。綴は、俯いていた。
ホセが冷笑する。
「所詮、人間などこんなものよ。仲間同士で傷つけあう愚か者だ。アリア・ラスティだけに可能性がなかったのはこういうことなのだ」
「あいつ、元々デュエリストじゃなかったんだろ?それをお前が才能に目をつけてスカウトしただけの初心者。デュエルを一手段としてしか見ていないシェリー・ルブランとはお似合いのカップルだね!きひゃひゃひゃひゃッ!!」
「引き裂かれることなど考えてすらいない楽観主義者に反吐が出るがな」
プラシドは苦々し気に舌打ちした。忌まわしい記憶に苛まれながら。
「……いいのか、あんた達。最終決戦匂わされてるってことは、つまりは合体して合体して、一旦倒されるってことなんだけど」
「それもまた計画の一つ。だが、湯上綴が観測した未来と異なる点が既にいくつも生まれているのだぞ?“物語”を過信しすぎないことだな」
「そもそも僕達が優勝すれば、お前達に成す術なんてないんだよ!」
「チーム5D’sを侮るな!遊星達は負けはしない!」
「それはどうかな。オレ達には隠された真の能力がある。それを発動すれば、不動遊星を倒すことなど容易い」
「……真の能力?」
謎のD・ホイーラーが疑問を抱くと同時、プラシドが剣で何もない場所を一閃し光の裂け目を生み出す。
「この世界が滅びるのを指を咥えてみているんだね!バイバーイ!」
「不動遊星に首を洗って待っていろと伝えておけ」
「いくぞ」
三皇帝は裂け目の中へと消えていった。
綴は踵を返してアヴァール・デモンに乗り込む。
「……いくわよ。情報を遊星達にも共有しないと」
「大丈夫か?」
「多分大丈夫じゃないからおれが甘やかす。あんたは心配すんな。じゃ、ポッポタイムへGO!」
昼を迎えたポッポタイムのガレージのPCには、先程のデュエルの様子が映し出されていた。『世紀の一戦!チームエイチクロスvsチームニューワールド』というタイトルで動画配信サイトに生配信されていたものをアーカイブとして遊星、ジャック、クロウが視聴していたのだ。
タイミングを見計らって、ブルーノが入口から入ってくる。
「た、ただいま……!」
「ブルーノ!今までどこをほっつき歩いていた!?重大な事態が起きているというのに!」
「ご、ごめん!散歩をしていたらその生配信の情報が流れてきて、目が離せなくなっちゃって、連絡するのをすっかり忘れてたんだ!」
握り拳を見せるジャックに、怯んだ様子で答える。やめてください、暴力反対!
「仕方がない。イリアステルの弱点につながるかもしれない貴重な情報だ。一時でも見逃したくない気持ちはわかる」
「だけどな!連絡してもすぐに返事しなかった罰として、今日のメシはお前が作れよ!」
「うん、わかったよ」
「しかし綴とテイルめ、ナスカから帰ってきた連絡すらしないどころか、イリアステルに挑みに行っていたとはな」
「あの二人は大胆な行動をとることがあるが、それは最終的には幸せな結末を迎えるためという目的があった。きっと今回も……」
「その通りよ!」
透き通った声と共にしゅっ、と床に投擲されるは《逆転の女神》。
「新たな時代を導くのは個々の人間!己の使命に従い、湯上綴、華麗に登場!とうっ!」
「同じくテイル・バウンサー、優雅に登場!ほいっ!」
入口の階段から跳躍すると、中空で一回転。かつての前哨戦と同じように、ガレージの真ん中に降り立った。以前とは違い、一人欠けているが。
「綴、テイル!噂をしたら出てきやがった!」
「イリアステルに挑んだ目的、話してもらうぞ」
「うん……実はね……」
「アリアの様子を確認しにいったら、そのアリアが裏切ってた。しかも百合の花を咲かせて」
「え?」
かくかくしかじか。三皇帝に挑みに行った経緯と結果を遊星達に伝える。
「アリアとシェリーが敵に回ったなんてな……」
「綴、テイル、大丈夫か?顔色が優れないみたいだが……」
「大丈夫よ。話したらちょっとすっきりしたわ」
「遊星、ハグしてやれ、ハグ。オキシトシンが出てさらに落ち着くぜ?」
「だめよ!まだそんな関係じゃないんだから!」
「“まだ”?」
「とにかく!奴らが「機皇帝」以外の切り札を持っていること、そして敵が三皇帝だけではないことがわかったのだ。綴、アリアが実質人質ではなくなった以上、話せることは話してもらうぞ」
ジャックは近くの椅子に腰掛ける。そのまま足を組んで、紫電の瞳で射抜いた。
「ええ、じゃあ、ますはあなた達の見た空にある城、アーククレイドルについてね。あれこそ三皇帝の最大の目的。彼らが優勝すると真の姿を現し、地上に降り立つとネオドミノシティが崩壊する……というのは事実ではあるけど、隠された真実もある」
「隠された真実?」
「三皇帝に勝利してもアーククレイドルは出現するし、ほとんどのモーメントは動かなくなる。んで、出現から12時間後にはシティに激突する見込み。被害は数百kmにまで及ぶんだよな。だから、これを止めに行くのがイリアステルとの最終決戦。“物語”ではあんたらのおかげでシティは消滅することなく無事に済むんだが、果たして“この世界”ではどうなるかはわからない」
「なんだよ、そりゃあ……!」
「苦難の後には苦難が続くということか……今から何かできることはないのか?」
「あまりないわ。住民全員を予め避難させることは難しいでしょうね。ちゃんと全員があの城を視認できる状態じゃないと非常事態を発令することなんてできないもの。イェーガー長官に予めモーメントを使わない電力を用意させるくらいしかできなさそうよ」
悪いわね、と一言呟く綴の肩は、わからない程度に落ち込んでいる。遊星は酷く申し訳ない気持ちになって、首をふった。
「謝ることはない。今の情報だけでも共有してくれて助かる」
「敵の情報について語ることはできんのか?」
「先入観持たせるとまずいから言わない。《トリスケリア》いただろ?あれ、綴が観測した未来になかったカード。三皇帝戦は正直永続罠への対策と《グランエルT》の効果に気を付ければいけなくもなさそうだけど、他の連中が何してくるかわかんねえし、何よりもアリアが裏切ったからアーククレイドルでの決戦で何が起きるかわかんなくなりました。あーあ」
「結局ぶっつけ本番ってことか……何もできないのは歯がゆいぜ」
道筋が見えても手段がない。現状では手詰まりだ。
「それじゃあ、明日のプラクティスに備えないと!決勝戦の前に2回試合があるんだし、イリアステルに集中しすぎて他のチームへの意識が疎かになるなんてことがないようにしなきゃ」
「わかった。なら、エンジンプログラムの再確認を……」
「じゃあ、おれも付き合うぜ。メカニックだし」
遊星とブルーノ、そしてテイルは遊星号にコードを複数接続し、大きめのメタルシートを引っ張り出して、がろがろと周辺に転がすと、深呼吸をして両手を握って開いてを繰り返し、遊星の愛機に手を伸ばした。がさごそとタイプの違う青年三人が作業する中、綴はガレージの外に出て、海が一望できる手すりに身体を乗せる。
「はあ……」
「仲間の裏切りが辛いか?」
「ジャック?」
いつの間にか隣にジャックが並んでいた。手持無沙汰で同じく外に出たようだ。
「裏切られたことがわかった時には怒りが沸いたけど、今は寂しいなって気持ちの方が強いかしら……」
「他人を思いやらず、仲間を傷つけることを厭わず、己の欲望のためにあらゆるものを犠牲にしようとしている、か。昔の自分を見ているようで腹立たしいな。だが、そんな奴の目を覚まさせるならば、お前自身の思いを伝えるのだ」
「デュエルで?」
「それ以外にあるまい。……もしも、だが。仮に最悪の事態になったとしても決して膝を折るな。立ち向かえ、前に進め。自暴自棄になることはオレが許さん」
それはジャックなりの励ましだったのだろう。綴は実直で、温かな心に触れて、透き通った心地を覚えた。
「ありがとう。あなた、いい男ね」
「ふん、礼は素直に受け取ってやる」
「ところで遊星のいいエピソードない?なるべくほっこりした感じのがいいわ」
「……そうだな、あれはまだ、オレ達がマーサの世話になっていたころのことだが……」
会話は弾む。なんてことはない会話を交わすだけの時間が、綴にとっては不思議なほどに楽しかった。絶たれた絆を取り戻す決意を、綴は新たにした―――。
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